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真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第34話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2012-08-30 21:14:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3970   閲覧ユーザー数:3497

真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第34話]

 

 

たいした事には成らないと、そう高を(くく)っていた時分もありました。

目の前に居る人物と応対しながら、ボクは救援に(おもむ)かせる時に周泰へ軍勢の牙紋旗の確認をしなかった自分の迂闊(うかつ)さを()いずには居られません。

だって。

怨敵退散。不倶戴天(ふぐたいてん)

ボクが出会いたく無い人物ナンバーワン。

そんな疫病神的な人物と出会ってしまって居たからでした。

 

 

「初めまして! 私の姓名は劉備。(あざな)は玄徳です♪」

「えっ……? 劉……玄徳? ……え?」

 

ボクは何を言って良いか分からず、ただ呆然(ぼうぜん)として確認する言葉を話すしかありませんでした。

 

(なんで?! なんで劉玄徳が此処(ここ)にいるの?! 報告書に彼女の記載は無かったよね?!)

 

ボクは何とか顔の表情には出さないで済んでいたのですが、心の内では疑問が飛び交って少し恐慌をきたしていました。

心の準備が出来ていない状態で、劉備に突発的に遭遇してしまったからです。

 

 

 

何故に今現在こんな事態に(おちい)っているのかと云うと、賊に襲われていた官軍は趙雲たちの知り合いが率いていた軍勢だったからなのです。

その知り合いの人物が、自身の軍勢を(ともな)って華陽軍の陣営近くに来た時に謝辞を述べたいとの意向を示したので、ボクは自分用の天幕内で応対する事にしました。

客人の為の席を用意した後、天幕内に入室して貰って会談を始めます。

従者2人を引き連れて来た人物を見た時のボクの第一印象は、人を惹きつけて止まない桃の花のような可憐な女性であると感想を抱きました。

どんな境遇・身分であったとしても、生まれ持った品性は(けが)さられる事は無いと思わせるような存在感。

曹操も一角の存在感と魅力を持っていましたが、目の前に居る人物もそれに見劣りする事はありませんでした。

もっとも、魅力の性質は水と油のように随分と掛け離れているようです。

曹操は覇気と才覚を持って人を魅了するのに対し、目の前の人物は優しい包容力で人をその気にさせると云った感じを受けたからでした。

 

客人が席に着いた事を確認した後、ボクは(あなど)る事なく応対する為に(みずか)ら名乗ろうと思います。

しかし、それよりも早く女性の方から名乗りを上げられてしまいました。

でもボクは、その女性の名前を聞いた時に頭が真っ白になって、何を言われたのか理解出来ません。

だって、ボクの記憶の中の一番奥底に閉まってあった名前だったからです。

ええっ、そりゃあもう。これでもかってくらいに底の底に閉まってあったんですよ。

その後、何を言われたのかを理解するに至ってきて、身体から冷や汗が流れ出して止まらなく成ってきました。

そうしてボクは、どう対処したものかと無い知恵(しぼ)って応対せざるを得なく成ったのです。

 

 

 

「はい、そうです! あなたは劉季玉ちゃんだよね? 曹孟徳さんが言っていた通り、優しそうな人で良かったぁ~♪」

 

劉備はボクの名前を知って居たらしくて確認してきました。

しかし、ボクは自分が『ちゃん』付けで呼ばれた事よりも、彼女が曹操の名前を持ち出して来た事に疑問を抱きます。

 

「え~と、玄徳さん? 孟徳が言っていた通りって、どういう事なのかな?」

「え? どういう事って?」

「いや……。なんで、孟徳の名前が出て来るのか疑問に思ったんだけど?」

「ああっ! それはですね。季玉ちゃんの事を孟徳さんに聞いたからだよ? 季玉ちゃんなら私達を助けてくれるかもって」

 

ボクの言っている事が理解出来たと云わんばかりに、劉備は両手を自身の胸の前で合わせながら返答してきました。

彼女の答えを聞いてボクは絶句して仕舞います。

今現在の状況を創り出してくれた原因が、曹操にあると聞かされたからでした。

 

曹操さん。貴女は何て事をしてくれるのでしょうか? 

