No.489002

真・恋姫無双 魏アフター 簡雍伝 第五幕 

光る宇宙さん

更新が遅くなりましたというか遅すぎですね。

言い分けさせてもらいますと・・・物語の構成を少し変えてたので

時間がかかってしまいました。楽しみにしてくださってる方

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2012-09-27 00:33:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4596   閲覧ユーザー数:3740

 

桃香の入塾も無事終り、俺もしばらくの間自由の身となった。

 

街に居る間の桃香の身元引き受け人には元起さんがなってくれているので何の心配もいらない。

 

少なくとも3年の間は俺に自由な時間ができたといっても過言ではない。

 

そこで俺は兼ねてより考えていたやりたいこ事のうち一つを元起さんに相談していた。

 

桃香と共に乱世を行く事を決めてからずっと考えていた。

 

俺の知る歴史の劉玄徳は苦労に苦労を重ね、かなり壮年になってから頭角を現した人物である。

 

だが華琳の例もある、桃香がそれを真似る必要はない。

 

俺の知る劉玄徳こと桃香は俺の知る歴史の劉玄徳と違い義というよりも仁に寄る人物だ。

 

ならば桃香は桃香らしく仁の道を行けばいい、その桃香を支えるそのための力を今つける。

 

武でもなく・・・知恵でもなく、知識。それが・・・それこそが俺の力。

 

この世界の人間が知らない、知る事のできない事。

 

それを知っていることこそ北郷一刀の最大の武器だと今の俺は知っている。

 

だから・・・その知識を使いこなせる力をつけること、それが今の俺の目標だった。

 

 

真・恋姫無双 魏アフター 簡雍伝 第五幕 旅立ち

 

俺は旅立ちの準備を整え正門に立っていた。目の前には元起さんが見送りに来てくれている。

 

「私達劉家は変わりものの多い家系だけど、君も相当なものよ憲和くん。まあ、君が荊州の水鏡女学院を知ってる事が既に不思議なんだけどね。」

 

「ははは、変わり者だってことは自覚しています。けど今のままでは俺はいつか桃香のお荷物になる。誰よりも俺がそれを自覚しています。」

 

自嘲気味に笑いながら返す俺にとても優しげな視線を向けてくる。そして何かを決意したかのように口を開く。

 

「憲和くん・・・桃香を慈しみ、信じ、そして支えようとする貴方に私の真名を授けます。受け取ってくれますね?」

 

「はい・・・ありがとうございます、元起さん。」

 

美しい声で自分の名を謳いあげる元起さん。

 

「姓は劉 名は玲 字を元起  真名は璃音です。」

 

俺はその名を心に刻みしっかりと視線を合わせて名を告げた。

 

「姓を簡 名を雍 字を憲和 真名は刃です。」

 

どちらともなく小さく笑い声を上げる。

 

「やっと真名を預けられたわ、せっかくできた男の子の甥なのに中々預けられなくてヤキモキしてたのよ。」

 

「俺もです、璃音さん。」

 

そしてもう一度視線を合わせる。

 

「いってらっしゃい、刃くん。」

 

「いってきます、璃音さん」

 

俺は大きく手を振って元起さんもとい璃音さんから頂いた馬に飛び乗る。

 

綺麗な栗毛の毛並みに凛々しい顔立ち。名を『蒼雲』という。

 

旅立つという俺に璃音さんが劉家で世話してる中でもかなりいい馬を見繕ってくれたのだ。

 

正直一重二重にも頭が上がらない。

 

俺はそっと蒼雲の首を撫でて声をかける。

 

「長い旅になると思うけどよろしく頼むな蒼雲。」

 

蒼雲は嬉しそうに小さく嘶くとブルブルと首を振る。

 

「じゃあ璃音さん、桃香のことよろしくお願いします!」

 

「ええ、刃くんも道中くれぐれも気をつけてね。」

 

俺は蒼雲の首をぽんと叩く、それだけで俺の意思を感じてくれたのか颯爽と走りだす。

 

目的地は決まっている、天下の臥龍、鳳雛が学んだ場所。『水鏡(女)学院』だ。

 

 

 

この時代、馬での旅とは州と州を越えるのはかなりの長旅だ。その上、現代と違って治安も良くない。

 

俺は慎重に旅路を進んでいた。それでも馬にずっと乗りっぱなしのわけにもいかず。

 

ついでに言えば今日はとても陽気がよかった。

 

ぽかぽか陽気に気分をよくした俺は馬を引きのんびりと街道をすすんでいた。

 

