No.485863

咲-saki-月宮編 第26局 決着

白昼夢さん

---月宮高校麻雀部での城山華南と麻雀部の仲間達の紆余曲折ありながらもインターハイ優勝を目指していく、もうひとつの美少女麻雀物語---

2012-09-18 22:48:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1236   閲覧ユーザー数:1193

 

第26局 決着

 

途中経過 大将戦後半戦・オーラス開始時

 

1年 有栖川 雛姫 (吾野)  214800点

1年 城山 華南 (月宮女子)  150300点

1年 藤金 千尋 (越谷女子)  32600点

2年 坂上 穂波 (名細)    2300点

 

オーラス 親・藤金 千尋

 

『長かった地区大会も、遂に決勝!大将戦後半戦、オーラスになりました!現在トップは名門吾野高校、有栖川選手!2着の月宮女子、城山選手にさえ64500点の点差をつけております!』

『これによって名細と月宮女子は、自力優勝の目はかなり薄くなってしまいましたね、2着の月宮女子、城山選手が有栖川選手に役満の直撃で和了しても500点届きません』

『大量の点差はありますが、現段階では連荘出来る越谷女子の方が若干逆転の可能性があると言えるでしょう!』

 

 

(…最後の、親番…、私が和了り続ければ、いつかは勝てる!だから…!)

祈るように配牌を確認する、また一枚、また一枚と…。千尋の配牌はこうだった。

 

二三四(赤五)六七八222(赤5)558 ドラ五

 

(これ…張ってる!)

聴牌していた。8筒を切れば萬子の3面張、ダブル立直なら跳満が確定する手だった。

(ツモは駄目、名細からの出和了りも駄目だけど…一巡目なら…行く!)

『立直!』

意を決して8索を打ち、立直宣言をする千尋。

次順、雛姫のツモ、なんとこちらも聴牌していたのだ。

 

七七③③④④⑤⑤346788 ドラ五

(ダブル立直が入ってしまいましたが…最後の最後に運がいいですね…貰いましたよ!)

タンピン一盃口、立直はかけずに8索を切り出す。

 

『おっとー!ここで親の藤金選手!ダブル立直です!そして有栖川選手も配牌で聴牌!これはなんということでしょう!そして有栖川選手はここでも堅実に立直をかけずにダマです!確実に一位を狙う姿勢が見えますね!』

『点数状況、オーラスである事を考えても立直はしないのは当然でしょう、あ…』

そこまで言ってモニターに視線を戻した和が唖然とする。松浦も同じく驚愕の表情を浮かべていた。

 

『立直!』

もう1人、ダブル立直をかけたものが居た、華南だ。この局面での立直に雛姫も怪訝な表情を浮かべる。

(おかしい…役満直撃でも…逆転には届かなかった筈…!、いや…そうか…!)

ふと気づき、卓を見た雛姫は、場に出された立直棒を見つめていた。

(越谷の出した供託棒!これなら私に役満を直撃であれば逆転は出来る…けど…和了り牌は全て城山さんに集まる筈!ならばこのままツモれば和了る事も出来ずにフリテンに…)

『ポン!』

同順、千尋の打牌を誰かがポンをした、穂波だった。

(そう…月宮の立直の意味…私はこのまま和了しても逆転はない…だけど…!)

そして慎重に安全牌と思われる牌を選択し、打牌する。

(蓮荘すれば、いつかは逆転のチャンスが来るはず!例えそれが限りなく0%に近いものだとしても…私は、諦めない!)

そして千尋がツモり、和了しないのを確認し、雛姫のツモ番。

(それが月宮の当たり牌…それを抱えたまま、親の立直をかわせるかな?)

そこまでが穂波の思惑だった。案の定渋い顔をしている雛姫。

(本来なら城山さん自漠…南…)

それを手牌にしまい、逡巡する雛姫。

(ダブ南…染め手とドラが絡めば、数え役満に届くという訳ですか…だけど、絶対切りませんよ!)

打ち出したのは3索、雛姫は聴牌を崩したのだ。

次順、雛姫の引いた牌は白。

(混一色の字牌のシャボ待ちかしら?抱え込んだら七対子でしか和了できないけど…)

一盃口の2面子と頭があるので、それでも聴牌まではすぐだと読んだ雛姫、だが次に来た牌は予想とは違うものだったのだ。

(…1萬?…どういう事?)

次に来た牌は1萬、雛姫の手が止まる。

(当たり牌がもう枯れた…?のかな?)

