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真・恋姫†無双~赤龍伝~第106話「悪夢の牢獄」

さん

以前、投稿した106~110話を一話にまとめたものです。

※3月18日内容を少し変更しました。

2012-08-23 00:35:25 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:3263   閲覧ユーザー数:2675

真・恋姫†無双~赤龍伝~第106話「悪夢の牢獄」

 

蓮華「赤斗っ!!」

 

目の前に現れた赤斗に向かって蓮華は思いっきり叫んだ。

 

蓮華の声に気が付いた赤斗は、司馬懿から蓮華の方へと振り向いた。

 

そこにあるのは、赤壁で別れて以来見る懐かしい顔だった。

 

赤斗「ただいま蓮華。遅くなってごめんね♪」

 

赤斗は優しく、そして穏やかな口調で蓮華に話しかける。

 

赤斗の右目は金色に輝き、蓮華を見つめていた。

 

蓮華「良かった…本当に良かった。無事に戻ってきてくれて」

 

涙ぐみながら蓮華は応えた。

 

華琳「随分といきなりな登場ね、赤斗」

 

赤斗「やっほー、ひさしぶり♪ 華琳も一緒だったんだね」

 

亞莎「赤斗様!」

 

赤斗「亞莎もひさしぶり♪ 元気だったかい?」

 

亞莎「はいっ!」

 

劉備「赤斗さん、急に何処から出てきたんですか!?」

 

赤斗「それは後で説明しますよ。それよりも、久々に会ったばかりで悪いんだけど、この二人を連れて離れていてくれないか?」

 

蓮華・劉備「「二人?」」

 

赤斗の両脇に人が抱えられている事に蓮華たちは気が付いた。

 

劉備「愛紗ちゃん!」

 

華琳「霞!?」

 

赤斗「ここに来る前に見つけたんだ。二人とも気を失っているだけだから頼むよ」

 

そう言うと赤斗は、関羽と張遼を劉備たちに任せた。

 

蓮華「でも、赤斗はどうするつもりなの?」

 

赤斗「決まっているよ。司馬懿を…討つ!」

 

再び司馬懿の方に振り向くと赤斗の闘気は一気に膨れ上がった。

 

司馬懿(あの目……龍脈の力を取り込んだ影響によるものか。だとすると厄介ですね)

 

司馬懿は赤斗の金色に輝く龍の眼を見て警戒を強めた。

 

司馬懿「ふっ…まさか戻ってこようとは、中々やりますね」

 

赤斗「まあね。色々と苦労したけど、もうこれ以上は、お前の思い通りにはさせない」

 

司馬懿「でも、遅かったですね。もう充分に時間は頂きましたよ」

 

華琳「どういう事かしら?」

 

司馬懿「それは…」

 

赤斗「関係ないね。ここでお前を討てば、お前がしてきた事は無駄に終わるんだから」

 

司馬懿「せっかちですね。人の話ぐらい聞いても良いのではありませんか?」

 

赤斗「黙れ!」

 

赤斗は叫ぶと同時に、日本の小太刀、花天と月影を抜いて司馬懿に斬りかかった。

 

司馬懿「随分と焦っていますね」

 

赤斗の攻撃を避けながら、司馬懿は赤斗に話しかける。

 

赤斗「うるさい!」

 

しかし、赤斗は司馬懿の話を聞こうとはせずに、ひたすら攻撃を繰り返すのだった。

 

 

蓮華「赤斗?」

 

離れた場所に移動した蓮華たちは、赤斗の様子がおかしい事に気が付いた。

 

華琳「何をそんなに焦っているのかしら? それにあの右目…」

 

蓮華「そうか。華琳も桃香も初めて見るのだったな。あれは龍の眼と言うらしい」

 

劉備「龍の眼?」

 

亞莎「あらゆる物を見る事ができる、龍を宿した眼です」

 

華琳「そう。あれが龍脈の力というわけね。でも、そんなに強い力を持っているわりには、赤斗に余裕がないわね」

 

劉備「そうですね。何だか勝負を急いでいるみたいです」

 

亞莎「……そうか!」

 

蓮華「亞莎、どうしたの?」

 

亞莎「赤斗様が焦っている理由が分かりました。龍の眼を使うと、確かに龍脈の力を得る事ができますが、それと同時に好戦的になり、体力や精神力が普段以上に消耗してしまうんです」

