No.541699

ほむら「捨てゲーするわ」第四話

ユウ100Fさん

ほむら「捨てゲーするわ」第三話(http://www.tinami.com/view/536304 )からの続きです。
今回はついにイレギュラーことおりキリも参戦…!?
毎度の事ながらキャラ崩壊でシリアスかコメディかどうか半端な話が続いてますがご容赦下さい。

2013-02-08 21:16:49 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:6980   閲覧ユーザー数:6923

「う~、暗殺暗殺…」

 今、美国織莉子を暗殺する為に全力疾走している私は、中学校に通うごく一般的な女の子。強いて違うところをあげるとすれば、魔法少女だって事かナ―。

 名前は暁美ほむら。ほむほむって呼んでほしい。美樹さやかにそう呼ばれたら間違いなくはったおすけど。

(美国織莉子の契約と魔法少女襲撃事件は密接に関係している。それがまだ起こっていない今、人間のまま仕留められるチャンスね)

 美国織莉子にまどかを殺されて以来、私は彼女に注意を向けていた。そして分かったのは、件の事件が起きた時は大抵彼女の暗躍を意味するという事。

 そして、何より…そうなる前に仕留めておくのが楽だと言う事。今までの周回で実行しなかったのは、彼女たちとの遭遇率が極めて低かったから。しかし、そんな悠長な事は言ってられない。

 時間停止の私の魔法は暗殺にもってこいだ。正直この周回では手を汚したくはないのだけど、仕方ない。

(この周回はとにかく楽しく、まどかと過ごす…美国織莉子、あなたは邪魔なのよ)

 のちに起こるまどかへの厄災の発生率は低くとも、自分の理想の為にはここで潰しておくべきよね。その為なら魔法ニートを自称している私とて、自分の力を使う事も辞さない。

(美国織莉子の家は間もなく…さあ、あなたの罪を数えなさい)

 携帯のマップを見ながら、事前に調べて印を付けていた地点へと急ぐ。

…私は結局、何をするにも中途半端だった。何もしないと言っておきながら、マミを(ついでとはいえ)救ってしまっていた。

 それは、私の本来の目的から考えると、酷く矛盾した行為だ。

 今夜はそれを思い知る事になるなんて、この時は考えなかった。

 

(…これは、また…)

 美国織莉子がどんな身分かは知っていた。先ほどニュースを行っていた際に耳にした言葉、自殺…そこから察せられる事情と目の前に起きている自体はぴったりと合致する。

(税金泥棒、嘘吐き、汚職議員…まあ、市民感情としては仕方がないのかもしれないけど)

 洋風の豪邸を囲む白壁には、そんな最もらしい中傷がスプレーやペンキで書かれている。色合いと人間感情の醜さの双方を目にした気がした。

(…私には関係ない。まどかに危害を加える人間なら、これくらい)

 白壁は高いとはいえ、魔力で矯正した体なら楽に越えられる。監視カメラなどに備えて時間を停止しておき、屋敷内に侵入するまでは解除しない。

 幸い、と言うべきか。窓ガラスは無残に割られている場所の方が多く、邸内に侵入するのは用意だった。時間停止を解除する。

(真っ暗ね…みんな眠ったのか、それとも電気を止められているか)

 こんな洋館で明かりが点いていないとなると、とても不気味だ。魔法少女が幽霊を怖がるなんて滑稽だけど、私は元々臆病な人間なわけで…なので、軍御用達の暗視スコープを付けた。緑色の視界には明かりが無くともくっきりと邸内が見える。

(サイレンサー、良し。万が一の為のフラッシュグレネードもある)

 盾の中から最も必要な物をすぐに取り出せるようにする。戦いを放棄したとはいえ、そう簡単に勘は鈍らないものね。私の用心深さはまだまだ捨てたもんじゃない。

『ホムラチャン!』

…とか思っていたら、携帯が音を立てる。音というよりまどかの声だけど。着信音と言えばこれよね…ってそうじゃない。

(…そもそも、あいつが契約していたとすれば、未来予知で誘い込まれている可能性もあるわけで…私、全然用心深くないじゃない…)

 携帯をマナーモードにしつつ、軽く頭痛を覚えながらも、屋敷内を捜索する。

 ここまで来たら、手ぶらで帰るのも癪じゃない…。

 私は自分の間抜けさを認められず、目的達成の為に動く事にした。

(…無駄に部屋が多い…面倒くさい…)

 見た目通りの部屋の多さに捜査は難航した。

 とりあえず入口に近い部屋から…という感じでしらみつぶしに数部屋を確認したけど、人が居ない。出来るだけ物音は立てないようにしているけど、携帯も鳴らしてしまったし…ああ、私ってほんとバカ。

(一番奥の部屋を確認したら帰ろうかしら…)

 最後、廊下の突き当たりに面した部屋がまだだ。奥を一番最後にしたのは逃走されるリスクを減らす為…だけど、こうして奥が残ると袋のネズミという言葉が思い浮かぶ。それが美国織莉子を指すのか、私を指すのか…まあ、なんとかなるでしょう、うん。この周回ではもう変に考えないようにしよう。

 ドアを開ける際も片手で防御をするように、ソウルジェムを庇えるように開く。開かれた部屋で、暗視スコープ越しに見えた光景は―。

 

「ひっ」

 

…美国織莉子が居た。それも、シーツで自分自身の体を包むようにして、怯えているのが目に分かる状態で床に座り込んでいた。

「…美国織莉子、よね」

 私がそう言うと、彼女はまたびくっとして「ひっ」とだけ言った。

 間違いない。こいつが、まどかを―!

 そう考えて私は銃を取りだそうとし…なかった。

「あ、ああ…」

 どうやらこの美国織莉子は契約していないらしく、魔法少女姿に暗視ゴーグルという怪しさ満点の私を前にしても、変身どころか縮こまっているだけだ。その気になれば、素手でも仕留めるのは容易そうだ。

「…」

 そう、いつでも仕留める事は可能だ。躊躇する理由も無い。

(…何? 今更人殺しが怖いの?)

 私は、目の前の殺されるのを待つだけの、無力な存在をじっと見ていた。

―違う! 惨めなこいつの姿が面白いだけだ、私は『良い人』なんかじゃない!

 まどかの言葉が、笑顔が脳裏に過る。そんなまどかを守る為に、殺せばいいだけの話だ。私、私は…!

「あ、あ、の…」

「…!」

 じっと立ちつくし、見つめてくるだけの私に、今度は美国織莉子から声がかかってきた。

「な、なにか、用ですか…もう、家には金目のものなんて…」

「…はあ?」

 美国織莉子は私を強盗か何かと勘違いしている。

…いや、それが順当か。そもそも、それ以外でこの家に入る人間なんて、私くらいのもので

 ガチャーン パリーン ギャハハハ!

 その時、外から何かが割れる音と、不快な笑い声。

「…何?」

「ひ…ああ…」

 振り返る私の背中から、悲痛なくぐもった声。いや、そんな情けない声を出している場合じゃないでしょうに。

…あの若者たちが行っているのは、義憤なんて響きが良い物じゃない。自分以下だと思い込んでいる相手になら何をしてもいい、そうとしか考えていない下衆だ。

「…私には関係ないけど、止めなくていいのかしら。犯罪行為には通報する権利があるはずだけど」

「けん、り…?」

 今も外からは破壊音に笑い声。他人事とはいえ、気分が良い光景じゃない。

…いや、通報されたら面倒なのは私も同じなのだけど。考え方によっては、私は何て事を言ってしまっているのか。

「…権利なんて、無いです。嘘つきの言葉なんて誰にも信用されません」

 権利。嘘つき。信じてもらえない。

 その言葉と自殺、家の惨状が全て結びつく。ほとんど予想通りだったとはいえ、少しため息が出た。

「…本当に何もしないのかしら、汚職議員の娘さん?」

 私の口からは、恐らく外で暴れているような連中と同じような言葉が出てくる。まどかを殺された恨みからの蔑みだったけど、美国織莉子はただ震えていた。

「…そう、嘘つきの娘は同じ道を辿るべきなんです。どうして、私は生きているんだろう…もっと早く、そうするべきだったんで」

 かちん、と時間を止める。

 もちろん、美国織莉子を殺すのに時間停止なんて必要ない。

 私は部屋を出て、玄関口から外に。

 すると十分な広さがある庭に、如何にも…な若者三人が居た。

 一人は窓ガラスに石を投げており、一人は庭に置かれている置物をバットで殴っており、もう一人は…外壁の裏側にスプレーで罵詈雑言を並べ立てていた。

 醜い。あまりにも、醜すぎる。

 私は美樹さやかのように正義感が強いわけでも、まどかのように不正に立ち向かう強さも無い。特に、今はそうだ。

 今の私は、ただ感情のみで動いている。気に食わないものは全部排除しようとしている。

 盾の中からスタングレネードを三つ取り出し、馬鹿共の目の前に一つづつ信管を外し、手放して空中に設置する。時間が止まった世界において、私の手を離れるという事は制止する事だ。

 そのまま美国織莉子の部屋まで戻り、時間を戻す。

 ギャー! ウワー! メガァー!

