No.481876

相良良晴の帰還16話

D5ローさん

待って頂いた皆さんにはすいません。

とりあえず仕事落ち着くまではこのように更新不定期になりますがご了承下さい。

さて、それでは16話、半兵衛との出会いをお楽しみ下さい。

2012-09-09 19:05:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:19849   閲覧ユーザー数:17276

さて、基本的に無駄を嫌う良晴は、前回と違い、最短距離を馬を使い全力で突っ走ったため、夕刻には、既に井ノ口の町に着いていた。

 

その後、野宿を防ぐため旅籠を早い段階で押さえると、一人の行商人に声をかける。

 

「すまない、待たせたな。」

 

そう、彼こそ川並衆の一人にして五右衛門の副長格である、前野某(なにがし)である。防衛の要として五右衛門を動かせない今、美濃への諜報は、彼が担当していた。

 

その肩書き通り、彼も又、五右衛門には劣れど優秀である。

 

たった一つの欠点…ロリコンであることを除けば。

 

そう、川並衆の面子は、ほぼ例外なく、女子である五右衛門を除きどいつもこいつもロリコンであった。

 

ちなみにメタ的な話であるが、実力者揃いの彼らの描写が今まで殆どなかったのも、良晴がそれを理由にねねのいる自分の屋敷からこっそり遠ざけていたからである。

 

まあ、ありがたい事に犯罪にまで至ることはないため(元川賊なのに)良晴は呆れながらも、とりあえずはそのまま直属の部下として扱い、他の皆々様に迷惑をかけぬように現状維持していた。

 

どうにかしようとは思うのだが、流石の彼も、『ロリコンの治し方』なんてちっとも分からないからである。

 

・・・おそらく近い将来次代のために彼らに嫁さんをあてがう時、尋常ではない苦労をするというのは容易に想像がついたが、それはそれ、これはこれである。

 

流石にこれ以上厄介事を抱えられるほど、良晴にも余裕は無かった。

 

話を戻そう。

 

数ある川並衆の中でも副官である彼を美濃へ宛がったことには、当然意味がある。

 

最優先事項として斎藤道三の身の安全の確保。

 

これは美濃の内情(親子関係が良くない点など)を知っている良晴としては当然の処置である。道三が『美濃譲り状』を公開した時点で確実に美濃の後継者の斎藤義龍が自分側の国人衆(地元の有力者)を率いて道三を追い詰めることは予想がつくからだ。

 

しかし、信奈にそれを伝える事は出来ない。

 

なぜなら、彼女が内心どれほど道三を大切に思っていたとしても、実質的に織田が美濃を手に入れるまでは道三は、『隣国の国主』であり、その相手を今すぐに信奈自身が尾張に匿うために動くのは現状非常に厳しいからである。

 

未だ直面している戦争(しかも勝つ可能性の低い)の決着がついていない尾張で、国主自ら火種を迎え入れる真似をすれば、ほぼ確実に尾張の他の譜代からは、『尾張の安全を国主自ら乱す気か!』と文句が出るだろう。

 

では、道三が時間をかけて義龍を説得すればいいじゃないときっと思うだろうが、道三はかつての国主を殺して大名となった『下克上』の典型のような経歴を持つため、あまり、旧国主の子と噂されている義龍や旧臣達の覚えが良くない。

 

下を押さえるために旧国主の妻を迎え、反乱を押さえる要としたくらいである。

 

信奈が優秀であるという理由で義龍は譲ることに納得などしないし、配下の国人衆達に対して説得を試みても同様の結果に終わる公算が極めて高い。

 

万一、義龍や国人衆がまともに話を聞いてくれたとしても、まともに納得させるには最低でも五年、十年の歳月を必要とするため、残念ながら全国統一を目指す織田軍として現実的ではない。

 

では、せめて今川軍を打ち払うまで黙っておけばいいではないか。

 

非常に妥当な案である。

 

しかし、思い出してほしい。

 

残念ながら、彼らの会談は開けた所(・・・・)で行われており、しかも、中立勢力の元で行われていた。

 

そう、会談の中身なんぞ、少し調べれば簡単に分かってしまうのである。

 

という訳で、道三は今川軍のために織田軍が身動きとれないのを承知の上でここ数日のうちにその意向を明らかにするという、自殺選択肢を選ばざるを得ないのだ。(早々に明らかにしない場合、義龍側から反乱の理由として開示されてしまうため隠せる選択肢が無い。)

 

その結果に伴う自らの命の危うさは道三側も承知しており、道三は最初、自身と縁の深い武家に信奈への協力を依頼した後は果てるつもりであった。

 

