No.480842

とーたく酔いどれ太平記 第二回 『色々すっ飛ばしてみた』

酔いどれ太平記、第二回をお送りします。
サブタイトル通りの内容で、ちょっとアレかも知れませんが……感想などありましたら是非に。
ではでは。

2012-09-07 11:07:06 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1400   閲覧ユーザー数:1246

✝✝✝ とーたく酔いどれ太平記 第二回 『色々すっ飛ばしてみた』✝✝✝

 

【とてもいい加減な登場人物紹介】

 

 北郷一刀……

 聖フランチェスカ学園に通う普通の高校生――のはずだったが、気付いたら「三国時代の中国みたいな異世界」に飛ばされてた黒髪の青年。

 

 董卓……

 字は仲穎、真名は月。領内に落ちた流星の調査へ向かった先で一刀を拾い、何かと世話を焼いている。たまに「へぅ」と鳴く。

 

 賈駆……

 字は文和、真名は詠。月とともに一刀を見つけたが、最初死体だと思い埋めようとした。たまにとても運が悪い。

 

 董卓軍兵士……たくさんいる。「姓は茂、名は武」な集合体。

 

 羌の男たち……いっぱいいる。頭目の一人に率いられ、董家領内に侵攻してきた……のだが。

 ※羌族……へぅ、私の領地がある涼州隴西郡の西側で暮らしている方々です。史実でもだいたいそんな感じなはずの騎馬民族さん。へぅへぅ。 by.月 

 ✝✝✝

 

「第一回! 『羌ばーさす董卓軍、天下一品飲み倒れ大会』ぃーーっ!!」

 

 どんどんぱふぱふー!

 

「わぁわぁ! 詠ちゃん、かっこいいー!」

 

 ぱちぱちぱちぱちっ!

 

「……いや、ちょっと。何事だよ、これ?」

 

 天幕に入るなり、その場の異様なテンションに当てられた北郷一刀が若干腰を引く。

 彼の目にまず入ったのは、仁王立ちで何か高らかに宣言している眼鏡っ娘――賈駆こと、詠。

 そして、そんな彼女の傍らで、黄色い声を上げるもう一人の少女――董卓こと、月――だった。

 二人とも片手に酒杯を持ち、目元がほんのり赤く染まっている。

 

『うおおおおーーーっ! 羌なんかに、負けねぇぞぉーーー!!』

『なにをーぅ! 漢人風情が、我らに勝てると思うなよぉーーー!!』

 

 続いて巻き起こったのは、月と詠を囲むように車座を組んでいる男たちの、野太い叫びの嵐。

 怒号とも歓声とも、彼には判別することが出来なかった。

 しかしただ一つだけ、はっきりしているのは。

 

 ――こいつら、全員酔っ払いじゃないか。

「では、第一試合! 羌族代表――そこのアンタ!」

『よっしゃ! 任せぃ!』

 

 状況に追い付けず、一刀が棒立ちでぼんやりしている間にも、詠による試合(?)の進行は続いていた。

 おそらく適当に指名されたと思われる髭面の男が、自分の杯を置いて立ち上がり、円の中央へ進み出る。

 

「はい、どうぞ。こぼさないように、気をつけてくださいね」

『おお! 董卓殿の酒とあっては、一滴とて無駄にできませんなぁ! ……さぁて、どこにおるのかのぉ? 羌一の酒豪と謳われるこのワシに挑む命知らずは?』

 

 男は月から杯を渡されると上機嫌に笑い、芝居がかった仕草で周囲を睨んだ。

 すでに出来上がっているのか、髭からのぞくその顔は相当赤いが、口調や足取りはしっかりしている。

 羌一、か否かはともかくとして、酒豪であるのは間違いないらしい。

 その証拠に、『こいつを選ぶとは、董の軍師殿も運がない! 我らの勝利は決まりだな! わははっ』のような声が羌の男たちから上がった。

 