 一瞬強烈な光が放たれ、ついで愚者たちの悲鳴が聞こえる。

…これなら、白豚退治の方がまだマシね。

 あの時は鼻歌交じりに狙撃を楽しんだけど、今は何の達成感も無い。

 ここに来た目的も達成されないだろうから、当然かもしれない。

「…? な、何…?」

 突如家を襲っていた人間たちが悲鳴を上げだしたので、美国織莉子は自分が言っていた言葉の続きも忘れて、状況の変化に混乱していた。

 まあ、近距離でアレを食らったのだから…生身の人間にとっては燦々たるものだろう。自業自得という言葉を勉強するいい機会と思ってもらおうかしらね。

「あなた、死ぬの?」

「え?」

 座り込む美国織莉子に私は冷たく言い放つ。

 それならそれでいい。むしろ好都合だ。

「死にたいんでしょ? それなら、はい」

「…えっ? こ、これは」

「それをこめかみに当てて、引き金を引くだけ。痛みは一瞬、すぐに楽になれるわ」

「あ…」

 私が渡したサイレンサー付きの銃を受け取った時点で、彼女は意図を察した。何故この国に銃が…なんて野暮な事は考える暇も無いようだ。

 震える手で銃を握り、ゆっくりと自分のこめかみに当てた。

「あ、あぁ…」

「…さようならね、美国織莉子」

 万が一私に向けて撃ってきてもいけないので、さり気なくソウルジェムだけは庇うように盾で覆う。

 がくがくと震えが強くなっている。顔は絶望と恐怖、後悔と魔法少女にとって最も危険な感情がオンパレードの如く浮かんでいた。

「…はぁ、あ」

「…早くなさい。それ、私の持ち物なんだから、さっさと終わらせて返して」

「…あぁぁぁぁぁ!」

 意を決したように叫ぶ美国織莉子。

 それを冷たく見つめる私。

 サイレンサー付きの銃はどこまでも静かで。

 その発砲音が夜の豪邸に響く事は無かった。

「はぁ…ただいま」

 ため息と共に私は自宅に戻る。深夜を迎えた我が家はみんな寝静まっていて、とても静か。

「あっ、暁美さん!」

…のはずだったのに、ドタドタと私を騒がしく迎えてきたのは、マミだった。

「…いや、なんであなたがここに」

「ずるいわ暁美さん! 親友である私を差し置いて、佐倉さんを家に招くだけじゃなくて…ど、同棲までさせてるなんて…!」

 マミは顔を赤くしながら「信じられないわ!」と近所迷惑も甚だしく言い放つ。美国家からようやく帰ってきたっていうのに、これだ。

 私はこれからの事も考えると頭が痛かった。親友にグレードアップしている立場がそれに拍車をかける。

「…わりぃ、ほむら…アタシも結構抵抗したんだけどよ。マミさん、一度こうなると全然聞かなくて…」

「…マミを助けたのは手柄だけど、連れてこいなんて一言も…マミ、さん?」

 続いてげんなりとした杏子も出てくる。実に面倒くさそうではあったけど、その口ぶり…どうやら、マミとは和解できたみたいね。

「あ、いや、それは!」

「うふふ、この子ったら助けてくれた後、随分と可愛くてね…ってそんな事はいいのよ! 暁美さん、またはぐらかそうって思ってもそうはいかないわよ!?」

「…さり気なく、マミさん酷くない…?」

「あっ、ごめんね、そんなわけじゃなくてね? ただ、あなたも大切だけど暁美さんは私を救ってくれた恩人っていうか…ね?」

 ちらり、と頬を染めながら私に横目を向けてくるマミ。

 どうしようかしら…この人、ここまで鬱陶しいキャラになるなんて予想外だわ。

「同意を求められても困るわ…とにかく、ゆまちゃんを起こさないように居間に集まって。こうなったらもう、帰れなんて言わないわ…面倒だから」

「さっすが暁美さん! 私、きちんとお泊りセット持ってきてるから安心よ!」

(やべぇ、追い出したい…)

 私が邪険に追い払おうとしないと悟ると、マミはあっさりと機嫌を直す。物分かりがいいというよりも…愚直と言うべきかしら? 

 愚かなまでに真っ直ぐで分かりやすい。愚かな、という部分を強調したいわね。

…まあ、今夜の私の愚かさとはいい勝負かもしれないわね。

「何だか疲れている暁美さんの為に紅茶を入れるわよ! 佐倉さん、ティーカップを三人前!」

「なあ…マミさんってこんな人だったっけ…」

「お気持ち、察するわ…」

 やけに元気なマミに辟易する私と杏子。

 誰かが居る家に憧れたけど、やはりそれは適性人数を守らないといけないらしい。私はまたため息を吐いて、居間に向かった。

「…それでね、私は暁美さんに命を救われたの。その時の暁美さんが格好良くて…はぁ」

 とりあえず私が話そうとしたけど、マミが見事にしゃしゃり出てきて杏子に私との出会いから今に至るまでを聞いても無いのに説明する。

…最後のため息の時、私をうっとりとした風に見てくるのは…思わずゾクっとした。貞操の危機を感じるわ。

「…なるほどねぇ。もう気にするだけ無駄だとは思ってたけどさぁ、あんたは結局アタシたちの何を知ってるんだ? マミさんを止めた時や、アタシを差し向けた事…まるで未来でも見えてるみたいじゃねえか」

「…当たらずしも遠からず、ってところね」

「またそうやって煙に巻くような…いくらなんでも、そろそろ手の内や考えについて教えてもらいたいもんだけど」

 相変わらず、この子は鋭い。しかも精神力も強いせいか、なかなか引き下がろうとはしない。

…いや、今だから引き下がろうとはしないのかしら。彼女は自分に利があると分かれば、本当なら余計な事までは気にしないはずだから。

 マミを助けた事だってそうだ。私の言葉を信じての行動なのは明白だ。つまるところ…私を信じたいから、こうやって追求しているのかしら?

「まあまあ、いいじゃない佐倉さん」

…そして、元来こうした事を気にするマミが、今はコレである。

「いいって…マミさんも不思議に思わないの? 自分が助けられた事とか、どう考えても普通じゃ…」

「いいえ、よくよく考えれば…筋は通るもの。暁美さん、私たち、どこかで会った事は無い?」

「…マミ、あなた…」

 それまでの言動からは想像もできない、核心をつくマミの言葉。私は思わず彼女の顔を食い入るように見つめてしまった。

 真剣な眼差しで私を見るマミ。ごくり、と続きの言葉を待った。

「…やっぱりね。暁美さん、私たちはどこかで会った事があるの。それはいわば、円環の理に導かれたのよ!」

「「………は?」」

 同じく固唾を飲んで見守っていた杏子もぽかんと口を開いた。

「ええ、そうよ! 私たち魔法少女は因果で繋がっている! 円環っていうのは繰り返す運命を司る言葉、魔法少女というのは例えその身が滅しても魔法少女として蘇り、繰り返す定めなのね…そして運命の分岐点で巡り合ったのが私たち、前世での仲間…ぶつぶつ」

(違うわ、間違っている…)

 ところどころ私のループを思わせる単語が混じっているのに、それは真実とマミの妄想がごちゃ混ぜになった、いつもの病気に早変わりした。

「…あー、こうなったらマミさんはしばらく戻ってこないから…何だかまたどうでも良くなったし、あんたの話に移るか」

「…そうね。まあ、大した話では無いのだけど」

「…そして私はあそこで死ぬ運命を覆してしまった…! これは暁美さんとの誰も知らない物語が幕を開ける序章に過ぎないのね!」

 一人で盛り上がっているマミのおかげで、一応話を逸らせた…のかしら?

 ともかく、この周回では無駄に自分語りをして、話を大それた方向に持ち込むつもりは無い。

(…捨てゲーのつもりがそこそこ良い方向に向かっているのは癪だけど)

 自分を捨ててやってきた事が無になり、目的を捨ててやってきた事が徐々に形になりつつある。何と言うか、釈然としないわね。

 でも、私は変わらない。まどかと楽しく過ごして、ワルプルギスが来れば次に行く…それだけだもの。

「とりあえず、居候が増えるとだけ先に言っておくわ…いや、捕虜と言うべきかしら」

「なんだそりゃ?」

「またしても因果に導かれた仲間が!?」

 マミはまだどこか遠くを見てたの…やっぱり追い返した方が良かったかしら?

…まあいいか。今から紹介する居候が変な事をする可能性を想定すれば、共通の敵として教えておく方が無難だしね。

「よっこいしょ」

「「」」

 盾に収納していたソレを出す。要領は杏子を連れてきた時とほぼ同じ。

「う、うぅ…」

 私の盾から出てきたのは、忌まわしい事にマミに次ぐ乳脂肪分を持つ女…気絶している美国織莉子だった。盾に収納する時のあの弾力、許すまじ。

 突然現れた面識のない少女の姿に、妄想の世界に居たマミですら唖然とした。

「とりあえずこの家のごくつぶしになる予定の美国織莉子よ。あ、杏子、何か変な事しようとしたら○していいから」

「お、おま…どういうことだおい…」

「…あ、暁美さん…私と佐倉さん、鹿目さんだけじゃ飽き足らず、まさかこの子まで…は、破廉恥だわ!」

「それだけは全力で否定させてもらうわ」

 仮にまどかに真っ先に手を出すとして、気の迷いで杏子やマミに浮気をしたとしても、この女にそんな事をするつもりなんてない。あってたまるもんですか。

「…なあ、あんたは何がしたいんだ…? アタシらを連れてきて、こいつまで…どこにいくんだ…?」

「こ、こうなったら私もここに住むしかないじゃない!」

「質問は一人ずつにしてちょうだい。それと、マミ、あなたは自宅があるから却下よ」

 そんなぁ…とどさくさに紛れてとんでもない申し入れをしてきたマミを一蹴しておく。まあ、たまにならこの際検討してもいいけど、そんな事を言ってしまえば凄く面倒が増える気がした。

