No.515739

【改訂版】 真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 六章:話の四

甘露さん

・月様すげえ!を六〇〇〇文字で表した結果
・次回軍義的なことするまでは進行遅いです
・そろそろ褒め讃える慣用句がネタ切れな件

2012-12-06 23:49:00 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3735   閲覧ユーザー数:3270

 

 

草の芽が萌え、残雪が身を削り木陰で自己主張を繰り返す。

四月。涼州に春が訪れていた。

 

董卓、月が金城を発ち早二ヶ月。黄巾蜂起すの一報が届き、太平道の初撃を数名の義勇軍や官軍の人物が討ち払い一ヶ月。

この日、月の臣達が待ちに待っていた一報がようやっと届いた。馬を四頭乗り潰し、伝令の兵も寝る間さえ惜しみ五日という驚くべき速さで。

 

詠は即座に数名の軍務関係者を召集した。

兵達の司令官である霞と徐栄、参謀部の代表である一刀、治安維持部隊の隊長魏続、そして数名の、戸部の赤服文官達であった。

彼等は召集より一刻の後には詠の執務室へと集った。皆々理解していたのだ。突然の召集の意味を。

 

呼んだ人物達が迅速に集まったのを確認すると、詠の手で書簡は開けられた。

 

『天水』

 

署名は、東中郎将(近衛軍団司令官の意) 董仲頴。それだけで詠、一刀、そして数名の腹心達は主の心を悟った。

 

「……流石、仲頴様でありますな」

「そうね。ボクも吃驚よ。中郎将なんて、実質の地方禁軍の総司令官じゃないの」

 

髭を立派に蓄えた中年の執政官が感嘆の声を上げた。

詠の表情も明るく、予想以上の地位と結果に幼馴染で在り君主でもある少女への敬服の念を深めた。

 

「北郷」

「はっ」

「軍を動かすわよ。兵五千、今すぐに!」

「御意」

 

詠に真っ先に呼ばれた一刀に、他の者の視線が集まる。

それらは概ね好意的と言い難い類のものであるが、一刀は一切の色を表情に見せることなく下された命を果たすべく、詠のその手から副指揮官の印(いん)を受け取った。

 

「文遠」

「はっ」

「兵に準備させなさい。大将はあんたよ」

「御意」

 

続いて呼ばれた霞に寄せられるのは好意的な視線ばかりであった。

実力を伴い、華雄にも認められ校尉の官位を賜る才女。一刀とは正反対の好意に溢れた評価、それが霞に対する周囲の評価である。

──敢てその理由を上げるならば、霞も一刀も容姿は整い出自は不確かであるのに、霞は怪しさを連想させない人懐こい猫の如く空気を身に纏い確かな実力と共に地位を上げているのに、一刀は目に見えぬ実績や功績ばかりが聞こえ、しかし眼に見える霞と同等に地位を上げているから、と言ったところであろうか。

 

「皆々、仲頴様から御命令が下ったわ。天水で、逆賊を討つ。……北へ這いだした害獣、太平道を狩り尽くせ」

『御意!』

「総大将は張文遠、彼女に預けた剣と印の元、軍法に従い行軍すること」

『御意!』

 

皆が声を高らかに上げる。組織にありがちな人間関係を覗かせていても、彼らの忠はまた別の領域であり、士気は天を突かんばかりに高かった。

彼等にとって、董仲頴という人物は王そのものであるのだ。

それこそ、天子さえ凌ぐほどに。悪官を切り捨て、高潔な政の姿勢を内外に示した彼女は、理想と熱意に燃える年若い知恵者や武人の心を完全に捉えていた。

 

「徐栄」

「はっ」

「兵千を任せるわ。北郷の指揮下で兵糧を本隊到着から三日後までに天水に運びなさい」

「御意!」

 

「魏続」

「はっ!」

「治安を維持しなさい。軍が抜けたからと言って、小悪党共に良い目を見させるなんて事、絶対に有っては駄目よ」

「御意! 命に代えても!」

 

威勢のよい二人に満足したのか、一つ大きくへむと鼻を鳴らすと、詠は残った官僚たちに改めて向き直り口を開いた。

 

「他の者は通常通り職務に励め! 人員の減少で滞りが発生、なんて報告をボクの耳に入れさせたら許さないわよ!」

『御意!』

 

そして驚くほどの忠に満ちたその咆哮に、詠は満足そうに大きく頷いたのだった。

 

「さあ、始めるわよ」

 

 

**

 

 

