No.516157

真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第一部 第02話

ogany666さん

お待たせ致しました。
第2話になります。
しばらくオリキャラのターンが続きます。
お馴染みのキャラクターが登場するには、まだ若干ありますがご了承ください。

続きを表示

2012-12-08 02:21:31 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:9466   閲覧ユーザー数:6788

 

 

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さんこんにちは、わたくし、北 郷 一刀です。

月日が経つのは早いもので、俺がこの北家に生まれて六年が経った。

今俺は前世で学んだ知識を書物にまとめる作業をしながら、ある物が完成してこちらに来るのを焦りながらも心待ちにしている。

何故そんな複雑な心境なのかは、俺が生まれ育った北家の事情を説明しなければならない。

この北家は代々漢王朝に仕える高官の家系らしく、父上も汚職の摘発や罪人の処罰を決める司法官として現皇帝霊帝に仕えている。

家ではだらしないところが目立つが、仕事となるとどんな脅迫や買収にも屈さずに責務を遂行する為「洛陽の法鬼」と恐れられていた。

そんな父上の仕事を見て惚れた母上は涼州の出身で武官の家系だったらしく、祝い事のときに母上の故郷から良い馬が送られてくるのをよく見かける。

いつもは仲睦まじい二人ではあるのだが、俺の教育方針に関しては自分たちの生まれた環境もあって真っ向から対立しており、よく小競り合いを起こしている。

まぁ俺が目指すところは文官と武官、どちらの役目も果せないと勤まらない役職だし、前世と同じように両方とも鍛錬を怠っていないのだが、両親としては二足の草鞋を履いているのが好ましく思っておらず、どちらかに専念して欲しいらしい。

その点に関して両親は意見が合っているらしく、二人で結託して俺にある試練を与えてきた。

《文官と武官、それぞれの適正試験を屋敷内で行い、良い結果を出したほうの鍛錬に専念せよ》というもので、その試験が本日行われるのだ。

正直今の鍛錬を続けたい俺としては、この話はマイナス要素しかなかったが儒教文化が浸透している今の大陸で無下に断る事も出来ず、渋々その試験を受ける事になった。

ただし、受ける代わりにこちらからも条件を付けてさせてもらった。

 

~数週間前~

 

「一刀、その条件とはなんだい?言ってみなさい」

「はい、武官の試験を受けるにあたって私専用の剣を作っていただきたいのです」

「専用の剣?」

「はい、私が目指す剣技を修めるには今在る刀剣では不十分なのです。木剣では理想的な物を拵えたのですが試験をそれで受けるのは不足といわざるを得ません。故に、父上には私が理想とする剣を作っていただきたいのです。作り方もこちら側で指定させていただきますので、もしその剣を持って武官の試験を合格出来ないのであれば私は武官への道を潔く諦めましょう」

「なるほど・・・、そこまで言うのであれば私から言う事は何も無いよ。お前の理想とする剣を作ってみなさい。職人は母さんお抱えの鍛冶職人を紹介するから存分にやりなさい」

