No.487504

真恋姫†夢想 弓史に一生 第四章 第十話 己が弱さ

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。


前話では雅が何か意味深なことを言っていましたが……果たしてどうなるのか…。

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2012-09-23 03:30:19 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2214   閲覧ユーザー数:2002

~聖side~

 

「やっと来たわね…。まったく、時間も守れないなんて!!」

 

 

城の鍛錬場に通されると、そこでは既に董卓軍の主要な人物は集まっていて。

 

俺達が来たのを確認すると、開口一番に賈駆さんはそう言った。

 

 

「いや~すまない。色々とあってね…。」

 

「……あんたの後ろでモジモジしてる二人が関係あるのかしら…?」

 

 

後ろを見ると芽衣と藍里が顔を赤くしながら俯いている。

 

俺はその姿に苦笑しながら賈駆さんに向き直る。

 

 

「…はははっ……まぁ~色々だよ…。」

 

「…まぁ良いわ。さぁ、始めましょう!!」

 

「こっちは奏から行くよ。」

 

「ボク達からは…。」

 

「私が相手だ!!」

 

「………えっと……どちら様??」

 

「何だと!!! 私のことを知らないと…。」

 

「あぁ~はいはい。この前の時にはいなかったけど、武官の華雄よ。本当は霞にやってもらおうと思ってたんだけど、華雄がどうしてもって…。」

 

「ふん!! 我が軍に入るかもしれん奴の武を確かめるなら私が適任だろう!!」

 

「因みに…合格条件は?」

 

「私より弱い奴を我が軍に入れるわけには行かない!!」

 

「……ですよね。」

 

俺達は試合を始めるということで、少し離れた位置から見守ることにした。

 

「じゃあ行ってくるよ!!」

 

「あぁ、奏。頑張ってな!!」

 

「頑張ってください~!!」

 

「頑張ってくださいなのです!!」

 

「頑張ってください、奏さん!!」

 

「頑張れ、奏!!」

 

 

皆に見送られ、奏は片手に愛槍「竜胆」を持ち、鍛錬場の中央で華雄と対峙した。

 

華雄は手に大きな斧を持ち、試合開始を今か今かと待っている。

 

 

「奏は大丈夫でしょうか~…。」

 

 

心配そうな顔をしながら、芽衣は俺にそう尋ねてくる

 

 

「……華雄は董卓軍でも実力者。勇将にして猛将って言われているらしいぞ…。」

 

「では…。」

 

「…勝負は時の運…かな…。」

 

 

俺は二人の動向を見守ることにした。

 

 

 

~奏side~

 

華雄と対峙して分かるが…こいつ、言うだけはあるねぇ…。

 

武器は大斧。重さや一撃の威力は大きいだろうが、その分、手数や速さが無い。

 

ならば、あたいは手数を多く出して、相手の攻撃を封じるに徹する!!

 

 

「勝負は一本勝負!!どちらかが降参するか、相手の首筋に刃を当てることで一本とする。戦闘不能の場合も同様!!両者依存は無いわね?」

 

「「…。(コクン)」」

 

「では、両者武器を持って……。始め!!!」

 

「徳種軍の一番槍、凌公績いざ参る!!」

 

 

賈駆が叫ぶと同時に私は先制攻撃を仕掛ける。

 

我が愛槍『竜胆』を単純にまっすぐ突き出す。

 

単純な攻撃だが、単純が故に攻撃速度は速いし、あたいがもっとも多用する動きだけあって、動きの無駄は最小限になっていて、その一撃は光速の一撃。

 

普通の一般兵ならその一撃で終わっている一撃。

 

しかし、相手が一角の武将、華雄なら尚更その一撃が決まることは無かった。

 

華雄はあたいの一撃を見切り、体を捻ってかわすとその体の動きにあわせて大斧を振る。

 

 

「はぁぁぁあああああああああ!!!!」

 

「ぐっ!!!!」

 

 

何とか一撃を受けるが、斧の一撃は重く、その衝撃を受け流しきることが出来ず、後ろに飛ばされる。

 

