No.537087

真・恋姫†無双RELOAD 第四話「終劇」

karuraさん

もう忘れてしまったよ、と言う方も多いことでしょう(汗)
それでは遅くなりましたが第四話投稿です。

2013-01-28 05:33:55 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1697   閲覧ユーザー数:1336

 

 

 

 轟音が大気を切り裂いた。

 射出された弾丸は人体に埋没し、肉を引き裂いてそのまま貫通する。

 肉を裂かれた男は悲鳴をあげて倒れる。

 繰り返されること数度。

 その度に悲鳴が上がり賊たちはその数を一人、また一人と減らしていった。

 

「ひ、ひぃっ!」

「……」

 

 三蔵は銃口を合わせ、引き金を引き、

 

「ぎぃやっ!?」

「……」

 

 剣を躱しながら、拾った武器を叩き込んだ。

 

 どれだけ数が居ようとも、長年乱戦で妖魔を退けてきた三蔵とは鍛え上げたものが違う。

 金山寺を出てより暴漢に襲われることは日常茶飯事。

 そして天竺への牛魔王討伐のために妖魔と戦うこと1年。

 

 すでに三蔵の身体には殺しの術が嫌というほど染みついていた。

 淀みなく身体は動き、その行為に一瞬たりともためらいはない。

 

 自分の前に立ちふさがる敵は殺す。

 なんてことはない、いつもと変わりなかった。

 強いて言うなら賊たちは妖怪よりも遅いし力もない。

 ――物足りなく感じてしまうほどあっけなく、戦闘は終わりを告げた。

 

 賊はその数を五人ほどまで減らされると一人を残して背を見せて逃げ出し始めた。

 三蔵は一瞬眉をしかめると、銃口を上げる。

 一度喧嘩を売っておいて今更返品などさせるわけがない。

 無防備な背中を照準器で睨み、再度引き金を引いた。

 

 ――1人、2人、3人、4人。

 バタリバタリと倒れてゆく屍に変わった彼らを確認してから、

 

「オイてめえ。なんの目的があってこの村を攻めた」

 

 すっかり腰が抜けて立てなくなった残りの賊に銃口を向け、口を開いた。

 

「しょ、食料だっ! 飯が食えなきゃ俺達だって死んじまうんだよ! だから仕方なく……」

「仕方なく? どの面下げて抜かしてやがる。だったらその額に巻いた黄色い巾着は何なんだ」

「こ、これはっ……」

「『蒼天すでに死す。黄天まさに立つべし』、だったか。お前が天だというんなら俺はなんだ? 神か? 笑わせるな」

「い、命だけは勘弁してく……」

 

 返答の代わりに鉛玉を打ちこむ。

 賊は脳漿をぶちまけて仰向けに倒れ込んだ。

 三蔵は額を押さえる。

 

(黄巾党……その実態は賊であるという書は正しかったか。頭の痛い話だ)

 

 冀州にいたとされる張角が太平道を広めて作った武装集団。

 朝廷の権威の失墜によって急速に広がっていったがその弊害か、多くの食うに困った賊の隠れ蓑になっているとされている。

 

(しかしまぁ、随分とワラワラ来たもんだ)

 

 すっかり賊の死体で村長の家の前が埋まってしまった。

 

 煌々と燃える館に転がる死体。

 その光景はほとんどスプラッターハウスである。

 三蔵は誰も息をしていないことを確認して、炎をあげる村長邸に足を向かわせる。

 

 死体を跨ぎ気絶した女性をスルーし、

 三蔵は一層燃え盛る家に近づくとポケットから一本の煙草を取り出し、火を点けた。

 

 ジリジリと燃える紙巻。

 草の焼ける匂いが香り、煙が肺に充満する。

 煙草を口元から放し一息つく。

 

「――――うめえ」

 

 思わずそんな言葉が口を突いて出た。

 誰もいないのに一人と呟いてしまう、それほどまでに我慢してから摂取したニコチンは格別であった。

 煙が風に攫われ、血や硝煙の匂いをともにかき消してゆく。

 