「はい、ありがとうございます!父上!」

とまぁこんな事が在ったわけで、今日はその試験の期日なわけだが、一向に品物が届く気配が無い。

やはりこの時代では作るのが困難だったのかと半ば諦めていると、この屋敷で最も会いたくない奴が部屋の中へと入ってきた。

「郷様~♪」

「寄るな!ショタコン!」

部屋に入るや否や、俺目掛けて跳びつこうとしてきた韓白をスウェーで避けつつ暴言を吐き捨ててやった。

「ヒドイ!言葉の意味は解りませんが、何かすごい罵倒をされた気がします!前々から気になっていたんですが何ですか!?その初太魂 ( しょたこん)というのは!?」

「お前のような年端も行かない男児に性的欲求をぶつける変態のことだ!」

「そんな、誤解ですよぅ。わたくしめがお慕い申し上げているのは郷様ただ一人ですぅ」

「・・・そういえば、さっき朝の鍛錬の後に近くを散歩していたら、まだ幼いながらも凛とした顔立ちの美少年が路頭に迷っていたなぁ」

「そ、それは大変です!は、早く行って私の部屋で保護してあげなければ!ハァハァ・・・ジュルリ」

鼻血と涎を垂らしながら息を荒くして部屋を出て行こうとするショタコン侍女をみて思わずこんな言葉が口から漏れた。

「駄目だこいつ・・・早くなんとかしないと・・・」

正直この女が近くにいる環境で、よく自分の身を守る事が出来たと思う。

生まれたその日に世話役の任を解かれた韓白は、親の代から北家に仕える侍女で大体の仕事をそつなくこなすのだが、性癖に難があり度々俺を狙って善からぬ行動を起こす。

具体的な例を挙げるとすれば、あれは1歳を迎えるくらいの時期の話だ。

父上は司法官の仕事で洛陽を離れており、母上は俺の誕生日の宴の準備のために家の者を連れて買い物に出ていた。

世話係で韓白の妹、韓鄒が寝汗をかいた俺の着替えをするために服を取りに部屋を出て行った。

もちろん、何かあってはいけないので部屋に入る扉には鍵をかけていったのだが・・・・・・。

少しするとカツーン、カツーンとゆっくりこちらへ近づく足音がしてきて俺の部屋の前で止まった。

韓鄒が帰ってきたのかと思ったのだが、鍵を開けて入って来ない。

何事かと思い扉のほうを見てみたら、今度は無理に開けようとしているのかガタガタと扉を力任せに動かし始めたのだ。

父上を疎ましく思う者が俺に刺客を送ったのかと思い恐怖したが、扉が開かないと見るや、またゆっくりと歩いてどこかへ行ってしまった。

諦めたのかと思いホッとしたのもつかの間、今度は天井からギシギシと音が鳴り出し部屋の隅の天井板が外れて、その穴からゆっくりと韓白の顔が出てきた。

嘗め回すように部屋の中を確認し、赤ん坊が寝る寝台の中に俺が居るのを確認すると

「見つけましたよぅ~、郷様ぁ~♪」

と言いつつ、天井の穴から部屋に侵入し四つん這いになる形で床に着地した。

この時、俺は前世で見たホラー映画のワンシーンが頭をよぎっていた。

ショタコンは服についた埃を払いながら立ち上がると、手をワナワナと震わせながらこちらに近づき、寝台の前までやってくると手すりをがっしりと掴み、身を乗り出して俺に顔を近づけてきた。

「ゴ、郷様・・・ハァハァ。貴方様はキっと・・・。SUす、素敵な男の子にナらREまSU・・・ハァハァ」

さっき俺が美少年の嘘をついた時とまったく同じ顔で、こんな呂律も回らない台詞を吐くと、今度は鼻を俺の体に近づけて匂いを嗅ごうとしだしたのだ。

あまりの気持ち悪さに相手が女であるにもかかわらず顔面に思い切り右のコークスクリューを打ち込んでしまった。

見た目は赤子のパンチではあるが、前世からの力をそのまま受け継いでいるため殴られたほうは武人の拳を受けたのと同じであり、

それをまともにくらった韓白は勢い良く寝台の柵の支柱に側頭部を殴打、柱が折れても勢いが止まらず床を転がっていき壁にぶつかり停止、そのまま気を失った。

しばらくして、着替えを手に戻った韓鄒がこの光景を見て何が起きたのか把握するのに、大分時間を要したほどである。

このような痛い目を見たにもかかわらず、この韓白は度々夜討ち朝駆けのように俺の部屋へ侵入を慣行、父上の取り計らいで屋根からの進入が不可能になると、今度は地面を掘って床から侵入してくるほどであった。

