No.472289

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史編ノ二十六


 お待たせしました。

 さて、遂に始まる親董卓連合VS反董卓連合!!

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2012-08-19 07:53:13 投稿 / 全18ページ    総閲覧数:9673   閲覧ユーザー数:7141

 

 ~汜水関にて~

 

「華雄様!袁紹軍がこちらへ攻め懸けて来ます!」

 

 兵士の報告に華雄が驚く。

 

「どういう事だ!?今まで袁紹は後ろの方で全く動かなかったのに、今頃

 

 になって突然…?」

 

「おそらく袁紹自らこちらに向かわなくてはならないほど連合は追いつめ

 

 られているのです。華雄さん、おそらくもう少ししたらこちらの友軍も

 

 動きを見せるはずですので、その時はあなたの出番です」

 

 華雄の疑問に雛里が答える。その言葉に華雄は顔を綻ばせる。

 

「おおっ、ようやくか!!ここまで我慢に我慢を重ねた恨み、晴らして

 

 くれようぞ!!」

 

「鳳統よ、儂はどうすればいいのだ?」

 

「黄蓋さんは関の上より華雄さんの援護を。戦局が動いたら合図を出します

 

 ので、その時は出撃をお願いします」

 

「わかった。ふふふ、腕が鳴るのぉ。ずっと留守番だったから今からうずうず

 

 するわい!!」

 

 黄蓋はうれしそうに答える。

 

「でも、まずは攻め寄せて来る袁紹軍との交戦です。向こうも遮二無二攻撃を

 

 かけてくるでしょうから、油断する事無く、しっかりと守りきりましょう」

 

「「応っ!」」

 

 

 

 ~袁紹軍side~

 

「斗詩さん、猪々子さん!!あんなものの攻略にいつまでかかっているんですの!

 

 私は今日の夜は汜水関で優雅に過ごすと決めているのですから、さっさとあの門

 

 をこじ開けてしまいなさい!!」

 

 袁紹の超絶なる無茶振りに顔良と文醜はため息をつく。

 

「姫、いくらなんでも今日中というのは…」

 

「そうですよ、あんな固く閉められてるものをどうやったらすぐにこじ開けられる

 

 んすかぁ~」

 

「きーーーーーっ!いいからやりなさい!!それが家臣たる者の務めでしょう!!」

 

 現実を見ようともしない袁紹に二人は言葉も出ない。

 

「どうしよう…文ちゃん」

 

「どうしようたって…いくらなんでも分が悪すぎて賭けにすらなってねえし」

 

 しかし一応主君の命である以上、二人は汜水関へ攻撃を仕掛けるが、突破出来ない

 

 ばかりか自軍の損害が増える一方であった。結局その日のうちに攻略出来るわけも

 

 なく、袁紹は汜水関の前で野営せざるを得ず、一晩中、周りに喚き散らしていたの

 

 であった。しかも次の日も…。

 

「さあ、二人とも今日こそは汜水関を落とすのです!!」

 

「落とすって…何か策でもあるんすか?」

 

「策…?そんなもの雄々しく、勇ましく正面から堂々とに決まっているではありません

 

 か。それが誇りある袁家の正しい道ですわよ!!」

 

 そして不毛な戦いを強いられる顔良と文醜であった。

 

 

 

 ~曹操軍side~

 

「あの馬鹿、結局何も出来てないじゃない…」

 

 袁紹軍の行動を探らせた兵より報告を聞いた曹操は、盛大にため息をついた。

 

「華琳様!劉備と公孫賛が来ておりますが…」

 

「こちらへ通して。さて、これからどう相対するか…」

 

 曹操はそう一人ごちた。

 

 ・・・・・・・・・・

 

「二人とも、よく来てくれたわね」

 

「曹操さん、私達を呼んだのって…」

 

「やっぱり北郷軍の対処は私達がするって事か?」

 

「残念ながら私達しかいないようね」

 

 それを聞いた二人は苦い顔になる。

 

「そんな、袁紹さんはともかく他の人達は?」

 

「桃香、この状況であいつらが動くと思うか?」

 

 劉備の質問に答えたのは公孫賛だった。

 

「そう、あいつらは勝ち馬に乗りたいだけ。連合がこんな状態になっている以上

 

 如何にあっち側へ乗り換えようか考えているでしょう」

 

