No.544975

~貴方の笑顔のために~ Episode 24 蜀の意志

白雷さん

一刀が呉で不可解な知らせをうける数日前の蜀での物語。

2013-02-16 12:23:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9171   閲覧ユーザー数:7513

華琳たちが王座の間に集まり会議をしている頃、蜀でも会議がおこなわれていた。

 

~星視点~

 

五胡25万。そんな報告が入ってきたのはつい先ほどだった。

最初はだれもが疑った。それは、前回の張任の件があるからなんだろう。

けれど、今回のは紛れもない事実。

北方へ一時行っていた、翠からの報告が後を押したのだ。

伝令が来て、事の次第を伝えているときに翠があわてて

王座の間に入ってき、同じ内容を伝えたのだった。

 

正直言って、三国間の争い以後いくつか反乱、戦いがあったが、

これほど大規模ではなかった。

 

25万・・今回の件は大きすぎる・・

 

それだけに、何かがあるとしか考えられん。

そもそも、五胡はまとまり意識がないときく。

民族が集合して成り立っているのだ。

つまり、今回の件、裏でこの民族たちをまとめ上げた人物がいるとしか・・・

 

「・・・星ちゃんはどう思う?」

 

それに加えて、なんだあの報告は?冗談にしてもおもしろくない。

魏に向かっている軍は天の御使い、北郷一刀殿の部隊だと?

笑わせるな・・

だって彼は・・

 

「・・星ちゃん?」

 

そうだ、ありえない。一刀殿の決意を私はあの夜聞いた。

呂白という名を背負い、素顔を隠してまでも魏を思うその心を。

こんなことが起こるわけがないのだ。

しかし・・・・

 

なぜ、彼はここにいない・・・

 

なぜ、彼は私たちに文だけ残して出て行った?

なぜ、彼は蜀から姿を消したのだ・・・・

 

 

 

 

「こら、星!」

 

「おおっ、なんだ。愛紗よ」

 

私はいきなりともにそういわれて現実にかえる。

周りを見渡すと皆が大丈夫かといった目つきでこちらをみていた。

 

「すまない。考え事をしていた。で、なんだ?」

 

「なんだ?じゃないだろう。しっかりしてくれ、星。

 桃香様がお前に意見を聞いていたんだ」

 

「桃香様が?  それは、申し訳ありません」

 

「いいよ、星ちゃんも今回のことで悩むことはいろいろあるわけだろうし、

 でも、私たちがそばにいるから。あまりしょい込まないでね」

 

「はっ、ご心配、ありがとうございます」

 

 

 

考えすぎ・・・なのか。

 

それにしても、

ずいぶんとご立派になられた、素直にそう思う。

あの事件以来、桃香様は周りをよくみるようになった。

今までも周りを気遣うことができていたが、そこには確固とした決意はなかった。

しかし、今では“私が蜀の王である”という存在感が伝わってくる。

 

これも、ひとつには、一刀殿のおかげであろう。

 

一刀殿・・・あなたは今、どこで何をしておられるのですか。

もし、あなたが曹操、華琳殿に立ち向かっていっているのであれば、

なにが目的なのですか・・・

何の決意があってその刃を愛しき人に向けているのですか・・・

 

 

刃殿、いや、一刀殿、私は信じておりますぞ。

一刀殿の持つ刀の刃先がたとえ私たちに向いていても、

それがあなたの前から変わらぬ決意からきていることを。

 

 

 

私は、私なりにあるいていきます。 

 

 

 

「それで、桃香様、質問というのは?」

 

「うん、この異常事態に私たち蜀だけでは大変だと思うの。

 だから、私は華琳さんに手紙を出したわ。

 華琳さんなら、きっとわかってくれるでしょう。

 そして、問題があと一つあるの。

 呉からの救援要請だけど、これは星ちゃんにお願いしたいの」

 

「私、ですか?理由を聞いても?」

 

