No.547015

恋姫のなにか たんぺんしゅーの2

くらげさん

ポツポツと思いついた妄想シリーズ。

2013-02-21 12:37:32 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:9474   閲覧ユーザー数:5585

思春る~と

 

 

呼び鈴を鳴らしてから、はいはい~と(おそらくは)長女さんが現れるまで、ヤケに長く感じられた。

何度も生唾を飲み込んでは緊張を解す為に前髪を弄り、早朝というか寧ろ深夜近い時間に美容室で整えて貰った事を思い出しては慌てて手を離す。

 

「はいはいどちらさんですかーーーって、思春かいな」

「あ、あけまして、おめでとう、ございます」

「はい、おめでとさ~ん。ごっつオメカシして、どないしたんや?」

「そ、その………えっと………」

 

深々と頭を下げて新年の挨拶をするも、後に言葉が続かない。

良く良く考えてみれば一刀は一刀で御参りだなんだとやることはあるだろうに、意気込んで約束もせぬまま晴れ着なんて着てしまった。

 

「あー、成程。一刀~、思春来てんで~」

「あ、あの!」

「ん~?」

「い、いいん、ですか?その……」

「あぁ、ウチらの事やったらかまへんで。 つーか全員徹夜しててな」

「一刀も、ですか?」

「アイツは真っ先に潰したわ」

 

なはは。と笑う霞に「は、はぁ………」と生返事を返す思春だったが、誘いに来た男のダルそうな声を聞くと顔は自然とそちらに向いた。

肩を回しながら出てきた一刀だったが、年齢に合わぬ筈の艶やかな姿に着飾った思春を見た瞬間眼を見開いて動きが止まる。

 

「何見惚れてんねん(笑) 何か言うたらなアカンのちゃうんか~?」

「………あけおめ」

「おめで、と」

「カズ、お前金持ってんのか?」

「お年玉ちょーだい」

「はいはい。ちょいまっとりー」

 

霞が家の中に引っ込んだ隙に、思春はそっと一刀に近づいて服の裾をクイクイッと引っ張る。

 

「どした?」

「あの、ごめんね?」

「あぁ、ねーちゃん達みんな寝るっつーから暇だったんだわ。お前来なけりゃ俺が行くつもりだったし」

「そっか」

 

目尻を優しく下げて笑う思春に、一刀は指を丸めて頬っぺをくすぐってみる。

小首を傾げて擽ったがる思春だったが、嫌がって離れる様子はない。なんだこのザラメ空間。

 

「オメカシしたな~。ちょっと見違えたわ」

 

子供の頃からずっとずっと一緒に過ごしてきた幼馴染に対する気恥かしさもあり、つい茶化してしまう一刀。

そんな一刀の『照れ』が解らない思春ではなく、真っ直ぐに自分を見れない一刀の態度に気分も良くなった。

 

「一刀どうしたの?何か変だよ?」

「…お前なぁ」

「ん?」

 

ニッコニコと一刀をチクチク攻めて楽しむ思春だったが、霞が出てくるとアタフタして俯いてしまう。

 

「ほれ。 無駄遣いしーなや?」

「サンキュー。 そだ、霞ねーさんも一緒に行かね?」

 

思春に対する意趣返しとして、(姉だが)他人を巻き込んでやろうと画策する一刀。

直ぐ様上着の裾を引っ張って涙目で首を横に振る思春を見て、敵はとったぞ。と自己満足する一刀。

 

「ウチ寝とくわ…… 喧しい事は言わんけど、身の程弁えときや~?」

「なんだよそれ」

「二つの意味でデキちゃいました~♪ とか言い出したらぶち回すぞ言うてんねん」

「で、で、で………」

 

自信無いわ。と思春をもう一回上から下まで眺めて真顔でそういう一刀は霞にどつかれ、思春は腹を括った。

 

 

「すげぇ人だったな………」

「暇人の群れ………」

「俺達もだろ………」

「禿げ同………」

 

行く人は遠出して滅茶苦茶有名な所に御参りするのだろうけれど、思春いるしそれもめんどうだしと近場でいいか。と二人で馴染みの神社に御参りする事にして。

それでもかなり多い人数に一刀は辟易し、思春は手をつなぐ所か一刀の腕に必死にしがみついて何とか人ごみを抜けてお賽銭入れて、おみくじ引いて一安心。

 

「おみくじ見るか………」

「………YES、大吉」

「死ねよお前。どんだけ引き良いんだよ」

「一刀は?何凶?」

「末凶とかあんのかよ………あ、中吉だ」

「しょっぺぇ」

「ぶつよ?」

 

人混みを避ける為に隅っこの方で身と顔を寄せ合っておみくじの確認をする二人。

人混みを避ける為なのだが、傍からみればイチャついている様にしか見えない。滅びろよもう。

 

(待ち人…逃すな)

「金運終わってるんだけど俺ww」

「どれ? ぷっww」

「金運 がめおべらってwww どんだけぱねぇんだよここのおみくじww」

「はんぱねぇww」

「だめだ、俺此処のファンになったわwww腹痛いwww」

「どう考えても一刀の方が良いおみくじじゃんwwwがwめwおwべwらwww」

「駄目だ、俺駄目だこれwww」

 

なんて一幕を演じながら、人混みを抜けて慣れた道を歩く。

 

「どっか寄るか?」

「やめようよ。デパートとか最悪の混みっしょ」

「金運がめおべら回避か」

「やwめwてwよwww」

「これで一年は笑えるな」

「あーおっかし………でも喫茶店ぐらいは寄ってもいいかな」

「珍しいなおい。何食った」

「おせちとお雑煮」

「あ、俺まだおせち食ってねーや」

「ウチ寄る?」

 

だなんて話しながら歩いていると、御休憩専門のホテル街の入口にたどり着いてしまった。

しかし順路的に間違ってはいないし、結構今更なので一刀は気にせず通り過ぎようとしたのだが―――

 

「………おい、なんで脚を止めた。何故俺を止める」

「……いい、よ? アタシ」

「ちょっ「着付け、出来る、から。覚えたし」………」

 

こんな事言われたら、流石の一刀さんだってそりゃテンションあがるよね。

夏侯家ねた。

 

 

家に帰ったら姉貴が料理作ってた。エマージェンシー。

いや、普通だろそんなのとか思う人、ちょっと説明を聞いて欲しい。

 

「帰ったか弟。手を洗ってうがいをし、制服のまま食卓につけ」

 

あのね、俺一人暮らし始めたんすよ。一人暮らし。

俺貰われっ子だからね、いつまでも居座るのもどうかなーと思って、思い切って進学の時に言ってみたんだ。

そしたら親父俺の事殴ってね、母さんめっちゃ泣いたの。何でそんな事言い出すんだって。

 

「おい、聞いているのか。それとさっきの『うわああああああ!!!』は何だ、しばくぞ」

 