「…それじゃ、私達も危ないんじゃないんですか!?」

 

「ふん、あんな奴らに私達を攻める度胸なんてあるわけないわよ。ああいうのは

 

 まず自分の損害を如何に少なくして自分の領地に帰る事に執着してるしね」

 

 劉備の疑問に曹操は忌々しげにそう答える。

 

 

 

「でも結局こっちに攻めてくる北郷軍・孫策軍・呂布軍を私達だけで相手しなきゃ

 

 ならないんだろ?勝算はあるのか?」

 

 今度は公孫賛がそう聞いてくる。

 

「はっきり言って大分低いわね。でも、無ではないわ」

 

 曹操はそう言ってにやりとする。

 

「無じゃないって…どうするんですか?」

 

「それを言う前にこちらから聞きたい事があるわ。あなた方は私の指示に従ってくれる

 

 かしら?そうでなければ策を教えるわけにはいかないわ。そして策を教えた後で

 

 『やっぱりやめた』なんて事も却下よ。もしそのつもりがあるのなら即刻ここから

 

 出て行って頂戴。どうするの?」

 

 二人は目を合わせ頷き合ってから再び曹操の方を向く。

 

「わかった。実を言うと、連合に付いたの間違ったかなって思ってたりしたんだけど、

 

 幾らなんでもこのまま帰る事は出来ないと思っていた所だ。正直自信は無いけど、

 

 今だけは曹操の指示に従う」

 

「私も従います。本当は今でも連合に与したのが正しいのか分からない気持ちはあるの

 

 ですが、このまま引き揚げる事は出来ません」

 

 二人の言葉に曹操は笑みを浮かべる。

 

「ありがとう。ならば軍議を始めるわ。劉備、貴女の所の軍師も呼んできてくれる

 

 かしら?」

 

「姜維ちゃんもですか?…わかりました」

 

 

 

「ご主人様、汜水関です」

 

 軍議を終えた俺達はそれぞれの軍に分かれて進み、三方から汜水関の見える位置まで

 

 進んでいた。

 

「よし、汜水関の方には全く損害は無いようだな」

 

「雛里ちゃんがとてもうまくやっているようですね」

 

「でも汜水関の方には何故か袁紹が攻め寄せてるみたいだけど?」

 

「その辺は少々違ってきてるようですけど…基本的に私達のする事は一緒です」

 

「しかしそうすると俺達の相手は…」

 

「多分曹操さんでしょうね」

 

「やっぱりあの旗印ってそうだよね…」

 

 俺達の進む先に展開している軍には『曹』の旗印が翻っていた。

 

「それじゃ後は孫策さんや呂布さんにお任せして俺達は目の前の曹操軍の引き剥がしに

 

 かかりましょうかね」

 

 俺は一つ息をついてから号令をかける。

 

「皆、最終決戦の時は来た、我らは漢王朝を支えんと奮闘する董相国閣下を陥れんと

 

 する袁紹に与する者たちを追い落とす!!まずは目の前の曹操軍だ、強敵だが

 

 歴戦を潜り抜けて来た俺達に負けは無い!!霞、先鋒は任せる。おそらくあちらは

 

 夏侯惇が出してくるだろうから、絶対負けるなよ!!」

 

「誰にもの言ってるんや!!必ずやったるわ!!」

 

 霞はドンと胸を叩きながら答える。

 

「朱里、あちらの方はどうなってる?」

 

「ぬかりなく。おそらく全てが終わる頃には」

 

「よし、それでは行くぞ!!」

 

 

 

 ~劉備軍side~

 

「前方の軍の旗印は『孫』です!!」

 

 兵士からの報告に劉備以下全員に緊張が走る。

 

「私達の相手は孫策さんか…」

 

「相手が誰であろうと鈴々達の手にかかればちょちょいのぷーなのだ!!」

 

「鈴々殿、例えあなたほどの武勇の持ち主でも勝手に走っていってしまってはただの

 

 猪ですよ。ここは私の指示に従ってもらいます」

 

「真尋(まひろ)がそう言うのなら鈴々はそれに従うのだ!よろしくなのだ!!」

 

 張飛は姜維の言葉におとなしく従う。かなり意外な事ではあるのだが、最近張飛は

 