まぁ、そのおかげで赤ん坊の身でありながら逃げ隠れるときにバランス感覚が、撃退するときに力加減が培われたわけだが。

「この女侍女なんかやってるよりも間諜や刺客のほうがよっぽど向いてるんじゃないかなぁ」

そんな事をぼやいていると、何かを思い出した韓白はショタコンの顔から真面目な顔になり俺に報告をしはじめた。

「あ、そういえば郷様にお伝えしなければならない事があるのでした。先ほどから奥様お抱えの鍛冶職人が屋敷を訪れておりまして、郷様のご依頼の品をお届けに来ているようです。」

「そういうことは早く言え!」

俺は慌てて部屋を出ると広間の方へ足早に向かった。

 

 

 

 

「郷様にご依頼を受けました刀剣。お届けに参りました。」

「やぁ、ご苦労だったね。作るの大変だったろう。」

「はい、それはもう・・・・。指定された鉄の生成方法から精錬、刀身の作成方法に至るまで全てが初めての事でしたので、正直申しまして郷様がお書きになられた図面と、度々足を運ばれての監修が無ければ完成には至らず製作半ばで挫折していたところです。」

やはりこの時代の技術で依頼した刀剣、《日本刀》を作るのは困難を極めた。

たたら吹きによる玉鋼の作成、折り返し鍛錬、鋼を組み合わせての鍛接など、どの技術一つとっても職人が理解するまでに多大な時間を要した。

特にたたら吹きは誰かに任せる事が出来ず、三日三晩付きっ切りで作業する事になり、作業終了と同時に疲労でダウンしてしまったほどだ。

「見た目には細身で直ぐにでも折れてしまいそうですが、製作した私めには解ります。この刀剣、この大陸に存在するどのような物でも斬る事が出来るのではと錯覚させるほどの名刀であると言う事が」

「・・・流石は母上お抱えの鍛冶職人、この刀の凄さが解る様だね。」

「ですがその刀剣、切れ味は在れどそれを扱う者の技量も相応に要求される代物に御座いましょう。失礼を承知でお伺いいたしますが、郷様はそれだけの技量、お持ちになられますかな?」

「それは自分の目で確かめるといいよ、調度今日この刀を使って試験を受ける事になっている。もし、その試験で良い結果を出せなければ俺はこの刀を持つ資格が無かったと判断すればいいよ」

「畏まりました。郷様の雄姿、とくと拝見させていただきます。」

俺は鍛冶職人から渡された日本刀が収まる箱を抱えて父上と母上が居る部屋へ足を運んだ。

「父上、母上。頼んでいた刀剣が届きましたので試験を受けたいと思います。」

「では中庭に行くとしようか。用意はもう従者に頼んで済ませてあるからね。」

両親は知らせを聞くとスッと立ち上がり俺と一緒に中庭へ向かった。

「一刀、頑張るのですよ。母さんは信じています。この程度の試験、難なくこなして武官への道に進む事を」

「母さん、私は一刀が文官になるほうを望んでいるのだがな。」

「あら、職務に忠実で公正であることを良しとするあなたが、まさか試験の結果に難癖を付けるなんて事はありませんよね?」

「当然だよ、結果を出す事が出来たのなら認めざるを得ないさ。まぁとにかく、中庭へ行こう」

中庭に行くと、いつも鍛練をしている広場に試し切り用の巻き藁が三本、それほど間隔を開けずに並んで立っていた。

「試験内容は至って単純、そこに立っている三本の巻き藁を一太刀で全て両断出来れば合格。一本でも残れば失格と言うものだ。試験監督は北家当主、北景 ( ほんけい)と」

「その妻、北異 ( ほんい)が勤めさせていただきます」

「北家武力試験、謹んで受けさせて頂きます。父上、広間にこの刀剣を製作した者が居りますのでここまで呼んで下さい。私はその間にこの刀剣の用意をさせていただきます」

「わかったよ、誰かある!」

「ここに」

父上がいつもの様に誰かを呼ぶと、これまたいつもの様にどこからとも無く韓鄒が現れる。

「広間に居る鍛冶職人をここまで案内してくれ」

「畏まりました」

韓鄒が広間に向かったのを確認すると、俺は箱の中から日本刀を取り出した。

長さは約二尺四寸、鞘は鉄拵えで入れ子鞘になっているようだ。

持った感触も鞘の重みをそこまで感じない作りになっていて非常に良い。

 

