No.519807

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ十六

 
 お待たせしました!二日連続投稿ですが。

 今回は益州攻略の際に捕虜となった

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2012-12-17 22:40:06 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:6531   閲覧ユーザー数:4982

 

 ~成都の地下牢にて~

 

 北郷軍の捕虜となっていた張任と魏延はここに収容されていた。

 

 二人共まさか自分がここに入る事になろうとは夢にも思っていなかった為、

 

 受けた衝撃はかなりのものであった。

 

 そして劉璋と王累の刑が執行された数日後、二人にそれが伝わったので

 

 あった。

 

「何と…真か?劉璋様と王累殿が処刑されたとは?」

 

「あなたにとって信じ難い事ではありましょうが、これは事実です」

 

 張任にそれを伝えたのは燐里であった。

 

「そうか…しかし今回我々が行った事を考えれば死罪は免れんわな…もう少し

 

 お主や厳顔達の話も聞けば良かったのかもしれぬ。劉璋様の無能ぶりも王累

 

 殿の専横もわかっていた事だったのだからな。俺がもっと命を懸けてでも諌

 

 めるべきであったわ。済まぬ、燐里。お主の言う通りであった」

 

 張任はそう言って燐里に頭を下げる。

 

「もう過ぎた事です。それよりこれからの事を考えねばなりません」

 

「今後?俺は死罪になるのでは無いのか?」

 

「今、それを議論している所です。あなたは確かに劉璋軍の筆頭武官であり、

 

 本隊の指揮を執って綿竹で我々と戦いましたが、全ては王累が元凶なれば

 

 張任殿には罪一等を減じようとする意見もあります」

 

「それはお主が言い出した事か?」

 

「いえ、だってあなたがそれを望んでない以上私からそれをお願いする事は

 

 ありません。あなたがここ二日ばかり食を断っているのは耳にしています。

 

 それはあなた自身が死を望んでいるという事でしょうから」

 

 

 

 燐里のその言葉を聞いた張任は少し頬を緩ませながら言葉を続ける。

 

「やはりお主はわかっていたか。俺はな、劉焉様にお仕えして益州に来てから

 

 二十数年、ずっとこの益州の平穏の事ばかり考えてきた。だがお前も知って

 

 の通り、俺には政の才は無いばかりかどうしても弁舌確かな者の言葉に騙さ

 

 れてしまう事が多くてな。今回の事とて、俺の次に長く仕えていた王累殿の

 

 言う事なら間違いない事だろうとよく調べもせずに戦の指揮を執った。幾ら

 

 王累殿が元凶とはいえ、ここまで戦を大きくしたのは俺にも責任はある。

 

 だから燐里よ。北郷殿に張任を死罪にしてくれるよう頼んでくれんか?今な

 

 らまだ黄泉路に旅立った二人に追いつくであろうし三人揃って向こうで劉焉

 

 様に詫びをいれなければならんしな」

 

 そう言って燐里を見つめる張任の眼は、完全に自分の死に対して何の迷いも

 

 感じられなかったのであった。

 

 ・・・・・・・・・

 

「以上が張任殿からの言葉です」

 

 燐里より張任の言葉を聞いた俺達は何も答える事が出来ず、その場に沈黙が

 

 流れる。

 

「しっかし張任とかいうおっさんも頑固やな。だけどその心はわからんではない

 

 けどな。ウチかて一刀が処刑されたら多分自分にも死罪をって言うやろし」

 

「おいおい、俺は処刑される事なんて今後も無い…とは言い切れないかな」

 

 霞が不吉な事を言うので否定しようとしたが、否定しきれなかった。

 

「まあ、それは置いておくとして…それでは改めて皆に問う。張任の罪はどのよ

 

 うな形で裁くのが最良と思うか?」

 

 それに対し、意見を述べたのは丁奉さんだった。

 

「私の愚見を申しますれば…おそらく命を救った所で張任殿には感謝されないと

 

 思われます。ならばここは武人らしく自死を与えるのが温情かと」

 

 自死を与えるのが温情か…俺も乱世に慣れてきたつもりではあったが、こういう

 

 事にはどうしても抵抗が出てしまう。

 

 しかし、他の皆からもそれに対して反対意見が出なかった。朱里も何も言わない。

 