 義姉である関羽よりも姜維と一緒にいる事が多い。元々は劉備が姜維に皆とちょっと

 

 でも仲良くなってもらう為の取っ掛かりとして張飛に頼んだ所から始まったもので、

 

 最初のうちは張飛も渋々だったのだが、いつも接しているうちに自分に無い知性の

 

 持ち主である姜維に無自覚ながらも敬意を払うようになり、姜維は姜維で武の持ち主

 

 である張飛と共にいる事で自分の影響力を増そうとの考えから接近するようになった

 

 のであった。

 

 そういうわけで現状二人の関係はうまくいっており、劉備も姜維が皆と仲良く出来る

 

 切欠となればとそれを歓迎しているようではあるが、それを忌々しげに思っている者

 

 が一人いたのである。

 

 それは言うまでも無く関羽であり、関羽は張飛に『必要以上に姜維に近づくな』と

 

 何度も言っているのだが、その度に張飛とは喧嘩になっており、逆に今では関羽と張飛

 

 の二人が必要以上に口を聞かなくなっていたのであった。

 

 ちなみに『真尋』とは姜維の真名である。他の皆、主君である劉備にも預けてない真名

 

 を張飛には預けたのが仲良くなった証なのか、何か裏があるのかは本人以外誰にもわか

 

 らない話であった。(劉備は前者だと思っており、関羽は後者だと思っている)

 

 

 

「先鋒は鈴々殿、中軍を趙雲殿と私で指揮する。劉備殿は後軍にて待機、関羽殿はその

 

 護衛にあたってもらう。それでいいですね」

 

 姜維の言葉に当然の事ながら関羽が反発する。

 

「何故私が先鋒ではなく桃香様の護衛なのだ!!相手は孫策だぞ、私が出なくてどう相対

 

 するというのだ!!」

 

「むう~っ、愛紗は鈴々じゃ孫策と戦えないっていうのか!?鈴々だってその位ちょちょい

 

 のぷーなのだから愛紗は黙って後ろで見てればいいのだ!!」

 

「違うぞ鈴々、私が言いたいのは…」

 

「そこまでだ、関羽殿。今回の陣立てについては劉備殿より私に一任されている。私の言葉

 

 に逆らうという事は劉備殿に逆らうという事になるがそれでも良いのか?」

 

「ぐぐっ…姜維、貴様!!」

 

「待て愛紗、内輪で喧嘩している場合ではない。敵はすぐそこまで迫っているのだしな。

 

 それに桃香様の護衛も大事な任務だ。ここは黙って従え」

 

 趙雲に窘められた関羽は苦虫を噛み潰したような顔で引き下がる。

 

「それでは相手は孫策である。強敵ではあるが、決して負ける相手では無い!いざ、進め!」

 

 姜維の言葉で劉備軍は攻撃態勢を整える。しかし、関羽の心の中には姜維だけでなく、

 

 他の皆の間にも溝が出来ているような、一人仲間外れにされたような、そんな思いが

 

 渦巻いていたのである。

 

「愛紗ちゃん、今回は姜維ちゃんが鈴々ちゃんの方が適任だって判断したんだし、次は

 

 きっと愛紗ちゃんが先鋒だから、ね」

 

 劉備は慰めようとするが、

 

「そのような慰めは不要です、桃香様。私の事は放っておいてください」

 

 そう言って関羽は顔を背ける。もはや関羽の心には誰の言葉も届かなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~公孫賛軍side~

 

「前方に見える旗印は『呂』と『陳』です!!」

 

 兵士からの報告に公孫賛は呆然となる。

 

「えっ、ええええええっ!私に、あの呂布と戦えっていうのか!?」

 

「ですが今更、曹操様や劉備様と場所を変わるわけには…」

 

「わかってる、それはわかってるけど…くそっ、何でこんな貧乏くじを…大体…」

 

 そして公孫賛は何やら一人で呟き始めていた。 

 

「申し上げます!!呂布軍に動きがあります!!」

 

「ええい、このまま呟いていても仕方ない。いいか!相手はあの飛将軍だが、決して無敵

 

 では無いはずだ!我らとて五胡と互角に戦ってきたんだ!怯まず進め!!」

 

 半分自棄になった公孫賛の号令と共に、ある意味無謀極まりない戦いに身を投じる公孫賛

 

 軍であった。

 

