No.486501

真・恋姫✝無双外伝 ~~受け継ぐ者たち~~ 第十五話 『想う者、想われる者』

jesさん

やっと続きを投稿することができましたww

キャラ紹介の方も随時更新していきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします (礼

2012-09-20 19:50:52 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1986   閲覧ユーザー数:1877

この小説を開いていただきどうもありがとうございますww

 

今回の主役はこの子↓  

それから、この作品中では数少ない既存キャラのあの人が出てきます。

でわ、お楽しみください。

 

 

 

第15話 ~~想う者、想われる者~~

 

 

章刀 :「ふぅ~、喰った喰った」

 

 お昼を少し過ぎた頃。

 俺はいましがた燃料補給したばかりのお腹をさすりながら、廊下を歩いていた。

 

 その上、今日は大好物の豚の煮付けがでたので、いつもより少し御機嫌なのだ。

 

 それはさておき、今日は午後から呉の面々との合同会議がある日。

 主な議題は魏に対しての対応についての事になるだろう。

 

 特にこれと言って目立った動きをしているわけではないけど、司馬懿が俺に直接接触してきた以上、近いうちに何らかの動きがあるのは間違いない。

 

 呉と連携をとって用心しておくにこした事は無いだろうしな。

 

 まぁそのあたりの事は会議が始まったらゆっくり話し合うとして、今日は午前中の内に仕事は済ませたし、会議までまだ時間はある。

 

 これから部屋に戻って、まったりと食後の余韻に浸るのも良いだろう。

 

 そう思って、廊下を歩いていると・・・・

 

???:「絶対いやぁーーーーーっ!!!」

 

章刀 :「ん・・・・・?」

 

 ある部屋の前を通ったところで、なにやら可愛らしい怒鳴り声が聞こえて来たので足を止めた。

 確かこの部屋は・・・・・

 

 俺は頭の中にだいたいの状況をイメージしつつ、その扉を開けた。

 

 

愛梨 :「まったくお前は、わがままばかり言うなっ!!」

 

愛衣 :「だって、朝から勉強ばっかで詰まんないんだもん!!」

 

麗々 :「はわわ。 愛衣ちゃん、少し落ちついて・・・・」

 

愛衣 :「嫌ったら嫌っ!!」

 

麗々 :「はぅ・・・・・・」

 

章刀 :「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 案の定、扉の向こうでは我が家の我がまま姫こと末っ子の愛衣が、頬を膨らませて御機嫌斜めだった。

 

 その向かいには愛衣に対して眉をつり上げている愛梨と、隣ではそんな二人を交互に見ながらはわわ・・・とうろたえている麗々の姿がある。

 

章刀 :「おいおい、いったいどうしたんだ?」

 

 俺はにらみ合う二人の間に割り込み、この状況の説明を促した。

 ま、だいたい想像はつくんだが。

 

麗々 :「あ、お兄様。 いいところに来て下さいました。 実はですね、今日は私が愛衣ちゃんにお勉強を教える日なのですが・・・・・」

 

章刀 :「愛衣は勉強がしたくない・・・・・と」

 

麗々 :「はぅ・・・・そのとおりです」

 

 頷いて、麗々はがっくりと肩を落とした。

 

 

愛梨 :「兄上からも言ってやってください! この子ときたら、ちっとも真面目に話を聞こうとしないのですから!」

 

愛衣 :「ふーんだっ! 姉さまだって、さっきから私の話も聞かないで同じ事ばっかり言ってるくせに!」

 

愛梨 :「なんだと~っ!?」

 

章刀 :「ちょっ・・・・! ストップ、ストップ! 二人とも落ちついて」

 

 このままじゃただの言い合いだ。

 俺は二人を両手で制して、話の仲介役になることにした。

 

章刀 :「まず、それぞれの言い分を聞いてみよう。 まず愛梨はどうしたんだ?」

 

愛梨 :「はぁ・・・・。 今日は調練の合間に時間が空いたので、愛衣の勉強の様子を見に来たのです。 それなのに、この子は麗々の話などそっちのけで無駄話ばかりで・・・・」

 

章刀 :「なるほど。 それじゃあ愛衣は、どうして勉強が嫌なんだ?」

 

愛衣 :「だって、うー姉さまの話って聞いててもさっぱり分からないんだもん! つまんないよー!」

 