これは、その事を聞きつけた信奈が血迷って道三を助けに来ることにより、尾張の旧臣達からの信頼を無くす事を心配したためである。

 

数日前、道三の下に良晴からの書状が届かなければ間違いなくそうしていただろう。

 

身辺整理をしていた道三はその手紙の宛先を確かめると、すぐに内容を検め、そして、目を見開いた。

 

内容は簡潔。

 

一つ、半兵衛を近日中に自陣に引き入れたいので推薦状が欲しい。

 

二つ、織田家は指揮官が足りないので脱出路は用意するから落ち延びるように。この行為は私独自の判断として処理し、責任は、私が取ります。

 

三つ、『父親』を名乗ったのなら信奈と自分の結婚式を見るまで死なぬ努力をするように。

 

これを読んだ道三は笑った。

 

一つ目はともかく二、三項目は明らかに策というよりわがままに理由をつけているようにしか見えない。

 

しかし、それゆえに彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。

 

彼の自分が泥を被ってでも信奈と道三・・・親子『二人とも』を守りたいという気持ちが。

 

それを理解したがゆえに道三は自身を嘲笑った。

 

自分が死ぬことで、どれ程信奈を傷つけるか、理解しなかった己を。

 

自分のような悪党の身を案じてくれる者たちが、未だにこの世にいる事を知らぬ自分を。

 

しかし、気づいてしまっては仕様がない。

 

道三は良晴に差し出された手を掴んだ。

 

半兵衛へ『尾張よりお主を使いこなせる者がそちらに向かうゆえ、見定められたし』と良晴を推挙する文を書いた後、信頼できる周囲の者へ、『謀反後、しばし隠れるが、機会を伺い、捲土重来するので安心するように。』と伝えた。

 

既に人質として、娘と乳母は尾張に到着するよう手配済みである。(実は、良晴が尾張を発つのとほぼ同時期に尾張に着いた。)

 

このことまでは書状で良晴も知っていた。

 

今回は、いつ城を抜け出させて尾張へ落ちのびさせるかの日程のすり合わせに来たのだが・・・

 

「前野、一つ教えてくれ。何でお前の後ろに道三がいるんだ。」

 

そう、何故か道三が彼の後ろにいた。虚無僧の格好をしてはいるものの、こんな濃いオヤジ、何人もいるはずがない。

 

というか、いたら困る。

 

だが、なぜ道三はここに居るんだ?良晴は再度、首をひねる。

 

前回の手紙には『反乱がおきてもいないのに落ち延びるというのも義父殿の名前に傷がつくでしょうから、乱波を用いて乱が起きるギリギリ前に尾張に逃がします。』って書いたはずなんだが。

 

「ふん、この『蝮』が、今さら敵前逃亡の汚名ごときでオタオタするわけなかろう。それに、どうせ逃げるなら、少しでも信奈ちゃんの助けになるように今川戦の前に尾張に着いた方がいいじゃろ」

 

ドヤ顔で人のプランぶち壊しおったぞこのおっさん。

 

流石(?)道三、相変わらず読めない人である。

 

まあ、確かに早ければ早いほど危険度はただ下がりするので良い面もあるのだが。

 

「確かに助かるが良いのか。自国の奴らを放っておいて。」

 

「ああ、儂についとる奴は、この程度の無茶は慣れっこじゃし、義龍についた奴らは元々隙あらば寝首かこうと狙ってた者ばかりだからどうせ評価は『最悪』から動かん。」

 

こちらの心配もばっさり切られた。というか評価『最悪』っておい。

 

「自分が言うのも何だが、よく今まで生き残れたな。」

 

冷や汗をかきながら良晴は道三にそう返す。 機会があれば毒殺とか怖くなかったのか?と道三に問うてみたかった。

 

信奈といい道三といい、ここまで周囲に敵を作りながら気にしないでいられるのはある意味すごい事である。

 

こういった平常心は、訓練すれば出来る類のものでは無いので、正直、良晴としては少し羨ましくもあった。

 

良晴はわりと小市民なので、そういった考えにはなかなか至れないのだ。

 

まあ、はたから見ると、良晴も一度覚悟を決めると周囲の物事を彼ら以上に気にしなくなるので、変わっている度合いはどっこいどっこいなのであるが。

 

さて、そんな事よりも今は道三の処遇である。

 

流石に馬を休ませる時間も必要であるし、往復にかかる時間も考えると、正直、半兵衛に会うことと道三をすぐに送ることを両立するのは難しい。

 

しかし、放置も出来ないためその意向を聞いてみると、流石は道三と言うべきか、既に変装用の衣装と馬を用意しており、明日の明け方には尾張に到着できるよう算段も整えていた。

 

