No.546026

すみません。こいつの兄です。52

妄想劇場52話目。妹の部屋復活したり。美沙ちゃんが、相変わらず病んでたり。

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(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2013-02-19 00:37:11 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:964   閲覧ユーザー数:870

 終業式の日。ようやく妹の部屋の修繕が完了した。壁紙も新しくなった。もちろん、粉砕されたベッドもだ。ついでに俺の部屋のエアコンも新品になった。

 俺の部屋を圧迫していた荷物を妹の部屋に戻す。あまり読まなさそうな漫画を、新しく買ったベッドの下についている収納スペースに入れていく。

「ソファベッドにしたんだな」

「下に収納もついてるし、場所の有効活用っすよ」

ベッド状態にしたまま、ソファになることは一年に一度もないだろうな。そして、下の収納スペースは魔窟になる。そんな予感がする。

「有効活用なら、下半分が机と棚になってて、上がベッドになってるやつの方が良かったんじゃないか?」

引き出しを抜いた勉強机を二人で運ぶ。

「あんな高いところから落ちたら、命が危ないっす」

「お前、そんなに寝相悪くなかったじゃないか」

この数週間の妹との密着生活。妹の寝相は、昼間のクレイジーさから想像するほど悪くなかった。目覚めたときに抱きつかれていたり、不覚にも抱き合うみたいな状態で目を覚ますことは何度かあったが、邪魔になるほど横で暴れられたことはなかった。

「なにごとも、万が一のことは考えておくべきっす。あ、にーくん。机の場所あっち側に変えるっす」

部屋崩壊前とは九十度違う向きで机を置く。ベッドの上から机の上のパソコンを使うつもりだな。無線キーボードっていいよね。

 机を運ぶために引き抜いていた引き出しを、俺が部屋から廊下に出し。妹が廊下から、自室に運んで机に戻す。妹の本棚の中身を、俺の部屋の空いた床に積み上げる。本棚を二人で抱える。

 そうやって最後の荷物を運び終えると、数週間ぶりに俺の部屋が帰ってきた。

「俺の部屋って、こんなに広かったっけか?」

そんなことを呟いてしまう。

「にーくん、ちょっとベッドの上にあがるっすー」

後ろから、声をかけられて振り向くと妹が掃除機を構えていた。どうやら、掃除機をかけてくれるらしい。夕暮れが過ぎているが、まぁ、まだ近所迷惑というほどの時間じゃないだろう。おとなしくベッドに上がる。

「随分と殊勝な心がけだな」

「こう見えて、感謝してるっすよー」

ぶおーぶおーと掃除機をかけながら妹が言う。

 そこに呼び鈴が鳴った。

「あ、俺が出るよ」

妹に掃除を任せて、下に降りる。

「こんにちは」

玄関を開けると、赤いコートを着た美沙ちゃんが立っていた。

「やぁ。いらっしゃい」

「急に来て、お邪魔じゃありませんでした?」

「大丈夫。真菜もいるし。あがってよ」

ドアを押さえて、美沙ちゃんに入ってもらう。いつもよりも美沙ちゃんの顔が俯き気味なのが気になる。

 美沙ちゃんが、階段を上がっていく。

「美沙っち?来たっすかー」

妹が掃除機を抱えて部屋から出てくる。

「うん。今日は、お兄さんに用事なんだけど…」

美沙ちゃんの用事かー。なんだろーなー。楽しみなような、怖いような気がする。最近、女の子を恐れるようなことばっかりだ。女難の相が出てるかな。

 美沙ちゃんが俺の部屋に入っていく。妹の表情にかすかな緊張感が走る。俺もだ。なにせ、美沙ちゃんには盗聴器設置の経歴がある。

 果たして部屋に入ると、まっすぐに俺のベッドに向かい裏側に手を伸ばすと隠し立てもせずに、そのスネークな装置を引き剥がした。

 つい妹と顔を見合わせてしまう。

「お兄さん…これ」

美沙ちゃんが、手のひらに載せた盗聴器を見せてくる。

「うん…」

「驚かないんですね」

「まぁね…」

知ってたしね。

「私が仕掛けた盗聴器」

「そうなんだ」

「真菜…ちょっとお兄さんを借りていい?」

「…いいっすけど…」

妹の声にも懸念がにじむ。

 

 コートを着て美沙ちゃんと外に出る。

 