のんびりと歩きながら考えるのはやはり目的地である水鏡女学院の事。

 

「水鏡女学院か・・・女学院なのに男の俺が行って大丈夫かな。」

 

かの伏龍と鳳雛が学んだ学院、勉強をするにはもってこいなのだが・・・問題は女学院だということ。

 

俺はそんな事を考えながら蒼雲を引きながら歩いていた。

 

「水鏡女学院は学を志す者に門戸を閉ざす事はありませんよ。たとえそれが男性でもです。」

 

だから突然隣から聞こえてきた女性の声に俺はびっくりして飛び上がりそうになってしまった。

 

おそるおそる隣を見れば、歳の頃は俺と同じくらいだろうか。

 

スレンダーな肢体にショートカットの黒髪が良く映える。

 

可愛いと言うよりも綺麗な少女がそこに居た。

 

だが何の気配もなかったはずだ少なくとも寸前までは・・・。

 

そんな俺の心を読んだかのように答える少女。

 

「女の一人旅です、当然気配は絶ってました。ですが目的地が同じようなので声を掛けてみました。」

 

俺の声無き質問に当然のように答える少女。

 

大事な事なので二度言うが俺は今一言も喋っていない、喋っていないのです。

 

「顔は口ほどに物を言います。貴方はもう少し取り繕うということを覚えたほうがいいと思いますよ。」

 

二度俺の心を読んだ少女は、そういって呆れた顔を見せた・・・。

 

「まあ、だからこそ声をかけても問題ないと判断したのですが。で?水鏡先生に何の御用ですか?」

 

そう言った少女の目が鋭くなった気がした、恐ろしくも懐かしい目・・・。

 

人が大事なものを守る時に見せる目。

 

「うん・・・大切な妹を守る為にね、教えを請いたいんだ。」

 

俺は気負うでもなくその視線を柔らかく受け止めてそう答えた。

 

目の前の少女はそう答えた俺の目を見つめる、まるで心の奥襞まで覗こうとする真剣な眼差しを俺は受け止めた。

 

「なるほど・・・嘘はつけない人種のようですね。妹を守る、そう言った貴方を信じましょう。」

 

そう言って少女は俺から視線を外した。

 

「信じてくれてありがとう。」

 

「お礼をされる謂れはありませんが・・・。どのみち目的地は同じです。よかったら学院までご一緒しませんか?」

 

俺からしてみれば是非ともない提案だった、先ほどの気配を消す術といい。

 

華琳にも似た眼力といい・・・おそらく名前を聞けばひっくりかえるような人物なんだろうなと俺は予想していたからだ。

 

「俺としてはありがたい申し出なんですが、本当に良いのですか?」

 

「構いませんよ、旅は道連れです。」

 

そう言って他意のない微笑みを浮かべる少女から少し視線を逸らす。微笑む姿があまりに綺麗で見惚れてたわけじゃないんだからね!

 

「ではよろしくお願いします、俺は琢郡の方から来ました。姓は簡 名を雍 字を憲和といいます。」

 

「私は姓は徐 名を庶 字を元直です。よろしくお願いします。」

 

ほうらやっぱり思った通りだよ・・・。

 

 

 

この時期、徐庶が何故こんな所を旅しているのかとか。

 

何故偽名である単福を使わないのかとか。

 

確か庶という名を使ったのは晩年で今の時期なら徐福じゃないのかとか。

 

あの世界じゃ見なかったよなとか、色々と疑問はあったが俺は無理やりそれに蓋をした。

 

この世界はそういうものだ!

 

そう割り切らなければ、そもそも武将が女性だらけの時点で俺の精神が耐えられなかっただろう。

 

だが思いがけず得られた同行人は一人でここまで旅をしてきた俺の心をとても癒してくれた。

 

「では元直殿は水鏡先生からのお願いで大陸の情勢を調べるために一人旅をしていたのですか?」

 

「ええ、幸い私は水鏡先生にお世話になるまえは剣客を目指していましたから腕にはそこそこ自信がありますので。」

 

そう言って腰にさしている剣をぽんっと叩く。

 

「憲和殿は武器も持たずに旅をしてますが?無手の流派なのですか?」

 

「いや、使えないものを装備して重くするよりいっそのこときっぱりと諦めて逃げやすいように身軽になっておこうと思って。」

 

旅をするには無謀な格好、だけど目の前の賢人は今の一言で俺の本当の狙いを悟ったらしい。深く頷いている。

 

「なるほど、あえて持たない事で相手に疑を与えるのですね。」

 

