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『舞い踊る季節の中で』 第132話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 天空より舞い降りた一刀。
 その姿と想いに彼女の弓は応える。
 多くの仲間の命と宿命を背負って。

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2013-02-24 17:52:06 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6483   閲覧ユーザー数:4829

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第百三拾弐話 ~ 弦の音が奏でる舞いに、秋の咲く花は悲しみの涙をそっと流す ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

 

 

【最近の悩み】

 

「誕生月ぐらいしか教えてませんよ。

 私も年齢はあまり知られたくないですから」

 

 た、たすかった~~~~…………。

 俺の窮地に見かねた七乃の助けの言葉によって、誤解が解けたとそう思ったのは束の間だった。

 

「あっ、ちなみに知ってました?

 天の世界では知りませんが、手作りの品。それも手の凝った小物を女性に贈るのは、求愛や求婚を申し込んでいる事を示す風習が幾つかの地方ではあるって事?」

「ぶっ!!」

 

 七乃の続く言葉に、俺は思わず吹き出す。

 脳裏にプレゼントを渡した時の相手の様子が何度もリプレイされてゆく。

 …………えーと、どうりでえらく確認を取ってきた訳だよな。

 あれ?

 そうだとして、プレゼントを受け取ったと言う・。

 

「だとしたら思いっきり堂々とした浮気ですよね。しかも複数一辺に。

 うわぁ~流石一刀さん。勇気がありますねぇ♪」

 

 其処へ更に続く七乃の爆弾発言に思考が中断……と言うか文字通り綺麗さっぱり吹き飛ばされる。。

 ただでさえややこしくて不名誉な噂が広まっていると言うのに、それは不味い。

 なにが不味いかって、明命と翡翠に誤解されるのが特に不味い。

 俺は恐る恐る、音が聞こえてきそうな程のぎこちなさで首を翡翠の方へと向けて行く。

 見たくない。今の翡翠とは顔を合わせるのは凄く不味い。

 そうは思うものの、身体が俺の意志に関係なく勝手に動いて行く。

 やがて、視界がゆっくりと周り翡翠の顔が……。

 満面の笑みを浮かべた翡翠が……。

 その目がちっとも笑っていない彼女の瞳が俺を射竦め、椅子に雁字搦めに縛り付ける。

 

「……あ、あ…、ごくんっ、……こ、これは……その…」

 

 乾ききった喉と唇から言葉が毀れ出るも、うまく言葉にならない。

 ぐっしょり濡れた掌と背中の感触が気色悪いと思いつつも、そんな現実逃避も彼女には通用しない。

 ただ言えば良いだけはずなのに……。

 誤解だと…。

 そんな風習は知らなかったと…。

 そう言うつもりでは無かったと…。

 言葉にして紡ぐ出すだけなのに……。

 よく分からない感情に支配された俺を翡翠は、ゆっくりとその小さな唇を動かし始め。

 

「くすっ。分かってますよ、一刀君がそんなつもりではないって事くらいは」

「……………へ?」

 

 今度こそ面白そうに笑みを浮かべる翡翠の表情に、俺は呆然とする。

 

「七乃ちゃんも言ったではないですか。 幾つかの地方ではと。

 誤解した方々には申し訳ないですけど。ちょっと怖い思いをするでしょうが、それは仕方ないでしょうね」

「え、え~……と、つまり、その件に関しては無罪放免と?」

「か・ず・と・く・ん。 本気で怒って、い・い・で・す・か・?」

 

 ぶんぶんぶんぶんっ!

 ぶんぶんぶんぶんっ!

 ぶんぶんぶんぶんっ!

 

 翡翠の言葉と共に彼女の身体から吹き出す黒い靄に、俺は全力で首を横に振りまくる。

 もう頚が縊れ千切れるんではないかと思うくらい思いっきり翡翠の言葉を否定する。

 もうこれでもかと言うくらい首を横に振り続けて、それは勘弁してくれと行動で示す。

 目が回ろうが、脳が貧血しようが、この際そんな事など構ってられない。

 とにかく俺は今回の迂闊な行動を謝罪しまくる。

 我ながら情けない姿かもしれないが、悪い時はキッチリ謝る事が大切。

 怒った翡翠が怖いと言うのもあるけど、浮気ととれる行動で彼女達の心を傷つけたと言うのが本当に申し訳なくて俺は謝罪する。

 そんな俺の心が通じたのかどうかは分からないけど、翡翠はあっさりと許してくれる。

 

「一刀君を信じていますから。

 それにそんな甲斐性があったのなら、私も明命ちゃんも苦労しませんでしたし」

「……え~と……そうなの?」

「ええ」

 

 と困ったような笑顔で、チクリと俺に釘を刺しながら。

 うーん、俺ってそんなに女心が分からないか?

