No.475866

いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した

たかBさん

第五十五話 傷だらけの…?

2012-08-26 22:03:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9184   閲覧ユーザー数:8158

 第五十五話 傷だらけの…?

 

 

 「…『正義』よりも大切なもの。その為になら何でもする。か」

 

 アリアは高志の言葉を聞いて自分が今の今までしてきたことを思い返していた。

 すると、そこに外部からの通信が入ってきた。

 通信相手はギル・グレアム。自分達の主であり家族だ。

 

 『…通信で失礼するよ』

 

 「提督っ。もう、大丈夫なのですか!」

 

 「グレアム叔父さん!?」

 

 「お父様!」

 

 医務室に一つのモニターが浮かび合上がるとそこには病衣に身を包んだ高齢一歩手前の男性が映し出されていた。

 クロノとアリア。そして、はやての三人がそれぞれの反応を示す。

 

 「…知り合い?」

 

 『…君が『傷だらけの獅子』。いや、高志君と、よんでも構わないかね?』

 

 「は、はあ。構いませんけど?どちら様ですか?」

 

 高志の質問に答えたのはまたもやこの三人。

 

 「僕の先生だ」

 

 「私に生活支援をしてくれている人や」

 

 「…私の『家族』よ」

 

 「…どっち?」

 

 『それらについても話し合いたいことがあるんだ』

 

 「…はあ」

 

 「グレアム叔父さん。どういうことや?なんで叔父さんが?」

 

 『全てを話そう。私の行いも全て、ね』

 

 グレアムはそれから全てを話した。

 ずっと闇の書の行方を捜していたことを。

 クロノの父親。クライド・ハラオウンの仇を探していた事。

 それが八神はやての元に転生したこと。彼女が天涯孤独であることを知ったグレアムは支援という名の下で闇の書を監視していた。

 それと同時に闇の書をはやてごと凍結封印するためのデュランダルを用意していた事。

 守護騎士達を補助し、なのはやフェイトのリンカーコアを奪うように指示したことも。

 自分の使い魔たちにそれを補助するようにしていた事。

 アサキムが最後に守護騎士達を蒐集していなければそれすらもさせていただろうと…。

 全てを話した。

 

 「…では、あなたは僕にこれではやてを永遠に封印させるために」

 

 クロノは自分が持つデュランダルを見て呻く。

 彼自身もおかしいとは思っていた。

 なのは達の新武装は守護騎士の持つデバイスが元で搭載されたのはわかる。だが、デュランダルは別だ。そもそもデバイスを持つ本人達の増強(ブースト)が目的として作られたものと違い、明らかに封印を目的にしたデバイスがデュランダルである。

 アサキムの襲来が無ければ少しは余裕を持つことが出来、気づくことが出来ただろう。

 

 「クロノ!聞いて!お父様はそれを最善と考えた結果だったから…。あんただって闇の書を憎んで無かったわけでもないだろう!」

 

 「それでも。…僕の父の死をあなたの復讐目的の為に使わないでください」

 

 「…クロノ」

 

 リンディはそんなクロノの姿を見て何を思ったのか。ただ、強く育った自分の息子を見て目元をぬぐう。

 そのやりとりを見ていたスフィアリアクターの二人もまた複雑な表情をする。

 『悲しみの乙女』は自分の罪を悔い、『傷だらけの獅子』は死者(アリシア)を蘇らせたという彼等が聞いたら絶対に大変なことになるという秘密を持っていたため何とも言えない表情をしていた。

 『傷だらけの獅子』に娘と自分自身を救われたプレシアも何とも言えない感情を持て余していた。

 

 (…私も彼と同じだったのかしらね。アリシアの為に世界を脅かし、子ども(フェイト)にも無茶をさせた)

 

 「それでは我々はあなたの手の平で踊らされていたという事か」

 

 「…ふざけんなよ!それじゃあ、はやてが!」

 

