No.484341

おくりもの。

岡保佐優さん

「そこにいるから、気付いてほしいの」
スノードロップに昔からあるお話をアレンジしてみました。

2012-09-15 21:41:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:465   閲覧ユーザー数:464

それはどこか遠い星でのお話です。

 

神様がおりました。

彼は雲の上から地上のいろんなものを見守っていらっしゃいました。

神様の手には大きなパレットと筆がありました。

 

パレットには絵の具が山ほどに載っており、中には名前すらないような色もありました。

神様はそれらをつかって世界中に色を塗りました。

生まれたてのその星に、神様が骨身を惜しまず丁寧に色を塗って下さったので、その星は大変美しい佇まいとなりました。

 

 

ある日、神様は世界の隅のあたりでべそをかいている女の子がを見つけました。

背中に生やした両の羽根をしなびたように垂らして、女の子はぼたぼたと涙を流しておりました。

豆粒よりも小さくて、それはそれは可愛らしい女の子でした。

 

「きみはどうしてそんなに悲しんでいるのかな」

神様が尋ねると、羽根の生えた女の子はしゃくり上げながらいいました。

「ええ神様

 わたくしの身体ってば豆粒より小さいから、誰も気づきやしませんの」

「君の背中には素敵な羽根があるじゃないか」

「わたくしの羽根ってば透明だから、やっぱり誰も気づきやしませんの

 わたくし生まれて此の方誰ともお話したこともございません」

 

神様は女の子の哀れな身の上を聞いて、困ってしまいました。

パレットの絵の具は底をついて、女の子を彩れるほどの些細な色も残っておりません。

すると神様は大きな声で言いました。

「だれかこの子に、色をわけてお遣り」

 

しかし、名乗り出るものは誰もおりません。

なぜなら羽根の生えた女の子は、よくよく目を凝らさないとどこにいるかもわからずに、その癖何かの拍子に触れると身が切れるほど冷たかったので、みんなその冷たさを毛嫌いしました。

女の子を不憫だと思いながらも、相まみえるものはひとりとおりませんでした。

 

 

春が過ぎ、夏が過ぎ、秋も過ぎ、やがて木枯らしの呼び声が静かに響くと、

嵐のような突風に跨り冬将軍がやってきました。

お花も木々も、草も、みんなうずくまり縮こまりました。

山は眠り、森は枯れ、世界は長い受難の季節を迎えましたが、羽根の生えた女の子は相変わらずぼたぼたと涙を落としておりました。

 

「ねぇ」

どこからでしょう。

今にも掻き消えそうなほどちいさな声が、羽根の生えた女の子の耳に届きました。

「ねぇちょっと

 そこで泣いてる羽根の生えた可愛い子

 あなたがそこで泣いていると、その雫がわたしにかかってとっても冷たいのだけど」

女の子は一体どこから聞こえて来る声だろうと辺りを見回すと、足元の岩間に生えた一本の白いお花が、震えながら女の子を見上げておりました。

女の子は申し訳ない気持ちになり、すぐに立ち去ろうとしました。

 

「ちょっとまって」

「え?」

白いお花は今にもどこかへ飛び立とうとする女の子を呼び止めました。

「羽根の生えた可愛い子

 そんなに素敵な羽根があって、貴女はどこへでも飛んでいけるのにどうして泣いているのかしら」

羽根の生えた女の子は言いました。

「わたくしの身体は豆粒より小さくて、わたくしの羽根は透明だから

 だれにも気がついて貰えませんの

 みんなみんな素敵な色を神様から授かったのに、わたしにだけ何もありませんの

 それどころかわたくしったら尖ったように冷たいから、みんなわたくしを疎ましがりますの

 悲しくって悲しくって、あんまり悲しいからどれだけ経っても涙がとまりませんの」

白いお花にこぼれた大粒の涙が、きらきらと光っておりました。

女の子は涙を流すように、自分の身空をすっかり白いお花に話しきりました。

 

すると白いお花は言いました。

「もう泣くのはお止し

 羽根の生えた可愛い子

 その素敵な背中の羽根には、このわたしの色じゃ駄目かしら」

 

 

それからその女の子は、あの日と同じ季節になると、あの白い花に会いに訪れました。

でも冬に咲く白いお花が自分の冷たさで凍えてしまわないように、そっと遠くから。

ふわりとした羽根にお花に貰った純白に染めて、

在りし日の親切にいつまでも感謝しながら、ふわりと舞い降りました。

ふたりの間には寒い冬にも関わらず、ぽっと暖かいおしゃべりが、一足早い春を呼びました。

 

 

ところでこの女の子とお花との様子を見守った神様ですが、

後に女の子の方を雪と、お花の方を雪待花と呼ぶことにいたしました。

 

 


 
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