「運が、ない? ……ふふふ、言ってくれるじゃない」

 

 そして、そこに含まれていたフレーズに、深謀遠慮の董家筆頭軍師・詠がぴくっと片眉を動かし、小さくつぶやく。

 

『ひぃっ!?』

 

 瞬間、それに気づいた董卓軍の兵士たちが、酔いを忘れたように息を飲む。

 

 ――我らが軍師さまは、ときおり異常な不運に見舞われることを、ひどく、それはもう大変気にしておられる。

 

 ということを熟知している彼らにとって、詠の前で「運が悪い」とか「ついてない」とか言うのは、自刃に等しい行為なのだ。

 おもに、八つ当たりされちゃうぞ、的な意味で。

 

「……あーあ」

 

 そんな一連の流れを眺めていた一刀がため息をつく。

 彼もまた、詠の超絶不運に関しては、まだそう長くはない付き合いながら一家言ある。

 だいたい一月に一度の割合で起こるそれに、彼はこれまでに二度ほど、巻き込まれていた。

 

 ――ん? て、ことは、俺がこの世界に来てから、もう二ヶ月なのか。いや、むしろ「まだ」って感じも……。

 

 などと、感慨に耽りかけた彼だが、ふと視線を感じ、顔をそちらに向けた――否。

 向けてしまった、と言った方が良いだろう。

 

 その先にニヤリと、「ボク今、策謀巡らせてます」って感じの軍師様がいたのだから。

 

「こほん。それじゃあ、我が董卓軍の代表は……涼州に降り立った『天の御遣い』北郷一刀さまよっ!」

『『おおおっっ!』』

 

 詠がわざとらしく、大仰に一刀の名を告げ、同時に両軍の兵たちからはどよめきの声。

 なぜ一刀が「天の御遣い」なんていう、胡散臭くも恥ずかしい名称で呼ばれているのかは、ここでは触れないし触れる必要もないだろう。

 ただ確かなのは、この状況から逃げ出す術を彼が持っていないということだけである。

 

「は、ははは。えー、ご紹介に預かりました北郷一刀です。まぁその……ヨロシク」

 

 何食わぬ顔の――しかし良くみれば今にも笑いだしそうに口角をぷるぷるさせている――詠に恨めし気な視線を送りつつ、いつの間にか円陣の一ヶ所に出来ていた道を通り中央へと進んだ一刀が挨拶する。

 再びの歓声の中、張り付けたような笑みを浮かべながらこの窮地(?)をいかに脱するか彼が思案していると、

 

「へぅ。一刀さん……」

 

 横合いから小さな声がかかった。

 

「月ぇ……」

 

 短く名を呼んだ一刀の心情は、その弱々しい口調から察するに余りある。

 しかしこの時、彼には一縷の望みも見えた。

 

 ――心優しいこの娘なら、俺を助けてくれるんじゃないか?

「一刀さん。……はい、お酒ですっ。応援しているので、がんばってくださいっ! へぅ!」

 

 まぁ結果、世の中こんなもんであるのだが。

 

「ああっ、もうわかったよ! やってやるさ、やってるやるともさっ、やれば良いんだろうこんちきしょー!?」

 

 半泣きで受け取った杯をかかげ、自棄になったごとく叫ぶ。

 そしてなぜか瞳をキラキラさせている月と、何か気に障ることでもあったのか急に不機嫌な顔になった詠の視線を感じながら、トロトロした舌触りの良い液体を胃の腑に流し込んだ。

 それを開始の合図として、対戦相手もやおら杯を呷り始める。

 

 ――おお、これ良い酒じゃん! っと、まぁそれは置いといて。だいたい、なんでこんなことになってんだ? だって確か――

 

 いっそう大きくなったヤジ混じりの歓声と、喉をするりと通り胃に落ちた酒が自分の体を熱くするのを頭の片隅で意識しつつ、彼の記憶は数日前へと遡っていた。

 

 ~第三回へ続く

 

 


 
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