No.47732

⑥リーナさんライジング!! 第1話 最高のシ者

星野幸介さん

なんと約2年ぶりの新作です。
3話つながりの今回のお話で、
リーナお嬢様に隠された
秘密の核心に迫っていきます。
3月に加筆修正しました。

2008-12-20 21:11:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:793   閲覧ユーザー数:749

リーナさんライジング!! ~star regulations~ 

 

 第一話 最高のシ者

 

 浅草と秋葉原の電気街、それに横浜が混然一体となったような小さな街、名古屋の大須。

 大須といえばやっぱり電気街が有名だけど、食のことを忘れないというか、隠れた料理の

おいしい店というのが何件もあったりする。

 その中でもリーナお嬢様が幼少の頃、両親に連れられ通いつめていた喫茶店が、

派手な電気街の入口でひっそりと営業している。

 お店の名前はコンパル。

 喫茶店のメッカとして全国的に知られる名古屋でも老舗に入るお店で、工夫を

凝らしたコーヒーとボリューム満点のおいしいサンドイッチが納得のいく値段で

食べられるとあって常連客もたくさんいる。

 有名人の来店が多いことでも有名だ。

 そんなコンパルで五年前のある日、僕はリーナお嬢様と一緒にプティ様のおごりで

朝食をとっていた。

 

 ムシャムシャ……ボタボタボタ

 パクパク……ボタボタボタ

 むぅ~~、アグアグ……ボタボタボタ

 

