No.497535

前後の脈絡のない一場面

ラグナロクオンラインの二次創作小説です。登場人物が意味ありげに出てくる序章の部分なのでまさに脈絡なく始まって、ぶつっと終わってる感じがありますがご容赦を。

2012-10-18 17:42:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:350   閲覧ユーザー数:350

 

一番最初の記憶は、手を引かれて街の中をずっと歩いていたこと。視線が低くて、コンパスのような足が右往左往しているのしか見えない。何か起きているようだ。

 

「ねぇ、いいの?」

 

時々見上げて聞いてみるのだが、マフラーの様な物がひらひらしているのしか見えない。逆光で影に染まった黒い人のようだ。

 

「..........ここから出て、北の出口に人が待っている。そこまでは連れて行くから、後はその人についていけ」

 

街の騒ぎは大きくなっているようだ。何か飛んできたが、ぱんっと音がして、振り返ってみると真っ二つに切り裂かれた何かが転がっていた。

 

「また、もう......あの子まっぷたつだよ」

「あれは化け物だ。仲良くできるものじゃない」

 

夕方で空が赤かった。別の意味で街のあちこちが真っ赤だった.............自分も彼も、割と。

 

街を急ぎ足で出て行く人は自分たちの他にもいたので、特に目立つこともなさそうだった。とにかく急ぎ街を出ると、小さな丘の様なものが見える。ポリンを足でけっ飛ばしながら彼は進んでいったが、向かってこない敵はまっぷたつにしないのだ、と言っていた。

 

「労力の無駄遣いだからな」

 

どれぐらい歩いたのだろう。ずっと歩いて行った先に、森の入口が見える。そこに綺麗な女の人が立っていた。勇ましい感じでとっても強そうだ。

 

「遅い」

「..........騒ぎが大きくなりすぎた。はめられたかもしれん」

「お前はとっとと消えろ。報酬は前金で払った」

 

彼はひどくうんざりした顔で自分の手を離した。はるか上にある二つの顔を見比べても、あまり状況は芳しくないのだろうな、ということはわかった。

 

「どれだけ騒ごうが、教会と修道院の中は手が出せないからな。せいぜいわめいてればいいさ」

「.........教会はもうダメだ。お偉方は保身しか考えてないからな」

「それは昔からだ。ただ教会の中ではさすがに血を見ることはないだろ?一歩外に出たら危ないからな、だからお前を呼んだんだ、不本意ながら」

 

不本意、にひどく力がこもっていたが、今度は女の人が自分の手を引いてくれた。教会のプリースト達の手と違ってひどく力強かったが、それで安心した気もする。

 

「........お前のかばんの中に、ちゃんとクマも入れといたからな。おやつは............」

「お前みたいなお菓子好きになりすぎないように気をつけといてやるからさっさと散れ」

 

くるり、と背を向けると彼女は自分の手を引っ張って、森の中を進んでいった。

 

「............さよなら」

 

振り返ってそう言ったら、もうそこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「さあついた。ちょっと待ってろ」

 

随分森の中をあちこちひっぱりまわされた。絵本で見たことがある怖い植物がぺしぺし叩いてきたし、水色のウサギに追いかけられたりしたが、全部お姉さんが一撃で粉砕してしまった。実は前から密かに行きたかった、おさるさんのいる森も

 

「あ、かわい」

「あれはアクティブだぞ。かわいいもんか」

 

と有無を言わさず抜けて行き、やっと止まったところが古びた建物だった。入口で何やら誰かと言葉を交わすと、またぐいぐい手を引っ張って、部屋の一室に連れ込まれた。どすん、と椅子に座らせられる。

 

「疲れたな。しかしお前の脚は強い。教会にずっと閉じ込められてたなんて信じられんぐらいだ。加減はしたが私の速度についてくるのはきつかったかもしれんのだがな」

 

そう言いながらがったんがったんと戸棚から何やら出してきた。...........たぶんおにぎりとかそういうものなんだろうけど、形がなんというか、四角というか握りしめた勢いのままというか.....。

 

「食え」

 