だが、その1萬から雛姫はなにかイヤな感覚を感じていたのだ、雛姫は対子になっていない索子に手を伸ばす。

その次に雛姫が引いた牌は…9筒。

(まさか…)

1萬、9筒、南、白、それらを全て待ちに出来る役が一つだけ存在した…。

 

それは…。

 

(…国士無双…十三面待ち!?)

そんな馬鹿な、有り得ないと首を横にふる雛姫、雛姫は華南の表情を伺う、その瞳はまだ光を失っていなかった。

(そうだとしたら…このツモも頷ける…)

次順、雛姫が引いたのは、中。

(やっぱりだ、間違いない!これは全部切れない…切ったら…負ける…!)

最早配牌の原型を留めない形になってしまった雛姫の手牌、ツモってきた中を手牌に入れ、更に手出しで中張牌を打ち出す。

(誰か…私以外の誰かが幺九牌か字牌を切ってくれれば…!)

雛姫は焦っていた、このまま行けばいつか雛姫の手牌全てが華南の当たり牌になってしまうからだ。

立直をかけてしまった以上、一度他家が国士無双の待ち牌のどれかを切ってしまえば、雛姫が振り込む事は無くなる。だから心の中でそう念じていた。

だが何順経っても穂波も千尋も幺九牌も字牌を打ち出さない。やはり本来の華南のツモる所に当たり牌が固まっているのだろうか。

(白…)

11順目、雛姫のツモ、ついに一枚、牌が被ってしまった。

 

一七七九①③⑨19南白發中 ツモ白 ドラ五

 

(…ここに来て被ってしまいましたか…)

次順、東、西、北以外の牌をツモってしまうと、国士無双で和了る為に幺九牌か字牌を一枚は切らなくてはいけなくなってしまう。

(弱気になってはいけない、これを和了り切って…優勝を決めて見せましょう!)

強い決意を帯びた瞳で3筒を打つ、次順のツモ、西。7萬の対子から落とす。

(よし!あと2枚…!)

更に次順のツモ、北だった。

(どうにか張りました…!あとは東さえツモれば…東さえツモれれば…私の勝ちです…!)

同順、ついに華南も、穂波も、千尋も幺九牌と字牌を一度も打ち出す事無く、雛姫のツモ番が来た。

(東…東…東…来て…!)

祈るように心の中で呟き、山に手を伸ばす。

それが東であれば、雛姫の勝ちだ。それ以外の幺九牌か字牌であれば…。

いつものように盲牌することはない、雛姫は躊躇っていた。

(…何を怯えているのですか、ここで負けるわけにはいかないのです、これは…東…!)

そのまま盲牌をせずに、面が見えないように手元まで持ってくる。

(鮫島先輩…赤星先輩…凪原先輩…双柳部長…!)

心の中で雛姫に期待してくれた先輩達の名前を、その努力と実力を信じて、大将を託してくれた部長の名前を、呟く。

 

目を閉じる。

 

牌の表面を、自分の方に向けた。

 

そして…ゆっくりと、ゆっくりと目を開く。

 

ツモってきた牌は…東、ではなかった。

 

(…南)

 

雛姫の手牌

 

一九①⑨19南西北白白發中 ツモ南 ドラ五

 

国士無双、聴牌、白か南を打ち出せば、東待ち。

全身から力が抜けていた、気づけば涙が頬を伝っていた。

(私は…負けて、しまったのですね…)

悔しい、ただ悔しい、自分を信じてくれた先輩達や、応援してくれる人達の期待に応えられなかった事が。

そして何より、今までの対局の中で、一番勝ちたいと思って臨んだこの対局で、負けてしまう事が。

彼女は、本当に、麻雀を愛していたから…。

 

 

雛姫の両親は麻雀が強かった、勿論修練で培った実力もあったが、やはり生まれ持っての才能があった。

雛姫には特別な才能は無かった、それこそ初めたての頃は全然勝てなかった。

一生懸命ルールを覚えて、何度も対局して、勝てるようになっていった。だが、それでもやはり才能ある者たちに屈していった。

悔しかった。だから努力した。それまで以上に、誰よりも、誰よりも。

その努力は決して裏切られる事なく、全中王者になるという確かな結果で示された。

誰もがそれを賞賛した。嬉しかった、大好きな麻雀の努力を、沢山の人たちに認めてもらえたから。

 

 

---数ヶ月前

 