 駅とは反対の方角に歩く。少し歩くと郊外に出る。住宅に混じって、ちらほらと耕作放棄された田んぼが現れる。

「この辺は、静かですね」

美沙ちゃんが、つぶやくように言う。坂道を登っていくと小さな神社がある。美沙ちゃんについて階段を上がる。鳥居をくぐると、ひと気のない境内に入る。神主さんも居ないような小さな神社だ。

 本殿をぐるりと周ると、大きな杉の大木がまっすぐに空に向かって、何本も生えていてちょっとした林だ。一段と寒さが増す。そこで、美沙ちゃんが立ち止まる。振り向く。

「私が盗聴器を仕掛けました」

「うん…」

「お兄さんが部屋でなにをしているか知りたくて、三島先輩がお兄さんにちょっかい出さないか心配で、たまらなくて仕掛けました。あと、お兄さんが私の写真で一人エッチするところも聞きたくて仕掛けました」

妹よ。よく気がついてくれた。あらためて、妹の勘のするどさに感謝する。

「でも、その二つだけです」

美沙ちゃんが、手を開いて俺の部屋から回収した盗聴器を見せる。

「もう一つはお兄さんが持ってますよね」

俺も無言で、昨日からコートのポケットに入りっぱなしだった盗聴器を出す。二つがそろう。

 美沙ちゃんが、俺の手の上から盗聴器を取り上げてコートのポケットにしまう。

「どうして自分がやったことにしたんですか?」

「なんのこと?」

「三島先輩に問い詰められたときです」

「三島には、お気に入りプレイを開陳してドン引きされた覚えしかないよ」

スイッチの入っているときに、誰が仕掛けたのかも誰が疑われているのかも、なにも言わなかったはずだ。記憶をたぐる。

「三島先輩から聞きました」

美沙ちゃんが一歩俺に近づく。

「お兄さんが文芸部の部室に盗聴器を仕掛けたって、自白したって」

そういえば、三島に盗聴器のことを口止めはしなかった。まずいな。三島のことだから、言いふらしたりはしないって安心しきって忘れていた。

「恥知らずと罵られました」

「え?」

「お兄さんに振られたくせに、かばわれて恥かしくないのかって罵られました。振られて、つけまわして、恥知らずと罵られました」

「…あいつ…」

「三島先輩の言うとおりだと思います」

そう言った美沙ちゃんの表情は悲壮そのもので、キラキラした美少女には一番似合わないものだった。我慢できずに、美沙ちゃんの前にかがみこむ。うつむいた顔がよく見えるように。

「美沙ちゃん。三島の言うことなんて気にしないでくれ。あいつはヴェロキラプトルなんだから」

「ラプトル?白亜紀晩期に生息していた小型恐竜ですか?」

「そこも気にしないでくれ。適当に言っただけだから」

うまいこと言えなかった。

「はぁ…」

「美沙ちゃん。俺、美沙ちゃんとは付き合えないって言ったけど、好きじゃないとは言ってない」

「お兄さん」

「俺の部屋の盗聴器だって、真菜が仕掛けられたその日に見つけてた。知っててそのままにしてたんだ」

「それじゃ、このタイプの盗聴器が私のだってのは知ってたんですよね。なんで、かばったんですか」

「知らないよ。理由なんて。でも気にもしてない。ちょっと怖かったけど、別に美沙ちゃんを嫌いになったりしてないし、怒ってもない。俺に理由があるんだとしたら、美沙ちゃんとは付き合えないけど、好きだからかもしれない。でも、付き合ってくれると言われて、断るくらいにしか好きじゃないのだから、好きじゃないのかもしれない」

 美沙ちゃんが押し黙る。哀しげな表情をしている。笑って欲しい。せっかく美沙ちゃんと二人きりなのだから、天使の笑顔が見たい。

「お兄さんは、やっぱり真菜のお兄さんですね」

美沙ちゃんが、口角を上げる。花が咲くような笑顔ではないけれど、雪の中で耐えるつぼみのような笑顔ではある。

「本当に真菜にそっくりです」

あの妹に似ているといわれるのは、ディスられていると思うべきなのか。

「真菜って…理由を聞くと、いつも意味不明なんです。だからもう、だれも真菜がやったことの理由なんて聞きません。でも真菜がすることは、誰もが真菜のことを好きになっちゃうようなことなんです」