 

華琳「大きな力は、ただでは使えないという事ね」

 

亞莎「はい。いつから龍の眼を使っているか分かりませんが、そう長くは戦えないはずです」

 

 

亞莎の言うとおり、赤斗には時間がなかった。

 

こちらの世界に戻ってくる間、ずっと龍の眼を使っていた為、体力や精神力は限界間近だった。

 

こちらの世界に戻ってきたと同時に、司馬懿と遭遇した事は、龍の眼を使い限界間近の赤斗には誤算だった。

 

消耗した心と身体では、同じく龍脈の力を操る司馬懿には勝てない。

 

だが、目の前にいる以上は逃がすわけにはいかなかった。

 

そして、ここで逃がしてしまえば、取り返しのつかない事になると赤斗の勘が言っていたのだ。

 

 

赤斗「はぁはぁ」

 

赤斗の攻撃は、未だに司馬懿には当たらずにいた。

 

司馬懿「お疲れのようですね。少し休んだらどうですか?」

 

赤斗「余計なお世話だ。お前を討ったら、好きなだけ休むさ」

 

司馬懿「無理でしょうね」

 

赤斗「何だと」

 

司馬懿「そんな消耗した状態で、私に勝とうなどとは…舐めないで頂きたい」

 

そう言うと司馬懿の鋼の鞭が赤斗を襲った。

 

赤斗「くっ!」

 

赤斗は鋼の鞭を何とか防いだ。

 

司馬懿「私も時間を頂いたお蔭で、以前よりも龍脈の力を操る事ができるようになったのですよ」

 

赤斗「なに…?」

 

司馬懿「こんな事も出来るって事ですよ」

 

そう言うと司馬懿が右手を赤斗に向ける。

 

それと同時に赤斗の目の前は真っ暗になった。

 

赤斗「うぅ…目が…」

 

赤斗は驚いた。

 

右目の視力が全くなくなっていたのだから。

 

 

司馬懿「驚きましたか?」

 

赤斗「…な、何で?」

 

司馬懿「何でって、私も龍脈の力を使うのですから、これくらい出来ますよ。貴方に流れている龍脈の力を断つぐらいね」

 

赤斗「………」

 

赤斗は言い返す事が出来なかった。

 

司馬懿「これで分かりましたか? 貴方は私には勝てない。例え万全な状態であってもね」

 

司馬懿は勝ち誇った様子で赤斗に言った。

 

赤斗「うるさい! …くっ」

 

司馬懿の言葉を跳ね除ける様に赤斗は叫ぶ。

 

だが、叫び終えると同時に身体全体が脱力感に襲われ、膝が地についてしまった。

 

赤斗「な、何…」

 

司馬懿「どうやら限界が来たようですね」

 

赤斗「げ…限界だと…」

 

脱力感の次に赤斗は急激な眠気に襲われる。

 

蓮華「赤斗っ!」

 

蓮華が赤斗に駆け寄る。

 

司馬懿「さて、今のあなたを殺すのは簡単ですが、龍脈の力を宿していた貴方を殺す事により、龍脈に何らかの影響を及ぼされては、私の計画に支障をきたしますね。だからと言って、次元の穴に閉じ込めても、また戻ってきそうですね。…どうしますか」

 

司馬懿は少しの間だけ考えふけると、何か思いついたかの様に笑った。

 

司馬懿「そうだ。良い事を思いつきましたよ」

 

赤斗「…く、…うぅ」

 

もはや赤斗は意識を保つ事で精一杯だった。

 

蓮華「赤斗に手出しはさせんぞ!」

 

蓮華は南海覇王を持ち赤斗の前に立つ。

 

司馬懿「ご安心を。殺したりしません。ただ…ゆっくりと休んでもらうだけですので」

 

蓮華「休む?」

 

司馬懿は懐から何かの葉は取り出し、掌の上に置き、息を吹きかけた。

 

司馬懿「ふぅー」

 

そして、その葉は赤斗に降りかかった。

 

赤斗「ぅ…ぅ、し…司…馬、ぃ……」

 

意識が遠のく中、懸命に赤斗は司馬懿に手を伸ばしたが、その手は司馬懿に届く事はなかった。

 