()りにも()って、劉備をボクの所に寄越してくれるなんて。

人のイヤがる事を御見舞いしてくれる事にかけて、本当に君の右に出る者は居ないですね。

ボクは心の中でサメザメと泣きながら、この場に居ない曹操に文句を言わずには居られませんでした。(号泣)

そして同時に、ボクは心の内で決心します。

これから曹操の事を『イジワル大魔王』改め『イジワル大魔神』に昇格させて呼んでやるからな! と。

 

 

「あっ、そうだ! まずは御礼しなきゃね。危ない所を助けてくれて、ありがとう御座います。おかげで助かりました」

 

ボクが内心で曹操に悪態をついていると、劉備は頭を下げて感謝の意を示してきました。

 

「あー、うん。……大事に至らなくて良かったね?」

「はい!」

 

ボクは何とか気を取り直して、当たり障りのない言葉を返します。

そんなボクの返答に劉備は、さも嬉しそうに微笑しながら元気一杯で答えてきました。

 

(うわっ……。なんでしょうか? この天真爛漫(てんしんらんまん)さ。本当にボクの苦手とする人物みたいですね)

 

ボクは、何でも良いように解釈してしまう劉備の性質に苦手意識を持ちました。

だって。この手の性質の人って、たいがい自分の意見を曲げずに突き進むからです。

そして最後には、自分の意見を相手に受け入れさせるような結果を出してしまう。

そんな経験則から導き出された(ろく)でも無い考えに、ボクは更にゲンナリせざるを得なくなりました。

 

「……それで、孟徳から聞いた話って何なのかな? さきほどは助けが欲しいとも言っていたみたいだけど」

 

ボクは何とか気を取り直して、ササッと会談を終わらせるべく劉備に要件は何なのかを問いました。

劉備と別れて行動出来るのなら、たいがいの事は聞こうと思いながら。

 

「あっ、そうでした。季玉ちゃん、私達に食べ物を下さい!」

「……はい?」

 

ボクの質問を聞いて要件を思い出したのか、劉備は自分の希望を述べてきます。

しかし、予想の斜め横を行く彼女の要請に、ボクは目を丸くしてしまいました。

ボクの後方に控えている華陽軍の将軍たちも、初対面の人物に対して食料の無心と聞いて絶句しています。

天幕内の会談の場に、何とも言えない微妙な雰囲気が(ただよ)い出してきました。

 

「桃香さま、それでは言葉が少な過ぎます。事情をお話ししてからでないと先方に伝わりません」

 

居た堪れなくなったのか、劉備の従者の一人である長身の黒髪の女性が苦言を(てい)してきました。

 

「えぇー。そうかなぁー? 先生は、要件を切り出す時は手短に簡潔な方が良いって教えてくれたよー?」

 

劉備は口を(とが)らせながら黒髪の女性に文句を言いました。

 

「そのお言葉は、ご(もっと)もで御座います。ですが、ものごとには順序が御座います。いかに同じ劉姓でお優しいと評判の方とは申しましても、初対面の方に事情も話さずに糧食の無心をしましては桃香様の器量が問われてしまうのです」

 

黒髪の女性は劉備の返答を受けて、それを否定せずに(なお)も苦言を呈してきました。

なかなか見事な家庭教師ぶりだなと、ボクは感心してしまいます。

 

「そうなのだ。お姉ちゃんは(あわ)てん坊さんなのだー」

 

もう一人の赤髪の小さい従者の方も、同意を示すように揶揄(から)ってきました。

 

「うぅぅ。2人とも(ひど)いよぉ」

 

劉備は打ち(ひし)がれて、うな()れてしまいました。

このままでは(らち)が明かないと思って、ボクは黒髪の長身の女性に詳細を確認していく事にします。

 

「あー。申し訳ないけどさ。君から詳細を話して貰えないかな?」

「え?! はっ、はい!」

 