麗々 :「はぅ・・・・・・。 つまらない、ですか・・・・・・・」

 

 あ~・・・・後ろで麗々がものすごく落ち込んでいる。

 

 だけど今は二人をどうにかする方が先決だ。

 許してくれ、麗々。

 

愛梨 :「お前はそんな事ばかり言って、学もろくに身につけずこの先どうやって生きていくつもりだ!」

 

愛衣 :「勉強なんかできなくたって生きていけるもん! それより私はもっと実戦の練習がしたいの!」

 

章刀 :「二人とも、だから落ち付けって!」

 

 まったく、口を開けばすぐ元の言い争いに逆戻りだ。

 俺はため息をついて、愛衣の方に向き直った。

章刀 :「なぁ愛衣。 確かに勉強は面白いものじゃないかもしれない。 だけど、やらなきゃいけないことだってのはちゃんと分かってるんだろ?」

 

愛衣 :「それは・・・・・」

 

 俺の問いかけには、目を泳がせての沈黙。

 

章刀 :「じゃあ質問を変えようか。 愛衣は、なんで実戦の練習がしたいんだ?」

 

愛衣 :「だって、今は戦いがたくさんある時代なんだもん! 勉強なんかより、強くなる方が大事に決まってるよ!」

 

章刀 :「うん、確かにそうかもしれないね。 でもね、俺は正直に言うと、愛衣にはあんまり戦ってほしくないんだよ」

 

愛衣 :「え!? ・・・・どうして?」

 

章刀 :「当然だろ? 愛衣は俺たちの妹なんだから、危ない目に会ってほしくないに決まってる。 愛梨だって、そう思ってるはずだよ」

 

愛梨 :「・・・・・・・・・」

 

 言葉には出さなかったが、俺の隣で愛梨は小さく頷いた。

 

 

愛衣 :「それは・・・・・・でも、そんなのずるいよ! 私だって皆の事が心配なのに、私だけ仲間外れにしてっ!」

 

章刀 :「愛衣、それは・・・・・・」

 

 バシッ!

 

 納得しようとしない愛衣を落ち着かせようと肩に手を伸ばしたが、その手は愛衣に振りはらわれてしまった。

 

愛衣 :「もういいっ! 姉さまたちの分からず屋っ!!!」

 

 

愛梨 :「愛衣っ!!」

 

麗々 :「愛衣ちゃんっ!?」

 

 バタンッ!!

 

叫びながら、愛衣は俺の脇をすり抜けて外へ走り去ってしまった。

 

追いかけようかとも考えたが、俺はただしまった扉を見つめているだけだった。

 

章刀 :「愛衣・・・・・」

 

 戦ってほしくない・・・・・。

 

 正直にそう言ったのは、失敗だったかもしれない。

 紅蓮隊と戦った時の様に、説き伏せてやればよかった。

 

 けれど、この気持ちを隠していても仕方が無い事だ。

 

麗々 :「あの、追いかけた方が・・・・・」

 

愛梨 :「その必要はない。 その内に落ち付けば返って来るだろう」

 

麗々 :「ですが・・・・・・」

 

愛梨 :「それに、これから呉との会議もある。 愛衣に構っている暇は無い」

 

章刀 :「愛梨の言うとおりだ。 今は、そっとしておこう」

 

麗々 :「・・・・・・はい」

 

愛梨 :「・・・・・あの、兄上?」

 

章刀 :「ん?」

 

 後ろから、遠慮がちに話しかけて来た愛梨の表情は少し曇っていた。

 何を考えているのかは、だいたい分かる。

 

愛梨 :「私は、愛衣に自分の理想を押し付けているだけなのかもしれません」

 

章刀 :「どうしてそう思うんだ?」

 

愛梨 :「私は、幼い頃から母上に武人として育てられました。 こんな時代に生まれた以上、それを後悔はしていません。 ですが、あの子にはもしかしたらそうではない道もあるかもしれないと思ってしまうのです。 私たちの時代でこの戦いが終われば、あの子はこれから戦いを知ることなく生きていくこともできるのではないかと・・・・・それが、あの子に辛い思いをさせているのかもしれません」

 

章刀 :「そうかもしれないね。 でも、俺は間違ってないと思うよ。 妹に平和に過ごして欲しいって思うのは、当然の事だろ?」

 

 そう、当然の事だ。

 

