No.496094

とある科学の自由選択《Freedom Select》 第 六 話 説明不可能な生物

第六話

2012-10-14 13:32:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1267   閲覧ユーザー数:1228

 

 

第 六 話 説明不可能な生物

 

「根性ってモンが足りてねえな、兄ちゃん。そんなんじゃ誰も満足しねえぞ」

 

 

唐突に響く大きな声。

そっちを見ると、路地の出入り口辺りに仁王立ちする一つの影。

 

その影を見るなり神命 選は今朝用意していた拳銃をおもむろに取り出し躊躇うことなくその引き金を引く。

 

その銃声は正確に相手の心臓を捉えそしてそれに命中した。

ばったり倒れる謎の影。

 

何故躊躇いもなく彼が引き金を引いたのか、それは彼がその影の正体を知っているからだ。

 

「ふるわァァああああああああああああああああああああああ」

 

むくぅと起き上がるその影。此処までの所要時間、わずか三秒。ほとんど起き上がりこぼし状態の人影はさきほど明らかに心臓に一発もらったはずだが、まるで徹夜明けのおかしなテンションみたいな足取りでズンズンこちらに近づいてくると、

 

「何の前触れもなく一発くれるとは、やっぱ根性が足りてねえな。あるいは我慢か?我慢が足りねえのか?総合的に判断するに、さてはお前、近頃のキレやすい子供のような類だろう!!マスコミから好き勝手言われるような立場になって哀しいと思ったことはねえのか!?」

 

しかしそんな言葉なんかお構いなしに三発ほどの銃声がこだまする。が、もはや人影はビクンビクンと震えるだけで倒れはしない。

 

「やっぱ死なないんだな」

 

「根性だよ、根性」

 

「いや別に聞いてないんだけど」

 

「強いて挙げれば学園都市の超能力者の一人、七人の内の七番目、ナンバーセブンの削板 軍覇(そぎいた ぐんは)という事もある訳だが、そんなのは些細な事だ。———今ここで論じるべきは、このオレの中には怒涛の如く煮えたぎる根性が満ち溢れているという事だーっ!!」

 

両手を大きく広げ、背中を弓のように反らし、天に向かって吠えるように宣言する削板もしくは謎の根性熱血漢。どういう理論か知らないが、彼の背後がドバーン!!と爆発して赤青黄色のカラフルな煙がもくもく出てくる。

 

それを呆然として眺めている神命だったが、ふと我に返って首を振る。

 

「あのさ、そこまで大々的に宣言したのはいいんだけどさ、何で今更出てきた?」

 

「それはお前のような奴ががこんな路地裏で弱い者いじめをしているからだろうが!!」

 

その言葉を聴いて後ろで倒れていたはずのモツ鍋の横須賀さんがいつの間にか目を覚ましていた。

 

「あれ?何で俺弱い者扱いされてんの?そう言えばそこの第七位……この前はよくもやってくれたな……」

 

知らない内に起き上がっていたモツ鍋さんだが削板の言葉で相当傷付いていたのだが当の本人はそのことを全く自覚していない。

 

「何だ第七位、モツ鍋さんの知り合いなのか?」

 

「いや、全く覚えにないな。どこかであったことあるのか?」

 

「いやっ、大分前盛大に殴り飛ばしてくれたじゃねぇか。って言うかお前またモツ鍋って言そげぶっ」

 

言い切る前にまたも神命は拳を挙げる。全く、最初に出てきたあの都市型モンスター横須賀さんは一体何処へいってしまったのだろうか。実はこの横須賀さん、三ヶ月程前の3月15日に削板にぼこぼこにされている。

 

「おいお前、この削板軍覇の前でまたも暴力を続けるのなら容赦はせんぞ」

 

「いや明らかにこいつの方が悪人面だよね。どう見てもこっちが暴力振るいそうだよね」

 

「しかし実際、殴っているのはお前の方じゃねえか」

 

「まぁそうなんだけど、一々説明するのも面倒だしもう俺帰っていいか?俺より下位の超能力者と戦っても俺には何の利益もないんだけど」

 

「何?お前、超能力者か」

 

「まぁな。俺は第六位の神命 選だ」

 

「第六位か、こんな根性の無さそうな男が俺より上とはな。よし俺がお前の根性を叩き直してやろう」

 

「根性が無いは余計だ。掛かって来るなら早くしてくれ。こっちは文字通り朝飯前なんだ」

 

「なら早速始めるとするか」

 

うおォォおおおおおおおおおおおおおおとまたもすごく五月蠅い叫びを上げる削板。そしてこれまた彼の背後がドバーン!!と爆発し煙を上げる。

 

「では行くぞ、すごいパーンチ」

 