 シグナムは憤怒にその表情を染める。ヴィータは怒りに任せて言葉を発しようとするが、アリアの言葉でそれを黙殺される。

 

 「黙れ!お父様は、私達は、戦友のクライド君をあんた達闇の書に奪われたんだ!あんた達だけが被害者なんじゃないんだよ!」

 

 「…う」

 

 「だからと言って、子どものはやてに押し付ける必要は無かったんじゃないか?」

 

 高志はそこだけが気に入らなかった。

 友を殺された。それに復讐するというのは分からないでもない。

 スフィアの事を知らなかったからデュランダルでの凍結封印もわかる。

 でも、自分よりも幼い子どもを犠牲にする考え方だけが気に入らなかった。

 

 これでは、子どもではなく子供(・・)

 平穏を守る為に()()える。

 

 それだけが気に入らなかった。

 

 『…闇の書は転生する。君もそれは知らされていると思う』

 

 「つまり、今仕留めなかったら次がある。非道に染めようともここで終わらせるのが被害を最小限に抑え切れる。と?」

 

 『…君は幼いのに達観しているね。まさにその通りだ』

 

 (スフィアと同じか…。ゲームのアサキムへの最終対策としては封印が一番だ。いくら殺しても『太極』の力で何度でも復活する。それなら、生かさず殺さず封印するのが一番だ。いつ来るか分からないものを、どこにあるかを把握しながらそこにとどめる)

 

 高志はグレアムの考え方に理解を示しかけていた。

 一人でも多くの子どもを救いたいのなら、ここで押さえるのが一番だ。

 

 「考えていることは理解できる」

 

 「高志君?!」

 

 「タカシ?!」

 

 はやてとフェイトは高志の言葉に驚きを隠せない。

 先程、守ってくれると宣言したばかりの彼がそんなことを言えば誰だって面を喰らうだろう。

 

 「でも納得いかん。頭では理解できても俺の心が、『本能』がそれは間違いだと言っている」

 

 『…』

 

 事件を無事終わらせることが出来たからそんなことを言えるのは十分に分かっている。

 『傷だらけの獅子』と『悲しみの乙女』が同時に覚醒したからあの暴走体を吹き飛ばすことも出来たのはわかる。

 なのはが、フェイトが、はやてがいなければ…。

 それだけじゃない。守護騎士やクロノやユーノ。アルフにアリアさんの誰かが一人でもかけていたらこんな結末にはならなかった。

 そもそもスフィアがこの世界に無ければアルカンシェルも壊されることもなく、このような結果になったかもしれないが、最悪の結果になっていた可能性もある。

 例えば、アルカンシェルを宇宙で撃つのではなく、地球に向かって撃つ。

 ある意味、あの発言でクロウは地球を救っていたかもしれない。

 

 「それでも俺は嫌だ。『世界の為に家族を殺せ』と言うのも『そんな世界なんか滅べ』なんてのも言わない。ただ、目の前で家族を殺されるのは嫌だ。嫌なんだ」

 

 「『傷だらけの獅子』…」

 

 高志の言葉を聞いてリインフォースは改めて目の前の少年が自分の味方だという認識し直す。

 

 「その二つ名みたいのはやめてくんない?俺には「お兄ちゃん」と言う名前が、そぉい!アリシア、なんてタイミングで言葉を挟みやがる!」

 

 「なんか嫌な空気になってきたから。あと、もうそろそろ構って欲しいから話しかけてみました。構って♪」

 

 「…お兄ちゃ、ん?」

 

 「やめて、リインフォースさん!ときめくから!」

 

 辺りを包んでいた重苦しい空気がアリシアの一言で吹き飛ぶ。

 ちなみにアリシアさん。

 今までの話の内容をあまり理解していません。

 

 「なんで私に言ってもそんなに顔を赤くしないのに、何でリインフォースさんには赤くするの!」

 

 「年上知的美人のリインフォースさんに戸惑いがちにあんな風に呼ばれてみろ。男だったら誰だってときめくぞ!」

 

