No.545015

真恋姫無双幻夢伝 小ネタ2『その頃 袁家屋敷の場合』 

相変わらず長い小ネタです。今回は袁家の話です。

2013-02-16 15:49:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3966   閲覧ユーザー数:3564

  真恋姫無双 幻夢伝 小ネタ2 『その頃 袁家屋敷の場合』

 

 

 洛陽の中に屋敷を持つことは並大抵のことではない。ましてや東の角に立った時、西の角が見えないほどの大邸宅を持つなど、貴族の中でも一、二を争う名家でないと無理である。ここは洛陽内にある袁家の屋敷。百年以上の歴史を持つこの邸宅は時の権力者の十常侍でさえ口出しできない場所、いわば“聖域”であった。

 この屋敷の持ち主と言えば…実はまだ分からない。この屋敷は袁家当主の物。つまり袁家の当主自体が決まっていないのだ。黄巾の乱が収まった時分を見計らって、昨日もその話し合いが行われた。

 第一候補は袁紹。すでにここ数年は“当主代理”として袁家を束ねてきた。新たに冀州を中心とした北東部に勢力を拡大した実績がある。新参家臣の信頼は厚い。

 第二候補は袁術。実は袁紹は庶子であり、元々家督相続権は無い。しかし前当主が急逝し、袁術が幼かったため、“代理”として袁家を統率してきたに過ぎない。血の正統性は袁術にある。それを重んじる南陽などの老臣らの支持を得ていた。

 そしてその会議の結果は、結論だけ言うと“失敗”に終わった。実績と血統、二つの基準の水掛け論に終始し、延々と長引くだけになってしまった。夜通し行われた会議もつい先ほど終わり、眠そうな人がちらほらと…

 

「ふふぁぁぁ」

「もう、文ちゃん。まだお屋敷の中なんだからそんな大きな欠伸したらダメだよ」

「いいじゃんよ。斗詩だって会議中寝てたくせに」

「き、気付いてたの!」

 

 朝の日光に昨日降った雨粒が草の上でキラキラ輝く庭の中、袁紹の股肱の臣である二人は自分の寝床へと歩いていた。これから寝るというのに、皮肉にも昨日まで隠れていた太陽は遅れを取り戻すように光り、寝不足の体に鞭打っていた。

 ふらふらと歩く斗詩と猪々子は聞き慣れた声に呼ばれた。

 

「あら?顔良ちゃんに文醜ちゃんじゃないですか」

「…張勲さん」

「七乃、か」

 

 彼女らの目の前に、袁術の懐刀である七乃が姿を見せた。いつも元気溌剌に悪事を働く彼女も、肌に疲れをにじませていた。

 この状況、他人が見たらどうであろうか。両陣営のエースが顔を合わせる。しかも喧嘩別れに終わった会議の後である。当然、何かあると思うだろう。

 しかし彼女たちの口から出てきたのは全く違うものだった。

 

「「「はあ~~~」」」

 

 ため息を漏らす三人。彼女たちは元々知り合いである。そして同じ苦労を分かち合う仲間でもあった。両方とも事情は知っている。

 

「お互い、苦労しますね」

「うん…」

「まったく、だよ」

 

 彼女たちの主君はここにはいない。そもそも会議に参加していないのだ。これほど重要な会議をすっぽかす主君に思わず愚痴がこぼれる。

 

「姫ったら『わたくしは買い物に出かけますから、猪々子さん、斗詩さん、後はよろしくお願いしましてよ』だってさ」

「美羽さまも『七乃!七乃!この近くにハチミツを作るところがあるそうじゃ。妾はそこに行くぞ!』って言って行っちゃいました」

 

 再びため息をつく三人。ワガママ姫様には苦労人の臣下が付いてくる。それは古今東西同じらしい。武則天の姚宋然り、エカチェリーナ2世のポチョムキン然り。

 彼らの苦労話は続く。

 

「全く美羽さまには困りましたよ~。『新しい屋敷を建てろ』やら、『もっと豪華な料理を作れ』やら。まあ資金の方は税金あげたらいいのですけど、どうにも準備がめんどくさくって」

「は、ははは」

 

 七乃の黒い発言に斗詩が引きつった笑みを浮かべる。猪々子は気付かなかったようで「なるほどな~」と首を上下に動かしていた。腕組みしながら。幸せな奴め。

 そのようなほのぼの(?)とした会話が続く。地面の雨粒が蒸発しているのか、湿度は少し高め。穏やかな光の中で笑い合う。そんな三人がいた。

 

 しかしそんな空気は七乃の発言を皮切りに一変してしまった。

 

「もう美羽さまったらバカもバカ、天下一のお馬鹿さんですよ!」

「……なに?」

 

 七乃の言葉に猪々子が低い声を出した。なんだか眼光が鋭い。七乃と斗詩は猪々子の顔を見た。そして猪々子はまだ人が多い庭のど真ん中で宣言する。

 

「何を言うか!天下一の馬鹿は麗羽さまだ!」

 

 ……いや、そこは対抗しなくていいんじゃないかな。斗詩は急に元気いっぱいになった相方を止めようと言葉をかけた。

 

「あの~、文ちゃ「いいえ!天下一の馬鹿は美羽さまです!」ええっ!」

 

 どこに火が付いたのか分からないが、七乃も胸を張って宣言した。にらみ合う二人。バチバチと間に火花が散るようだ。斗詩は口の中で「えぇ~」とつぶやいていた。

 もちろんこのままではいけない。相手を説得するには言葉が必要だ。そう思った賢い(笑)猪々子は具体例を挙げてきた。

 

「なんだと~!麗羽さまなんかこの前なあ…」

「文ちゃん!それは言ったらダメだって!」

「それを言うなら美羽さまだって…」

「それもダメ~!」

 

 突然始まってしまった“バカ合戦”。おろおろとする斗詩を後目に、二人の“普段どれだけ麗羽さま(美羽さま)は馬鹿か”という自慢?は続いていく。こんな屋敷のど真ん中で、大声で言い合っているのである。当然立ち止まってその様子を見る人は多い。

 袁家の重臣二人が自分の主君を馬鹿呼ばわりするシュールな光景。斗詩はもうくたびれて止めることを諦めたために、論争ますますヒートアップしていく。それを他の臣下はどう思っただろうか。

 きっと将来に不安を感じたに違いない。

 


 
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