No.531777

真・金姫†無双 #8

一郎太さん

という訳で、#8。

祭ねーさん対一刀店長

どぞ。

2013-01-14 18:43:52 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10041   閲覧ユーザー数:7434

 

 

 

#8

 

 

「亞莎!」

「はーい、なんですか?」

 

黄蓋ねーさんの誘いに仕方なしに頷くと、俺は卓を拭いていた亞莎を呼び寄せる。雛里は別卓で客に頭を撫でられ、照れからか目を丸くしていた。

 

「俺ちょっと外すから、調理場任せてもいいか?」

「はやっ!?も、もうですか!?」

 

俺の言葉に、亞莎は雛里とは違った意味で目を丸くする。無理もない。彼女はまだ、料理の練習中の身なのだ。とはいえ、半分程度はマスターしている。

 

「大丈夫だ。串と煮込み以外は、時間がかかるって言っとけば待っててくれるから」

「あぅぁぅ…緊張します……」

「大丈夫。俺が言うんだから、間違いない」

「はぃ…」

 

俯く亞莎の頭を撫でてやり、俺が巻いていた前掛け(エプロン)を渡すと、緊張の面持ちながらも、それを腰に巻きつける。

 

「行こうか、ねーさん」

「応!穏よ、審判をやれ」

「無理ですよぉっ」

 

さて、頑張りますか。

 

「ますたぁ、5番卓に焼きそば2つでーす!」

「ありません品切れですっ!」

「あわわっ!?」

 

……急いで戻らなければ。

 

 

 

 

 

 

3人で連れ立ってやって来たのは、店の裏手。亞莎の鍛錬もする為、それなりの広さもある。2か所に立ててある燭台に火を灯せば、周囲がぼんやりと明るんだ。

 

「ねーさんは剣を使うんだね」

「得意なのは弓じゃがな。まぁ、余興と考えれば、これでも構うまい」

 

ある程度距離を空けて向い合う。ねーさんは立て掛けてあった俺の木剣の1本を手に取って素振りをしている。対して、俺は無手だ。

 

「それよりお主は何を扱うのじゃ?見た限り、そこに立ち並んでおる剣を使いそうなものじゃが」

「死合じゃないんだろ?だったら、少しくらい楽しまないと。それに、ねーさんは酒が入ってるからね」

「はっ、あの程度で酔うものか!だが、手加減は出来ぬかもしれぬぞ?」

「あー大丈夫大丈夫。怪我したら周瑜ちゃんに泣きつくから」

「ちょ!?」

 

そんなこんなで仕合開始。

 

「えっとぉ、それじゃぁ……始めぇ!」

 

陸遜ちゃんの掛け声と同時に、ねーさんが飛び込んできた。

 

「いきなりだな!」

「さて、どう躱す?」

 

そのまま右手を振り、木剣をぶつけてくる。だが、甘い。手加減がバレバレだぜ。

振られる剣に合わせて俺が左手を振るえば、カァアンと高い音が鳴った。明らかに、木剣と素手がぶつかり生じる音ではない。

 

「なんじゃあ!?」

「ふははは!俺は焼鳥屋のマスターだからな。料理人の武器はこれと決まってんだ!」

 

俺の左手には鉄製の中華鍋。右手にオタマ。これぞ戦う料理人の正装である。

 

「でもでも、鉄鍋だったら楯にもなります!」

「……意外と手古摺るやもな」

 

第三者から見たらふざけた格好ではあるが、酔っ払い客との余興であれば、これくらいが丁度いい。俺が敗けたら盛り上げ役のピエロとして、仮に勝ってしまったとしても、色々と言い訳にはなる。黄蓋ねーさんだって先代からの城の重鎮だし、何より店の客だから、機嫌を損ねる訳にはいかない。

 

「そう、思ってたんだけどなぁ……」

「……ほぇ?」

「……」

 

零れた独り言の意味は、俺にしか理解できていない。陸遜ちゃんは大道芸を見ているような表情で首を傾げ、ねーさんは……眼がマジなんですけど。

 

「……本気、ねーさん?」

「無論。お主の演技を明かしたくなってしもうたわ」

「さ、祭様?ますたぁ?」

 

さて、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

「ねーさん、ひとつだけ、いいかな?」

「なんじゃ?」

 

ふざけた格好でも、声音は真面目に問えば、許可が下りる。

 

「俺が学んできたのは、生き残る為の武だ。勝つ為のそれじゃない」

「ほぅ?」

「だから、ねーさんに不満が残る結果になるかもしれないよ?」

「かまわんさ。1対1の武の勝負だ。そこに貴賤などない。勝てば官軍、というであろう?」

「くくっ、確かに」

 

言質は取ったぜ。

 

「じゃ、行くよ?」

「おう、料理の達人の本領を見せてもらうとしよう!」

「うちのばーちゃんには敵わねーよっ」

 