どん、どん、と目の前のテーブルにそのおにぎりなどの乗った皿を置かれる。お腹をすかせてはいたのだが、目をぱちくりしたまま動けなかった。手も洗ってないし。教会では手も洗わずに食べ物に手を伸ばそうものなら「いけませんよ!」とごしごし手を洗われたものだ。

 

「見てくれは悪いが味は大丈夫だ。金もとらんし毒も入ってない」

 

ああ、はあ、と返事を返すか返さないかのうちにどんどん、と部屋の扉が叩かれた。

 

「毎度ー。お世話様の天才錬金じゅ」

「新聞も保険も就職も間に合ってる」

 

というなり彼女はバーンと扉を蹴り開けた。相手は慣れっこのようで、ちゃんと扉のブチ当たらない所に控えていた。

 

「お姉さんあいかわらずひどいですよー。そういう扱いはないでしょう?特に今回は」

「お前がプロンテラで問題起こすたんびにどうにかもみ消してやったのは誰だ?お前なんかとっくの昔にプロンテラ出入り禁止だぞ」

「それは困るなぁ、商売あがったりだし」

 

彼はカートからたくさん荷物を降ろしながら、急にこちらを見てにやっと笑った。何を下ろしているんだか、何か果物のように見えるんだけど、どうして妙に金属っぽいというか、釘みたいなのが刺さってるんだろう?

 

「お姉さん荒いんだけどねぇ、悪い人じゃないんだよ。おにぎりはひど」

 

激しく蹴りが入ったが、彼がひょいっと避けたことに驚いた。

 

「逃げるのは得意だな、昔から!」

「............今回はそれが役に立ちますよ、楽松」

 

へぇ、ラクマツ、というのか、と思った。女の人っぽい名前ではないが。

 

「手順はわかってるな。多分危ないのはアルベルタの港の検問だな。教会から逃げたのはもうばれてる。ココも時間の問題だ。すぐにあちこちの街の入り口にはプロンテラからの検査が入る」

「危ない荷物を運ぶのは慣れてるからなぁ。教会さんだって例外じゃあないしねぇ。あちらさんがつつかれて嫌なネタなら、商人ギルドも山ほどつかんでますからねぇ。商売上の情報として」

 

この人たちの会話はどうしてこう物騒なのかなぁ、と思いつつ、おにぎりをもぐもぐしていた。確かにおいしかった。甘いんだかな......ピンクの、これは何の色なんだろう?

 

「あれぇ、お茶もないの?可哀想に。じゃあお兄さん特製のハーブティーをあげよう。ハチミツも入ってるよ」

 

差し出されたお茶に、ラクマツが何か言うんじゃないかと思ったが、窓の外を見つめたまま、またおにぎりを食べていた。別にいいんだろうな、飲んでも、と思って、手を伸ばして、飲んで。

 

飲んでいるうちに、なんだかおなかがいっぱいになってきて、眠くなってきた。いいのかなぁ、ココで寝ても。

 

「眠くなったみたいだけど、この子」

「じゃあ、手順どおりに」

 

.....後は真っ暗になって、わからなくなった。

 

 

 

 

 

アルベルタの港は、その日に限って混雑していた。普段より検問が厳しいらしく、荷物を随分詳しく検めているらしい。

 

「うっとうしいなぁ。あいつら、いつもなら酒一本で通す癖によ」

「賞金首とガキを見つけたら一生遊んで暮らせる金がもらえるらしいぜ。あいつらも必死なんだろ」

 

そんな声を聞きながら、自称天才錬金術師の彼は空っぽのカートのパンダを一生懸命綺麗にしていた。

 

「...........金ねぇ。つまらんねぇ。ねぇ、みるちゃん」

 

みるちゃん、と呼ばれたのは何やらぷるんぷるんした巨大なゼリー、ホムンクルスだった。バニルミルト、という名称はあるものの、彼はもっぱらみるちゃん、みるちゃんと呼んでいた。

 

「おい、次、お前だ」

「はいはい、出番ですね」

 

ひょいひょいとカートを片手で引っ張って歩く。そりゃ空っぽだからな、と彼はつぶやいた。

 

「こんなもんですがー。見ての通り空っぽで。取引に失敗しましたよ、全く」

「そのずた袋は?」

 

彼はばつの悪そうな顔をした。ずっしりとなにやら重そうなその麻袋を、見逃すはずもない。

 