「はしたないですよお嬢様。玉子の黄身やらキュウリをボタボタこぼしながら

サンドイッチパクつくのは」

「うっさいな~~ハルロー。ここのサンドイッチは具が大量にはさんであるから

パクつくと横からハミ出ちゃうのよ、しょうがないでしょ!」

 地毛の青い髪をツインテールに束ね、青い瞳がクリクリっとしたかわいい女の子が

ボヤく。

 八月八日に十一歳になったばかりのリーナお嬢様だ。

 さすがハーフの娘さんらしく、まだ背は低いものの、すでにトランジスタグラマーだ。

「ダメです。ぼくが手本を見せますから参考にして残りを食べてくださいね」

「ふぁ~~い。わかったよぉ」

メンドくさそうにブーたれ顔でにらむ、お嬢様にひるんじゃいけない。

 十一歳にして飛び級で中学一年生、名古屋のテレビ局で放送中の

〈ZAKUZAKU(ザクザク)〉というローカル番組の司会をこなしつつ、

その裏で探し屋稼業も続ける三つの顔を持つ天才お嬢様だけど、歴史上の天才のご多分に

漏れず、日常生活に欠けているというか、人間として軸がズレている所がある。

 そこは専属の家庭教師である僕が正しい方向へ導いてあげなくちゃダメだ。

「こういうときは、まず手近なナプキンのようなペーパーでサンドイッチを

包み込んで――って、あれ? ないじゃん!」

 僕がとまどっていると、にこやかにマスターが出てきて「ああ、ウチのサンドイッチは

ボリュームを楽しんでもらうため、そのままパクついて食べるのが仕様です」と

得意げに語った。

「ええっ、そんな……、このままでは……」

 ニタリと嬉しそうに笑いながら見つめるお嬢様がこ憎たらしい。

 手本を見せると言ったものの、出鼻をくじかれどうしょうかと迷う僕に、横で

やり取りを見ていたお嬢様のお母様のプティ様が助け舟を出してくれた。

 〈お母様〉と言っても小さな金髪のビスクドールみたいな愛らしい容姿は

お嬢様の幼い妹に見える。

「フフフ、二人とも困ってるみたいね。じゃあお母さんがサンドイッチの本場、

イギリス流の食べ方を教えてあげる!」

 ナイフとフォークで食べるつもりかな? なんか無粋な気がするけど……

 興味津々でプティ様を見つめる僕とリーナお嬢様。

 するとプティ様はニコニコしながら、サンドイッチを二つおもむろに

つかんだかと思うと、アゴをはずした犬のように、大口を空けて一度に口の中に

入れてしまった。

「ア~~グアグアグアグ……どう? 有名なシャーロックホームズもこうやって食べたのよ。

周りも散らかさないし」

 あっけにとられる僕とリーナお嬢様。

 プティ様の、豪快な食べっぷりに拍手するマスター。

 (さあ、あなたたちもお手本通りに食べて食べて\(^〇^)/ )というプティ様の

ワクワクな視線に、プティ様に弱い僕たちはお互いに顔を見合わせ、

渋々〈ホームズ喰い〉を始めた。

 ア~~グアグアグ……

 周りのお客さんたちの笑いまじりの視線が熱い。ていうか恥ずい。

 もう、どーにでもしてくださいと僕たちが開き直ってサンドイッチを

パクついてると、紺の執事服を着込んだ、スラリとした長身の二十歳前後に

見える若い女性が話しかけてきた。艶のある長い黒髪が印象的な、インドや

タイ系の人を思わせる美人だ。

「あの……、お楽しみのところ、申し訳ないんですが……」

「あ、ああ、ハイ、どちら様でしょう?」

口の中のサンドイッチを大急ぎでアイスコーヒーで流し込み応対する。

「サーチャー(探し屋)の安治江里那 (あんじえりな)さんに、お母様の

安治江・プライトニング・ティーナ様、家庭教師の木野晴郎様……ですね?」

「二十二で一児の母だけど、まだまだ〈ピチピチ〉のティーナでぇ~~っす!」

「里那って誰よ?」

「リーナお嬢様のことですよ」

「あれ? そうだっけ?? 愛称に慣れすぎて本名忘れてた(笑)」

 ボケたやりとりに苦笑した女性は、

「始めまして、わたくし十六夜真紀(いざよいまき)と申します。本日は

主(あるじ)の命により、探し物のお願いにあがりました」

 と挨拶して懐から名刺を三枚取り出すと、両手を添えて手馴れた仕草で

僕たちに配った。

「へぇーっ、すっごいなこの名刺!! めっちゃ高価な材料に恐ろしく精巧な

造りこみ!! 一枚二千万はしてるでしょ?