 じっちゃんや及川達にも散々言われたけど、一応、子供の頃から家の都合で色々な女性とは触れているつもりなんだけどなぁ。

 翡翠の言葉に自分なりに反省しつつも、首を捻っていると、ある事に気がつく。

 

「あれ? そう言えば明命は?」

「明命ちゃんなら、ちょっと後始末をしに行っています」

「えーと何の?………いややっぱりいい。

 明命にも謝っておかないと思っただけだから。……はは…ははっ……」

「そうですね。その方が賢明だと思いますよ」

 

 翡翠の満面の笑みに……。

 笑顔なのに怖いと感じる笑みに……。

 ただ乾いた笑い声が、額を流れる汗と共に出て行く。

 知らない方が良いんだろうな。……きっと。

 

「ひぃぃぃーーーーーーーーっ!」

 

 何処からともなく聞こえてくる悲鳴と、全力でなにか(・・・)から逃げる気配に、俺は頭痛を覚えながら心の中で謝罪をする。

 すまん。無理かもしれんが無事に逃げ切ってくれ。

 

 

 

 

桔梗(厳顔)視点:

 

 

 うっとおしい程までに散発的に射掛けられる攻撃。

 狙ってはいるものの本気で当てる気などなく、ワシを相手とした攻撃と言う意味では牽制以上の意味などあろうはずもない攻撃。……だからといって、その攻撃が無意味となるわけでもない。

 

「まったく張任の奴め。少しは攻撃の手を緩めるくらいの可愛げがないのか」

 

 つい口から毀れ出てしまうのとは逆に口元は笑みを浮かべてしまう。

 何故なら、それだけワシの轟天砲が脅威とみなされ、警戒されている証であると言うのもあるが、なにより張任自身がワシの教えを守っている証だからであろうな。

 ……まったく自分で教えておいてなんだが、攻撃を受ける身になってみれば、ほとほとに嫌になる。

 だが、それでも攻撃する隙を狙って戦場を駆け続ける事に意味がある。

 もはや異常とも言える程のワシへの警戒は、逆に言えば他の者達への警戒を下げ、攻撃の手を緩める事となる。……とは言え、こうも走りまわされ続けては老体の身としては愚痴の一つも言いたくもなると言うもの。

 まったく張任の奴め、少しは目上の者を立てると言う事を知らんのか。

 

『ならば足を止めて素直に針山になってください。すぐにでも楽になりますよ』

 

 脳裏に張任の奴目の言いそうな言葉が響く。

 ふっ、まったく生真面目すぎるのも考えもんだの。

 そして、こんな事が脳裏に浮かぶようでは集中が乱れてきた証。

 長年培ってきた勘が、一度体を休めるべく引くべき時だと教えてくれる。

 ………だがそうだとしても、もう一踏ん張りせねばならん。

 視界の端に焔耶達が何かを企んでいそうな姿を捕らえ、そう判断した時。

 弓兵故に鍛え抜いた瞳が在る物を捉える。

 

「なん……だ……あれは」

 

 最初は大鷲か何かと思ったが、白い大鷲など聞いた事も無い。

 一度だけ姿を見た事のある龍とは、明らかに大きさも形状も違う。なにより、龍は文字通り大空を泳ぐように飛んで行くが、あれは大型の鳥が空を滑空するときに見せる飛び方に近い。

 なにより、あれは……。

 

「くっ!」

 

 注意を奪われるあまり地を駆ける脚が緩み、矢による攻撃を躱す事が疎かになってきた所を狙われ。条件反射的に足を止めて轟天砲で幾つかの避けられない矢を打ち払う。

 それが逆にワシへの注意が強くなったのだろう。此方が老体だと知っているからこそ疲れてきたのではと、今は攻撃を緩めるべき時ではないと。

 ………まったく、良い眼をしている。狩人になれる資質もあるやもしれん。

 だが、此処でやられる訳にはいかん。

 そして、今はアレの正体を確認すべき時。

 判断は一瞬で行い、再び地面を強く蹴る。

 後ろへと、弓矢の届かぬ範囲へと。

 敵の注意は今ので十分に引けたと。

 