 俺が前に居た未来の世界では、それはある意味当たり前のことだった。

 けどこの時代では、そんな平穏な日々が切実な願いになり得るんだ。

 

 だけど・・・・

 

章刀 :「だけど、それは無理かもしれないな」

 

愛梨 :「なぜです・・・・・?」

 

章刀 :「だって、俺も愛梨も、それに愛衣も同じだからさ。」

 

 そう、俺たち兄妹には三人とも同じ血が流れている。

 強く、気高いあの人の血が。

 

章刀 :「三人とも、母さんの子供だからね」

 

愛梨 :「・・・・・・・・・クスッ。 そうかもしれませんね」

 

 俺が冗談交じりににこっと笑うと、愛梨もつられて笑顔を漏らした。

 

 大丈夫。

 きっと、愛衣もわかってくれるさ。

 

 俺たちの想いが、あの子に届いているなら。

 

 

――◆――

 

 一方、部屋を飛び出した愛衣は、そのまま城を出て街の中を走り抜けていた。

 特に行くあてがあるわけでもなく、今はただ城からできるだけ遠くに行きたかった。

 

 もちろん街の人々も、仮にも王の妹である愛衣のそんな様子をみれば何事かと思う。

 途中で店の店主やら、面識のある通行人に声をかけられたが、悪いとは思いながらも無視してしまった。

 

 というよりは、周りの声に耳を貸す余裕など今の彼女には無かった。

 

 別に、姉とケンカするのはいつものこと。

 こうして城を飛び出すのも、さして珍しい事じゃない。

 

 そしてあてもなく時間を潰して、気持ちの整理が付いたら城に帰る。

 それから姉に少し怒られた後、自然と仲直りする。

 

 それがいつもお決まりの展開。

 

 けれど、今日は何か違う。

 

 いつもより、頭がグルグルする。

 いつもより、胸が強く締め付けられる。

 いつもより、強く歯を食いしばる。

 いつもより、走るのが早くなる。

 いつもより、イライラする。

 

 いつもより・・・・・・悲しい。

 

 そんないつもと違う原因は、ちゃんと分かっていた。

 

 章刀がいるからだ。

 

 姉の愛梨とはよくケンカはするが、もちろん本気で嫌っているわけではない。

 むしろ姉の事は大好きで、大切な存在だと思っている。

 

 けれど姉よりも、ずっと離ればなれとなっていた懐かしい兄は、やはり少しだけ特別な存在で。

 父親の顔をはっきりと覚えていない愛衣にとっては、唯一父親を感じられる存在だった。

 

 そんな兄に『戦って欲しくない』と言われた事が、彼女には何よりも悔しかった。

 

 自分の性格はよく知っている。

 みえっぱりで、わがままで、そのくせ負けず嫌い。

 

 実力だって、今は姉たちより劣ることだって良く分かっている。

 だがそれでも、一兵卒に遅れを取るほど弱くはない。

 

 それなのに、どうして自分だけ戦場から遠ざけられるのか。

 愛衣は、それがどうしても納得できなかった。

 

 

 目の端を流れていく景色を見ると、もうかなり城から離れたところまで来たようだ。

 

 もう少し・・・・・。

 いつもと違う今日は、いつもより遠い場所へ行こう。

 

 そう頭の中で呟いて、愛衣はひたすら走り続けた。

 

 その時・・・・・・

 

 

???:「あら・・・・・?」

 

愛衣 :「っ!!?」

 

 突然、店の影から人影が現れた。

 人影と愛衣との距離は、もう2メートルも無い。

 

 ましてや全力で走っている愛衣が、ブレーキなど間にあうはずも無く・・・・

 

“ドォォーンッ!!!”

 

 さながら、小さな交通事故だ。

 

 人影と愛衣は勢いよくぶつかり、そのまま地面に倒れこんだ。

 ブワっと土煙が上がり、ゆっくり散っていく。

 

愛衣 :「イテテ・・・・・あっ! あの、ごめんなさいっ!! 大丈夫ですか!?」

 

???:「あはは。 大丈夫、大丈夫。 あなたこそケガは無い?」

 

 愛衣の全力疾走は、小さめの馬とほぼ同等の速度だ。

 普通の人間なら大けがをするはずと、愛衣はあわてて相手に駆け寄ったが、意外な事にぶつかった相手はケロリとしていた。

 

 それも驚きだが、愛衣にはもう一つ予想外の事があった。

 

