No.472687

同人恋姫祭り とある宿の幽霊

黒山羊さん

久しぶりですね。黒山羊です。
最近仕事と勉強が忙しくて中々SSが書けなくて心苦しいです。

では、作品紹介を
おちRさんの『真・恋姫†無双 白蓮伝』ですね。

続きを表示

2012-08-19 23:37:01 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:3962   閲覧ユーザー数:3225

 

龐士元という少女は幽霊を信じていない。

何故なら、幽霊が存在した場合、この世界が如何に広いと言えども、これまでこの世界で生を受けて死んだ人を現在に集めたら、人混みならぬ幽霊混みになってしまう。そう考えていたからだ。

決して、半透明の人型の煙の様なモノが怖くて、理屈をこねて、無理矢理自分を納得させている訳ではない。

だから、今、目の前にいる人型の煙は幻覚だ、これは夢だと思いこもうとしている。

だが、残念ながら、これは幻覚でもないし、夢でもない。

では、目の前にいるのは何か?と雛里は考えるが、幽霊を怖いので信じない様にしt……幽霊の存在を信じていなかったが、現状から認めざるを得ないらしい。

 

何故、このようなことになったのか、事の発端は数日前の三国会議に遡る。

 

『暑くて、まともに仕事が出来ないから、避暑地に行こう。』

 

北郷一刀のこの言葉が始まりだった。

この言葉に賛同する将が多かった為、都近くの避暑地に向かう事となったのだ。

 

だが、道中雨が強くなり、近くにあった宿に泊ることとなった。少し古そうな宿ではあったが、清潔であった上に、宿の主人たちは温かく迎え入れてくれたので、宿の雰囲気に皆が怖がることはなかった。

護衛の兵達は宿の周りに天幕を設置して、天幕で泊ることとなった。

幸い雨は弱くなってきたので、雨で天幕が潰れることはないだろうと兵達は安心していた。

だが、雨が弱くなったから移動というわけにもいかなかった。それは、先ほど降った雨のせいで近くの川の水かさが増してしまった為、橋が壊れてしまい、数日此処に滞在することとなった。

夕食を食べ、食後のお茶をし、少し遊んだが、一部の将が眠いと言いだしたので、寝ることとなった。

雛里もそのときは眠たかったので、寝台につくと、すぐに寝てしまった。

 

夜中、雛里はある音を聞いたので、目が覚めた。

最初は雨の音だろうと思ったが、雨の音ではないのはすぐに分かった。

なぜなら、耳に聞こえてくる音が自分の知っている雨音と全く違っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

タッ……タッ……タッ……

 

何かが歩くような音。音の間隔が広い。

最初は野生動物か何かかと思ったが、違う。なぜなら、動物は捕食者や被食者に聞こえないように歩く習性があるため、こんな音を立てたりしないはずである。

では、この音の正体は?気になった雛里はその音の正体を確かめようとしたのだが、体が動かない。

それ以前に、体に何かが乗っているかのように重く、息苦しかった。

雛里は初めての体験に驚きと恐怖を感じた。

寝ぼけて体が動かないのかと思えば、違う。目だって見えるし、音だって聞こえる。

つまり、頭はしっかり働いている。だから、今自分が寝ぼけているわけでもない。

自分の今置かれている状況を整理していると、蜀の南の方に住んでいるミャオ族から聞いたある言葉を思い出した。

 

『金縛り』

 

寝ている時に子供ぐらいの大きさの動物が胸に乗って来ると言う怪談だった。その動物は『圧しつぶす悪魔』とミャオ族から言われ、金縛りにあった人の体を止める妖術を使い、呼吸を止めようとしてくるらしい。

圧しつぶす悪魔に殺されると思った雛里は必死にもがこうとするが、指の一本も動かせないし、『朱里ちゃん、助けて!』と助けを呼ぼうとしても声が出ない。

残念ながら、打つ手はないし、悪魔という幽霊に似た存在を認めざるを得なかった。

打つ手が無くなった雛里は最後にこの圧しつぶす悪魔の正体を見てやろうと思い、恐怖と戦いながら、目をソッと開けた。すると、自分の目の前には人型の煙が居た。

 

こうして、現在に至る。

 

『お願い、お供えしますから、成仏して下さい。』

 

言葉を発することが出来ないので、煙に向かって雛里は念じる。

 