・・・『じゃ、また尾張で会おうぞ!』と元気に手を上げて言った道三に、良晴がいらっと来たのは秘密である。

 

基本的に無駄な危険や面倒を避ける良晴にしてみれば、今回の道三のドッキリ行動は本当に勘弁してほしかった。

 

しかし、やってしまったものはしょうがない。

 

とりあえず、護衛として前野をつけ、最悪狼煙をあげて近隣に散った仲間達を呼ぶように命じて二人と別れた。

 

そしてその後、半兵衛への推薦状を握りしめながら、良晴はため息をつきつつ領主の家に向かった。

 

今日はやけ酒でも入れてさっさと寝ようと心に決めて。

 

                        ※※※

 

翌日、日が昇る前に起床した良晴は、数羽の小鳥が見守る中、半兵衛と会うまでの時間を鍛練に使っていた。

 

腰から抜いた二本の刀を流れるように振るい、次々と仮想敵の攻勢をいなし、その防御を崩し、相手の急所を切り払う。

 

一つ間違えば妄想に成り下がるこの一人稽古は、何十年に及ぶ彼の努力と経験の果てに実を結ぶ。

 

想像した敵兵を数百斬ったころには既に日は昇り始めていた。

 

しばし息を整え、二つの刀を納める。

 

その後、井戸から水を汲み幾分かを飲んだ後、己の体に勢いよくかけていると、クロがよってきた。

 

「朝からよくやるね。」

 

「最近、金儲けに傾倒しすぎてな。今川との戦も近い。ここで気を引き締めんと危険だろう。」

 

あきれ顔のクロの問いに頷きで返す。

 

疲弊した相手に奇襲するといっても、相手方の兵力が圧倒的に多い。

 

『一度勝ったから次も勝てるだろう。』等の油断をするつもりは毛頭なかった。

 

だからこそ、桶狭間の勝率を上げるために、半兵衛を仲間に迎えることにここまで必死に動いているのである。

 

「呆れた用心深さだねえ。まあ、熱意は痛いほど伝わったと思うよ。」

 

小鳥を横目に(・・・・・・) 呟くように口にされた言葉を背に、良晴は一言だけ言葉を添えた。

 

「守るべき民から取りあげた兵士達を、無事に家族の元へ返してあげたいだけさ。」

 

祈るような口調で口にしたその言葉を終えると、良晴は素早く服を整え始めた。行く先は一つ、半兵衛の待つ、領主の館。

 

一方その頃、半兵衛は部屋の中央に座り、ふぅふぅと息を整えていた。先ほど前鬼が化けた小鳥を通して見た、相良良晴という男の在り方が、ひどくその胸を騒がせたからである。

 

数日前、国主である道三の命をうけ、伯父である安藤伊賀守がしぶしぶ領主の館へ半兵衛を呼び寄せた時から、半兵衛は密かに式神を用いて、自分に会いたいという『相良良晴』という男の人となりを観察していた。

 

彼女は臆病ではあるが、心の芯は強く、又、無力ではない。

 

もし己の知謀と式神という戦力を自身の出世に使うような男ならば、会う前に前鬼に命じて、追い払うつもりであった。

 

だが、彼は違った。

 

短い間であっても、日頃の行動を見ればわかる。

 

馬を宿の小屋に繋いだ後、感謝の言葉と共にその頭をひと撫でし、わざわざ上質な干し草を買い与え飲み水を井戸に汲みに行く彼の顔には笑みがあった。

 

『まむし』と呼ばれた男を正面から叱り、そして苦笑しながら許す暖かな後ろ姿を見た。

 

そして、素人目からも隔絶した武術を修めた事が分かる剣舞を舞いながら、驕ることなくただ祈るように兵を案じる呟きを聞いた。

 

正面から顔をあわせた事すらない男に、半兵衛の心は奪われていた。

 

約束の刻限までの時間が、ひどく長く感じた。

 

約束の刻限通りに良晴が領主の門をくぐると、扉の中から慌てるように近づいてくる足音と、静止するように後から続く声。

 

案内役がまごついているのを尻目に良晴が自ら扉を開けると、そこには息を切らせながら草履を引っかけて飛び出さんとする、可憐な少女が一人。

 

この世界で、二人は又、出会った。

 

暫しの沈黙の後、良晴が口を開く。

 

「初めまして、相良良晴と申します。美濃国主、斎藤道三の推挙の元、貴女に会いに来ました。竹中半兵衛殿。」

 

「遠路はるばる御苦労様です。竹中半兵衛と申します。す、すぐにお部屋に案内致します。」

 

「余り気を遣って頂かなくて結構ですよ。」

 

緊張で途切れとぎれになった半兵衛の言葉に、良晴はそう返した。

 