言葉の応酬も終え、今度は俺から飛び出した。

 

「よっ、ほっ、そぉいっ!」

「なんの、ほれっ!手緩いわ!」

 

カンッ、カンッ、と小気味よい音が鳴る。俺はオタマをフェンシングの剣よろしく突き出し、ねーさんは器用にそれを木剣で弾く。しかし、軽さでいえば木剣の比ではないオタマに速度を乗せる事は容易く、ねーさんを攻勢に出させる事はしない。

 

「お主、もしや暗器が得意か?」

「半分正解。俺はなんでも武器にしちまうんだよ……とぉ!」

 

右手だけの攻撃を左手に変え、鉄鍋で死角を作り出した隙に、懐に手を挿し込む。そこから出てきたのは、料理に使う菜箸。親指から薬指にかけて、それぞれの指間にオタマ、菜箸が1本ずつ挟み込まれる。

 

「それで目を抉る気か!」

「そんなグロい事しねーよっ。これは、こうして――」

「むぉっ!?」

 

菜箸でねーさんの木剣を挟み込み、手首を捻ればあら不思議。ねーさんが前のめりに。

 

「甘いわ!」

 

重力と俺の引く力に反抗しようとする姉さんは、脚を踏ん張り重心を下げようとする。

 

「なんてね」

 

至極当然の反応だ。俺もそれに逆らう事はせず、逆に左手の鍋底をねーさんの胸にあてると、タイミングを合わせて思い切り押し出した。

 

「……ととっ」

 

普通だったらそのまま地面に転がるのだが、そこは武人のバランス感覚か。移動する重心に加えて、地面を蹴りすらしたねーさんは宙空に浮くと、たたらを踏みながらも着地を決める。

 

「体術すら使うのか。お主をもっと知りたくなったぞ」

「愛の告白かい?痺れるねぇ」

 

正直、今の合気で終わると思ったんだけどな。

 

「さて、もう一度仕切り直し、と言いたいところだけど」

「む?」

 

最初と同じ位置に相対して立つねーさんに、俺は切り出す。

 

「亞莎がそろそろ悲鳴をあげそうだから、もう終わってもいいかな?」

「なんと!これほど楽しい戦いを途中で切り上げろと言うのか!?」

「祭様ぁ、あまり無理言っちゃダメですぅ」

 

陸遜ちゃんは優しいな。今度その優しさを布団の上で……と、そうではない。

 

「言うと思ったよ。だから、次で終わらせる」

「ふっ、よいだろう。じゃが、儂の勝ちで終わらせるぞ?」

「さて、どうだろうね?」

 

敗けるのは悔しい。かといって、勝つのも憚られる。ならば、これしかない。

 

「じゃぁ」

 

俺は菜箸を懐に戻して、オタマと中華鍋を構えた腕を胸の前で交差させると、

 

「行くぞ」

「えっ…きゃぁあっ!?」

 

その腕を広げると同時に得物を放ち、煌々と燃え盛る燭台に向けて投げつけた。そのうちの一つは陸遜ちゃんの顔横をすり抜け、それぞれの燭台は火花を散らせながらも、その役割を終えさせられる。

 

「そう来たかっ!」

 

次の瞬間には裏庭は暗闇となり、灯りの残滓が、視界の黒の中を煌めく。

ねーさんは俺の意図を分かっているようだ。だが、その時には俺は駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

「穏よ、聞こえるか?」

「はいぃ…見えないけど、聞こえますぅ……」

 

暗闇の中、ねーさんの声と、陸遜ちゃんの返事が聞こえる。

 

「もう少し待っておれば、すぐに目が慣れる。そのままでいろ」

 

明るい場所から、一気に光が消えたんだ。相対的に、視覚を闇が襲う。夜歩きながら見ていた携帯から目を離せば、何も見えないように。しかし、それもすぐに戻るだろう。今夜は晴れていたからな。

 

「……うぅ、段々目が慣れて来ましたぁ」

 

陸遜ちゃんの言う通り、俺達の視界にも色と、星光に照らされた自分たちの姿が捉えられるようになってきた。ただし、俺とねーさんは既に互いの状況を理解していたが。

 

「どっちが…って」

 

ようやく俺達の姿を認めた陸遜ちゃんの目が、驚きに見開かれる。

 

「判定じゃ、審判」

 

そして下されるのは。

 

「ひ、引き分け、です……」

 

俺は菜箸をねーさんのこめかみに突き付け、対してねーさんは、逆手にもった木剣の切っ先を俺の喉に当てている。

 

互いのプライドを守りつつの、終幕だった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

…………あれ?

 

 

なんでシリアスっぽく終わっちゃってんの?

 

 

いやいや、一郎太の作風はこんなんじゃねーだろ。

 

 

という訳で、次回はなんとかギャグに戻せた……と思いたい。

 

 

ではまた次回。

 

 

バイバイ。

 

 

 


 
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