No.542105

司者(プロローグ)

Regulusさん

処女作、オリジナル、登場人物多数の長編小説という無謀な試み。
果たして書き上げることが出来るのか、乞うご期待。

2013-02-09 18:11:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:432   閲覧ユーザー数:431

 何も見えない漆黒の闇。ただ、その息苦しさからそこが比較的狭い、閉じた空間であることが感じとれる。例えるなら狭い洞窟に居るような……湿った感じは微塵もしないが。

 その何もなかった空間に突然何者かが身じろぐ様な気配が生れる。

 それに……微かに聞こえる息づかい。そして血の臭いがする。

 そこには誰かいるようだ、耳をすませば苦しそうな息づかいが聞こえる。

「我々はとんでもないことをしてしまったようだ……いや、我々ではなく私かな……」

 静かな声で話し始めた声の主はどうやら老人のようだ、声がしがわれている。

「おまえの言う通りだったな……後悔しても仕方がないが、悔やんでも悔やみきれん」

「……勝手なことを」

 呟くような、それでいて吐き捨てるような声、もう一人居るようだ、こちらは声がかなり若い。

「すまん、許しを請うつもりはない、ただ、死ぬ前に謝っておきたくてな……そろそろ駄目らしい」

「貴方はそれで満足かもしれないが、巻き込まれた人たちはどうするつもりです?私よりも先に謝るべき相手がいるでしょう!?」

 言葉こそ丁寧だがそこには怒りが含まれている、声が震えている。が、相手には声は届いていないようだ。

「嗚呼、我々は滅ぶのだろうか……いや、もう我ら以外は滅んでいるのやもしれんな……すまん」

「…………」

 老人の言葉に無言を以て答える青年。しかし、あまりの静かさに異変を感じて思わず声が漏れる。そういえば辛そうな呼吸が聞こえない。

「…………お祖父さん?」

 尋ねてみたものの事態は容易に推測できた。さっき本人も言っていたではないか。

「確かに私達二人は終わりでしょう。しかし、人類はまだ分かりませんよ。私に出来るだけのことをしておきました」

 既に聞く相手は居ないことは分かっている。だがそれでも老人に向けて静かに言い放った後、ひと呼吸おいて独り言のようにーー実際に一人なのだがーー呟いた。

「…………止められなかったのは私も同じです……いや、止めなかったのだからなお罪が重い、か……」

 暗闇に低く響く声に答えるものはもう何もない。しかし青年は語り続ける。自分の生を確認するように。

「これでもおじいちゃんには感謝しているんですよ、今回のこと以外に関しては。貴方が居なければ当然私は存在していないでしょうし、それでなくてももっとつまらない人生を送っていたことでしょう」

 

 はあはあと苦しそうな息づかいが次第に大きくなっている。

「……もう空気がないな……」

 カチッ

 と、急に暗闇に光が点り青年の姿を淡く切り出す。コンパクトのような物が手にあり、それがほのかな光を発していた。だが、それは青年の望んだものではなかったようだ。

「……壊れたのか……仕方無いな……」

 もう片方の手で懐から四角い紙を取りだし、眺めるが明かりが弱すぎてよく見えない。が、青年は見えるように写真らしき物に向かって最期の言葉を発した。

「どうか生きてくれ……全てを押しつけてゴメン……。僕に出来ることはもう、何もないんだ。君に幸多からんことを……」

 パチン

 再び其処は闇の支配する空間となった。今度は完全な死の匂いを含んで。


 
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