 「そういって色んな人にフラグを立てるつもりだね!そんなことさせないもん!そのフラグをぶち壊す!」

 

 アリシアさん。フラグの意味は知っているようである。

 

 「…ぶち壊す。て、どうやって壊す気なんや?」

 

 「…こう?」

 

 そう言いながらアリシアは高志の首に腕をかけるように抱きつく。

 体は多少動かせるとはいえ高志の体は未だに筋肉痛で普通には動かせない。アリシアにされるがままである。

 

 「アリシア?なにをぅ!?」

 

 

 むちゅう。

 

 

 と、音が響くかのようなキスをしてきた。

 それだけでは終わらない。

 

 「う、むあ、むん」

 

 ちゅるるるぅうう。

 

 と、生々しい音。肉と肉が絡み合うかのような音が響くこと一分。

 

 「ぷぅあっ。…これで、わかったよね?」

 

 「あう。あう、あうううう」

 

 高志は顔をこれまでにないくらいに真っ赤にさせながらベッドに倒れこむ。

 転生する前から今の今までこのような濃厚なキスは味わったことが無いからだ。

 アリシアは息継ぎをするように高志から離れるとほんのりと顔を赤らめながら高々と宣言するかのように言う。

 

 「…お兄ちゃんの初めては他の誰でもない。このアリシアだ!」

 

 「え、え~と…」

 

 「ディ○!?アリシアちゃん、ディ○なんか?!」

 

 リインフォースは突然起こった目の前の光景に唖然としていた。

 そして、高志がツッコミできなくなったのではやてがツッコミに回る。

 

 「あ、アニチア。ふぅあああああ…」

 

 「フェイト?!しっかりしてよ!」

 

 アリシアの奇行に目を回したフェイトはアリシアと言う名前を噛みながら倒れそうになったが、アルフに抱き留められる。

 

 「な、な、なぁああ」

 

 「まあまあ♪」

 

 「…見損なったぞ『傷だらけの獅子』。このような幼女に手を出すとは」

 

 (…俺はどうコメントしたらいい?)

 

 ヴィータは顔を赤くし、シャマルは兄妹のじゃれ合いに微笑み、シグナムは冷淡な目付きで睨み、ザフィーラは何となくアリシアが高志を取られたくないという一心で行ったことだと察したのだが、それをどうコメントすればいいのか分からなかった。

 

 「仲がいい事は良い事だろうけど、な。時と場所を考えて…」

 

 「あら、そう言われるとクロノもフェイトさんと兄妹の関係になるから…」

 

 『艦長!?』

 

 「母さん!?」

 

 ハラオウン親子も目の前の光景をネタにふざけ合う。とはいってもふざけているのは母親だけで息子といつの間にか別モニターでその光景を見ていたオペレーターは慌てだす。

 誰もがさっきまで話し合っていた暗い話など忘れているようだった。

 

 「…皆、子どもね。もう闇の書の事なんか忘れているみたい」

 

 『…誰も忘れてなどいないさ。だが、今この瞬間ぐらいはいいんじゃないか』

 

 「…父様」

 

 アリアとグレアムは皆が笑い合って、騒いでいるところを離れた所から見ていた。

 

 「よろしかったんですか?このような長距離通信だとどこかにこの情報が知れ渡るやもしれません」

 

 『構わないさ。私は…。お前達には苦労を掛けるがね』

 

 「いえ、それは構わないのですが…」

 

 歴戦の勇士とも言われたグレアム。彼が引退するまであと少しと言う所で発覚した闇の書事件助長の事がばれたら、彼のこの後が大変になることはアリアには分かっていた。

 

 『私は復讐者だ。それにあの八神はやて君。クロノ・なのは君・フェイト君。彼等だけではなく多くの者達に多大な負担をかけた。無論、お前達にもな』

 

 「…いえ、私達は構いません。でも」

 

