No.509524

時代は三十年後 IS世界へ~(とある傭兵と戦闘機) 第十ニ話  

更新遅れましてすみませんでした

ある戦争を戦い抜いた少女と、様々なものと戦う少年
二人の共通点と相違点、そして少女は世界に何を思うのだろうか
少女は何と戦うのだろうか?

続きを表示

2012-11-18 02:45:53 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2993   閲覧ユーザー数:2742

 

 

 

 

   ~ラウラ視点~

 

 

あれから三十分後、私達は福音が居る座標から8000メートル離れた空域で最終確認をしていた

 

 「予定通り、私がここから制圧砲撃を行う。福音はこちらを捕捉すれば、必ず接近してくる

 

  各員は手筈通りにやってくれ」

 

 「「「「了解ッ」」」」

 

私はシュバルツア・レーゲンの砲撃特化仕様(パンツァー・カノニーア)の遠距離照準センサーで

 

福音を捉える

 

このパンツァー・カノニーアはシュバルツア・レーゲンのレールカノンを大型化、大口径化する事で

 

遠距離目標に対する砲撃力を強化したパッケージである

 

 「目標捕捉・・・各員、これより状況を開始する。砲撃ーーー開始!!」

 

 ドォンッ!!

 

デフォルト装備のレールカノンよりも遥かに威力が強化された砲弾が、目標に向けて飛翔する

 

そして飛翔した砲弾は日の落ちた薄暗い空に赤い軌道を描き、福音の頭部に命中する

 

 「初弾命中ッ!!」

 

爆煙が晴れると同時に、福音がその姿を現す

 

福音の機体はボロボロで、フィリアとの戦いが想像を絶するものだという事が見てとれた

 

大型の一対の翼は片方が失われ、全身の装甲には剣を受けたような傷やヒビなどが多数あった

 

 「(軍事用第三世代機を、第二世代試作機でここまで消耗させるのか・・・)」

 

前にアイツと戦った時にも感じた敵意

 

それは圧倒的で、冷酷で、深く底が知れない

 

高出力偏向スラスターをマニュアル操作して福音の機動に追従

 

性能差で圧倒的アドバンテージを持っている第三世代機に試作段階の第二世代機で

 

真っ向から向かうその精神力

 

どれを取っても普通じゃない

 

 「ラファールよりも古い機体でここまで・・・」

 

シャルロットが搭乗するラファールは、第二世代ISの最終生産型であり初期第三世代型相当されているが

 

やはり一対一の状況で、純粋に軍事目的で開発された第三世代機相手に戦えるかどうかは否だろう

 

 「修復を一時中断・・・敵勢勢力の迎撃に移行ーーー」

 

福音がこちらを捕捉した

 

 「ダメージレベルC・・・戦闘データ解析完了。二次形態移行・・・実行しますーーー」

 

福音が再度身を守るようにうずくまった。瞬間ーーー

 

 キァァァァァァァァァッ!!

 

耳を劈くような叫びと共に福音の周囲にエネルギーが集束、それはやがて青く光る翼へと形をなした

 

 「これは・・・セカンドシフトーーー」

 

私が言いかけた瞬間、その翼の一部がステルスモードで ”約3キロ”離れた空域にいるセシリアを襲った

 

 「なッ・・・!?」

 

消えるブルー・ティアーズの通信波

 

 「セシリア、応答して!!セシリアッ!!」

 

シャルロットが何度も呼びかけるが返事は無く、

 

その間にも福音はその禍々しい翼を広げて砲撃体勢を取った

 

 「全機、敵射程圏内からただちに離脱ーーー」

 

敵の射程データを算出する・・・が

 

 「だめ!!これじゃ逃げ切れない」

 

 敵IS有効砲撃圏   半径約 5000M

 

何だ・・・この性能は!?

 

砲撃体勢に入った福音は、その場でクルリと一回転をしたーーー瞬間

 

 ドドドドドドドドドドドドドドッ

 

エネルギー翼から発生した砲弾

 

それは回避する隙間もないほどに全方位に散らばる

 

そして、発生から一秒も経たずに私も回避でずにその砲弾の雨を浴びる事になった

 

 

 

 

 

 

    ~一夏視点~

 

 

 ざあ、ざあん・・・

 

さざ波の音を聞きながら、俺は飽きもせずに女の子を眺めていた

 

その歌は、その踊りは、何故か俺をひどく懐かしい思いにさせる

 

 (・・・あれ?)

