No.542049

cross saber 第6話

九日 一さん

こんにちは、QPです。

今回は丸々一話ほのぼのです。
可愛くかけていたら幸いです。

2013-02-09 15:56:58 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:383   閲覧ユーザー数:383

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話~ハリル・ラプソディー~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side ハリル】

ふふふんふーん ふふふふーん♫

 

戦闘服と違って幾分か軽い、ライトブルーのコーディネートに身を飾ったハリルは、鼻歌交じりに半ばスキップするような形で目的地へと向かっていた。

 

曲名は“Santa Clause is coming to my city”

 

クリスマスまでまだ三週間程はあるが、ハリルはあまり気にしていない。 真夏でもこれを歌っている位だ。

 

私がなぜこんなにも上機嫌なのか。 それはこれからアラディフィスに行くからに他なりません。 同盟都市であるため基本的に出入りに関する規制は薄いんですが、私の住むラバールは元々外出の許可があまり多くない。 よって任務以外で他都市の友達と会えるのはとても楽しみなんです。

 

やがて“Aladefiss”と金色の文字で書かれた荘厳な門の前に辿り着いた。 平和主義であるフリーデン以外の都市は戦乱の時代の名残で未だに強固な壁に囲まれており、出入口はこの門しかない。

 

ハリルは大きな門の端に申し訳なさそうに建っている審査処の方へ行き、中にいる30代程の綺麗なお姉さんに身分証明章を提示する。 証明章は各都市共通で、ハリルは一番可愛く写っていると思う写真を貼り付けてある。

 

その女性は慣れた手つきで手続きを一通り終えると、アミューズメントパークへ送り出すような調子で美しい笑顔で言った。

 

「ハリル様。 アラディフィスへようこそ」

 

ギギギ…という音をたてて門が開くのを皆さんは想像するでしょうけど、実際は審査処の裏にある小さめの扉が音も無くすっと開き、そこから入都するんです。 門が開くのは大きめの輸送車もしくは偉い人が出入りする時くらいなんです。 一回動かすのに物凄くお金がかかるんだとか。 だからー

 

ギギギ…

 

あれ?

 

ハリルが扉の方へ歩いて行こうとした時、動くはずのない門が急に開き始めた。 お姉さんの方を見るが、彼女も驚きで目を丸くしている。 門はハリルの驚きを嘲るように大きく軋みながらその口を開けて行く。

 

あれ…?

 

ハリルが状況をさっぱり理解できず困惑している間に、門が開ききった。

 

ーと、突如地を這うようなエンジン音と共に、ワインレッドの車体の車が門の向こう側から猛スピードで向かって来た。 進行方向にハリルがいるにも関わらず、速度を緩める気配はない。

 

「わわっ!!!」

 

ハリルは一瞬もたついてしまったが、慌てて思いっきり横に跳んだ。

 

その車は地面を転がるハリルのギリギリを、かすめて去って行った。

 

「危なかった~」

 

思わず冷や汗をかく。 だが恐怖のあとに出てきたのは、怒りだった。

 

「せっかくのおしゃれが台無しになるところだった」

 

ハリルはもうすでにはるか向こうに消えかかっている車体をキッと睨みつける。 昔からこの人一倍いい目で、誰よりも早く敵を見つけてきた。

 

澄んだ黒い瞳が車体の後部をしっかりと捕らえた。

 

えーっと…あれは何かのシンボルマークかな?

 

赤い車体にはさらに濃い赤で、奇妙なマークが施されていた。

 

人間の二つの手が、翼を包み込んでいる。 よく見てみると、悪魔がその手から出てこようとしているようにも見える。 いずれにせよ一度見たら忘れられそうにもない変なマークだ。

 

よし…

 

ハリルは手を小さく握りしめた。

 

今度見かけたら、あっかんべーってしてやるんだから。

 

今日のハリルには、車に引かれそうになってでも、友達の質問攻めにあってでも、三日間お菓子を我慢してでも、成し遂げたいことがあった。

 

あんな暴走車に構ってるほど、大人の私には時間がないんです。

 

それに、門が開いたということはアラディフィスが認可しているということだろう。

 

審査処の方を見ると、女性が申し訳なさそうに微笑みながら門を示した。 多分、「どうぞ、せっかくなのでここから入ってください」という意味だ。

 

ハリルの顔は思わずパァァっと明るくなった。

 

こんな一生に一回あるかないかのことができるなんて。 後でカイトにも自慢しよう。

 

きっと今日は運がいいんだ。 なんかイサク君と上手く話せる気がしてきた。

 

先刻の怒りはほとんど忘れ、ハリルは意気揚々と巨大な門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

さっきより鼻歌もスキップも小さいが、ワクワクはずっと高まっていた。

 

腕の時計を見ると針はまだ九時を指していない。 マーシャと会うのは十時からだけど、ハリルにとってはその前が一番重要だった。

 

本日のビックイベント“朝からイサク君と、は、話してみようっ大作戦!!!”