「…まあ、私にだって気の迷いくらいはあるの。とりあえずこのごくつぶしが変な気にならないように、見張ってちょうだい、杏子。どうせ魔女退治までは暇でしょ?」

「暇なのは否定しねえけどよ…変な気ってなんだよ?」

「魔法少女の契約よ。逆に言えば、それ以外なら特に止めなくていいわ。死にたいって言ったらオススメの自殺スポットを紹介してあげて」

「おい、ちょっと待て…契約の阻止はともかく、そんな嫌な案内はごめんだぞ! 目覚めが悪すぎるだろ!」

「うんまい棒買ってあげるから」

「わりにあわねぇ! せめてバラエティーパックでよこせ!」

 意外と安上がりね、と思っていたら先ほどあれほどうるさかったマミが、マジマジと美国織莉子の顔を見つめていた。

「…綺麗な人ね…目の下のクマが凄いし、何だかやつれているけど…これはなかなかの逸材?…ジュルリ」

(…マミの家に預けてみようかしら)

 不穏な言葉を呟くマミは涎を必死にこらえている。いっそマミに丸投げも…と思っていたら、美国織莉子が「う、うーん」と呻きだした。これは目覚めフラグね。

「ちょっと二人で話したいから、あなたたちはもう寝なさい」

「えー、私もこの子と話したい…」

「アタシはどっちでもいいけど」

 まあ、別に居てもいいんだけど、私の失態をこれ以上誰かに見せたくないという本心がある。

…殺すべき相手を連れ込んだ情けない私を、晒し者にしたくないだけとも言うけど。

「布団が足りないから、私のベッドを使っててもいいけど」

「いくわよ佐倉さん、寝不足は美容の大敵よ!」

「え、アタシは別にゆまの隣で…ってマミさん顔こわっ!?」

 失礼ね!と憤慨しながら去っていくマミの後ろ姿に私は「どんな顔をしてたのよ…」と聞きたいような聞きたくないような気持ちになる。

…程なくして寝室から「暁美さんの枕ハスハス!」と「いつものマミさんじゃなーい!」という声が聞こえた気がした。明日はゆまちゃんにベッド周りの全部を洗濯してもらおう。

「…ここは?」

 むくり、と起き上がり虚ろな目で部屋を見渡す美国織莉子。

 殺そうと思えば一瞬で終わりそうな、隙だらけの…魔法少女で無い、一般人の姿がそこにあった。

 むしろ、魔法少女であったなら何としてでも息の根を止めていたけど。

「お目覚めかしら、お嬢様?」

「!?…あ、あなたは…」

 私の顔を見た直後、美国織莉子には記憶がフラッシュバックしたのだろう。

 腰を抜かしたまま後ずさりする姿は、自分を殺そうとした人間の家で行う行動としては、極めて滑稽だった。

 §

 

『あぁぁぁぁぁ!』

 美国織莉子は叫び、その引き金を…引けなかった。

 サイレンサー付きとは言え、発砲音が完全なる無音かといえば、そうでもない。

 だから、本当の意味で私の銃は終始無音だった。外では馬鹿共が喚き散らしていたけど。

『…それが答えかしら?』

『…私は、まだ…死にたくない…嘘つきなまま…何もできないまま…!』

『はぁ…結局こうなるのね。先に忠告しておくけど、ちょっと痛いわよ』

『え』

 ゴッ、という鈍い音が鳴り、私は銃と気を失った美国織莉子を盾の中に格納した―。

 

 §

「…とりあえず、命を奪うつもりは無いわ。信じてくれなんて言うつもりも無いけど」

「…あなたは、何者? どうして、私を?」

「質問は一つずつにしなさい。そうね、とりあえず私の事を簡単に教えてあげようかしら」

 一応この女は頭だけは良かったはず、と思って要点のみをかいつまんで話す。

 私が魔法少女である事。魔法少女はどういうものかという事。ついでに名前も教えた。

「…つまり、暁美さんは魔法少女で…魔女を倒してて、でも魔法少女が絶望に負けると魔女になる…ですか?」

「大体そんなところよ。で、私はどうしてあなたに会いに行ったと思う?」

「…」

 沈黙が続いたので、分からないものと私は判断した。

「…あなたを殺す為よ、美国織莉子」

「ひっ…!?」

 あの屋敷と違って外からの干渉が無いせいか比較的落ち着いていた美国織莉子は、そこでまた身の危険を感じて怯えだした。

 まあ、これくらいの脅しをしておかないといけないわよね。こいつは、魔法少女になった時点で私の倒すべき敵となる。

…まあ、それを連れ込んでいる私は、傍目からは全く理解されないでしょうね。

 何を隠そう、私でさえ自分の行動は御しがたかった。

「ああ、別に今すぐ殺すつもりは無いわ。あなたを殺す条件が揃ってしまえば、殺さなくてはいけないけどね」

「あ、う…」

「逃げても無駄よ」

「ひ、ぁ」

 腰を抜かしたまま後ずさりを続けるので、私はいつでも殺せるアピールの為に時間を止めて後ろに回り込む。

「条件はたった一つよ。あなたは何があっても魔法少女にはならないで。それを破った、もしくは破る素振りを見せたら…どんな言葉も受け付けず、あなたを殺すわ。今、あなたは魔法少女になる気は?」

「あ、わ、たしは」

「さっさと答えなさい」

「な、なりま、せん…死にたくは、ないです」

「そう。それならいいわ」

 私は立ち上がり、彼女に正対するように座り込んだ。まだ恐怖が抜けきっていない美国織莉子は、動悸も荒く私を見つめていた。

 

―そう、これはまどかを守る為だ。美国織莉子が魔法少女になれないなら、まどかに危害を加える力も無い。だから、こいつを監視下に置く為にこうしてる。それだけだ。

 

 私は自分の心にそう折り合いをつけた。そもそもこいつを殺す事で全てのリスクを回避できるのに?という矛盾は、この際目を背けよう。

 最もらしい理屈があれば、私の性格は納得が出来るだろうから。

「…どうせ、あんな状態の家では落ち着けないでしょう? せめて何をどうすればいいか、それが決まるまではここに居てもいいわ。もちろん、条件を守る事は前提よ」

「…なんで」

 私は最後にそう言うと立ち上がり、寝ようとした…けど、美国織莉子は震える声で私に尋ねてきた。

「なんで、私を匿うのですか? 殺すなら、いつでもできるのに」

 まあ、それは誰もが思う事でしょう。

 もしも私がこの状況を客観的に見れるとしたら、私の行動には辛辣なツッコミを入れていたに違いない。

 あなたはどこまで愚かなの、暁美ほむら…とね。

 そして、こう言い返すだろう。

 

『捨てゲーだから、いいでしょ別に。最後までまともにプレイするのが疲れたのよ』

 

「あなたは言ったわよね? 自分の言葉なんて誰も信じないと」

「ええ…」

 立ち上がったまま、座り込んだ美国織莉子を見下ろしながら私は冷たく言い放つ。

 家に連れ込んだ状況で言っても説得力が無いかもしれないが、こいつへの感情…恨みまでは変わっていない。

「そして、あなたは死にたくない、生きたいとも言ったわね?」

「はい…」

 私はこいつを信じない。こいつは嘘を言っている。

 そう思っているから、こんな行動を取った後でも冷たくなれる。

「私はそれを、嘘を信じた。だからあなたは生きている…嘘吐きのあなたに相応しい状況じゃなくて? 生きたいという嘘があなたを生かすなんて傑作だわ」

「…暁美、さん」

「あなたの分の布団は無いから、ソファで寝るように。毛布くらいは貸してあげるわ…ここには優しい幼女が居るから、余計な心配をかけない為よ」

「…?」

 私は押入れから毛布だけを出して、ぶっきらぼうに美国織莉子に投げつけた。これで、もう話す事は無い。

…これでまどかに危害が加わったら、さすがの私も魔女になるかもね…。

 激しい自己嫌悪に苛まれながら、私はただまどかに会える明日を願って眠りに就いた。

「…う、うぅーん…違うのよ、まどか…これはあなたの為であって…決して女の子を囲ってウハウハなんて…う、はっ!?」

 がばっ、と私は勢いよく悪夢から目覚めた。

(び、びっくりした…今の家の現状を見たまどかに『女の子だったら誰でも良かったの!? こんなの絶対おかしいよ! ほむらちゃんの変態!』って罵られる夢を見たわ…あんなに顔を真っ赤にしたまどかにそんな事を言われたら、私…)

…。

……。

………ちょっとだけゾクゾクしてしまったわ。

 まどか、恐ろしい子…!

「聞いてよゆまちゃん…私、怖い夢を…ってあら?」

「…うーん、暁美さん、らめぇ…女の子同士でそんなの…嫌じゃないけど…ばっちこい…」

 昨日はとりあえずベッドを占拠されていたという事で急遽ゆまちゃんの布団にもぐりこんで、それで隣には可愛い幼女の寝顔があるはずで…でも、現実はそうでは無かった。

 幼女とは不釣り合いの乳脂肪というデッドウェイトを持つ女、マミが私の横で寝ていた。

「や、止めてよ…私、美味しくないから…チーズみたいな味がするから、本当に…」

(…チーズって普通に食べられるじゃないの…何の夢を見てるのよ)

 マミは未だに夢の中なのか、変な寝言を言いながらうなされていた。というか、何で彼女がここに?