司馬懿「ゆっくとお休みください」

 

蓮華「…赤斗? 赤斗!」

 

蓮華は動かなくなった赤斗の身体を激しく揺らすが、赤斗の反応は見られなかった。

 

蓮華「貴様っ! いったい何をした!?」

 

司馬懿「命には全く別状はありません。ただ、もう目覚める事はないでしょうけどね」

 

蓮華「何だと! どういう事だ!?」

 

司馬懿「おっと、いけない。お別れの挨拶に来ただけなのに、すっかり長居をしてしまいました。それでは、名残惜しいですが、私はこの辺で失礼致します」

 

蓮華「ま、待て!」

 

華琳「仲達っ!!」

 

華琳は司馬懿を逃がすまいと鎌で襲い掛かるも、鎌が捉える前に司馬懿の姿は消えていた。

 

劉備「え、消えちゃった…?」

 

司馬懿が消えると、次第に周りに変化が表れ始める。

 

先ほどまで無かった人の声や姿が現れたのだ。

 

火蓮「蓮華!!」

 

夏候淵「華琳様!!」

 

諸葛亮「桃香様!!」

 

司馬懿の結界が解けて、火蓮たちが蓮華の元に駆け寄ってきた。

 

火蓮「赤斗!?」

 

そして、蓮華の腕の中で眠る赤斗の姿に全員が驚くのだった。

 

 

火蓮「やはり司馬懿の仕業だったか」

 

劉備「はい」

 

劉備は司馬懿の突然の来訪について皆に話した。

 

華琳「別れの挨拶に来たって言っていたわ」

 

雪蓮「ちっ、相変わらずふざけた奴ね」

 

火蓮「まあ。司馬懿に逃げられたのは痛かったが、それよりも…」

 

雪蓮「そうね。赤斗が戻ってきてくれた事の方が嬉しいわ」

 

劉備「それで赤斗さんは?」

 

火蓮「蓮華が看病している。他にもくっ付いている奴は大勢いるがな」

 

華琳「確かに軍議だというのに、呉軍の大都督や大将軍の姿がないわね」

 

火蓮「申し訳ない」

 

劉備「赤斗さんは大丈夫なんですか?」

 

火蓮「華陀によると眠っているだけだそうだ。関羽と張遼は?」

 

劉備「二人とも気を失っているだけだそうです」

 

火蓮「まずは一安心だな。後は司馬懿が何処に向かったかだが…」

 

 

兵士「たた、大変です」

 

兵士が慌てて天幕に入ってきた。

 

華琳「何事か?」

 

兵士「そ、外に来てください!」

 

雪蓮「外? 外がどうしたのよ?」

 

兵士「そ、空が、とにかく来てください!」

 

一同「??」

 

火蓮たちは兵士に言われ、天幕の外に出た。

 

 

火蓮「これは…」

 

華琳「そんな馬鹿な」

 

劉備「これって……雪?」

 

雪蓮「今、何月よ」

 

外に出た火蓮たちは空を見て驚いた。

 

先程まで明るかった空は雲に覆われ暗くなり、夏も近いというのに雪が降り出していた。

 

火蓮「異常気象か?」

 

華琳「それだけなら良いのだけれど……」

 

劉備「どういう意味ですか?」

 

華琳「これも仲達の仕業かもしれないのよ」

 

雪蓮「何が言いたいの?」

 

華琳「……忘れたの? 仲達は龍脈の掌握しようとしている。そして、龍脈を制した者は森羅万象を司る事ができるって事を」

 

劉備「じゃあ、この雪も司馬懿さんの仕業なんですか?」

 

華琳「その可能性もあるって事よ」

 

火蓮「張遼なら何か知っているかもしれんな」

 

張遼「すまんけど、ウチは司馬懿から何も聞かされてへんよ」

 

火蓮たちの前に関羽と張遼が姿を現した。

 

華琳「霞!」

 

劉備「よかった。愛紗ちゃんも目が覚めたんだ!」

 

関羽「はい。ご心配をかけて申し訳ありませんでした」

 

 

華琳「…………」

 

天幕に戻ってから華琳は黙って張遼を見ていた。

 

張遼「……華琳。ウチは裏切り者や。…打ち首なり、なんなりしてくれ」

 

華琳「…………その必要はないわ」

 