だって、気にするじゃん普通。優しくされたらされるほど気にするじゃん。俺此処にいちゃいけないよなーって思うじゃん。

実の子でもないのに、いつまで迷惑かけんだよとか自己嫌悪ハンパなかったんだけどね。

まぁ、色々あって、『親に甘えるっていう理由なら許す』って事で許可貰ったの。家賃とかあるからバイトしようと思ってたのに、不許可だよ。

 

「おらっ!」

「いってぇ!!」

 

モノローグ終了。オタマぶん投げられた。

 

「なんで姉貴が居るのさ…」

「私も此処に住む。異論は認めない」

「は?! なんで?」

「そもそも私はお前の一人暮らしを認めた覚えはないぞ」

「いやでも、父ちゃんと母ちゃんが「認めた覚えはない」………皆知ってんの?」

「当たり前だ。 さっさと手を洗ってこい」

 

 

 

「なぁ桂花、相談っつーか、聞きたいんだけど」

「何?」

「………姉貴さ、あぁ、秋蘭の方だけど、俺の事結構好きなのかね?」

「………え?今更?」

「それもさ、方向性違う感じに好きなのかね?」

「今更?」

「今更」

「えーと、ようやく気付いたのにも、訳があるのよね?聞かせてくれる?」

「こないださ、リビングのソファーに寝転がりながらゲームしてたらウトウトしちゃってさ。

ボンヤリしてたら、姉貴が近くにいたのね、ライダースーツ姿で。あの革張りのやつね」

「なんでライダースーツ?」

「俺も疑問に思ってさ、寝ぼけてたから夢だと思ったわけさ。そしたら姉貴さ、俺の手掴んで、自分の胸揉ませてたの」

「………良い、思いした、わね?」

「新品だったみたいで、感触としては硬かったけどな」

「それで愛されてるって?」

「続きがあってさ。 その日の夜の話さ。

秋蘭に風呂入れって言おうと思ったら、何か声聞こえてきたの。電話だと邪魔しちゃ悪いかなーと思って、ノックしたら反応なくてさ。

ああいう時って焦るのな? 病気か?と思ってさ、部屋入ってみたら―――」

「………な、何よ、溜めないでよ」

「………………これ、ホントの話な?」

「解ったわよ、滅茶苦茶気になるから言いなさいよ」

「ライダースーツから指紋検出してた」

「うわぁ!!」

「胸の部分に付いた、恐らくは俺のものであろう指紋を見ながら凄い事してた。顔がすんごいニヤけてた」

「こ、声、掛けた?」

「その選択肢選んだら、きっとエンディングにたどり着いちゃうと思って声は掛けなかった。その日は春蘭の部屋に避難した」

「そっちは大丈夫だったの?」

「どうもあの日の俺は狂ってたみたいだ。春蘭がノーブラで胸押し付けてくるのとか可愛く思えてたもの」

「ま、まぁ………無事でなによりだわ、ホントに………」

「………俺、汚れちまったよ、桂花」

「  」

「その日の夜に秋蘭が忍び込んできてさ、春蘭を縛って………見てる前で………」

「oh......」

「俺もうお婿にいけない………」

「………なんとか戸籍手に入れてみるから、整形する?」

「逃げれるのかな、俺」

「なんとかするわ、うん………超がんばるから………今は泣きなさい」

 

別設定孫家ねた。

 

 

「あの・・・秋蘭先輩?それに愛紗も、止めにしない?まだ間に合うし」

「良く考えたが答えはNoだ」

「別段減るモノでもないだろう?」

 

 

親しくなるにつれ、段々と遠慮はなくなって来るのが友人関係と言うもので。家族構成などというプライベートな事を気軽に聞けるのは、まさにその典型だろう。

入学して馬があった蓮華と愛紗。同じ部活の先輩でもある秋蘭と、後輩で期待のルーキーである詠の四人で仲良く雑談なんぞをしていたのが先日の事。

蓮華以外の三人は同じ寮で生活している事もあり、相部屋が基本なのに一人だけ個室で暮らしている秋蘭の部屋でお茶をしながら、ふとした疑問を口に出したのが蓮華だった。

 

「ねぇ、詠って弟とか妹とかいるの?」

「え? いえ、一人っ子ですけど・・・」

「え?!そうなの?」

「何か変ですか?」

「いやそういう訳じゃ無いけど・・・しっかりしてるし、気もきくし、てっきりお姉ちゃんなんだと思い込んでて」

「あー・・・でも、それを言うなら秋蘭先輩とか、愛紗先輩だってそうじゃないですか?」

 

中々打ち解けられない先輩二人に視線を送ると、将棋をうっていた二人の顔が持ち上がる。

 

「私は上にはいるが、下の兄弟はいないな」

「私も詠と同じで一人っ子だ。となると、この中だと蓮華だけじゃないのか?妹がいるのは」

「なんか意外な結果になったわね」

「秋蘭先輩ってお姉さんいたんですね?」

「絶賛冷戦中だがな」

 

取った駒をジャラジャラ鳴らしながら、ニヤリと笑って秋蘭が言う。

その笑みに恐ろしさしか感じなかった詠と蓮華は揃って視線をずらすと、話を変える為に詠が口火を切った。

 

「い、妹さんがいるってどんな感じなんですか?」

「そ、そうねー、基本的には可愛いわよ?口喧嘩も多いけど」

「まぁ蓮華は口煩い方だろうしな」

「愛紗に言われたくないわよ・・・」

「後学の為に聞きたいんだが、妹に口答えされるのはどんな気分だ、姉としては」

「明らかに妹が悪い時はイラッともしますけど・・・まぁ後はケースバイケースですね、正直。大喧嘩した時は大体兄が止めに入りますし」

「「「ちょっと待て」」」

「へ?」

 

ずいっと身を乗り出して、そのついでに将棋盤の上を床にぶちまけた秋蘭。似たような反応の愛紗。ついつい素が出ちゃった詠。

それほどまでに、天然小悪魔蓮華ちゃんに男兄弟がいたという事実は衝撃だった。

 

「初耳だぞ、お前兄とかいたのか?」

「え、ええ。血は繋がってないらしいですけど、でも物心付いた時から一緒だから」

(テンプレ設定ktkr)

「・・・一応聞いておくが、お前まさか兄も落としてないよな?」

「へ?落とす?何処から?」

「普通ならありえんと切って捨てるが、なにせ蓮華だからな・・・」

「どんな人ですか?」

「控えめに言って最悪ですね」

 

詠が兄の人となりを聞いた瞬間、ムスッとして眉を潜めでそこから悪口のオンパレード。

やれ、『どれだけ言ってもしっかりしない』だの『私がどれだけ心配してるか知らないで』だの『ちゃんとしてる時はちょっとはかっこいいのに』だの『妹ばっかり甘やかして』だの、出るわ出るわ嫉妬の嵐。

 

「詠、お前の得意分野だとこういうの何て言うんだ?」

「ツンデレです。歪みねぇツンデレです」

「・・・どういう意味だ?」

「普段―――えっと、こういう時には悪口ばっかり言っちゃうんですけど、根本的に相手が大好きなのでふとした瞬間にデレる―――つまり、優しさを見せる高等テクニックです」