進め! と霞の勇ましい掛け声とともに、先頭の騎兵が行軍を始める。

騎兵壱千騎とそれに追随する歩兵が、ざっ、ざっ、と一定のリズムで地を踏みならせばそれは轟き、出立を見送る市民の歓声は興奮に彩られていた。

 

月の治世は、領民たちにすこぶる受けが良い。

古いしきたりや老害を駆逐し、儒教の慣習すらものともしない姿勢は若い人間に希望を与え、そして希望だけでなく実際の利益を人民に還元しているのだ。

旧来の勢力や既存の利益に拘る者にはどうしても受けが悪く、全体的な人材の経験不足感こそ否めないが、旧体制を嫌う清廉な姿勢は圧倒的な支持の源であった。

 

兵好く民を守り、官好く国を富ませる。

そんな董卓軍は士気高らかに戦地へと旅立って行った。

その全貌は──

 

大将 ・鎮羌校尉、張遼文遠

副将 ・徐栄(序列九位)、郝萌(序列十位)、張済(序列六位)

総参謀・涼州従事、賈駆文和

副参謀・ 〃 副従事、高順北郷

 

騎兵・千(内六百騎は羌族出身者) 指揮官・張済(呂布は騎馬隊の小隊長を勤めている)

歩兵・四千 指揮官・郝萌

輜重兵・千 指揮官・徐栄

 

であった。

 

金城より天水、その道程は大凡八百里(320㎞)。

道中は至って平穏なものであり、董卓軍は約十日をかけ輜重隊を含む全隊を天水に集合させると郊外に陣を張った。

 

金城以東では月の治世による生活の向上が著しく、また盗賊まがいの羌の襲撃が激減したことでも民は好く懐き董卓軍は歓迎を以って出迎えられた。

これは同時代の軍隊と比較しても異例なことである。

軍と略奪は等号で結ばれており、敵でなくても駐留するだけで治安が悪化する、等と言う事も珍しくない。

しかし董卓軍は態度こそ所属をかさに威張った凡愚が少なからず見られるが、直接民に横暴や略奪を働く輩は居なかった。

過去に行った汚職官僚の粛清と天性のカリスマを発揮した厳命によって、民を害し風評を貶めることを許さない、と月が示した為である。

 

兎も角、月の命はほぼ全ての兵が守り、民達の評判からの歓迎は心からの来訪の喜びとなっていた。翌日には規律に感嘆した着任して間もない天水太守馬遵が酒宴を催した程であった。

普段ならば行軍中の飲酒は軍規違反であったのだが、その日には月より残党の一派を追い立てつつ三日後に天水に着くと書が届いた事もあり、詠は兵たちに飲酒を許し、また側近達を連れ彼女自身も酒宴に参加することとなった。

 

「此度のご招待、感謝致します」

「いえいえ、こちらこそ。ご高名な文和従事殿をお招き出来て光栄です」

 

馬遵は温和な表情が似合う三十代程の女性官僚である。

平民の良人を持ち、子も二人いるらしく、長子と見える少年が馬遵の後ろで拝礼をしていた。

 

「張文遠です。お招きしてもろてう、嬉しゅう? 思います」

「これは張校尉殿。ご高名は予てより窺っております。それに校尉殿とあれば無理に私程度に言葉を改める必要は有りませんよ」

「そか? なら普通に話させてもらうで。いやあ、肩が凝って仕方ないんよ、ああいうん」

 

カタコトな上に疑問形な口調に馬遵も苦笑を零す。

かと言って礼を欠くだなどと文句を言う事も無く、極々柔和な口調で霞に普段の口調を求めると霞も嬉しそうにそれに応えた。

 

「これは私の長子の欣です。どうぞお見知りおきを」

 

主だった地位の持ち主達の紹介が住むと馬遵は彼の息子を前へ出した。

歳の頃は一刀達よりも数歳下、と言った感じである。一刀や詠はこのタイミングでの紹介の意味を即座に察した。

これを期に息子を有望な官吏の娘と近づけたいのであろう、と。そしてそれは正しく、加えるなら真っ先に狙われているのは霞であった。

馬遵の息子は至って凡庸な容姿で、十人いれば一人は格好いいと評する程度だ。霞は特に馬遵の思い描く事に気付く事無く、ども、と小さく言いながら礼を返した。

そう言う狙いがあるのならば宴会を催すことでのメリットも簡単に推測できる。

一刀は馬遵の行為が為政者として正しい判断だ、と頭では理解しながらも、何処か面白くない気持ちを感じた。

しかし特段名高い訳でもなく詠の近臣としてこの場に居るだけの彼が下手な発言をすれば詠の顔に泥を塗りかねない。一刀は機会を窺うことにした。

同時に、その機会を素早く得られる様にするための行動も忘れてはいないのだが。

 