張遼「何やて?」

 

華琳「あなたは仲達に操られていたのでしょう? 今までの事を悔やむというなら、今度こそ私の為に働きなさい」

 

張遼「けど…」

 

華琳「もう話はおしまいよ。霞……よく戻ってきてくれたわ」

 

張遼「華琳……すまん」

 

 

兵士「申し上げます!」

 

雪蓮「次から次へと騒がしいわね。今度は何?」

 

兵士「周瑜様がお戻りになりました!」

 

雪蓮「冥琳が♪」

 

火蓮「……ふふ、戻ったか」

 

暫くして天幕に冥琳がやってきた。

 

冥琳「文台様。周公謹、ただ今戻りました」

 

火蓮「うむ。よく戻ってきた。無事で何よりだ」

 

雪蓮「冥琳ー♪ 遅かったじゃない♪」

 

雪蓮が冥琳に抱きついた。

 

冥琳「雪蓮。どうやら、戻ってくる場所や時間には個人差があったみたいね」

 

火蓮「雪蓮、じゃれつくのは後にしろ。それで冥琳。今までお前は何処にいたのだ?」

 

冥琳「はっ。私がこの世界に戻ってきたのは半日ほど前です。気がついた時には洛陽の宮廷内にいました」

 

火蓮「今、宮中に明命が潜入しているのだが、見なかったか?」

 

冥琳「……幼平は鴉との戦闘で負傷しました」

 

雪蓮「何ですって!?」

 

火蓮「鴉…またアイツか。それで明命は無事なのか?」

 

冥琳「はい。華陀が診ております」

 

火蓮「そうか。それにしても、よく宮中から出てこれたな」

 

冥琳「はい。案内人がおりましたので…」

 

雪蓮「案内人? そんな奴、どこに居るの?」

 

冥琳「陣の入り口で別れたわ」

 

雪蓮「何者なの?」

 

冥琳「分からないわ。自分では世捨て人だと言っていたけど……」

 

 

その頃、赤斗がいる天幕では――

 

蓮華「赤斗……」

 

眠っている赤斗の周りには、呉の主だった武将や恋、月、詠たちが居た。

 

月「目を覚ましませんね」

 

祭「こやつの事だから、すぐに目を覚ますじゃろ」

 

亞莎「そうですよね」

 

老人「残念だが、そやつが目覚める事はない」

 

一同「!!」

 

声がした方を振り向くと天幕の入り口に見かけない老人が立っていた。

 

祭「何者じゃ!?」

 

そこに居たのは、明命が宮中へ侵入する為に使った秘密の抜け道で出会った謎の老人だった。

 

老人「邪魔するぞ」

 

詠「って、あんた誰よ!」

 

老人「ただの世捨て人だ。だから気にするな」

 

嶺上「気にするなって…」

 

藍里「お爺さん? ここは勝手に入ってきたらダメなんですよ」

 

老人「勝手ではないぞ。周瑜とかいう娘と一緒に、ここまで来たのだからな」

 

藍里「えっ! 冥琳様と!」

 

嶺上「あいつも戻ってきたのか」

 

老人「その周瑜をここまで案内してやって、家に帰ろうとしたのだが…」

 

月「どうしたんですか?」

 

老人「少し気になったから立ち寄ってみた」

 

亞莎「何が気になるんですか?」

 

老人「その小僧だ」

 

老人は赤斗を指差した。

 

祭「赤斗だと?」

 

蓮華「お前さっき、赤斗が目を覚まさないと言ったな。どういう事だ?」

 

祭「権殿?」

 

今まで赤斗の前から離れなかった蓮華が立ち上がり、老人に問いかけた。

 

老人「……その小僧。術、いや、呪いを掛けられておる」

 

蓮華「呪いだと…」

 

老人「そうだ」

 

藍里「赤斗様はどのような呪いに掛けられているんですか?」

 

老人「恐らく、小僧の魂は夢の中に幽閉されておる。云わば悪夢の牢獄だ」

 

月「牢獄…」

 

老人「そして、悪夢の牢獄に魂が幽閉されている限り、小僧が目覚める事は永遠にない」

 

藍里「そんな…」

 

亞莎「どうすれば…」

 

蓮華「どうすれば、呪いを解く事ができる!?」

 