「此処まで下がれば良かろう」

 

 距離にしてほんの僅か。

 全力で駆ければ十も数えずに駆けれる距離。

 だが、狙う範囲としては既に外れている距離。

 無理に攻撃して矢を無駄にするよりも、攻撃すべき標的は他に幾らでもある。そんな距離。

 もっとも逆に言えばワシの有効射程にすぐに移れる距離りとも言える。

 だがそれは此方の射程距離を既に見極められたとも言える。

 張任達の下したこの判断が甘いと言う訳では無い。

 (いくさ)としてはむしろ正しい判断と言えよう。

 

「……まだまだ穴の青い小娘と言う訳か」

 

 戦において正しい判断が、決して正解とは言えない。

 それが分かるだけの実戦経験があ奴等には無い。

 ……ワシ等がそれを教えてやれなんだ。

 慙愧の溜息を吐きながらも次の瞬間には意識を切り替える。

 先程は運が良かったと言えよう。注意力が逸れたワシへの攻撃が、逆にワシはそれから目を外す事によって考える時間を与えてくれた。

 そして、あり得ない答えを確認するために、改めて目を凝らした先に見えたそれは、先程より大きな姿で映る。

 鷹の眼と言われるワシの瞳に映る年若い青年の姿を……。

 

「……ははは……ははっ……」

 

 乾いた笑い声が自然と毀れ出る。

 あり得ないという常識が思考を真っ白に染めようと侵食し始めるが、鍛え抜いた戦人(いくさびと)としての知覚が、それが現実だと教えてくれる。

 なによりワシは知っていた。

 【天の御遣い】と言う名の存在を。

 

『絶対に何かしてくると思うから注意して。

 でもそれは敵としてでは無いわ。むろん味方としてでもないだろうけど。それを此方も利用してやるの』

 

 この戦の直前に、詠がワシに促した言葉が人が空を飛ぶと言う、あり得ない事態を受け入れさせてくれた。

 ふっ……、【天の御遣い】ならば、空を飛ぶ事もありえると言うもの。

 我ながらあり得ないと思える答えに笑みが浮かぶ。

 いつもの調子が戻ってきた事が分かると同時に理解する。

 これが漢王朝をかつて支配した実力を持つ賈文和の言っていた事なのだと。

 ワシならばこのような事態に対応できると判断して……。

 

「信頼に応えれてみせねば。 小娘達になめられると言うもの」

 

 なにより、あの娘達の決意に応えてやらねばならん。

 例え利用されようとも、それ以上に利用して見せればよいだけの事。

 ……だからこそ見極めねばならない。

 【天の御遣い】を名乗るあの青年が見つめる先を……。

 何処まで我等を利用するつもりなのかを……。

 

「……お、おい、あれ」

「な……なんだ」

「……まさか……」

 

 周りの者も気がつき始めたのだろう。

 人が空を飛ぶと言う異常な光景に騒ぎ出すだけでは無い。

 そこに【天】と言う畏怖があるが故に、見知らぬ事態に恐怖し思考力が奪われて行く。

 ……先程ワシが成りかけたようにな。

 

「これが狙いか」

 

 そう口に出てしまうが心の中では下した判断は違う。アレはその程度であるはず無いと。

 短いながらも、あの者がその程度ではないと言う事は十二分にあの時に理解できた。

 最初に浮かんだその考えなど過程でしか無かろう。……だが、これは利用できる。

 戦場に目を向ければ、アレによる衝撃は戦場中に広がりつつある。

 まだ気づかぬ敵軍に、生じた隙を突かれ無駄に命を散らされる者も多く出始めている。

 今の段階では我等に甚大の被害を与えるべき事態ではあるが、それでもワシは好機だと判断した。

 ワシ同様に詠もすでにそう判断したのだろう。

 おそらく目を覚まさせるために頬を赤く腫らされた伝令が、詠の居る陣営から戦場中を慌ただしく駆けて行くのがその証と言える。

 先に気がつき、呆然としたのは此方が先だが……。

 アレに気がつけば、あちらも同じ事態に陥ると言う事。

 なにより向こうは知らない。

 【天の御遣い】が我等に同行している事を……。

 詠と言う天才軍師が、このような事態を想定していた事を……。

 そして呆然とするのが此方が先ならば、当然ながら正気に戻るのも此方が早いのが道理。

 