互いに紹介を終えた後、案内された部屋でお茶を頂いた良晴は、前置きをせずに本題に入った。

 

「いきなりで恐縮ですが、私の願いは半兵衛殿には伝わっていると考えてよろしいか?」

 

「はい。」

 

その返答を受けた後、良晴は懐から静かに書簡を取りだし、半兵衛の手前までそれを滑らせた。

 

半兵衛は丁寧に書の中身を確認すると、顔をあげて口を開いた。

 

「一つだけ、問わせて下さい。」

 

「なんでも。」

 

「貴方は、私の何が欲しいのですか?」

 

式神使いとしての『戦力』が欲しいのか、軍師としての『知略』を欲するのか。正解の無い質問。その難問に対して、良晴は淀みなく、一言を返した。

 

「もし許されるなら、あらゆる全てを。」

 

まるで子供のような返答。しかし、半兵衛は、その返答に不満を感じなかった。

 

「解りました。」

 

聡明な彼女は気づいていた。その言葉は返答に窮して返したのでは無く、彼は彼を慕う者たち全てに対しそういう形、『全てを背負う』形でしか相手を思う事ができない、彼の不器用な人への愛情から来るものであると。貴方の清濁併せ全部呑んでやるという、覚悟の言葉であると。

 

「分かっていますか?その生き方はこの時代では・・・」

 

そして、そのような在り方を続けるのはこの戦国では余りに難しかった。そのように生きる彼は、愛する人はもとより、恐らく自分を信じて仕官した兵士一人一人に至るまで彼は大切に扱い、その死や負傷の責任を自ら背負うだろう。その苦しみはこの先、戦場で突き立てられる幾千の刃よりも良晴の心を傷つけ、その傷痕は生涯貴方を苛むだろう、この国が平和になり死んだ者達に胸を晴れるようになっても続くかもしれない。だが、その言葉を続けるより先に。

 

「大丈夫です。それに、自分自身に誓ったんだ。この日本はきっと救える。救ってみせると。」

 

それを理解したうえで、照れくさそうに理想を、願いを口にする一人の男の言葉が、その魂を揺さぶった。

 

「ふふっ。」

 

知らず笑みが浮かぶ。ああ、なんて悪い人(ひと)なんだろうか。

 

悪意も無く、人の胸から大切なものを奪ってゆく。

 

「良晴さん。」

 

「はい。」

 

緊張で声を硬くした彼に返答を返す。

 

「すぐに旅支度を整えて参ります。今から馬を走らせれば、今川軍攻めに私も参加出来ましょう。」

 

「そうか!本当にありがとう!」

 

「ふふ、今から私は貴方の部下です。畏まったりしないで下さい。」

 

まるで子供のように体全体で喜びを表す良晴に、半兵衛もにっこり笑顔で返す。

 

「ああ。分かった。でも本当にありがとうな。今川戦が終わったら、手紙に書いてある報酬以外でも払えるようにするから。」

 

「いえ、御気になさらず。一番欲しい報酬(・・・・・・・) は書かれていましたから。」

 

「へ?」

 

金銭関連以外、具体的な報酬内容を聞かされていない良晴が首をひねっているのを横目に、半兵衛は早速、全て受け入れるという約束(・・・・・・・・・・・・)を守ってもらう事にした。

 

「良晴さん。例えば(・・・) 、もし私が貴方の妻になりたいと答えたらどうしますか。」

 

「故あって側室という形で婚礼をする形になるが、それで良ければ喜んでって答えるかな。」

 

即答したその言葉に半兵衛はうんうんと一人頷くと、立ち上がり良晴の横まで歩くと、手紙を広げて見せた。

 

「末永くよろしくお願い致しますね。あなた(・・・) 。」

 

その手紙の内容と言葉を受けた良晴は、口をあんぐり開けて、ただただ驚愕するしかなかったという。

 

(第十六話 了)

 

以下レス返し

 

sorano様⇒まあ、困ったら「ながえもーん」が織田幼馴染連盟の基本ですから。半兵衛との仲については次話参照で。

 

刀戯様⇒そうですね、ネタばれになってしまうので今川戦について詳しく話せませんが、とりあえず今川軍の予想している『織田軍』とはだいぶ上のほうに乖離してます。

 

イッテツ様⇒長秀さんは貴重な文武両道キャラ。僕も好きですんで早く活躍させてあげたいとオモイマス。

 

甘露様⇒とりあえず『ロリコンの軍勢』に認められなければならないというのがネックですね(汗)

 

フォルトゥナ様⇒それでもやってしまうのが勝家クオリティ(笑)長秀さんの作戦の成功の可否は次話で。


 
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