 

 

 

「私は文官だからあまり剣には詳しくないが、あんな細身の剣で大丈夫なのかい?」

「わたくしもあのような刀剣始めて見ます。近くで見てみなければ何とも言えませんが、普通の物であの細さならば相手を切ったときに骨まで断てずに途中で折れてしまうでしょうね。」

一刀の剣について詮索しているうちに作った本人が侍女に案内されて中庭へやってきた。

「お久しぶりです、旦那様、奥様。この度は郷様の武力試験、僭越ながらご一緒に拝見させていただきます」

「ご苦労様だったね。今回の刀剣製作、大変だったのだろう?」

「はい、それはもう」

「それで、どうなんだい?一刀はあの剣であそこに並んでいる巻き藁三本、同時に斬る事が出来ると思うかな?」

「それは郷様の力量しだいかと」

鍛冶職人の含みのある発言が気になりつつも私達は一刀のほうへ目を向けた。

一刀も調度刀剣の用意も出来たようで巻き藁に向かっていく。

「それでは、始めさせていただきます。危険ですので離れてご覧になってください」

こちらに振り返り一礼した後、巻き藁のほうへ向き直った。

わたくしたちも忠告を受けたので十分に離れた場所まで移動して様子を見る。

だがここで、一刀の母はある疑問が頭を過ぎった。

一刀の武は母親であるわたくしが言うのもなんだが年端も行かない子供とは思えないほどの強さ。

並みの武官では束になって掛かっても敵わないほどなのだ。

そんなあの子が巻き藁を三本まとめて切るなど造作も無い事、試験にしては余りにも簡単すぎる。

そう考えて巻き藁を注意してみると左の巻き藁に比べ、残り二本の巻き藁の心棒が黒ずんでいる事に気がついた。

「あなた、まさか!?」

「私は言った筈だよ、この試験で《結果を出す事が出来れば》武官になることを認めるとね」

やられた、夫は何としてでもこの試験、一刀に失敗させる気でいた。

 

 

 

 

「まったく、父上も後で母上に怒られるのが解ってる上でこんなことするんだから」

巻き藁に近づいた時点で一刀は気付いていた。

色を塗られているため遠目からは解りづらいが、三本のうち真ん中と右の巻き藁は鉄心が仕込まれている事に。

一本なら普通の居合いで難なく斬る事が出来るだろうが、二本となると流石に振り切れるか自信が無い。

となるとこの状況を打破出来る手は一つしかないな。

俺は刀を鞘から抜くと水平に構え、右手の中指と人差し指で柄を持ち、

左手の親指と人差し指、中指で刀身の峰の部分を押さえた。

「もし開かんと欲すれば。先ずは、蓋すべし」

そう言いながら力を込めた左手を刀身から放し一気に振り抜いた。

 

 

 

 

息子は剣を水平になぎ、身を翻してから動きを止めたが、父北景の目には三本とも斬れた様には見えていなかった。

「どうやら、結果を出す事が出来なかったみたいだね。見たところ鉄心の入った二本どころか一本も斬れていない様に見える。まぁ、あんな細身の剣では致し方ないかな。いやぁ、これで一刀が武の道を諦めて文官になってくれるので私としては大満足だけどね」

「・・・・・・・・・・いえ、あなた。合格です。」

「え?どうしてだい?巻き藁は三本とも斬れていない。剣が折れていないのは巻き藁に鉄心が仕込まれている事に気付き咄嗟に間合いを離した為、身を翻したのも間合いを離した折に体の重心がずれた為では?」

