No.542630

不死鳥、繚乱の花を見る

銀の槍の助っ人として現れた少女。百花繚乱の花の妖怪の前に立つ彼女は、正に不死鳥であった。

2013-02-10 21:16:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:404   閲覧ユーザー数:396

 空が百花繚乱に染め上がっていく。

 色とりどりの花が空を覆っては、朱の鳥がそれを喰らい尽くしていく。

 

「ふうん……人間にしてはやるわね」

 

 その様子を、興味深そうに眺めながら幽香はそう呟いた。

 

「そっちは流石ってところね。けど、私が戦えないわけじゃなさそうだ」

 

 その言葉に対して、妹紅も余裕を持って答える。

 すると、幽香は妹紅に笑い掛けた。

 

「ええ、そうね。こっちも退屈はしなさそうだし、遊んであげるわ」

「ふっ、舐めて掛かってると足元すくわれるよ!」

 

 そう掛け合うと同時に、再び二人の間に弾幕の花が咲く。

 幽香はその場からあまり動かず、ゆったりとした動作で朱色の炎を躱していく。

 対する妹紅は多少の被弾を気にせずに、幽香に猛攻を仕掛けていく。

 

「そこっ!」

 

 突如として素早い動きを見せた幽香が、炎の川を潜り抜けて日傘を振り下ろす。

 妖怪の怪力で振り下ろされたそれは、風を切る音と共に妹紅の頭頂部を狙う。

 

「ぐっ……」

 

 妹紅は腕を交差させ、それを受け止めながらあえて下へと弾き飛ばされる。

 受け止めた腕からは嫌な感触と音が鳴って骨折したらしいことが分かるが、蓬莱人である妹紅の腕は即座に回復する。

 それに対して幽香は追撃の弾幕を張る。

 

「そらっ!」

 

 妹紅は懐から札を出して前にかざし、炎の壁を作り出した。

 その壁は幽香が放った弾丸を次々に焼き、妹紅まで届くことを阻んだ。

 

「……貴女、ただの人間じゃないわね? ただの人間が折れたはずの腕をそう振り回すことができるはずが無いもの」

 

 その様子を、幽香は怪訝な表情で眺めていた。

 それに対して、妹紅は痛みをごまかすように手を振りながら答える。

 

「それがどうした? この程度のこと、妖怪なら出来る奴が居てもおかしくないでしょう?」

「それを人間がやっているからおかしいのよ。まあ、それならそれで構わないのだけどね」

 

 二人はそう言い合いながらも攻防を続ける。

 巨大な花が頬を掠める中、妹紅は首をかしげた。

 

「はあ? 私が倒せないと困るんじゃないのか?」

「別に困らないわよ。第一、私は結界のことなんてどうでもいいもの」

 

 妹紅の疑問に、幽香は涼しい顔をして炎を日傘で受け流しながら答える。

 その一方で、妹紅に対して攻撃を仕掛けることも忘れない。

 

「じゃあ、何しに出てきたんだ?」

「だって、面白そうじゃない。銀の霊峰も妖怪の山も総出で大騒ぎするのよ? それに強い妖怪もたくさん集まるだろうし、退屈しのぎにはちょうどいいわ」

「……そんなことであんたは喧嘩を売ってたのか?」

「そんなこととは言うけどね、妖怪にとって一番の敵は退屈なのよ? 惰性で生きることほど毒になることはないの」

 

 花びらのように弾幕が舞い、吹き荒ぶ熱風が肌を焼く。

 何気なく話す二人の戦闘は、話の内容に反してどんどん苛烈になってきていた。

 それでもなお、幽香も妹紅もその表情には余裕が見えていた。

 

「退屈ねえ……私も千年以上生きてるけど、退屈なんて感じることはなかったな」

「ふうん……それは羨ましい限りね。貴女の周りは余程楽しいことが多かったんでしょうね?」

 

 少々羨ましそうに幽香はそう問いかけた。

 それを聞いて、妹紅は笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

「いいや、そこまで楽しいことばかりじゃあなかったよ。特に最初の数百年は辛いことしかなかった。本当に楽しかったといえるのは……そうだな、あの二十年とここ二百年くらいだ。がむしゃらに生きてりゃ、退屈なんて感じないもんだ」

「そう……まあ、どうでもいいことね。いくら貴女が楽しくったって、私が楽しくなるわけじゃないもの。そんなことより、私と遊びたいんでしょう? なら、こんな話はもうお終い。精々楽しませてくれる?」

 

 幽香は妹紅の言葉にそう言って笑う。

 その笑みは人を見下したようなもので、とても嗜虐的な笑みであった。

 