何とか着地をするものの、手が痺れる。

 

危ない危ない…。ちょっと無用心に突っ込みすぎたね…。

 

こんなの何回も喰らったら流石にやばいな…。なら…。

 

 

「はぁ!!せい!!やぁぁぁ!!」

 

 

手の痺れがひいたところで連続で突きを繰り出す。

 

先ほどのまでの速度とは行かないが、それでも速度は最大限まで上げて三撃、四撃と打ち込んでいく。

 

 

「はぁ!!だぁ!!せ~ぇぇい!!」

 

「くぅっ…。」

 

 

連撃を止まる事無く、ただひたすらに打ち続けた。

 

 

~聖side~

 

 

「おぉ~奏が一方的に押してます~。」

 

「……。」

 

 

確かに今現在は奏が押しているし、華雄も防戦一方になっている…様に見える。

 

しかし、状況は良いとは言えない。

 

奏は先ほどから休む間もなく打ち続けているため息が上がってきている。

 

それに対して華雄はさも平然とした顔でその攻撃を受けきっている。

 

しかし、攻撃と攻撃の間に隙がない分、華雄も反撃を繰り出せずにいるのも確か…。これは、何かもう一つでもあれば…。

 

すると、奏は華雄から一度離れ、距離をとって呼吸を整える。

 

華雄はその隙を逃さず、決めるとばかりにその大斧を振って奏に襲い掛かっていった。

 

奏はその攻撃をしっかりと見極め、なるべく最小限の動きでかわし、かわしきれないものだけ槍で受けていた。

 

場内には斧が風を切る音と時たま聞こえる獲物同士の鈍い金属音だけが木霊するのだった。

 

 

 

~奏side~

 

 

華雄の斧攻撃を避けながら反撃を考える。

 

想像通り、斧の攻撃は一撃は重く強力だが、やはり速さはなく見極めることは出来る。

 

しかし、また先ほどのように突っ込んでいっても華雄の防御を崩すには至らない。

 

華雄は一旦攻撃を止めて先ほどのあたい同様距離をとった。

 

 

「はははっ!! 凌統とか言ったな。貴様の実力はそんなものか!?」

 

「はっ!! 今から嫌でも思い知らせてやるさ!!」

 

「そうでなくては面白くない…。来い!!凌統!!」

 

 

しょうがない…取って置きのアレでいくかね…。

 

 

「はぁあああああああああ!!!!!」

 

 

最初のように突っ込んでいく。華雄はまたかわそうと体をそらす。

 

今だ!!!

 

 

「うおっ!!!??」

 

 

槍の先が華雄の目の前に迫る。

 

華雄はそれを斧を振って受けるが、明らかに顔には同様の色がうかがえる。

 

 

「…ふふふっ。ははは!!! 成程…。槍の先が特殊な変化をして向ってくると言うか…。だがそんなもの、私には通用しない。」

 

「一撃だけじゃあそうかもね…。でも、これならどうだい?」

 

 

先ほどのように連撃を繰り出す。その中に虚実で槍の先の変化を加え、的を絞らせないようにする。

 

 

「うっ………くぅうううう…!!!!!!!」

 

 

華雄は防戦一方になってきている。まだ私の槍の動きになれないんだねぇ…。

 

じゃあ、このまま終わらせてあげるよ!!

 

 

~聖side~

 

 

奏の猛攻が始まった。

 

 

「あの~聖様? 何がどうなってるんですか?」

 

「ん?? 奏の武器のこと?」

 

「はい。」

 

「奏の槍は刃こそ鉄で出来てるけど、柄の部分は主に木で出来てるんだ。だからしなやかだし、軽いから変幻自在に動くんだよ。」

 

「でも、それだと直ぐに切れてしまうんじゃないですか?」

 

「芯には鉄が入ってるし、奏は上手い事受けてるから大丈夫だと思う。」

 

「へぇ~。でも、華雄にしたら驚きだろうな。槍がしなるなんて思わないだろうし。」

 