さすが徐元直だな、などと感心をしてしまった。俺はそっと隣を歩く女性の顔を覗き込む。

 

徐庶元直 劉玄徳に仕え、後に策謀に嵌り曹孟徳に仕えた軍師。

 

その能力はかの諸葛孔明にも認められていたはず・・・。

 

だが史実では大きな功もなくその生を終えた人物・・・。

 

身内の情を利用した策謀で自分を取り込んだ曹孟徳を嫌ったが故の行動なのか

 

それとも別の理由があったのかは俺には判らない。

 

史実では目だった話のない平凡な人生を送ったはずの徐庶元直。

 

しかし目の前の少女は俺の知る多くの英雄達と同じ雰囲気を持っていた。

 

「何か?私を見ていたようですが?」

 

「あ!いえいえ、可愛いな・・・いや綺麗かな?って思ってただけです。」

 

「な!?まったく・・・憲和殿は口が上手いのですね。」

 

そう言って頬を染めてぷいっと横を向いてしまう元直殿。

 

その仕草がなんというかまた可愛い・・・。

 

いやいやまてまて、北郷一刀もとい簡憲和落ち着くんだ。

 

思った事をそのまま口に出してしまうのは俺の悪い癖だ・・・。

 

これで昔から何度痛い目にあってきたことか。いい加減学習しろ!

 

 

 

 

 

 

私は怒った振りをして横眼で彼を観察する。

 

ちょっとしたことでオロオロしたり焦ったり、感情豊かで面白い人だ。

 

今は両手を頭に乗せて俯いている。

 

簡雍憲和殿・・・。

 

話をした感じでも、人柄からも先生に何か変な事をするような人じゃなさそうで少し安心した。

 

と同時に強い興味を覚えた。

 

優しそうでいて、それで強い決意と覚悟を秘めた眼。

 

諸国を回る旅で色々な官吏や太守と会ってきたがその誰よりも強い何かを感じる。

 

知らず胸が強く鼓動を打つ、何かをせかすように目の前の青年から目が離せない。

 

どんな人間と会っても仕えたいと思えなかった私。

 

その私が今目の前にいる会ったばかりの青年に仕えたいと願い、その志を支えたいと思っている?

 

私は紅潮する頬を自覚しながら落ち着かせるように深呼吸をする。

 

そうまだ出会ったばかりなのだ、偶然にも青年は水鏡塾で先生に教えを請うと言っている。

 

しばらくの間、共に机を並べることになるだろう。

 

そう、仕えるとか支えるとかはまだ先でも大丈夫。

 

そうだ今は青年の話を聞いて、彼を知ろう。

 

もっと彼の事を良く知りたい、その欲に流されることにしよう。

 

私は彼に気付かれないように小さく口元を緩めた。

 

うん・・・これから楽しくなりそうね。

 

 

 

 

 

それから共に旅をし俺は元直殿と色々な話をした。

 

今の大陸の情勢から、色々な街の情報など今の俺に取っては得がたい情報ばかりだった。

 

話をしているときにこの頃黄巾党はどうなってるのかなと思いいたったため。

 

俺の方からもなんとなしに黄巾党のことを匂わせてみたのだが。

 

「黄色の布をつけた集団?うーん心当たりはありませんね。そもそもこの漢という国はどこにいっても危険ばかりですし。」

 

ぼやくように言う元直殿、考えて見れば黄巾の乱までまだ10年くらいあったんだった。

 

俺はそのまま黙って元直殿の言葉を聞く。

 

「国はただ民を痛めつけ、痛めつけられた民は国を信じられなくなる。悪循環以外の何者でもありません、だから近いうちに世は乱れるかもしれません。」

 

小さく俯きながら囁くように呟く。

 

後10年もしないうちに世は乱れに乱れる。

 

俺はそれを事実として知っている、だけど元直殿は今の国を見てそれを予感している。

 

これが歴史に名を残す英雄なのか・・・。

 

「元直殿は・・・この先に何を見ていますか?」

 

俺は真実を濁し、抽象的な言葉で問いを発する。元直殿は少しだけ考えた後

 

「ここだけの話・・・何か大きなウネリがあればそれだけでこの国は滅亡の道を歩むのではないかと思っています。」

 

大きなウネリ、そう元直殿は直感的にそれを感じ取っているんだろう。

 

国の滅亡にからむようなウネリ・・・。

 

この後起きる大きな事件と言えば現帝の崩御もしくは黄巾の乱しかないだろうな。

 

そして俺は内心を隠して元直殿のその後に続くだろう言葉を口に出す。

 