「それが何でツンデレと呼ばれるんだ?」

「元々は【普段はツンツン、二人きりだとデレデレ】という人に使うんですが、ストライクゾーンが広がりまして、素直になれない子の事を総じてツンデレと呼ぶのが現状なのです」

「なるほど、ツン+デレでツンデレか。言葉とは進化するものなのだな」

「ところで、蓮華先輩全く私達の話聞いてないですね」

「好都合だ。今の内に話を進めよう」

「何のですか?」

「明日の休みに蓮華の家に遊びに行こう」

「何故?」

「天然小悪魔がデレた男を見てみたい」

「「御意」」

 

「・・・・・・・・だからね?ちょっと聞いてる?!ホントに兄様はいつもいつもだらしないの!解った?!」

「「「この上なく」」」

 

お前がツンデレと言う事が。三人同時にそう続けた。無論心の中で。

 

そうした日の午後、秋蘭が明日は何時に集合。と言って解散し、何も聞かされてない蓮華がはーいと返事をして騙され―――次の日集合して目的地を訪ねて「お前の兄ちゃん見たい」と言われ、冒頭に至るのである。

 

 

「お願いだから遊びに行ってますように・・・誰も家にいませんように」

「何故そこまで嫌がるんだ? まぁ話を聞く限りでは、紹介したくないのは解ったが・・・」

「兄様の悪口言わないで」

(愛紗先輩、ツンデレに相手の悪口は厳禁ですよ)(う、うむ・・・)「す、すまないな、そういうつもりではなかった。謝罪する」

「まぁ男っ気の無いメンツが揃っているしな。お前の身内なら安心だろうし、流石にお前の義姉になるつもりは無い」

(それが一番不安なんですよ・・・)

 

昨日、蓮華が三人の話を聞いて無かったのは確かだが、逆を言えば三人も蓮華の話を聞いていなかった。

なので、蓮華が一番イライラしている兄の悪癖は三人とも聞き逃していた。

小悪魔だの撃墜姫だの歩く誘蛾尻だのと呼ばれている蓮華だったが、自分ではそんな事はないと思っている。

まぁ二つ名自体は事実なのだが、何せ身内にもっと質の悪いのがいるのだ。

無自覚超女誑しの兄を見ていたら、そりゃ自分なんて大したことないと思うだろう。

何せ告白OKされてるのに断られたと勘違いして、しかもフラグを折らずに次の女を落とすのだ。一回ぐらい殴らせて。

 

「はぁ・・・今日ほど帰るの嫌になった事ないわ・・・」

「どうした蓮華。さっさとドアを開けて私達を招いてくれ」

「やだー・・・やめましょうよー・・・」

「えっと、お母さんとお姉さんと、妹さんに件のお兄さんでしたっけ?」

 

詠が指を折りながら数え、そこに蓮華先輩。ともう一人付け足した後、眼前に立つ一戸建てを見上げる。

平均より大きめな二階建ての家。しかも庭付き。うーんゴージャス。

 

「あ」

「どうした愛紗」

「いえ、手土産を持参していないのを思い出しました。少々不味いのでは」

「そ、そうなの?!じゃあ買いに行きましょう今すぐにっ!!」

「詠」「此処に」

「何で用意してるのよ・・・」

「昨日お宅訪問が決まった後で作った。手作りなので高級感はないが我慢してくれ」

「・・・中身は?」「手早くプリン作ったのだー」

「好物ですよ・・・兄様が・・・」

 

もう逃げ道が無い事を悟った蓮華は、重い重い溜息を零しながら玄関のドアを開けた。

 

お邪魔しますの言葉と共に、ワクワクしながらリビングに通される三人と重い足取りで先頭を歩く蓮華。

蓮華の記憶が確かなら、あの馬鹿共は徹夜の麻雀大会をやっていた筈だ。

 

「もうやだ・・・」

 

かなり広いリビングのそこかしこに麻雀牌が飛び散り、超でっかいテレビはファミコンのゲームを映し出している。

ビールやチューハイ、ジュースの空き缶と共に転がる一升瓶。サキイカのカスに充満した空気。

何故か下着まで転がっているという最悪の室内環境を作り上げた四人は、大きな大きなソファーに固まって寝ていた。

背もたれに身体を寄りかからせながら、息子の腕を胸で太腿で挟み込んで眠る母、祭。

大好きなおにーちゃんのお腹の上で猫みたいに丸まってヨダレをたらして眠る末妹、小蓮。

腕を首に回してずり落ちないようにかなり密着して、互いの頬が密着する距離で眠る長女、雪蓮。

完全にハーレムを形成している事に全く気づかずに惰眠を貪るアイマスクを付けた孫家の長男、一刀。

蓮華がいなければ一晩で此処まで部屋を荒らせる、まごうことなきダメ人間達である。

 

「・・・どうしますか、秋蘭先輩」

「蓮華、手伝うか?」

「・・・窓、開けてください」

 

額に手を当てながら、震える指で庭に繋がる窓を示され、詠が荷物を置いてトトトと駆けた。

 

「とりあえず・・・片付けるか」

「いいです。この人達にやらせますから、私の部屋に上がっててください」

「いやどの部屋だ・・・」

「あ、そっか・・・」

 

皆が初めて遊びに来た事を思い出した蓮華は、台所に行って何故か懐中電灯を持って帰ってきた。

そのまま四人が眠るソファーに行くと、兄が付けているアイマスクの下、ホッペと眼の真ん中辺りをゴスッと殴る。

 

「いってぇ!!!??」

「起きなさい・・・目玉殴られたく無かったらね・・・」

「あれ?動かないんだけど?金縛り?誰、俺殴ったの」

 

はぁ。と溜息をこぼして慌てふためく兄のアイマスクを外すと、涙目になった眼が登場した。

どれどれ。と愛紗と秋蘭は目的を果たそうと回り込み、詠はテレビに映ったデジタルデ○ル物語に興味津々だった。

 

「あれ・・・蓮華遊びに行くっつってなかったっけ?」

「おはようございます・・・今日は友達を連れてくる事になりました。あといい加減皆から離れてください」

「おはよ・・・・・・姉貴かかーちゃんだけどうにかしてくれぃ」

「はいはい・・・ほら姉様!起きなさい!」

 

姉の頭をガシッと掴むと、力任せにソファーから引き摺り下ろした。やだ・・・蓮華ちゃん豪腕・・・

床に叩きつけられた雪蓮はふがっ?!と声を出したものの、モゾモゾ動くとまた寝てしまった。

 

「おら、おきろかーちゃん」

「かーさまはまだねむいぞー・・・」

「部屋で寝ろってんだよ」

 

よ!と抱きしめられていた腕を引き抜くと、身体を起こし、反動で落ちそうになったシャオを慌てて抱きとめると頭を撫でながらんがー!とノビをする一刀。

そこで漸く、自分が二人の女性に興味津々に見られている事に気が付いた。

 

