No.471731

恋姫夢想 真・劉封伝 4話

志半ばで果てた男がいた。その最後の時まで主と国の未来に幸あらんことを願った男。しかし、不可思議な現象で彼は思いもよらぬ第二の人生を得る事に。彼はその人生で何を得るのか…

2012-08-18 00:49:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2570   閲覧ユーザー数:2482

「よお、俺らの処遇は決まったかい?」

 

両手を後ろに縛られたままの波才は小さな倉庫の中にいた。

鎧も剣も奪われているが、それでも部下達と一緒にしておくのは危険と判断したのだろう。

 

「ああ、出来れば私の元で働いて欲しいと思っている。しかしその前に話を聞きたい。波才達が何故賊徒になったのかを」

 

あの後、楼斑には様々な話を聞いた。

私は荒野に倒れていたのが発見され、当初は衣服が血塗れになっていたのだが、息があるようなので手当てを試みてみたという事。

傷口を洗い流してみれば、既に傷口は塞がり掛けており問題はなかった。だが、出血の為か意識だけは戻らずに心配していたらしい。、

傷跡は残りそうだが、生活には支障はない筈だと言っていた。

 

 

そして、この近くには確かに公孫賛と劉虞は存在するということ。

現在は病床ではあるが霊帝が存命中であり、大将軍には何進将軍が任命されている。

最近、国中で賊徒が蔓延り、日に日にその数を増やしていっているという事。

 

そして、劉備という名は聞いたこともない。という事も。

 

確かめなくてはいけない。

 

ここがどの時代なのか。

 

父は黄巾の乱の前後で名を馳せたはず。黄布の乱のおきる前ならば無名なのも納得できる。

今頃、父は民を守るために義勇軍を結成し、賊討伐をしているはずだ。

 

そして、しばらく経てば父は公孫賛の元へと現れる。

 

ならば、義勇軍として動き回る父を探すよりも公孫賛の元で父が来るのを待つのが確実なはずだ。

 

もし時代が過去へ戻っていたら。の話になるが、死んだはずの私がこうして生きている時点で普通のことではない。ならば、時を遡る可能性も否定はできまい。

そして父の元に行くのに、部下も兵も一人も連れずに行くわけにもいかない。

少しの間、波才と話してみたが、波才達は根っからの悪人というわけではないだろうし、可能ならば有能なものは仲間にしておきたかったのだ。

 

烏丸族にも何か思惑があるのだろう。

大人である丘力居はその娘である楼斑の意見に賛同した為に他の者からは異論は出なかった。

そして丘力居はそのまますぐに少数の護衛を連れて他の集落に向かったためにもうここにはいない。

その結果…

 

「劉封様、よろしいのですか?元々は賊です。聞いて楽しい話がある筈も無く、信用できない者をお供にするのはどうかと…」

 

「なあなあ、劉封、一回このおっさんと手合わせさせてくれよ。結局こいつとは直接戦えなかったしさぁ…」

 

一緒について来る気が満々のこの二人を止めれる者はこの集落に居なくなってしまったのだ。

 

「なぁ、そこの茶色い嬢ちゃんは見たことあるが、そっちの黒い嬢ちゃんは誰だい?」

 

「くろっ!?劉封様!私は反対です!やはり烏丸の戦士達に護送させて公孫賛に引き渡しましょう!」

 

波才の言葉に楼斑は怒っているが、それが危険な事は彼女自身わかっているはずだ。

 

「楼班殿も言っていただろう?公孫賛は異民族嫌い、そこに戦士達を連れて行くことは刺激することにしかならないと」

 

楼斑が一緒に来るというのなら、私と董頓で守らなくてはいけない。しかし、3人で多数の賊に囲まれでもしたならば楼斑を守る事ができないのだ。

そして、護衛に烏丸の戦士達を連れて行くなら、きっと私達は公孫賛と会うことはできない。

そうなると私は非常に困るし、どうやら楼斑も困るらしい。

3人で行き、もしもの時は見捨てられても構わないと楼斑は言っていたが、きっと私も董頓もそんな事はできない。彼女の安全も確保できないならば何があろうと一緒に連れて行く気はない。