ボクの問いかけに黒髪の女性は、直立して少し緊張しながら詳細を話してくれました。

彼女の話しによると、3人は弱き者たちを助ける為に諸国を巡っていたが、世の乱れが増してきて個人では対処しきれない事に力不足を感じていったそうなのです。

黄巾党などの集団的な悪党を懲らしめる為に、義勇軍を結成しようと云う話しに成ったが先立つ資金が無い。

そこで、劉備の旧知である公孫瓚(こうそんさん)を頼って行ったところ、ちょうど兵を率いて賊徒討伐する為の将軍を募集していたので助力した。

その時の功績と公孫瓚の義峡心で資金援助を受けて義勇軍を結成。

義勇軍を率いて幽州と冀州の各地で転戦して行ったが、今度は軍を維持する為に糧食を必要する事に気が付く。

伝え聞く冀州で賊徒討伐を行なって居た盧植将軍は、劉備の師匠にあたる旧知の人物だから傭兵として働く事で糧食を都合して貰おうと考える。

冀州に(おもむ)いて盧植将軍と合流したので、暫くは順風満帆に賊徒征伐を行なっていた。

しかし今度は、盧植将軍が更迭されてしまって後任の董卓将軍は傭兵を不要としてお役御免になってしまう。

暫くは盧植将軍が先渡ししてくれていた糧食で持ちこたえていたが、それが乏しくなってきた時に公孫瓚軍と合流出来て何とか事なきを得る。

事情を話して傭兵として働く事を了承して貰ったが、公孫瓚軍の(ふところ)事情も良好という訳でも無い。

他に助力を頼めそうな人物を探している時に、曹操という人物が率いている軍勢と出会ったので交渉を試みる。

会談場にて曹操は劉備の為人(ひととなり)を確認してから、『いずれ冀州に赴いて来る華陽軍を率いている人物は、賊徒すらも捕虜にして助けているわ。その人は貴女と同じ劉姓。だから私より、その人物を頼った方が良いのじゃないかしら?』と告げてきた。

黄巾党が跋扈(ばっこ)している状況の今の冀州にて、劉備の義勇軍単独で華陽軍を探すのは危険だと言って公孫瓚軍が同行してくれたが、不覚にも不意を突かれて賊の奇襲を受けてしまった。

しかし運良く旧知の趙雲たちの軍勢に助けてもらい、しかも探している華陽軍に在籍している事を聞いたので会談を申し込んだと云う事らしい。

 

 

(運が良いのか悪いのか……。理解に苦しむ波乱万丈(はらんばんじょう)な詳細説明でしたねぇ。しかし、なるほど……。傭兵として他の軍勢の旗下に収まっていたから、諸侯の動向を調べた報告書に彼女の記載が無かったのかもしれませんねぇ)

 

ボクは黒髪の女性の話しを聞いて劉備の辿(たど)って来た経緯に半ば呆れた感想を抱き、龐統(ほうとう)作成の報告書に記載が無かった事への疑問が氷解していきました。

しかし、まさに『人間(じんかん)万事塞翁が馬』的な人生ですね。

劉備たちが今迄どうにかやってこれている事が、ボクは単純に凄いなと思いました。

普通だったら、糧食が無ければ軍なんて直ぐに霧散してしまうからです。

それを為せる力こそが、劉備の真骨頂なのでしょう。

天からの助勢を得られるほどの魅力。

世間一般的に人は、それを運が良いという。

 

 

「そう……。ありがとう、色々と説明してくれて。随分と大変だったみたいだね?」

 

ボクは労いの言葉を黒髪の女性に告げました。

それを受けて彼女は、是非も無しと返答してきます。

長々と説明を受けた御蔭で、ボクは大分落ち着きを取り戻していきました。

 

「あー。そう言えば、ボクは名乗っていなかったよね? ボクの姓名は劉璋。字は季玉。益州牧と華陽王をやっているよ」

 

落ち着いた為なのか、ボクは自分が名乗っていなかった事に気付いて劉備一行に姓名・字・役職などを正式に告げました。

 

「「えぇぇっ?!」」

 