「えーと・・・蓮華の友達だっけ?」

「いいえ、貴方の嫁です」「ああもー・・・」

 

流石に秋蘭が本気だとは思っていないが、コレを本気にするのが一刀である。へ?と惚ける一刀の手を握り締めて嫁宣言した秋蘭に踵落としをお見舞いすると、ギロリと一刀を睨んで蓮華が忠告する。

 

「この人大体こんな感じで巫山戯るので間に受けないように。わかりましたね?」

「あ、あー、そういう事ね。おっけー」

 

よろしく~♪と握られた手に力を込めてにぱー☆と笑う一刀。もうお前その辺で爆発してろよ。

 

「えっと、俺はコイツの兄ちゃんで一刀。妹が御世話になってます」

「秋蘭と申します、末永く宜しくお願いします」

「あはは、別嬪さんなのに面白いね秋蘭さん」

「あ、愛紗と申しますお兄様!」「すっげマジかよ実機で初代メガテンとかぱねぇ・・・・・・」

「お、愛紗ちゃんは名前だけ知ってんぜー。いつも御世話になってるみたいで、ありがとね」

「とんでもないです! むしろ私こそ本当にありがとうございました!!」

「・・・何もした覚えないけど、どういたしまして」

「あそこでゲーム画面にときめいてるのが詠。私達部屋にいますから、あまり騒がないようにしてください」

「へーへー。んじゃお姫様をベッドに運ぶとしますかねっと」

 

落とさない様に強く、しかし優しく、お姫様と自分で言った通りの扱いでお腹にへばりついたシャオを抱きしめて立ち上がる一刀。

その様子に蓮華はいつも通り渋い顔をしながらも、友人達の手前もあり憎まれ口は叩かない。ブラコンと勘違いされたくないし。

 

「あ、ちょっと兄様! ちゃんと此処の掃除してくださいね!」

「メンドクセ」

「し!て!く!だ!さ!い!ね!」

「わーったよ。がなるな」

 

そう言って一刀はシャオを部屋に運ぶためにリビングから出ていき、残されたのは蓮華達四人+雪蓮。

ゲームに釘付けの詠を放置し、とんでもない事を言い出した秋蘭にジト眼の蓮華が口を開く。

 

「一応聞きますけど、あれは先輩の冗談だったんですよね?」

「どうしたんだ蓮華水臭い、何時もの様にお義姉ちゃんと呼んでいいんだぞ」

「出会ってから今日まで、一度足りとも読んだ記憶が無いんですけど」

「蓮華!どうしよう!私何か可笑しな事言ってなかったか?! 変な子だと思われてないよな?!」

「私のログには何も残ってないわ。狂った愛紗なんていなかった」

「一刀さんどんな女が好みだ!?」「くわしく!」

「知らないわよそんなくだらないこと!!」

 

どうもマジらしい。やっべーどうしよー。

 

 

「っていうか、兄様彼女いるわよ?」

「なん・・・」「だと・・・?」

「兄様のどこが良いのか知らないけひゅわっ?!」

「れんふぁ~・・・今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけどぉ~?」

 

何時の間にか、蓮華の後ろに鬼が立っていた。美人は怒らせると恐い。普段から迫力満点の超美人ならもっと恐い。

比較的背の高い秋蘭よりもタッパがあり、目付きの鋭い雪蓮が怒ったらそりゃあ恐ろしいだろう。頭をむんず!と掴まれたらそりゃ悲鳴の一つでもあげる。

 

「どこの、だれが、一刀に手ぇ出したって?」

「ね、ね、姉様のお知り合いでしょ?! 私は知らないです何も!」

「誰? 具体的にどの華琳?」

「か、華琳さんかどうかは知らないですけど・・・でも兄様が」

「一刀が、何?」

「あの朴念仁の兄様がプレゼント買ってたからそうじゃないかなって思っただけですごめんなさい!!」

 

めぎゃっ!と音がした。秋蘭も愛紗も、蓮華ですら「あ、割れた」と思ったが、鳴ったのは蓮華の頭を掴んでない方の拳だった。

握り拳を作っただけで凄まじい破壊力を生み出せる雪蓮様マジぱねぇっす。

 

「ふーん、へーえ、そう。 プレゼントねぇ?アタシですら普段貰った事ないのに、プレセントねぇ?」

「こ、殺さないで下さい・・・お願い・・・私何もしてません聞いてません勝手にそう思っただけなんです!!」

「やーねぇ、お友達の前で誤解されるような事言わないでよ。 えっと、秋蘭さんに愛紗さんだっけ?」

「は、初めまして。愛紗です」「秋蘭です」

「アタシの弟に手ぇ出したら殺すから」

 

助かった。雪蓮がブラコンを隠さない人で助かった。もう少し遅かったら二人とも名前の後にお義姉さんって付けるトコだった。

 

「蓮華ー?アタシちょっと出てくるから」

「は、はひ・・・」

「晩ご飯までには帰ってくるから、一刀にそう言っておいてね?」

「必ず!!」

「それじゃ、ゆっくりしていってね!」

 

びっくりするぐらい完成度の高い声帯模写で蓮華の友人一同にそう言うと、身なりを整える為にリビングを出ていく雪蓮。

足音が遠ざかって行くのを聞き届けてから、蓮華がヘナヘナとその場に崩れ落ちた。

 

「蓮華・・・生きているか?」

「友人として言っておくわ・・・兄様はやめた方がいいわよ・・・姉様本気で怒らせるとヤバいから」

「アレで本気ではないのか・・・」

「あの人にとっちゃあんなのじゃれ合いよ、怒った内に入らないっての」

「はー、堪能した。やっぱ実機の音源はたまらんですな。  あれ、どうかしたんですか?」

 

ホクホク顔で、しかし名残惜しそうにテレビの傍から離れてきた詠がヘタり込んでいる蓮華と、渋い顔の二人に不思議そうに疑問をぶつける。

 

「おっそうじおっそうじ楽しいかー? いや、そうでもないな」

「何アホな事言ってるんですか恥ずかしい」

「正直に生きよう週間なんだよ言わせんな恥ずかしい。  あれ、姉貴は?」

「出かけるとかで、今シャワーだと思います」

 

ふーん。と興味無さそうに返事をすると、テレビ画面に意識を集中させていた詠がいる事に目敏く気付く一刀。

 

「詠ちゃんだっけ? もういいの?」

「へ? あ、あぁ、はい。堪能しましたです。あと初めまして」

「初めまして。 堪能したって、アレまだ途中みたいだけど」

 

一刀が示した通り、画面は少しも動いておらずただBGMを流し続けるのみ。

しかし詠は頭を振って否定した。

 

「まさか炎の回○を生音源で聞けるとは想いませんでした。ありがとうございましたマジで」

「こやつ・・・やりおる・・・やりたいなら貸そっか?」

「いいんですか?!」

「おぅ、他にもやりたいのあんなら持ってけぃ」

 

そう言うと一刀は詠を手招きすると、ゲームが詰め込まれたボックスを披露する。

 

「ふおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおお!!」

「ヤバい、何この嬉しい反応」

「すっげぇ!コレ本当に借りて良いんですか?!くに○くん全種類あるじゃないですか!」

「詠ちゃんは良い子だねぇ・・・いいんだよ、好きなだけ持って帰って」

「一刀さん、ボクこれ全部やりたいです」

「どうしよう蓮華、詠ちゃんは俺が求めていた子かもしれない」

「知りません!!好きにすればいいじゃないですか!!っていうか、掃除はどうしたんですか?!」

「あ・・・あー、すいません一刀さん。やっぱり借りるのはいいです」

「どうして?」

 

あー・・・とチラッとゲーム嫌いの愛紗を見るも、悪し様に罵る訳にもいかずに言葉を濁して色々事情がありまして。と愛想笑いで返す詠。

仲間を増やせると喜んでいた一刀だったが、押し付ける訳にもいかないのでそっか(´・ω・`)。と形だけでも納得して、すぐに代案を思いつく。

 

「んじゃ此処で一緒にくに○くんシリーズ制覇しようぜー」

「マジっすか!じゃあじゃあ、時代○からやりましょう!」

「詠ちゃんマジ天使!」「そ・う・じ!!」

 

ち、スルー出来なかったか。と呟く一刀だったが、詠はあはは・・・と苦笑いすると、こちらも代案を思いつく。

 

「あ、それじゃボクも掃除手伝いますよ。その後でやらせてください」

「詠ちゃんマジで俺と付き合ってください」

「兄様!!」

「蓮華、落ち着いて考えろ。俺がこの先詠ちゃん以上に趣味を理解してくれる女の子と出会えると思うか?答えはNoだ」

「それとコレと何の関係があるんですか!」

「明日って今さ!」「何の繋がりも見入出せないんですけど」

「ふーん、そうですか。いいですよ?兄様の好きにすれば。でもお兄ちゃん大好きなシャオは泣いちゃうだろうなー。私には関係ないですけど」

「お前それは卑怯だろ」

「好きにすればいいんじゃないですかー? シャオに嫌われても絶っ対に助けないですけど!」

「汚いな流石蓮華きたない」

 

俺は蓮華嫌いになったなあまりにも卑怯すぎるでしょう。とブツブツ続けながらも箒とチリトリを取りに物置に向かう一刀を、涙混じりのキツい眼差しでプーッと膨れて睨む蓮華。

 

「あの・・・いいんですか?」

「ほっとけばいいの!!」「あ、そっすね・・・」

「何よ・・・卑怯じゃないもん・・・」

(これが、萌えか)

 

 

「なにか縛り入れます?」

「我が家ルールで行く?超難易度あがるよ」

「どんなのっすか?」

「ボスキャラが使うひっさつ禁止」

「ちょ!にとろだけは……にとろだけは勘弁して下さい!」

「そしてボス音楽流れたら殺し合いで金独り占め」

「鬼や………ホンマモンの鬼がここにおるで………」

 

という、愛紗と秋蘭にはチンプンカンプンな会話の下に始まった一刀と詠の○代劇タッグ。

 

「蓮華、解説してくれ」「全くわからん…」

「簡単に説明すると、きんすけさんマジ鬼畜」

「「なるほど、わからん」」

 

風邪ひき一刀と雪蓮さん。いわゆる一つの華琳逃げて!!

 

腰まで届くぐらいにボリュームのある髪をシーツの上に全開でぶちまけ、俯せで寝るのが雪蓮のスタイル。

身内の人間なら何時もの事なのでビックリする事もないのだが、知らない人がみたら何かの事件現場だろこれ。と思わずにいられないほど強烈なインパクトのある絵である。

 

まぁ、それはともかく。

 

【予定の無い日は全力で惰眠を貪る】というのが信条の雪蓮が、寝てるトコを起こされたら不機嫌になるのは周知の事実なのだが、分かっていて地雷を踏むのが彼女の友人達である。

ケータイを数秒置きに鳴らすという、寝ている人間にとっては嫌がらせに近い手段を取られ、五分ぐらいたってとうとう雪蓮がキレた。

 

「がぁ!もーなんなのよ!!  って、華琳じゃん」

『や、ちょ、ダーメだって!大人しく寝てなさいっての』

「殺す」

『ちょ、まったまった。おこっちゃやーよ?』

「ぜってーブッコするかんねアンタ」

『おっはー♪ 雪蓮何してたのー?』

「今まで寝てたわよ、今から寝るわよ」

『つーことは暇?暇だよね? よかったー♪』

「アンタホントに早死するわよ。つーかぶっとばすからアタシの拳の範囲内に直ぐ様飛び込んできて」

『あのさー、悪いんだけど雑炊の元と冷えピタと牛乳買ってきてくんない?アタシこれから収録あるんだよねー。あ、あとプリン系のあんまいの』

「なんでアタシがアンタのタメにパシリしなけりゃいけないのかしら?」

『へ? 一刀風邪引いたってメールしなかったっけ?』

 

その瞬間、華琳の耳元に風をかき分ける音がした。膨大な量の髪の毛を震わせて起き上がったが末の音なのだが、電話越しに聞こえるとかどれだけ勢いつけて起き上がったのやら。

 

「何それ、聞いてないわよ」

『えー言ったよー!冥琳も月も電話出てくんないし、アタシ今から収録だからホント困ってたんだよー!』

「ちょっと待って、一刀くん?風邪引いたの?」

『そーだよ? あー聞いてよ!寝てろって言うのにゲームしたり遊びに行こうと起き上がったり、バイトまで行こうとするんだよー!?その上お姉さん達は呼ぶなとか言うしー!』

「いやアンタの愚痴はどうでもいいから。 んで、アンタ今から収録?」

『うん・・・でも眼を離すとすぐに遊ぼうとするから、おねーさん気が気じゃないのです。だから看病がてら雪蓮に監視してもらおっかなーとか思ってさ』

「スグ行く。だからちょっとだけ待って。今からシャワー浴びるから」

『いやアタシも時間ギリギリなんだけど・・・まぁギリギリまでは待ってるから、よろすこ~』

 

雪蓮が聞いたのは『いやアタ』までで、ケータイを放り出すと直ぐに服を脱ぎ散らかして全裸で浴室に飛び込んでいった。次女と三女の刺すような視線を(主に胸に)受けながら。

 

 

「蓮華!ちょっとアタシ出てくるから服洗濯としいて!」

「もー!!ちゃんと洗面所で脱げばイチイチ取りに行かなくて済むでしょ!!」

「おねーちゃんさ、約束あるならちゃんと起きたら?」

「じゃっかぁしい!!んじゃ!!」

 

人間やれば出来るもんである。シャワーを浴びて髪を乾かして、万一に備え下着までバッチリ見繕って外出用意をたったの5分で済ませやがった。

ただ、メイクまで済ませて一見すれば【綺麗なお姉様】然とした出で立ちになったのに、「うおっしゃーい!!」と気炎を上げてスカートで爆走するのは如何なものか。

 