「…確かにしなるとは思ってないかもしれない。でも……。」

 

「でも??」

 

 

俺は一旦言葉を区切り、息を吸いなおして紡ぐ。

 

「奏は

 

 

 

 

                   負ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                            」

 

 

 

~奏side~

 

先ほどから果敢に攻めているが…相手の防御が崩れる隙が無い…。

 

華雄にとっては初めての経験だったはずだ…。

 

そもそも、槍の穂先を槍捌きで変化させることはあっても、槍の柄の部分から変化することはまず無い。と言うのも、あたいの様に武器が柔軟性にとんだ武器で無いとこんな変化はおきないからだ。

 

初めこそ防御が破れそうな雰囲気はあった。あと少し、あと少しというところまでは来ていた。しかし、あるときを境にその考えは瓦解する。

 

攻撃が届く気がしない。

 

軌跡が読まれているわけではない。

 

しかし、華雄はあたいの攻撃を余裕を持って止める。

 

そんなことが繰り返されるようになれば、今のあたいの様な気持ちになるのは至極当然なわけで…。あたいは内心凄く焦っていた。

 

 

「どうした凌公績!!貴様の力はそんなものか!!」

 

「ッ!!  …はぁぁあああああああ!!!!!!」

 

 

乾坤一擲。

 

あたいは華雄に襲い掛かる。

 

…しかし、それがこの試合の勝敗を分けた。

 

 

「甘いッ!!!!」

 

 

ガキンッ!!

 

あたいの持っていた槍は弾き飛ばされ、虚空を舞い、後ろの地面に突き刺さる。

 

それとほぼ同時に華雄の斧があたいの首筋に突きつけられる。

 

 

「私の勝ちのようだな!!」

 

「くっ…。」

 

「勝者、華雄!!」

 

 

あたいは膝から崩れ落ちた。

 

あたいは…負けてしまったんだ…。

 

 

~聖side~

 

奏と華雄の勝負に決着がつく。

 

予想通りと言ったら奏に悪いが、それでも華雄が勝った。それにはわけがある。

 

華雄は歴戦の猛将であり、経験は豊富である。

 

それに対して奏は経験が乏しい。

 

いくら奏の戦法が見たことないと言っても、華雄にしてみれば珍しいことではない。

 

経験というのは時にその人の武力以上の成果を上げる。

 

今までに相手したことのある戦法なら対処法が分かるし、初めての戦法でもその弱点を探すように動くよう体が覚えてる。

 

今回の華雄もそれに然り。

 

華雄は初めこそ防戦だったが、途中からは見にまわっていた。

 

その攻撃の間合い、呼吸、軌跡。その全てを体に慣れさせ、対処する。流石は勇将であり猛将だ…。

 

しかし、珍しい戦法であったことは確かだ。その証拠に、見に移る前に受けた小さな傷があちらこちらに見える。

 

強いて奏の敗因をあげるとしたら、初めの段階で決め切れなかったところだろうか…。

 

と思っているところに、奏が愛槍を持ちながら肩を落として帰ってきた。

 

その表情は暗く、負けたことへの自責の念が見て取れる。

 

奏は前から何かあると自責の念にかられる傾向があった。

 

こんなことが起こったのは自分のせいだ、あれは自分がしっかりしてれば起こらなかったなど…。

 

責任感が強いことは良いことだと思うが…。

 

ここで奏に「次勝てば良い」とか「惜しかったな」と言うのは簡単だ。奏のことだし、「そうだよな!!」と言って直ぐに次に切り替えれるかもしれない。

 

しかし、それは奏を思ってのことではない。

 

負けたら悲しい、悲しいから辛い。

 

もし、これで董卓軍での起用がなくなれば、絶対に奏は責任を抱え込む。だから…。

 

俺は帰ってきた奏を何もいわずに抱き締めた。

 

急なことに奏はおろか他の皆も驚く。

 

 

「なっ!!お頭、一体…。」

 

 

俺は極めて優しい口調を心がけた。

 

