No.545348

現代に生きる恋姫達 目指すは恋姫同窓会 愛紗の中編

狭乃 狼さん

現代恋姫、愛紗の続きです。

言っておきます。鬱です。

皆様に嫌な思いをさせたらすいません。

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2013-02-17 10:31:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:7476   閲覧ユーザー数:5931

 「愛紗……」

 「……」

 

 見れない。

 こちらに向けられた彼の顔が、私にはまっすぐ見れない。

 

 「どしたの愛紗ー?なに、この連中、知り合い?」

 「……あ、ああ、その、古い……知己、とでもいうか」

 

 連れの友人の一人が、店内に居た皆を見て動揺する私を怪訝そうに見つつ、そう問いかけてくる。さすがに前世の知り合いだとは言えるわけがないので、知己という言葉で私はお茶を濁す。

 

 「?古いって、そんな年食ってないじゃん。俺ら同級生だし」

 「……なあ。ちょっと気になったんだけどさ。そこに居るエプロンしたのって」

 『っ!』

 

 ほぼ同時。連れのうちの一人の発したその言葉で、私と一刀さまは体をわずかに震わせる。

 

 「……もしかして、北郷(きたざと)じゃね?」

 「北郷?……ああ!そうだよ、北郷じゃん!」

 「北郷くんかー!なっつかしー!ねえねえ、あたしらのこと覚えてるー?ほらー、小、中と一緒だったじゃん!」

 「……あ、えと、うん……ひさし、ぶり……」

 

 その声をかわきりに、他の者たちも一刀さまに気がつき、かつての同級生に対して再会の声を順次かけていく。一刀さまはその彼らに、表面上は平静を装いつつ返事を返している。けれど、よく見ればやはり、どこかたどたどしさというか、明らかにうろたえているのが見て取れる。

 

 「……主。先ほどからどうかなされたのですか?愛紗というか、この者たちを見てからなにか様子がおかしいですぞ?」

 「そうね。なんか、ずいぶんおびえた感がするけど……なに?昔、この連中と何かあったの?」

 「そ、それは」

 「小、中と一緒だったってことは、同級生さんたち……なんですよね?……はわわっ?!じゃ、じゃあ、愛紗さんも」

 「あわわ……ご主人様と同級生……なんですね?うらやましいでしゅ、あう」

 

 ……星と、あれは……魏の荀彧どの、か。その二人が、一刀さまが顔を青ざめさせ体を小刻みに震わせていることに気づき、左右から心配気に彼の顔を覗き込む。……しかし、その後に続いて彼に同様の声をかけたあの二人、あれはまさか、朱里に雛里か?……ずいぶん、私の知ってる二人とは体型が違うが……。

 

 「……なあ、いまさ、ずいぶん聞き捨てならない言葉が出なかったか?」

 「そうそう、そっちの子、北郷のこと、『ご主人様』とか呼ばなかった?」

 

 ……まずい。

 

 「やあだあ~。なに?ぷれい?ぷれいなの?自分より年下の子にご主人様とか呼ばせて、そういうぷれいでもしてるの~?」

 「『ごしゅじんさまとよべー』てか?もしくは『跪いて××しろ!』とか?いやあ~、一登くんてばお偉くなられましたね~」

 「そっ、そういうんじゃ」

 「ほんとほんと、主だのご主人様だの、うらやましいですな~。……【キモカズ】のくせに」

 『っ?!』

 

 ……場が一気に凍りついた。

 そいつの言ったソレは、かつて、中学校時代に、一刀様が呼ばれていた、彼からすれば忌々しい以外の何ものでもない、屈辱の呼び名。彼に対するいじめが行われたあの日々、毎日呼ばれ続けた、なんの論拠もない蔑称。

 

 「……貴様。今のはなんだ?……まさか、とは思うが、それは主の、ほんご、いや、北郷一登どののことではないだろうな?」

 「“どの”?あのキモカズが、“どの”?!あは、あはははは!」

 「ちょっとあんたたち!なにがおかしいっての!?」

 「い、今までの人生で一番のギャグだ!なあ、みんな?あのキモカズくんが、“どの”!だってよ!」

 「にーあわねー!キモカズにどの!ぎゃはははははっ!」

 

 店内に響く、その彼らの笑い声。私はそれを聞きながら、それを諌めることも出来ずに居た。……子供の頃、他の皆が彼のことをそう呼んで馬鹿にしているのを知りながらも、“彼と同じ目に会うことの”恐れから、止めるように言うことの出来なかった自分に、いまさら、それをいう資格があるのだろうか。

 そんな風に逡巡している私をおいて、他の者たちはそのまま、一刀様に対する言葉攻めを続けていく。それを聞いていた星たちはさらに顔を怒りで染め上げていき、あちらの面子はもう、爆発寸前の状態になっていた。

 

 「……きさまら。その嘲笑、すぐにやめろ」

 「おーこえー。え?なに?おねーさん、本気で怒ってんの?キモカズなんかのために?」

 「俺らにいいように遊ばれてた北郷(おもちゃ)が、ずいぶんご立派な身分になられたもんだぜ。なあ?」

 「あ、そうだ。ここであったのも何かの縁だしよ、おい、キモカズ。昔、お前んとこのじじいとばばあに分けのわかんねー説教されて傷ついた俺らの心の傷の賠償、お前、代わりにしてくれよ」

 「……なん、だって?」

 

 こいつ、今、なんて言った?