「........勘弁してほしいなぁ、こっちも商売なんでねぇ」

「勘弁するかどうかはこっちが決める」

 

そう言うと役人は彼から袋をひったくり、中を開ける。中からはごろごろ、と妙に金属質な果物が出てきた。メロン爆弾、リンゴ爆弾、バナナ爆弾.......可愛いものの効果は絶大、のはずだ。

「物騒だなお前.............いきなり爆発したりしないだろうな?」

「いやですねぇ、そんなわけないでしょ?奥にこんなものが入ってるんだから」

 

彼はもったいつけて、瓶を二本ほど出した。

 

「珍しいもんですがねぇ、材料がいかがわしいんでどうもねぇ。まあ爆弾の中を漁りたがるなんてあなたぐらいですからねぇ」

 

そう言いながら、彼はするっと役人の横の箱にそれを入れた。希少な材料を使って作られた法律に触ったり触らなかったりするかもしれないアルコールたっぷりな贅沢な一品、という奴だ。

全くしょうがないな、という顔をしつつ、役人は彼を通した。こういう日々のごますりが大事なのだ、全く愛すべきこの腐った国ときたら!

 

「どうも御苦労さまです」

 

彼はそういうとまた袋に爆弾をつめこみ、そそくさと港を後にしようとした。

 

「あ、おい」

「なんです?」

 

ちょっと緊張した気配を気取られないように、彼はのんびり振り返った。

 

「お尋ね者のアサクロが5歳ぐらいの男の子を連れて逃げてるらしい。見たことないか?」

「男の子ねぇ。残念ながら、アサクロも男の子も見てませんねぇ」

「今後も、もし見かけたらすぐ通報してくれ。下手したら殺されてしまうかもしれないからな、子供が」

「そりゃ穏やかじゃないなぁ。わかりました、露店など気を付けときましょう」

 

そう言うと、今度こそ彼は港を後にした。角を一つ、二つ曲がったとたん、ほぼダッシュで街のなかの細かい路地を抜け、一つの建物に入った。階段をカートごとひっぱって登る。一室に入りこむと、ふううー、と息をついて座り込んだ。

 

「ああ全く、あいつときたら..........どんだけ危ない橋渡らせるんだよ」

そう言いながら、彼は部屋の中の工具箱をがしゃがしゃと漁り出す。やがて絵に描いたようないわゆるバールのようなもの、を取り出すと、いきなりカートをばりばり壊し始めた。ばきっと木の板をはがす。二重底だ。

 

「間抜けが。カートの底が高すぎるとかちょっと大きすぎないかとか思わねぇのかよ、馬鹿が」

 

 

 

急に明るくなった気がした。あれ、夜が明けたのかな?と思った。どうやら眠ってしまっていたらしい。それにしても.....なんて狭い所で寝ていたんだろう。ベッド、というより、箱、というよりこれは..............

 

「ごめんな、そんな狭いとこで」

彼はそう言うと、本当に申し訳なさそうに自分の頭をなでてくれた。

 

「ああ、せっかくのズボンやらが台無しだな。新しい服なら買ってあげるよ。君はこれから、ここで暮らすんだ」

 

そういうと、自分を抱え上げて、窓のそばに連れて行ってくれた。海が見える。初めて見た海は、赤く染まっていて、とても綺麗だった。

 

「あいつらはどうやったって君を見つけられっこない。根本的に間違ってるんだからな」

「............僕ここにいていいの?お兄さんに迷惑がかかるんじゃ.....」

 

そう言うと、彼はにっこり笑って自分を下ろし、目線を自分の高さに合わせるように膝を付いてじっと自分の眼を見た。

 

「いいかい。もう昔のことは忘れるんだ。例のお菓子狂のアサクロのことも、楽松のことも。教会にいたときのことは忘れてしまうんだ。誰にも言っちゃいけない。わかったね。約束してくれるなら、君に大事な、そしていいことを教えてあげよう。きっと安心するはずだよ」

「約束するよ。教えてよ」

 

いいこと、なんてそんなになかったから、子供の自分は飛びついた。彼はひどく真面目な顔でじゃあ教えてあげよう、と言った。

 

「君はね。本当は女の子なんだよ」

 

 
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