綿棒を俺の尿道にインプラント(植え込む)するのは好きになっちゃったりしないことだと思うけど、ここは言わないでおこう。

「私、一昨日のお兄さんの変態カミングアウトも聞いてました。ドン引きです。気持ち悪かったです。すごいです。あんな変態がいるとは思いませんでした」

あれは《ぼくのかんがえた、さいきょうへんたいさん》だからな。

「気持ち悪かったけど、聞いてて、どんどんお兄さんのこと好きになっちゃいました。なんで、あんな変態カミングアウトがかっこよく聞こえちゃったんだろう」

そう言って、美沙ちゃんの顔が迫る。

 のし。

 かがみ込んでいた俺に、美沙ちゃんが覆い被さる。頬に柔らかな美沙ちゃんの頬が当たり、さらさらの髪が鼻先をくすぐる。

 ぎゅっ。

 一度強く抱きしめられて、美沙ちゃんが離れる。昨日の真奈美さんの体温が、脳裏にフラッシュバックする。

 美沙ちゃんの体温が離れる刹那に、頬に湿った冷たい感触を感じる。冷たくて熱い感触。

「お兄さん」

美沙ちゃんが、口角を上げる。口だけで作った無理な笑顔。

「いろいろ。ごめんなさい」

「いや…こっちこそ」

なんか変なやり取りになった。

「あの…いろいろ反省しました。自分でも、自分がちょっとおかしくなってるって思うんです。でも、一度、お兄さんのことが頭に浮かぶと、かーって止まらなくなっちゃって…。でも、なるべく我慢します。いいえ。もう迷惑かけません。変なことしません」

「それは、その…」

俺が悪いのかな。悪いんだろうな。

「…だから、これを使っていいですか?」

美沙ちゃんが差し出してきたのは、折りたたまれた紙。広げると、見覚えのある文字が並んでいる。『なんでも一つ言うことを聞く券』だ。

「?」

「真菜の禁止事項が沢山ありすぎて、使いどころが難しかったんですけど…使います」

「うん」

「『いつでも、お兄さんに電話していい権利』をください」

「そんなの。べつに今だって、いつでも電話していいよ」

「だって、したくても出来なかったんだもん。毎晩、三十回くらい、お兄さんの電話番号呼び出して、消してってやってるんですよ。していいって言ってくれたら、電話できるから」

三十回か。ちょっと多いな。それはそれで、困るが…手の中にあるのはなんと言っても『なんでも言うことを聞く券』なのだ。

「電話代大変だよ」

一回十円でも。一日三百円。一ヶ月で九千円だ。

「定額プランがあります」

「ああそうね」

そして、美沙ちゃんが俺の手を取る。

「駅前のドコモまで手をつないでいいですか…ふ、ふられちゃってるんだけど…」

かわいすぎる。この手を振りほどけるのは、ハードボイルド神ニック・ノルティ様をもって他にない。

 