…ああ、そうか。昨日はマミが杏子にくっついて押しかけてきて、それで私は…。

 だとしたら、昨日の事は夢じゃないんだろう。いっその事夢オチにしてもらって、そして今日こそ暗殺に励みたいくらいだ。

 現実を確かめるべく、ちゃっかり私に抱き付くように寝ていたマミを引っぺがして、居間に。

(…まあ、夢オチなんてそんなに都合よくなるはずも無いわね)

 居間に置いてある実はお気に入りのソファの上で、美国織莉子は毛布を被ってすうすうと今でも寝息を立てていた。

 相変わらず頬がこけてクマもくっきりと残っているけど、うなされている様子も眠りが浅いふうにも見えない。

 間違いなく、熟睡している。頬を軽く引っ張ってみたけど、口元をむぐむぐと動かしただけで起きる気配は無い。

「…はぁ…本当に自殺でもしてくれないかしら」

 それだと私のした事は無駄になるわけなんだけど、その方が気が楽になるのも事実だ。これは、紛れも無く本音。

「何怖い事言ってんだよ…」

 そんなため息交じりの呟きを居間に入ってきた杏子はしっかりと聞き届けていたようだ。その呆れた顔からは「お前が連れ込んだんじゃねーか」というツッコミがありありと出ている。

 ええ、分かってますとも…。

「おはよう、杏子。珍しく早起きね?」

「おはよ。まあ、いつまでも年下のゆまが毎日一番早く起きて、メシを作ってくれているってのもね。手伝うくらいはしなきゃな」

「殊勝ね」

 そういう杏子の手にはお盆。その上には朝食と思わしき卵の出し巻きが乗っていた。うーん、ゆまちゃんは本当に次の周回からは連れ込むのが必須かもしれないわ。まともな食事を続けていると、ゼリーに戻るのは抵抗がある。

「というか、アタシは自殺スポットへの案内なんて御免だからな? それ以外なら手伝ってやるけどよ」

「…あなた、随分と変わったわね。丸くなったというか」

「そんなんじゃねーよ…ただ、あんたはアタシたちを助けてくれた。でも、アタシたちは分かりやすい対価は持っていない。出来る事はしてやるってのが筋ってモンだろ?」

…彼女は口ではそう言っているけど、変わっていないなんて思えない。

 だって彼女は、そんな恩義を感じて素直に口に出来るほどの余裕なんて、今までは感じられなかった。義理堅いのは今までのループで何となく察していたけど、生きる事に精一杯という感じで利己的に振る舞ってばかりだったはず。

 まあ、私の気まぐれのおかげで知った人間が不幸になるよりは、ちょっとだけでも幸せになる方が私の精神衛生上でも良いだろう。

「…それじゃあ、昨日言った通りしばらくはこの女を見張っていてちょうだい。私が帰ったら私が見るようにするけど、変なマネ…特に契約に関係する事に首を突っ込もうとしたら、いいわね?」

「…あんまり気乗りはしねえけど、分かった。あんたがそんな顔をするんだ、よっぽどこいつの契約は不都合を生むんだろうよ」

 恐らく、今だけ昔の顔つきに戻っていたんだろう、と思う。

 杏子は嫌そうに顔を歪めながらも、私の雰囲気に気圧されて頷いた。

「ええ、頼むわ…となると、出来るだけ外出はさせないようにすべきね」

「まあ、そうだろうな。見たところしばらくは起きないと思うけど、起きたら外には出ないように言っとくよ」

 ええ、と私は返事をして、とりあえずこの事で頭を悩ませるのは止めた。

 杏子は、こうして自分から切り出した事は反故にはしないだろうという信頼からだ。この子ほど利害が絡んだ状態で頼りになる人間は居ない。

「キョーコ、次はおみそ汁を運んで…あ、ほむらおねえちゃん、おはよう!」

 恒例となったエプロン装備の幼女…もとい天使のゆまちゃんが居間に顔を覗かせながら、元気に挨拶してくれた。

 うーん、やっぱり朗らかな幼女の存在は癒しね。増してそんな子が率先して家事をしてくれる…まどかと結婚したらこんな娘が欲しい。

「おはよう、ゆまちゃん。ごくつぶし分のはどうせしばらく起きないだろうから、ラップにでも包んでおいてちょうだい」

「ごくつぶし?…そのおねえちゃんの事? ゆまも起きた時つんつんしてみたけど、全然起きないね」

「まあ、疲れていたんでしょう。変な事をしようとしたら杏子が許さないだろうけど、あなたの邪魔になるようならいくらでも叱ってくれていいのよ」

「そんな事しないよー…でも、ほむらおねえちゃんって優しいんだね」

 お茶碗に盛られたご飯をちゃぶ台に起きながら、ゆまちゃんはにこにこと笑いながら私に話しかける。

…まあ、まどかと幼女には優しくするように心がけているけど。でもこんな穢れなき笑みを向けてもらえるような、立派な人間とは口が裂けても言えないような気がするわ。

「そんな事無いわよ」

「ううん、そんな事あるよ。キョーコがね、朝起きてきたら『ほむらはどうせ認めないだろうけどよ、あいつは困っている人間を放っておけないお人よしなのかもな』って」

「ばっ、それは内緒だって言っただろ!?」

「キョーコ、照れてるー」

 真っ赤になってゆまちゃんに抗議する杏子だけど、その顔はわずか数日前に比べて相当丸くなっていた。私を見ると途端にバツが悪そうな顔になるあたり、この子は…。

(…昨日のやり取り、聞かれてたのかしら。まあいいけど)

 一応二人だけで話したいとは思ってたけど…まあ遅かれ早かれ、監視を頼むつもりだった杏子には詳細を話すつもりだった。問題無いわね、うん。

「ふわぁ~…おはよー…」

 そして朝ご飯の匂いを嗅ぎつけたのか、牛がのそのそと起き上がってきた。

 今でも自分をしっかり者のお姉さんと思っているあたり、今日は誰よりも早く起きて食事の支度でもしてくれるんじゃないか…などとお姉さんキャラのテンプレをわずかにでも期待した私の姿は、お笑いだったでしょうね。

 元・頼りになるお姉さんは誰よりも睡眠を貪ってからの起床だ。

「う~ん、いい匂い…和風の朝食なんて久しぶりね…」

「おはよう、マミさん。よく眠れた?」

「おはよう、マミおねえちゃん。今日はね、ご飯と卵焼きとみそ汁だよ」

 おはよう、とみんなに挨拶を返しながら座るマミ。この人は集団生活だと意外と堕落というか、抜けたキャラになるのかもね、と全くセットされずにほどかれたドリルヘアーの跡を見て思った。

 ほら、クラスに居た…あのワカメみたいな子の髪がさらに激しくウェーブしたような髪型になっている。

「おはよう、暁美さん。おかげでひっさしぶりに熟睡できたわ…暁美さんの抱き心地…じゃなくて、家って落ち着くのよね」

「それはどうも…というか、あなたはベッドで寝てたはずよね? 何で私の布団に潜り込んでいたのかしら?」

「ゆまも居たよ! 朝起きたらね、マミおねえちゃんがほむらおねえちゃんを抱っこするように仲良く寝てたよ?」

「あら、うふふ…暁美さんって甘えん坊さん?」

「今の会話の流れを私のせいにできるなんて、随分と友達が欲しくないようね?」

「すみません、調子に乗りました…はい、夜中に起きた時に布団で寝ていた暁美さんを抱き枕にしたのは私です…」

 切り札をちらつかせると、マミは驚くほどあっさりと事実を認めた。まあそんな事だろうとは思ったけど…貞操は大丈夫よね、うん。私は軽く自分の体を見回して違いを確認しておいた。

「マミさんって甘えん坊だからね…昔お泊りした時も」

「あら佐倉さん、あの時みたいに私の胸が恋しくなったの?」

「ち、ちげーし! 大体、あれはマミさんが先に泣き出して…」

「マミおねえちゃんのおっぱいってママみたいだもんねー」

 かつて私の家で沸き立つ音と言えば、テレビのニュースか最低限の生活音のくらいのものだった。最初に杏子とゆまちゃんが来た時も、少し話し相手が増えたくらいで、どちらかと言えば静かな生活だった。

…それがどうしてこうなったのか。

 マミと和解したと思わしき杏子は随分と口数も多くなり、当然妹分のゆまちゃんもそれに倣う。みんなの中で会話は弾み、見ているだけでも良かった私も当然それに巻き込まれるわけで…。

(…はぁ。気を紛らわしたかっただけなのに、ここまで騒がしくなるなんて聞いてないわよ…)

 挙句の果てに美国織莉子というごくつぶしまで加わって、今日の学校が終わった後の生活を考えると、捨てゲーした世界とは思えないくらいの気苦労がありそうだった。

「みゃん」

「…ええ、もちろん嫌じゃないわ。エイミーもご飯にしましょうか」

「みゃ~ん♪」

 愛猫だけにまんざらでもない本心を打ち明けて、私はキャットフードの準備をした。

「ほむらちゃん、今日は難しい顔をしてたね」

 帰りのホームルームが早々に終わり、私の安息の時間は終わりを告げた。

…今からごくつぶしも居るであろう自宅に戻るのだから、そりゃ難しい顔もしているでしょうね。

「別に調子が悪いわけじゃないから。ちょっと夜更かししてただけよ」

「うん…でもね、ただ悩んでいるだけじゃなくて…なんて言えばいいのかな」

 帰りのホームルームが終わってから自発的にまどかが私の元に来てくれるあたり、順調な流れなのは間違いない。

 だけど、この周回って無駄に予想外が多いというか…おかげで、まどかの事だけを考えるようになるには、問題もあった。

「ほむらちゃん、ちょっと楽しそうにも見えるんだ。ほら、楽しくてはしゃぎすぎて疲れるみたいな?」

「ええ、あなたと話していると楽しくてはしゃぎたくもなるけど、疲れるとは思えないけどね」

「そういう事じゃないんだけどなぁ…」

 まどかは私の言葉にも随分順応したのか、自分の言いたい事はしっかり言ってくれるようになった気がする。それは喜ばしい事だ。

 