「うん、朱里ちゃんお願いできる?」

 

「はい、桃香様。 星さん、

 私たちは今、五胡25万という大軍に当たらなければいけません。

 総力を投入して、最低限に被害を抑えられればいいと思いますが、

 呉からの救援要請を放置なんてもってのほかです。

 呉からの緊急要請。詳細は不明ですが、おそらくは豪族の寝返り。

 おそらくは、呉の内部の者が、手をまわして、同盟に不満があった

 民を率いた、と考えられるのかもしれません。

 私たちは三国同盟を組んでいますが、やはり、呉の内部の問題は自らの手で

 解決したいのでしょう。

 この、荊州の守りについてはそう、読み取れます。

 自分たちの手でやりたいところだが、万が一、という可能性も高い。

 その時は、力を貸してほしい。

 そういう内容かと。

 ですので、ここは、有能な将を少数精鋭で派遣。そして守りを固めるのがよいかと。

 五胡兵に関して翠さん、そして元、益州にいた人たちは戦ったこともあり、

 相手の戦い方を知っているはずです。

 そういうことを踏まえると、残るのは、星さん、愛紗さん、そして鈴々ちゃん

 なのですが」

 

こう、朱里はここではすらっといってみせているが・・・

実際はかなりの危険を伴う。

もし、呉の反乱軍の規模が予想以上に大きかったとしたら、

そして、その軍の一部の矛先が蜀に向いてきたら、

これは、死地に赴くのと同じこと。

しかし、朱里の言うとおり、五胡に対応する人員を割くわけにはいかない。

つまり、この役目は、それなりの武と、臨機応変に対応できるものの仕事。

すなわち、場合によっては撤退するのと同時に、成都に残った軍を再編し、

反撃に移らなければいけない。

 

 

「ほお、なるほど。鈴々は子供で、まあ、愛紗は頑固者だからこの任には

 向いておらんな。」

 

そう言ってみると朱里が頼みますという目でこちらを見てくる。

 

そんな、きの悪い顔をするではない。これは誰かがやらねばならぬこと。

であるならば、喜んで引き受けよう。

 

「うがー、星はいっつも一言余計なのだ。まあ、鈴々は五胡のやつらをやっつける

 って最初からきめてたかんねー」

 

「・・・」

 

やはり、鈴々はこの手で、すぐ落ちる。

愛紗は・・・

 

おかしい、ふつうであるならば、

頑固者は余計だ。星、まあ、荊州のことは、任せたぞ。

というせりふを言うと思っていたのだが・・・

 

「愛紗?どうした?」

 

 

 

~愛紗視点~

 

朱里が口にしたのは星だった。

 

てっきり、朱里の考えからするに私か星かで迷っていると思っていた。

鈴々は猪突猛進なところもあり、この任には向いていない。

 

しかし・・・なぜ、私では駄目だったのだろう?

 

 

あー、なにを考えているのだ関羽雲長、これじゃただの嫉妬ではないか。

いつもの私なら、きっと桃香様とともに、五胡討伐へと向かっているだろう。

でも・・・

 

 

「愛紗、君の武は誰のためにある?」

 

 

初めて武人として恐れを感じた相手からの言葉が頭から離れない。

 

私の武・・・

私に足りないもの・・・

 

この答えがもしかしたら荊州防衛において見つかるかもしれない。

であるならば私は・・

 

 

桃香様、このわがままをお許しください。

 

「愛紗?どうした?」

 

私はそんな星の言葉を受け、星をまっすぐ見る。

 

「星、荊州へは私がいく。」

 

「なっ!」

 

そんな私の答えに星ばかりではなく、朱里、雛里までもが驚いていた。

 

「なぜ、ときいても?」

 

「自らをもう一度見直すために」

 

「・・・、刃殿、か」

 

そんな私の言葉に星はすぐに彼がかかわっていることを見抜いた。

 