ボクが自分の事を告げると、劉備と黒髪の女性が瞳を大きく開けて声を荒だててきました。

赤髪の小さい従者は、キョトンとしています。

 

「え? なに? 何を、そんなに驚いているの?」

 

2人が何を驚いているのか分からず、ボクは自身の疑問を問い掛けました。

 

「だって季玉ちゃん、王様なんだよね? 私、そんなこと知らなかったよー」

「そうです。孟徳殿の話しでは、奇特な慈善家であるとしか聞いていなかったものですから」

 

劉備と黒髪の女性は、それぞれが驚いた理由を話してくれました。

どうやら曹操は、2人にボクの事を詳しく話していなかったみたいです。

ボクには底意地の悪い微笑を浮かべる曹操が見えてくるようでした。

 

「どうしよう? 愛紗ちゃん。私、無礼を働いちゃったかなぁ?」

「……いきなり『ちゃん』付けで呼んで居られました。否定できません」

「ええぇ?! 否定してくれないのぉ?!」

 

真剣な顔持ちで劉備と黒髪の女性は、なにやら漫才のような問答を始めました。

このまま聞いているのも面白いと思いましたが、話しが進まないので口を(はさ)む事にします。

 

「あー、2人とも? 公式の場では無いんだから、気にしなくて良いよ? 別に (とが)めたりしないから安心して」

 

ボクがそう告げると、2人は合わせたように問答をピタリッと止めてしまいました。

なかなか息の合ったコンビネーションです。

 

「本当?」

「うん、本当」

「よかったぁー。やっぱり季玉ちゃん、優しい人だぁー」

「ははは……」

 

劉備はボクの返答を確認して安心したみたいでした。

しかし、ボクの素性を知っても尚『ちゃん』付けで呼ぶ事は止めないんですかね? 彼女は。

なかなかマイペースな御人のようです。

ある意味において感心してしまい、ボクは(かわ)いた笑いをするしかありませんでした。

 

「申し遅れました。私の姓は関。名を羽。字は雲長です。今迄の無礼の言、お許し下さい」

 

黒髪の女性が、おもむろに自己紹介を始めました。

咎められない事を確認して安心したところで、自身が名乗っていない事に気が付いたみたいです。

ボクは彼女の姓名を聞いて、『げ?! 関羽?!』と内心で驚いてしまいました。

劉備が居るのですから、関羽が(かたわ)らに居ても可笑しくは無い。

その事実にボク自身が気付いていなかったからです。

 

「鈴々は張飛! 字は翼徳なのだー」

 

関羽が自己紹介をした後、もう一人の赤髪の小さい従者が名乗ってきました。

劉備・関羽と続いたのです。やっぱり、張飛さんも居ますよね。

ボクは疫病神的三人衆の自己紹介を受けて、やっぱり関わりたく無いなと云う思いを抱きました。

 

「あー。それでね? 玄徳の要望だけれど。どうだろうか? 君たちの義勇軍の将兵たちはボクが引き受けるから、君たちは元の生活に戻ってみたら? 軍勢同士の事はボクたちに任せて、君たちは取りこぼしているかも知れない個人を助けて欲しいって思うんだ。

 どうかな?」

 

ボクは(もっと)もらしい理由を告げて、劉備たちから離れる事を画策(かくさく)しました。

 

「そんなぁー! 季玉ちゃん、食べ物くれないのぉ?!」

 

ボクが要請を断るとは思って居なかった劉備は声を荒だてて問い掛けてきました。

 

「だってさ。今は良いよ? 傭兵として働いて糧食を得られるんだからさ。でも反乱が納まった後は、どうするの? 君たちでは将兵を養っていけないよね? 遅かれ早かれ義勇軍は解散するしかないのなら、いまここで解散しても可笑しくは無いと思うんだけど?」

 

ボクは更に劉備を煙に巻く発言を告げました。

 

「でもでも。私達は力があるからって好き放題暴れまくっている、人の事を考えないケダモノみたいな奴らを懲らしめる為に―」

「うん。それは先ほど雲長の説明を受けて了承している。だからさ。君たちには民に近い立ち位置で、それを為して欲しいんだ」

 

