No.472093

真・恋姫無双呉ルート(無印関羽エンド後)第54話

海皇さん

みなさんこんにちは。この夏いかがお過ごしでしょうか。
ようやく書きあがりました最新話、投稿いたします。
今回は前回の戦いの別サイド編ですのであまり目新しさはないかも?

後あとがきを少し変更いたしました。どう変更したかは最後までご覧になってお確かめのほどを。

2012-08-18 21:57:53 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2947   閲覧ユーザー数:2708

亞莎side

 

 「くっ、中々しつこい軍です・・・」

 

 亞莎は目の前の乱戦を見ながら眉を顰める。

 

劉繇軍が予想以上に手強い、というよりしつこい。

 

目の前の敵兵の装備は頭から足まで覆う鉄の鎧を着込むという重装備であり、並みの攻撃では中々致命傷を与えることが出来ないのだ。そのため、いくら矢が敵兵に命中したとしても効果が薄く、自軍兵士の標準装備である剣や槍でも決定打を与えることが出来ないため、中々敵兵が減ることが無い。

亞莎の暗器による攻撃ならば、敵の急所を的確に射抜き一撃で死に至らしめることも可能ではあるが、それでも精々一人、どんなにやっても一度に三人が精一杯である。さらに暗器には数に限りがあり、しかもこの乱戦では回収もままならないから実質使い捨てだ。いずれ暗器が尽きた場合には直接戦闘をしなくてはならなくなるだろう。

 

(しかし、それでもどれだけ持つか・・・)

 

確かに自身は軍師に抜擢されるまでは武将として活躍していた。

だが自身の得意とするのは暗器によって敵の不意を突く戦法であり、直接戦闘に関しては出来ないことはないものの歴戦の将である雪蓮や思春には及ばない。

しばらくは暴れまわることは出来てもいずれ数の暴力で押しつぶされるのが関の山だ。

 

自軍の兵達も頑丈な鎧に包まれた敵兵に、流石に疲労の色を見せている。一方の敵兵は、重い重装備を着込んでいることから相当体に重量の負荷がかかっているはずなのに、それを感じさせないほどの動きで自軍を攻めてくる。

恐らく重装備でも動けるように特別な訓練を行い、育成した兵達なのだろう。重い装備を纏っても迅速に動けるように訓練するのは孫呉でも行われているものの、ここまでの装備を着こませてはいない。かく言う自分自身も、こんな重装備を着たまま通常と変わらず戦闘を行うことなど、まず無理だ。

 

亞莎は内心歯噛みしながらも暗器を敵に当て続ける。敵兵は次々と倒れていくものの、数は一向に減る様子はない。そして消耗品の暗器も既に残り少ない。

 

「っあ!?」

 

 と、突然横から突き出されてきた槍に袖が引っ掛けられ、亞莎は地面に横転した。亞莎が目を向けると、自軍の防御を突破してきたであろう敵兵が、自分に槍を向けていた。   

その鎧は他の兵士達に比べ重厚であり、所々に刀剣によるであろう細かい傷が刻まれていた。鎧の見事な意匠と鎧に刻まれた歴戦の傷跡から、恐らくこの軍勢を統率する隊長格の兵士であろうと、亞莎は予想した。

 

「敵将呂蒙、その首貰い受ける!!」

 

敵の武将が槍を呂蒙に突き下ろし、とどめを刺そうとする、が、亞莎もむざむざと無抵抗に死ぬ気はない。

 

「っはあっ!!」「ぬうっ!?」

 

袖に隠された篭手『人解』に仕込まれた大型の刃が飛び出し、敵の槍の穂先を斬り飛ばす。そして、そのまま鎧の僅かな隙間に刃を打ち込んだ、が・・・。

 

「な!?」

 

刃が通らない。何か固いものに阻まれて刃が通らないのだ。この刃にあたっている感触は、少なくとも人間の皮膚の感触ではない。明らかに鎧と同じ、鉄の感触だ。固まっている亞莎に、敵将は可笑しそうに笑い声をあげた。

 

「油断したな呂子明よ!!我が鎧の下には鉄の鎖で編んだ帷子も着込んでいる!!そのような刃では我が臓腑までは届かんわ!!」

 

敵将は高笑いしながら亞莎の腕を掴み、投げ飛ばした。背中から地面に叩き付けられた亞莎は受け身を取ることも出来ずに激しくせき込んだ。

 

「呂蒙様!!ぐはッ!!」

 