「では他の皆様も今宵は是非お楽しみください。……おや、そちらの御方は? 失礼ですが、お名前を窺っても?」

「はい。副従事、参謀部長高北郷、と申します」

 

一刀は贔屓目に見ても美系である、それこそ馬遵の子息など足元にも及ばない程には。

その彼が、今までは決して主を蔑ろにしている部下が居るなどと言う悪評を抱かせないために一歩下がり目立たないよう立ち振る舞っていたのを止め、存在の自己主張を始めたのだ。

今まで意識の外で在った男が、よくよく存在に目を凝らせば眩いばかりの容姿を持ち、尚且つ詠の近臣として侍っている。馬遵が興味を持たない筈が無い。

 

「まあ、副従事! これは失礼致しました。お若いのに素晴らしいのですね」

「せやろ、せやろ。なんせ北郷はウチの旦那様やさかいな!」

 

少々頬を染めにこりとする馬遵。一刀も微笑み返すと、そこに割り込む人物が一人。

ほかならぬ霞で在る。面白くないと言わんばかりに眉を吊り上げ威嚇の笑みを浮かべ、一刀へ肩が触れる程に近づくと視線から遮る様に前に立った。

そんな、将校の立場と先程に発言を赦された事実の諜報を持つ霞の行為を咎める者はいなかった。

精々が呆れた様に首を振る詠だけである。

 

「まあ、そうだったのですか。これは失礼しました。さて、では酒を用意させてありますので、あちらへどうぞ」

 

馬遵の息子が露骨に残念そうにしゅんと縮こまった。

流石と言うべきか、馬遵はそれらの感情を推測させる様なものは一片も外に漏らさ無かった。

 

「あんたねえ……嫉妬は時と場くらい選んでみせてよ」

「にゃは、すんません」

 

こっそりと睨みを利かす詠、直接文句を言われ、へにゃんと笑ったのは霞だが詠の厳しい視線は一刀にも、寧ろ一刀にだけ向けられていた。

振り返れば分かりやす過ぎる表現行為。一刀が今更ながらに反省するも詠の機嫌は宴会の間終始宜しく無かった。

 

 

**

 

 

「お待ちしておりました。仲頴様」

「顔を上げてください、文和、文遠、北郷、張済」

 

酒宴の日よりきっかり三日後の朝。

天水の城門前に月率いる近衛隊、五百騎が威風堂々と言った雰囲気で控えていた。それを出迎えたのは詠を筆頭にした後発隊の上位四人と副官、霞と徐栄の直下五百騎である。

傅く詠達に優しく声をかけると月は馬から降り詠の傍らまで近寄った。

 

「ご苦労様です。期日よりも三日早い迅速な行軍、見事でした。北郷。脱走率と兵糧の集積率はどうでしたか?」

 

月は一刀に向き直り問いかけた。拝礼し再び頭を下げた一刀が声を張り上げる。

 

「はっ、脱走者二十六名、兵糧に損害はありません」

「脱走者は探しても仕方ないでしょう。捨て置いて構いません。ただし名と特徴は治安維持隊に伝えておきなさい。

 ……北郷、見事でした。輜重隊の組織成功の功は大きいです、褒美に金五千銭を取らせましょう」

 

憲兵組織が成立しておらず、兵員管理にも穴が見られる後漢期の兵員脱走率は二割を超えることもある程であり、同時に輜重部隊でも任命された将による怠慢や横領により物資がある程度届かないことが常であった。

そうしたことから考えると兵員の脱走が少ないことは主に月のカリスマが元なので置くとして、兵糧の損失が無いと言う事は驚異的な数値である。

月も予想以上の効率に内心驚き、しかし表には出さず優雅に微笑むと一刀を労った。

 

「有難き幸せ! ですが、一つ宜しいでしょうか」

「構いません」

「はっ。今回の功績は輜重隊の指揮を任せた徐栄と従った兵による部分が大きくあります。故に彼等に褒美を頂けないでしょうか」

 

