No.548436

外史の果てに 第二章 天に遣える者として(一)

あさぎさん

次は秋蘭と仲良くなる編やって、華琳は…どうしようかな。
と思ったけど今決めた、書く。待っててね。


一か月くらい。いや、二か月かな。はたまた三か月…うわ何をする止めry

2013-02-25 06:09:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6242   閲覧ユーザー数:4351

「起きて下さい一刀様。もう朝ですよ」

 

「………んう」

 

鈴が転がるような声で目覚めを迎えられることは、きっと幸せなことに違いない。

 

短くおぼつかない返事と共に、一刀は起きたという意思表示の為に重い体を無理矢理布団から引き剥がした。

 

「おはようございます、一刀様」

 

「……はい。おはようございます」

 

寝ぼけ眼で寝具の脇に立っていた女性を見た。

 

既に身支度は完璧に済んでおり、まだ半分脳が寝ている一刀でも相変わらず彼女は隙がなく容姿端麗だと思った。

 

「仲達はいつも綺麗だな」

 

「ッ!?」

 

覚醒していない一刀は自分で何を口走ったのかを理解していなかった。

 

仲達が真っ赤に照れていることにも気付かずに、伸びをし着替えの入った衣装棚へ向かった。

 

「起こしてくれてありがとう仲達。すぐ着替えるから待っててくれる?」

 

「は、はい……」

 

パタンと閉まる扉を確認し着替えを始める。

 

窓から差し込む眩い陽射しは、徐々に一刀を覚醒させていった。

 

最後に慣れ親しんだ学生服に袖を通し、身支度は完成する。

 

「今日も一日頑張ろう」

 

誰にでもなく、自分に言い聞かせるように呟き扉を開けた。

 

「お待たせ。行こうか仲達」

 

外に待たせていた彼女を連れ食堂へ向かう。

 

こうして北郷一刀の一日は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

曹操の元へ来て3日が過ぎた。

 

仲達は既に何やら仕事を任されているようだったのだが、一刀には未だに仕事と呼べるものはなかった。

 

それも当然。

 

まず一刀自身は字が読めないのだ。

 

まずは読み書きをマスターできなければ、仕事をすることもできない。

 

字が読めないと分かった時の曹操の呆れ具合は、未だに一刀の脳裏に焼き付いている。

 

まるで役立たずを見るようなあの目付き。

 

いや、実際役立たずなのだが。

 

ともあれ、今のところは仲達に空いた時間に読み書きを教わっている。

 

自分でもできることはやっているが、とどのつまり一刀は暇を持て余しているのであった。

 

と、丁度そこへ一刀の耳に剣を打ち合う音が聞こえた。

 

恐らく夏候惇たちが訓練か何かをしているのだろう。

 

ちなみに、夏候姉妹のことは先日紹介して貰った。

 

妹の夏候淵はともかく、姉の方は余り一刀のことを良くは思っていないらしかった。

 

(丁度良い機会だし、ちょっと一緒に訓練してみるか)

 

思い立ったが即決行。

 

一刀は音の聞こえた方へと足を走らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

「脇が甘い!!それでは自分の武器を飛ばされるぞ!!」

 

その言葉の直後、一刀の真横を刃の潰してある模擬刀が掠めた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「あ、うん。だ、大丈夫、大丈夫」

 

剣を飛ばされた兵士がすぐさま駆け寄って来てくれた。

 

正直、心臓が跳ね上がったがそこは表に出さない大人の余裕。

 

「しかし……顔が引きつっておりますぞ?」

 

「ま、マジか。いや、でもホントに怪我はないからさ」

 

ひらひらと手を振り返し、剣を飛ばした主に挨拶をした。

 

「や、夏候惇。相変わらず絶好調みたいだね」

 

「北郷か。ふん、今ぐらいのはほんの昼飯前だ」

 

「そ、そっか」

 

朝飯前という指摘はしない方が良い。

 

これはここ何日かで学んだ非常に大事なことの一つだった。

 

「で、文官見習いのお前がここに何の用だ?」

 

「手厳しいね。ちょっと身体を動かそうと思ってさ。俺も参加させて貰ったらダメかな?」

 