自軍の将の危機に兵士達は声をあげるが、敵兵が救出には行かせないと言わんばかりの激しさで攻撃を仕掛けてくるため、救出に向かうことも出来ない。

亞莎は必死に呼吸を整えて地面から起きようとするが、それよりも敵将が腰に差した幅広の剣を抜くのが早い。

 

「では今度こそその首、貰い受けようか!!」

 

亞莎の首を刎ね飛ばそうと剣を構える敵将、亞莎は袖の中の暗器を探るが、無い。先程投げ飛ばされたときに地面に全て散らばってしまっている。

自分はここで死ぬのか。大好きな人のお役にも立てずに、仲良くなりたいと思っている人とも仲良くなれずに・・・。

亞莎はただ目の前に迫ってくる刃を見ながら、呆然と愛しい男の名前と、彼に突き従う従者の名前を思い浮かべた。

 

(一刀様・・・、天将様・・・・)

 

そして敵の刃が無情に亞莎の首を・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

斬り落とすことは無かった。

 

「・・・・ふう、どうやら間に合ったか。よくぞここまで持たせた、亞莎」

 

亞莎の首を斬るはずの刃は、それとは別の銀色に輝く片刃の刃によって受け止められていた。そして、その刃を持っているのは・・・。

 

「天将様・・・」

 

「よくやってくれた亞莎。あとはこの私に任せておくといい」

 

いつも亞莎を見るたびに斬りかかってくる天将、関平であった。その関平が、今は頼もしげな笑みを浮かべて、亞莎を見ている。

 

「我が止めをさすのを邪魔するとは・・・。その珍妙な装束と大薙刀、貴様が天将関平か!!」

 

「いかにも、貴様ごときに名乗るまでも無いと思っていたが、知っているのなら都合がいい」

 

 関平、愛紗は自身の獲物冷艶鋸を頭上で一回転させると敵将に突き付け、その刃の如き鋭い視線で睨みつける。

 

「我が朋友たる呂蒙子明を傷つけた罪、我が刃でもって裁いてやろう。我が一撃を天の怒りと心得よ!!」

 

「戯言を!!いかな刀槍であろうと我が鎧を貫くことなどできぬ!!」

 

敵将は剣を大上段に振り上げ、愛紗に斬りかかる。攻撃のみに重点を置いてほとんど防御は無視しているが、どんな攻撃でも己の鎧が受け止める。そういう自身が表れていた。たとえ敵がどんな技を仕掛けてきても全て受け止めて・・・。

 

 

 

 「甘い」

 

 

 

が、目の前の敵は一瞬で敵将に接近する。敵将は近付かれたと気がついた瞬間に剣を愛紗目がけて振り下ろす、が・・・・、

 

 「安心しろ、もう終わってる」

 

愛紗の声が響くと同時に敵将の腹部から噴水のように血が噴き出す。

敵将は呆然と、何が起こったか分からないといった表情を兜の中で浮かべながら、胴を見た。が、目に入ってきたものを見た瞬間、敵将の表情は青ざめた。

自慢の鎧は帷子ごと断ち切られ、その隙間に深々と刻まれた深い傷から血が流れ出ている。自身が絶対の自信を持っていた守りを、天将は難なく切り崩してのけたのである。

 

「ば・・・・か・・・・な・・・」

 

敵将は信じられないといった口調で最後の言葉を口にし、そのまま地面に倒れ伏した。それを見ながら愛紗は冷艶鋸を振るって刃の血糊を払い落す。

 

「大した鎧だ。それだけの硬さならば並の攻撃では歯が立つまい。

だが、この関平の刃を受け止めるにはその鎧では力不足だったようだ。

そして何より、その鎧に頼り切り、慢心したのが貴様の敗因だ。・・・といってももはや聞こえていないだろうが・・・」

 

愛紗は目の前の亡骸にそう呟くと、目の前の敵軍と味方の軍に向け、声を張り上げる。

 

「聞け!!我が同胞達よ!!

汝らの将である呂子明の命を奪おうとした敵将はこの天将関平が討ち果たした!!

恐れるな!!所詮目の前の敵などただ鎧のみを頼りとした雑魚に過ぎん!!

汝らには天が付いている!!汝らの敵は私が斬りはらう!!