―でも、次の周回からはまた距離を置かないといけないのよね…逆に自分を苦しめてる気もするわ…。

 

 私は結局、まどかを救うにしても自分の息抜きにしても、思うようにいかない運命でもあるのかしらね…。

「まーどか、そろそろ行こうよー」

 そんなまどかを急かすように美樹さやかが離れた場所から、ワカメっぽい子と一緒に呼んでいる。

「あ、うん! 今行くからちょっと待ってー!」

「今日は美樹さやかとワカメちゃんと約束があるの?」

「ワカメって…というか、本当ならいっつも一緒に帰ってたんだけどね。あ、別にほむらちゃんに連れ回されるのが嫌っていうわけじゃないよ!?」

「ええ、分かっているわ」

 あなたは私の嫁だもの…と弱弱しく続ける。

 ああ、ダメだ…美国織莉子のせいでまだ本調子になれない。あの女、私の思考まで邪魔するなんて…これはもういっそのこと始末すべきなのかしら。

「…ほむらちゃん?」

 そんなこの周回では見せた事の無い昏い反応を見せてしまったせいか、まどかは心配そうに私を見てきた。

…どちらかと言うと、こっちの方が本当の私なんだけどね。

 まどかに見せた好意に嘘偽りはないけれど、敢えて少し明るく振る舞った感はある。そうしたかったのは事実だけれども、今のテンションではそれを維持するのは難しい。

「ああ、ごめんなさい。いつも私にばかり付き合せるのも悪いもの、今日はみんなと楽しく過ごしてきてね。あ、もちろん明日からは私がまどかを独占するわよ?」

「…ほむらちゃん、今日も一緒に行こう?」

「…え?」

 私の本気交じりのほむジョークにもまどかは真剣な態度を崩さない。ジョークにマジレスとかwwwなんて言える雰囲気じゃなかった。

「あ、今日は一緒って言っても、さやかちゃんと仁美ちゃんも一緒だよ?」

「…あ、いや、その…私、あの二人とはそこまで仲良くないっていうか」

 今まで好き勝手してまどかを翻弄していたっていうのに、今の変なところで気弱になっている私に対して、まどかの妙な押しの強さは立場を逆転させるには十分だ。

「私の友達はほむらちゃんの友達だよ!…それに、明日はお休みだから、私を独占できないよ? だから、今日一緒に行こう?」

「ちょ、ちょっとまどか…そんな事言われたら、本当に私はあなたを手放さないわよ? 夜も眠れぬスーパーまどっちタイムがティロフィナーレ?」

「いつものほむらちゃんならちょっと引くけど、今のほむらちゃんなら少しくらいはいいよ…さやかちゃん、仁美ちゃん、お待たせ!」

「え、ちょ、まどかぁー!?」

 まどかは意味深な事を言いながら、私の手を引いて二人のところまで歩いて行く。

 そのまどかの力強さに、私は自分が引っ張られっぱなしだった頃の世界を思い出していた。

「それで、結局暁美さんはまどかさんとはどんな関係ですの?」

「親友であり恋人であり嫁ってところかしら?」

「ま、まさかこんな身近でキマシタワーが建つなんて思いませんでしたの…!」

「一番最初のはともかく後の二つはなんだかおかしいよ!? それと仁美ちゃんキャラが違うよね!? ねえ!?」

 結局まどかに引っ張られて参加した寄り道で、私とまどかはわりといつも通りの関係に戻っていた。

 もちろん対人関係の構築が下手だった私は最初こそ戸惑っていたものの、まどかの後押しと『まあ捨てゲーですし…』という諦念でこうなりゃやけよなるようになれだわもうまどか大好き!とテンションを強引に上げたら、何とか輪に入れた。

「…転校生怖い転校生怖い…」

…一人を除いて。

「ううっ、ほむらちゃんが何だか落ち込んでいるからって思ったから誘ってみたのに…結局いつもと大差無いよ。さやかちゃんはほむらちゃんに怯えきってるし…」

「嬉しいわまどか私をそこまで心配してくれていたなんて。これはもうまどかのお父様とお母様に挨拶しに行かないといけないかしら?」

「さやかちゃんはスルーなんだね!?」

「さやかさんは『転校生の側に居ると知らないうちに殴られたような痛みが思い出されて震えが止まらない』そうですの」

 ワカメ…もとい志筑さんの言う通り、美樹さやかは私に殴られたような記憶があるものの証拠が無い為、痛みだけがトラウマとして残っているらしい。そのおかげでこれである。

…個人的に彼女が苦手とは言え、これはちょっと…まあいいか。

 私は三秒で罪悪感が消えていった。

「まあ、このところ立て続けにいろんな事があったもんね…さやかちゃんにはショックが大きかったと思うし…」

「まどかはこんなにもクールなのにね」

 ぎゅっ、とまどかに抱き付くと「ほ、ほむらちゃん、そういうのは人目が無いところで…」と顔を赤らめる。可愛すぎわろた。そして「キマシ!」という声がどこからか聞こえたような気がするわね。よし、人目が無いところではもっとすごい事をしてみよう。

 まあ、それは置いといて。

『マミ』

『ここに居るわ!』

 今はちょうどみんなでモールのファーストフード店に来ているわけで、どうせ尾行しているはずのマミを呼び出すと、案の定離れた席に座っていた。他のみんなは気付いた様子は無い。

『白豚は?』

『復活しないようにリボンで縛って拘束中よ!』

『わけがわからないよ! 君たちはどうして魔力の無駄遣いをしてまで僕の妨害するんだい!?』

 その後も抗議を続ける白豚の声は華麗にスルーし、マミの首尾を確認。

 結局のところ、わざわざ殺さなくても復活できずに拘束し続ける方が効率的と判断した私たちは、四人で出かける時になった時に打ち合わせておいた。

 そして意外にも、ごねると思ったマミが快く尾行と妨害を承諾してくれたのは意外だったわね。

『ナイスよ。そのまま解散まで付かず離れず、拘束を続けてちょうだい』

『アイアイサー!…ところで暁美さん』

 いい返事ね…と褒めそうになったけど、その直後に急に甘えたような声音になった事でぞくっと私は身震いをした。

『今日のご褒美なんだけど』

(もうご褒美をもらうこと前提なのね…想定内だけどどうしてこうなった…)

 ええ、魔法少女は見返りを求めるくらいでちょうどいいのだけど、でもこう露骨だと…あげても良い物をあげたくなくなるのは、人間の性とも言うべきかしら。

『また今日も泊まりに行っていい? 明日お休みだし、佐倉さんともつもる話もあるし、美国さんとも話してみたいし…』

『(そうきたか)…まどかが無事に帰るまでヘマをしなければ、許可するわ。一度でもミスをしたら無し、いいわね?』

『楽勝よ! さあ、ぼっちの私を気にせずしっかり青春を堪能するといいわ!…ぐすん』

 張り切っているようでぼっちを強調するあたり何というか…すっかり欲望に正直になっている牛ね。

 まあ一応これで取引はしたし、今は契約の心配をせずに楽しみましょうか。

「ほむらちゃん、身震いしてたけどどうしたの?」

「ええ、何でもないわ…無償の愛なんて幻想よね」

「え?…ほ、ほむらちゃん、たまに難しい事言うね…」

「…あたしは、あると思うけど」

 私が再確認した事を口に漏らすと、それまで怯えてばかりだった美樹さやかが食い付いてきた。

 本気でそう思っているからこそ、いつもあんな結果になっているんでしょうね、この鎧人魚。

「あ、それって上条くんの事?」

「な…きょ、恭介は関係ないし!」

 好きな男の話題になると、これだわ。

 まどかの振りに待ってましたとばかりに顔を赤くし、途端に元気になる美樹さやか。

「…」

 そしてそれを黙って聞いている志筑さん。

 ああ、これはフラグね…まだ美樹さやかは魔法少女にはなっていないけど、何となく分かる。

 どうせこの世界でも、この馬鹿は恋の争いに負けるんでしょうね…。

「な、なにさ? あたしの顔をじっと見て」

 憐みの視線を向けていたけど、さすがは馬鹿だけあって気付かない。

 どこまであなたは愚かなの、美樹さやか。

「無償の愛は無償と思い込んでいる自分に浸れるのが対価よね、と思ってただけよ」

「な…よ、よく分かんないけど、馬鹿にしてるでしょ!?」

「さ、さやかちゃん! ほむらちゃんも喧嘩はダメ!」

「そうですわ…暁美さんの言う事にも一理ありますもの」

 私の指摘に食い付いてくるあたり、殴られるトラウマはもう解消できたのかしら? さすが馬鹿、恐怖もすぐ忘れられてさぞ楽でしょうね。

 まあ馬鹿はどうでもいいとして、志筑さんが私の肩を持ったのは意外だったわね。正直、今までの周回でもあまり話した事は無かった。名前もワカメで覚えていたくらいなのに。

「仁美まで転校生の肩をもつのかよ…まどかもそうだけど、こんな奴のどこがいいのさ」

「ほむらちゃんはちょっとだけ、ちょーーーっとだけ変だけど、とってもいい子なんだよ?」

「どこらへんがが?」

「………優しいよ、うん!」

「今の間は何!?」

「まどか、そんな風に思ってくれるなんて嬉しいわ…!」

「あんたも今のリアクションで良かったのかよ!?」

 まどかの勿体ないほどの褒め言葉に私の涙腺は緩みっぱなしだ。美樹さやかはそんなまどかを疑っているんだから、やっぱり愚かね。

「…暁美さんの話ではありませんけど、わたくしは見返りを求めるのが悪い事だとは思いませんわ。さやかさん、求めないと手に入らない物をただ待ち続けるのは、美徳とは違うのではないでしょうか?」