 

イサク君はきっとまだ寝てるはずだから、家まで行って、起こしてお話ししようという作戦だ。 一応セリフの練習はしてある。 (緊張でうまく言えるかわからないけど)

 

とにかく、 なるべく早くこの作戦を遂行しなければ。 マーシャに見つかる前に。

 

そうは思っても、どうしても溢れ出してくる笑顔と鼻唄は止められなかった。 そうこうしている内に、曲がフィナーレに差しかかる。

 

ふんふんふふーふふーん♫

 

ハリルのメロディーに高音の一段高いパートが交じり合い、見事な音楽を奏でた。 二つの音は、ピタリと完璧にハモったのだ。

 

だが、美しいハーモニーの余韻にひたりかけたハリルは、ふと、あることに気付いた。

 

…あれ? ハモった!?

 

心臓がビクッと高鳴っる。

 

落ち着きを失った胸に手を当てながらゆっくりと振り向くと、ピンクの可愛らしいカーディガンを見にまとったマーシャが満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

「ハリルちゃん! ウェルカム-トゥ-アラディフィス!!!」

 

「ふにゃ!?」

 

彼女がいきなり抱きついてきた。 豊満なその胸の中に思いっきり引き寄せられる。 何かの花のいい香りが、フワリと二人の周りに広がっていった。 呆然としているハリルに反して、マーシャは華やかなオーラを放ちながら続ける。

 

「なかなか古くていい歌知ってるわね。 それにしても、こんな早くからどうしたの?」

 

「えっ…えっと…」

 

口ごもってしまう。 絶対に答えられない。

 

マーシャは大好きだし、会うのも楽しみだったけど、ハリルの作戦の中では恥ずかしさと並ぶトップレベルの障害だった。

 

何としてもやり過ごさなければ…

 

「あ、あのね、アラディフィスに新しいアクセサリー屋さんができたって聞いて、行ってみたいなぁ~って思ってたんだ」

 

三週間ほど前に別の友達から聞いた情報であるため、間違いはない。

 

「ふーん…」

 

マーシャは綺麗な髪をいじりながらハリルをじっと見つめる。 この目は何でかわからないけど、ハリルのいろんなことを見抜いてしまう。 イサク君を好きになった時もその瞬間に気付かれてしまったのだ。 本人に言わせてみれば、分かりやすいそうだけど。

 

あまりない胸を張り、なるべく堂々としているように見せようとした。

 

「なるほどね…」

 

しばらくするとマーシャはつぶやくようにハリルに質問を始めた。

 

「友達から新しいアクセサリー屋さんについて聞いた、と」

 

「うん!」

 

「可愛いアクセサリーをつけて女を磨きたい、と」

 

「うん!」

 

「『パワーアップした私で今日こそイサク君にアタック!!』と」

 

「うん?」

 

「そして、私に話したことは全部嘘、と」

 

「………」

 

マーシャの方を見ると彼女の顔はもうすでに、あのニヤニヤになっていた。 しかも、心なしかいつもより怖い気がする。

 

「ハリルちゃん、そのアクセサリー屋さんなら入り口を入ってすぐの所にあったはずだけど?」

 

言葉が出ない。

 

「まったく…。 イサクにアタックするなら手伝うよっていつも言ってるのに」

 

はい…さすがマーシャ。

 

ハリルは隠し通すのを諦めた。 こうなったらついて来られるのだけは阻止しないと。

 

「今回は自分の力だけでやってみたかったんだ」

 

もじもじしながらそういうと、マーシャはいきなり嬉しそうに微笑んだ。

 

「何!? あなたもついに積極性ってものを手にいれたのね!!」

 

だがすぐに真面目な顔になると、彼女は腕を組んで一方を顔の近くまで持っていき、その指を一本立てた。

 

このポーズはー

 

「でもその前に、大体ねー」

 

マーシャが話し始める前にハリルはそれを制止し、ポケットを探ると、氷の結晶の刺繍の入った白い手帳とボールペンを取り出した。 幾つか貼ってある付箋のうちピンクのページを開く。 内容は“マーシャ先生の恋愛術”。 この話は信じられないほど役に立つので、聞き逃すわけにはいかないのだ。

 

「どうぞ、お願いします。 師匠」

 

マーシャは「うむ」とどこぞの教授を真似て低い声で言うと、ビッとハリルの服を指差した。

 

「まずその服!!!」

 

「ええぇぇ~!?」

 

早速驚いてしまった。 この服はハリルが一番気に入っているものなのだ。 落ち着いた感じの長めのスカートに施された銀色の小さい刺繍なんか、すごく可愛いと思うのに。

 

「まあ、並大抵の草食系、肉食系は間違いなく即殺できるわ。 現に私だって惚れちゃいそうよ」

 

マーシャの手が強く握られる。

 

「だけどあいつは恋愛に対してバカみたいに鈍感な、いわゆる“流しソーメン系”!!! 簡単にはいかないわ」

 

積極的に来たものしか食べないということだろうか。 単語の意味に関しては深追いしなかった。

 

「短いスカートで大胆に気を引く!! これが最初のポイント。 そして袖が短めで寒そうに見える服装をする。 これはあなたにオススメよ」

 

「何でですか? どんどん寒くなっていきますよ?」

 