 

ここが正念場だ!!必ずや守りきれ!!」

 

愛紗の獅子の咆哮の如き叫びに、味方は雄々しい鬨の声を張り上げる。一方の劉繇軍は自軍の将が討たれたことと、敵の轟く鬨の声に怯み、最初のような高い士気は既になかった。

が、ここで天将を足止めするという役目を思い出し、なんとかその場に踏みとどまっていた。

 

「亞莎はしばらく休むといい。私が兵士達の指揮を引き受ける」

 

「へ?あ、は、はい!!・・・・・あ、あの!!」

 

亞莎は反射的に愛紗に返事を返したが、少し間をあけて愛紗を呼びとめる。何事かと訝しげに愛紗は亞莎を振り返る。と、そこには眼の端に涙を浮かべ、それでも何処か嬉しそうな笑みを浮かべた亞莎が立っていた。

 

「あ、あああの!!助けてくれてありがとうございます!!そ、そして、朋友って呼んで下さって・・・・、ほ、本当に感激です!!」

 

亞莎の多少どもりながらの感謝の言葉に、愛紗は多少あっけにとられていたが、すぐに苦笑いを浮かべた。

 

「気にしないでほしい、私も今まであなたに辛く当たってしまった。これはせめてもの償いがわりだ。礼はいらない。

それに、私達は共にご主人様達を守ると決めた同胞であり朋友だ、それに間違いはないだろう?」

 

「・・・・!は、はい!!」

 

「ならば助けあうのは当然だ。何も気にしなくていい」

 

愛紗はそう言って亞莎にウィンクをすると前線に向かっていった。亞莎は呆然と立ったままその後ろ姿を見送った。

 

???side

 

「劣勢・・・・、になっておりますな。徐々に徐々に」

 

「だがどうやら持ちこたえているようだな。敵将を引き付ける役なれば当然か」

 

「・・・チュウオウニリュウヨウガコウゲキカイシ・・・」

 

「始まったか・・・、いかがする?このまま傍観するか?」

 

「うむ、どちらかが不利になったのならば不利になった軍を援護する、まだ孫呉と劉繇にはつぶれてもらっては困る」

 

「しかしあの方の命令とは言え何とも分からない任務ですね。何故後に敵になるであろう者を助けねばならぬのか・・・」

 

「イクサヲナガビカセ、ヨワラセル・・・」

 

「身も蓋もありませんねえ・・・、でもそれだけではないような・・・。まあとにかく今は様子見とさせていただきます・・・」

 

「だが直ぐにでも出れるよう準備をしておく。お前達も直ぐに兵を率いて出れるようにするように」

 

「分かっておりますよ。ですが、いっそのことあの天の御使いと天将は斬ってしまってもよろしいのでは?どのみち我等の『御使い』の障害になるので、今ここで仕留めても文句は無いでしょう?」

 

「だめだ。それは御使い様が許されん。あ奴らは御使い様御自らが仕留められることを御所望だ」

 

「・・・メイレイムシ、フカ」

 

「はい、分かりました。では私は後ろの方に行きましょう。あの天将さんの力を見てみたいですし。・・・・そんな目で見なくても斬りませんよ」

 

「・・・・ゼンポウニムカウ」

 

「では我は中央に。構うまい」

 

「よし、では我ら『八咫烏』に、天の加護があらんことを」

 

 

 

 「「「加護があらんことを」」」

 

 

 愛紗side

 

「はああああああっ!!!」

 

 愛紗は裂帛の気合と共に敵兵目がけて冷艶鋸を振り下ろす。

冷たく光る刃は、敵の重厚な鎧をものともせず、敵の骨肉を断ち切って絶命させる。敵兵を斬り捨てた愛紗は休む間もなく次の敵に斬りかかる。

 

愛紗が後方に援護に来て二時間程度経ったであろうか、戦況は完全の孫呉の優位に進んでいた。敵軍は自軍を纏めていた将を討ち取られ、さらに目の前の天将によって相当数の兵士が斬り殺されている。自慢の重装備もほとんど意味をなしていない。それゆえに士気は大幅に低下しており、大半の兵士が戦意を喪失していた。

一方の孫呉軍は、敵将が斬られたことと、愛紗の一騎当千の姿に逆に士気は跳ね上がっており、敵軍を一気呵成に攻めている。相変わらず重装備は厄介ではあるものの、それでも体全体を覆っているわけではないため、鎧からむき出しの部分、もしくは鎧で覆われていない関節部を狙って槍を突き、矢を放つ。無論外れるのが大半ではあるが、敵が急所を狙っていることを知った敵軍はさらに混乱し、次第に倒されていく者が増えていった。

 

「て、撤退、撤退―!!!」

 