 

 

 

 ~曹操軍side~

 

 荀彧が曹操へ戦況の報告を行っていた。

 

「華琳様、敵の進路は予想通りにて、孫策軍は劉備軍と、呂布軍は公孫賛軍とあたる

 

 ようです」

 

「それで、劉備軍の陣立ては?」

 

「先鋒は張飛、中軍を趙雲・姜維となっています」

 

「関羽は?」

 

「後軍にて劉備の護衛にあたっているとの事です」

 

「そう、さすが姜維ね。こちらの言った通りにしてくれたわ。ふふふ…」

 

 そう言って曹操はほくそ笑む。

 

「華琳様?」

 

「どうかしたかしら、桂花?」

 

「いえ、何でも…」

 

 曹操の笑みに策謀的なものを感じた荀彧ではあったが、それについての疑問を持つ

 

 事は主君の為にならないと頭から振り払った。

 

「そう、ところで北郷軍の陣立てはわかるかしら?」

 

「先鋒の旗印は『張』です。張遼と思われます」

 

「確か騎兵を率いていた将よね」

 

「はい、騎兵故に突進力は強いですが、策に影響は無いかと」

 

「なら問題無しね。…ふふ、まさか北郷も自分がやった策を真似されるとは思って

 

 いないでしょうしね」

 

 曹操は再びほくそ笑んでいた。

 

 

 

「我が名は夏侯惇!!逆賊董卓に与せし北郷軍の者どもよ、まとめて我が剣の錆と

 

 なれぃ!」

 

 曹操軍の先鋒である夏侯惇が叫ぶ。

 

「何が逆賊や、このどアホが!!そないな真実もようわからん沸いた頭の阿呆どもは

 

 この張遼が葬ったるわ、覚悟しい!!」

 

 霞は叫び返すと、一直線に馬を走らせる。

 

「はっはっは!!面白い、そういえばお前とはこの間の決着がついてなかったな。

 

 ならば、その一騎討ち受けて立つ!!でやああああああ!!」

 

 夏侯惇は力一杯剣を振り下ろす。

 

「ふん、こんなもんか!!なら、次はこっちや!!」

 

 霞はその一撃を受け止めると、今度はお返しとばかりに偃月刀を振るう。

 

「ははは!なかなかやるな、だがまだまだ!!」

 

 そのまま二人の戦いは五十合にも及んだが両者全くの互角であった。

 

 しかしその状況を曹操は違う意味でハラハラしながら見ていた。

 

「春蘭は作戦を忘れたのかしら…一騎討ちを続けろなんて一言も言ってないのに」

 

「春蘭の事だし本当に忘れてるんじゃ…」

 

 荀彧はあきれたようにそう呟く。

 

「秋蘭!春蘭に作戦通り動くように指示してきて!」

 

「しかし華琳様、どうやってですか?正直、あの姉者には直接言わない限り思い出し

 

 そうになさそうですが、直接言ったら北郷軍にばれてしまいます…」

 

「うっ、確かに」

 

 夏侯淵の指摘に曹操は言葉を詰まらせる。

 

 その時、夏侯惇が突如退き始め、それを張遼が追い始めた。

 

「華琳様!」

 

「ええ、何だか良くわからないけど春蘭が作戦通りに動いてくれたわ。桂花、張遼の

 

 部隊があの位置に来たら合図を!」

 

「はい!」

 

 ちなみに何故夏侯惇が突然、作戦通りに動き出したかというと、

 

「おい夏侯惇!いきなり何逃げ出しとんねん!!」

 

「華琳様から作戦の為にそういう命令を受けたのを今思い出したからだ!!」

 

「……作戦って、それ言ってええのんか?」

 

 どうやら、この人はかなりのうっかりさんであるようだ…。

 

 

 

 霞から『夏侯惇が作戦の為に退き始めた』という報告を受けた俺は朱里に尋ねる。

 

「どうするんだ?追わなかったらおそらくまた新たな手段で来るだろうし、追ったら

 

 追ったで何かしらの作戦があるんだろう?」

 

「はい、多分曹操さんは『釣り野伏せ』をやろうとしてるんだと思います」

 

 釣り野伏せって…そういや俺達のやった手法って結構広まっているんだったな。確か

 

 周瑜さんにもそれについて聞かれたし。

 