「姉さま、完っ全に女捨ててると思わない?」

「んー・・・・・・でも、シャオ達三人の中で一番綺麗だよね、身内贔屓抜きにすれば」

「・・・神様って不公平よね」

「何かで読みました。神様と言うのはきっと完全無欠な人格者で、どんな人に対しても決して贔屓はしないそうです」

「なんとありがたいんじゃろうなぁ。死んでしまえ」

「・・・母様、その手に持った缶ビールを置いてみましょうか」

「ところで、昼飯どうする? 雪蓮抜けたから予算が浮いたぞ」

「御飯が増えるよ!やったねシャオちゃん!!」

「「おいやめろ」」

 

 

一刀宅の近所のスーパーで指示された物を値段を見ずに購入し、何と電話が終わってから20分でたどり着いた。普通ならどれだけ急いでも一時間は掛かるのに、欲って恐い。

 

「ぜー・・・・・・・ぜー・・・・・・ごふぉっ!!えーっと・・・風邪・・・・・・・引いてるのよね?」

 

肩どころか全身で息をしながら、呼び鈴を鳴らそうか、いや寝てたら起こすのは悪いし、と悩んでいるとドアが勝手に開き、プリプリ怒った華琳が中から出てきた。

 

「あや、雪蓮すんごい早いね?」

「滅茶苦茶走ったわよ・・・多分世界記録出てるわ・・・」

「さっすがー 絶対間に合わないと思ったからもう仕事行くつもりだったんだー♪」

「げふぉ!!ごぼぉ!!!」

「・・・だいじょぶ?」

「当然のパーペキよ、また世界を縮めてやるわよ」

「ならいいけど・・・あ、ちゃんと寝かしておいてね? あと御飯はちゃんと病人食食べさせて。具体的にはおかゆ。雑炊はギリOK」

「なんか・・・色々・・・買ってきたんだけど?言ってなかった?」

「えーっとね、コーヒー飲みたいって言い出したら代わりにホットミルク作って飲ませて。あとは氷枕無いから冷えピタは早めに取り替えてねん♪んで、何か飲んでると口寂しくなるからそんときにプリンらしき物を与えて。

言っとくけど、くれぐれもコンビニのホットスナックとか食べさせちゃダメだよ?あと、タバコ吸おうとしたらぶん殴っていいから」

「なんだろうこの沸き上がる破壊衝動」

「えーっと・・・それぐらいかなぁ・・・あ、熱上がって意識モーローになったら身体触ってくるから気を付けてね」

「え?」

「なんか人肌恋しくなるみたい。しょっちゅう押し倒されたので困ります」

 

なんだその美味しい展開。仕事が無ければ、いや一刀が風邪引いてなければ今此処で引導をくれてやったのに!!

 

「風邪移されないようにね? 一応予防の漢方薬置いてあるけど、あ、でもアタシも大分飲んだしなぁ・・・まぁ雪蓮ならダイジョブだよね~♪」

 

聞き様によっては『おめーは魅力ねーから襲われないってpgr』と言っているのと同じである。

華琳逃げて!!今すぐ仕事に向かって!!ゴキゴキ鳴ってる雪蓮の右手から距離取って!!

 

 

 

んじゃよろしく~とヒラヒラ手を振って仕事に向かった華琳に一応手を振って見送ると、深呼吸をして息を整えて部屋に入ろうとして―――ヒ!と思わず息を飲んだ。

パジャマなのか、長袖のトレーナーにモコモコした、大分暖かそうなズボンを履いた一刀が廊下に倒れていた。

ピクリともしていない、と思ったら少しずつだが腕を動かして、何とか玄関までたどり着こうとしている。

 

「か、一刀君?大丈夫?」

「あの場所まで行けば・・・・・・ごほっ・・・」

(リアルで初めて見たわ、これが逃走経路・・・いや違うっての)

「大・・・戦国・・・」

「あー・・・なるほど・・・」

 

思わず額に手をやった。華琳の言っていた事は大分誇張されていると思っていたら、どうやら100%正しかったようだ。

どうした物かと思っている間にも、一刀はホンの少しづつではあるが玄関までたどり着こうとしていた。

 

「えーっと・・・ごめんね?」

「うぼあー・・・」

 

靴を脱いで一刀の後ろに回り込むと、脇に手を入れて荷物を下ろさぬまま一刀を引き摺って部屋の中まで入る。

抵抗する気力などないのか、非常にスムーズに進んだ事が幸いと言えば幸いだった。

 

 

 

冷えピタをオデコに貼ると、すぐにほにゅ~と癒された顔になった一刀。それほどまでに熱があるのに何故動けたのが疑問は残るが、兎も角一仕事終えた雪蓮はヤレヤレと肩から力を抜く。

最近買ったコートを脱いでハンガーを借りようと室内を見回すと、チラホラと女物のコートやら何やらが掛かっているのが目に入った。無論華琳の私物であるし、そんな事は一々聞かずとも解ってしまった。だってこの前見たし。

頑丈そうな木のハンガーに掛かっている華琳のコートを手に取ると、だらっしゃ!と雄叫びを上げて地面に叩きつける雪蓮。その後流石に悪い事したなぁと思い、ちゃんと拾って別のハンガーにかけ直す辺り、良い娘さんだこと。

ちなみに空いているハンガーに自分のコートを掛けなかったのは、単純に重量の問題である。ほら、背丈とか背丈とか。あと背丈とかさ?

 

「勢い任せに来たのは良いけど・・・・・・看病って基本的に何すりゃいいんだろ」

 

まさか一刀が眼を覚ますまで突っ立っている訳にもいかず、初めて入った訳でもないんだし。と自分に言い聞かせてその辺りに腰を降ろすと部屋を何の気無しに見渡した。

 

「・・・なんか、チグハグだなぁ部屋の趣味」

 

カーテンはシックな無地の黒。だというのにピンク色のクッションがあったり、敷き布団は白いのに掛け布団は青だったり。えとせとらえとせとら。

一刀くんってこんな少女趣味だっけ?と疑問を浮かべていた雪蓮だったが、本棚にキチンと仕舞われた女性雑誌を見つけてあぁ華琳の趣味か。と納得した。

胸をどす黒い感情で染め上げていると一刀がゲホゲホと咳をしだして、何が出来る訳でも無いのは解っていたが傍による。

 

「一刀くん?起きたの?」

「おきてる・・・げほっ・・・おきてるから寝かせて・・・」

「あーうん。寝てて」

 

半分寝ているのか、それとも半分起きているのか。まぁどちらでもいいのだが眠りこけてはいないらしい。

素人がちょっかい出しちゃだめかな。と判断して、雪蓮は買ってきた雑炊の元をビニール袋から取り出すと雑炊を作るタメにキッチンへ向かった。

 

「・・・ついつい勝手に使っちゃったけど、良かったのかしら」

 