「そうして世は乱れ、群雄達はこぞって立ち上がる。乱世の始まりでしょうね・・・。」

 

俺が続けた言葉に少しだけ驚いたような顔を見せる。

 

「その通りです。そうしてまた罪のない民達が苦しめられるのです・・・。」

 

辛そうに目を伏せる、この子もまた世を憂い民を思う優しい女の子なんだなと実感した。

 

だからだろうか、俺は魏で季衣や流琉にやってた時の癖でつい彼女の頭を撫でてしまった。

 

「え?!」

 

しまったと思った時は既に遅し、俺は開き直ってそのまま元直殿の頭を優しく撫でる。

 

そしてゆっくりと俺の裡にある言葉を告げる。

 

「もし国が崩れれば、群雄達の野心は留まることを知らずにこの大陸は戦乱の渦に飲み込まれるだろうね。だけどそれは次の安定の為の必要不可欠な痛み・・・なんじゃないかな?」

 

頬を染めつつも俺に撫でられるままに元直殿は俺の言葉に反応する。

 

「仕方ない・・・とでも?」

 

「そんな言葉で納得したくはないけど、きっとそうだと思う。」

 

俺は射るような視線で俺を睨みつける元直殿を優しく包み込むように見つめる。

 

「憲和殿、貴方は・・・。」

 

「・・・覚悟。君がもしこの先誰かに仕えて、乱世を鎮めようと思うならしっかりと覚悟をもたないといけない。」

 

「貴方はその覚悟を持っているのですか?」

 

「どうだろう?・・・ただ俺は何があっても妹を支えると心に決めている。その為に自らが血に塗れる事、痛みを受ける事は既に覚悟しているよ。」

 

「貴方は誰かを自分を犠牲にしてでもそれを成し遂げることに意味があると?そう言うのですか?」

 

「本当は犠牲なんてないほうがいいさ・・・、でもそんなのは戯言だ。どんな道を選んだって必ず犠牲はでる・・・悲しいけどね。」

 

俺のそんな一言に小さく身体を振るわせる元直殿。

 

「だから俺達は覚悟を決めないといけないのさ・・・どんな犠牲を払ってでも目指す理想にたどり着くその覚悟をね・・・。」

 

「でも・・・それは・・・。」

 

反論しようとする元直殿に少しだけ語気を強めて語る。

 

「徐元直!誰も犠牲にならない、誰も苦しまない。そんな道はどこにもない!」

 

そう俺はそれを事実として知っている。

 

あの戦争で何人もの親しい人を亡くした。俺を慕ってくれた部下たち、暖かく迎えてくれた街や村の人たち。

 

それは華琳も同じで・・・でも華琳は止まらなかった。

 

それはきっと犠牲になった人達が自分に託してくれた想いを無駄にしたくなかったからだろう。

 

いやきっと『無駄にさせたくなかった』というのが正しいのだろう。

 

小さく俯いた元直殿の頭をさっきより優しく優しく撫でる。

 

「それが・・・憲和殿の言う覚悟なんですか?」

 

「そう・・・どんなに辛くて苦しくても自分の選んだ道を諦めないこと、全てを背負って歩くこと、俺はそう思っているよ。」

 

まあ受け売りだけどね・・・。俺は最後にそう小さく呟いた。

 

それから俺達は色々な話をしながら旅を続けた。

 

元直殿が話してくれる、今のこの国の情報は俺にとって得がたいもので感謝の一念のみだった。

 

 

 

 

 

そうしていくらかの時が過ぎた頃・・・。俺達はついに目的地へと辿り付いた。

 

「憲和殿、見えてきましたよ。あの山の麓に見えるあの建物、あれが水鏡女学院です。」

 

俺はその言葉に山の麓に目を向けると自然と身体が震える。

 

あそこがあの歴史に名を刻んだ英雄達が学んだ学び舎、そして臥龍鳳雛が学んだところ・・・。

 

「あれが水鏡女学院・・・。」

 

 

 

 

「あの・・・憲和殿。無理に『女』をつけなくてもいいですよ?一応あそこ男性も受け入れてますから・・・。」

 

「え?元直殿それマジ?」

 

「マジ?」

 

「ああ、ごめん『本当?』って意味さ。そうか・・・男も普通に入れたのか。とほほ俺が悩んでた事って一体。」

 

「私・・・会ったときに言ったと思うんですけど。」

 

小さくぼやくように呟いた元直殿の声は残念ながら俺には届かなかった。

 

 

 
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