No.54229

さいえなじっく☆ガールACT:26

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その26。

2009-01-25 21:34:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:691   閲覧ユーザー数:671

 ふたりの男のうち、ひとりはニオイに過敏らしく、その場で反吐を吐いて完全に戦意を失ってくずおれている。いや、こんな環境下では嗅覚過敏でなくても大抵の人は戦意を失うだろう。

 期せずして、須藤耕介の発明?の産物が発する超悪臭は立派な防衛兵器となっていた。だがこんなものに頼っていたら、悪臭の源に近いこちらのノーミソが先に腐ってしまうに違いない。

 

 だが夕美は気づいた。先日アレを口にしたとき、うっすらとではあったがあの激マズな味の中にこのまとわりつくような悪臭の片鱗のようなものがあったことに。

「で、出てこい!居ることは判ってる!おとなしく出てこないと…」

 

「うるはいわい。いま、れていっはるがな。」

「?」男は夕美が何を言ったのか解らなかった。壁を手探りし電灯のスイッチを見つけて電源を入れた瞬間、冷たくてヌルリとした何かが顔にいくつもぶち当たった。

「ぶぐぉおおおおおっ」

 勢いよく当たった“なにか”は運の悪い男の口と鼻孔にしこたま飛び込み、強烈な酸化臭と腐臭とを直接体内へ送り込んだため、反射的に無呼吸状態になって失神してしまった。もうひとりの男はそんな目に遭うまでもなく、とうに気を失っていた。

 

「ん〜〜〜…よっほろ、くっさいのが苦手やってんなー。だまんだぶ、だまんだぶ」

 言いながらその“くさいの”を投げつけた右手を男のジャケットでひたすらぬぐっていた。こんな程度ではまずこのニオイは取れないだろうと思いつつも。

 左手はというと、人差し指と親指できつく鼻をつまみ、のこりの指はしっかりと角瓶の首部分を握っていた。

 本当にこれの中身がアレと同じかどうかは判らない。だがキャップに書かれた文字が、あのとき聞かされたうろ覚えの薬の名前だったような気がする。

 なによりも、夕美にはこれだろうという確信のようなものがあった。

(お父ちゃんなら、こういうえーかげんな入れ物にテキトーに入れるに違いないわ)

 

 夕美は気絶している男二人をまたぎ越して研究室を出た。

 彼女は気づかなかったが、残された冷蔵庫の扉には耕介の下手くそな字で張り紙がしてあった。『危険!扉を3秒以上開放しないこと』

 

 いっぽう、亜郎は家の中の様子をうかがっていた。

 暗い闇に建つの一軒家のこと、ぐるりと家の周りをめぐれば人がいる部屋を探すのは容易だった。玄関は鍵が開いていたし、灯りが付いている部屋をたどってゆけばいいからだ。

 物陰から覗くと、どうやらあの時の青年───ほづみ───と言ったか?…が捕まっているようだ。そばで同じく捕まっている中年男性は、おそらく夕美の父親にちがいない。

 ふたりの男が拳銃を構えてふたりを拘束している、という構図だ。

 あとのふたりはどこへ行った?そう思ったとき、夕美が危ないことを悟った。

 来たコースを後ずさりするようにして再び外へ出た亜郎が気づいたのは、夜風に乗って漂ってくる異臭だった。

「う?なっっっっっっ!? なんだ、このニオイは!?」

 

「…ヌッタ。ムスンニリダ。ソルマ(遅い。どういうことだ。まさか)」

「イ チブン セーミョンセンファリムニダ。トゥリムオプシ(この家は三人暮らしです。間違いなく)」

「ケダガ ノモチヌン ッタルマン(しかものこりは娘だけ)…クロッソ(そうだよな)?」

「ネー。クロッスムニダ(はい、そうです)」

「ムオシンガ、イッソングン…(何かあったな)」

「ソルマ(まさか)!」

 

「をいをい。ワカランと思ったらチャルモッテ、イッスルコヤ〜(大間違いだぞ)!」

 そう耕介がチャチャを入れると、二人の顔色が変わった。

「朝鮮語がわかるのか」

「チョグム(少しな)」

「そ…それは話が早い。我が国へ来たあとも通訳いらずで済むな」

「ふふん。そいつわ、どーかなああああ?」

「なんだと」

「あんたらの母国語はほんまに朝鮮語か、っちゅう話やがな」

 二人の顔色が二度変わった。

「あ?あ?ああああああ〜〜〜?な、なんだろな、こ、このニオイは!?」

 ヤバそうな空気を察してほづみがわめく。

「!」

「ヨクシ(やはり)何かあった。いけ」

「ネ、アラッスムニダ」

 かつて大工見習いに扮していた男は、拳銃の安全装置を確認しながら足早に部屋を飛び出した。だが、廊下へ出たと思ったらまるで爆風にでも吹き飛ばされたみたいに宙を飛んで元のリビングへ戻り、あおむけに倒れ込んでテーブルを押しつぶし、そのまま「きゅう」と言って悶絶してしまった。

 まるで香港カンフー映画のような展開に、さすがにリーダー格の男もあっけにとられていた。だが、廊下の闇の中にいるはずの何かは姿を現さない。

 

「誰だ!」さらに闇をうかがう。「出てこい、撃つぞ…う?」リーダーは顔をしかめた。玄関扉が開いているのだろう。外の風に乗って例の悪臭が入り込んでくる。

「わっっっっ!」その隙を見て耕介が横合いからリーダーの拳銃めがけて飛びかかる。が、その勢いをアッサリと受け流され右から左へ飛んでソファに首から突っ込むハメになった。

「せ、先生っっっ、大丈夫ですかっ!」ほづみが思わず耕介に駆け寄るのを、とっさに自分への攻撃だと勘違いしたリーダーが今まさにほづみを撃とうとした瞬間、闇の中からすべるように現れた夕美に突き飛ばされて今度は彼の方が部屋の反対側までぶっ飛んだ。

 だが、訓練された優秀な兵士でもあるリーダーは、突き飛ばされながらも受け身で体勢を整え、ひと呼吸で攻撃態勢に戻った。

「ゆ、夕美ちゃん!逃げろ!!」だが、ほづみが叫ぶのとリーダーが引き金を引くのが同時だった。一発、二発、さらに三発、四発。殺人作業に慣れたプロならではの、確実に相手を殺すための徹底した連続発砲だった。夕美が悲鳴を上げるヒマさえなかった。

 

 空気が、時間が、すべてが凍りついた。

 

〈ACT:27へ続く〉

 

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