 使用人にこんなのホイホイ配らせるなんてあなたのご主人様ってどんな大金持ち?!」

 お嬢様が感心するだけあって、確かに凄い名刺だ。

 品良くコバルトブルーに熱処理されたチタン材とカーボンコンポジット材を

基調に、純度九十九・九九九九九九九九九九九%の超純鉄に純金、プラチナ、

高難度のカットを施したダイヤモンドを始め、その他ギラギラ眩しい高級高価な

最新素材や、希少な宝石がテンコモリで、その上に載る文字もただの印刷ではなく、

どう見ても材料から〈自然に滲み出た〉としか思えない特殊な技法で書きこまれている。

 ただ、僕が気になったのは名刺その物より内容の方だった。

 これだけの名刺を作らせる人が、記述を忘れるはずはないし、伏せる理由もない

はずだけど、どういうわけか〈十六夜真紀〉と書かれた使用人の名前以外、所属団体名、

住所、連絡先などの必須事項が一切見当たらないのだ。

 まるで〈そんなものに全く意味がない〉とでも言うように。

 普通こんなものを渡されれば胡散臭さを感じて、まず依頼主を警戒したくなるのが

普通なのに、どういうわけか僕にはそんなものは一切感じられず、むしろ依頼主の

恐ろしく気高く崇高な意思を名刺から感じた。

「名刺のことはあまりお気になさらないように。それでは探して頂きたい物の詳細を

お話したいと思います」

「どうぞ」

「実は今回里那さんに探して頂きたいのはヒエロニムス・マシンという機械です」

「ヒエロニムス・マシン?!」

「ええ。正確にはヒエロニムス氏が発明したヒエロニムス・マシンの原点になったと

思われる機械の在りかが、ある程度特定できたので、現地に行ってそれを

回収して頂きたいのです」

 ちなみにヒエロニムス・マシンっていうのは、アメリカの電気技師トーマス・ガレン・

ヒエロニムス氏が鉱物の成分検査のために開発したフリーエネルギー検出装置で、

実際にアメリカの特許庁に登録されているマトモな機械。

 見た目はプリズムが目立つ機械で正式名称は鉱物放射検知器。

 最初はただ、鉱物の成分検査に使用していただけだったのが、この機械が

使用者の操作能力(超能力?)に左右される点が非常に大きいのと、使用目的が

本来の目的からエスカレートし始めた頃からおかしなエピソードが続出し始める。

 有名なエピソードといえば一九六八年、ヒエロニムス氏はこの装置を使って

アポロ八号乗組員の健康診断を地上から行い、後にNASAが発表したデータと

ほとんど同じ数値をはじき出したとか、数千キロ離れた農園の害虫をこの機械

から写真を通して駆除したとか、構成部品をだんだんと省いていき、省いた部品の

部品記号は紙に書くというのを繰り返していくうちに、しまいには紙に書いた配線図だけで

電源もなしに動いた……などがあるけど、そのどれもが、あまりにウソっぽいため、

今ではすっかりオカルトインチキ機械として世間に認知されてしまっている。

 L字型に折り曲げたハリガネを二本持って、地面の下の捜し物をするときに

使う〈ダウジング〉の親戚みたいなものかな。

 最も、ダウジングはアメリカ海兵隊に地雷探査で使われたり、日本でも昔、

古い水道管などを見つけるときに使われた実績のある技術なので、

こちらの方が信憑性は高いだろうけど。

 ダウジングといえばリーナお嬢様も得意で、発見困難な探し物をよく見つけている。

「一八七二年に乗組員失踪事件があったマリー・セレスト号という船舶と同名の

大型クルーザーがつい先月、バミューダ海域で行方不明になりました。

そのクルーザーにヒエロニムス・マシンオリジナルとでも呼ぶべき機械が

積まれていた事が判り、主(あるじ)がそれを非常に欲しているのです」

「フ~~ン、それにしても変なもの欲しがるのね、あなたのご主人様」

「人の趣味は十人十色ということで……」ニコリと微笑む十六夜さん。

「現在、主(あるじ)は床に伏せっておりまして、あまり時間が残されておりませんので

この件を引き受けるかどうかはこの場で即決してください。もしお引き受け願えるので

あれば、必要経費は全額こちらで負担の上、前金としてまず八百万、本日中に

指定口座へ振り込ませて戴きます。さらに、この件に成功された場合の謝礼ですが、

この手形にあなた方のお好きな金額を書き込んで提出して戴ければそのように手配致します」

「へ~~え、んなこと言っちゃっていいのぉ~~?! じゃあ一億円って書いちゃうよ~~、

十六夜さん?!」

 ニヤリと挑戦的な眼差しで十六夜さんの眼を覗きこむお嬢様。

「かまいませんよ〈成功できれば〉。なんでしたら十億ドルと書かれてみては?」

 お嬢様の探りを入れた挑発に全く動じず、微笑みを絶やさず切り返す十六夜さん。

 絶対確実に自分の主(あるじ)なら支払える確信がある、余裕綽々の表情だ。

「じゅ、十億ドル……って、あ、あなたの主(あるじ)の仕事ってなによ?!」

 挑発したお嬢様の方が怯んでしまってる。

「今はお答えできませんがいずれ分かります。これ以上ない素晴らしく〈真っ当な仕事〉ですよ」

 十億ドル(約千百四十七億円)が余裕で支払えるなんてアラブの大富豪かなんかだろうか?

「ヒエロニムス・マシンねぇ。眉唾&うさんくささ爆発で、うちらの世界じゃ有名な

シロモノじゃん。けど面白そうじゃない、やってみようよハルロー!」

 ヒエロニムス・マシンの写真を見たことあるけど、あんなガラクタみたいな

機械にはたして十億ドルの価値があるのかな? 

鉱物の成分検査機なんか、今ならもっと安価で高性能な物がいくらでも手に入ると

思うんだけど。

 実はヒエロニムス・マシンは釣り餌で、十六夜さんの言うバミューダ海域の

ポイントには十億ドル級の凄いお宝が沈んでるとか? 

 まあ、どんなものか後学のために見せてもらうのも悪くないかな。

「成功報酬はともかく、前金の八百万は有り難いです。引き受けしましょう!」

「ありがとうございます。今回の件では二、三週間ほど、お時間を拘束することに

なりますので、そちらの手配をお願い致します」

「わかりました、すぐ中学とテレビ局に手配してお嬢様のスケジュールを調整します」

「それでは二日後の午前八時にセントレアに集合できるよう早急に準備にかかって

ください。そこからフロリダまではこちらの手配する特別便で向かいます」

「ハルローくん面白くなってきたじゃない。二人とも頑張ってね!」

「はい!」

「もちろん!! ヒエロニムスなんか、すぐ手に入れてフロリダ名物

〈白いワニの唐揚げ〉いっぱい空輸してあげるからね、お母様っ!!」

「あ……はは、里井久(りいく)くんのお腹ポンポンね」

 さりげなくスルーですか プティ様(笑)。

「それでは、私どもも準備がありますので、失礼させて頂きます」

 十六夜さんは一礼するとレジで支払いを済まし、綺麗な身のこなしで去っていった。

「う~~、急に忙しくなってきたー!! じゃあ朝食も済んだし、そろそろ帰ろっか」

「そうね。リーナちゃん、なにかお母さんで手伝えることあれば言ってね」

「うん、ありがと! でもいい。私とハルローでなんとかする」

 思わぬ大きな事件が舞い込み、意気揚々なリーナお嬢様とそれを暖かく見守るプティ様。

 騒がしいモーニングタイムを終えた僕たち三人は、正午が近づき、客で賑やかに

なってきたコンパルを後にした。

 僕は今回の仕事に、なぜか一抹の不安を感じていたけど、仕事を依頼されたときの

不安はいつものことなので、深く考えようとしなかった。

 後にあらゆる意味で〈最高の使者〉だったと思い知らされる、十六夜さんが

運んできた重大事件はこうして幕を開けたのだった。

 

 

次回リーナお嬢様シリーズ最大の核心にさらに迫る

第2話 リーナさんライジング!!

I just want to talk (私は話し合いたい)へつづく

 


 
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