どすんっ。

 

 轟天砲を固く乾燥した地面へと投げ出す。

 確かにこの距離からでは、ワシの腕をもってしても有効な攻撃が出来る射程から出ているであろう。

 だがそれは地を駆けながらにおいての轟天砲における射程距離。

 足を止めてでの精密射撃ならば十分に狙える距離。

 敵軍もあやつの存在に気がついたのだろう。戦の最中だと言うのにも拘わらず、静かになって行く。

 槍を振るう手を止め。

 命を繋ぎ止めるべき足を止め。

 呼吸をする事も忘れるほどまでに、生き抜くための思考を止めて行く。

 

【天空より現われし使者】

 

 【天】への畏怖の前に、人の起こす戦など小事に過ぎない。

 それほどまでに人は天を敬い、天を恐れ……そして天を忌避する。

 恐ろしいものとして……。

 関わるべきものではないと……。

 だからこそ哀れと思う。

 あの人の良い青年が……。

 温かな日差しのように微笑む青年が……。

 ワシの痴態を思わず見てしまい、顔を真っ赤にして慌てて律儀に目を背けるあの青年が……。

 紫苑ほどの者があの青年の中に【王】を見たと言えど、所詮は【人の王】に過ぎないあの青年が……。

 ワシの中あるあの青年も確かに【王】を感じたが、それ以上にごく普通の生活が似合いそうな青年が……。

 ただ、…見守り、…鍛え、この先を見て見たいと素直に感じた青年が……。

 あの女心に対して鈍感な所だけは直らなそうだが。其れは其れで面白く感じる青年が……

 そんななんでもない青年が……【天の御使い】等と言う、人を外れた存在でいる事を哀れと感じる。

 

「俺は天の御遣い北郷一刀。

 この地に住みし者達よ。下がるがいい。

 そして受け入れるがいい。君達の新たな王を」

 

 決して大声ではないのに、響き渡る声は聞き覚えのあるあの青年のもの。

 その内容は青年が【人】である事への別離と同じ意味。

 そう分かる者がこの場にどれだけいるだろうか?

 少なくとも詠はワシ以上にその事を理解しているのだろう。

 そうでなければこの事態を読めても、あそこまで迅速に伝令を走らせる事などできはしまい。

 ……考え方次第では、このような事態に直面してなお其処まで出来る詠も【人】である事を外れかけているのかもしれない。

 

「……気に喰わぬ」

 

 あの者の行った事が……。

 その言動の裏にある真意が……。

 仕方なき事と理解してなお、そう零れ落ちてしまう。

 ……我等を利用した事にでは無い。

 ……我等に手を貸してくれた事にでも無い。

 ……ましてや我等に無断で事を起こした事など、もはやどうでもよき事。

 気に喰わないは、貸しを貸しと思わせてくれぬそのやり方がっ!

 

ぼすっ

 

 地面を背に身体を仰向けにして轟天砲を抱える。

 裾が大きく捲れるのも構わず、砲身の先にある剣を両の足の平で挟み込むようにして轟天砲を地面へと押さえつける。

 傍から見ればとんでもなくはしたない姿。

 幾ら年老いたこのワシでも、人前で見せるべき姿では無く。羞恥心と見られてしまうる事への気恥ずかしさに顔が熱くなる姿勢。

 だが、今はそんな事など気にもならない。

 いいや、今はそんなくだらぬ想いに意識を割くべき時ではない。

 成すべき時に成すべき事をやる。それが出来なくて何の(せい)かっ!

 この世は虚ろな夢幻しの如きと言えど、譲れぬ想いがある。

 曲げる事の出来ぬ生き方がある。

 その想いが……。

 詠の人を外れんばかりの決断が……。

 なにより其処までするあの青年の想いと決断が……。

 

「恩を恩と素直に感じさせぬかっ! このこわっぱがっ!!」

どんどんどんどんっ!!