「そう思うのならあなた自身の目で確かめてみては?」

そういわれては返す言葉もないので、直接見て確かめに巻き藁の側へ向かった。

巻き藁に近づく途中、息子が申し訳なさそうな顔をして私に話しかけてきた。

「父上、申し訳ありません。少々、しくじってしまいました」

「うん、努力は認めるが結果を出せなかったのでは致し方ない。これを機に武の道は諦め文官として」

良い結果を出せず気持ちが沈んであのような顔をしているのだろうと悟り、我が子を労おうとした。すると、

「いえ、巻き藁は三本とも斬れております」

「は?」

私は急いで巻き藁に駆け寄り見分してみたが斬れている様には見えず、直接触れて確かめてみる事にした。

ズルリ

すると巻き藁は真ん中から滑るように真っ二つに割れて上の部分が地面に落ちた。

他の巻き藁も同様の切れ方をしており、仕込まれていた鉄心は鏡のように滑らかな断面をしていた。

「三本とも斬れている・・・・・・一刀、これだけ見事にやってのけて、一体何をしくじったと言うんだ?」

「・・・三本の巻き藁は全て両断する事が出来ました。しかし、振り抜くときに加減が出来ずに広場の四隅にある四神の像まで真っ二つにしてしまいました」

「・・・・・・・・へ?」

広場の四隅にはこの場で鍛練をしている妻が息子の出世と北家の繁栄を願って四神の像を祀ったのだが、良く見ると朱雀の像が胴体部分を境に若干ずれていた。

恐らく巻き藁同様に四体の像も触れれば上部がずり落ちてしまうだろう。

もし広場の中で見物していれば巻き藁や石像の様に私の首も飛んでいた事だろう。

そう考えると背筋に寒気が走った。

「申し訳ありません。手加減をすれば三本目の巻き藁で刀が止まってしまうかもしれませんでしたので」

「い、いや、見事なものだよ・・・。次の試験のために部屋で待っていなさい。私は母さんと少し話しをしてから向かうからね」

「はい、父上。それでは失礼いたします」

そう言い残して息子は鍛冶職人と何か話をした後、屋敷の中へ戻っていった。

入れ替わるように妻が私の側までやってきたので、我が子が斬った巻き藁と石像の事を聞いてみる事にした。

「私は武芸はからっきしだから聞くのだけれど、鉄の棒や岩の塊と言うものはこんな風に切れるものなのかい?」

「いいえ、わたくし自身も試し切り等をやりますし、涼州に居たころは多くの武人を見ていましたが、鉄や岩をこのように真っ二つに切り裂くなど見たことも聞いた事もありません。」

「君にも出来ないのか」

「ええ、わたくしが同じような事を剣や槍を使ってやったとしても、鉄の棒を圧し折ったり岩を粉砕すとは出来ますが、たった一太刀で無理なく全てを真っ二つに出来るかと聞かれると、とても・・・・」

「・・・一刀にはこれを機に武の道を諦めてもらうつもりだったが、すでに涼州の戦姫北異を越えているのであれば認めざるを得んな」

「その呼び名で呼ぶのはやめてください、鍛練は続けているとはいえ、とっくに引退しているのですから。・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな事よりも、何かわたくしに言う事があるのではないですか?」

妻が話を切り替えた瞬間、周囲の体感温度が一瞬にして下がった。

虫の鳴き声も止み、鳥たちは一斉に飛び立ち逃げていった。

「さ、さぁ~て、次の試験の準備でもしてくるかなぁ~」

ガシッ!

「まちなさい」

そそくさとその場を離れようとしたが、頭をがっしりと掴まれ無理矢理顔を妻のほうへと向けられた。

表情は女神のように笑っているが、それが圧力になって余計に怖い。

「今回の武力試験、巻き藁に鉄心を仕込んだ事は万歩譲って許しましょう。一刀が普通の巻き藁程度一太刀で断てぬ訳がありませんし。ですが、それを同じ試験監督であるこのわたくしにまで黙っていたのは一体どういう了見ですか?・・・・・・・納得のいく説明をしてくださいますよね、あなた」