孫呉軍の猛攻に、遂に敵軍は撤退を開始する。劉繇軍の兵士達は撤退の命令を聞いて待ってましたとばかりに撤退を開始する。だが、そのあまりに重厚な装備が仇となった。

いかに訓練を重ねようとも、やはり相当な重量の鎧を纏っている以上、移動は必然的に遅くなる。そして撤退中は必然的に敵に背を向けることとなる。しかも最悪なことにこの部隊には殿の兵士が用意されていなかった。

 

「敵が撤退を開始した!!すぐさま追撃を開始しろ!!」

 

「「「「おおおおおおおお!!!!!」」」」

 

案の定好機と見た孫呉軍の追撃が来る。幸いなのは重装備のおかげで大抵の攻撃では死なないということのみであったが、この状況では大してメリットにならない。

 

この戦い、勝った。愛紗を含む孫呉の兵士全員がそう確信したであろう。

 

 

 

・・・だが。

 

 

 

 「残念ですけど、まだ壊滅されては困るんですよね。彼らは」

 

 突如何者かの声が響くと同時に、無数の矢が孫呉の軍勢に降り注ぐ。完全に不意を突かれた孫呉軍は、成すすべもなく矢の雨の洗礼を受ける羽目になる。

 

 「ぐ、ぐあああああああ!!」「な、なんだこの矢は!?」「ま、まだ敵がいたのかよ!!」

 

 兵士達は次々と矢を受け、その場に倒れていく。たとえ矢を受けていなくても、兵士達は恐慌状態に陥っており、とても追撃が続行できる状況ではなかった。

 

 「な!?くっ、い、一体何が・・・」

 

 愛紗は驚愕と怒りの表情で矢の飛んできた方向に目を向ける。

 

 そこには、黒い三本脚の烏の描かれた旗を掲げた、黒い軍勢が揃っていた。

 

 

 ???side

 

「やれやれ、どうやら限界のようでしたので来ましたら、既に撤退を開始していたとは。間に合ってよかったですよ」

 

 黒い軍勢を率いる将と思われる人物はそう呟いた。

黒い軍勢は全員が中世の騎士達が身に着けていたような漆黒のフルプレートの鎧を身につけていたが、その男の鎧はその中でも特に目立つほど鎧全体に一際豪奢な装飾がなされており、兜も他の兵達が顔全体を覆うものであるのに対して男のそれはまるで猛禽類を模しているかのような形状をした、口元のみを露出した特殊なものであった。

 男はちらりと劉繇軍を見る。どうやらいきなり現れた自分達に仰天しているようだ。

 

 「何をしているんですか?早く行きなさい」

 

 「・・・は?」

 

 男の発した声に劉繇軍の兵士達は戸惑ったような表情で互いに見合う。男は溜息を吐きながら再び口を開く。

 

 「足止めをしてあげているのですよ。我々が食い止めてあげますから早く行きなさい」

 

 「な!?させるか!!」

 

 黒い軍勢の意図に気がついた愛紗は敵に向けて駈け出した、が・・・。

 

 「いかせませんよ?」

 

 「なに!?」

 

 黒い軍勢の将であろう男が前に立ちふさがってその進路を塞ぐ。

 

 「孫呉自慢の天将さんも私が相手をします。早く逃げなさい」

 

 劉繇軍の兵士は男の言葉と行動からその言葉を真実だと悟り、すぐさま撤退を再開した。

 

 「くっ!!ま、待て!!」「おっと、行かせませんと言ったでしょう?」

 

 目の前の男は腰から細身のレイピアのような形状の長剣を抜き放つ。長剣の柄は豪華な金細工で飾られており、刀身にも様々な装飾が彫りこまれており、一見すると儀礼用にしか見えない。

 

 「貴様、何者だ!!我等の戦に割って入るなど、何のつもりか!!」

 

 愛紗の怒鳴り声を聞いた男は、突如何かを思い出したかのように兜から露出した口をゆがめた。

 

 「ああそう言えばまだ自己紹介もしておりませんでした。いや、これはまことに失礼を」

 

 そして男は慇懃無礼に頭を下げて、自分の名前を名乗った。

 

 「私は、天の御使い様にお仕えする『八咫烏』の漆黒近衛四刃将の一人『双剣の朱雀』と申します。どうぞお見知りおきを」

 

 男の口元には、空恐ろしい笑みがありありと浮かんでいた。

 

 

 

 愛紗side

 

「八咫烏だと!?貴様らが太史慈を兵糧庫から撃退した謎の軍か!?」

 

「あー、それは私ではありませんが、はい、確かにそれは私達の軍行ったことです」

 

 『双剣の朱雀』と名乗った男の肯定の言葉に、愛紗はさらに鋭い目つきで目の前の男を睨みつける。

 