 

 

 

 

 

 

タッ……タッ……タッ……

 

祈りが通じたのか、雛里の上に乗っていた煙はスゥーっと消えて行った。

そして、次の瞬間体の重みが消え、体が動く様になった。

体が動く様になった瞬間、雛里は……

 

「ふうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」

 

号泣し始めた。

 

 

 

 

「金縛りね。」

「……はい。」

「幽霊なんて見間違い。幽霊なんて見間違い。」

「愛紗、大丈夫か?」

「はい!ご主人様!私は大丈夫です!ご心配には及びません!」

「そ…そっか。それなら良いんだけど。」

 

雛里は北郷一刀と一緒に朝食を取りながら、昨夜の出来事を話した。

昨日の夜中の時点で殆どの武将が昨夜に雛里が号泣したことを知っていたが、その理由は知らなかった。

昨夜、雛里はずっと朱里にしがみついて、泣いていたからだ。

その理由を聞く為に、落ち着いた雛里に一刀が聞きだそうと探りを入れたのだ。

雛里を怖がらせない様に一刀は細心の注意を払い、話し始めたが、雛里は一刀が傍に居ることができて安心しているのか、すんなりと話してくれた。

怖い夢でも見たのだろうと思っていた愛紗だったが、幽霊という言葉にビビってしまっていた。

本人は大丈夫だと言っているが、目の焦点が会ってないし、手が震えている所を見れば、誰もが大丈夫じゃないだろうと言いたくなってしまうような状態だった。

 

「じゃあ、今日は一緒に寝てあげようか?」

「ふぇ?」

 

雛里は一刀の申し出に驚くが、最近一刀と一緒に過ごす時間がなかった雛里は、断らなかった。

一刀は一刀で、幽霊が見てみたいというのがあったという思惑があった。

そこへ思わぬ人物が入ってきた。

 

「恋も一緒。」

 

雛里の正面に座っていた恋が唐突に言う。

『一刀と一緒に居るのにその手があったか!』と思った一刀とご無沙汰だった将が数人居た。

彼女たちは今此処で幽霊を見たと言ったところで、説得力がないと思ったので、夜中に幽霊を見たと嘘をついて、一刀の部屋に逃げ込もうと考えた。

 

「雛里、昨日と違う。」

「昨日と違うってどういうことだ?恋?」

「いつもの雛里ほわほわ、でも、今の雛里ふよふよ。」

 

恋の言葉を聞いた一同は『なんじゃそりゃ』と思いつつ、『これは何かがある』と推測する。恋は策を衒うことを得意としない為嘘を付かないこと、恋の直勘はよくあたるという2つの周知の事実からだ。そのため、さきほど、一刀と一緒に寝るために嘘を付こうと考えていた将は不味いかもと考えを改める。

そして、あの部屋に何か問題があるのなら、朱里を一人あの部屋に残すのも何かあると不味いので、朱里も一刀と同じ部屋で寝ることになり、その旨を宿屋の主人に伝える。

 

「……あぁ、出ましたか。」

 

宿屋の若い主人はため息を吐きながら、そう言い、謝り、頭を抱えて、座り込む。

 

「よく出るんですか?」

「えぇ、漢の時代の古戦場がこの近くにありまして、戦死した兵の幽霊の大群が出るんですよ。私もたまに見ますよ。万が一のために皆さんの部屋の家具の裏にお札を幾つか貼っているのですが、お札を剥がさないでくださいね。」

 

それを聞いた雛里と朱里は血の気が引き、気を失った。

本当なら、別の宿に行きたいところだが、他に宿がないため、我慢するしかない。

幸いにもこの話を聞いたのは朱里と雛里、恋と自分の4人。

この話を他言無用にし、他の皆の耳に入らないようにし、要らぬ心配をさせないことにした。

そして、再び、夜を迎えた。

 

「恋が皆守る。」

 

恋は方天画戟を持ち、一刀達が寝る部屋の寝台の横にある椅子に座る。

幽霊が出ても大丈夫なように、寝ずの番を恋がすることとなったのだ。

雛里と朱里は一刀を挟んで寝ることとなった。

三国一の豪傑と自分の愛しい人が傍に居るのだ。絶対に問題ない。仮にまた幽霊が出ても、恋がいるのでやっつけてくれるし、和人が傍に居るから怖くない。雛里はそう思っていた。