「しかしそれがわかってるのなら突っ込まない方が『いえ、ここはあえて突っ込みます』

 

 …えっ!?それって大丈夫なのか?」

 

「はい、あえて向こうの作戦に乗ってそれを打ち砕きます」

 

 なるほど、釣り野伏せ破りってわけか。

 

「ならば、霞には全力で追撃してもらうぞ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 ・・・・・・・・・・・

 

「よっしゃ、そういう事なら本気出して追うで!!ええか、途中何があっても立ち止まらず

 

 に走り抜けるんや!!」

 

 命令を聞いた霞はそう号令をかけると猛然と夏侯惇を追い始める。

 

 それを見た夏侯惇は大喜びで、

 

「よし来た!!華琳様、やりましたぞ!!春蘭は華琳様のお言い付けを守りました!!これで

 

 一番手柄は私に…きっとご褒美に今夜は私を閨に…ああ、華琳様~」

 

 完全に頭の中が桃色になっていた。

 

 そんな状況なのに引っ掛かったと思っている曹操もかなりうっかりしているとしか思えない

 

 のだが。

 

 

 

「華琳様、張遼の部隊が伏兵の位置に到達しました!!」

 

「ならば合図を!!」

 

 曹操から指示を受けた兵が銅鑼を鳴らす。

 

 その音に合わせて霞の部隊の両脇から曹操軍の伏兵が現れる。

 

「来たな…ええか!横なんか見るな!!前だけ見て突っ込むんや!!」

 

 霞の部隊はそれでも速度を落とす事無く前にいる夏侯惇の部隊に突っ込む。

 

「な、何故張遼の部隊はこっちにそのまま来るんだ!?伏兵が現れたら突進が止まるから

 

 そこで反転して討つのではなかったのか!?」

 

 聞いてた話と違う展開になった夏侯惇は混乱していた。

 

 まだここで自らの判断で臨機応変に迎撃してれば違ったのだろうが、誘き出しが成功したと

 

 思い、舞い上がっていた夏侯惇にその判断が一瞬遅れた。しかしそれが取り返しのつかない

 

 傷へと繋がったのである。

 

 霞の偃月刀の柄の先には小さな鉤がついていた。それは前に一刀と朱里から聞いた鉤鎌槍という

 

 武器から着想を得てつけたものである。本来ならせいぜい服に引っ掛けてバランスを崩させる

 

 程度のものであったのだが…。

 

「夏侯惇、覚悟しい!!」

 

「くそっ、なめるな!!」

 

 繰り出された霞の一撃をかろうじて受け止めた夏侯惇であったが、そこへ霞が夏侯惇の虚を突こう

 

 と偃月刀の柄を回転させて繰り出した鉤が夏侯惇の左目を直撃したのであった。そしてそのまま

 

 偃月刀の鉤は夏侯惇の左目を抉り出したのである。

 

「ぐああああああ!!!」

 

 夏侯惇は左目を抑えてうずくまる。

 

「夏侯惇!?…まさか、こないな結果になるとは思わんかったけどな。悪いがこのまま行かせて

 

 もらうで。全軍、このまま進め!!」

 

 霞は夏侯惇に一瞥くれると部隊を指揮してそのまま突き進んでいった。

 

 

 

「よし、霞は言った通りそのまま前へ突き進んでいるな」

 

「それではこっちも合図を!」

 

 朱里の指示で太鼓が叩かれると部隊を展開させていた凪と丁奉さんが曹操軍の伏兵部隊に

 

 襲い掛かる。

 

 朱里が言った釣り野伏せ破りとは先鋒部隊を壊滅させようとした敵の伏兵部隊を背後より

 

 新たな部隊で叩き潰すというものである。

 

 それは完全に当たり、まさか自分達が襲われると思っていなかった曹操軍の伏兵は、攻撃を

 

 受けると一瞬にして四散したのである。

 

「よし、とりあえずこれで…『北郷、覚悟!!でやああああああ!!』…なっ!?」

 

 敵の策を押し返した事でホッと一息ついた瞬間に側面より巨大な鉄球が襲い掛かってきた。

 

「兄様、危ない!!どおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 間一髪、流琉が葉々を繰り出して防ぐ。しかし、その流琉の顔が凍りつく。その視線の先には…。

 

「な…!何で流琉がここにいるんだよ!!」

 

 それは季衣…許楮だった。…そうか、こちらでも曹操の家臣になっているのか。しかし今、流琉の

 

 真名を呼んでいたような…友達なのか?