「へ?…あー、ごめん、何の話をしてたっけ?」

 私とまどかへのツッコミに忙しかった美樹さやかは、志筑仁美のただ一人だけ浮いている真剣な言葉の理解が追い付かなかったらしい。美樹さやかって、ほんとバカ。

 それはそうと、こんな場でそんな事を言うなんて志筑さんもなかなか空気が読めない…もとい、やきもきしている部分はあるんでしょうね。

 まあ、美樹さやかの恋路に関しては私の管轄外だ。この子が契約する事でまどかとの付き合い方も変えないといけないのだけど、今回はもう真実を伝えているし、その上で契約するようならマミに押し付ければいいでしょう。

「…わたくし、申し訳ないのですけど、今日もお稽古がありますのでという話ですわ。折角の楽しい時間の腰を折ってしまい、申し訳ありません」

「あー、そんな事…あたしら友達じゃん。仁美が忙しいのなんて知ってるって」

「ええ、本当に大切なお友達ですわ…もちろんまどかさんと、それに…暁美さんも」

「いえ、私は別にそんな」

「ほむらちゃん?」

「ええ、私たちは友達に決まっているじゃない」

(まどかが振り回されているように見えるけど…結構転校生って手綱が握られてるのかな?)

 否定しようとしたけど、笑顔で圧力をかけてくるまどかに私はあっさりと折れた。受け身のまどかももちろん良いけど攻めてくるまどかもいいわ…ああ、色んなまどかで溢れる私のダイアリーが今日も埋まる。

「それではみなさん、ごきげんよう」

「じゃーね、仁美」

「またね、仁美ちゃん」

「志筑さん、ティロ・フィナーレ」

 何それ…と突っ込んできたのは美樹さやかだけで、後のみんなはこの謎の挨拶にも朗らかに笑っていた。

「またね、さやかちゃん!」

「おう、まどかも気を付けてねー。転校生に変な事されたらすぐ連絡するんだぞー」

「失礼ね…じゃあね」

 あれから私たちはファーストフード店を出て、美樹さやかの要望でCDショップに寄ってから、そこで別れる事にした。何でも、美樹さやかには用事があるとかなんとか。

「さやかちゃん、好きな子のお見舞いに行くんだよ」

「そうでしょうね」

 周回を重ねる毎に様々な発見があったわけで、その中で美樹さやかが失恋がきっかけで魔女化するのを見てきた。嫌でも分かるという事ね。

「あれ、ほむらちゃん知ってたんだ?」

「一応ね。あなたの事はその数倍くらい知ってるつもりだけど」

「とりあえずそれは怖いから聞かないでおくね…」

 まどかに関する情報はパソコンやタブレットと言ったデジタル端末だけでなく、ノートといったアナログでも記録している。それを披露しようと思ったけど、まどかが乗り気で無さそうなので止めておいた。

「…さっきね、ほむらちゃんが言った事だけど」

「まどかのお父様とお母様への挨拶? もちろんいつでもスタンバイOKよ」

「そっちじゃないよ!? ほら、もうちょっと後の…無償の愛っていうの」

「ああ…確かに言ったわね。まどか、あなたは優しいから分からないかもしれないけど…無償の愛なんていうのは、多分幻想よ。大抵の場合は愛情を向ける相手に喜んでもらいたいから、という感情があるわ」

「…うん、分かるよ。私だって、子供じゃないもん…いや、子供かもしれないけど」

 まどかの事だから「無償の愛なんてあるんだよ! ほむらちゃんに教えてあげる☆」と言うと思ったんだけど…何だか随分冷静ね。この冷静さを今のマミに分けてあげたいわ。

「美樹さやかは真っ直ぐすぎるのよ。恋を実らせるなら、多少の計算だって時には必要だと私は思う…ごめんなさい、まどか。ちょっと似合わない事を言ったわね」

「ううん、そんな事、無い…」

 夕日が照らす歩道の隣に車道があるのに、今は車が一台も走っていない。何だか、結界の中に迷い込んだような、異世界に来てしまったような気分になる。こんな浮ついた気持ちは久しぶりね。

 だからなのだろうか。

 まどかが、私の手を握ってきたのは。

「…まどか?」

 足を止めたまどかに手を握られ、私の歩みも当然停止する。

 まどかの手は細く小さい。少し力を入れたら砕けてしまいそうに見えるくらいに。

「ほむらちゃん、さやかちゃんの事…心配してくれているんだよね?」

「えっ」

 開いた口が塞がらない、とはこの事だ。

…なんで私が、美樹さやかの心配を?

 話がまったく見えない。

「ほむらちゃん、さやかちゃんにはきつく当たってるけど…あれは、さやかちゃんの為に私たちが言えない事を言ってくれているんだよね?」

「…あのー、まどか? 私はただ、思ったままの事を言ってるだけよ?」

 これは紛れもない私の本音だった。

 彼女の恋路を応援するなら、もっと魔法を効率的に使い、それこそ強制的にくっつけているわけで…なので、どうでもいいから好き勝手言ってるだけなのに。

「ううん、本当に分かってるから…ねえ、ほむらちゃん」

 まどかはこう見えて頑固なところがある。私がなるなと言っても自分で決めたら必ず魔法少女になるくらいには。

 だから、私の話は全く聞いていないと言ってもいい。まどかは自分の信じる道しか、実は歩いていないのだ。

「明日、時間はあるかな?」

「明日って…お休みよね? 私は暇だけど」

「ほむらちゃん、一緒にお出かけしてくれる? 相談したい事があるの」

「お出かけ? 私と? 二人で?」

 こくん、とまどかは頷く。

 これは、その…つまり。

「…私とデートしてくれるって事でいいの?」

「…この際相談に乗ってくれるならそれでもいいよ…ほむらちゃんと遊びに行きたいのも嘘じゃないし…」

「え、え…えぇぇぇ!?」

 いや、確かにそのうちデートに誘うつもりでしたけど!

 でもこれは一体…何のフラグがあってそうなったの!?

 まどかとのデートに行き着くまでのプランは二ケタ程度の数は想定していたけど、これは無かったわよ!?

「ほむらちゃん、目が怖いよ…もしかして忙しいとk」

「そそそ、そんなわけないじゃない! よ、よろ、喜んでお付き合いさせていただく所存です!」

「ほ、ほむらちゃん落ち着いて…それじゃあ、待ち合わせ場所だけど…市民公園でいいかな?」

「問題ありません! えと、えーーーっと…ど、どこか行きたい場所はありますか!? きゅ、休憩できる場所とか!?」

「あ、あの、あくまでも相談したいのを忘れないでね? あ、メールアドレス交換しよ? 時間は家に帰ってから連絡するから」

「あ、アドレスまで…? まどか、私…わたしぃ!」

「な、何で泣くのほむらちゃん!? 私おかしい事言ったかな!?」

 デートの約束まで取り付けて、メルアド交換まで…!

 今までろくに出来なかった事が一挙に、さらにまどかから言ってもらえるなんて…嗚呼、素晴らしきかな捨てゲー周回。

 時間を止めて電話帳抜けばいいんじゃね?と思った人は廊下に立ってなさい。人には越えてはならない一線があるのよ(キリッ

「…これでよしっと。ほむらちゃん、また後でね!」

「ひゃ、ひゃい! メール、お待ちしていますわ…」

(口調が変だよほむらちゃん…)

 分かれ道、まどかの姿が見えなくなるまでその背を目で追い、完全に見えなくなった後に、私は力強くガッツポーズをした。

「たっだいまー♪」

 昨日とは打って変わってノリノリで家のドアを開ける。今日は昨日みたいに特に重苦しく感じる事なんてなにも

 

 ガシャーン、パリーン!

 ああっ、ごめんなさい! 織莉子、だいじょうぶ!?