雛里は安心したまま、夜を迎えた。

 

 

 

 

 

タッ…タッ…タッ…タッ…タッ…タッ…

 

雛里はそんな音で目が覚めた。

昨日聞こえた音と似ている。だが、今日の音は昨日の音と比べて間隔が狭い。

もしかして、今日も幽霊が出て、金縛りをしてくるのかもしれない。嫌な予感がした雛里は布団の中に潜り込み、隣に居る一刀の方を向き、手を握って、音が遠ざかっていくのを待った。

だが、雛里の思い通り遠ざかって行かず、逆に近づいてきた。

雛里は涙目になりながら、一刀の手を握って、息を殺す。

だが、それでも音は近づいてくる。

 

『絶対目を開けちゃダメ。絶対目を開けちゃダメ。絶対目を開けちゃダメ。』

 

呪文を唱えるように雛里は自分に言い聞かせ、閉じている目に力を入れ、眠りにつこうとする。

だが、怖さのあまり気持ちが高ぶってしまった雛里は逆に寝られなくなってしまった。

そんなおびえる雛里に足音が近づいてくる。

 

『お供え物しますから、許してください。』

 

雛里は昨日と同じことを心中で唱えた。

 

 

 

 

 

タッ…タッ…タッ…タッ…タッ…タッ…

 

すると、足音は次第に遠ざかっていき、聞こえなくなった。

最後の足音を聞いた雛里は助かったと安心し、気絶した。

 

 

 

 

「また出たのか?」

「はい。」

 

翌朝の朝食で雛里はゲッソリしながら、返事をした。

正面に居る一刀はとても心配そうな顔で雛里に声をかけているが、雛里は精神的疲労の所為で、それに気づいていない。精神的疲労の原因は昨晩の足音だ。その音が耳から離れなかったため、雛里はどんな些細な音にでも過剰反応するようになってしまい、すっかり疲れてしまったのだ。

 

「……ごめんなさい。」

 

恋は雛里の聞いた足音が聞こえなかったらしく、雛里を守れなかったと落ち込んでいる。

触角のように立っている2本の毛も干からびたモヤシのようにシナシナになっている。

恋はずっと起きていたらしく、夜中に、突然宿全体の空気が変わり、変な足音が聞こえ、同時に雛里が布団の中に潜り込んだのは知り、足音の音源を探しに行こうと思ったが、雛里の傍から離れられないので、どうしたら良いのだろうと一晩中困っていたらしい。

 

「つまり、どんな幽霊か、今のところ、全くわからないか。」

「そういうことになりますね。」

 

雛里の隣に座っている朱里は顎に手を添えて返事をし、何か対策がないかと考えている。

朱里は朝食後、一昨日の夜と昨日の夜の雛里の話を紙に書き、整理していく。

そして、あることに気が付いた朱里は雛里に質問をした。

 

「『お供え物をするから』って言ったら、足音が消えたんだよね?」

「……うん。」

「古戦場の後に行って、お供えをしてみようよ。そうすれば、今晩は出ないかもしれないよ。」

 

朱里がそう提案すると、一刀も横でそれが良いなと言う。

橋の修理には時間がかかるらしく、明日まで此処に居なければならないことになっている。

そのため、また今晩出てこられたら、雛里の精神的疲労もかなりのものになってしまう。

お供え物をして、幽霊が出てこなくなる可能性があるのなら、お供えをした方が良い。

朱里と一刀は雛里のために、お供え物の準備を始めた。

そして、宿の主の案内で古戦場に行き、鎮魂祭のようなものを行った。

慰霊碑を作り、お経をあげ、花を添え、手を合わせ、戦死者の冥福を祈る。

気のせいかもしれないが、古戦場の雰囲気が少しばかり明るくなったように雛里は感じた。

 

「あれ?恋は?」

 

古戦場の帰りに一刀がそんなことを言った。

確か、古戦場には全員で行った筈だから、武将全員が居るはずだ。

なのに、恋の姿だけが見当たらない。

どこに行ったのだろうと一刀達は手分けして恋を探すのだが、古戦場を幾ら探しても見つからない。

一部の将が『お腹が減って、宿に戻ったのだろう』と言った。

そうかもしれないと思った一刀は宿に戻ろうと提案したので、一部の将だけ残して宿へと戻った。

 

