ああ、彼女と話し始めたのはどうしてだろうか。彼女とは放課後の教室でしか話さない。ほかで会っても軽い会釈か気づいていないフリをするだけだ。いつも彼女とするのは友達にするのと変わりないたわいのない話だけだ。
それならば、この時間以外でも話せばいいと思うが、俺が周りに人が居る状態で異性同士が話し合うということは到底できないチキンであるし、おそらく彼女もそうだろう。実際は携帯でも話すほどの関係でもないのだが。
「今日の英語の小テストどうだった?」
できれば聞きたくはなかった。テストがあることをすっかりわすれたので、結果は見るまでもない。
「まあ、ぼちぼちだな」
「わたしはコンシダーしてパーフォームしたわ」
「そうか、おめでとう」
「ありがとう、そっちは勉強がんばってね」
ひどい言い方だ、considerもperformも今日の小テストで出た問題だった。当然分からなかった。
「そうそう、男子たちに言っといてくれない? 私のことをえっちな目でみるのはやめてって」
「冗談言うな。そんなことができると思っているのか」
俺のクラスでの立ち位置は隅のほうである。いや、隅のほうというよりは存在していることを認識しているのかどうかも怪しいレベルだ。そんなやつがそういうことをする野郎に対して何を言っても、届かないのは分かっているはずだ。
「そういうことは俺じゃなくて、もっと活発な奴に頼めよ。えーと……伊藤だったか……佐藤だったか……」
なんとか籐はクラスの中心的な女子だ。誰にでも明るく好かれているので、こういう頼みごとはそいつにすべきだ。
「冗談いわないでよ。それに斉藤さんよ」
お返しだ。彼女は今は普通に話しているが、クラスの中で誰かと話しているところはあまり見たことがない。デートの誘いを受けていたときには、しどろもどろに返事を返していたのを思い出した。結局断ったらしい。
「ああもうこんな時間。早く帰らなきゃ。こんな根暗男といつまでも一緒にいるのは嫌よ」
太陽が沈み始め、いよいよ暗くなってきた。彼女は帰り支度を始めてので、俺も始める。
「そうだな、俺はいつまでも地味女と一緒にいるほどやさしくない」
「じゃあ、また放課後に」
「ああ、また放課後に」
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根暗な男女のたわいもないやりとりです