 それならば…。

 

 

 

「わかった。燐里、これを張任殿に渡してくれ」

 

「これは…一刀様」

 

「ああ、綿竹で張任殿を捕らえた時に没収した彼の剣だよ」

 

 燐里は俺から剣を受け取るとそれを抱いたまま、地下牢へ向かっていった。

 

「ご主人様…あの、その」

 

「いいんだ、朱里。こんな気持ちになるなんて俺もまだまだ甘いって事なん

 

 だろうさ」

 

 俺におずおずと声をかけようとする朱里に俺はそう返答した。

 

 ・・・・・・・

 

「何と、北郷殿がこれを」

 

 地下牢にて燐里より自分の剣を渡された張任の眼には涙が溢れていた。

 

「何とも度量の広きお方よ。本来なら斬首や車裂きにされてもおかしくない俺に

 

 自裁を賜ってくださるとは。しかも我が剣にてそれをさせてくれるなど…もっ

 

 と早くに出会っておれば俺もお主のように北郷殿の為に力を尽くしたのかもし

 

 れんな」

 

 張任はそう言うと剣を抜き、刃を首にあてる。

 

 燐里は何も言わず、ただ泣いていた。

 

「泣くな、燐里。俺は武人として誇りを持って死ぬのだ。何一つ悔いは無い。

 

 さらばだ」

 

 そして張任はその刃を押し込むと、頚動脈から大量の血が噴出し、張任はその

 

 ままゆっくりと崩れ落ちた。

 

「張任殿、張任殿、張…任……殿、…わぁぁぁーーーーーーっ!」

 

 それを見届けた燐里はしばらくの間ただその場で泣きじゃくっていたので

 

 あった。

 

 ・・・・・・・

 

「…そうか、見事な最期だったか。燐里、すまなかった」

 

「いえ、一刀様が謝る事など何も無いのです。ただ遺体に関しては…」

 

「わかってる、益州の流儀に則って丁重に埋葬するように。差配は任せる」

 

 差配の為にその場を去る燐里の後姿を見ながら、俺は綿竹関で顔を合わせた

 

 だけの張任の顔を思い出し、改めて乱世の無常を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 場所は変わり、魏延が入っている牢である。

 

 こちらには桔梗が事の顛末を伝え一度は去ったが、張任が自害した事を報告

 

 に再び来ていた。

 

「なっ…張任殿が?そうですか…さぞや見事な最期だったのでしょうね」

 

 魏延はそう言ったきり、黙ってしまった。

 

 その沈黙に耐えられなかった桔梗が口を開く。

 

「焔耶よ、確かに張任殿は見事な最期であったそうだが、お前までそうする必要は

 

 無いのだぞ。お前の力はこれからも必要とする者も多いはずじゃ。例え今は恥辱

 

 にまみれようとも耐え忍ぶ事も必要じゃぞ」

 

「それは私に北郷に仕えろという事ですか?」

 

「そうではない…確かにお前が加わってくれればお館様も心強かろうがな」

 

 桔梗のその言葉に魏延は少し考えてから問いかける。

 

「桔梗様、あなたは北郷が怖くはないのですか?」

 

「…? どういう事じゃ?もしやお主はあの時の事で…」

 

 桔梗の問いに魏延は頷く。

 

「幾ら北郷が馬岱に言葉を脚色させたからとはいえ、今思えばあれは根も葉も無い

 

 噂のみで悪し様に罵った私が悪かったのです。それは分かっているのですが…どう

 

 してもあの時の北郷の怒りの顔と闘気が頭を離れないんです。そしてそれを思い出

 

 す度に体の震えが止まらなくなるんです」

 

 恐怖が蘇ったのか、そのまま震えている魏延を見て、桔梗は言葉をかける事も出来

 

 なかったのであった。

 

 

 

 

「という事でしてな。出来ればお館様のお力となれればと思ったのじゃが…」

 

「いや、桔梗が謝る必要は無い。でも…まさか魏延さんが俺の事をそこまで怖がると

 

 はねぇ。そんな状態では直接説得するというわけにもいかないか」

 

 桔梗から報告を聞き、予想外の状況に驚きを隠せない。

 

 しかしこのまま魏延さんを閉じ込めておくわけにもいかない。何らかの処罰は必要

 