一刀の言葉に兵がどよめいた。至って単純な人気稼ぎのありがちな手段だが、それを実際行う事は簡単ではない。

そしてそれは唯の胡散臭い風来坊、といった評価が主であった一刀の印象を大なり小なり上方修正するきっかけとなった。

聞けばこの兵糧や行軍計画を立てたのも一刀だ、と。

誰ともなく兵たちの間で伝わりあい、いつの間にかざわめきが大きくなる。あの、北郷という文官も意外と出来る人なのではないのか。

 

「……ふむ、良いでしょう。徐栄!」

「はっ!」

「徐栄に千銭、輜重隊千名全員の給金に百銭上乗せしましょう」

「有難き幸せに御座います!」

 

あえて言わせるがままにし、だれしもがこそこそと見識を改めたころ。

月の鈴色の声がりん、と兵たちの間に染みわたった。

呼ばれた徐栄は傅き拝礼を一つ、直ぐ様破顔一笑、嬉々とした声でさらに深々と故に頭を下げ、一刀にも拝礼を贈った。

それらの一連の動作が済み徐栄がすっ、と一歩下がると同時に、月は再び口を開いた。

 

「近衛隊は華将軍指揮下のまま張校尉の本隊と合流してください。今日一日を近衛隊の休息日とした後、全隊で黄河沿いに北上する太平道、黄巾党の殲滅を行います」

「御意!」

『御意ッ!!』

 

初めに華雄、一寸間をとり霞と兵たちが一糸乱れぬ美しさで傅き拝礼をした。

屈強な兵の声がびりびりと大気を揺らす。そんな気迫を一身に受けても尚身動ぐことさえ無く、月は飄々と流れる様に言葉を続ける。

 

「文和」

「はっ」

「四日後に皇甫嵩将軍率いる禁軍の部隊と黄巾を挟撃します。北郷と共に手はずを整えてください」

「御意」

 

詠のソプラノボイスが稟、と響き。この場にいた数名の文官、参謀官が続いて拝礼する。

 

「馬遵殿。ご歓迎、感謝します」

 

大凡千の戦士と賢者がただ月一人に傅く。それを、そよ風でも浴びる様に、月は心地よさげに受け止めふわりと微笑。

非の打ちどころの無い拝礼をされた馬遵は一瞬、理解が及ばず返礼が遅れる程に光景に呑まれていた。

まるで伝説時代の王者が如き容貌、纏う空気さえ神聖に感じられる。その、王の一文字をそのまま人にした少女に礼をされたという事実の意味が理解できなかったのだ。

そして馬遵は気付く。今は、宿を提供し持て成した私が感謝されている、太守として礼を払われているのだ、と。

 

「……あ、い、いえ、董将軍様の兵は皆規律正しく精兵ぞろい、文和様がいらっしゃってから治安が著しく向上したのも貴方様のお陰です」

「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しく思います」

「短い間の御滞ですが、心から歓迎致します」

 

果たして今、自分は笑みをちゃんと浮かべる事が出来たのだろうか。

馬遵はカラカラの口内から無理やりに唾を捻りだし、ひとつ飲み込んだ。

しかし月はそれらを粒ほどにも気にすることなく揖礼をすると、己の配下へと向き直り華雄に向けこくりと頷く。

月の意を汲んだ華雄は大斧の石突きを石畳に突き立てると、途端に響いた黒石の爆せる音で視線を一身に集めた。

 

「近衛隊、天幕の用意! 野営陣の構築が済み次第中隊長以上は点呼、報告をしろ!」

「ありがとうございます、華将軍。では、馬遵殿。城外までのお迎え、有難うございました」

「いえ、当然の礼です」

 

互いに揖礼をし合い、そして柔らかく微笑み合う。傍から見れば非常に友好的な関係を築いた州牧と太守の図なのであろう。

尤も、馬遵の背中には得体の知れない冷たい汗が滝のように滴り落ちていたのだが。

 

「文和、一時後に部下を連れ私の天幕まで来てください」

「御意」

 

月は馬を返し、ざっ、と二つに裂けた近衛の群れの間を静々と通り抜ける。

既に月の天幕は街から一里の所に用意されていたのだ。

 

段々遠ざかる月の小さな背中に、馬遵の長子があからさまな安堵のため息を一つ零した。

 

 

**

 

 

軍記物っぽくしたら読者が減ったよ!(撲殺

甘露です

 

アレですね、萌えが足りませんね

プリキュア見てたと思ったらなんか今週から絵柄が世紀末覇王になってた件

的な感じですよね。

 

 

ちょっと自分でなにかいてるのかわかんないです(^q^)

まあまあ、兎も角。

これからも宜しくお願いしますってことです

 

では


 
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