 

 絶叫と共に轟天砲がワシの想いを吐き出すかのように連続して火を噴く。

 反動で浮き上がりそうになる砲身を無理やり地面へと抑え込んで安定させた。

 轟天砲による連続射撃は、ただでさえ"氣"を大量に使う所にもってきて、力ずくで轟天砲の反動を押さえながら精密射撃を同時になすこのやり方は、想像以上に心身ともに消耗させる。

 疲労感と眩暈と共に体中の力が抜けそうになるが、そんな弱気など無理やり吹き飛ばし、撃ちだした鉄杭が狙い通り正門に被さる岩戸を破壊し、その向こうの門の付け根を確かに破壊したのを確認する。

 だがそれは同時に【天】へ畏怖に思考共々固まっていた兵士や人々に、正気を取り戻させるきっかけとなろう。

 防壁の上に佇む弓兵達は、直ぐにでも此方に射掛けてくるはず。

 残された時間はほんの僅かとはいえ、それを生かせなくて何の将かっ!

 何のために、あの青年がこの技術を教えたのかっ!

 

どんどんどんどんっ!!

「……くぅっ」

 

 第一射と同様に連続して轟天砲で鉄杭を打ちだすと共に、着弾を確認する事も無く地面を蹴るようにして起き上がりその場を離脱する。

 一気に消耗した大量の"氣"と心身の消耗に視界が真っ白になるのも構わず地を蹴りつけ駆けゆく。

 鋭い風切り音が……。

 地面を縫い付ける音が……。

 今いた場所を周辺全てを、針山へと変えて行く。

 その立ち直りの速さに……。

 この距離故に点ではなく面での攻撃に切り替える判断に……

 よく鍛えられた兵とだ言えよう。

 つい先日まで味方であった軍の優秀さに嬉しさを感じると共に、寂しさと遣る瀬無さを感じてしまう。

 

「………裏切るとはこう言う事か」

 

 だが、それは覚悟していた事。

 他の誰でもないワシが、その道を選んだのだ。

 ならばワシは、その責を果たさねばならない。

 劉璋様を裏切り、民のための道を選んぶと、自分が決めたのだから。

 だからワシは駆ける。今一度あの射撃を狙える機会を得るために。

 もはや距離を取ろうとも、矢が届く限りワシへの攻撃の手が緩む事は無かろう。

 それでも地を駆け続ける。

 己が手で道を切り開くために……。

 切り開いた道を仲間が押し進んでくれると信じて……。

 

ずささささっ!

 

 小さな丘とはいえ、その斜面を味方の兵士達の間をすり抜け、駆けてきた勢いをも利用して傾斜を滑り落ちる。

 そう背中から……。

 すでに轟天砲を抱えながら……。

 先程以上にはしたなく服が捲れあがっているが構わない。

 服の下の下着も地面を滑る抵抗に負けて凄い事になっていよう。

 だが………それがどうしたっ!!

 

どんどんどんどんっ!!!

 

 弓と言うものは、下に落ち行くものを狙い射つのはのは難しく、逆に上がっていくものは狙いやすい。

 それを利用したとはいえ、滑り落ちる振動で狙いは僅かにずれるものの、轟天号の放った鉄杭はそれでも門の付け根部分をそれなりに破壊してくれた。

 もう、今のような奇策は二度と通じまい。

 幾ら愛紗が防壁の上で注意と時間を稼ごうとも、張任の指揮する兵士達は其処まで甘いものではない。

 それは何より鍛えたワシが知っている。もう次はどんな奇策を打とうとも、けっして射たせはしまいと……。

 だからこそ……、其処が甘いと言っているっ!

 

どんどんどんどんっ!!

どんどんっ!!

 

 すでに傾斜も終わり、滑り落ちていた身体も止まっているのにも構わずに……。

 もう二度と射たせまいとワシを狙った矢が飛んでくるのも構わずに……。

 最後の一カ所を……。

 そして先ほど射ち洩らした個所を……。

 もはや向かってくる矢の雨を躱す事など出来ないと理解してなお……。

 想いでもって道を切り開いて見せる。

 

とすっとすっとすっとすっ!

ざくっざくっざくっざくっ!