まぁ部屋の主はあの調子だし、華琳の言葉が本当ならあの様子でも食生活は普段と変わらない極限レベルである。

胸を揺らして自慢出来る程ではないが、まぁ人並み程度には料理も出来る雪蓮。華琳が用意したのであろう白米を使って雑炊を拵えると、それでもう手持ち無沙汰になってしまった。

一応チラチラと一刀の様子を確認していたが、ゲホゲホと咳き込みながらも財布を手で探している辺り馬鹿丸出しだった。

 

「どれだけ遊びたいのこの子は・・・はい、良い子にしてる!」

「げほっ・・・頼むから見逃せ・・・げほっ」

「今日はダメよー?良い子にしてたら御飯食べさせてあげるから。ね?」

「肉・・・」

「治ったら食べさせてあげるから。ね?」

 

妹しかいない雪蓮だったが、手の掛かる弟がいたらこんな感じなんだろうなぁ。と思う。

それでも嫌気がささないと思うのは、惚れた弱みか生来の気質か。

 

「汗かいてるでしょ?お湯持ってくるから、大人しくしててね?」

「・・・・・・」

「へ・ん・じ!」

「あい・・・」

 

渋々嫌々。といった感じに返事をする一刀に全くもう。と華琳がいつも言う台詞を雪蓮も呟くと、それでも顔に笑を浮かべてタオルと洗面器を取りに洗面所へ向かうのだった。

 

 

「はーい、服脱がせるからねー」

「・・・・・・」

「重っ! ・・・病院行く?尋常じゃない量の汗出てるわよ?」

「いかない・・・」

「変なトコ頑固なんだから・・・身体起こせる?」

「口動かすのもめんどくせぇ」

「はいはい、寝てなさい♪」

 

やれやれ。とタオルをお湯に付けて絞り、一刀の身体を拭こうとした雪蓮だが、一刀の身体を見て大変な事を思い出した。

 

(あっれ待って。なんか一刀くんの事弟扱いしちゃってお姉ちゃんぶっちゃったけど、これすんごい美味しい状況じゃね?)

 

目の前には意識朦朧な一刀。しかも半裸。抵抗なんてほぼないだろう事は明白である。

加えて雰囲気ブレイカーな華琳は収録中でどう間違っても此処にはこないし、冥琳と月はこの事を知らない。

更に更に、一刀のお姉ちゃん達にも連絡はいっておらず、此処は密室である。

とりあえず尋常でない量の汗を吸っているTシャツを絞ってビニール袋に入れ、口をギッチギチに縛って鞄に入れると、口を三日月に裂いて笑う。

 

「一刀くーん?大人しくしてるのよー?」

 

もう目付きが尋常じゃないぐらい逝ってる。獲物を見つけた捕食者の目付きだ。

何故か上の服を脱いでいるが、きっと彼女の中でこれは外せない事柄だったのだろう。

 

「良い子にしてれば痛くないからねー?気持ちいいからねー?」

「ヴァー・・・」

「はーいじゃあまずはうでをふきまおっと手がすべったぁ!!!」

 

服を上下ともスポン!と脱いで下着姿でレッツパーリィ。

超絶優秀な身体能力を駆使して、一刀への衝撃をゼロにしつつその胸に飛び込んだ雪蓮。

互いの身体の密着を妨げるのは雪蓮が身に付けているブラ一枚という素晴らしい桃色空間だったが、寝ていても空気読めないのが一刀である。

 

「とーか・・・つぎやったらお前ぶっとばす」

(OK解ってた。こう来るんじゃないかと思ってた)

 

普通なら此処で「どうして他の女が出てくるのよ!」と傷つき離れるのがお約束だが、伊達に雪蓮も今まで一刀にフラグを折られ続けてきた訳ではない。

逆に闘志を燃やすと、更に肌と肌を密着させ、頬に先に、その後で唇にそっと自分の唇を落とす。

 

「恋ねーちゃん・・・今ばっちぃからやめなさい・・・」

(おっけー次いこう)

 

コレが雪蓮にとってのファーストキスだったのなら傷つきもしただろう。しかし流石、ルートキープに定評のある一刀である。

とうの昔に事故という形にせよチュッとやっちゃってたので、雪蓮の心への被害は最小限ですんだ。

普通なら、此処からも雪蓮によるエロの大攻勢は続き、無自覚ブレイカーな一刀は雪蓮の自尊心をぶちのめすのがラブコメの王道である。

しかし一刀さんは格が違った。

 

「お願いだから良い子にしてて……イイコイイコしたげるから」

「うぇい?!」

 

自分に覆い被さる雪蓮のお尻をむんず!と鷲掴みにするとグニグニと揉みしだき、持ち上げては落としだした。

 

「ちょちょ?!」

「あれ、恋ねーちゃんより重い………まぁいいか」

(良くない!!いやいいけど!いいけれども!!)

 

物凄い高熱でぶっ倒れていると言うのに、一刀は的確に左手で雪蓮の頭を捉えると自分の顔に押し付けてむちゅ~とやった。

舌で舌を蹂躙しつつ、お尻を撫で回し続けている一刀は、長年の経験による違いに無意識ながら感づいた。

 

「あれ……むちゅ…られだろ、この味………」

「ん~~!!ん~~~~!」

「あー、目開けんのめんどくせぇからいいや」

(ちょっとパンツ!?待ってブラ!!ホントに寝てるのこの子?!)

 

雪蓮が驚くのも無理はない。だって右手でおぱんつ様を、左手でブラを器用に外しながらも舌による蹂躙が続いているのだ。

一刀の左手が丸出しになった胸に添えられた辺りで、雪蓮は見落としていた事実に気付いた。

 

(………あれ、特に問題なくね?)

 

この後一刀は雪蓮が美味しく頂きました。

 

有る意味当方の作風だからこそ許されたと思う、恋姫どうでしょう。

 

 

どっぷりと日の暮れたある土地のある場所で、四人の男女が重苦しい顔付きで俯いている。

いや、俯いているのは四人のうちの二人だけで、真桜が拵えた“でじかめ”を構える桃香と、真っ直ぐに道の先を見据える一刀の顔は上がっていた。

俯いているのは華琳と雪蓮で、その二人は時折ヒリヒリとするお尻を擦りながら、この先一体どうなってしまうのかと途方にくれていた。

 

「―――いいか、良く聞け」

 

突如、一刀が語りだした。しかし桃香は顔を向けるだけで“でじかめ”を一刀には決して向けない。

コレを渡された時の注意事項として、決して一刀に重きをおいてはならないと口酸っぱく言い含められているからだった。

もし破ったら、今度は桃香が華琳か雪蓮に変わってこの“でじかめ”で映される事になる。

 

「此処をぉキャンプ地とぉする」

「・・・くっくっくっ」「ふふっ・・・ふふふふっ・・・」

 

厳かでいて、とんでもない事を言い出す一刀に、しかし雪蓮と華琳の二人から出たのは忍び笑いだった。

桃香も堪えきれなかった笑い声が出てしまうが、“でじかめ”を大きく揺らすほどではない。

もし苦情が出れば、桃香は映り手になってしまう。この“でじかめ”の先に映される事になることの過酷さを、良く知っていれば不手際を起こす気には到底なれない。

 