 

…と思っていたのに、聞こえてくる音に不安が湧きたたずにはいられない。

 何かが壊れる音に加えて、謝る声と心配する声が響く。私が帰った事にはまだ気付いていない様子だったので、恐る恐る台所を覗いた。

「す、すぐに拾います!」

「素手だと危ないよ! ゴム手袋探さないと!」

「は、はい!」

 すると予想通りの光景が広がっていた…いや、約一名ほどは予想外とも言うべきかしら。

 床には落としたと思わしき真っ白なお皿が無残な姿に割れており、それを拾う為にゴム手袋を探すゆまちゃんと…割れた陶器を前に今も素手で拾おうかどうか悩んでいる美国織莉子が居た。

「…どういう状況かしら?」

「あ、ほむらおねえちゃんおかえりなさい! 危ないから踏まないようにしてね!」

「暁美さんすみません! 今すぐ拾いますから…痛っ!?」

「織莉子!」

 私の姿を認めた美国織莉子は素手である事を忘れたのか、慌てて割れた破片に手を伸ばし、切ってしまったようだ。ぽたり、と血の雫が床に落ちる。

「あなた…」

「ご、ごめんなさいごめんなさい!」

「ほむらおねえちゃん、織莉子を怒らないであげて!」

「…いや、別に割れたお皿は気にしてないけど…」

 それよりも今の状況を、と聞こうとしたらゆまちゃんがゴム手袋を付けてお皿の破片を拾い出した。なんというか、手際が良い。家事に関しては私よりも優れているのはこの短期間でも嫌と言うほど理解できた。

「おねえちゃんは織莉子の怪我を見てあげて。ゆまがお掃除しておくよ」

「な、なんで私がこの女の手当を…」

 一応連れ込んだのは私ではあるけど、こいつに必要以上の事をしてやるつもりは無い。水で洗い流せばいいだろう、と突き放そうとした。

「…ダメ?」

「っ―…美国織莉子、早く来なさい。特別に手当してあげるわ…」

「は、はい…」

 でも、四つん這いになってお皿を拾っているゆまちゃんに見上げるような視線を向けられ、私は折れざるを得なかった。

 幼女の懇願を断るとか無理ゲーだわ…。

 私は苦々しく美国織莉子の腕を引き、救急箱がある居間へと引き込む。

(そうだ杏子に押し付けよう…と思ったら寝てるし…)

 居間ではどうせ杏子が暇そうにしてるだろうから彼女に…と思ったんだけど、珍しくソファに座っていると思ったら、エイミーを抱きかかえるようにして眠っていた。

 初めは怯えていると思ったエイミーも、今ではすっかり杏子に懐いたらしい。逃げる様子も無く気持ちよさそうに寝ていた。

「ああもう、どいつもこいつも…」

「すみません…」

 私が行き場の無い苛立ちを口にすると、美国織莉子が謝罪してきた。返事はせずに救急箱を探す。魔法少女になってあまり縁がない存在に思われがちだが、無理して魔力で治すよりは自然治癒の方が節約になる。むしろ、魔法少女になってからの方が怪我への治療には敏感になった。

「ほら、さっさと切ったところを出す!」

「こ、ここです…」

 すっ、と出した指先はそれなりに深かったのか、まだまだ血が滴っている。正座していた美国織莉子の膝にまた一滴、血が落ちた。

「結構深いわね…消毒ガーゼで拭って、絆創膏じゃなくて傷パッドのほうにしておきましょうか」

「…ありがとうございます」

「…勘違いしないで欲しいんだけど、私はあなたが約束を守っているから手当をしているのであって、もしも破るようなら怪我では済まないのよ。それは忘れないように」

「はい」

 私が慣れた手付きで手当てを始めると、美国織莉子は謝罪を止めた。

…もしかして、見透かされているのかしら。だとしたら腹立たしい。

 かつての魔法少女の時の力を思い出し、私は意地悪く切った部分の開いた傷口にわずかに入り込むように、ガーゼを押し当てた。

「っ…」

(ここかな、それともここかな~?)

 正直まどかには見られたくないような行為に加えて性根でもって、手当という名の嫌がらせを行う。

 ガーゼを掴むピンセットも軽く傷口に触れてみた。

「つっ!」

(ん~? 間違えたかな~?)

 思わず声を漏らした美国織莉子だったけど、私の手当は正しいものと嫌がらせが巧妙に織り交ぜられているのか、真意に気付いた様子はない。抗議の声もあげず、逃げもしない彼女に段々と行為がエスカレートしそうだった。

(…やめましょう。明日まどかと遊びに行くんだし、あまり嫌な気分になる事は避けておく方が…)

 嫌な気分?

 いやいや、美国織莉子に報復できるいい機会であって、別に苦しむ姿を見るのが嫌ってわけでは…。

(誰に言い訳しているのよ私は…)

 それから私は消毒と止血を素早く終わらせ、傷パッドを張り付けて治療を終えた。救急箱をしまってさあどうするか、と思っていたら「あの」と美国織莉子が話しかけてきた。

「ありがとうございました。手当、上手なんですね」

「あなたに褒められても嬉しくないわ」

 座ったまま頭を下げてくる美国織莉子に対し、私はあくまでも素っ気なく突っぱねる。今度は謝罪が飛んでこなかった。

「私、家事とかあまり器用じゃなくて。ゆまちゃんの手伝いをしてても全然役に立てなくて…失敗ばかり」

「…別に聞いてないけど」

 とか言いながら座布団の上に私は座った。自室に引っこめばいいのに、と思いつつも私は同じ部屋に居座る。

 そう、こいつは信用できない。監視していないと油断も隙もない。

 だから、側に置いておく私の判断は間違っていない…いない、はず。

 この自分への言い訳も何度目だろうか。

「でも、役に立てるように頑張ります。まずは暁美さんに信じてもらう為にも…」

「…信じる? 私が? あなたを?…冗談にしては笑えないわね」

 昨日の美国織莉子はまさに病的と言う表現がぴったりだった。

 目の下のクマ、こけた頬、病的なまでに青白い顔…そんな見た目に加えて、あの謝罪続きのたどたどしい喋り方は、精神を病んでいた。

 だと言うのに…まだクマも残っているし、頬だってこけているけど、顔色は悪くない。いや、顔つきが変わったのかしら?

「いいんです、それで。私は暁美さんに助けてもらった理由も分かりませんし、疑われる理由も分かりませんけど…それでも、死ぬよりはマシですから。死のうとした時と、今日ゆまちゃんに言われて分かったんです」

「…あの子が、なんて?」

 こいつと話す事なんてない。聞きたくもない。

 そのはずなのに、私は続きを促すように聞き返していた。

 何かが、おかしい…私にはその『何か』が分からなかった。

「…私の食事を用意してくれたあの子に対して、私はやっぱり自分は死ぬべきだったのか、って聞いてしまったんです。あれだけ死にたくないって思っていたはずなのに、目を覚ましても結局同じ世界があって、私は嘘つきのままで…」

「…」

 私はもう、嫌味を口にする事も無かった。

 美国織莉子の変化を変化に、言動に視線を向けるだけだ。

「そうしたら『ゆまもね、自分が要らない子だって思って、死んじゃった方がいいって何度も考えたよ。でも本当に死にそうになった時、強く生きたいって思ったの。それで、助けてくれたのがキョーコ。ほむらおねえちゃんは温かいおうちとごはんをくれた。織莉子おねえちゃんはほむらおねえちゃんに助けてもらって、それでも死にたいって思ったの?』って。私は、そこでもう一度考えたんです。自分は本当に生きたいのか、何をするべきかって、必死に」

 ああ、そう言えば…いつかの周回で、ゆまちゃんは私たちにそんな事を言った。

 絶望的な状況になって、諦めそうになった私たち。その中で唯一諦めなかったゆまちゃんの言葉。

 私はそこで美国織莉子の変わりように納得した。

 私たちの中で最も諦めなかった子が、彼女にそう言ったのだ。それで変わらないはずは無い、と。

「側にいた佐倉さんも『アタシもね、こいつにそんな事を言われたから、馬鹿だとは思うかもしれないけど真っ当に生きてみるか…って気になったんだよ。諦めずに、ね。で、ほむらはそんなゆまを助けてくれた。アタシはあいつにでっかい借りがあるんだよ…だから、あいつがあんたを殺せ、って言えば、アタシは躊躇は出来ない。あんたにゃ悪いけどさ…』って言ってました」

「杏子…」

 同じ部屋で繰り広げられる美国織莉子の独白にも、気持ちよさそうな寝顔を崩さない杏子。確かに彼女は役目を果たしてくれるでしょうけど…どうせ、凄く嫌な顔で美国織莉子にもそう言ったのでしょうね。

 全く、裏切り者め…うんまい棒は没収する事にしよう。

「…私はきっと、今は死んでいるのと同じです。暁美さんに疑われている限り、私は嘘つきどころか、いつも死と隣り合わせの…人間ですらないと思います」

「…それなら、ずっと死人のままよ。魔法少女と変わらない、ね」

 私の口から出てきた嫌味は、全くキレが無かった。むしろ、こいつの方が嫌味のつもりで口にしたのかもしれない…そう思ってしまう。

「そうかもしれません。だから、私は今の自分に出来る事をします。それで、暁美さんに信用してもらってから、人間として生きれるようになって、これからの事を考えたいと思っています。今すぐなんて言いません。でも、いつかは…」

「…都合がいいのね。ゆまちゃんの足を引っ張っておいて、それで信用してもらおうなんて。美国織莉子、あなたはやはり信用できない」

「暁美さん…」

 そこまで聞いて、私は立ち上がった。こいつと話す事なんて、もう何もない。

 とりあえずは…十分だ。自分が常に死に直面している事を理解している。その上で私の約束を守ってもいた。

 なら、もういい。

「…でも、信用したくないとは言わない。本当に私の邪魔をしないというのなら、約束を守った上で、好きにすればいい。生きる為にも、ね」

「…はいっ。ありがとうございます」

 死人でも魔法少女でも無い、人間の美国織莉子。私の知らない少女。

 別に会いたくはないけど…少なくとも、魔法少女や死人よりはマシなんだろう。

 それなら一度、見てみるのも悪くはないかもね。

「じゃじゃーん、お待たせっ!…ってあれ、この空気は一体…?」

「「…」」

「…んあ、うっせーな…ってマミさん? 何でここに?」

「…みゃあ?」

 タイミングがいいのか悪いのか、やけに多い荷物を抱えてきたマミが居間に入ってきて、杏子とエイミーも起きる。

 突然の状況の変化に、この部屋にいた誰しもがぽかんとしていた。

(落ち着くのよ、暁美ほむら…私は出来る子私は出来る子…)

