No.47320

珈琲

2~3年前に書いたSSなのですが……^^;
まぁ、試しに投稿してみようかなと。
そんなに長くないですので、読んでいただけると幸いです。

2008-12-18 07:56:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:745   閲覧ユーザー数:718

 

 今日は水曜日。大学の授業が2時半に終わり、3時にはこの喫茶店でコーヒーを楽しむ――これが毎週の私の楽しみです。

 もちろん毎週のことですから、いつも座る指定席のようなものがあるのです……が、

「あっ、蒼崎先輩! お疲れ様です!」

 店の隅、私のいつもの席を横取りしている不届き者、

「星野君じゃないですか……。こんなところで何をしているのですか?」

 我が文芸部、期待の新人がそこにいました。

「『何をしているのですか』は無いですよー。コーヒーくらい飲んでたっていいじゃないですか」

「はいはい、でもその席は毎週私の使っている席なのですよ。譲ってくれれば幸いなのですが」

「もうっ、別に席ぐらいどこでもいいじゃないですか。というか一緒に座りましょうよ! 二人がけの席なんですからっ」

「ふむ。では、まぁ――そうしましょうか」

 本当は一人で楽しむ午後のひととき、というのがおつなのですが……まぁたまには良しとしましょう。

「マスター、いつものをお願いします」

「はい、かしこまりました」

 いつもの注文にいつもの返事、違うのはいつもはいない同席者。

「ねっ、蒼崎先輩はここによく来るんですよね? ここのコーヒー好きなんですか?」

 どうやら、いつものように読書に勤しむ時間はなさそうです。

「そうですね、ここはこだわりのコーヒーを提供してくれますから。それに店の雰囲気も大好きです」

「あー、店の雰囲気って大事ですもんね!」

「ええ。それよりも星野君がこういう店に来るのは意外でした」

「えー! 結構飲むんですよ、コーヒー」

 いえ、飲むか飲まないかが問題なのではなく。

「そうではなくて、こういう店は堅苦しく感じる質なのではないかな、と」

「むしろそんな事を気にする質だと思いますか?」

 あぁ、確かに、

「全然、ですね」

 この新入部員は好奇心と行動力の固まりみたいな性格で、特に小説のネタ探しとなると、お金の許す限りどこまでも行ってしまいそうなくらいですから。

「どうぞ、お待たせしました」

「はい。いつもありがとうございます、マスター」

 話の切れ目という丁度良いタイミング。もしかすると、そこら辺を計ってくれたのかもしれません。

 では早速いただくとしますか。コーヒーは淹れたてが最も美味しいですからね。

 …………。

 ん~、やはり家で飲むインスタントとはわけが違いますね。

「ところで……蒼崎先輩」

 真顔で少し顔を近づけて、いきなり小声で話しかけてくる星野君。

「どうしました?」

 こちらも小声で聞き返します。

「今日のコーヒー、いつもと少し味が違いませんか?」

「……そうですか?」

 ではもう一口。

 …………。

「――私はいつもと同じに感じますよ。とてもおいしいです」

「よかった~!! この店の常連の蒼崎先輩にそう言ってもらえるなら安心です!」

「?」

 真顔かと思ったら、今度はいきなり笑顔。言っている事も何が何だかよく分かりません。

「実はですね~、――今日のコーヒー、私が淹れたんですよっ!」

「えっ?」

「で、す、か、ら~。今日のコーヒーはこの店の看板娘である私が入れたんですっ!」

「ええっ!?」

 星野君がこのコーヒーを入れたですって!?

 ええと……。整理すると、つまりここは星野君の家で、あの落ち着いたマスターは星野君のお父さんって事で――。

「すみません! 蒼崎先輩が常連さんなのも知ってたんですが……」

「いえいえ、謝る必要はありませんけど……驚きました。でも何故? 私を驚かすためにわざわざ、ですか?」

「えっと~……あの、あのですね」

 またいきなり真面目な顔になった星野君。今日の彼女は少し変です。

 内緒話をするように手を口に近づけて、またテーブルに身を乗り出す星野君。

 私が耳を近づけると。

「一度しか言わないですから。よく聞いててくださいね」

「はい」

「わ、私――蒼崎先輩の事ずっと前から、だ、大好きでした。……えっと、蒼崎先輩にこの店のコーヒーが出せるようになったら言おうって、思ってたんです! あの、付き合って、もらえないでしょうか?」

 ――――。

 ええっと、頭が真っ白というのはこういう事を言うんでしょうね。

 あまりの驚きにどうしていいのか……。

 元の体勢に戻り、でも顔はうつむいて恥ずかしそうにしている星野君。

 星野君とは、同じ文芸部で趣味もあいますし、一番話しやすい女性ですし、話していてとても楽しいですし、何よりもとても――可愛い。

 ――断る理由、無いじゃないですか。

「……はい。是非、お願いします」

 未だかつて無い早さで胸がドキドキと高鳴っています。ああ、小説とかで表現される告白シーンは、なるほどこのような感じなのですね。

 緊張と恥ずかしさと暖かさと、こんなの言葉では表しきれないです。

「――はいっ! ありがとうございます!!」

 彼女も同じ気持ちなのでしょう。恥ずかしそうに、でも最高の笑顔を私に向けてくれています。

 …………。

 星野君が入れてくれたというコーヒーをもう一度、ゆっくりと味わっていると、

「あっ、でもやっぱりこのコーヒーいつもと違いますよ!! だって――」

 

 

「私の愛情がたっぷり入ってますから!」

 

 
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