老人「………誰かが夢の中に入って直接起こすしかないな」

 

蓮華「??」

 

嶺上「夢の中だと?」

 

 

亞莎「それはどういう事ですか?」

 

老人「…小僧の夢の中に入って、小僧の魂を悪夢の牢獄から解放してやるのだ」

 

祭「赤斗の夢に入るじゃと!?」

 

穏「そんな事が本当にできるんですか~?」

 

誰もが老人の事を訝しむ。

 

老人「信じる信じないは、お前たちの勝手だ。じゃあ私は帰るとするか」

 

蓮華「待て!」

 

天幕を出て行こうとする老人を蓮華が止めた。

 

老人「何だ?」

 

蓮華「お前が言っている事が本当なら、どうやって赤斗の夢の中に入るのだ? その方法をお前は知っているのか?」

 

老人「………知っているぞ」

 

蓮華「本当か!?」

 

老人「…お前……行く気なのか?」

 

蓮華「無論だ」

 

老人「止めておけ。お前まで取りこまれるぞ」

 

蓮華「そんな事を恐れるものか! だから……赤斗を助けるのを手伝ってくれ」

 

そう言うと蓮華は膝を地につけた。

 

祭「権殿!」

 

藍里「蓮華様!」

 

蓮華の行動を見て、祭たちは叫ぶ。

 

蓮華「止めるな! …頼む、私に力を貸してくれ」

 

蓮華は老人に頭を下げた。

 

老人「…お前はここに居る者たちの主だろ? 主が部下の目の前で頭を下げては、部下たちに示しがつかないのではないか?」

 

蓮華「……確かに私は王失格かもしれない。だけど、これで赤斗を助けられるのであらば、いくらでも頭ぐらい下げてみせる」

 

藍里「…蓮華様」

 

老人「……」

 

老人は黙ったまま何も応えない。

 

藍里「お願い致します。どうか、私たちにお力を貸して下さい」

 

亞莎「私からもお願いします」

 

祭「…仕方あるまい」

 

月「お願いします」

 

気がつくと天幕にいる全員が老人に頭を下げていた。

 

老人「…どうなっても私は知らんぞ」

 

あきらめたかのように老人は呟いた。

 

 

火蓮「赤斗の呪いを解くだと?」

 

藍里「はい」

 

華琳「その老人、何者なの?」

 

藍里「分かりません。冥琳様を本陣まで案内した方らしいのですが…」

 

劉備「ねえねえ、朱里ちゃんはどう思う?」

 

諸葛亮「そうですね。これが司馬懿さんの罠でないとも限りませんし、十分に注意した方が良いかと」

 

華琳「とにかく、仲達の呪いを解けるって事は、何かしら関係があると思っていいわね」

 

 

老人「で、行くのはお前でいいのだな」

 

蓮華「ああ」

 

藍里「待って下さい。どうか私もお供させて下さい!」

 

祭「儂も行く! 権殿だけを危険な目に遭わせるわけにはいかん!」

 

嶺上「私も行くぞ!」

 

亞莎「わ、私も…」

 

恋「恋も…赤斗を助けに行く」

 

老人「全員は無理だ。夢の中に行けるのは、せいぜい…二人までだ。相談して行く人間を決めるのだな」

 

蓮華「私が行く。これは絶対譲らないわよ」

 

嶺上「なら蓮華様以外に誰が行くかだな」

 

穏「ここは~公平にクジで決めましょ~♪」

 

藍里「そうですね。すぐに用意しましょう」

 

 

藍里「この中にアタリが一つあります。それを引いた人が蓮華様と一緒に行く。良いですね?」

 

藍里は一同を見回して確認をした。

 

クジに参加するのは、祭、嶺上、藍里、亞莎、月、恋の八人。

 

祭「うむ」

 

月「はい」

 

藍里「それでは行きますよ」

 

藍里が言い終えると同時に、祭たちはクジに手を伸ばして、いっせいにクジを引いた。

 

 

 

 

亞莎「………当たった」

 

当たりのクジを引いたのは亞莎だった。

 

 

老人「やっと決まったようだな」

 

 

 

老人「さて、これからお前たちを小僧の夢の中に送る。夢の中に入ったら小僧を捜せ」

 

蓮華「捜して起こせばいいのだな」

 