 翌日、休みの日の昼前。待ち合わせ時間の一時間前に到着し、決戦の時まであと三十分…ああ、どこぞの夜が来た時のカウントダウンが私の頭の中で流れている。

(まどかとデート…それもまどかから誘われた…ウェヒヒ…)

 今思い出しても昨日の…私を誘ってくれたまどかの顔が鮮明に思い浮かぶ。真剣な顔。凛々しくも可愛らしい、まどかの顔…。

(なによ、順調じゃないの…マミにすり寄られて美国織莉子を連れ込んだ時はどうなるかと思ったけど…概ね思い通りね)

 そう、マミを生かした時から私の計画は狂った。変な苦労をしょいこんでしまった結果「あいつ全然休んでないんじゃね?」と疑問に思われているくらいに。

 確かに休むのが目的の周回だったけど、それ以上に「まどかといちゃいちゃする!」というのが重要なのだ。休む事よりも気晴らしが大事なのよきっとそうなのよ、と私は自分に再確認。

(それにしてもまどか遅いわね…ってあと待ちあわせまで二十五分もあるのね。ああもう、緊張しながら待つと待機時間がじれったいわ…)

 私の力は時間を止められるけど、さすがに時間の早送りまでは出来ない。こんな時、自分の無力さを痛感してしまう。繰り返した結果戦い方も安定して、大抵の魔女相手なら問題にはならないと思うけど…。

(…魔女の事は忘れましょう。その為にマミを助けたわけですし)

 そんなマミは今朝出かける私に「一緒に連れてってよー」と駄々をこねてきた。友達という切り札を使って難なく切り抜けたけど、何も涙目にならなくてもいいじゃないの…まあ、お土産に適当なアイスでも買って帰ればこの事も水に流れるでしょう。

(…他の子の事も忘れないと。今はまどかに集中集中…)

 何と言うか、懸念事項というほど大げさじゃないにしても、考えるべき事が絶えないわね…本当に魔女退治をさぼっている以外はわりと面倒な周回になっているんじゃないかしら。

 こうなったらこれ以上の面倒事を増やさないだけだ、と思っていた時だった。

「待たせたかい?」

「待ってたわ!…って誰よあなた。ナンパならお断りよ」

 ベンチに座って考え事をしていた私にかかってきた声に反応すると、そこに居たのは…何と言うか、独特な格好をした女の子だった。顔立ちや髪型はむしろ地味なのに…ってどこかで見たような。

 まあいいか。忘れるくらいの相手ならさして大事な相手でも…。

「私は女だよ。それに私が織莉子以外の相手を引っ掛けるとでも?」

「そうそう、そう言えばあなた織莉子の側に…って!?」

 刹那、私は時間を止めて距離を取った。

 そうだ、思い出した…!

 こいつ、美国織莉子の側にいた魔法少女だったわね。名前は…まあ忘れたままだけど、風貌から辛うじて思い出す。

―どうする?

 時間停止を駆使すれば暗殺も出来るだろうけど、休みの日の公園は人が多い。それに甘えかもしれないけど、まどかと会うのに余計なトラブルは起こしたくないというのも多分にあった。

(…そもそも、美国織莉子とこいつに面識があったなら、家はあそこまで荒れないはず…今のこいつの目的が分からない)

 私はそう考えて、とりあえず時間停止を解除した。

「ちょっと話が…って、あえ?」

 ベンチに座っていたはずの私が消えて自分の横に立っていた事に驚いた。

 だが、それも一瞬だ。

 私の姿を認めると、表情をすぐに崩した。

「なるほど、変なマネをしたら私を殺すのも造作が無いという事だね。分かりやすいのは嫌いじゃないよ」

「…随分と余裕ね」

 にやにやと笑いながら自分の状況を分析していた。

 こいつ、出来る…こんな状況でも余裕を見せられるのは、恐らく何か隠し玉があるという事だろう。一気に私の中の、眠っていた防衛本能が覚醒した。

…結局、魔法少女に休息なんてないのかしらね。

 私は武器を取りだそうか時間を止めようか考えていた。

「実はそうでもないんだ。私の心は正直限界でね、君と話が出来なければ死ぬのもしょうがないと思っている」

「…聞くつもりはとりあえずないけど、話を聞いてもらう態度には見えないわね」

 もっとも、いつでも戦闘を出来るように身構えた私と、変身しておらず構えも見せない彼女では、そのセリフは何だか滑稽だ。どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだった。

「分かっているよ。はい」

「は?…ちょ、ちょっと」

 私がそう言うと彼女は自分の魂(である事を知っているかどうか分からないけど)であるソウルジェムを、私に放った。他人の魂ではあるけれど、条件反射でそれを受け取る。

「これで私は戦いの意思がない事を示せたはずだ。それでもダメというのなら殺してくれても構わないよ。どうせ、これで彼女に会う為の手立てはもうない…それなら死ぬ方がマシだろう?」

「…信じる事は出来ないけど、応じるわ。距離は悪いけれどこのまま話を続けてもらう」

「本当かい!?…ああ、まだ喜ぶのは早いかな。辛うじて命が繋がるかもしれないだけだしね」

(潔い…何者なの? いや、目的はなんなの…?)

 私と彼女の距離は三メートル程度。相手の能力は分からないけど、少なくともこの距離からソウルジェムを奪う事はできないはず…一応いつでも砕けるように手に握り、話を聞く事にした。

…本当は殺した方がいいんでしょうけど。

 私はこの周回だと、もう手を汚すのすら放棄したいのかもしれない。

 あの日、美国織莉子を殺せなかった時から、ずっと―。

「では聞かせてもらうよ…きみ、織莉子の居場所を知っているんだろう?」

「…どこで知ったの?」

「キュゥべえに聞いたら『この屋敷にも魔法少女候補がいたんだけど、どういうわけか姿を消した…いや、争った形跡が無いところを見ると、連れ去られたというべきかな。とある魔法少女がここに来た時以来ね』と聞いてね。それで、問い詰めたら君の名前が出てきたのさ。暁美ほむら?」

 キュゥべえ…?

 あ、白豚の本名だったわね。私が本性をばらしてからはみんなが白豚と呼んでいたから忘れてたわ。

「…なるほどね。もう死んでいる可能性は?」

「それも考慮してる。君が殺したという可能性も考えた」

「じゃあ不意打ちでもすれば良かったんじゃない? 今の私は隙だらけだったでしょう(認めたくないけど)」

「そうすれば生きていた場合、君が織莉子を保護している可能性が出てくる。織莉子を助けた人間を殺せば、織莉子が悲しむ。それは避けたい」

(…なんなの、こいつ)

 はっきり言って、正常な人間じゃない。いや、魔法少女だけど。

 こいつは織莉子が生きているという低い可能性を信じているどころか、織莉子が私に感謝しているという事まで想定している。

 私も事前にプランを考えるのは得意…だと思っていたけど、こいつは自分が死ぬ可能性があっても、実行に迷いがない。退路の確保もしている私とは決定的に違った。

「…私が織莉子を監禁して虐げている可能性は」

「考えたくないけど、考えた。でも織莉子が生きていて、それを確認しない限りどんな状況かは分からない。私は織莉子が生きていて尚且つ苦しんでもいない可能性がある限り、それを最優先で確認したい」

「…質問に答えるわ。織莉子は私の家に居る。客観的に言わせてもらうなら、自宅に居た頃よりも精神的にも安定はしている…信じるかどうかはあなた次第だけど」

 こいつの言う事を聞く必要も、答える必要も無いけど…私は、真実を教える事にした。

 理由は自分でも良く分からない。つまりは、美国織莉子を家に連れ込んだ時と同じだ。

「ほっ、本当!? お、織莉子は元気なんだねっ!?」

「え、ええ…」

 信憑性が無いはずの言葉を、彼女はすんなりと受け取り…目に見えて分かるくらいに、顔を輝かせた。

 さっきもそうだったけど…もしかしてこの子、冷静に見えて、そうでもないのかしら。だからと言って何が変わるわけでも無いけど、何となく、私の警戒は弱まってしまっていた。

「呉キリカ!」

「は?」

「私の名前!」

「…ああ、そう…それで?」

「ほむらちゃーん、お待たせー…って、どちらさま?」

「ま、まどか!? 来てはダメよ!」

「ほえ?」

 呉キリカ…に対して警戒は弱まっているとはいえ、一般人であるまどかからすれば危険な相手に違いない。

 事実、私が一瞬でもまどかに意識を移していたら、彼女はすさまじい速さで動いた。

「!?…えっ」

 その気配に私はまどかの前に立つように動き、呉キリカに視線を向けると…土下座をしていた。

 休日、公園のベンチ前。人通りはあるし、人目もある。しかし、彼女に羞恥なんて微塵も感じられなかった。

「ほ、ほむらちゃん、この人とどんな関係? なんで…土下座してるの?」

「頼むっ! 織莉子に会わせてくれぇぇぇぇぇ!!」

(どういう事なの…)

 状況が分からず狼狽えるまどか。

 ひたすら土下座して嘆願してくる呉キリカ。

 分からない、私の想定した事態のどれにもあてはまらない…でも、一つだけ確かに分かる事がある。

 私の休日、まどかとのデートは犠牲になる…それだけが確定し、がっくりと肩を落とした。

 

 

 

続く?


 
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