「恋、探したんだぞ!」

 

宿の周りをグルグル回っている恋を見つけた一刀は少し怒りながら、恋に近寄る。

 

「宿に戻るなら、戻るって言わないと皆が心配するだろう?心配したんだからな。」

「ごめんなさい。」

「で、どうして、宿に戻ったんだ?」

「あそこじゃない。」

「え?」

 

一刀は恋の言葉を聞いた瞬間血の気が引いた。

雛里が見た幽霊は古戦場の幽霊じゃない!?だったら、さっき古戦場でした地鎮祭は無駄だったのか!

もしそうなら、今晩もまた幽霊が出てくるかもしれない。

せっかく雛里はストレスの原因が解消され、精神的に余裕を持ち始めたのに、幽霊に会ったんじゃ、またノイローゼになってしまう。

幸い雛里はこの場に居ない。だから、今の恋の言葉は聞いていない。

一刀は雛里に知られないようにお祓いをして、幽霊が出ないようにしようと考えた。

妖術を少し使える地和に相談する。

地和は幽霊を相手にした妖術をこれまで使ったことがないため、上手くいかないかもしれない。

それに、日が暮れ始めているため、今からお祓いをしようにも、大がかりなものはできない。

だから、完全に幽霊を成仏させることはできないと地和は言う。

 

「今晩だけ出ないなら、それで良いよ。」

「わかった。頑張ってみる。」

「恋は雛里と朱里を連れて旅館の近くの温泉に行って、向こうで時間を稼いでくれ。俺は地和とお祓いの準備をして、雛里が返ってくるまでに何とかする。」

「うん。」

 

一刀は宿の主に事情を話し、簡単なお祓いをすることとなった。

簡単といっても1時間は掛かっている。

雛里たちが返ってきてもお祓いが見つからないように、宿の裏でお祓いをした。

そして、最後に盛り塩をすることとなったのだが、突然雲行きが怪しくなってきた。

この時間帯なら夕日が見えるはずなのだが、灰色の雲しか見えない。

時々雷が鳴っている。

 

「雨で盛り塩が流されてしまうかもしれないな。流されたら駄目なのか?」

「えぇ、盛り塩って一種の結界の基点みたいなものなの。だから、結界の基点である塩がなくなったら、結界も消滅してしまう。そうなれば、今のお祓いも水の泡ね。」

「ったく、こんな時に雨なんか降らなければいいのにな。」

 

一刀は雨避けになるようにと盛り塩の上に開いた傘を置き、風で飛ばされないように石と縄で固定した。

そして、傘が動かないことを祈りながら、宿の中に入った。

宿に入ると温泉に行っていた雛里たちと

 

「ご主人様、お風呂気持ちがよかったです。」

「そっか。俺も行けばよかったな。でも雨だから、仕方がないか。」

「お風呂だけじゃなくても、この『ざいふぇ』というのも凄かったです。」

「『ざいふぇ』?」

「これです。」

 

そう言って雛里が差し出したのはマッチ箱サイズの小さな何かだった。

一刀は手に取り、様々な角度から『ざいふぇ』と呼ばれたものを見る。

 

「これ、どうやって使うんだ?」

「これは水につけて擦ると泡立つんです。」

 

雛里はそう言うと『ざいふぇ』と呼ばれたそれを濡れた手でこすり始めた。

すると、『ざいふぇ』は泡立ち、雛里の手を見えなくしてしまった。

 

「はぁ、石鹸か。」

「せっけん?ご主人様はこれを知ってるんですか?」

「あぁ、天の国ではこの『ざいふぇ』を石鹸って呼んでたんだ。」

「天の国って何でもあるんですね。一度行ってみたいです。」

「そうだな。皆で行けたら良いかもな。」

「ご主人様、夕食ができたよ。」

 

手を振りながら桃香が一刀の方に近寄ってきた。

そして、皆で夕食となった。

酒で深い眠りにつけるように、一刀は夕食の時に酒を雛里に飲ませた。

酒に対する耐性が弱い雛里はすぐに寝てしまった。

後は何事も起こらないことを祈るだけだった。

そして、少しだけ酒を飲んだ一刀もウトウトし始め、雛里の横で寝始めてしまった。

 

 

 