「くっ、言われなくても相手してやるよ!」

 

 妹紅はそういうと、幽香の側面に素早く回りこんだ。

 

「燃えろ!」

「まだまだね」

 

 側面からの妹紅の攻撃を、幽香は易々と避けていく。

 そのお返しといわんばかりに、幽香は妹紅に激しく弾幕を展開した。

 

「ちっ!」

 

 妹紅は避け切れないと判断すると、冷静に手に札を貼り付けて避け切れない弾を殴り飛ばした。

 妖怪退治屋をしていた時にかじった、陰陽道を応用した技であった。

 そこには、将志と初めて会ってから約七百年間積み重ねてきた努力と経験が光っていた。

 殴られた弾は妹紅の手に当たって火花を散らせた後、幽香に向かって跳ね返っていく。

 幽香はその跳ね返ってきた弾丸を、構成している妖力を霧散させることでかき消した。

 

「流石にそれなりの経験は積んでいるようね。じゃあ、これはどうかしら?」

 

 幽香はそう言うと妹紅に向けて光線を発射した。

 妹紅はそれを弾き返せないと判断し、回避に専念する。

 

「っと!」

「ほら、そこっ!」

 

 幽香は妹紅が光線に気を取られている隙を突いて攻撃を加える。

 その攻撃は妹紅の位置からでは完全に見えないものであった。

 

「甘い!」

「おおっと!?」

 

 しかし妹紅はそれをいとも簡単に避けてみせ、更に幽香に対して反撃までして見せた。

 予期せぬ反撃に、幽香は緑色の髪を少し焼きながら後退する。

 

「へぇ~……今のも避けられるのね? 完全に死角に入ったと思ったのだけど?」

 

 幽香は焼け焦げた髪の先端を手で弄りながら妹紅に話しかける。

 その眼には、先程までの見下すような視線は含まれていない。

 

「生憎とその手の攻撃は慣れっこでね。昔散々に鍛えられたものさ。私に不意打ちは効かないと思いな」

 

 幽香の言葉に、妹紅はそう言って笑った。

 妹紅には、将志に挑戦し続けた二十年間の経験が今も息づいているのだった。

 それを聞いて、幽香は楽しそうに笑った。

 

「ふふっ、面白いじゃない。さっきの子も面白そうだったけど、貴女もなかなかに楽しめそうじゃないの。さあ、どこまでついて来れるか試してあげるわ!」

「ふん、そっちこそ追い抜かれてほえ面かくなよ!」

 

 そう言うと、二人は再び激しくぶつかり合った。

 幽香が広範囲に弾幕を張ると、妹紅は一点に集中させるように炎を放つ。

 幽香は妹紅の炎を真正面から受けないように動きながら日傘で受け流していく。

 

「そこだぁ!」

「うっ!?」

 

 その幽香を下から突き上げるように、炎の弾丸が襲い掛かった。

 幽香はとっさに上に飛び上がり、妹紅から放たれる炎と一緒に日傘で防いだ。

 

「まだまだぁ!」

 

 今度は幽香の真上から黄金に輝く巨大な鳳凰が突っ込んでくる。

 幽香の体勢は崩れており、回避は出来そうになかった。

 

「くぅぅぅぅ!?」

 

 幽香はその炎をポケットに仕込んでいた植物の種を発芽させ、その蔦を障壁にした。

 鳳凰が蔦の障壁にぶつかると、蔦は黄金色に染まり激しく燃え上がった。

 しばらくして蔦は完全に燃え尽きたが、幽香は辛くも防ぎきった。

 しかし無事には済まなかったらしく、幽香の白い肌には所々火傷が見受けられた。

 

「ふ……ふふっ……やってくれたわね、小娘……手加減してあげようと思ったけど、やめたわ。貴女は全力で叩き潰してくれるわ!」

 

 凄絶で嗜虐的な笑みを浮かべて幽香は妹紅にそう言い放つ。

 それと同時に、幽香から感じられる気迫と妖力が一気に膨れ上がった。

 

「ああ……全力で来い。そいつを超えて、私はあいつに追いついてやる」

 

 妹紅はそれを見て、不敵な笑みを浮かべた。

 その妹紅の言葉を聞いて、幽香は苛立たしげに妹紅を睨んだ。

 

「……ああもう、本当に気に入らないわ。さっきから私を通過点としてしか見ていないその眼が気に入らない……ああ、その眼を抉り出してやりたいわ」

「やれるもんならやってみな。あんたを超えないと目指す背中に追いつけないのは事実なんだ、こんなところで負けてやるわけには行かない!」

「良いわ。貴女が焦がれるその背中ごと叩き潰して、じっくりと虐めてあげる……貴女が泣き叫んで私に懇願する姿、今から楽しみだわ!」

 