 

ところが、ふと気づくと少女は歌うのやめていた

 

踊るのもやめて、ただじっと空を見上げていた

 

俺はなんとなく不思議に思い、少女の隣へ向かう

 

波打ち際に来た俺の足を、涼しい水の調がぬらす

 

 「どうかしたのか?」

 

声をかけるが、少女は空をじぃっと見上げたまま動かない

 

俺もなんとなく空を見るがふと、少女の声が聞こえた

 

 「呼んでる・・・行かなきゃ・・・」

 

 「え?」

 

隣に目を戻すと、もうそこに少女の姿は無かった

 

ーーーあれ?

 

周りを見回してみるが、もう人影はみあたらない。歌も、聞こえない

 

ざあざあ、ざあざあと。波の音だけが世界を支配する

 

 「うーん・・・」

 

俺は仕方なく木のソファに戻ろうと体を反転させる

 

するとーーー背中に声を投げかけられた

 

 「力を欲しますか・・・?」

 

 「え・・・」

 

急いで振り向くと、波の中ーーー膝下まで海に沈めた女性が立っていた

 

その姿は、白く輝く甲冑を身に纏った騎士さながらの格好だった

 

大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を預けている

 

その顔は目を覆うガードに隠され、下半分しか見えない

 

 「力を欲しますか・・・?。何の為に・・・・」

 

 「う~ん・・・難しい事を訊くなぁ」

 

波だけが、俺と女性の間にある

 

 「・・・そうだな。友達をーーーいや、仲間を守る為かな」

 

 「仲間を・・・」

 

 「仲間をな。なんていうか、世の中って色々戦わないといけないだろ?

 

  単純な腕力だけじゃなくて、色んなことでさ」

 

俺は、いまいち自分の中でもまとまってない事なのに、妙に饒舌に喋っていた

 

 「そういう時にほら、不条理な事ってあるだろ?道理のない暴力って結構多いぜ。

 

  そういうのから、できるだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦うーーー仲間を」

 

 「そう・・・・」

 

女性は静かに答えてそう頷いた

 

 「だったら、行かなきゃね」

 

 「えっ?」

 

また後ろから声をかけられる

 

振り向くと、白いワンピースの女の子が立っていた

 

人懐っこい笑み。無邪気そうな顔で、じぃっと俺を見つめている

 

 「ほら、ね?」

 

手を取られて、にこりと微笑みかけられる

 

俺はひどく照れくさい気持ちになりながら

 

 「ああ」

 

と、頷いた。

 

するといきなり変化が訪れた

 

 「な、なんだーーー」

 

ーーー空が、世界が、眩いほどに光を放ち始める

 

夢の終わりの如く、視界が遠くなって行く

 

そんな時、俺はふと思った

 

あの女性は・・・誰かに似ていた

 

白いーーー騎士の女性にーーー

 

 

 

 

 

 「うっ・・・」

 

夢から目が覚めて、俺はベットから降りる

 

その時、俺の体のいたる所に繋がれた大量の医療機器が目に入り

 

目が覚めるまでの俺の状況を悟った

 

 「白式、今皆はどこに居るんだ?」

 

自分の腕に装着されている俺の専用機・・・待機状態の俺のパートナーに問いかける

 

 ピピッ

 

IS特有の反応音と共にウィンドウが空中に映し出される

 

それはISのコア・ネットワークの相互位置伝達システムのレーダー表示モードだった

 

表示されている反応は、ほぼ同じ空域にあった。・・・一機を除いて

 

 「行かねーと・・・」

 

部屋のドアを開け、俺はひと気のない静かな廊下を走った

 

 「お、織斑君っ。目が覚めたの!?」

 

他の女子生徒と途中でばったり会ってしまった

 

 「ああ、悪い。俺行かないといけないんだ」

 

 「あっ、ちょっと!?織斑君!!」

 

女子生徒が呼んでいるが、俺は走るのをやめない

 

そうして俺は中庭を突っ切って砂浜に出た

 