 

「季衣こそ何で兄様を襲うのよ!!」

 

「えっ!?兄様…って兄ちゃん!?生きてたの!?」

 

 …えっ、どういう事だ?「兄ちゃん」ってこの季衣はまさか俺の知ってる…?

 

「違うわよ、この人はあの兄様に似てるだけよ。幾らなんでも五年前と同じじゃおかしいでしょ?」

 

 ああ、そういう事か。そういえば流琉が「兄様」と呼んでいた親戚の人は同じ村に住んでいたとか

 

 言ってたな。という事は友達であるこの娘もその人と知り合いだったという事か。

 

「そうなんだ、へえ…でも本当によく似てるなぁ」

 

 許楮は俺の顔をまじまじと眺める。

 

 

 

「…っていうか、君は俺を襲おうとしたんじゃなかったのか?」

 

「…あっ、そうだった。華琳様と桂花に『北郷の本陣に奇襲をかけて討ち取れ。本陣の中央にいる男を

 

 狙えば間違いないから』って言われて来たんだけど…それより、何で流琉はこんな所にいるんだよ!

 

 手紙に『陳留にいるから来て』って書いたじゃないか!」

 

 許楮の言葉に流琉は首をかしげながら答える。

 

「手紙…?そんなのもらってないけど?いつ送ったの?」

 

「もらってない?…嘘だ!僕はちゃんと送ったのに!!まさか読まずに捨てたんじゃ…!!」

 

「本当にもらってないわよ。それに季衣の手紙を読まずに捨てるわけないじゃない!!」

 

「だったら何で北郷の所にいるんだよ!!僕の手紙よりそっちの兄ちゃんの方が大事だったって事

 

 なんだろう!!」

 

「だから本当にもらってないんだって!!何度言えばわかるのよ、季衣の馬鹿!!」

 

「馬鹿…馬鹿って言ったな!!馬鹿って言った方が馬鹿なんだって春蘭様が言ってた!!それじゃ、

 

 やっぱり流琉の方が馬鹿だったんだ!!だから手紙も読まずに捨てるんだ!!」

 

「だからもらってないって何度言えばわかるのよ!!いい加減わかりなさいよ!!」

 

 二人は段々と険悪な雰囲気で口喧嘩をし始めた。まだ口喧嘩のうちは良かったのだが…。

 

「季衣の馬鹿ーーーーーー!!」

 

「だから馬鹿って言った方が馬鹿なんだ!!」

 

 二人はお互いの武器を振り回しつつ本格的な喧嘩を始める。そしてその度に周りの地面が削れ、

 

 近くの物体は粉々に破壊されていった。

 

「ちょっとやばいな…二人とも落ち着け!!」

 

 何とか止めようと呼びかけるが二人の耳にはもう何も入らないようだった。

 

 

 

「このままじゃ仕方ない…他に方法は無いか」

 

 俺は明鏡と止水を抜くと気を集中させる。

 

「そこだ!!」

 

 そして二人に近づくと気合を込めて二刀を一閃させる。

 

 俺の攻撃は二人の武器に当たり、二つの武器は絡まって取れなくなる。

 

「なっ!」

 

「きゃっ!」

 

 その勢いで二人は転んで動きが止まる。

 

「よし、今のうちに許楮を捕らえろ!!」

 

 俺の号令で兵士が許楮をぐるぐる巻きに縛り上げる。

 

「は~な~せ~~!!」

 

 許楮はじたばたと動くがさすがにぐるぐる巻きではそれ以上どうしようも無い。

 

「申し上げます!!張遼様の部隊は無事囲みから脱出、楽進様・丁奉様と共に曹操軍の伏兵

 

 部隊へ攻撃を仕掛けた模様です!!」

 

「うまくいったようだな。朱里、許楮の事は任せる」

 

「御意です」

 

 

 

「申し上げます!夏侯惇将軍負傷!!そして伏兵部隊も壊滅です!!」

 

「申し上げます!許楮将軍による奇襲攻撃失敗、許楮将軍は北郷軍に捕らえられた模様!!」

 