「今からwww俺達はwwwこの道端でwwwふくっwwwテントをw張るってww言ってるんだwwwwww!!」

 

言っている一刀自身も笑いを堪えきれずに言葉の切れ目を笑い声で埋め尽くす。

そんな一刀に釣られてか、とうとう華琳と雪蓮が大声で笑い出してしまった。

 

「ただのwwwただの道端じゃないwww」

「そうだよwww」

 

超過酷でいて、何の見返りも無く、ただただ苦しいだけの、大陸走破の旅。

 

「きゃんぷ地とするってwww大層な事いってwwwwみwwちwwばwwたwwwwww」

「そうしないと死んじゃうんだから仕方ないだろwww」

 

これは、そんな無謀な挑戦に挑み続ける、四人の男女の熱く、苦しく、馬鹿馬鹿しいドキュメントである(キリッ

 

 

「いや確かにね?私が一番年齢下だって言ったわよ?ww蓮華よりも桃香よりも年齢下の末っ子華琳ちゃんだって言ったわよ・・・www」

「言ってたねwww」「うんwww」「そんな楽しそうな事がwww」

「でもね?一刀・・・私は魏国じゃぁ覇王やってんのよ・・・乱世の奸雄とまで言われてんのよ?www」

「「「wwwwwww」」」

「私魏国じゃぁ一部屋貰うわよ? 何は無くとも曹孟徳の個室ってのがビィスゥィッ!!と用意されてんのよ?

なのに私が恐らく魏国よりも貢献しているであろうこの集まりではだ・・・・・・二人部屋の四人使用!!!」

「そうだねwww」

「しかも華琳さん一番酷い布団www」

「布団っていうかもうそれ布よねただのwww」

「私はいつまで若手なのwwww?」

 

 

「帰ったらね、秋蘭と春蘭にまず会ったのよ。二人とも、すっごい驚いてたわ。そりゃそうよね?帰って来るのは三日後になるって言い切って出てきたんだから」

「それで?www」

「『これこれこういう理由で帰ってきたのよ』って説明したら秋蘭がね―――【なんとかインチキできんのか?!】って・・・」

「「「wwwwwwwww」」」

「終いには春蘭が首傾げながら【さっぱりわからん】って・・・」

「名言よねwww【なんとかインチキできんのか?!】」

「名言だなぁwww」

「持ってるなぁ秋蘭さんwww」

 

 

「私と凪はもう灯を消して寝てたのよ!そこに出来上がった陽気な一刀がね?!ドンドンドンってしてきて、何よって言ったら『寝てるのかぁい?』ってドカドカドカドカ入ってきて!!

灯を付けたかと思ったら『腹を割って話そう!!』とか言い出したんじゃないの!!」

「「www」」

 

 

「じゃあなんで俺だけこんな唇腫れてんだよ!!」

「アンタがカブト虫の脳味噌してるからでしょ!!知らないわよ!!」

 

 

「『これ以上北に行ったらアタシ死にます』ってwwwさっき桃香が言ってたwww」

「「ガハハハハwwww」」

 

 

「さっき私の事【カリントウの脳味噌】っつったでしょ?」

「「wwwww」」

「ちょっと鳴らしたらどうだカリントウwwwからんころんってよwww」

「なに?www」

 

 

「こんな朝っぱらからパンツ一丁で弾劾を受けてる時点でね?こらぁもう一刀、反省でしょ?」

「「「がははははwwww」」」

 

 

「雪蓮は良く出来た人よ・・・いち早く毛布に包まってね?『アタシ達は毛布よ!!』ってwww」

「「あっはっはっはっwwww!!!」」「んふふふふwwww」

 

 

「アタシさっきから柿の木が何本あるか数えてたもんww」

「あははははwww」「wwww」「何やってたの雪蓮www」

「え?www 【江東まで50本あったら今日は幸せ♪】ってwwww」

「「「あははははははwwww!!!」」」

 

 

「もう痛々しくて・・・」

「アイツ大陸だって制覇出来てたんだよ・・・ホント凄いヤツなんだよ・・・」

「やめてよwwwでないでしょwww」

「俺達ゃいつでも見てるぞ?」

「見てなくていいのよ・・・居て頂戴っていってるの゛っ!!」

「wwww」

「もう気の毒で気の毒で・・・」

「泣くなよ桃香!!!アイツだって頑張ってんじゃねぇかよ!!」

「wwwwww」

「泣くなよ!!照らしてやれよwww!!照らしてやれってwwwwww!!」

「(涙)」

 

「雪蓮寝てたか?」

「うん、ちょっと寝たかな?」

「すげぇ・・・俺もう一睡もできねぇ」

「私はどっちかって言うと順応してきたわ、この環境」

「わたしも何とか寝れるかなー」

「俺もう全然駄目だ・・・あー、ダメだ・・・」

「一刀はやっぱり順応出来てないわね。 そんな事では全然ダメよ」

「そうだな(笑) 華琳もうお前俺と桃香には逆らえないぞ?何があったってwww」

「くっくっくっくっwwww」

 

 

「“華琳がバカ”なのか“一刀さんが合ってました”なのかどっちだ?言ってみろwww」

「・・・一刀がバカだ!!」

「「wwww」」

 

 

「ちょっと、引き返してよ!!! アタシ・・・国を出るとは言ってきてないのよ皆に!!」

「「「ケラケラケラwwww」」」

 

 

「ねぇそこの黄色いの!そうなんでしょ?!」

「私は不満を言った覚えはないんですけど・・・」

「じゃあなんでそんな黄色いのよ!!」

「ふっはっはっはっはっwwww」「wwww」「wwww」

 

 

「いつかの道中の野宿でもわかるようにね?私と雪蓮は寒いからって理由で貴方達を起こす人間じゃないわよ?」

「ふっはっはっはっ・・・www」「wwww」「んふふふwww」

「黙って死んでいくわよ?wwww」

 

 

「どぉも奥さぁーん・・・知ってるでしょう?  曹操孟徳でぇございまぁす・・・・・・おいパイくわねぇか?!」

「「「あっはっはっはっはっwwwwww」」」

「子供たちもおいでぇ!!パイ焼くぞぉ!!」

「こえぇwww」

「辛いかい?! お姉さんはもっと辛いモノを貴方達のお父さんに食べさせられてるのよ? 残さず食べなさいよぉ?」

「そしたらアレだろwww亞莎あたりが泣きながら【私が食べます!!】ってwww」

「「wwwwwww」」

「それが終わったらアタシは蜀に飛ぶのよ・・・ 皆さん・・・知ってるでしょう? 曹操でぇございまぁす・・・・・・パイくわねぇか?!」

「「「wwwwwww」」」

 

こんなのをずっと妄想してました。司馬日記面白いっす。チョロ達さんマジ天使。

皆様当方よりも司馬日記!司馬日記を宜しくお願いします!!


 
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