 だろう。とはいえ、彼女は死ぬ事を望んでいるわけではさそうだし…どうするべき

 

 なのだろうか。その時、眼に入った手紙を見てある事を思いつく。

 

「あっちに彼女が加われば或いは…」

 

 ・・・・・・・

 

「焔耶よ、お前への処罰が決まったぞ」

 

「遂に処刑ですね…」

 

「処罰と言っただけで処刑とは言っておらんぞ」

 

 桔梗のその言葉に魏延は耳を疑う。

 

「処刑ではない?それでは私をどうすると?」

 

「まあ、形式的には益州より追放という所じゃな。行き先は雍州じゃ」

 

「雍州?公孫賛殿の所ですか?」

 

「ああ、さっきも言った通り形式上は追放じゃが公孫賛殿にはお主の事を密かに推薦

 

 しておくそうじゃ。お前も新天地へ行けば心も落ち着くのではないか?」

 

 魏延は少し考えてから答える。

 

「分かりました。でも向こうの為に働くかはまだ決めておりませんから。あくまでも

 

 私は雍州へ追放されるだけです」

 

 こうして魏延は雍州へ送られる事となったのだが、そこで運命の出会い(魏延が勝手

 

 に思うだけだが)があるとは魏延本人も知る由も無かったのであった。

 

 

 

 場所は変わり張怨の城である。城といっても実は最初の場所は呂蒙が加わった孫呉か

 

 らの攻撃により焼き打ちされ、張怨はさっさとそこから逃げ出して他に用意してあっ

 

 た今の場所に移って再びゲリラ戦を仕掛け続けていた。

 

 そこへ益州が北郷軍によって陥落したという一報が届いた。

 

「王累も大した事は無かったようですね…でも今ならまだ北郷軍の主力は益州にいる。

 

 留守部隊の規模も将も知れてる。こちらも大分数を減らしてしまっているけど、少数

 

 でも混乱を引き起こす位なら問題は無い…南陽へ部隊を送り込む」

 

 張怨は一刀達が留守中の荊州に部隊を送り込み混乱を画策したのであった。

 

 ・・・・・・

 

 張怨より命を受けた部隊およそ二百が密かに南陽へ入っていた。部隊といっても配下

 

 の賊の中でまだ無傷の者を寄せ集めただけなのだが、そんなのでも留守中に現れれば

 

 混乱を起こす事位はいける…はずだったのだが。

 

「待ちな、ここから先に通すわけにはいかないんだよ。命が惜しけりゃ帰んな」

 

 その道に一人の女性が立ちはだかっていた。それを見た賊達は驚きの声をあげる。

 

 何が驚きかというとその女性はメイド服を着ていたからだ。どう見ても場に似つかわ

 

 しくない。

 

「なんでぇ、姉ちゃん。随分変な格好でいたって何も怖くなんかないぜ。そっちこそ

 

 怪我しない内に帰んな。それとも俺達といい事でもしようってのか?良く見れば結構

 

 かわいい顔してんじゃねえか」

 

 そう言った一人の賊が彼女に手を伸ばそうとしたその瞬間、彼女は素早く腕を振った

 

 かと思うと、その男の腕は宙を舞っていた。彼女の両手にはそれぞれ短剣が握られて

 

 いたのであった。

 

「ぎゃあああああ!何しやがる、このアマ!!」

 

 腕を斬られた賊は痛みに叫びをあげながらも女性を睨む。

 

 

 

「あん?そっちが糞した後で碌に洗ってもいなさそうな手で触ろうとしたからじゃね

 

 ぇか。それと、この服は北郷様の城の侍女が着る服さ。ちなみにあたいは北郷様の

 

 城の侍女長を務める者だ」

 

「なっ、それじゃお前は北郷の…」

 

「ああ、お前らがこっちで何かやらかそうとしているのは既に筒抜けだ。帰らねぇなら

 

 ここがお前らの墓場になるだけだぜ」

 

 侍女長はそう不敵に言い放ちながら剣を構える。

 

「くそ、このアマなめやがって!多少はやるようだがこの人数相手にてめえ一人で何が

 

 出来るってんだ!!」

 

「それは今からお前らが自分の身で体験した方が早いんじゃねえか?」

 