太陽は沈み、空は夕方と夜の境目の薄暗い模様になっていた

 

 「来い・・・白式!!」

 

右腕に装着された白いガントレットに集中する

 

 キュィィィィィィッ

 

起動音と共に俺の体を白く光る粒子が覆う

 

そして、光が晴れる頃には俺は白式を装備した状態で少し空中に浮いていた

 

 「よし、行く(搭乗者データの解析完了ーーーこれより、二次形態に移行します)・・・え?」

 

システム音声が言葉を遮った・・・そしてーーー

 

白式の展開された装甲全てがもう一度粒子化、装甲の形を崩して再集束する

 

そして、白式は大きく形を変えて再び体に装着された

 

 (二次形態移行完了ーーー搭乗者は完了ボタンを押してください)

 

一つのウインドウが開かれ、その真ん中に完了の確認ボタンが表示されていた

 

 (完了を確認ーーー第二形態”雪羅”起動)

 

そのシステム音声が聞こえた瞬間、俺の頭の中に流れてくる機体のデータ

 

装備、推進スラスター、シールドエネルギーの状態など、俺は全てを一瞬で理解した

 

 「よし・・・行くぞ、雪羅ッ!!」

 

スラスターにエネルギーを回し、瞬間的に加速する

 

そして俺は向かった

 

守ると決めた・・・約束した、仲間の下へ

 

 

 

 

 

 

    ~箒視点~

 

 

 

福音は満身創痍の・・・ハズだった

 

 「ぐ・・・うっ・・・」

 

福音は強引にセカンドシフトを敢行し、そして二次移行前よりも遥かに強烈なエネルギーの雨を私達に降らせた

 

その弾雨は回避もままならない仲間を墜としていった

 

私は展開装甲の全開使用によって辛うじて回避できたものの

 

防御に集中した際、その砲弾の嵐に紛れて福音に接近を許してしまった

 

目の前の青いエネルギーの翼が、私を覆うように広がっていく

 

 (これまでか・・・情けない・・・)

 

目の前の翼が大きく、そして光を放っていく

 

恐らくもう攻撃までの秒読みに入っているのだろう

 

私の頭の中には、ただある事が思い浮かんでいた

 

 ーーーーすまない

 

あいつが繋いでくれた機会を、私は無駄にしてしまった

 

 ーーー会いたい

 

 一夏に、会いたい

 

 すぐに会いたい。今会いたい

 

 ああ、ああ、会いたい・・・

 

 「いち・・・か・・・」

 

知らず知らず、私は口にしていた

 

 「一夏・・・」

 

翼が体を包む寸前、私は覚悟を決めて目を閉じた

 

 キィィィィィィンッ

 

その空を貫きながら進むその独特の音

 

それに気がついた福音は私を放して回避行動に入った

 

 バシュンッ!!

 

さっきまで福音が居た場所を光の線が通り抜ける

 

 「今のはーーーっ!!」

 

目の前に現れる白い影

 

 「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえッ!!」

 

そのビームを放った人物はーーー白式ではない機体に身を包んだ一夏だった

 

 

 

 

 

 

 

   ~一夏視点~

 

 

 

間一髪、俺は箒にとどめを刺そうとしていた所に割り込む事ができた

 

 「い、一夏!!」

 

驚いたように顔を上げる箒

 

紅椿の装甲も、所々欠けていたりヒビが入っていたりしてボロボロだった

 

あと少し遅れればーーー手遅れだったかもしれなかった

 

 「おう、待たせたな」

 

一言、短く返事をして俺は箒にある物を渡した

 

 「え?・・・り、リボン?」

 

 「誕生日、おめでとうな」

 

七月七日、今日が箒の誕生日

 

とはいえプレゼントに何を買ったらいいか迷った俺は、シャルに買い物に付き合ってもらったわけなんだが

 

 「それ、せっかくだし使えよ」

 

 「あ、ああ・・・」

 

 「じゃあ、行ってくる。ーーーまだ、終わってないからな」

 

言うなり、俺はこちらに向かってきた福音へと急加速、正面からぶつかった

 

 「さあ、再戦といくか!!」

 

俺は再び福音との高速戦闘に入った

 

 

