No.476956

~貴方の笑顔のために~ Episode 15 満月の下で

白雷さん

蜀の将兵たちは仲間の喜びを知り、宴はおおいに盛り上がっていた。一刀はそんななか、その場所から一人離れ、酒を飲んでいた。
とそこに、一刀のことを見ていた星が近づいてきた。

2012-08-29 07:13:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:12974   閲覧ユーザー数:10100

仲間の無事を知り、喜びに包まれる中、

蜀では宴が催されていた。

 

初めはその場を後にしようとした一刀であったが、

星、桃香をはじめとした蜀の将兵たちが呼び止め、酒を飲み交わしていた。

 

それぞれが色々な思いで一刀と語っていた。

そんな中、星はそんな一刀の様子を扉の近くから見ていた。

 

 

~一刀視点~

 

幸せだ、本当にそう思う。

いつぶりだろうか、こんなに温かく、そして落ち着いた気持ちで酒を飲み交わしたのは・・

皆が酔い、宴も華やかさを迎えた頃、俺は一人、その場から離れ夜空を見上げながら、

酒を飲んでいた。

満月が輝く、美しい夜だった。

 

「おやおや、こんなところで、宴の主役がなにをやっておりますか?」

 

そんなことを言いながら俺の横に座ったのは趙雲だった。

 

「これは、趙雲殿。どうしたのです?」

 

「呂白殿、それはこちらの問いですぞ。このような場所でなにを?」

 

「いやなに・・・すこし、郷愁にふけっていたんですよ」

 

見上げる夜空には、満月と輝く星々があった・・・

それはあの日自分がこの世界から

姿を消した光景ににていた・・・

 

「敬語はいりませぬ。

 隣、よろしいですかな?」

 

「そうか、というかもう隣にいるじゃないか」

 

「そこは空気を読むところですぞ、呂白殿」

 

「そう、なのか?」

 

「ふふっ、あなたは不思議な方だな」

 

「趙雲殿にそういわれるとな」

 

「星と、およびくだされ」

 

「いいのか?」

 

「よいのですよ」

 

「ああ、ありがとう星、俺のことは刃ってよんでくれ」

 

「わかりました刃殿。ここにきたのは、貴方にお聞きしたいことがあったのですよ、

 よろしいですかな?」

 

真名を交わした星はそんなふうに突然と質問をしてきた。

 

「なに、かな?」

 

「いやなに、問いといったらひとつしかないでしょう。あなたは、

なぜ仮面で顔をかくしておられるのですかな?」

 

「これはやけどで・・・」

 

俺は、あのとき恋がいったことをそのまま繰り返した。

誰もが信じていたことだったので、星もすぐに信じると思っていた。

 

「下手な嘘はやめてくだされ、

 他のものは単純なためにだまされていたようですが、

 私はだまされませんよ。

 まず、あなたほどの武がありながらなぜ今まで

 だれも貴方の名をきいたことがなかったのか、

 そして恋の兄というなら、なぜ恋はいままで

 兄のことを口にしなかったのか・・・

 恋の性格ですよ、兄上がいたのなら、絶対に離れないはず。」

 

「それは、旅をしていたからだ。それに、恋とはずっと別れたきりだった。

 恋も昔のことを忘れているのだと思う」

 

「なるほど、しかし、今更になってなぜ戦いに参加しようと思われたのです?

 その武を活かすなら、乱世にもっといい機会があったはず。」

 

「俺は、機会ということをねらって行動しているわけではないよ。

 今回のことも、乱世が平定し、妹に会えると思い、

蜀に駆けつけた時でのことだったんだ」

 

「ではなぜ私の名前がわかったのです?」

 

「前にも言ったけど、それは星が有名だから」

 

「私の名をしっているものは多いでしょう、しかし戦場にもいないかぎり、

 私と、私の名を一致することはむずかしい。」

 

「噂で星は青髪の綺麗な女性とそういわれていた。」

 

「ほぉ、それはうれしいことですが、しかしこの蜀の将の中に青髪は少なからず

 何人かはいます。それを一発で私が趙子龍とみわけるとはたいしたものですな」

 

「ああ、勘があたって、よかったよ。」

 

「・・・そうですか、いや、失礼しました。なにかと疑い深いもので。

 そういえば、たんぽぽがよんでいましたぞ。」

 

「そうか、ちょっと行っ・・」

 

俺はそこまでいいかけたとたん、しまったと思った。

そして思ったとおり、星の顔には満面のいたずらそうな笑みがある。

 

「おかしいですな、刃殿。なぜその名をしっているのです?

 真名は噂では流れない。それにたんぽぽは今日、魏へ赴き、ことの詳細を通達しに

 いったところなのです、つまりあなたと会う時間はなかった。かといってたんぽぽからもあなたの話を聞いたことはない。」

 

「・・恋にきいたんだ」

 

「おや、恋はたんぽぽとはいいませんぞ。あだ名でよんでますゆえ。

 それとも、そのあだ名までしっておられるのか?