愛衣 :「あれ? あなた・・・・・」

 

 ぶつかった相手は、見覚えのある人物だった。

 ちゃんと話した事は無いが、会議などで何度も会っている。

 

愛衣 :「孫尚香、さん・・・・?」

 

 真っ赤な衣装に、褐色の肌。

 長い桜色の髪と、青い瞳が綺麗な女性。

 

 小蓮こと、孫尚香その人だった。

 

小蓮 :「あら。 あたなは、確か章刀の・・・・・」

 

 自分の名前を呼ばれ、小蓮の方も愛衣の事に気付いたようだった。

 愛衣の顔を見ながらゆっくりと立ち上がり、服に着いた砂を払った。

 

愛衣 :「あ、あの・・・・本当にごめんなさい! 私、急いでて・・・・」

 

 思いがけない人物の登場にしばらくあっけにとられていた愛衣だったが、ふと我に帰りもう一度深々と頭を下げた。

 同時に、そう言えば今日は呉との合同会議がある日だったと思いだす。

 

小蓮 :「気にしなくていいわ。 それよりどうかしたの? そんなに急いで」

 

愛衣 :「えっと、その・・・・・・」

 

 まさか、兄妹とケンカして家出する途中だったなどと言えるはずも無く。

 愛衣は、両手をこねながら目をそらした。

 

小蓮 :「・・・・・・フ~ン」

 

 その様子を見て小蓮は何かを悟ったらしく、愛衣の目線までしゃがんでにっこりと笑った。

 

小蓮 :「ねぇ、これから時間あるかしら?」

 

愛衣 :「え!? えっと・・・・・・はい」

 

 まさいきなりそんな質問をされると思っていなかった。

 特に目的があった訳ではない愛衣は、思わず頷いてしまった。

 

 その答えを聞いた小蓮は、いたずらっぽく笑ってウインクして見せた。

 

小蓮 :「それじゃ、少し付き合わない?」

 

愛衣 :「へ・・・・・?」

 

 

――◆――

 

小蓮に連れられて、愛衣は街から少し離れた森の中にある川に来ていた。

 愛衣達姉妹の両親が眠る墓石がある場所の近くだ。

 

 川辺の石に並んで腰かけ、小蓮は裸足になって川に足を投げ出していた。

 

小蓮 :「ん~! 冷たくて気持ちいいわ♪ 私この場所が好きでね、蜀に来た時は良く来るようにしてるの」

 

愛衣 :「はぁ・・・・。 あの、孫尚香さん」

 

小蓮 :「小蓮でいいわ。 その代わり、あなたの真名も教えてくれるかしら?」

 

愛衣 :「あ、はい! わたしは、愛衣っていいます」

 

 いつもどおり奔放な小蓮にたいして、隣に座る愛衣は少し緊張しているようだった。

 いつもの元気さはなりを潜め、使い慣れない敬語はどこかぎこちない。

 

小蓮 :「愛衣ね、よろしく♪ それで、なにかしら?」

 

愛衣 :「いえ、あの・・・・今日って会議のはずじゃ・・・・」

 

 会議は午後からだと聞いている。

 なら、今は丁度会議の真っ最中のはずだ。

 

 どうして小蓮がこんなところにいるのか、愛衣には不思議だった。

 

小蓮 :「うん、そうよ」

 

愛衣 :「え? それじゃ、どうしてここに?」

 

小蓮 :「面倒くさいからサボっちゃった♪」

 

愛衣 :「はぁ・・・・・・。」

 

 満面の笑みであまりにも平然と答える小蓮に、それ以上何も言う事は出来なかった。

 

 愛衣も、自分の事はそうとうわがままだと思っているが、この人は少し違う。

 わがままというよりは、自由という言葉がぴったりだという気がした。

 

 わがままと自由の違いが何なのかは分からないが、どちらかと聞かれれば小蓮は間違いなく自由なのだ。

 

愛衣 :「あの、それじゃあもうひとつ聞いていいですか?」

 

小蓮 :「ええ、いいわよ」

 

愛衣 :「どうして、私を誘ってくれたんですか?」

 

小蓮 :「ん~とね。 少しだけど、あなたの気持が分かったから、かな」

 

愛衣 :「え・・・・?」

 

 バシャバシャと足で水を弾きながら、小蓮は言った。

 