 

「厠。」

 

そう言って雛里は夜中に目が覚めた。

酒を飲みすぎてしまったのが原因だろうと考える。

 

「恋さん、厠に行くので、ついてきてくれませんか?」

 

寝台の横の椅子に座っていた恋に雛里は声をかける。

すると、恋は方天画戟を持って立ち上がり、恋が雛里の数歩前を歩き雛里を厠の方へ案内する。

厠は宿の離れのようなところにあり、少しばかり歩かなければならない。

 

外は雨が降っているらしく、雨音が聞こえてくる。

数日前に振った雨に比べれば、かなり弱い雨のようだ。

雨音が小さかったため、誰かがしゃべって声が聞こえた。

 

「おぉ、こんなところに傘がある。なんか固定されてるけど、借りて良いよな?」

「どうしたんだ?」

「傘が落ちてたので、借りました。」

「そうか。だったら、さっさと見回りを終わらせようぜ。」

「どうしたのですか?」

「いや、ここらへんにな昔から伝わる怪談を聞いてよ。あまりにも怖くてな。正直さっさと夜の見回りを終わらせたいんだ。」

「へぇ、そんな怖いのですか?」

「あぁ、実は………。」

 

雛里は先が気になったが、怖くて厠に行くのを護衛してもらっているような人がこんな夜中に怪談を聞いたら、もう何もできなくなってしまうので、耳を塞いだ。

そして、恐怖を誤魔化すために一人連想ゲームをしていると目的の厠にたどり着いた。

 

厠は暗く、自分の持っている行燈がなければ、全く見えない。

普段なら、厠についている窓から月明かりが入ってきそうなのだが、生憎の雨で、月明かりは全くない。

行燈を持った雛里は厠の中に足を運ぼうとしたが、震えて一歩も動けなかった。

 

「恋、前で待ってる。だから、大丈夫。」

 

恋は雛里の手を引き、厠の中に入る。雛里はゆっくりと厠に入り、用をすまそうとする。

できるだけ、楽しいことを考えるのだが、それでもやはり心の片隅には恐怖がある。

用をたし、下着をあげようとしたその時だった。

 

 

 

タッタッタッタッタッタッタッタ

 

今一番聞きたくない音を雛里は聞いてしまった。

雛里は急いで下着を履こうとするのだが、浴衣のような寝間着を巻き込んでしまい、絡まってしまう。

下着と寝間着がグチャグチャに気持ち悪い。雛里は行燈の明かりを頼りに急いで服の絡まりを直す。

だが、急がば回れというように、服が余計に絡まってしまい、事態は悪化している。

そんな時、雛里は声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

『………………がない』

 

 

声はかすれていたが、間違いなく女性の声だった。

聞こえた女性の声に聞き覚えはない。三国の将の誰のものでもないし、ここの宿の経営者に女性はいないし、兵は外に居るから、兵の声でもない。では、この声は?

雛里の額から嫌な汗が垂れる。

早く厠の外に居る恋に会いたいと思った雛里は寝間着と下着を何とか直し、厠の個室から出ようとした。

だが、個室の扉の開かない。雛里はパニックで入る時にどうやって入ったのか忘れてしまっていたのだ。

扉を押して入ったのか、引いては行ったのか、右にずらして入ったのか、左にずらして入ったのか、記憶をたどると同時に、色々試してみるのだが、扉を開ける以前に、鍵を解除していない為、扉が開かない。

 

 

 

 

 

『…………ものがない』

 

 

また声を聴いてしまった。

雛里はもう怖くて、腰が抜けてしまい、自力で立っていられなかった。

両手で扉の様々なところを触っていると、扉に鍵がかかっていることに気が付いた雛里は鍵を解除し、扉を開き、個室の外に這い出した。

 

 

 

 

『おそなえものがない』

 

 

 

 

個室の前には女性が立っていた。

農民なのかボロボロの布切れの継ぎはぎのような服を着ていた。

髪は黒髪でとても長く、膝まである。神の隙間から見える肌はまるで水気を抜かれたかのようにカサカサで、目は漆黒だ。誰が見ても健康な人間…いや、生きている人間には見えなかった。

そして、そんな生きている人間とは思えないような顔で雛里を見下ろしていた。

 