 

 無数の矢が肉に食い込む音が……。

 骨を欠かし、そして砕いてゆく音が……

 痛みを感じる暇も無い程、連続して襲う衝撃に声にならない声が漏れ出る音が……。

 なにより夥しい血が地面へと落ち、染み渡って行く音が辺り一面へと響き渡る。

 ワシの躰へと降り注いでゆく……。

 

「え、……えへへへ……」

「がぁ……あははは……」

「…うぐ……はぁはぁ……」

 

 覆いかぶさった三人の兵士の身体から……。

 数えきれないほど多くの矢がその背を針山へと変え。

 あれほど血を噴出しながらも、まだその身体から血を垂らしながら……。

 年老いたワシを守るために……。

 

「………お、お前達。どうして?」

 

 自然と毀れ出る言葉。

 答えなど分かっていて尚、その言葉を紡ぎだしてしまう。

 もう禄に喋れる状態ではないと理解しているのに。

 だと言うのに、息をするのも辛いだろうに彼等は、声にならないほどか細い声でその唇を動かしてくれる。

 

「俺達…弱いから、こんな事しかできねぇ…えへへ……」

「頭良くないけど、……はぁはぁ……まだ死なせちゃいけないって事くらい……はぁはぁ…分かり……ます」

「やる事。あるんでしょ? 頼みますよ。 俺等じゃ…天地をひっく…り返しても出来ない…ですげほげほっ…から……」

 

 馬鹿者どもがっ。

 お前達、祝言を迎えたばかりではないかっ。

 親になったばかりではないかっ。

 好きな娘が出来たと言っていたではないかっ。

 ……そう怒鳴りたかった。

 ……そう拳を振り降ろしかった。

 

「そうだな、ワシにはやる事がある。

 他でもないワシがやらねばいけない事がある。

 それを思い出させられたわい」

 

 ……出来る訳がない。

 ……叱れる訳がない。

 この漢達を、怒鳴る資格が今のワシには無い。

 

「今、楽にしてやる」

「えへへ…げほへほっ……いいっすよ。そんな手間をかけられません……げほっ」

「はぁはぁ……俺達なんかより……はぁはぁ………が厳顔様をまってますよ」

「それに、ぜぇ…ぜぇ…あの世への土産ならげほっ…十分にもらいました……から。」

 

 そう言ってワシのはしたない恰好を無理に笑いを浮かべて指摘して見せる。

 構わず行けと……。

 悠然と恰好よいワシに憧れていたと……。

 後の事は任せますと……。

 この国を想い……。

 この国のために……。

 ワシに生き残れと……。

 本当に成すべき事を成せと……。

 生意気にもワシの背中を押す。

 

「……すまぬ」

 

 そう言って、身体を張って命を助けてくれた者達を、苦しみから楽にしてやる事も出来ずにその場を走り去る。

 もうすでにワシ一人に対しての攻撃は止みつつある。

 華雄、鈴々、そして焔耶の手によって、脆くなった岩戸と門を破壊されてゆく中では、最早それどころではないのだろう。

 幾ら優秀で鍛えていようとも、禄な戦の経験の無い張任達では、この危機を乗り切るだけの知識も胆力も無い以上、最早この戦は決着がついたと言える。

 だが、ワシの戦はまだ終わっていない。

 むしろこれからが本当の戦いと言えよう。

 彼等の命が繋ぎ止めたのだ。

 ワシがせねばならぬ事を……。

 劉璋様の配下だったワシの責任を……。

 この国の将だった者として成さねばならない責任を……。

 ワシに成させるために……。

 この国の真の未来のために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第百三拾弐話 ~ 弦の音が奏でる舞いに、秋の咲く花は悲しみの涙をそっと流す ~ を此処にお送りしました。

 

 ………あははは、もう少し書くつもりが桔梗お姉様のお話だけで終わってしまいました(汗

 紫苑お姉様(無印)も好きですが、桔梗お姉様も好きなんですよね。だってかっこいいんですもん。

 さて、次回は決着がつきつつある益州攻略の大詰めとなります。

 今回の話で書けなかった人の視点となりますが、次回の主役はもちろんあの人です。

 むろん分かりますよね?

 

 今回のインスパイヤ元となったのは、毎度お世話になっている金髪のグゥレイトゥ!様の劉璋様が新たに書き直されましたので、其方の方から取らせていただきました。

 あちらでは、殆ど恒例となっている私の暴走妄言があったりしますが、私の発言そのものはこの作品とは関係ない事を予めご了承ください。

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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