 「ならば何故今度は劉繇軍の味方をする!!貴様らは我々の味方ではないというのか!!」

 

 「はい、我々八咫烏は天の御使い様の御意思に従い、その御意思を代行する集団です。今回劉繇軍の撤退を助けたのも、天の御意志という訳です。以前貴女方をお救いしたのも、天の御意志の一環に過ぎません」

 

 「天の御使いの意思だと!?天の御使いとはご主人様のことではないのか!!」

 

 愛紗の問いかけを聞いた『双剣の朱雀』は笑顔から一転、不機嫌そうに口元を歪めた。

 

 「違いますよ、そもそも貴女方は後からこの大地に降り立っただけのただの人に過ぎません。確かに天の御使いには違いありませんが、真の御使い、私達がお仕えする方は、貴女方よりも遥か以前にこの大地に降り立たれているのです」

 

 「私達より前にこの世界に降り立っているだと!?」

 

 「はい、かのお方は世の政を掌握なされ、この乱世全てを裏で自在に操られておられます。この戦いもまた、あの方の掌の内にあるのです」

 

 「ッッッッ!」

 

 愛紗は、一刀と自分以外に別の世界からこの外史に来た人間が存在することに驚いていた。しかも、自分達がこの世界に降り立つ以前に・・・・。

 

 「その御使いとは、何者だ!!」

 

 愛紗のまるで脅すような口調でなされる問いに対して、『双剣の朱雀』は表情を変えずに・・・

 

 「申し訳ありませんが、それには答えられません。ですが、いずれ知ることになるでしょうから、それまでのお楽しみとさせていただきましょう」

 

 片手のレイピアを構えて答えをはぐらかした。

 

 「さて、劉繇軍が逃げるまでの間、貴女方の足止めをしなくてはなりませんからね。そういうわけでしばらく御相手願いましょうか?何、殺しはいたしませんよ?」

 

 そのあからさまに愛紗を下に見ている口調に対して、愛紗は表情を変えずに冷艶鋸を構える。

 

 「いいだろう、ならば私も貴様を殺さずに捕らえるとしようか。知っていること全てを吐いてもらうためにな!!」

 

 「おお、怖い怖い。拷問は嫌ですよ。美がありません」

 

 おどけた調子で話す『朱雀』に対して、愛紗は冷艶鋸を上段に振るう。

 

 無論、死にはしない程度に手加減はしている、が、それでも足や腕の骨は砕け散るであろう一撃だ。

 

 が・・・・、

 

 「何!?」

 

 「危ない危ない、話してる途中で斬りかからないでくださいよ」

 

 『朱雀』はいつの間にか左手に持っていた剣で、愛紗の冷艶鋸を受け止めていたのだ。

 剣の形状は、長さは右手に持ったレイピアよりも短い両刃剣であり、刃の部分は細身のレイピアとは逆に分厚くかなり頑丈そうだ。

が、一番の特徴は、その特異な形状の刃である。両刃のうち片方は普通の刃なのであるが、その刃の反対側は、何かを受け止めるかのように櫛状の溝が刻まれており、とてもではないが何かを斬るには向いていない。そして、その溝で愛紗の冷艶鋸の刀身を受け止めていたのだ。

 愛紗の知識が正しければ、それは中世に使われたソードブレイカーと呼ばれる剣であったはずだ。文字通り敵の獲物を捕らえ、破壊するための剣であり、恐らく『朱雀』が持っている剣も、櫛状の溝に刃を挟んで圧し折ることが出来るのだろう。

 愛紗は圧し折られることを防ぐため、慌てて刃を引いて後方に距離を取る。

 

 「おやおや下がられてしまいましたか、では次はこちらからまいらせていただきましょうか」

 

 『朱雀』はそう呟いた瞬間、『朱雀』の姿が愛紗の目の前に出現した。

 

 「なっ!?」

 

 その移動速度の速さに愛紗は驚愕したが、すぐ気を取り直す。と、『朱雀』は右手のレイピアを愛紗目がけて連続で突き出してくる。その速さはまさに神速・・・。そのあまりの速さにレイピアと腕があまりの速さに無数に分裂しているかのようであった。

 

 が、愛紗はその連撃を難なく冷艶鋸で弾き、受け流し続ける。そして防ぎつつも敵の攻撃が一時的に止むのを待つ。このような速さの連撃が、いつまでも同じ速さで続くとは考えにくい。少しでも速度が遅くなった瞬間にレイピアを弾き飛ばして一撃を加える。

 

 「ふふふふふ、さあ、いつまでも避けてばかりでは勝てませんよ?」

 

 『朱雀』は嘲るように笑いながら連撃を繰り返す、それを愛紗は防ぎ続ける。一瞬のチャンスが出来る瞬間を狙いながら・・・。

 そしてもう何百発目の突きを防いだであろうか、『朱雀』が再び突きを放った瞬間、僅か、ほんの僅かだが突きの速さが少し遅くなったのだ。

 

 (…今だ!!)