老人「だが、ただ起こしても悪夢の牢獄から抜け出せない。小僧を捕らえている原因を排除するんだ」

 

亞莎「そうすれば、赤斗様は目覚めるんですね」

 

老人「全てはお前たちしだいだな。準備が出来たのなら行くぞ」

 

蓮華たちは何も言わずに頷くと老人は懐から水晶玉を取り出した。そして、何やら呪文を唱え始めた。

 

蓮華「うぅ…」

 

亞莎「何だか…眠たく……」

 

そして、次第に蓮華と亞莎は眠りに落ちていった。

 

 

蓮華「うぅ……」

 

蓮華は気がつくと見知らぬ部屋で横たわっていた。

 

蓮華「…ここは、いったい……、あ、亞莎!」

 

すぐ側に倒れている亞莎を見つけて駆け寄った。

 

亞莎「ぅぅ、蓮華様?」

 

蓮華「よかった。気がついたのね」

 

亞莎「蓮華様、……ここは赤斗様の夢の中なのですか?」

 

蓮華「わからないわ。少し辺りを探ってみましょう」

 

亞莎「はい。それにしても、変わった造りの部屋ですね」

 

亞莎が辺りを見渡す。

 

部屋の作りは無機質で、大きなコンテナなどが置かれている。

 

蓮華「そうね。私たちの国では見たことがないわ。もしかすると天界のものかもしれないわね」

 

そう言って蓮華は部屋の出口に向かった。

 

蓮華「亞莎、ここから出れそうよ」

 

亞莎「蓮華様、待って下さい」

 

亞莎も蓮華の後を追って出口へと向かう。

 

蓮華「じゃあ、行くわよ」

 

亞莎「はい」

 

二人は緊張しながら扉を開けた。

 

 

外に出た蓮華たちの前に広がったのは、青い空に青い海。

 

見渡す限り、陸は見えない。

 

蓮華「……」

 

亞莎「……きれい」

 

目の前に広がる大海原に二人は見惚れてしまった。

 

蓮華「ここは……船の上か」

 

暫くして、自分たちが居るのが船上である事に気がつく。

 

二人が乗っている船は、大型のフェリーだった。

 

孫呉の水軍を見慣れている二人だったが、自分たちが乗っているフェリーに圧倒されてしまった。

 

亞莎「これが天界の船…」

 

蓮華「と、とにかく、赤斗を探すわよ」

 

亞莎「は、はい」

 

 

フェリー内の捜索を始めた蓮華たちだったが、人ひとり見つける事が出来ずにいた。

 

蓮華「誰もいないのかしら?」

 

亞莎「これだけ大きな船です。まだ探していない場所があるんだと思います。もう少し奥まで探してみましょう」

 

蓮華「…あっ!」

 

亞莎「蓮華様? どうかされましたか?」

 

蓮華「今、あそこで何かが動いたような…」

 

蓮華はすぐ側の物陰を指差した。

 

亞莎「…行ってみましょう」

 

蓮華「そうね」

 

恐る恐る二人は物陰に近づいた。

 

亞莎「え…」

 

蓮華「あなた…」

 

そこに居たのは十歳ぐらいの子供だった。

 

蓮華「ちょ、ちょっと待って!」

 

蓮華は子供に話しかけようとしたが、蓮華と目が合った子供は駆け足で逃げていった。

 

亞莎「蓮華様、今の、もしかして!?」

 

蓮華「とにかく追うわよ」

 

亞莎「は、はい!」

 

蓮華たちは子供の後を追った。

 

 

子供を追って蓮華たちフェリーの中に入った。

 

蓮華「あの子、どこに行ったのかしら?」

 

亞莎「蓮華様。……先ほどの子供……」

 

蓮華「……どことなく、赤斗に似ていたわね。夢の中では赤斗は子供になっているって事なのかしら?」

 

亞莎「蓮華様もそう思われましたか。やはり、あの子が…赤斗様」

 

蓮華「…今は早くあの子を見つけるわよ」

 

亞莎「はい」

 

 

それから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 

夢の中なので、どのくらいの時間が経ったかなど分からない。

 

だが、蓮華たちは手がかりを求めてフェリー内を探した。

 

そして、客室を一つ一つ調べていくうち、遂に蓮華たちは目的の子供を見つけた。

 