 

「涙を見せるのは弱さじゃないさ…。寧ろそれは強さになる。」

 

「……。」

 

「だってそうだろ? …涙を見せると言うのは悔しいからだ、悲しいからだ…。でも、それを越えることができれば…人は一回り成長できるんだから。」

 

 

そう言って奏の髪を撫でる。

 

三国志の武将、凌統ということで忘れがちだが、奏だって一人の女の子だ。

 

いくら強気に見せていたってその裏にはやはり女の子らしい弱さが見える。

 

そんな弱さに気付いてあげること。それが今の奏には必要なんだと思う…。

 

弱さに気付いてあげることで奏自身がその弱さに気付く。

 

そうすれば、きっと今よりも強くなれるから…。

 

『彼を知り、己を知れば百戦して殆うからず。』かの孫子もこんなことを言っているじゃないか…。

 

 

「お頭…ゴメンな…。あたい…負けちゃった…。」

 

「悔しいか、奏?」

 

「うん…。ぐすっ…ぐやじい…。」

 

「じゃあ、今は俺の胸を貸してやるから泣け…。その胸に秘めた悔しさを全て吐き出せ…。そうすれば、きっと奏は強くなる…。」

 

 

そこからしばらく、奏は俺の胸の中で泣き始めた。

 

その目から涙が流れるたびに、奏がまた一つ強くなるような気がしながら……。

 

 

 

奏が落ち着いてきた様子が分かり、俺は声をかける。

 

 

「落ち着いた?」

 

「…あぁ。落ち着いた。」

 

「奏。これからも奏は悔しいこと、悲しいことを体験することもあるかもしれない。そんな時は自分で抱え込まないで俺に話せ…。俺が支えてやる。俺が責任の一端を担ってやる。俺が…助けてやる…。」

 

「…ありがとう、お頭。」

 

「気にするな。俺はお前の夫だからな!!」

 

「…。( ///)ポッ」

 

「…黙るなよ…。はっ…恥ずかしいじゃないか…。」

 

「あぁ~!!お頭、顔真っ赤~!! 恥ずかしいんだ~…へへっ。」

 

 

奏の顔にはさわやかな笑顔が戻っていた。

 

その笑顔でずっといて欲しいから…俺が支えようと思えたんだよな…。

 

 

「さぁ、次は貴様だ!!」

 

 

華雄は俺に向かって大声を発した。だが…。

 

 

「華雄さん。他の人と代わってください。奏との試合で傷つき、疲労しているあなたと試合っても俺の実力を見せることは出来ないでしょう?」

 

「なんだと!!貴様など今の私でも十分だ!!」

 

「駄目だ。正しく俺の力を測るんなら別の人にしてくれ。」

 

「ふん。そんなこと言って、ただ怖気づいているだけだろう!!この腰抜けめ!!」

 

「腰抜けって!!聖様はそんな人ではありません!!」

 

「そうです!!先生はそんな人じゃないです!!」

 

 

芽衣や橙里が反論してくれるが…。

 

 

「…腰抜けか…。まぁ、良いたい様に言えば良いよ。でも、俺は万全な状態の人と戦いたい。じゃないと、俺の実力を正しく測ってもらえないからな…。」

 

「何だと!!貴様~!!!」

 

「はいはい、華雄落ち着き~な。徳ちゃんもそんな意地はらんと。」

 

「意地じゃないさ…。ただ、はっきりとさせたい…。それだけだよ。」

 

「…ほなこうしようか? 徳ちゃんとはウチがやる。で、華雄とはまた後日、華雄の傷が癒えてから試合する。これで二人ともええ?」

 

「俺はそれで良いよ。」

 

「華雄は?」

 

「…ふん。霞がそう言うなら…。」

 

「よっしゃ。ほな、試合しようか?」

 

 

そう言って、張遼さんは長柄の偃月刀を持ち、鍛錬場の中央に移動した。

 

さて、ちょっと奏が負けちゃった以上、一仕事しとかないとね…。

 


 
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