No.522222

ガールズ&パンツァー 私は副官である ~聖夜編~

tkさん

エリカさんが素敵な女性であると信じて。
そしてまほお姉さんのファンの人ごめんなさい。

2012-12-24 00:53:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1338   閲覧ユーザー数:1302

ガールズ&パンツァー 私は副官である ~聖夜編~

 

 私は逸見エリカ。黒森峰女学園、戦車道チームの副隊長である。

 そして私はこの名と今の立場に誇りを持っている。

 

「………」

 今、私の隣に立ってショーウィンドウを無言で眺めている女性は西住まほ。私達の隊長であり、私が心から尊敬している人である。

 この人の端正な顔立ちと鋭い眼差しは、思わずため息が漏れるほどの凛々しさを私に感じさせる。同姓にこの様な感慨を抱くなんて我ながらおかしいとは思うのだけど、どうにもならないのだから仕方ない。

「参ったわね」

「何がですか?」

 半ば隊長の答えが分かっていても私はそう尋ねる。

 それが私の役割だという事は誰よりも理解している。

「みほは、何をもらえば喜ぶのかしら」

「…なんでもいいんじゃないですか? 隊長の贈り物なら喜ばないはずはないでしょう」

 しかめそうになった顔を何とか保ち、当たり障りの無い返答を口にする。

「エリカ、今日私が貴女を誘った理由は言ったわよね?」

「妹に送るクリスマスプレゼントを選ぶ手伝いをしてほしい、でしたね」

「今の貴女は職務を放棄している様に見えるのだけど?」

「私は私で色々考えていますよ。本当です」

 嘘は言っていない。

 もっとも、プレゼントなんかより隊長のことを考えていたのだけど。

「なら、いいのだけど」

 ため息をつきつつ隊長は別のショーウィンドウへと移動し、私もその後についていく。

 

 私は誰よりも西住まほという隊長を敬愛している。しかし、その彼女が誰よりも気にかけているのは私ではなく妹の方だ。こと戦車道において迅速な判断力と大胆な行動力を持つこの人だが、自分の妹に関してだけは優柔不断で臆病なのだ。

 まったくもって忌々しい。私はあの子が嫌いだ。姉ほどではないにしろ優れた才能を持ちながら、それを活かす事無く黒森峰から逃げた臆病者。目先の事に捕らわれ勝利を放り出した愚か者。西住という名誉ある家に泥を塗った不埒者。そして私が何より許せないのは、それでも妹を想う姉の苦悩に気づこうともしない愚鈍さだ。

 

「遊園地のチケットはどうです? 今時期ならクリスマス企画もありますよ」

「…駄目ね。私はほとんど行った事がない。妹にリードされるのは姉として問題があるわ」

「いえ、別に隊長が同行するのではなく友人と行かせれば…」

「何が悲しくてあの子が他人の毒牙にかかる危険を増やさないといけないの?」

 いや、毒牙って。

「クリスマスという時期にそんな所へ行かせてみなさい。飢えた野獣どもがあの子に目をつけない訳が無いでしょう? 声をかけてきた男が万が一でもあの子の手を握ってみなさい。私はその男を義弟にしなければならなくなるのよ?」

 手をつないだだけで結婚まで行ってしまうのが西住流なのか、それともこの人が過保護なだけなのか。

 どちらにしろ古風な人だ。だがそれがいい。

「ご友人がいるなら大丈夫なのでは?」

「100%の信頼は置けないわ。貴女ならともかく」

 信頼してもらえるのは嬉しいですが、私は絶対にご免です。

 

 ため息をつきつつ、視線をぬいぐるみコーナーへ向ける。

 ふと、私はその一角にあるワゴンに目がいった。

「…隊長」

「何?」

「あれはどうでしょう?」

 ワゴンに山と積まれていたのはあんこうのぬいぐるみだった。きっと売れ残りなのだろう、何度も修正された値札がそれを物語っている。そういえばあの子が戦車に使用していた不細工なトレードマークもあんこうだった。まったく、誇りある黒森峰の校章を捨てた挙句あんなふざけた物を使うなんてどうかしている。隊長もさぞかし嘆いているに違いない。私がそんな感慨を抱いていると。

「………いいわね」

「えっ!?」

 冗談半分で口にした私の提案に、隊長はいたく感心していた。

「愛嬌もあるし、あの子はこういうのが好きだったわね」

 迷わずその不細工なぬいぐるみを手にとって見つめる隊長。

 しまった。そういえばこの姉妹の趣味は少々特殊だった事を忘れていた。

「これにするわ。ありがとう、エリカ」

「…光栄です」

 本当は反対したかったが私にはそれができなかった。

 本心からではないが私が提案した物だし、何より。

「そういえば、あの子の戦車のトレードマークだったわね」

 普段は決して緩む事のない表情と引き締まった眼差し。西住流の家元としての矜持と誇りに満ちた鋼の意思。

 それが、今この時だけは喜びにほころんでいたのだ。どうしてそれを曇らせる事ができるだろう。

 

 西住みほ。私はやっぱりあの子が嫌いだ。

 私の敬愛する人がもっとも愛情を注ぐ相手を、私は好きになれない。

 

「予定より時間が余ったわね。エリカ、この後の予定は?」

「ありません。今日は隊長にお付き合いするつもりでしたので」

「そう。なら息抜きも兼ねて少し買い物でもしない?」

「はい」

 

 まあそれでも。今日だけは感謝しておこう。

 あの子のおかげで私は上機嫌なこの人と休日を過ごす事ができるのだから。


 
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