No.483982

ステラ・ルキス

もるつさん

RETRIEVER STORYのつづきです。

2012-09-14 23:48:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:840   閲覧ユーザー数:834

 ステラはエゥーゴに連絡を取った。父親が一年戦争のときジオン兵としてモビルスーツのパイロットをしていたため、エゥーゴとのつながりがあったのだ。

 ほどなく、地球からカラバの人たちがやって来た。やさしい人たちだったが、アムロは来なかった。

 

 後に、ステラは偶然、アムロと出会う。

「君とは、どこかで会った気がする」とアムロ

「いいえ、お会いしていません」うれしさのあまり、ステラはそれ以上話しをすることができなかった。

 

 一年戦争で父はザクに乗り戦っていた。負傷して帰ってくる前の父の記憶はあまりない。帰還した父は人が変わったと母親がよく言っていた。戦争の話をすることはあまりなかったが、ひとりの連邦軍の少年兵の話はよくしてくれた。

 幼くして両親を亡くした父は、行き場もなくジオン軍に入隊する。1年戦争がはじまり地球にいくことになるが、ジオンの大義名分など関係なく、戦場に立つ以外に選択の余地はなかった。

 アメリカ大陸の広漠とした大地の岩陰に、新しく配属された部隊で、作戦と称して待ち伏せをしていた父は「どうしてぼくはここにいるのだろう」と思ったという。

「どうして、宇宙で生まれたぼくが、本来、宇宙で戦うために作られた巨大な人型の兵器に乗り、憎くもない連邦の人を殺すためにこの大地の上にいるのだろう。作戦だとはいうが、待ち伏せているのは、たった1機のモビルスーツだ」と。

「これは作戦などというものではない」

 父は歩兵になるのがいやだったから、モビルスーツ乗りになったと言っていた。待ち伏せていると、自分が歩兵になり、相手の顔が見えるようでいやだった。

 

 突然、僚機が消える。フルスロットルで上昇したためだ。熱源レーダー上の輝点を確認して、父もエンジンを全開にして飛び出す。すでに相手の機体はロックしている。肩の上のミサイルを撃ち、あとはマシンガンを連射するだけだ。

 多勢に無勢。この戦いは一瞬で終わる。いや、事実、モビルスーツの戦いというものは、どんな時も一瞬で終わるものなのだ。戦っているパイロットには長い時間だとしても。

 地上に近づいたためか、機体が自動でスラスターを動かして姿勢制御をしているのを感じつつ、確実にロックオンしている敵めがけて攻撃する。当たっているはずだ。だが、照準器のマークは動きつづけていた。

 突然、頭の中に「やめろ」と声がした。僚機かと思ったが父は目の前の敵モビルスーツを撃ち続けた。恐怖からそうすることしかできなかった。

 衝撃。モニターが暗転する。頭部を撃たれたのに違いない。続いて片脚が失われたのだろう。機体が大きく傾く。

 再び「どうして」という声が聞こえる。それは通信機からのものではなかった。

 倒れた機体から、負傷した足を引きずりながら、ハッチを開けコクピットから出た瞬間、背後から、ザク特有の重いマシンガンの音ともに、光点が頭上を、前方の白いモビルスーツめがけて飛んでいく。刹那、父めがけてビームライフルが発射された。

 重い爆音の後、爆風が父を枯れた大地に落とした。

 

 傷ついた父が見上げる白いモビルスーツは無傷に見えた。

 降りてきたパイロットは少年だった。とても兵士には見えない。

「だいじょうぶですか」と少年。

 父の僚機が、父を盾にして、少年が乗ったモビルスーツを攻撃してきたという。ザクの頭と脚を吹き飛ばしたのは僚機だったのだ。

「やめろと言ったんです」

 自分のモビルスーツから非常食の入ったサバイバルキットを持ってきた少年は

「必ず帰ってくださいね」と言ったという。

 父は後で知ったのだが、少年の名はアムロだった。

 

「とうさんは、動けない体で、アムロがこっちに歩いてくるのを見ながら、おまえや母さんを思っていたんだ」

「アムロはとうさんがなにを思っているか、知っていたんだと思う。ニュータイプだからな」

「とうさんも、アムロの声を聞いたから、ひょっとするとニュータイプかもな」

 子供ながらに、愉快な父が言うことは、どこまでがほんとうかわからないと思っていた。

 でも、父がアムロに「必ず帰ってください」と言われたのはほんとうだと思う。

 

 別れ際、アムロは振り返ってわたしを見た。

 わたしは心の中で「父を帰してくれてありがとう」と言った。

 アムロはうなずいた気がした。

 

 結局、あの時、いま思えばまだ子供だったわたしが、うまくことを運ぶことができたとは思えない。ただで渡してもいいという、わたしの申し入れは受け入れられず、自分が支払った以上のお金を、あの “ガンダム” を売ることで手にすることになった。

 

 ニュータイプがどういうものなのか、正直わたしにはわからない。

 だけど、父が出会った少年は、確かにニュータイプだったのだ。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択