 

 愛紗はレイピアの切っ先目がけて冷艶鋸を跳ね上げる。側面からの衝撃にレイピアは跳ね上げられる。

 

 「何と!?」

 

 レイピアから伝って腕に走る衝撃に驚愕する『双剣の朱雀』。普通ならば剣を手放してもおかしくないのだが、それを放さないのは流石というべきか・・・。しかし、ほんの僅かの間だが、『朱雀』の体は硬直した。

 

 「おおおおおおおっ!!」

 

 愛紗は冷艶鋸を『朱雀』目がけて振り下ろす。無論捕らえて尋問するために致命傷は与えない。ただ、その衝撃で脳震盪あたりは起こすかもしれないが・・・。

 

 しかし・・・、

 

 「何!?またその剣を!?」

 

 『朱雀』は愛紗の一撃を、またしても左手のソードブレイカーで受け止めた。櫛状の溝はがっちりと冷艶鋸の刃を挟み込んでおり、どうやっても外すことが出来ない。

 

 「残念でしたねえ。先程少し速度を落として誘ってみれば、まんまと引っ掛かってくれました。ですが先程の一撃は凄まじかった。私の『右翼刺嘴』を思わず放してしまいそうになりましたよ。ですが・・・」

 

 『朱雀』はにやりと再び口元に笑みを浮かべる。

 

 「私の左手の『左翼壊羽』を忘れたのはいけませんねえ。お気づきかもしれませんがこの剣は剣を受け止めるだけではない、剣を破壊するためにも使われるんですよ?」

 

 そして『朱雀』は『左翼壊羽』と呼んだソードブレイカーを捻る。その瞬間、冷艶鋸の刀身がミシミシと不協和音を鳴らし始める。

 

 「き、貴様・・・!!」

 

 「ふふ、いい武器で少しもったいないですが、壊させていただきますよ?それは」

 

 そう言いながら徐々に徐々にソードブレイカーを捻っていく。冷艶鋸は不自然な方向に捻じ曲げられて刀身が悲鳴を上げている。このままいけば間違いなく圧し折れるだろう。

 

 だが・・・、

 

 「なめ、るなあああああああああ!!!!」

 

 愛紗は思い切り力を込めて刀身を逆にソードブレイカーの溝に押し込む。瞬間、ソードブレイカーを握っていた左腕が、『朱雀』の側に徐々に動き始めた。

 

 「ふふ、何ですか、刀身を砕かれそうでも力づくで私を斬ろうというのですか?甘いですねえ。その前に刀身を圧し折って・・・『ピキッ』・・・・え?」

 

 突如ソードブレイカーから鳴った音に、『朱雀』は笑いを止める。

そして刀身を確認すると、冷艶鋸の刀身には傷一つ付いておらず、逆にソードブレイカーに刀身が食い込んできている。

 

 「こ、これはっ」

 

 「はああああああああ!!!」「っち!!」

 

 『朱雀』が慌ててソードブレイカーを手放した瞬間、冷艶鋸の刀身が一閃された。

ソードブレイカーは、しばらく空中にとどまっていたものの、すぐに冷艶鋸の刀身を挟んでいた部分から真っ二つになり、地面に落ちた。

 『朱雀』は地面に落ちた元々自分の獲物であった残骸を呆気にとられた様子で見つめていた。

 

 「あれまあ、頑丈さには自信があったんですけどねえ、この『左翼壊羽』は。少し貴女を侮りすぎていたようです」

 

 「これで自慢の防御は崩れた!!大人しく投降しろ!!」

 

 冷艶鋸を向けて威圧する愛紗に、片方の剣を失った『朱雀』はちらりと後ろを見た後にやりと笑みを浮かべた。

 

 「残念ですがそれはできませんねえ。これで私は帰らせてもらいますよ?目的も果たしましたしね」

 

 「何・・・・、!!しまった!!」

 

 劉繇軍が居ない・・・。目の前の敵に集中しすぎて見逃してしまった。愛紗は目の前の男を睨みつけるが、突如視界が白く塗りつぶされた。

 

 「なっ!?ゲホッ!!ゴホッ!!え、煙幕だと!?」

 