「それじゃあ…。今日は、帰ります…」

駅前のドコモショップで定額契約を確認した後、少し表情を柔らかくした美沙ちゃんが駅の改札をくぐる。改札の横で立ち止まる。なんだろう。「どうしたの?忘れ物?」

「お兄さんの方から立ち去ってくれないと、こまります」

ぐっ。なに、この破壊力。

「あ、ああ。そ、そうなんだ。そ、それじゃ…」

「うん」

目に見えない引力に背中を引かれつつ、駅を後にする。

 家への道すがら、電話が鳴る。出る。

「もしもし」

「あ。お兄さん。わたしです」

八分前まで一緒にいた美沙ちゃんだ。

「ああ。どうしたの?」

「どうもしないけど…」

「あ。そうだったね。いつでもいいよ」

「うん…あの後、ちょうど電車が来て、今降りたところ」

「そっかー。電車ってやっぱ早いよね」

「そうですよね。どこかに行くときって、駅まで十分。電車待ち三分。電車三分。駅から十分。みたいな感じですよねー」

「でも、電車で行く距離って自転車で行くとすげー遠くて死ぬよ」

「あー。そういえば、夏にお兄さん、花火大会に自転車で行ってましたね。バカですか?」

「バカです」

くすくすくすくす。

 電話越しに美沙ちゃんの笑い声が聞こえる。花の笑顔が眼に浮かぶ。

 よかった。

「来年…。その…。来年は、みんなで一緒に行きましょうね。自転車で」

「自転車で?」

「うん。うち、電動アシスト自転車あるから、たぶん私は大丈夫です」

「うちにはないんだけど」

「お兄さんは、また死んでください」

くすくすくす。かわいい。

「死んだお兄さんをホルマリン漬けにして、飾っておきたいなぁ。そしたら、いつも一緒にいられるよね。冗談ですよ」

冗談だった声音ではないけど、冗談だと信じる。

 家に到着する。

「ただいまー」

「あ。着いたんですか?」

「うん」

「こっちは、あと五分くらいかなー」

通話したまま、靴を脱いで二階に上がる。

「えと…一旦、切ってもいい?」

「あ。ごめんなさい。はい。それじゃあ…また」

ぴっ。通話が切れる。

 二階の自室に帰ると、広く綺麗になったカーペットの上で妹が転がって漫画を読んでいた。お前、自分の部屋直ったんだから、そっち行けよ。お前の部屋は新築そっくりだろーが。

「にーくん、おかえりっすー。美沙っちにレイプされなかったっすか?」

「されなかったよ」

「されたかったっすか?」

「……」

「されたかったっすね。ぐへへ」

されたくない人類はいない。美沙ちゃんだぞ。

「だまれバカ」

「しかたないっすねー。ぐひひ」

妹が起き上がる。すっ…。池上遼一先生の漫画と同じ立ち方をする。

「まて!ナニをするつもりだ」

「代わりに、私がヤッてやるっすー」

ばちんっ!ふぎゃっ!

 南斗水鳥拳で襲い掛かってきた妹を、ハエたたきの要領で撃墜する。

「いやいや。部屋にお邪魔したお礼っすよー」

ゾンビのごとく、ゆらぁりと起き上がる妹。その手がベッドの下に伸びて紙袋を取り出す。

「手に入れるの苦労したっすよ!」

取り出した箱は、シリコン製のとある道具。なんとかホールと呼ばれる成人男性がお一人でお使いになるお道具だ。なんで、そんなもの持ってんだよ。

「くくく。さすがに、私の自前のを使うのは、ちょっと躊躇うっすからねー」

自前ってなんだ。最近、本気でおかしいぞこいつ。エロネタが女子高校生の範囲を超えている。

「まて。おちつけ。話をしようじゃないか…」

妹の獲物を狙うキモチワルイ視線に後ずさりしながら、両手を突き出して妹に制止を求める。

「私と同室の数週間。男子高校生のにーくんが、一回も抜いてなかったっすからねー。そりゃー。ごくろーをおかけしましたねぇー。くくく。忘れてないっすよ。貧乳貧乳言ってくれた恨み…。サイズどころか時間まで計ってやるっす」

ぴっぴっぴ。妹が腕につけたGショックをストップウォッチモードにする。やめろ。自慰ショック。脳がパニックを起こして、変な駄洒落が出る。

 じり…じりっと妹が距離を詰めてくる。

 まずい。

 美沙ちゃんの盗聴器。実は、あれが俺を守っていたんじゃないか?

 サスペンス映画で、犯人を一緒に追い詰めていた警察官が実は殺人鬼でした、みたいな展開だ。

 そのとき、携帯電話が着信音を立てる。

「あ、で、電話だからな!」

助かった。

「もしもし。お兄さん?」

二分前に電話を切った美沙ちゃんだ。

「や。美沙ちゃん」

「ぬっ。美沙っち?」

「今、家に着きました。ふふ。家のエアコン止めて出るの忘れちゃってたみたいでー」

「あはは。そうなんだ。帰ってすぐにあったかくてよかったじゃん」

「そうですね。今、コート脱いだところです。あ。今日は、コートの下、縦セタだったんですよ。お兄さん、好きそうだなって思ってこの間買ったんです」

縦セタっていうと…あの身体にぴっちりしていて、しかも縦の編み目が入っているセーターか…。すっきりスレンダー美少女Dカップ美沙ちゃんの縦セタは、さぞかし見ごたえがあったことだろう。