それを見た雛里は叫んで恋を呼ぼうとするが、恐怖のあまり声の出し仕方をわからない。

それどころか、体の動かし方も、瞬きの仕方も、息の吸い方は分からない。

体が締め付けられているかのように苦しい。

まるで、金縛りだった。

 

目の前に立つ女性はゆっくりと足を引き摺るように自分に近づいてくる。

素足なのか、石でできた床にペタペタと音が響く。

そして、後数歩で捕まってしまいそうになった時だった。

 

「雛里。」

 

真横からさっそうと現れた恋が雛里の目の前の女性に向かって方天画戟を振り下ろす。

本気を出して振り下ろされた方天画戟は厠の床を粉砕した。

だが、

 

「!!」

 

恋が攻撃したはずの女性は相変わらずその場に立っていた。

数度、恋は方天画戟を振るうが、攻撃がすり抜けてしまう。

攻撃をすり抜けながら、女性はなおも雛里に近づいてくるので、恋は雛里を抱え、厠から逃げ出した。

 

「雛里……あれ、誰?」

「幽霊だと思いましゅ。」

「あれ、危ない。雛里を捕まえようとした。」

 

恋の言葉に雛里は驚く。あの時に恋が来なかったらと思うと、ぞっとする。

厠から出た恋は走って、地和のところへ向かおうとする。

妖術であの幽霊をなんとかできるかもしれないとそう思ったからだ。

 

 

 

『おそなえものがない』

 

 

気が付けば、厠にいたはずの幽霊が目の前に居た。

恋と雛里は驚く。なぜなら、雛里を抱えていたとはいえ恋は全速で厠から走っていた。そのため、常人に追い付かれるどころか、先回りされるなどあり得ない。

だが、間違いなく厠で見た女性の幽霊だった。

恋は雛里を抱えたまま、方天画戟を振るい、宿の廊下の棚に置かれていた壺を引っかけて飛ばした。

だが、またしても攻撃はすり抜けてしまう。

恋は方向転換し、少し遠回りになるが、幽霊と遭遇しないようにする。

 

 

 

『おそなえものがない』

 

 

その言葉が聞こえるたびに、恋は方向転換をする。

あり得ないことづくしで、さすがの恋も少し動揺しているのか、冷や汗を垂らしている。

そして、最初に居た厠の近くにある倉庫のような小屋に二人は逃げ込んだ。

 

「ここなら、見つからない……かも。」

「かもって…。」

 

雛里は恋の力のない言葉に不安を覚える。

もし、あの幽霊に見つかったら、どうなるのか?雛里は想像する。

殺される?魂を抜かれてしまう?乗り移られてしまう?

様々なことを想像してしまい、雛里は震える。

そんなとき、雛里はあることを思い出した。

 

「恋さん。」

「何?」

「さっき、厠に行く途中で兵が話していたこと覚えていますか?」

「うん。」

「怪談ですよね?」

「うん。」

「お話覚えていますか?」

「うん。」

 

頷いた恋は雛里に怪談の話をし始めた。

 

昔々、あるところに一人の夫婦が居た。

誰もが羨む美男美女の仲良し鴛鴦夫婦で、この仲がいつまでも続くと思っていた。

だが、そんな二人の仲を裂く事件が起こった。

近くで戦争が起こり、夫は兵として駆り出されることになってしまった。

女は夫が返ってくるのを信じてやまなかったが、その思いは天に届かなかった。

半年後、夫が戦死したと生き残った同じ村の兵から聞かされた。

絶望に打ちひしがれる女だったが、こんなところで泣いていても夫は帰ってこない。それどころか、天に居る夫に心配されてしまう。だから、明るく生きて、夫を安心させようとした。

まずは、夫が戦死したという場所に行き、お参りをしようと考えた。

そして、村を出て、戦場跡地に行ったのだが、そこであることに気が付いた。

お供え物を持ってくるのを忘れたのだ。

お供え物を買うために戦場跡地を引換し、近くの町へと向かおうとした。

走って町へ向かったのだが、町は遠かったため、夕方に見つけた宿に泊まることにした。

そこの宿の人はとても優しく、安くておいしい料理と酒をふるまってくれた。

酒に酔った女は食堂で寝てしまう。

宿の人たちは酔った女を連れて行く。………寝室にではなく、ある小屋に。

その小屋は様々な道具と…………死体が積まれていた。

宿の人は此処に留まった客を殺して、搾り取った人の脂から『ざいふぇ』というものを作っていた。

そして、小屋に連れてこられた女は机の上に寝かされ………

『お供え物がない』という寝言を残し、宿の人に殺されてしまった。

それ以来、その宿には『おそなえもの』という幽霊が出るらしく、目を付けられたら、殺されてしまう。

そんな話だった。

 