 「私はこれで失礼居たします。天将さん、中々の武の持ち主のようですが、それだけでは我等には勝てませんよ?次は貴女と天の御使いの首を頂きに参上いたしますので、お覚悟を」

 

 「くっ、ま、待て!!」

 

 愛紗は煙幕を振り払いながら後を追おうとするが、白い煙が晴れた瞬間、『双剣の朱雀』の姿は影も形も無くなっていた。

 周囲を見ると、今まで孫呉の兵士を攻撃していた他の八咫烏の兵士達も姿を消していた。

 

 「天将様!!」

 

 と、愛紗の背後から声が聞こえた。振り返ると亞莎が此方に走ってくるのが見えた。

 

 「おお亞莎!怪我はもう大丈夫なのか?」

 

 「は、はい!ゆっくり休んだので充分動けます!!それよりも・・・」

 

 亞莎は戦場であった場所を見回す。そこかしこに敵味方の死体が溢れている。が、不思議なことにあの黒い軍勢の死体だけは一つもなかった。

 

 「・・・すまん、劉繇軍は取り逃がした・・・」

 

 「そうですか・・・・あ!そんなに落ち込まないでください!!事情も理解していますし敵軍を追い払えただけで充分ですから!!」

 

 「・・・そうか」

 

 亞莎の言葉を軽く聞き流しながら、空を見上げて愛紗は『双剣の朱雀』の言った言葉を思い出す。

 

 『真の御使い、私達がお仕えする方は、貴女方よりも遥か以前にこの大地に降り立たれているのです・・・』

 

 「ご主人様以外の天の御使い・・・・、一体何者なのだ・・・」

 

 空の色はどこまでも青かった。まるで、これから嵐が来る前触れであるかのように・・・。

 

 

 劉繇side

 

 「ハア・・・ハア・・・ったく、何とか戦場からは離脱できたか・・・」

 

 その頃劉繇は、残った兵達を連れて、拠点の会稽まで撤退を進めていた。

兵士達も敗戦のためか相当疲労しており、すぐにでも休憩をさせなければ行軍も出来なくなってしまうだろう。

 

 (・・・ここまでくれば敵も追撃してこねえだろ・・・。今頃あの黒い連中につきっきりだろうからな・・・)

 

 劉繇は、自軍を援護するために孫呉軍に攻撃を仕掛けたあの黒い軍勢を思い返していた。

全員黒ずくめの鎧を着込み、馬も馬具も黒、そして旗印は三本足のカラスと出陣前に聞いた太史慈を襲撃した連中と全く同じだ。太史慈を襲撃した以上孫呉の伏兵かと考えたが、今回の戦いで孫呉軍を襲撃したところを見る限り、どうも違うらしい。

 おそらく自分達とは別の第三の勢力の私兵なのだろう。だが、だとすれば何の為に・・・。

 

 「・・・まあ今は休むか。よし!全軍停止!ここで小休止を・・・・「劉繇様―――!!!」・・・んお!?睦月!?」

 

 劉繇が兵達に小休止を命じようとした時、突然自分のよく知っている人物の声が響き渡った。劉繇が声の聞こえた方向に目を向けると、そこには自分の右腕とも言える配下、太史慈とその兵達がこちらに向かって来ていた。厳密には軍はまだかなりの後方にいるのだが、太史慈が猛スピードでこちらに向かってきているのである。その速さは距離が目と鼻の先ほどになっても少しも衰えず・・・。

 

 「・・・・って少し速度落とせ!!俺が吹きと・・・「劉繇様あああああ!!!!」ゲフウ!!」

 

 腹にまるで鉄球が打ち込まれたかのような衝撃を受けて劉繇は地面にひっくり返る。その身体に抱きついて、太史慈は頭を劉繇の胸に押し付けて、何度も自分の主の名前を呼んでいた。

 

 「・・・ゲホッ、ゲホッ、くそ、いきなり突っ込んできやがって・・・、っていうかなんでお前がここに居るんだ?確か奇襲失敗してそのまま行方不明になったんじゃなかったのか?」

 

 劉繇の問いに太史慈はゆっくりと顔を上げた。その瞳からは涙が溢れており、目は真っ赤に充血していた。その表情に劉繇は少しだけドキリとした。

 

 「うう・・・、森の中遭難しながらも、何とか会稽に到着したのですが、劉繇様がおられず、何処に居るのか束沙殿と厳白虎殿に聞いたら既に出陣したと聞いて、居ても立ってもいられずに・・・」

 