 曹操の下へは作戦失敗が次々と報告される。

 

 曹操と荀彧が立てた作戦は劉備・公孫賛の軍が他の軍を足止めしている間に曹操軍が北郷軍に

 

 『釣り野伏せ』を仕掛け撃破した後、他の軍を順次撃破していくというものであった。

 

 そして許楮を密かに側面に回して奇襲をかけさせて、あわよくば一刀を討ち取らんとしようと

 

 したのであったが…。

 

「ぐっ、またしても諸葛亮にしてやられたというの…!」

 

 曹操はまたもや朱里に先読みされたと悔しがるが、今回は夏侯惇がうっかりと「作戦」という

 

 言葉を言ってしまった事と一刀の親衛隊に許楮の親友である典韋がいた事、夏侯淵を最後まで

 

 温存し過ぎた事、そしてこれだけの作戦で李典・于禁の二将を用いなかった事による所が大き

 

 かったのである。

 

「申し上げます!!」

 

「今度は何!!」

 

「我が軍の後方三里の辺りに新たな軍勢が出現!旗印は『馬』!!まっすぐに袁紹軍の方へ向か

 

 っている模様です!!」

 

「なっ、いつの間に…劉備と公孫賛は!?」

 

「孫策軍と呂布軍に囲まれて身動きが取れない模様です!!」

 

「…! まさか全てこの為の布石だというの!?桂花、後方の馬騰軍へ…」

 

「無理です!!すぐそこまで北郷軍が迫っている状況で割ける兵などありません!!」

 

 荀彧からの報告に曹操は悔しさをにじませる。

 

(ここまでか…全て向こうの思うままになるなんて…北郷は本当に天の御遣いだというの!?)

 

 

 

 ~再び袁紹軍side~

 

「申し上げます!後方より迫る軍勢あり、旗印は『馬』!!」

 

「げっ、その旗印って…」

 

「馬騰軍!?そんな…もうこんな所まで!?」

 

「斗詩さん、猪々子さん!!何とかなさい!!」

 

 報告を受けた袁紹軍は混乱に陥る。

 

「何とかって…どうするんですか!?」

 

「そうっすよ~、汜水関は落とせないのにその上で馬騰軍の相手までなんて…」

 

「きーーーーーーっ、大体他の皆さんは何をしているんですの!?何故、総大将の危機に駆けつけ

 

 ないんですのーーーーー!」

 

 袁紹はそう叫ぶが、この時点で曹操・公孫賛・劉備以外の軍勢は連合に不利と見るや日和見か逃亡

 

 をしていたので、助けに来る軍勢など無かったのである。

 

 そうこうしているうちに馬騰軍が見える所までやってきたのであった。

 

「袁紹よ、よーく聞け!我が名は涼州連盟盟主、馬騰なり!!我が同胞たる董相国を悪人呼ばわり

 

 した罪、己の身でとくと味わえい!!…全軍、突撃!!」

 

 馬騰の号令と共に馬騰軍が袁紹軍に突撃をかける。

 

「あ、あわわわわわ!二人とも、何とかなさい!!私を守りなさい!!」

 

 当の袁紹は慌てふためき、顔良と文醜にすがりつく。

 

「何とかって、これじゃどうしようも…どうした斗詩?」

 

「文ちゃん…汜水関の門が開いてる…」

 

 驚愕と共に紡がれた顔良の言葉に、文醜も目を転じると、そこには…。

 

「我が名は董卓軍が将、華雄なり!!我が主君を貶めし愚か者どもよ、我が戦斧の錆となれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

                                 続く(間違いなく) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 申し訳ございません、大風呂敷を広げておきながら今回も全て

 

 書き切る事ができませんでした…。

 

 次こそは、と思いながら既に幾星霜…日々文才の無さに悩まされ続けます。

 

 そして霞の偃月刀に少し細工を入れました。ほとんど春蘭の目を潰す為に仕込んだ

 

 小道具的なものです。もしご不快に思われる方がいたならご容赦の程を。

 

 とりあえず次回は今回の続きです。ようやく華雄さんの活躍が幕を開ける…はず。

 

 

 それでは次回、外史編の二十七でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 追伸 夜寝る前とかになると、もっといい話の展開を思いつくのに、朝起きると

 

    ほとんど忘れてしまう…。

 


 
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