「貴様に着いてこれるものか。それに今から休憩に入るのだ」

 

「えぇー……タイミング悪かったなぁ」

 

肩を落とす一刀に若干の敵意を向ける夏候惇だったが、その姿を見て一つ一刀に提案をした。

 

「北郷。皆は休憩だが私はまだ身体が温まっておらん。どうだ、私と一勝負してみないか?」

 

「え、良いの?」

 

その提案に後ろで休憩をしていた兵士たちは、気の毒なものを見るような視線で一刀を見た。

 

「ほ、北郷殿……止めておいた方がよろしいかと」

 

「そうだぜ。怪我どころじゃ済まなくなるかも」

 

何人かは一刀を心配して止めた方が良いと言ってくれもした。

 

「うーん…でも、折角だしやってみるよ。俺じゃ敵わないことは分かり切ってるし、夏候惇も手加減ぐらいしてくれるでしょ」

 

ちなみにだが、一刀はまだ本当の意味で彼女を詳しくは知らなかった。

 

短気で、武が立つということは知っているがその程度である。

 

「乗った。胸を借りる気持ちでお願いするよ」

 

「き、貴様ぁ!!なんて破廉恥なことを言うのだっ!?」

 

「ごめんなさい違うんですホントです。こういう言葉があるんです信じて下さい」

 

余談だが、言葉の意味については土下座して理解を得た。

 

 

 

 

 

 

「勝負は簡単だ。貴様は私の身体のどこでも一本入れれば勝ち。私は貴様の武器を叩き落とせば勝ちだ」

 

「俺が言うのは甚だしいと分かってるけど、同じ条件じゃなくて良いのか?」

 

「あぁ。流石に貴様をぼこぼこにしてしまうと、華琳様と仲達様に申し訳が立たないからな。

骨の一本や二本ならばともかく、それ以上痛め付けるのは本意ではない」

 

骨折が当たり前のように数えられているのはあまり考えないことにしよう。

 

「了解。じゃあ、よろしくお願いします」

 

「あぁ。全力で来い」

 

互いに見合い、兵士の”始め!!”という宣言で一刀と夏候惇の稽古が始まった。

 

改めて対峙してみると、彼女は三国志の武将であることが頭を-----ザンッ!!!!

 

「北郷。戦いの最中に考え事とは、私も舐められたものだな」

 

気が付けば彼女は一刀のすぐ真横にその大剣を振り下ろしていた。

 

「あのな北郷、私は別に貴様を一端の兵士として育てようという気もなければ、私ぐらいに強くなれと言う気もない。

しかし、この稽古はお前が望んできたものだろう。ならば、考え事などせずに全力を尽くすのが礼儀ではないのか?」

 

-----でなければ死ぬぞ

 

その言葉に身体が震えた。

 

恐怖からではなかった。

 

彼女が、本気で俺に稽古をしてくれているということが、一刀にとって嬉しかった。

 

勝手な勘違いだろうが、なぜか自分が認められていた気がして嬉しかったのだ。

 

「…どうした?もうやめるか?」

 

「いや……そうだな。申し訳なかった。もう一度頼めるかな」

 

今度は全力で。

 

例え届かなかろうと、彼女に自分の力を尽くして望む。

 

「良い表情だ」

 

不敵に笑う夏候惇の言葉は、既に一刀の耳には入っていなかった。

 

極限まで集中した一刀が見ているのは、目の前の彼女ただ一人だけ。

 

呼吸を整え、身体を屈め縮めたバネをイメージして、一刀は一言だけ呟いた。

 

「行きます」

 

「あぁ……来い」

 

周りの兵士が息を呑んで見守る中で、勝負は一瞬で決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マタタビ!!!?-----あ、痛ッ!?」

 

「ひゃぁ!?いきなり驚かせるな馬鹿者が!!」

 

バッと起き上がると、先程まで一刀と夏候惇が稽古をしていた場所が見えた。

 

「あ、あれ?俺、一体……」

 

「あの時、私に一撃を決められて伸びていたのだ」

 

横から聞こえた声は夏候惇のものであり、彼女は一刀に水を差し出していた。

 

「あ、ありがとう」

 

素直に受け取り一刀は喉を潤した。

 

大して動いたわけでもないのに砂漠のように干からびていた喉に、水は天の恵みに感じられた。

 

そんな水をぐびぐびと飲み干していると、横に腰を下ろした彼女から声が掛かった。

 

「北郷。一つ聞きたいのだが」

 

「ん?」

 

「どうしてあの時、私に向かってこれたのだ?