小蓮 :「ズバリ、家族とケンカしたんでしょ?」

 

愛衣 :「うっ・・・・・・」

 

 的中だった。

 

 しまった、と思った時にはもう遅い。

 図星と顔に出ている愛衣の表情を見て、小蓮はクスクスと笑った。

 

小蓮 :「あはは。 やっぱりね、そうだと思ったわ」

 

愛衣 :「・・・・・ごめんなさい」

 

 なんだか恥ずかしいのと申しわけなさで、愛衣は顔を赤くしてうつむいた。

 

 

小蓮 :「別に謝る事じゃないわ。 それより、よかったら聞かせてくれないかしら? どうしてケンカしたのか」

 

愛衣 :「はい、実は・・・・・・」

 

 それから愛衣は、ことのあらましを小蓮に話した。

 

 姉に言われた事。

 兄に言われた事。

 自分が二人に言った事。

 その後自分が思った事。

 

 小蓮とちゃんと話すのは、これが初めてのはず。

 なのに不思議と、彼女には全て話してしまおうという気になれた。

 

 

小蓮 :「・・・・・クスクス♪」

 

 すると、話を聞き終えた小蓮は先ほどの様に小さく笑いだした。

 

愛衣 :「あの・・・・なにかおかしかったですか?」

 

 まさか笑われるとは思っていなかったので、愛衣は少し驚いた様子で訪ねた。

 というか、自分の兄弟げんかの内容を他人に話してしまった事が、今更になって少し恥ずかしく思えた。

 

小蓮 :「クス・・・いいえ、ごめんなさい。 別に馬鹿にしてるわけじゃないのよ? ただ、あなたが昔の私にあんまりそっくりだったから、ついね・・・・」

 

愛衣 :「私が、昔の小蓮さんに・・・・ですか?」

 

小蓮 :「ええ、そうよ。 私にも二人、姉が居たのは知っているかしら?」

 

愛衣 :「えっと・・・・・はい」

 

 話に聞いた事はある。

 先々代の呉王であった孫策と、その妹の孫権。

 

 “居た”という言葉の通り、もうその二人はこの世にいないが・・・・。

 

 やっと笑いのおさまった様子の小蓮は、川の水面を見ながら話しを続けた。

 

小蓮 :「丁度今のあなたくらいの頃ね、私も自分で何でもできる気になってたの。 それでもお姉さま達は私をいつものけものにして、戦いにもほとんど参加させてもらった事は無かったわ。 『わがままばかり言うな』、『お前はまだ子供なんだから』って。 そうやって子供扱いされるのが、悔しくてしかたなかった」

 

愛衣 :「・・・・・・・・・・・・」

 

 小蓮の話しを聞いていて、愛衣はすぐに思った。

 彼女の言うとおり、それはまるで今の自分とそっくりだと。

 

小蓮 :「でもね、お姉さまが二人とも亡くなって、蘭華達の母親代わりになってみて思ったの。 ああ、この子たちを危険な目には会わせたくないなぁ・・・・ってね。」

 

 言いながら、小蓮は愛衣の顔を見て優しく笑った。

 

 その笑顔を見て、愛衣は思わずドキリとしてしまった。

 それはまるで、兄や姉が自分に向けてくれる様な暖かい笑顔と同じだったから。

 

小蓮 :「それからね、お姉さま達の気持ちが分かった様な気がしたの。 きっとあなたのお兄さんもお姉さんも、同じ気持ちなんだと思うわよ?」

 

愛衣 :「同じ・・・・気持ち?」

 

 小蓮は相変わらず笑顔でそう言うが、愛衣にはいまいちピンとこなかった。

 

 

小蓮 :「ええ。 章刀や愛梨があなたを心配するのは、あなたが小さいからでも、弱いと思ってるからでもないわ」

 

愛衣 :「じゃあ、どうして?」

 

小蓮 :「それはね、あなたが二人の妹だからよ」

 

愛衣 :「妹・・・・・だから?」

 

 そんなこと、考えても無かった。

 というか、それは当たり前の事なんじゃないのかと愛衣は思った。

 

 妹だから小さいし、まだ弱いと思われている。

 だから子供扱いされるのではないかと思っていた。

 

 けれど、小蓮はまだ話しを続けた。

 

小蓮 :「そ。 仮にあなたが兄妹の中で誰より強かったとしても、きっと二人は今と同じ事を言うと思うわよ?」

 