 幽香がそういい終わった瞬間、爆発的に弾幕の密度が跳ね上がった。

 一気に倍以上に膨れ上がった弾丸の嵐を、妹紅は間を縫うように避けて行く。

 そして避けながら妹紅は集中的に幽香に炎を浴びせていく。

 

「ええい、しつこいわね!」

 

 幽香はそういうと、迫り来る炎をまとめて日傘で切り払った。

 そこに、再び上下から火柱が迫ってくる。

 

「同じ手が通用すると思わないことね!」

 

 それを幽香は上下に巨大な花の弾幕を盾の様に展開して防ぎ、しのぎ切る。

 次に、幽香は網目状に弾幕を展開した。

 弾幕に隙間はなく、一度捕まってしまうと容易には抜け出せない。

 

「っ! しまった!」

 

 妹紅はそれに捕まり、動きを絡め取られる。

 幽香は妹紅に向けてゆっくりと日傘を向けた。

 

「喰らいなさい……」

 

 次の瞬間、動けない妹紅に向けて極太の光線が放たれた。

 光線は周りを飛んでいた炎を飲み込みながら、一直線に妹紅に迫る。

 

「くっ、間に合え!」

 

 妹紅は札を四枚取り出し、正方形の形になるように展開した。

 光線が届く寸前で炎の結界が展開され、軌道をずらす。

 

「ぐっ……うううう!」

 

 妹紅は白色の烈光を朱色の炎で必死に受け止める。

 その横を覆い尽くすように光線が飛んでいき、あたりを染め上げる。

 大威力の攻撃を抑える妹紅の息はあがり始め、額には大粒の汗が浮かんでいる。

 結界からは軋む様な音が聞こえ始め、そう長くは持たないことが分かった。

 

「……っ……持ちこたえてくれよ……!」

 

 それでもなお、妹紅は結界を維持するために力を込めた。

 妹紅にはその時間が無限にも感じられるほどの負担が掛かる。

 が、しばらくして光線が収まってきた。どうやらこの攻撃は終了の様であった。

 結界はボロボロになりながらも、まだ残っていた。

 

「……防ぎきったか……」

「ええ、あの攻撃はね」

「ぐああああっ!?」

 

 妹紅が光線を防ぎきった瞬間、その背中を強烈に殴打される。

 背中からは骨が砕ける感覚と強烈な激痛が走り、妹紅は弾き飛ばされた。

 地面に落ちて行く妹紅を、幽香はつまらなさそうに眺めていた。

 

「……呆気ないものね。まあ、人間なら直接殴られればこんなものよね。さて、どうしてくれようかしら……っ!?」

 

 突然下から上がってきた火柱に、幽香は思わず飛び退く。

 見ると、妹紅が落ちたところから巨大な火柱が上がっていた。

 

「……まだ終わっちゃいないよ。生憎と私は死ねない身体なんでね」

 

 妹紅は背中から黄金の翼を広げながら空へと舞い戻ってくる。

 幽香はそれを見て、楽しそうに笑った。

 

「……背骨を砕いたはずなのに、まだ立ち上がってくるのね……ふふっ、虐め甲斐があっていいわ」

「その余裕、いつまでも続くと思うなよ? 例え何度倒されようとも私は甦る。私と戦うときは、不死鳥か何かと戦ってると思いな!」

 

 妹紅は黄金の翼を羽ばたかせ、幽香へと襲い掛かる。その姿は、正しく不死鳥のようであった。

 それを見て、幽香は楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「……思い出したわ。不死鳥、藤原 妹紅。どんなに強大な妖怪を相手にしても、何故か生きて帰ってくる不死身の妖怪退治屋。なるほどね、これじゃあ死ねるはずも無いわ」

 

 幽香はそう呟きながら、不死鳥の炎の翼を回避する。

 その熱は幽香の肌に焼け付くような熱さを感じさせた。

 

「逃がすか!」

 

 そこに向けて、妹紅は身体を捻りながら炎の弾丸を撃ち込んだ。

 幽香はそれを日傘を広げて受け止め、弾幕を展開する。

 

「ふふふ……不死鳥ねえ……面白いじゃない。だったら、私はそれを飼いならして見せるわ。貴女が鳥なら、私の花は鳥籠。私から逃げられるとは思わないことね!」

 

 幽香は空一面に花を散らし、妹紅を攻め立てる。

 妹紅はそれを掻い潜りながら幽香に攻撃を仕掛ける。

 

 一進一退の攻防は、まだまだ続きそうであった。


 
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