その話を聞いた雛里は座り込み、恐怖のあまり涙が出てきた。

『ざいふぇ』に『お供え物』、『戦場跡』、あまりにも自分の置かれた状況に当てはまるキーワードが揃い過ぎていた。そして、話の結末は……目を付けられたら殺されるというもの。

助かる方法を知るために雛里は話を聞いてみたが、最悪の結末だった。

 

「大丈夫。朝まで後もうちょっと。」

 

恋は雛里の右肩を優しく摩り、雛里の顔を覗き込み、優しい声で励まそうとしている。

 

「え?」

 

左肩にも手が置かれていることに雛里は気づいた。

今いるのは雛里と恋だけで、恋は雛里の正面に座り、雛里の右肩に右手を置いている。

左手は方天画戟を持っており、肩に手を置く余裕がない。

 

では、自分の左肩に置かれている右手(・・)は誰のものか?

雛里は恐る恐るゆっくりと後ろを振り返った。

 

そこには雛里が今もっとも会いたくないモノが居た。

そして、そのモノはニカァァッと裂けそうになるほど口を広げ、言った。

 

 

 

 

『おそなえものがない』

 

 

 

 

恋は雛里を突き飛ばし、女に向かって方天画戟を振り下ろした。

だが、また方天画戟はすり抜け、小屋の床板を壊した。

床板は古かったのか、恋が破壊したところから、崩れ始める。

床板の下には何もなく、雛里と恋は小屋の地下へと落ちた。

 

「「!!」」

 

雛里と恋が落ちた所には何かがあり、落下の衝撃の緩和材になってくれたおかげで、怪我はなかった。

何が助けてくれたのだろう?と思った雛里は自分が乗っているモノが何なのか触ってみた。

大鋸屑のように湿気がなく、パラパラしていたが、大きさはバラバラだった。

そして、なんの明かりか分らなかったが、一瞬だけ明るくなり、雛里が触っているモノが人骨で、自分と恋は人骨の山の上に落ちたということに知ってしまった。

そこから、推測されたのはこの宿こそがあの怪談に出てきた宿であることと、あの怪談は実話だったということ。何故、そんな実話が怪談になったのか、雛里は分からなかった。

恐怖のあまり過呼吸になってしまい、まともな思考ができなかったからだ。

そんな雛里に声をかける人物がいた

 

「おや、お嬢さん、どうしてここに居るのですかな?」

 

その人物は宿屋の主人だった。

 

「いけませんな。これを見られたからには……。」

 

そう言って、宿屋の主人は指を鳴らすと、奥から数人の武器を持った男たちが現れ、雛里に武器を向けた。

もう駄目だ。殺されてしまうと、雛里は思い、身を屈めた。

だが、いつまで経っても、何も起こらない。

その代わりに、男の悲鳴が聞こえた。

 

「恋さん!」

 

そう、恋が男たちを次々に倒していったのだ。

恋さんが居れば百人力、自分は助かった、雛里はそう確信した。

だが、雛里の頬に冷たいものが当てられ、雛里はビクッとした。

その冷たいものは血の付いた刃物だった。

 

「お嬢様、静かにしてもらえませんか?そうしなければ、お連れの方が…死にますよ?」

 

宿屋の主人はそう言うと、恋は攻撃を止めた。

恋の攻撃が止んだ瞬間、まだ倒されていなかった男が恋の腹に槍を刺した。

いつもの恋なら避けれたのだが、雛里が捕まっている以上、下手に動けば、雛里が殺されてしまう。

そのため、避けることができなかったのだ。

 

「まあ、と言っても、貴方たちが死ぬのは変わらないのですがね。」

 

宿屋の主人がそういうと恋に倒されていなかった男たちが恋にリンチを始めた。

 

「危なかった。これでいつも通り営業ができますね。」

「……いつも通り?」

 

雛里はそう聞き返した。

 