 『…アリア。私は管理局を引退するのを少しだけだが引き延ばすことにするよ。そして、彼女達の支援をしたい』

 

 「…父様」

 

 『今回の事件も私が裏で糸を引いていたと言えば、彼女達の罪も軽くなるだろう』

 

 「…それが目的でこのような通信を?」

 

 『そうだ。今回、私は多くの罪を犯した。それに気づくのが遅すぎた。だが、手遅れではない。彼等を見ているとまだやれることがあるのではないかと思う』

 

 「………」

 

 目の前では何やら一人の少年が寝ているベッドの周りで騒いでいる子どもや大人達を見てグレアムは言葉を続ける。

 

 『あの少年。確か、高志君といったな』

 

 「はい。ロストロギア。といってもいい『スフィア』、『傷だらけの獅子』の担い手ですね」

 

 『…傷だらけ。か。彼は彼の思うが儘に力を使い、生き続けたらボロボロになるのは目に見えているな。だが、羨ましくもあるな』

 

 「…父様?」

 

 『私の正義は人々の平穏を守る事。それが友の復讐になった瞬間にいつの間にか変化してしまったようだ』

 

 「…はい」

 

 『彼の守りたい物は正義ではなくその先にあるもの。そして、すぐ近くにあるものなんだな』

 

 「…はい」

 

 『この老骨。休めるには重ねてきた罪が多すぎた。…私は提督という立場で使える人脈全てをかけて彼女達の罪を軽減。いや、出来ることなら無罪を証明しようと思う』

 

 「…父様。それは」

 

 『無論。守護騎士達が襲ってきた者達への謝罪も私が行う。その後の保証もどうにかしよう。その為にも私に力を貸してくれないか、アリア』

 

 「…喜んで力を貸します。父様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…で、済むと思っていた?タカ?」

 

 いいえ。思っていませんでしたよ、プレシア様。

 あんな事があったんです。分かっています。あの猫姉妹にお仕置きをするんですよね?フェイトからリンカーコアを奪ったから…。

 怪我が治ったらチェインデカッターで丸刈りにしてやる。無毛猫、スフィンクスにしてくれる。

 

 「…ふふ。それもそうね。でも、他にも罪を犯した奴がいるわよね?言い逃れは出来ないわね?」

 

 全くですよね~。

 グレアム提督ですね?

 まあ、自首?してきたからノットバニッシャーのボディーブローぐらいで許してあげましょうよ。

 いや~、まったくもって許せない。

 人の娘をなんだと思っているですよね?そうなんだよね?

 

 「ふふふふふふふ♪他にもいるわよね?」

 

 あははははははは。わっかんな~い♪

 プレシアのオーラがガンレオンを象っていた。しかもマグナモードだ。

 

 「ふふふふふふ」

 

 魂の入っていない瞳をしたプレシアが俺を見て笑い続ける。

 

 「…は、はは。…やめろ、やめるんだプレシア!」

 

 ぶっとばすぞぉおおおお!無理だけど!

 俺は思わず叫ぶ。

 あの後、はやてや騎士達の罪の軽減やこれまでの非道を謝りに行くとグレアムさんと話し合った後、他の皆は一度席を外して、俺はベッドに縛り付けられた状態でプレシアと二人で話していた。

 

 「ふふふふふふ」

 

 いやぁあああああああああああああああああああっ!

 俺は悪くないよ!全身筋肉痛の所為で体の自由がきかない所にアリシアがあんなことをしてきたんだよ!だから悪くないよ!

 だが、そんな言い訳がこの親馬鹿さんに通じるとでも?

 答えはNOだ!

 

 「ふふふふふふ」

 

 それから一時間ほど『傷だらけの獅子』の悲鳴が響いた。とか、響かなかったとか…。

 答えは医務室に運ばれた時より疲弊していた高志だけが知っている。

 

 

 …世界はこんなはずじゃなかったことばかりだよ。

 by現『傷だらけの獅子』

 


 
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