No.544931

新世紀エヴァンゲリオンパスティーシュ

TV放映版「第弐拾四話 最後のシ者」の文体パロディです。

2013-02-16 09:52:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:958   閲覧ユーザー数:950

◆原型 「新世紀エヴァンゲリオン 第弐拾四話 最後のシ者」より抜粋

 

シンジ「トウジも、ケンスケも、みんな家を失ってほかのところへ行ってしまった。友達は……友達と呼べる人たちはいなくなってしまった……誰も」

シンジ「綾波には会えない。その勇気がない。どんな顔をすればいいのか、わからない。アスカ、ミサトさん、母さん……僕はどうしたら……どうすればいい?」

カヲル「フンフンフン……(第九の鼻歌)」

カヲル「歌はいいね」

シンジ「え?」

カヲル「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じないか?碇シンジ君」

シンジ「僕の名を?」

カヲル「知らない者はないさ。失礼だが君は自分の立場をもう少しは知ったほうがいいと思うよ。」シンジ「そうかな……あの、君は……?」

カヲル「僕はカヲル。渚カヲル。君と同じくしくまれた子供、フィフスチルドレンさ」

シンジ「フィフスチルドレン?君が?あの……渚君?」

カヲル「カヲルでいいよ、碇君」

シンジ「僕も、あの、シ、シンジでいいよ」

 

 

◆田中芳樹

 

 ……かくして西暦二一世紀初頭、図体がでかいだけで規律も規制もないアメリカと、建設当初の理念を喪失した国連とが、ゼーレをあいだにはさんで、惰性的な対立抗争をつづけるだけのありさまとなっていた。さる経済学者の計算によると、三者の戦力比は、アメリカ四八、国連四〇、ゼーレ一二という数値になり、これは「三すくみ」以外のなにものでもないのだった。

 その「なんとかなってほしいがなんともならない」状況が一変するのは、箱根―――後日、「使徒」専用迎撃要塞都市として整備される第3新東京市に、ひとりの若者が出現してからである。碇ユイとの婚姻でゼーレに近づいたその若者の名を、六分儀ゲンドウといった。

 キール・ローレンツを議長とする人類補完委員会は、西暦二〇一〇年、調査組織であるゲルヒンを解体し、全計画の遂行組織として、特務機関ネルフを結成した。国連直轄の研究組織であった人口進化研究所は、所長碇ゲンドウ以下全員がネルフに籍を移した。

 西暦二〇一五年、「使徒」と故障される物体が、一五年の時を経て再び来襲し、特務機関ネルフはこれを迎撃することになった。その一員に、ゲンドウの息子シンジの名がある。

 この年、特務機関ネルフ司令官碇ゲンドウは四八歳、碇シンジは一四歳であった……。

 

 落日の下端が西の地平線にふれた刻限、廃墟に満ちた水際で、シンジは足を止めた。

 ベートーヴェン交響曲第九番が、朗々たる声で歌われるのを耳にしたのだ。歌声は、夕陽の色に染めあがった湖から流れてきていた。視線を泳がせたシンジは、半ば水面にその身を沈めた天使像の上に、ひとりの少年が腰をおろしていた。狂人か、と思ったが、その着衣がシンジの興味をひいた。少年はシンジと同じ市立第壱中学校の制服を身につけていたのだ。

「歌はいいね」

 淡い色の髪がゆれた。

 シンジがわずかな時間ながら、反応の選択にとまどっていると、少年がことばをつづけた。

「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じないか?碇シンジ君」

 少年は肩ごしにふりかえった。優美とすらいえる容姿であった。やや癖のある頭髪が白い卵型の顔の三方を飾っている。鼻梁と唇の端麗さは、古代の名工の手になる彫刻を想わせた。

 

 

◆菊地秀行

 

 廃墟となった第3新東京市を歩くシンジの指は、腰溜めに構えたグリセンティ社のコンバット・ショットガンPP702の引金にかかっていた。

 足が何かを踏んだ。

 音を立てて折れた。

 人間の大腿骨であった。

 見よ。零号機の自爆によって生じた巨大な湖の水ぎわに、おびただしい数の頭蓋や肋骨が散らばっているではないか。

 生物の醸し出す生命力の断片も感じられない風景であった。

 だが―――生物はいた。

 湖に半身を沈めた天使像の上に、人影がすわっている。

 ベートーベンの第9を歌っている。

 少年であった。

 PP702のスライドを押さえた左手が、銃身下の円筒弾倉の付け根まで戻る。初弾が薬莢へ送り込まれる独特な音が響いて、スライドと左手は再び前進した。

 PP702は、拳銃型グリップの上端についたセレクター・スイッチひとつで自動射撃と手動射撃の切り換えが可能だ。手動で操作したのは、そのほうが確実、というより、スライドの装弾音に犠牲者の恐怖を引き出させるのが目的だ。