 

 「そーよそーよ。おかげであの後、三日三晩はうなされたんだからね?そーねー……おっきいの三枚、いや、五枚ってところかなー?あ、モチロン一人頭ね」

 

 ……かつて、中学を卒業してまもなく。彼が、一刀さまが他県の高校に行ってしまった後、私たち、彼のクラスメイトだった者たちは、親と、そして、当時の教員たちとともに、揃って彼の祖父母によって一堂に呼び出され、延々と続く説教をされた。もちろん、私たちがしていた彼に対するいじめに関しての。

 あれは正直、今でもトラウマになって残っている。前世の記憶を、そして、一刀さまのことを思い出した後は、さらに強烈なものとなって、私の心に罰を与え続ける戒めとしても。

 そう。 

 “直接は”何もしていなかった私でさえそうだというのに、こいつらは、直接、積極的に手を下していたこいつらは、この期に及んで、それを自分たちの責任ではなく、一刀さまの責任だというのか?自分たちは何も悪くなく、悪いのはあちらだと?その上それに対して金を渡せなどと……!

  

 「……いい、かげんに、しろ……」

 『……え?』

 

 もう。これ以上、無理だった。

 

 

 

 「いい加減にしろお前たち!お前たちは恥というものをどこかに置き忘れ来たのか!?あの頃あれほど人として最低のことをしておきながら何も後悔していないというのかっ!彼の、北郷の祖父母どのらに二十四時間も説教されながら反省一つすらしてないというのかっ!?」

 「あ、愛紗?」

 「え、ちょ、なになに?何でいきなり怒ってるの?」

  

 怒りに任せまくし立てた私の言葉に、級友たちはなぜ、私が突然怒り出したのかまるで分かっていない風で、その目を一様に丸くしている。一刀様たちも、突然激しい怒気とともに言葉を羅列し始めた私に呆然としている。

 

 「お前たち……本当に分かっていないのか?過去、自分たちがどれほど人間として最低な行動をしていたのかが?!かず…北郷に対する“いじめ”を、クラス全員でしていたことが、どれほどの罪なのか?!」

 「いじめ……ですって?」

 「……最低」

 「ですねー。そんな陰険なこと、かつての私だってしませんでしたよー」

 「……北郷……本当なのか?」

 「……」

 

 曹操どのに孫権どの。それとよく覚えてはいないが、おそらくは張勲に、か……なんとかというのが、いじめという私の発言に反応して、その顔をあからさまにしかめ、私を含む加害者全員をにらみつける。

 

 「な、なんだよ、そんな……あ、あんなの、ただの子供同士の“じゃれあい”じゃないかよ」

 「っ!?」

 「そうそう。ちょっと遊び方が過激だったってだけのことじゃないかよお」

 

 じゃれあい……?遊び……?彼をあれほどに苦悩させた、私がずっと悔やんで悔やんで悔やみ続けていたあの時の罪が、彼らにとってはただの遊びだった、だと?

 

 「……大体それを言うなら、関長だって同罪じゃんか。おれらがこいつに何をやっていても、他の連中と一緒に見て見ぬ振りしていたんだしよ」

 「……なんだ、と?愛紗……まことかそれは?」

 「あんた……一刀のこと、助けようとすらもしなかったの?虐めを受けてる彼のこと、知りながら何もしなかったって言うの?!」

 「……愛紗、さん」

 「愛紗さん……ひどい、です」

 「……」

 

 星を筆頭に、かつての仲間たちが、私に冷たい敵意の篭った目を向ける。一刀さまはというと、当時のことを思い出しているのか、悲痛な面持ちでただその顔を俯けている。そして私は、彼女らの言葉には何も答えなかった。

 いや。答えれなかった、というべきだろう。たとえ、当時の私がまだ、一刀さまのことを一刀さまとして知らず、ただの、なぜか気に食わない同級生としか認識していなかったとしても、いじめにあっている彼のことを助けなかった、それは紛れもない事実なのだから。

 だから、そんな私に、級友らのことを責める資格など無いのはもとより分かっている。けれど、けれどそれでも、私は言わなければいけなかった。この、数奇な運命によって再会した彼に、北郷一登が目の前にいるこの時に、言わなければいけない。

 彼らの、そして、私の、この贖いがたい罪を、彼の口から直接、責め立ててもらう為にも。それによって、彼の過去の苦しみ、それが少しでも緩和されればいいと。そんな、自己満足な、手前勝手な願いのために。

 