蓮華「見つけた!」

 

目の前には赤い髪の男の子が立っていた。

 

蓮華たちが知っている赤斗と比べて、あまりにも幼かったが、目の前にいる子供は間違いなく赤斗だと蓮華たちは確信した。

 

蓮華「赤斗っ! 赤斗なんでしょう!」

 

赤斗「ん? お姉ちゃんたち……誰?」

 

蓮華「……赤斗…どうしたの? 私がわからないの?」

 

赤斗の言葉に衝撃を受けた蓮華は赤斗に手を伸ばす。

 

だが、蓮華の手が赤斗に触れようとした時だった。

 

大きな衝撃音とともに船体が大きく揺れた。

 

蓮華「きゃっ、な、何!?」

 

蓮華の身体は、あまりにも大きな揺れの為、壁まで飛ばされた。

 

亞莎「蓮華様! 大変です。浸水です!」

 

悲痛な顔で亞莎が叫ぶ。

 

蓮華「何ですって!」

 

フェリーは傾き、すでに膝まで海水が入り込んでいた。

 

亞莎「早く脱出しましょう! このままでは私たちも船ごと沈んでしまいます!」

 

蓮華「わかっているわ! 赤斗っ! あなたもこっちにいらっしゃい!」

 

赤斗の方に振り向くも、赤斗は酷く怯えており、その場から動けずにいた。

 

蓮華「赤斗っ!! 今、行くわ!」

 

動けない赤斗を迎えに行こうとする蓮華。

 

だが、今も浸水は止まらず、次から次へと水は流れ込んでくる。

 

そして、再びの衝撃音とともに大量の海水が押し寄せてきた。

 

亞莎「蓮華様っ! 赤斗様ーーーっ!!」

 

蓮華「亞莎ーーっ! 赤斗ーーーっ!!」

 

赤斗「………っ!!」

 

赤斗、蓮華、亞莎の三人は海水に飲み込まれ、そのままフェリーと一緒に沈んでいった。

 

 

亞莎「んん…ここ、は…? ……えっ!?」

 

意識を取り戻した亞莎は身体を起こす。

 

そして辺りを確認して驚いた。

 

そこは先ほど沈んだはずのフェリーの上だった。

 

全身びしょ濡れだった身体は、まったく濡れておらず、フェリーが沈んだ事自体が無かったかのようだった。

 

亞莎「何で? どうなってるの? 沈んだはずの船が、浮かんでる」

 

蓮華「亞莎っ!」

 

亞莎「蓮華様! ご無事だったんですね。赤斗様は?」

 

蓮華「一緒じゃないわ。亞莎も一緒じゃないのね」

 

蓮華の表情が暗くなる。

 

亞莎「すみません…」

 

蓮華「亞莎が謝る事じゃないわ。さあ、赤斗を探しましょう」

 

亞莎「はい!」

 

蓮華「それにしても、この船も私たちも一緒に海の底に沈んだはすなのに、どうなっているのかしらね。夢だから、何でもありって事かしら?」

 

亞莎「……やはり、ここが赤斗様の夢だからでしょうか? ……あっ!」

 

蓮華「どうしたの亞莎!?」

 

亞莎「もしかして、この夢は…赤斗様の過去なのかもしれません」

 

蓮華「赤斗の過去? どうして、そんな事がわかるの?」

 

亞莎「以前、赤斗様の修行にご一緒した時に、虎徹様から聞いたんです。赤斗様の子供の頃の話を……」

 

蓮華「……」

 

亞莎「赤斗様は子供の頃に、海難事故でご両親をなくして、赤斗様自身も死にかけた事があるそうです」

 

蓮華「もしかして、赤斗が海が苦手なのは、その事故のせい?」

 

亞莎「そのようです。きっと、この夢はその時の事故の再現…」

 

亞莎の言った通り、この夢は悪夢の牢獄というだけあって、赤斗が最もつらい過去を繰り返し終わる事なく見せ続けていた。

 

蓮華「そうと分かれば、尚更早く赤斗を見つけるわよ」

 

そう言うと蓮華は再びフェリーの中に走っていった。

 

亞莎「あっ、蓮華様、お待ち下さーい!」

 

亞莎は慌てて蓮華の後を追っていった。

 

 

つづく

 


 
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