「さてどうするか……」

 

 落ちついた心地で耳を澄ませれば、人の走る足音が聞こえてきた。

 まぁ無理もないか、と三蔵は独りごちる。

 あれだけ派手に拳銃を乱射したのだ、当然他の賊たちの耳にも届いたはずである。

 

(森から攻めてきた数は約五十……あと半数か。弾は……ギリギリだな)

 

 いつも胸元に入れている弾薬箱を開いて中を覗く。

 出来るだけ節約して撃ったとは言えやはり消耗は激しい。

 箱の中で犇めく弾丸を全て取り出し、すぐ充填できるようにポケットに無造作に放り込む。

 

 嫌気がさすような状況で、ふと自分の拳銃を見つめてみる。

 長年連れ添った愛器。

 これと銃弾さえあれば三蔵は誰にだって負けてやるつもりはなかった。

 

 深呼吸でもするように大きく煙を吸いこみ、ゆっくりと吐き出した。

 ―――敵さんの到来だ。

 

 

 

「な、……なんだこりゃあああ!?」

 

 彼らは各々程度の差はあれ驚愕した。

 その目の前の惨状に。

 

 その場に居るのはかつての同僚である死体、気絶した女、燃え盛る家。

 そして場違いなほど身綺麗な法師である。

 これで混乱するなと言う方が無理だ。

 

 賊の一人が身を乗り出し、

 

「お、……オメ―がやったのか!?」

 

 と三蔵に問うてきた。

 消去法であろう、まぁ実際現場には一人しかいないようなものだが。

 

「…………」

 

 その問いには三蔵は応えない。

 ただ紫煙を吐き出し彼らを睨む。

 

 応えた所でなににもならない。

 この場でものを言うのは力、ただそれだけである。

 

 ――ペッ

 

 三蔵は煙草を吐き出すと静かに掌を合わせた。

 

「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子……」

 

 心を空にし、般若心境を読み上げる。

 己の中に埋没し、そこで己を失わないで居られるか。

 世の無常を謳いながら悟りの境地へと至る。

 

 ――これは、魔天経文を発動させるための祝詞のようなものである。

 かつて光明三蔵法師が持ち、玄奘三蔵に譲られた「天地開元」と呼ばれる経文の1つ。

 妖魔を砕く絶大な力を持っておりその力は妖怪を容易く射とめる。

 

 目を閉じ朗々と読経する様は賊になんと写ったのか。

 屍の海で一人佇む法師の経は、賊たちの足を地面に釘付けにした。

 

「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶 ――――般若心経」

 

 般若心経を読み終わると三蔵は瞼を開ける。

 手を合わせた状態で、そのまま一歩足を踏み出した。

 

「おい賊共」

「な、なんだ!」

「遺言はあるか」

 

 悪い癖はどうやら痛い目を見ても治らないらしい、と三蔵は心の中で呟く。

 三蔵の口角が上がったのを見て、賊たちの金縛りは溶けた。

 

「――舐めやがって! ……行くぞお前らァ! アイツを血祭に揚げろぉおおお!」

 

「「「ウオオオオオオオーーーーー!!」」」

 

 賊達は激昂したのか、武器を強く握り突進してきた。

 おそらく村に侵入した賊たち全員であろう。

 一目散に三蔵へと向かってきた。

 

 三蔵は嗤う。

 ――そこは射程範囲だ、と。

 

 双肩にかけた経文に揺らめきが起こる。

 経文は宙に浮きU字形をしていた

 

 幾重にも伸び、三蔵はスッと右手を伸ばした。

 

 

 

「オン マニ ハツ メイ ウン! 魔戒、天浄――――!!」

 

 

 

 経典が縦横無尽に舞い賊たちに襲いかかる。

 

 ここに呪文は完成した。

 

 

 

 

 

 

 なにがおこったのかわからない。

 気絶から目が覚めて、目覚めた時には全てが終わっていた。

 