 それなら不思議は解決されるのだが」

 

「・・・」

 

あだ名なんてしらなかった。俺は沈黙をするしかなかった。

 

「冗談です」

 

だから、星がそこで言った言葉に驚いた。

 

「へっ?」

 

またしても星に一本取られてしまった。

 

「それになにより、たとえ、仮面をつけていたとしても

 満月にはす思いはつたわってくるのですよ・・・」

 

 

はぁ、と俺はため息をつく。

・・まいったな、

なんか星は風ににてるな、しっかりとみぬかれてる・・・・

ここで、外さなければ・・蜀の皆が俺の正体をまた疑い始めてしまう。

 

「私なら、大丈夫なゆえ、話してくださらぬか」

 

・・・星なら、大丈夫か、

 

そう、思いながら俺はその仮面を月光のもとはずした。

 

 

「・・・っっ!!こっ、これは・・・ふふっ、

 いやはや、さすがに驚きましたよ。

 貴方は確か魏に降りた天の御使い北郷殿ではありませんか」

 

「あぁ、そういえばこの世界にきたとき、初めに

 星にあったんだね。

 あのときはどうなるのかと思ったけど・・・」

 

「ふふっ、まあ、そのようなこともありましたな。

 ですが、北郷殿は天に帰ったと聞いておりましたが・・・」

 

「つい最近戻ってきたんだよ」

 

「魏にはもう?」

 

「ああ」

 

「では魏の皆はよろこんだでしょう」

 

「いや、皆には会ってないよ」

 

「なぜ?」

 

そう聞かれた一刀は魏に戻ってから、恋に会うまでのことを話し始めた。

 

 

 

「三十年、ですか・・・」

 

「まあ、信じられないと思うけどね・・」

 

「いや、あなたから感じる氣は初めにあったときとずいぶんと異なっている・・

 十分頷けますよ」

 

「そうか・・」

 

「・・・・・知らなかったとはいえ、

 軽い気持ちでお聞きしてしまい申し訳ない」

 

「いや、大丈夫だよ。

 ああそれと、皆には秘密にしておいてくれないか」

 

「いわれずとも、一刀殿。それが私に話してくれた理由なのであろう?」

 

さすがは星だ。なんでもお見通しってわけか・・

 

「それと名も、できれば刃とよんでほしいんだけど・・・」

 

「ふふっ、二人のときはよいではありませんか、

 ・・・貴方は風が言っていた通りのお方だ。

 いやそれ以上か・・・・」

 

「風とはやっぱり仲いいのか?」

 

「それはもう、昔からの仲でしたからね。戦いがおわって本当によかった。」

 

「そう、だな。」

 

確かに、思い起こせばいろいろなことがあった。

戦、それは残虐で悲しいものだ。

それでも、俺たちの平和へのこの思いができるのは、仲間とともに歩んでいけるのは

あの時間があったからで、俺は乱世において一秒たりとも無駄な時間はなかったと、

そう思う。いや、逝ってしまった人たちのためにもそう思わずにはいられない。

 

俺はおもわず自分の拳にギュッと力をいれた。

 

「一刀殿?」

 

そのちいさな動きに気がついたのか星が不思議そうに俺を見ている。

 

「いや、いろいろあったなと、そう思って」

 

俺はそういいながら自分の手を満月へとかざす。

 

「そう、ですな。 いろいろありましたな。」

 

そういいながら星は一刀に肩をあずけた。

 

「星?」

 

「一刀殿、私はあの乱世、時々思っておりました、なぜ天の御使いは魏に味方したのかと、

なぜ、我々ではだめだったのかと。きっと誰もがおもったはずなのです。

天の御使いさえいればと。

それは考えても考えても、答えが見つかるものではなかった。

私たちのところに降り立ってくれれば蜀が!と思うことも何度もありましたよ。」

 

「俺にそんな力はないよ、星。みんながいて、一人ひとりが華琳の天のために、

 そして、自分の天のために必死にその手を伸ばしていた。

 だからこそ、ここまで来れたんだ。」

 

「はい。私も、今になってその謎がようやくとけましたよ。

 私たちはどこか、自分たちの弱さの言い訳が欲しかったのかもしれませぬ。

 それを、あなたにおしつけてしまって申し訳ない・・」

 

「いや、俺の方こそ、だますようなまねをしてごめん」

 

「いや、あなたは騙していない。もうひとつわかったこと、それはあなたがこの世界にきたことで救われたのは魏だけではないということですよ。蜀も、そしてきっと呉も、

 あなたによって救われたのです。」

 

「それは違うよ、星。俺はそんな大層な人間じゃない」

 

「そしてその結果をうみだしたのはなにより、あなたが、一刀殿が、あまりにもお人好しだからです。」

 

「・・・」

 

「あなたは魏に別段選ばれたわけでもない、そして魏をえらんだわけではない。

 まったく誰も知らない世界に来て、天の御使いなどと奇妙な呼び方で

 呼ばれ、それでもあなたはそんなことをきにせず自分の大切なもののために

 戦った」

 

「そして、今、あなたは少なからず我らのために命懸けで戦ってくれた」

 

そういった星は笑っていた。

 

「あなたはきっと、どこへいったって、仲間のため、そして思う人のためにその力を全力で振るっていたのでしょうな。」

 

「・・私は、あなたに、恩返しがしたい。この乱世の平定に助力してくれた

 あなたに、そして蜀をすくってくれたあなたに。」

 

星はそういいながら俺が地面においた仮面を手にする。

そして、改めて彼女は俺の目をまっすぐと見た。

 

「仮面をかぶるというものはよほど辛いことでしょう、

 わたしにはそのつらさはよくわかりませぬが、

 こうして私といるときは“北郷一刀”であってくだされ。

 すこしでも、あなたの寂しさをわけてくだされ。

 それが私が最大限にできるちいさな恩返しですから」

 

そういって星は俺のてをギュッと握った。

 

「・・・・あぁ、ありがとう星」

 

月光の下、俺は、久しぶりに北郷一刀として笑えることができたのだと思う。

俺はそうおもいながら星の手を握り返した。

 

こっちの世界で、帰ってから何度も見た満月が今日は一段と美しく輝いて見えた。

 


 
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