『有栖川…まだいたのか』

吾野高校の部室。時刻は既に午後8時になろうとしている。

『部長…すいません、8時には出ます、後片付けも私がしていきますので、部長はお先に帰ってくださいな』

部室には雛姫、そして様子を見に来た詩音だけが居た。雛姫はずっと過去のインターハイ出場選手の牌譜を見て、それを卓に並べて研究していた。

『熱心だな、全中王者にもなって、うちの部内戦のランキングも4月からずっとトップだというのに』

その様子を見て、そういう詩音。誰もが認める実力を持ちながら、それでも努力を欠かさない雛姫に、ただ素直に関心していた。

『負けたくありませんから…大好きな麻雀で』

雛姫の想いは、それだけだった。だからこそどこまでいっても努力は欠かさない。詩音は黙って雛姫の横に座る。

『それに…全然苦になんておもってないですよ』

やがて雛姫は口を開き、そう言う。そして雛姫はそのまま続ける。

『私は麻雀、大好きですから!』

『そうか』

それを聞いた詩音は小さく笑いそう一言だけ言う、そして雛姫がずっと牌譜を見ながら考察しているのを終わるまでいつまでも見ていた。

 

雛姫も詩音が一緒に下校していた、雛姫も詩音も電車で通学しているので、駅までは一緒なのだ。

『申し訳ありません、部長に手伝わせてしまって…』

『気にするな、一生懸命努力している部員を責めたりなどしない』

結局雛姫が帰るまで、詩音も残っていたのだ。詩音はどうせだからと後片付けを手伝っていった。詩音のその言葉に、それ以上何も返さなかった雛姫だったが、一生懸命努力している、と言われたのが嬉しかったのが表情は明るい。

駅に着き、2人しかいないホームのベンチで座って待っていた、やがて、詩音がふと思い出したように言葉を発した。

『今年の夏の団体戦、大将は有栖川に任せようと思う』

『えっ』

驚いて、思わず席を立つ雛姫、詩音はそのまま続ける。

『まだ発表はしていないが、もうメンバーは大体決まっているんだ、お前は部内のランキングも常に一位、全中王者になった実績もある、それに何より、お前は誰よりも努力している、だから安心して任せられるよ』

神妙な面持ちで詩音の話を聞く雛姫。詩音はそのまま続ける。

『本当は来月まで言わないつもりだったんだがな、今日の有栖川の様子を見て、私は教えてもいいと思った、むしろ教えた方がいいと、お前はレギュラーに選ばれたから努力を怠るような奴じゃない、そう思ったからな』

『勿論です、むしろ…期待をかけて貰って…嬉しいです。その期待に応えられる様、より一層努力します!』

しっかりと詩音の瞳を見据えて、そう言い返す雛姫。

『ははっ、頼もしい事だ、しかしこの事は他の部員には言うなよ?一応まだ内緒なんだからな』

『はいっ!』

 

 

 

思い出されるのは今日まで一生懸命に無我夢中に努力した事、そして、そんな自分の努力を認め、信頼を置いてくれた人達の言葉。

雛姫は悔しさと申し訳無さで涙が止まらなかった。

『ごめんね』

口を開いたのは、華南だった。

『何を、仰ってるんですか、貴女は別に何も悪くはありませんよ』

それでも気丈にそう返す雛姫。

『あなたが言ってた通り、雀荘に行ってたのも、レート麻雀を打っていたのも、本当、そんな人と打つのは、楽しくなかったかもしれなかったと思って…事情があったにしてもそれは言い訳にしかならないから…だから、ごめんね』

そう言って、もう一度謝る華南。そして更に続ける。

『だけどね…私は楽しかったです、今日の対局、もう、無理かもしれない、そう何度も思った、だけど、信じてくれる皆が居たから、最後まで諦めずに打てたんだ』

そういって、雛姫に優しげな笑みを向ける華南。

『ありがとうございます、有栖川さん、貴女のお陰で、もっと麻雀が好きになれた気がします』

『……!』

その言葉に、思わず息をのんだ雛姫、やがて雛姫も口を開く。

『…途中から、そんな気がしてました、どんな状況でも、前を向いて、諦めない貴女を見て、貴女はそんな人じゃないって…』

涙を拭い、そしてまだ零れそうになる涙を堪えて、笑顔で雛姫はこういった。

『…いい、対局でした、私も、楽しかったです』

そして目を瞑り、南を手にとり、河に打ち出す。雛姫が南を選んだのは、この戦いの勝者になるであろう相手への、心からの祝福だったのかもしれない。

『ロンです、国士無双、十三面待ち、32000です』

『…はい!』

 

埼玉県地区大会決勝 終了

 

1年 城山 華南 (月宮女子)  183300点

1年 有栖川 雛姫 (吾野)  182800点

1年 藤金 千尋 (越谷女子)  31600点

2年 坂上 穂波 (名細)    2300点

 