 「ああ、なるほどなるほど、寂しかったわけか」

 

 「なッ、さ、寂しくなんかありません!!ただ私無しで戦に向かう等という無謀な行為に呆れているだけです!!」

 

 「はいはい」

 

 劉繇は自分のことを心配してくれている彼女の気持ちが嬉しくて、思わず彼女の髪の毛を撫でてしまう。恥ずかしがった太史慈は叫び声をあげるが劉繇はそれを笑って無視する。

 

 「うう~・・・、それはともかくとして劉繇様。随分と兵士はやられたようですね」

 

 恥ずかしがりつつも周囲で休んでいる兵士達の様子を確認した太史慈は、劉繇にそう質問する。劉繇は笑顔から一転、少し沈んだ表情になった。

 

 「ああ、奇襲しかけて孫策殺ろうとしたらこの有様だ。ったく、連中は俺達の知らねえ武器をまだ持ってるらしいな・・・」

 

 劉繇の悔しげな表情に太史慈もまた沈痛な面持ちになる。

 

 「申し訳ありません。私がふがいないばかりに・・・」

 

 「お前は気にすんな。お前の場合は余計な邪魔が入ったせいだろ。ならしょうがねえよ」

 

 劉繇の言葉に太史慈は悔しげに顔を歪めた。たとえ邪魔が入ったとしても敬愛する主から授かった任務を成し遂げられなかったのが悔しいのだろう。

 その太史慈を見ながら、劉繇はじっと考えた。

 

 (結局第三勢力が何を狙っているのかは分からねえ、が、今は目の前の孫呉をなんとかしなきゃな)

 

 劉繇は表情を引き締め、地面から立ち上がる。太史慈は驚いた表情でそれを見る。

 

 「睦月、急いで会稽に戻るぞ。次こそは孫呉の連中を潰す」

 

 「・・!!はっ!!」

 

 (孫策、もう小細工抜きだ。これ以上てめえらの好き勝手にはさせねえ)

 

 劉繇の瞳は獰猛な輝きを帯びていた。

 

 

 あとがき

 

 王蓮「ぬおおおおお!!!!久しぶりの出番だああああああ!!!!」

 

 刀牙「王蓮・・・、少し落ち着いて・・・・」

 

 王蓮「刀牙!!もう少し喜んだらどうだ!!久しぶりの出番なのだぞ!!」

 

 刀牙「あとがきだけどね」

 

 王蓮「あとがきでも何でもよい!!ああ、一体どれだけ放置されたことか・・・!!」

 

 刀牙「まあまあ落ち着いて。とりあえず読者の皆さん、ここまで読んでいただいてありがとうございます。孫堅こと王蓮の夫の孫栄です」

 

 王蓮「久しぶりだな!!刀牙の妻にして雪蓮達の母の孫堅だ!!」

 

 刀牙「しばらく更新されてなかったから忘れられてたかもしれないけどね」

 

 王蓮「全くだ!!作者は怠慢すぎだぞ!!」

 

 刀牙「まあ仕事とかが忙しいみたいだからしかたないよ。それよりも今回の回についてだけど・・・」

 

 王蓮「ようやく天将と呂蒙の小娘が仲直りしたな」

 

 刀牙「まあ正史で殺しあった仲だから仲直りできるか不安だったけど・・・」

 

 王蓮「まあ良かったではないか。私はむしろあの黒装束どもが気になるぞ?」

 

 刀牙「ああ、どうやら幹部格は四人、そのうち一人は『双剣の朱雀』って名乗っていることは分かったけど、まだ謎だらけだよね」

 

 王蓮「結局もう一人の御使い、というのも分からなんだしな」

 

 刀牙「一刀君達が来るよりも以前にこの世界に降り立ったらしいからね。多分まだ予言が囁かれる前だろうことは確かだろうけど・・・」

 

 王蓮「まあ全ては今後の展開次第、ということか・・・」

 

 刀牙「そういうこと。次回は戦闘後の雪蓮達のことらしいよ。我が娘達も大変だろうに・・・」

 

 王蓮「ふん!!この程度の難関を越えられずして天下を獲れるか!!まだまだあいつもひよっこよ!!」

 

 刀牙「俺はがんばってると思うけどね。ま、こんな作品ですが、どうか次回もお願いいたします」

 

 王蓮「感想、こめんとも待っておるぞ!!・・・ところで刀牙。一つ気になったんだが、私達はこれからずっとあとがき担当なのか?」

 

 刀牙「・・・・さあ?」

 

 王蓮「刀牙ああああああ!!!???」

 


 
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