 少年は振り返った。

「歌はいいね」

 色を失う美貌という形容があるが、彼の顔はまさにそれであった。

 光よりかがやいて見える。玲瓏と美しい。だが、それを生命のかがやきというならば、その生命は、人間のものとは正反対―――月のような反物質でつくられているにちがいない。口から吐き出す吐息は月光のきらめきを放ち、手を触れた樹々は白く凍りつく。

 美しすぎると人間はこうなってしまうのかもしれない。

「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」

 そうつぶやいた表情の美しさには、絶世の美女の存在さえも土臭い幻滅と化すだろう。

「そう感じないか?碇シンジ君」

 シンジの頬は薔薇色に染まった。

「僕の名を?」

 シンジは自分の声が上ずるのを感じた。血管という血管を上昇していく血の流れを感じた。頬が熱かった。

「知らない者はないさ」

 と、少年は言った。

 恋人の不実を尋ねるがごとき口調である。

「失礼だが君は自分の立場をもう少し知ったほうがいいと思うよ。僕はカヲル。渚カヲル。君と同じくしくまれた子供、フィフスチルドレンさ」

 紅に染まる夕日の光の中で、美貌は玲瓏とかすんでいる。

 ああ、渚カヲル―――美しき使徒よ。

 

 

◆栗本薫

 

 目のまえの光景はまったく変貌していた。そこに展開されていたのは、同じ第3新東京市とはいいながら、さいぜんの街並みとは似ても似つかない、さらにおどろくべき光景であった。

 あたりは、鉄棒とコンクリートの固まりがごつごつと突出する湖になっていた。それらはどれをとってもひどく奇妙な、ありうべからざるようなかたちをしており、ねじくれて、ゆがんでいた。まるで誰か巨大な子供が面白半分に、ひねって妙なかたちにしてはそこの湖につきさしていったかのようだ。

「おお、なんということだ」

 マリニアの花のように愛らしい唇を噛んで、シンジはうめき、そして、この数年来したこともなかったことをした―――ひそかにドライドンの印を切ったのだ。

(……ああ、どうしたらいいんだろう。綾波には会えない   だけど、だからといって、これから先、もっともっとたいくさんの戦いや、もっと非常事態はどんどんおきてくるだろうし)

(ああ、アスカ、……またしてもくりごとになってしまう。―――アスカ、そう、アスカがきてくれさえすれば……でも、それもわからない。もうあれきり何の連絡もない……僕はどうすればいい?)

 その、ときだった。

「フンフンフン」

 優しい、低い歌声―――かつて彼が耳にしたどの歌よりもあでやかな美しい調べが、彼の耳をつきさした!

「歌はいいね」

 廃墟を紅に染め上げた夕陽が、彼の目をくらませた。彼は、まるでからだじゅうがとけてしまいそうに感じながらそこに膝をがくがくさせて立っていた。それにむかって、またしても、男としてはめったにないほどに甘くこの上もなく美しい響きをもつ優美な、その人の声がきこえてきた。

「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じないか?碇シンジ君」

 

 

◆青島幸男

 

明日はないさ明日はない

若い僕には夢がない

いつまでもきっと いつまでもきっと

わかってくれないだろう

明日はない 明日はない 明日はないさ

 

零号機と綾並は自爆した

シンクロ率ゼロのアスカは病院へ

あせることないさ あせることないさ

自分に言いきかす

明日はない 明日はない 明日はないさ

 

新しいパイロットは使徒だった

装甲隔壁も通用しない

パターン青 パターン青

ヘブンズドアが開く

明日はない 明日はない 明日はないさ

 

ある日突然考えた

どうして僕はがんばれないんだろう

父さんのせい? 自分のせい?

答は風の中

明日はない 明日はない 明日はないさ

 

近頃の若いやつはとよく言うけれど

父さんの頃よりだいぶまし

大目にみてよ 大目にみてよ

カヲル君が好きだって言ってくれたんだ(←支離滅裂)

明日はない 明日はない 明日はないさ

 

明日はないさ明日はない

若い僕には夢がない

いつまでもきっと いつまでもきっと

わかってくれないだろう

明日はない 明日はない 明日はないさ


 
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