 

『…な…な、な、なんと!逆転です!大逆転!月宮女子、城山選手!オーラスに国士無双十三面待ちをトップの吾野高校、有栖川選手に直撃!供託棒を回収し、500点差で見事大逆転です!優勝は…月宮女子に決定致しましたー!!』

『最後まで諦めない城山選手の姿勢、お見事でした、素敵な対局を見させてもらいました、本当に今日この対局を私達に見せてくれた彼女達に、心からの感謝をしたいと思います』

(かにゃんさん…素晴らしかったです)

モニターの先の華南を見据え、微笑む和、色々話したい事もあった、だけども和は心の中でそう呟き、そして静かに解説室を後にする。こんなに素晴らしい対局の後に、水を差すようなことはしたくないと。

 

『おめでとう、城山さん、貴女と対局出来て、良かった』

『おめでとうございます、負けちゃったけど…楽しかったです』

『こちらこそ、ありがとうございました』

ゆっくりと席を立ち、そう華南に言う穂波と千尋、華南はにこやかにそう返す、そして…。

『あの…城山さん』

雛姫は席を立ち、華南の元に歩み寄る。

『有栖川、さん』

立ち上がり、自分より一回り身長の低い雛姫の瞳を見据える華南。

『…いつか…いつかまた…私と、対局してくれますか?』

それだけ言って、また俯いてしまう雛姫、華南はこう返した。

『勿論です、また、一緒に打ちましょう!』

『…はいっ!』

とても優しい笑みを浮かべ、そして雛姫の前に手を伸ばす。雛姫は顔を上げ、差し出された華南の手を取り、堅い握手をし、そして、華南に負けない位の笑顔でそう返した。

『かなっち!』

『城山さん!』

『華南!』

『華南ちゃーん!』

気づけば対局室のすぐ入り口に、月宮女子麻雀部の皆が駆けつけていた、そして4人は華南の元に歩みよる。

『勝ったね、私たち!』

『城山さん…かっこよかったです!』

『華南なら…きっと何とかしてくれるって、信じてたよ』

『うふふー華南ちゃんの逆転勝利のお祝いに私からキスを…』

『いや、遠慮しておきます』

こんな時でもきっちり拒否しておく華南。こんなときまでよくやるよと溜息をつく泉。

『おめでとうございます!解説の松浦です!月宮女子高校麻雀部の皆さん!インターハイ出場おめでとうございます!まず、大将の城山選手から一言!』

『月宮女子の皆さん!全国大会出場を決めた今のお気持ちは!』

『視線こっちにくださーい!』

『一言!一言お願いしまーす!』

気づいたら沢山の報道陣に囲まれていた月宮女子麻雀部一同。

『あらら、頑張ってくださいね、注目を浴びるって言うのは、中々に大変ですよ?』

悪戯っぽく笑い、華南にそう言ってその場を去る雛姫。

『…えっ、えっ、あのー…』

『あははー…ちょっと大変そうだねー、でも、これで私もテレビに出れる!』

『言ってる場合かよ…』

『あうあう…』

『うふふー、どうしましょうかしらー?』

華南達5人が解放されたのは、およそそれから3時間後だったという。

 

 

 

『本当に、私たち勝ったんだよね、なんか実感沸かないや』

『ははっ、確かにそうだな、まだ夢の中にいるみたいだ』

『私も、まだ全然実感沸かないですっ』

帰り道、バスの中でりりあと泉、あかり、羽衣が話している。

『うふふー、みんなが頑張ってくれたお陰ねー』

『部長もな』

『うんうん!』

華南はよほど疲れたのか泉の膝元で眠っている。羽衣は自分の下で華南を寝かせようとしたが、何かあったらいけないと泉がそれを阻止したのだ。

『城山さん、よほど疲れたのか熟睡ですね』

『華南は一番頑張ったもんなあ、取材もなんか沢山受けてたしなあ』

『かなっちも確かに可愛いけど、こんなに可愛い私を差し置いてかなっちばっかりちょっとずるいよねー』

『りりあはそんなに取材受けたかったのか…』

『だってー!テレビに映るチャンスだよっ!』

『はいはい…』

別に可愛いからとかだけではないだろうとツッコミを入れようとしたが、泉も中々に疲れていたのでそう返すだけだった。代わりに羽衣はその様子をみてうふふーと笑っている。

帰りのバスの中は、いつまでも楽しそうな声が途絶える事は無かった…。

 

 

全国大会出場を決めた月宮女子麻雀部、しかし戦いは、まだ始まったばかり---

 

 
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