 「……ああ、そうとも。お前の言うとおりだ。わたしも、お前たち同様、彼にしてみればけして許されざる加害者だ」

 「あい、しゃ」

 「……たとえ、たとえこの胸中にて、どれほど反省しようが、如何ほど後悔しようが、絶対に消えることの無い枷。傷害、暴行、強盗、恐喝。そのすべてを含んだ、私たち、かつての彼のクラスメイト全員の犯した、未来永劫に渡って背負い続ける罪」

 「や、やだな愛紗ってば~。そ、そんなおおげさな」

 「大げさなどではない!……それに、たった今も、お前たちは罪を犯したんだぞ」

 『え?』

 

 ……本当に分かっていないのか、こいつら。

 

 「……そうだな。先ほどの“慰謝料”云々の話は、立派な恐喝未遂だな。……しかもこともあろうに、“現職警官”の前でした、な」 

 『え?!』

 

 私の背後から聞こえた星のその言葉に、今度は彼らだけではく、私も驚きの声を上げる。そんな私たちの前に、星は懐から黒い板状のソレを取り出し、開いてみせる。そこには、彼女の制服姿の写真と、『交通課巡査長、常山星子』の文字がはっきりと書かれていた。

 ……今居る街が街だし、星のことだからあの頃よろしく、コスプレでもしているのだと思っていたが、本物の警官だったのか。

 

 「あと、そこに名誉毀損も含めてもいいな。先ほどの言質、あれらは十分、それに当てはまる。……おい貴様ら。先の罪によってこの場で私に現行犯逮捕されたくなければ、とっととこの店から失せろ。……私の、ここにいる全員の怒りを、これ以上買いたく無ければ、な」

 『は、はいっ!失礼しました~!!』

 

 星のその、本気とも脅しとも取れる言葉で、級友らは一目散にその場を退散していく。その速さたるや、蜘蛛の子を散らすがごときで、私だけがその場に置いてきぼりにされた形で残された。

 

 「……逃げ足の速いこと」

 「ま、あの手の連中は権力というか、自分より強い人間に弱いからね。……で、あなたはどうするのかしら、関羽雲長?」 

 

 曹操殿が呼ぶ私のかつて姓名とともに、その私の背に、皆の冷たい視線が突き刺さってくる。それらに対し、私は今度は逃げることをせず正面から彼ら彼女らに向き合い、そして、一刀さまに対し、おもむろに上半身を90度曲げてこの頭を下げた。

 

 「……ごしゅ、あ、いえ、北郷……くん。こんなこと、今頃言ったところでどれほど意味があるかわからないが、やはり、言わせて欲しい。……酷いことをして、本当に、ごめんなさい……っ」

 「愛紗……」

本当に今更な、けれど、都合五年後しに、やっと彼に直接言えた、言うことの出来た謝罪の言葉、だった。

もとより許しを請うつもりも無い。許してもらえるとも思ってもいない。ただ一言、ただ一度だけ、彼に、謝りたかった。ただ、それだけ。そして、下げていた頭を上げ、私はそのまま、店の扉へと踵を返し、ドアノブを掴んだ状態のまま、視線だけを皆へと移す。

 

「……では、私も、去らさせて、いただきます。……もう二度と、貴方の前には現れません。そうすれば、貴方の心をもう、無闇にかき乱すこともありませんから」

「あ、愛紗まっ」

「……どうか息災で……北郷、くん。……さよう、なら……」

 

 ご主人様。

 

 最後に、誰にも聞き取れないほどのか細い声でその一言を零し、私はドアを開いて外へ、いつの間にか降り出していた視界一面の雪の中へと歩み出た。

 

 ……頬が、熱く濡れていたような、気がした……。

 

 ~つづく~

 

 

 

 鬱でごめんなさい。

 

 現代に生きる恋姫たち、その愛紗編の中編でした。

 

 今回は何をさておいても、愛紗の苦悩、それを表現するのに四苦八苦しました。

 

 一登が一刀であることを知って後の、これまでの彼女の悲痛な想い、それが表現出来ていればいいのですが、皆様いかがだったでしょうか?

 

  愛紗が連れの者たちに言った言葉、あれも、皆様の納得できるものになっていればいいのですが、正直、戦々恐々といった心持ちの今の作者めでございます。

 

 さて次の後編ですが。

 

 このまま、一刀たちと愛紗は、和解することなく別れてしまうのか?

 

 すべてのきっかけは、ここまでほぼ空気になっているカズトにあります。彼が何を言い、どうやってみんなを納得させ、この話をハッピーエンドにまとめるか。

 

 それでは今回はこの辺にて。

 

 再見、ですw

 

 

 

 

 P.S.

 

 MiTiさんへ。

 

 作中に出した星の階級、あれで良いでしょうかね?ただの巡査か巡査長にすべきか悩んだんですが、どちらか、もしくは他の階級で考えているようであれば、ショトメでお知らせください。修正しますので。

 

 ではw


 
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