いや煽ったのは私なのだが、直前に私の殺気の籠った剣を見ていて、よく立ち向おうと思ったなと」

 

「あぁー、あれね。確かに正直怖かったけどさ。それ以上に嬉しかったから」

 

「嬉しかった?」

 

「俺さ、自分で言うのもあれだけど、ここに来てから何にもしてないでしょ?

仲達に依存したくないからなんて言いながら、勉強とか教えて貰っちゃってるし」

 

「う、うむ」

 

「そんな役立たずな俺なのにさ、さっきの夏候惇は本気で俺の相手をしてくれてたから。

適当にあしらわれて終わりとか思ってたのに、ちゃんと俺を稽古の相手って見てくれてたから。

それが嬉しくってさ。そんな夏候惇に報いる為にも、及ばずながら全力を尽くさなきゃと思ったわけですよ」

 

水を飲みきった一刀は痛む頭を摩りながら、嬉しそうに語っていた。

 

そんな風に語る一刀を見て、夏候惇は何を感じ、何を思っていたのか。

 

「兵たちに足りないものは、案外そういう気持ちだったりするのかもしれないな」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない」

 

スクッと立ち上がった彼女の中には、もう彼を険しく見つめる気持ちはなかった。

 

「ねぇねぇ、夏候惇。それよりさ、さっきの俺どうだったかな?やっぱり兵士とかには向いてないかな」

 

「………」

 

一刀に尋ねられた夏候惇は暫し悩んだ後に、笑みを浮かべながら答えていた。

 

「あぁ。お前には兵士は向いてない。仲達様と勉学に励むのが良いだろう」

 

「そ、そっかぁ……」

 

目に見えて肩を落とす一刀の姿を見て、思わず本音を言い掛けたが彼女はその言葉を喉に押し留めた。

 

夏候惇を目の前にしても臆さない勇気。

 

確かに殺さないように手加減はしたが、それでもそれなりの威力で放った剣戟をくらいケロッとしていること。

 

それに----目の前には先程まで休憩していた兵士たちの、懸命に稽古に励む姿が見えた。

 

いつもの風景と言ってしまえばそこまでだが、彼女にはそれが違う風景に見えていた。

 

 

----あの後。

 

一刀と夏候惇が試合を終えた後と前では、彼らのやる気が全く異なっていた。

 

一刀が気を失っている間に彼女はふと兵士たちに聞いてみていた。

 

「突然どうしたのだお前たち。何やら先程より勢いというか……何かあったのか?」

 

すると。

 

「何か、というか先程の試合を見て、我々一同も触発されたと言いますか」

 

「えぇ!!北郷殿の夏候惇将軍に立ち向かう姿に勇気をもらったと言いますか」

 

「それに、あの人は俺たちが守ってあげないと、何やら無茶をしそうな気がしまして」

 

照れつつも、一刀を慕う兵士たちの光景に夏候惇は感心していた。

 

戦で必要なのは力だけではない。

 

兵たちが、この人に着いて行こうと思える勇士を見せることも才能の一つだ。

 

 

「「「あ、北郷殿!!目を覚まされたんですね!!」」」

 

「いやぁ、やっぱり将軍様は強いね。全然敵わなかったよ」

 

その声と共に、わーわーと兵たちが一刀の周りに集まってきていた。

 

「案外、将軍なんかにも向いているのかもしれないな」

 

「え?何か言ったー、夏候惇?」

 

「いや、何も言ってないぞ。それよりもお前ら、訓練中なのに何をしているんだ」

 

ついこの間まで名も知られていない男だったのが、今では自然に兵たちの中に打ち解けて行く有り様だ。

 

そんな和気藹々とした光景を見ながら、夏候惇はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 


 
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