「そっか。それは、ちょっと見たかったな」

などと言っているが、ちょっとどころではない。斜めにベルトをかけるバッグでも持ってくれれば完璧だ。

「今から、見せに行きましょうかっ!?」

「あ、いや。そこまでしなくても。ま、また今度見せてよ」

「なんの話してるんすか?」

いつの間にか、ゼロ距離まで迫っていた妹が聞き耳を立てる。ぐ…。

「あれ?真菜が、そこにいるんですか」

「いる」

「美沙っちーっ。見せるとか見せないとか、なにエロ話してるっすかーっ!」

電話を取り上げられた。

「え?ああー。そうっすかー。ところで、明日、何時っすか?十時?駅?わかったっすー」

俺の電話で、自分の予定の話をしはじめた。

「了解っすー。じゃーねー」

ぴっ。

 切りやがった。俺にかかってきた電話なのに…。まぁ、用事があったわけじゃなさそうだから、いいんだけど。

「さて…」

俺の携帯電話をベッドの上に投げ捨てる妹。

「処刑の続きっす。にーくんは、初体験をこのシリコンマシーン+実妹の手で失って、トラウマるがいいっす」

処刑って言いやがった。マジでトラウマになるから、ホントやめろ。

「待つんだ真菜」

「命ごいっすかー?人を貧乳呼ばわりして、命乞いっすかー」

「ああ。貧乳と口にしたさ。だが、誰のこととは言わなかった」

「詭弁っす」

「裁判をすっとばして、刑の執行か?たいした文明人だな」

なんとか妹を押しとどめようと、弁舌の限りを尽くす。

 しかし、ここまでこいつ、貧乳って言われた事を根に持っていたとは…。そんなに気にしてるのか?上野とか貧乳大好きなやつだっているんだからいいじゃないか。まぁ、あんなに真菜にご執心だった上野は、八代さんとラブハッピー真っ只中だけどな。

「…ぬ」

妹が停止した。いけるか?

 ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。

 ベッドの上に捨てられた俺の電話が鳴る。妹が電話を拾う。

 ぴっ。

 俺の電話に勝手に妹が出た。

「美沙っちなんすかー。にーくん?いるっすけど?にーくんになんの用っすか?にーくんは、ちょっと忙しいっすよ。これから、にーくんは裁判っす。にーくんが、私を貧乳呼ばわりした裁判っす。被告、にーくん。原告、私。陪審員、私。裁判官、私。弁護人、省略っす」

中世ヨーロッパの宗教裁判だって、もう少し公正だったことだろう。少なくとも公正なフリくらいはしたんじゃないかと思う。

「あと、死刑執行人も私っす」

マフィアの制裁に近い。ファミリーだしな。誰うま。

「そういうわけで、にーくんも私もちょっと忙しいっす。え?なにをって?だから言ったっすー。これから、オナホを使ってにーくんの童貞を実妹の手で奪ってトラウマを植えつけるのに忙しいっす」

妹が、俺に掛かってきた電話を勝手に受けて、勝手に恐ろしい予告をして、勝手に切った。電源ボタンは長押しだった。

 

 そして、妹とのソロモン(意味深)攻防戦が始まった。

 

 妹が襲い掛かってくる。すんでのところでかわしてベッドの上に逃げる。

「ちぃっ!往生際が悪いっす。悲しいけど、これ戦争なのっすね」

どこかで聞いた台詞を吐きながら、自慰アーマーと化した妹が下から突っ込んでくる。

 迎撃。対空防御。蹴り飛ばす。妹が床に転がる。こちらもバランスを崩す。

「まだまだぁ!」

 妹がシールドを投げ捨てるように携帯電話を放り捨てて、空いた手で俺のベルトをつかむ。ベぴきゅうーん。ピンク色のオナホを持つ妹が、ピンク色のサーベルを持つ白い悪魔に見える。

 くそぉ。

「犯らせはせん!俺の誇りのため!いつか存在するかもしれない甘い結婚生活のため!たかが一機のオナホごときに!犯らせはせん!犯らせはせん!犯らせはせん!犯らせはせん!」

自分で言っててアレだが、死亡フラグだ。そこに階段を駆け上がってくる音が聞こえた。大きな音を立ててドアが開け放たれる。美沙ちゃんっ!?

「やめなさい!真菜!やめなさい!兄さん!二人が争うことなんてないのよ!」

作者もやめろ。いい加減にしないと訴えられるぞ。

 美沙ちゃんが腕を十字に交差させて、妹の後頭部にフライングクロスアタックをお見舞いする。容赦ない。

「ぎゃぴっ!」

妹を壁にすっとばした美沙ちゃんが、俺に落下する。

 どす。ぷにん。あ。かわいい感触。ラッキー。

「お兄さん。無事でした?」

「パンツがなければ即死だった…。ってか、美沙ちゃん、どうしてここへ?」

「タクシー捕まえて、飛ばしてきました」

迷いないなぁ…。

 

 

(つづく)


 
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