「そうだ。この場でいうことではないが、刃殿との戦いの後、

 私の魂というのか、決意というのか、それらがあまり落ち着いていないのだ。 

 このまま、五胡に出向いたとしても、もしかしたら足手まといになるかもしれん。

 逆に、星のほうがよほどいい働きをするであろう。

 で、あるならば私は呉へと向かおう」

 

(なるほど・・朱里が言った言葉も引き金になったな。

 愛紗はこう思ったであろう。なぜ、私では駄目なのかと。

 それが、自分の足りないものを見つける、つまり自分を磨きなおす

 ということにつながった。

 

 しかし、愛紗の性格だ、もし撤退せざるをえなくなったら、

 桃香様のために死守すると言い出しそうだ。

 しかし、逆に考えればこれは彼女にとって、自分の弱さを見つめる

 よい機会になるやもしれん。

 最近確かに、愛紗と手合せしても戦う時の意志が伝わってこない・・

 それを自分でもわかっているということは、逆に五胡との戦いのほうが

 今の彼女にとって危険なのかもしれない。)

 

「愛紗よ、その決意を聞いてもよいか?」

 

「星、私に足りないものを、私は自分の手で見つけてみたいのだ。

 桃香様、わがままをお許しください」

 

「でも、愛紗さん・・・」

 

そんな私の言葉を朱里はまだ、受け入れてないようだった。

 

「ううん、朱里ちゃん、ここは愛紗ちゃんにまかせよう」

 

「桃香様?」

 

意外だった。桃香様も朱里の立場になって、私を五胡へ行くように説得

するのかと思っていた。

 

「愛紗ちゃん、気持ちはわかるけど、

 これは自分の道を見つけるためだけのものではないよ」

 

そういった桃香様は真剣な表情でこちらをみる。

 

「はっ、わかっております」

 

そうだ、この手には部下たちの、いや蜀という私たちが築き上げてきたものが

かかっている。

 

 

「そう、でも、愛紗ちゃん、危険だとわかったら・・・」

 

「はい、それもわかっております。」

 

危険だとわかったら・・・

 

危険だとわかったら私は・・・・

 

「そう、なら。まかせるよ。愛紗ちゃん。」

 

「はっ」

 

 

 

「と、いうことだ、すまんな、星」

 

「いや、愛紗がそこまでいうんだ。おぬしを信用しよう」

 

そういって、星は私の肩に手をおいた。

 

 

 

「そしたら、朱里ちゃんもう一度状況を」

 

「はい、桃香さま。五胡25万に対し、魏からの援軍をいまよんでいることです。

 愛紗さんを除く将たちは、魏兵とともに、五胡兵にあたります。

 愛紗さんは、荊州にて戦闘もふまえて、待機をお願いします。」

 

「ありがとう、朱里ちゃん。それじゃあ、以上で軍議はおしまい。

 皆、これから、大変になるけれど」

 

 

「私たちの理想は、私がみんなと必ず貫き通す。

 だから、命をはって頑張ってとはいわない。

 そのかわり、自分が掲げた志を、

 私たちが信じてきた道を、

 自分がかかげるその理想を曲げないように。  以上」

 

「「「「「御意」」」」」

 

 

そう、桃香様がいうと、皆が王座の間を後にし始める。

 

命を張って頑張るな・・・か。

桃香様、私はあなたの言って言うことがよくわかりません・・・

戦場におくこの身、いつどこで、滅びても仕方がないと私は思う。

桃香様のためなら、そう、私はずっと思ってきた。

それが私の意志のはずだった。

 

でも・・・

 

なんなんだ、命を懸けなくてもよい意志とは・・

そんなものあるのか・・

 

 

私の意志とは、なんなのだ・・・

私の意志はどこにある・・・

 

 

それも、これも、荊州へ赴けば見つかると、私はそう、

信じている。

 

 

私は歩き出す。

自分にない、そのなにかを探し求めて・・・

 


 
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