 目の前に広がるのは人、人、人。

 賊であろう男たちの亡骸がもの凄い数地面にうち捨てられていた。

 

「ど、……どうなったのいったい?」

 

 お坊様に連れられて家を飛び降りたところまでは憶えている。

 しかしそれ以降の記憶はない、気絶してしまったのだろう。

 ふと気になったので村長邸を振り返る。

 

「!? なっ」

 

 そこにはチロチロと燃える家の姿が合った。

 ――そういえば、と凛は思う。

 

「そう……そうよ。家に火が付けられたから飛び降りてその後……。さ、三蔵様は!?」

 

 バッと立ち上がり辺りを見回す。

 だが周辺には三蔵らしき姿は見当たらない。

 死んだ賊たちを踏み越え娘は道へと飛び出した。

 

 すると、

 

「おおお! 凛じゃあねえか! 生きとったか!!」

「お爺ちゃん!」

 

 村長である自身の祖父が手をあげて迎えてくれた。

 

「よかったのう……ほんに運のええことじゃ……」

「ね、ねぇお爺ちゃん」

「うん、なんじゃ?」

「三蔵様はどこにいるか知らない!?」

 

 肩を掴みながら尋ねると少し狼狽した様子で、

 

「お、おぉ。あの坊さんじゃよなぁ。あのお方には本当に感謝しておるわい。

 なんせ村に侵入してきた賊を相手に一人で戦ったってんだから……そらぁもう凄いお方じゃて」

「や、やっぱりそうなんだ。それで、三蔵さまは……?」

「ああ。今丁度三件隣の連ちゃんの家におるよ。なんでも『法衣が汚れた』とか言って洗濯を始めたらしい。

 さすがにワシらが言うてその役を変わらせてもらったがな。

 ホッホッホ、ほんに面白い坊さんも居るもんじゃのう。長生きはするもんじゃて」

 

 そう言ってお爺ちゃんは皺を深めながら笑った。

 本当に面白くて仕方がない、と言うように。

 

「じゃあ怪我なんかもしてないんだね?」

「おおよ。ピンピンしてらっしゃったわ」

「よ、良かったぁ~」

 

 自分のせいで大怪我を負われていたら、と思うと気が気ではなかったのだ。

 それを聞いてようやく凛は胸をなでおろした。

 

 その時にフッと思いだした。

 そういえば、凪たちが迎撃に行った賊はどうなったのだろう。

 

「あぁ、凪らか。あやつらも退治に成功したようじゃの。なんでも、後方に回した奴らが本命じゃったらしい。

 伝令の招が教えてくれたよ。一当てして引いて、村を占拠した賊たちがあやつらに武装解除を求める流れじゃったそうじゃ。

 ほんにあの坊様には足を向けて寝られんわい」

「じゃ、じゃあ村の人たちも……」

「おう、人質にするために殺されはせんかった。まったく、なにが幸運に運ぶか分からんの」

 

 本当に機嫌が良さそうに大声をあげて笑った。

 ひとしきり笑うと満足したのか、お爺ちゃんは踵を返して歩き出した。

 

「それじゃあ、おめぇさんも世話になったんだ。礼くらい言って行きなさい」

「はい!」

「それにもうすぐ出て行った若い奴らも帰ってくるじゃろう――出迎えの支度をせねばな」

 

 どうやら、大した被害もなくみんな助かったらしい。

 自分の家が焼けてしまったのは悲しいが、そんなものはいくらでも変わりがきく。

 一番大事なのはこの村に住む人々の命である。

 それが守られて本当に良かった、と凛は胸を抑えた。

 

(三蔵様……ありがとうございます)

 

 胸の中で一人呟く。

 

 一歩歩くたびに、賊から避難していた村人たちの顔が増えてゆく。

 そう、私たちは助かったのだ。

 喜びが身体中に実感として満ち渡る。

 

 歩きながら、なんの気なしに上空を見上げてみた。

 蒼く広がる空は雲ひとつなく、どこまでも広がっていた。

 

 

 

 
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