「えぇ、この宿は昔から止まった旅人を殺し、『ざいふぇ』を作って売るのを生業としてきた宿でね。三国のお偉いさん方が来たときだけはやめておこうと思ったのですよ。後は、貴方たちを殺して、幽霊の仕業にしてしまえば、すべて丸く収まる。………あぁ、でも幽霊騒ぎでまともに営業ができませんね。移転しなければなりませんね。」

 

宿の主人が邪悪な笑みを浮かべながら、そんなことを呟いている。

 

 

 

 

『おそなえものがない。』

 

 

 

 

こんな最悪な状況で雛里はもっとも聞きたくない言葉を聞いてしまった。

だが、これは天の救いならぬ……幽霊の救いになるかもしれない。

そう思った覚悟を決め雛里は怖く震えていたが、一か八かの賭けに出る。

失敗すれば、幽霊に殺されるかもしれないし、男たちに殺されるかもしれない。

だが、このままでは男たちに殺されるのは確実だった。

だから、雛里が生き残るためにはこうするしかなかった。

 

 

「お供え物は私とあの女の人が持っています!」

 

 

 

 

「オソナエモノォォォォォォォ!!」

 

 

 

 

獣のような声が聞こえると同時に、小屋が崩壊した。

崩れた小屋の瓦礫が雪崩のようになり、雛里たちを飲み込み、あらゆるものを押し潰した。

 

「ハーハーハーハー」

 

そんな瓦礫の中、雛里は無事だった。過呼吸気味だが、全く怪我はない。

雛里の後ろでは男が瓦礫に押し潰され、圧迫死していた。

他の男たちも押し潰されて死んでいた。

恋は?と雛里は焦る。だが、次の瞬間瓦礫の一部が吹っ飛んだ。

そして、そこから現れたのは恋だった。

 

「恋さん!」

 

雛里は立ち上がると、泣きながら、恋に抱きついた。

そんな雛里が泣きやむまで、恋は抱きしめ、頭を撫でた。

 

 

 

 

翌朝、雛里と恋は将に昨夜起こったことをすべて話した。

幽霊のところの話は一部の将に信じてもらえず、小屋が崩れたのは偶然だと言われてしまったが、この宿のやっていたことは証拠があった為、信じてもらえた。

一刀達はこの宿の人によって殺された人の供養をした。

死体があり過ぎ、損傷が激しかったため、どの死体が怪談に出てくる女性の死体なのかわからなかったが、すべての人の冥福を祈った。

 

宿で供養をした後に、古戦場跡に行き、お供え物を届けた。

そのお供え物というのが、昨日少しは気が楽になるようにと雛里が一刀から貰った花と、恋の隠し持っていたおやつだった。

 

「これで終わりだな。」

 

手を合わせた一刀は立ち上がる。すると、すぐに雛里がしがみ付いてきた。

昨晩のことが怖すぎたせいか、雛里は一刀にしがみ付いていないと安心できなくなってしまったらしい。

あれほどの恐怖体験をしたのだ。落ち着くまで雛里の好きにさせてあげようというのが皆の意見だった。

そして、全員が古戦場跡を去ろうとする。

 

 

 

 

『おそなえもの、届けてくれてありがとうございます。』

 

 

 

 

そんな優しい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

Sieg Heil HINARIN( ゚∀゚)o彡°久しぶりです。黒山羊です。

 

というわけで如何だったでしょうか?

本気で皆さんの肝を冷やそうとしたのですが、どうも文章力が低いのか、自分で読んでいまいちでした。

すみません。

この話にはモデルがあります。

 

作中に出てきた『ざいふぇ』というのはドイツ語seife(石鹸)のことです。

なぜ、ドイツ語なのか?

それは第二位世界大戦のドイツでユダヤ人の脂を基に石鹸を作っていたという都市伝説があったからです。人間石鹸?という都市伝説を知っている人は居るでしょうか?その話をモデルとしました。

こういった都市伝説とか、怪談とか大好きでいろいろ読んでいたりします。

ですが、お化け屋敷とか心霊スポットはマジで苦手です。

 

 

そんなわけで黒山羊でした。

では、私の作品恒例の挨拶で閉めましょうか。

 

 

Sieg Heil HINARIN( ゚∀゚)o彡°

 

 

 

1
このエントリーをはてなブックマークに追加
0
0
23
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択