不味い、ここで正直に「言ったら絶対邪魔されるから」なんていった日には何されるかわかったものではない。

ここは適当な事をいって誤魔化そう。

「い、いやぁ・・・・。君の困った可愛らしい顔を見たいなぁと思って・・・・茶目っ気に走ってしまったよ。ハハッ!」

「そのような御戯れでわたくしに一言も相談をなさらなかったと言うのですか。いいでしょう、存分に楽しまれたようですし、その対価を払ってもらいます」

「へ?対価って・・・・どんな?」

「はい、先ずは一刀が今回作った刀剣の代金ですが、あなたのお小遣いから差っ引かせてもらいます。先程領収書を拝見したのですが、わたくしが普段使っている鍛練用の剣百本分の料金とほぼ同等ですよ」

「Σ(゚д゚ )」

「あと、今回一刀が真っ二つにしてしまった四神の像ですが、修復は不可能でしょうし新調するしかないでしょう。その代金もあなたのお小遣いから差っ引かせていただきます。まぁ、これはあなたの身から出た錆ですし仕方ありませよね」

「Σ(゚д゚ ;)」

「最後に、これだけでは内緒にされたわたくし自身の気が治まりませんし、あなたの常日頃からの運動不足解消も兼ねて特別にわたくし自ら稽古をつけて差し上げます。楽しみにしていてくださいね、ア・ナ・タ♪ニタァ」

「(((゚д゚ ;)))」

そういうと妻の私の頭を掴んだまま、屋敷の裏手へと連行していった。

息子に再び会うことができたのは、それから三日後のことである。

 

 

 

 

父上に部屋に戻るように言われ、広場を後にしようとする途中で母上とすれ違ったのだが、顔は笑っているのにも関わらず、周りから出る禍々しいオーラに一瞬気圧されてしまった。

(父上。生きて、またお会いできる事を祈っておりますよ。)

俺は父上の安否を祈りつつ、試験を見ていた鍛冶職人の側へ行き話しかけた。

「どうだろう、俺がこの刀を振るうに相応しい者であるか見定める事が出来たかな?」

「はい、郷様の武勇、確かに拝見させていただきました。貴方様以上にこの剣を上手く扱える者はこの天下には居りません」

「そこまで言ってくれるとは、うれしいね。手入れのほうも任せたいのだけれど、いいかな?」

「喜んでお請け致します。ところで郷様、その剣はまだ無銘ゆえ、宜しければ郷様に銘を付けて頂きたいのですが」

「この刀の銘か、確かに無銘だと格好がつかないからね。そうだなぁ・・・・・」

少しの間考えた後、有名な刀工の名前が頭を過ぎり、その名前に肖る事にした。

「この刀を持つものは正しき事を成すおおもとで無ければならない、そういう戒めも含めて『正宗』という銘を付けよう。そして、お前にもこの銘を分け与えようと思う。これからは刀工正宗と名乗り、父上や母上の庇護の下、北家へ仕えよ」

「・・・・・その仰せ付け、謹んで拝承致します」

刀工正宗はそういうと膝をつき、俺に軍礼をした。

「おいおい、俺は武官ではないよ」

「いえ、この度の郷様の雄姿を拝見して確信に至りました。郷様は将来大陸随一の猛将になると」

「褒め称えてくれるのは嬉しいが、俺は武だけではなく智の力も鍛えて上を目指すつもりだ」

「それでは試験の趣旨を違えていると思いますが、郷様は何ゆえ旦那様方の申し出をお受けになられたのですか?」

怪訝な顔をしている正宗に対して、俺なりの答えを教えてやった。

「俺の信念に『己が欲するものが在るならば力を示せ』って言うのがあってね。自分が遣りたい事が在るなら二人を納得させないといけないだろう?今回の試験は自分の力を示す調度良い機会だったというだけさ」

「では、郷様は何を求め、何を目指そうとされておられるのですか?」

問いかけに対してただ一言

「俺が歩む道を共に来れば解るよ」

そう正宗に言い残し、俺は中庭を後にした。

 

 


 
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