劉備は熱意がヒートアップしてきているのか、席から立ち上がってボクの方ににじり寄って熱弁を奮ってきます。

ボクはそんな彼女を冷静に受け止め、自分の思いを淡々と告げていきました。

ここで退いてしまっては、劉備と共に広宗に行かなければイケなくなるからです。

 

「でも、せっかく兵隊さんが私達の呼びかけに集まってくれたのにぃ~」

 

劉備は尚も諦めきれないようにボクに迫ってきました。

ボクと彼女の距離が物凄く近くなって来ます。

どれくらい近いかって?

ボクの目前に劉備のたわわに実った桃の実が二房、ユラユラと揺れて芳香が()げるくらいの距離ですよ。

 

「やっぱり諦めきれない! 季玉ちゃん、お願いします! 雇って下さい!」

 

劉備はボクに頭を下げて懇願してきました。

ボクはそれに負ける事なく、彼女に告げます。

 

「ダメ」

 

ここは非情に徹して、心を鬼にするボクでありました。

 

 

「ダメなの?」

「うん。ダメ」

「どうしても?」

「うん。どうしても」

 

劉備はボクの返答を聞いて頭を上げ、上目遣いで視線を合わせてきます。

その表情を見て、不覚にもちょっと可愛いかもって思ってしまいました。

しかし、劉備の近くに居たら、どうなるのか分かったものじゃない。

だからボクは、(かつ)ての基本方針通りに彼女と関わらない事にしました。

 

「季玉ちゃん、雇ってぇえー! おぉーねぇーがぁーいぃー!」

「うわっぷ?!」

 

劉備は、いきなり自身の胸にある二房(ふたふさ)の桃の実にボクの顔を抱きかかえてきました。

未来的記憶でいうならば、“ぱふぱふ”です。

ボクは彼女の奇行に対処出来ず、そのまま為されるがままに成ってしまいました。

 

「ちょっ?! うっぷ! はっ、離して?!」

「いぃーやぁーでぇーすぅー。雇ってくれるまで、離さないんだからぁー!」

 

ボクは何とか劉備から離れようとするのですが、彼女は尚も力強く桃の実をボクの顔に押し付けて離してくれません。

華陽軍の将軍たちや関羽たちも、どちらも呆気に取られて事態を静観していました。

女性の変な所を触ったら、世が世ならセクハラで訴えられてしまいます。

だからボクは、劉備の身体の何処(どこ)を触って良いか分からずに力を込められませんでした。

 

(あっ、なんでしょうか? 何やら気が遠くなってきましたよ?)

 

暫くしてボクは、息つぎが出来ずに苦しくなってきて次第に意識が遠のいて行きました。

どんどん身体に力が込められなく成ってきて、自身の両腕をダラーンと下げるといった具合です。

 

「刹那様?!」

 

いち早くボクの症状に気が付いた周泰が、遠くの方で驚きの声を上げているのが聞こえてきます。

しかし、口を(ふさ)がれて息苦しいボクには、それに答える事が出来ませんでした。

 

ボクは劉備が義勇軍を解散させないのなら、彼女に功績を立てさせて将兵たちの世話をさせるしかないと思いました。

でなければ、将兵たちの生活が(おびや)かされるからです。

劉備の事は別にしても、将兵たちには幸せに成って貰いたい。

だからボクは、劉備に関わらないと云う基本方針を極力関わらないと云う方針に変更せざるを得なかった。

やっぱり史実通り、彼女とかかわると(ろく)な事がありませんでしたね。

ボクにとって劉備と云う人物は、疫病神的な存在では無くて疫病神そのものだったみたいです。

 

劉備のたわわに実った芳醇(ほうじゅん)な香りを放つ二房の桃の実に顔を(うめ)込められながら、ボクは息苦しい為なのか次第に気持ち良くなってきて意識が(かす)んできました。

ボクは朦朧(もうろう)としてくる意識で思います。

 

 

 

これが本当の『桃源郷(とうげんきょう)』なのかな? と。

 


 
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