「この…言わせておけば!てめえら、やっちまえ!!」

 

 賊たちは数にものを言わせて襲い掛かるが、侍女長の射程に入った全ての者は次々と

 

 切り刻まれていく。彼女の二刀の剣捌きは遠くから見ると綺麗な舞を舞っているかの

 

 如くに見える位に洗練されているが、その渦の中に入るとそれは容赦無く全ての命を

 

 奪う暴風であった。

 

 そして二刻も経つとそこには五十人近くに及ぶ賊の死骸が転がっているだけとなった。

 

「何だ、こいつ…化け物だ!逃げろ!!」

 

 一人がそう叫ぶと寄せ集めでまとまりの無かったこの集団は一瞬にして雲散霧消する。

 

「おい待て!逃げるんじゃねぇ!!張怨様の命に逆らおうっていうのか!?」

 

 残っていた部隊の指揮官は慌てて押し止めようとするが、元々忠誠心なんか持っていな

 

 い者達の耳には聞こえない。

 

「てめえが頭か」

 

 気付けば侍女長の剣が彼の首筋に押し当てられていた。

 

 

 

「ま、待て!言われた通り引き揚げるから命だけは…」

 

「はぁ?今更そんな言葉が通じるとでも思ったのか?あたいが警告した時に大人しく引き

 

 揚げなかったのがお前らの運の尽きなんだよ。さあ、この世の別れの時間だ」

 

「ひっ、ま、まさかその言葉…あんたはもしかして『殺人蜂』張儁が…ぐぼっ!」

 

 その指揮官は何かを言いかけたその瞬間に侍女長の剣が男の喉を切り裂いた。

 

「ふう、お掃除完了です☆」

 

 彼女は剣の血のりを拭うと何オクターブも高い声に変わり、何事も無かったかのように

 

 その場を後にした。

 

 ・・・・・・・

 

 そして南陽の城内にて。

 

「あっ、水鏡先生。お仕事お疲れ様です」

 

「あら、梓美(あずみ・侍女長の真名)さんもご苦労様。あなたも侍女長として大変だろう

 

 けど、北郷さん達は遠征続きだし私達留守を守る者がしっかりしないとね」

 

「はい!皆さんが何時帰って来てもいいように綺麗にしておきませんとね」

 

 その時、水鏡は彼女の服の裾に赤黒い染みがあるのを見つける。

 

「あら?梓美さんの服、汚れが…何か血のようにも見えますけど?」

 

「えっ…あっ、これはさっき裏庭に大きい虫が巣くっているのを見つけて駆除をしてたので

 

 その時に虫の体液がついたんですね。このままじゃ城の中が汚れるので着替えてきます」

 

 梓美は水鏡先生に一礼するとその場から離れる。そして一人になった瞬間、

 

「ちっ、奴らの血がついちまってたか。しかし輝里の奴もあたいにつまらねえ事を押し付け

 

 やがって。まあ、あたいを今の仕事に推薦してくれたのもあいつだしな。しばらくは言う

 

 通りにしてやるか」

 

 そう一人ごちていた。ちなみに彼女の正体を輝里以外の者が知るのは、まだしばらく先の

 

 事である。

 

 

 

 

                                 続く(おそらく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回はとても早く投稿出来ました。

 

 一応益州編その後という事で…捕まった二人の顛末をお送りしました。

 

 これで良かったのかは正直私も微妙な所もあるのですが…とりあえずは

 

 これでご勘弁くださるようお願い申し上げます。

 

 そして後半のは…すみません、ちょっとネタに走りました。

 

 益州編その後だけではちょっと少ないかなぁと思い…読まなくても話の

 

 大筋にあまり影響はしませんので、気に入らないなら読み飛ばしてくだ

 

 さっても良いかと…。

 

 次回はまだ決着のつかない張怨VS孫呉の援軍として出向く前に久しぶりに

 

 南郷郡に立ち寄った一刀達が遂にあの方と出会うお話…の予定です。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ十七にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 侍女長さんのモデルは真名から分かるとは思いますが…某ゲームに出て

 

    来る人力車を引くあのメイドさんです。一応輝里とは旅先で知り合った

 

    という設定です。今後も出るかどうかは…どうしよう?

 

 

 

 


 
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