 

 

 

    ~フィリア視点~

 

 

眩しい光に目を覚ますと、私は草原に居た

 

そこに一つ生える木の下で、私は木にもたれかかるようにして眠っていた

 

ああーーーここがあの世ってわけだね

 

再び睡魔に襲われ、私はゆっくりと目蓋を閉じる

 

邪魔する者は存在しない

 

ゆっくりと、私は意識を暗闇に落とそうとする

 

 「おねーちゃん」

 

ふと、前の方から聞こえた声

 

私は目を開けた

 

 「・・・レイ?」

 

半分覚醒してない私はただ質問した

 

 「私は、コアナンバー000です」

 

段々と、そのぼんやりとした姿がはっきりと見えるようになる

 

だが私の前に立っていたのは、今の私より少し背が高く

 

見覚えのあるパイロットスーツに身を包んだ女性だった

 

 「これが、私の元となった人物のデータです」

 

片手にはヘルメットを提げ、紺色の髪を後ろでまとめるようにくくっていた

 

髪留めに付けられた銀色のプレートの光が、きらきらと輝いていた

 

見紛う事は無い、ベルカ戦争当時の私の格好だ

 

 「私は母から、ある願いを託されて生み出されました」

 

その口調は、レイとは全く違う冷たさがあった

 

 「ある願い?」

 

 「はい、ただ一つの願いです。彼女の想いはどんな物なのか、それが世界に何をもたらしたのか

 

  彼女は世界を変えたくて変えたのか、そして、彼女は何を求めて空を駆けたのか」

 

私は、全てを覚えている

 

 「その人は、空に救いを求め、罰を求め、生きる事を求めた」

 

その結果、全く実感の湧かない”世界の答え”を弾き出してしまった

 

私は、世界については何も考えてなんかいない

 

私のような人間が、おいそれと口を出すような事は許されない

 

でも、私は世界の歴史に干渉してしまったのだ

 

だから私はーーー

 

 「空に、唯一の居場所を求めた」

 

ざあっと風が草原の草を揺らす

 

 「私の居場所は戦場なんかじゃない。ただ蒼い空を、純粋な”飛ぶ”為の空」

 

私は自分のドックタグを首から外し、木の傍らにそっと置く

 

 「ただ私は、仲間と笑って空に居たい。ならその空を守る力を、私は最大限に使う」

 

私はコアナンバー000と名乗る目の前の女性に手を出す

 

 「だから、一緒に空に行こう。そしてーーー」

 

 「守る為に、戦いましょう」

 

目の前の”私”が言葉を紡ぐ

 

 「それじゃあよろしく、コアナンバー000・・・いや、”サイファー”」

 

もう一人の”私”も私の手をとり、握手をする

 

そして私は、世界を包む光の中に意識を落とした

 

 

 

   

 

    一夏視点

 

 

あれから数十分、俺は回復した仲間と共に福音を止めるようと戦っていた。

 

 「ハアハア・・・くそっ、全然当たらねぇッ!!」

 

福音は俺達の連携攻撃をいとも簡単に防御・回避・カウンターで攻撃をしてきやがる

 

 「一夏ぁッ、もう一度よ!!」

 

 「おう!!」

 

再び福音を正面に据える

 

福音も俺に向かって翼を広げる

 

 「------!!」

 

だが福音は突然俺から視線を外した

 

俺は福音の向いた方向を確認する

 

月を背景にする形で、それはただ悠然と浮いていた

 

 「あれはーーー」

 

俺が言いかけた途端、その影は消えた

 

福音が身構えようとした瞬間、福音は弾き飛ばされた

 

 「何!?何なのよ!?」

 

俺は弾いた機体の確認をしようとハイパーセンサーで追尾する

 

現れたのは、蒼と白の機体に身を包んだフィリアだった

 

だがフィリアは何も言わず、福音に向かう

 

福音は身構える

 

その姿はなぜか怯えているようで、翼で自分の体を包もうとしていた

 

フィリアはゆっくりと、福音に向かう

 

 「フィリア、危ないよ!!」

 

シャルルが叫ぶが、気にもせず向かう

 

福音がエネルギー翼で防御体勢を整える瞬間、再びフィリアは消えた

 

