No.51750

Song for You!

星 倫吾さん

2008年のクリスマスイヴにUpした千早SSです。
ホントはドリフばりのオチがあるギャグSSだったんですが、あえてそれはやめてキレイにまとめてみました。
「PEARL-WHITE EVE」については、2007年12月に発売されたCD「Christemas fou You!」を聴いて欲しいかも~。

2009-01-12 15:29:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1258   閲覧ユーザー数:1183

 

千早のレコーディングが長引き、事務所に戻った頃には、事務所のクリスマスパーティーは既にはお開きとなっていた。

会場となっていた会議室の明かりを点けると、すっかりきれいに片付けられた机や椅子と、

部屋の隅に置かれた大きなゴミ袋が目に入った。

「『兵どもが夢の跡』だな……」

「申し訳ございません。私のせいでパーティーに間に合わなくて……」

「イヤ、いいんだ。これも仕事のウチさ。さて千早、家まで送るぞ」

「プロデューサー、私たちの分のケーキ、残して置いてくれたみたいですね。

 グラスも2つ。でも肝心のシャンメリーが……」

「しょうがないなぁ。こんな事もあろうかと……」

「シャンパンですか? あの、お酒は……まだ未成年ですし」

「それを言ったら、俺だって飲酒運転になるぞ。ホレ」

「……レッドブル、ですか」

「年末に『聖戦に征くから』と3日前倒しで休みたいという某事務員のご要望により、

 俺はこれからもう一頑張りして未決案件と聖夜を共にする、いわゆる年末進行ってヤツだ」

遠くでくしゃみが聞こえた気がする……。

千早が申し訳なさそうな顔をするのをよそに、グラスにレッドブルを注いでみせる。

「ホラ、見ようによってはそれっぽく見えるだろう。気分だよ気分」

沈みがちな気分を盛り上げようと明るく振る舞ってみせると、千早の表情もほころんだ。

「それじゃ乾杯しようか」

「はい。メリー……」

「ルネッサーンス!」

「……プロデューサー、真面目にやって下さい!」

「スマン、おそらく来年には使えないネタだし」

悪ノリが過ぎたようだ。

「では気を取り直して。メリークリスマス!」

「メリークリスマス!」

 

「しかし……今日歌番組の仕事で、千早が歌ったカヴァー曲『PEARL-WHITE EVE』だが……」

「どこかいけないところがありましたでしょうか?」

「イヤ、『今夜私はあなたのものよ』なんて、男なら一度は言われたみたいセリフだなって。

 ……スマン、忘れてくれ」

「……なら、今ここで歌ってみせましょうか?」

「いいよ。長丁場のレコーディングで疲れているだろう。ゆっくり喉を休ませてやれ」

「一曲くらいなら平気です。それと、今どうしても歌いたいんです。

 歌手としてではなく、如月千早という一個人として。

 せっかくのイヴなのに何もプレゼントを用意してませんし、

 それにプロデューサーは私のために、今日も遅くまで仕事を……。せめて私に出来ることなら、と」

「ならば、言葉に甘えて……せっかくだから、他の曲リクエストしていいか?」

「えぇ、私が知っている歌ならば」

「そうだなぁ……。やっぱり聖夜らしく、バッハ&グノーの『アヴェ・マリア』を」

「分かりました、バッハ&グノーの『アヴェ・マリア』ですね」

 

千早がアカペラで歌う聖母マリアを讃える歌は、柔らかく静かに、

そして強さをも秘めて、二人しかいない会議室に響いた。

 

「いかがでしたか、プロデューサー。プロデューサー?」

「……スマン、聞き惚れていた」

「そう言っていただけると光栄です。

 ……バッハとグノーが時代を超えて、このような名曲を生み出した事が奇跡なら、

 私とプロデューサーが同じ時代に生まれ、こうやって出会うことが出来たのも、

 一つの奇跡なのかも知れませんね」

「そうだな……」

二人の間に流れる沈黙、そして次第に縮まる距離……。

 

 

 

 
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