愛衣 :「私が、妹だからですか?」

 

小蓮 :「ええ。」

 

愛衣 :「・・・・よく、わかりません」

 

 愛衣は少し眉をひそめて、うつむいた。

 それを見た小蓮は少し困った様子だったが、すぐに何かを思いついたように表情を変え、愛衣の顔を覗き込んだ。

 

小蓮 :「じゃあ、例えばこう考えたらどう?」

 

愛衣 :「?・・・・・」

 

小蓮 :「あなた、お兄さんの事は好き?」

 

愛衣 :「・・・・・はい」

 

 愛衣は、少し照れた様子で頷いた。

 

小蓮 :「じゃあ、もし章刀が誰かと結婚して子供ができたら・・・・」

 

愛衣 :「ええぇっ!!?」

 

小蓮 :「た、例えばだってば! 例え話っ!!」

 

愛衣 :「あ! す、すいません・・・・・」

 

 我ながらすこし喰いつきすぎだと思った。

 愛衣は、顔を真っ赤にして姿勢をただした。

 

小蓮 :「それでもし章刀に子供ができて、その子が成長して戦場に出たいって言ったら、あなたはどうする?」

 

愛衣 :「そ、そんなの決まってるじゃないですか! 絶対行かせません!」

 

小蓮 :「あら、どうして?」

 

愛衣 :「それは、兄さまの子供がケガなんかしたら大変だから・・・・・あ!」

 

小蓮 :「フフ・・・・わかった?」

 

 言いながら、自分で答えを言っている事に気付いた。

 それを見て、小蓮はニコッとウインクをした。

 

 

小蓮 :「あなたが強いかどうかなんて、関係ないのよ。 あなたが妹だから、皆心配するの」

 

愛衣 :「それは・・・・・でも、そんなのずるいです! 私だって、皆のことが心配なのに・・・・」

 

小蓮 :「そうね。 でも、それはあきらめなさい。 心配するのが年上の権利なら、心配されるのは年下の義務みたいなものよ」

 

愛衣 :「そんなの・・・・・」

 

 そんなのはずるい。

 

 もう一度そう言おうとしたが、それ以上は出て来なかった。

 

小蓮 :「その代わりあなたは本当にお兄さんたちの子供ができた時に、その子たちを精一杯心配してやりなさい。 その子たちが、そんなのずるいって怒るくらいにね♪」

 

愛衣 :「・・・・それで、いいのかな?」

 

小蓮 :「もちろん♪ 想う方も想われる方も、形は違ってもちゃんと伝わるものよ。 そうやって、家族っていうのは繋がっていくの」

 

 そう言いながら、小蓮は愛衣の頭をそっと撫でた。

 まるで、自分の妹を可愛がるように。

 

小蓮 :「心配はさせてあげなさい。 いつかきっと、お兄さんたちもあなたを頼ってくれる日が来るから。 私はお姉さまが生きているうちにその事に気付けなかったけど、あなたにはまだ大切な家族がたくさんいるでしょう?」

 

愛衣 :「小蓮さん・・・・・・」

 

 愛衣を撫でながらそう言った小蓮の目は、なんだか悲しそうに見えた。

 

 この人に、こんな顔は似合わない。

 なんだか分からないけれどそんな気がして、愛衣はこの日初めて、精一杯の笑顔で笑った。

 

愛衣 :「ハイ! 私、頑張りますっ!」

 

小蓮 :「フフ、そう・・・♪」

 

 その笑顔を見た小蓮は愛衣の頭から手を話し、元の笑顔に戻っていた。

 

 そして今度は川の方に視線をもどすと、またクスクスと可笑しそうに笑った。

 

小蓮 :「クス。 でも、あなたの場合は家族に心配されるのも人一倍かもしれないわね」

 

愛衣 :「え? どうしてですか?」

 

小蓮 :「だって、あなたのお兄さんもお姉さんも、みんな一刀の子供なんだもの」

 

愛衣 :「! 父さまの・・・・・」

 

 まさか小蓮から父の名が出てくるとは思わなかった。

 愛衣は、少し驚いた様子で小蓮を見た。

 

小蓮 :「あなた、お父さんの話は聞いたことある?」

 

愛衣 :「えっと・・・・少しだけ」

 

小蓮 :「じゃあ、ちょっと話してあげましょうか?」

 