 「なっ!?」

 

福音が展開している翼を広げると、そこには福音に抱きつくフィリアがいた

 

 「・・・もう、いいから」

 

フィリアが話しかけるように呟く

 

 「もう、大丈夫だから」

 

それが通じたのか福音の腕は力なく垂れ、エネルギー翼は静かに姿を消失させる

 

福音は、その破壊活動を停止した

 

 「終わった・・・」

 

こうして、この暴走事件は夕闇に浮かぶ月明かりの元に幕をおろした

 

 

 

 

 

 「全く、一体何が原因だったのよ?」

 

 「さあな、俺も知らん」

 

旅館に帰還する最中、他愛もない無駄話をしていて気がついた

 

 「そういえばお前らって命令無視して来たんだろ、大丈夫なのか?」

 

ハッとしたのか、会話が中断されメンバーの顔が青ざめる

 

 「あ、アンタのせいでしょうが!!責任取りなさいよ!!」

 

 「そうだよ!!僕らは一夏の為に・・・」

 

わー言わなきゃよかった

 

 「お前は命令無視とかじゃないんだっけな」

 

先頭を飛んでいる福音を抱えたフィリアに話しかけるが、反応しない。どうしたんだ?

 

そうこうしている内に旅館が見えてきた

 

ハイパーセンサーで確認する

 

その時、旅館の砂浜で待ち構えている千冬姉と山田先生をセンサーが捉えた

 

 「はは・・・また怒られるんだろうな」

 

砂浜に低空飛行しながら着地する

 

 ドサッ

 

だがフィリアが着地して福音の機体を降ろした瞬間、糸が切れたようにその場に倒れこんだ

 

 「お、おい!!どうしたんだ!?」

 

 「安心しろ、気を失っているだけだ」

 

千冬姉が福音を抱え、山田先生がフィリアを抱える

 

 「作戦完了ーーーと言いたい所だが、お前達は独自行動による重大な違反を犯した。

 

  帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用のトレーニングを用意してやるからそのつもりで居ろ」

 

 「はい・・・」

 

それから千冬姉は旅館の方に歩いて行こうとして、歩みを止めた

 

 「まあ、よくやった」

 

ボソっとそう呟いて旅館に戻っていった

 

 「えっと、皆さんお疲れ様でした。とりあえず反省文はまた学園に戻ってからなので

 

  今日はゆっくりと休んでください。フェイリールドさんは私が預かりますので

 

  皆さんは身体検査後は各部屋に戻って休んでくださいね?」

 

山田先生はそう言うと、フィリアを背負いなおして旅館の方に戻っていった

 

 「さて、お前らケガとかないよな」

 

 「アンタに比べたら皆無いようなものよ」

 

 「一夏こそ、大怪我してたくせに無茶しすぎだよ」

 

 「大丈夫だ。もう治ってるからな」

 

 「「「「ええっ!?」」」

 

気がついたら傷が消えていたってだけだけど、最近の医療ってそんなに進んでたか?

 

 「まあ、俺は大丈夫だ。それよりアイツ、どうしたんだ?」

 

 「嫁よ、貴様は何も知らないのか?」

 

 「何もって、何かあったのか?」

 

それから聞いた

 

俺が箒をかばって気を失った後の事を

 

その時あいつに何が起きたのか

 

 

 

 

 

 

 「そんな事があったのか・・・」

 

話を聞いた通りなら俺の浅はかな行動のツケを、あいつが受けた事になる

 

結局俺は・・・仲間を守れなかったのか

 

 「アンタが気を落としてどうるのよ、ちゃんとお礼して謝りなさいよ」

 

 「わかってるよ。でもあの福音に一対一で互角って、すげーな」

 

専用機持ちが総掛りで挑んでも、福音には決定打を与えられなかった

 

 「あの子、一体何者なのよ?」

 

 「俺が聞きてーよ」

 

しかもそれが一機が一国の軍事力に匹敵すると呼ばれる第三世代型IS

 

その専用機持ち五人が束になってやっと最新鋭の軍用機体に互角の立ち回りができた

 

それをたった一人で、しかも第三世代ではなく第二世代機で互角に渡り合った

 