ハリルのその質問を待ってましたとでも言うかのようにマーシャが得意げな笑みを見せる。

 

「そう、寒くなっていく。 寒いとくしゃみが出る。 くしゃみが出るとあいつは一応優しいから、気遣って自分のコートを貸してくれるはずよ。 『大丈夫か?』ってね。 そしたら短い袖から出たその肌で温もりを直で感じちゃいなさい!」

 

「な、なるほど。 それならわたしにもできそうです」

 

イサクの服にくるまっている自分を想像して、ハリルの胸のドキドキが一気に加速した。

 

「ま、押しがものすごく(・・・・・)弱いあなたにはピッタリね」

 

妄想の世界に入りかけたハリルを、マーシャのいらない一言が引き戻した。 “ものすごく”の部分をものすごく強調して言われたことにさすがにムカッときたハリルは、ここで一つの疑問を投げかけた。

 

「これだけ知ってれば、マーシャだってレイヴンにもっとアタックしたっていいんじゃないの?」

 

途端に今まで余裕を見せていたマーシャが慌て始めた。

 

「わ、私の場合、そうはいかないの。 レイヴンとイサクだと攻略難易度が50違うんだから」

 

「へ~」

 

ハリルもマーシャを真似て精一杯ニヤニヤしてみた。 それを見てマーシャがほおを膨らませる。

 

「も、もうハリルちゃんったら。 からかわないでよ」

 

「マーシャには言えないよ」

 

「んー…。 まあいいわ。 次ね」

 

その後もしばらく講演は続き、ハリルの手は疲れるくらい動き続けた。

 

待っててね、イサク君。 今、会いに行くから。 …たぶん。

 

 

 

 

 

 

ハリルは木製で質素ではあるが、どこからかしっかりとしたイメージを受ける家の前に立っていた。 表札の“Isaac”の文字が心臓の鼓動を早める。 もうすでに薄着を買って着替えてしまったため相当寒いはずなのに、気にならなかった。

 

今、この家の中ではイサク君が寝ている。 ーそう思うと緊張で胸が張り裂けそうだった。

 

周りに誰もいないのを確認して深呼吸をすると、次は頬を思いっきり膨らませたりすぼめたりした。 マーシャ直伝の“可愛い笑顔即製法”だ。 多分、知らない人に見られたら、変な人だと思われてしまうだろう。

 

そういえばマーシャはというと、今頃はレイヴン探しに忙しいはずだ。 着替えを買った後、やはり羞恥心に襲われたハリルは、悪いとは思ったがうまく出し抜いてきたのだ。 恐らく後三十分は大丈夫だろう。

 

え? どんな出し抜き方をしたかですか?

それは……

 

 

~十分前

 

マーシャ行きつけの店から着替えを済ませて出てきたハリルは、申し訳ないと思いながら彼女の後方を指差してただ叫んだ。

 

「あ! 私服のレイヴンがあのデパートの中に!!」

 

「ええぇ!?」

 

レイヴンは基本、戦闘服と普段着の区別をつけない上に、休日は知らぬ間にフラッと出かけてしまうらしい。 よってマーシャにとって休日に私服のレイブンの姿を見るのは、想像もつかないくらい価値があることなのだ。 そこをついたのは本当に悪いと思うけど…。

 

「かっこよかった?」

 

マーシャが肩をがっしりと掴んですごい剣幕で聞いてくる。 ハリルは「そんなの決まってるよ」という代わりに、真顔で顔をぶんぶんと縦に振った。

 

それを聞いた彼女はそのまま風のような速さでデパートの中に消えて行った。

 

あのデパートは地下も含めた三十層構造を誇っているから、いかにマーシャと言えども捜索にはしばらくかかるはずだ。 女性服コーナーなどを除外すれば数は結構減るけど、あの様子だとその考えは浮かばない気がする。

 

 

 

まあ、出し抜いたのはこんな感じでです。 あとで何をされるかわからないけど…仕方ありません。

 

目の前の木製のドアを見ながらもう一度深呼吸をする。

 

すっ すっ はー。

 

あれ? 違うかな?

 

あ~もう。 覚悟を決めて! ハリル、 いきます。 ファイトっ!!

 

コンコンと手がドアを心地いい音を立てて叩いた。

 

すぐさま、逃げ出したいという感情が駆け巡った。 今まで考えていたことが脳内からどんどん消去されていく。 目を閉じて、必死でそれらを抑えながら彼がその扉を開けるのを待った。

 

だが、ドアの向こうで答える者はなかった。

 

「?」

 

コンコン。 もう一度叩いてみるが、やはり反応はない。

 

コンコン。 …も一回。 コンコン。

 

やはり何度叩いてもそのドアが動くことはなかった。 そのことから考えたくもない事実を理解し、ハリルはその場に呆然と立ち尽くした。

 

今日は珍しく早起きの日だったようだ。 神様はすんでのところでハリルを見放してしまった。

 

途端に、露出した肌を冷たい風がなでていることを思い出した。

 

「寒い…」

 

くしゃみが出たが、心配してくれる彼はそこにいない。

 

 

 

 


 
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