 

そこで波才とその部下達だ。

腕の立つ彼等が共に行けるならばそれなりの安全は確保できる為に同行は許すが、波才の人間性が認められない物であり部下にできないとなれば同行は断る、そう言って何とか頷かせる事ができた。

 

 

「それはそうですが…」

 

「すまない。名前を知らなかったとはいえ、失礼な物言いをしちまったな。この集落を襲い君の仲間を傷つけた事も変えようがない。どのように裁かれようとも謹んで受けよう」

 

私達の会話に波才が割って入り頭を下げた。急に真剣な態度をとる波才に面食らいながらも、楼斑も真剣に言葉を考える。

この襲撃での集落の死者は50人を超える。村に残っていた戦士達は波才とその部下達に釘付けにされ、その隙に無法な奴等が非戦闘民を襲ったためだ。波才の部下達は、戦士達を無力化はしても殺しはしなかった。だが、彼等が襲ってきたせいで集落に被害が出たのは間違いないのだ。

 

丘力居殿はこの集落は放棄し、他の集落に合流するように指示していた。烏丸族はそれほどの被害を受けているのだ。

 

 

「…貴方がした事を許すつもりはありません。しかし、償う気持ちがあるのならば劉封殿に従いなさい。彼の為に生き、彼の為に死になさい。それが貴方達に対する私の気持ちです」

 

 

 

その楼斑の言葉を受けて波才は頷き、私に向かって頭を下げた。

 

「劉封殿。俺達の話だろ?俺達はな、最初は民だけが傷つくこの腐った時代を変えるために戦おうと思ったんだ。その為にも悪徳官士達や賊徒を打ち倒し、奪った財を民に返す義賊になりたかったのさ。最初はうまくいってたんだぜ?民達にも歓迎され、悪人達は俺達に怯え少しでもマシな仕事を始めたもんさ。だがよ、同じ思いを抱いて立ち上り、集った筈の仲間達は目的も思想も変わっていった」

 

波才はこちらを見たまま、苦虫を噛んだように顔をしかめた。

思い出したくもない、嫌悪する過去を思い出すように。

 

「最初はよ、民達に返すべき財を着服する者が出てきた。それを罰したんだが、次は正しく治めている官士も襲うように勧める者が出た。それも諌めたんだが………次は守るべき民から財を奪おうとする者が出た。仲間達はな、自らの欲を満たす為に無法を尽くし始めたのさ。自分達が憎んだ存在になってきていることに疑問も持たず、それを止める俺らを敵視し始めた」

 

できれば賊達を止め、正しく導きたかった。きっとそう考えているのだ。

仲間達が外道に堕ちるのを止めれなかった後悔。

 

「そいつらに染まらぬよう志を持つ者を集め、鍛え、奴等から離れた。そうして幽州へ来たのさ。だが、ここいらは公孫賛の元にも、劉虞の元にも腐敗した官士は殆ど居ない平和な土地だった。物資も尽きていた俺等はここでなら仕官してもいいと思ったんだが、その時汝南の辺りで官士達が民を傷つけていると噂を聞いた。仕官すれば汝南の民を助けに行けない。しかし、俺達には既に食料も金も無かった………」

 

その結果、波才達がどうしたかは私もわかった。

 

「民を守る為に物資が必要だ、異民族だから問題ない、傷つけずに物資だけを貰おう、後で必ず返しに来よう、自分自身にそう言い訳しながら部下達に指示しここを襲ったのさ………結果は、多数の民を殺し傷つけた。守ろうとした部下の志も傷つけた。俺は死んだ方がいいだろう人間さ…」

 

わずかに震える声が彼の心を表していた。

 

「一度は自ら諦めた夢だ。だが、機会を頂けるのならこの命散るまで民の為に戦いたいと思う」

 

この言葉はきっと偽りではない。隣に立つ楼斑と董頓もこちらを見て頷いている。

 

「ああ、波才。力なき民を守るため、私に力を貸してくれないか」

 

「応!!」

 

こうして、私はこの不思議な第二の人生に、初の部下達と二人の同行者を得たのだった。

 


 
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