それは、単機で五ヶ国もの戦力と渡り合えるという事の証明でもある

 

もう、滅茶苦茶だ

 

 「ともかく、この件についてはあまり考えないようにしません?」

 

ここで、頭を押さえっぱなしだったセシリアが口を開いた

 

 「それもそうね、皆疲れてるんでしょ?だったらすぐに休みましょうよ」

 

リンがそれに賛同する

 

 「同感だな」

 

 「僕も疲れちゃった」

 

みんなぐったりと、疲れが顕わになっていた

 

こうして、この場の話は解散となった

 

 

 

 

   フィリア視点

 

 

 「・・・ぅあ・・・」

 

凄まじい疲労感を感じながら重い目蓋を開く

 

部屋は天井からの柔らかな橙色の明かりで照らされ

 

窓から見る外はもう暗くなりかけの夜空が、窓の淵によって四角く切り取られていた

 

あれ?いつの間に旅館に戻ったんだろう

 

 「目が覚めたか?」

 

 「うわぁっ!?」

 

横からいきなり声を投げかけられたもんだからビックリした

 

 「何だその恐ろしい物を見る目は」

 

 「そりゃあ目の前に鬼が居れば誰でも怯えますよ?織斑先生」

 

声をかけてきたのは、相変わらず黒いスーツを着こなしている織斑先生だった

 

 「鬼の神が私程度の鬼に怯えるのか?」

 

 「そりゃ鬼の神にも心はあるんでしょう」

 

 「そうだな、今度聞いてみる事にしよう」

 

フッと、織斑先生は微笑んだ

 

それは鬼のモノではなく

 

ただ、自分の教え子を心配するように

 

 「夕飯の時間が近い、動けるのならなるべく取っておくことだな」

 

織斑先生はそう言って部屋から出て行った

 

 「ははっ・・・結局私も鬼なんだなぁ」

 

ベルカ戦争当時の出来事を思い出す

 

私はいつから鬼と呼ばれるようになったんだろう?

 

疲労感を堪えて体を起こし、おぼつかない足取りで部屋のドアに向かう

 

私がドアに手をかけようとすると、ドアがいきなり開いた

 

 「お、よう。大丈夫か?」

 

織斑君がいた

 

 「ん・・・大丈ーーー」

 

足から力が抜けて、そのままその場にへたり込む

 

ああ、意識が遠のく・・・

 

 

 

 

 

   ~一夏視点~

 

 

 

身体検査を受けてから一時間

 

山田先生にフィリアの居場所を聞いてからその場所に向かっていた

 

 「・・・ここか」

 

ある和室の一室

 

俺はノックもせずにそのままドアに手をかけた

 

ドアを開けると、ちょうど俺の目の前にフィリアが立っていた

 

 「お、よう。大丈夫か?」

 

 「ん・・・大丈ーーー」

 

フィリアは、糸が切れたようにその場にへたり込んだ

 

 「おい!!どうしたんだ!?」

 

フィリアの肩をゆするが、返事は無く

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

静かな寝息を立てて、コイツは寝ていた

 

 「全く、驚かせんなって・・・」

 

でもこのまま寝かせておくと風邪ひかせるし

 

周りを見ると、一式布団が敷いてあった

 

そこにフィリアを抱えて、寝かせる

 

 「手のかかるやつだな、ホントによ」

 

でも、不思議とイライラは湧いてこない

 

コイツの寝顔を見てると、不思議と心が落ち着く

 

 「さて、寝ちまったから聞こうにも聞けないな」

 

俺は部屋を出ようと腰をあげた

 

ふいに、俺の裾が引っ張られた

 

 「何だ・・・?」

 

よく見ると、フィリアが俺の浴衣の裾を握っていた

 

 「・・・行か・・・ないで・・・」

 

寝言だろうか、その言葉は震えていた

 

そして、その頬を透き通った涙が伝う

 

 「まあ、少しくらい居てやるよ」

 

その場に横になる

 

そして段々と、俺の意識も部屋の暗闇に溶けていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  更新遅れまして誠に申し訳ありません

 

  次回、主人公の過去と夏休みのお話

 

  意見感想募集中なので

 

  バンバン書いてください

 

  これからもよろしくお願いします

 

 

 

 


 
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