そう叫んだ直後彼らの間には15m程も距離が空いていたはずなのだが、謎の衝撃波か念動力のようなものが飛んできて神命は3m程吹っ飛ばされる。

 

「痛ぇ」

 

「んっふっふーん。これぞ学園都市第七位の真骨頂。どういう理屈かは知らんが何かしらの余波を遠距離まで飛ばす必殺技。『念動砲弾(アタッククラッシュ)』とはこのことだァァあああああああああああああああああああああああ!!」

 

ドバーンと明かされる新事実。だが一番大事な所が抜け落ちている。どうやってこの現象を起こしたかだ。以前彼はあえて不安定な念動力の壁を作り、それを殴ることで壊して遠距離まで衝撃を飛ばす必殺技だと説明していたのだがその時助けた学生——原谷矢文にそれは不可能だと否定されていたためもう適当にしか説明しなくなっている。

 

「もう色々と突っ込みたくなるような所満載なんだが。まぁ少しはどんな技か分かった。それじゃあ早々にやるとしますか」

 

神命は一呼吸置いて呟く。

 

「削板軍覇から発する力及び地面、周辺建造物を拒絶、身体を透過。電子を選択、自身に帯電」

 

そう言うと彼は地面に手を伸ばし地中から電気配線のような物を引っ張り出す。そして彼はその中から最も電圧の高そうなものを選びそれを引き千切り中の導線に触れる。するとビリビリと音を立て配線から漏れ出した電流が彼の周りを漂い始める。

 

「流石にこの程度では第三位には程遠いな。だが電撃の一つや二つくらいなら飛ばせるんじゃないか」

 

そう言うと彼の周りに漂っていた電流はその形を槍状に変化させていく。そしてその直後その神命は削板に向かって走り出し距離を詰め、その距離が5m程になった所で電撃の槍を放つ。近距離で放たれたそれは正確に削板の元へ向かっていく。

 

そして削板は少し後ろへ下がりながらこう叫ぶ。

 

「すごいパンチガード!!」

 

そう叫ぶと同時に彼の腕が蜃気楼のような謎の波動を纏う。この間、わずか四秒。そしてその腕は飛んでくる電撃の槍を地面に叩き落す。しかし、完全に防ぎきれた訳ではないらしくプスプスと彼の服が音を立てる。

 

「何だそれどういう仕組みだよ全く」

 

そう言いながらも神命はその距離を徐々に詰めていく。

 

「これぞ俺の真骨頂。念動力によって地球の磁力線を自らの手に集中させ、その誘電磁力の反発で電流を跳ね返す磁力戦線(オーロラガード)とはこのことだァァあああああああああああああああああああああああ!!」

 

「さっきのパンチが真骨頂じゃなかったのかよ。しかもまたトンデモ法則が作り出されてるし。でも完全じゃないらしいな、大丈夫なのか?」

 

「根性だ、根性」

 

「明らかにそれじゃ無理だろ」

 

そして距離を詰めきった彼は叫ぶ。

 

「大気を選択、腕に纏い圧縮」

 

すると彼の腕の周りに空気が圧縮されていき、彼はそのままその拳を削板の腹部へ入れる。すると銃弾をも受け付けなかった彼の体が大きく殴り飛ばされる。が、信じられない速さで起き上がる削板。

 

「お前、この俺に直接拳を入れてくるとは案外根性あるじゃねえか」

 

「そりゃどうも」

 

「だがこの至近距離で俺のパンチを喰らったらどうなるだろうな、すごいパーンチ」

 

またもそして今度は至近距離謎の衝撃波のようなものが飛んできて神命に直撃する。しかし今回は先ほどとは違い少し怯みはしたものの盛大に吹っ飛ばされることはなかった。

 

「やっぱり少しは痛ぇな。やはり定義が曖昧な力だけに完全に防ぐことは出来なさそうだ。まぁこれだけ防げりゃ上出来ってとこかな」

 

「よく俺のパンチを一度だけで見破ったな、流石は第六位と言った所か」

 

「まだ続けるか?もう痛み分けってことでこの場を収めてくれるとありがたいんだが」

 

「そうだな。そう言えばまだ俺も飯を食っていなかった。腹が減っては戦は出来ぬと言うし今日の所は此処までにするか。第六位——神命 選覚えておこう。次会うときまでにはもっと己を鍛え直さなければな」

 

「そうかい」

 

そう言って二人は分かれた。

 

(何で二日続けて超能力者と戦わなければいけないんだ。朝飯食う前にこんなに疲れるとはな)

 

そう思って帰ろうとした神命はあることに気づく。手に持っていたコンビニ弁当が無い。辺りを探すと無残にも散乱してしまっていた。恐らく最初に吹っ飛ばされた時だろう。

 

そして彼は心に誓う。

 

 

 

 

 

「あいつ次あったら殺す」

 

 

 

 

 

 


 
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