愛衣 :「ほんとですかっ!?」

 

小蓮 :「ええ♪」

 

 

 今まで姉たちから何度か話に聞いた事はあるが、家族以外から見て父はどんな人間だったのかは知らない。

 

 だから小蓮から父の話しが聞けるのは、とてもうれしかった。

 

小蓮 :「あなたのお父さんは、ほんとに優しさが服を着て歩いている様な人でね。 悪く言えば、超が3つはつく様なお人よしだったわ」

 

愛衣 :「お人よし・・・・・ですか?」

 

小蓮 :「ええ。 昔、まだ呉と蜀が敵同士だった頃にね、私は蜀の趙雲に負けて捕虜として捕まった事があったの」

 

愛衣 :「趙雲って、昴姉さまのお母さん・・・・」

 

小蓮 :「そ。 それで私は縄で縛りあげられて、呉の情報を聞き出すために君主だった一刀の前に連れて行かれたの。 そしたらあの人、なんて言ったと思う?」

 

愛衣 :「?・・・・・・」

 

小蓮 :「『この子の縄を解いてあげてくれ・・・・』だって。 信じられる? 私がまだ小さかったって言っても、敵の将軍を捕まえておいて自由にさせるなんて。 馬鹿じゃないかと思ったけど、私はその一刀の優しさにひかれて、ひと目惚れしたの♪」

 

愛衣 :「ひ、ひと目惚れ・・・・ですか!?」

 

 小蓮の話を聞いて動揺する愛衣。

 自分の父の話しとはいえ、なんだか恥ずかしくなってしまった。

  

小蓮 :「フフ、そうよ。 それからず~~~っと想い続けてたのに、結局私には振り向いてくれなくて、あなたのお母さんたちに取られちゃった。 おかげで、この年で独り身になっちゃったわ」

 

愛衣 :「えっと・・・・・すみません」

 

 なんとなく、頭を下げた。

 

小蓮 :「あはは、別にあなたが謝る事じゃないわ。 確かに私の想いは届かなかったけど、一刀に出会えた事には本当に感謝してる。 だってあの人がいなかったら、きっと今の蜀と呉の関係は無かったわ」

 

愛衣 :「そう・・・・なんですか?」

 

小蓮 :「ええ。 あなたたちは、そんな優しくて立派な人の血を継いでいるの。 だからこれから先は、あなたたちが協力して皆を引っ張っていくのよ? お父さんたちが、そうしたようにね」

 

 そう言って、小蓮は愛衣に今日何度目か分からない笑顔を向けた。

 

 その笑顔を見て、愛衣は思っていた。

 

 彼女の笑顔は不思議だ。

 なぜかこの笑顔を見ていると、こっちまで自然と元気づけられてしまう。

 今まで自分が悩んでいたことなど、忘れてしまう。

 

 皆は、彼女の事をサボってばかりで我がまま扱いする。

 けれどそんな自由な彼女だからこそ、こんな笑顔ができるのではないか。

 

 だからこそ、彼女はなんだかんだで周りに慕われるのではないか、と。

 

小蓮 :「・・・・さて、そろそろ帰りましょうか」

 

 考えごとをしている愛衣の隣で、小蓮はぐーっと伸びをしていた。

 気が付けば、もう太陽が随分と傾いている。

 

 そろそろ、空が茜色に染まり始める頃だろう。

 

小蓮 :「着き合わせちゃって悪かったわね。 どう? 少しは力になれたかしら?」

 

愛衣 :「はい。 あの、小蓮さん・・・・・」

 

小蓮 :「なぁに?」

 

 今日で二回目。

 けれど多分先ほどよりも明るいであろう笑顔を、愛衣は小蓮に向けた。

 

 それが、今自分が小蓮にできる精一杯のお礼だと思ったから。

 

愛衣 :「今日は、ありがとうございましたっ♪」

 

小蓮 :「フフ・・・・どういたしまして♪」

 

 その日最高の笑顔を向けた愛衣。

 

 それに答えた小蓮の笑顔は、いつもと変わらない、あの優しい微笑みだった。

 

 

 

――◆――

 

 

 その後城に戻った愛衣は、やっぱり愛梨に少し怒られた。

 

 

 

 でも、その後はやっぱり自然に仲直りして。

 

 

 

 いつもと違った今日のケンカは、やっぱりいつもどおりに終わるのだった。

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
6
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択