No.471669

恋姫夢想 真・劉封伝 零話

志半ばで果てた男がいた。その最後の時まで主と国の未来に幸あらんことを願った男。しかし、不可思議な現象で彼は思いもよらぬ第二の人生を得る事に。彼はその人生で何を得るのか…

2012-08-17 23:19:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3082   閲覧ユーザー数:2874

 

 

ただ、その人を守りたかった。

民を愛し、民に愛されたあの人を。

 

その為に、出来るだけの努力はしてきたつもりだ。

様々な武術を鍛錬し、書物を読み知識を蓄え、あの人と同じように民を愛した。

 

敬愛するあの人とは血はつながっていない。だが、それでも私はあの人の息子なのだ。

あの人が恥ずかしくないような、自慢の息子でありたかった。

 

 

私の願いはただそれだけだったのだ。

 

 

 

 

「顔を上げよ」

 

 

跪き、瞳を閉じていた私に声がかかった。

 

その声に従い、ゆっくり顔を上げて周りを見た。

 

私の傍に立つのは二人の兵士のみ。重々しい近衛の鎧を身にまとった兵士達は、静かに私を見下ろしている。

部屋の中には家具も何もない、ただの石畳が敷かれただけの小さな部屋。この部屋には家具など必要ない。

 

「言い残す言葉はないか」

 

 

私の左側に立つ兵士から声がかかった。

 

やりたいこと、思い残すことはありすぎるくらいだ。

 

だが、私にはそれを願っても叶わない。

 

だからせめて願いを託そう。

 

「………私の分も陛下を守ってくれないか」

 

 

 

その私の言葉に両隣の兵士が息を飲むのがわかった。

右側からは鼻をすする音まで聞こえてくる。

 

それからようやく隣に立つ兵士たちの顔を見た。

見知った顔だ。あの人の近衛兵。

 

よく見た顔だというのに、いまさら気づくとはなんとも間抜けな話だ。

私が願わずとも、彼らはきっとあの人を守ってくれるはずだ。

兵士達は職務を果たす為、歯を食いしばりながらこちらを見つめしっかりと頷いてくれた。

 

「任されよ。我等の力の及ぶ限り、必ずや陛下をお守りしよう」

 

安堵した。

そして、悔しくもあった。

 

その願いを人に託す事しか出来ない私。

 

私の手であの人を守り、支えたかったのだ。

 

 

「すまない、酷な願いかもしれぬが早めに済ませてもらえぬか?」

 

このままでは涙が零れ落ちよう。

死ぬ前に涙を流したとあっては、恥の上塗りだ。

 

後に首改めをするであろうあの人に、涙塗れの顔を見せてこれ以上失望されたくもなかった。

 

その思いを察してくれたのか、右側に立つ兵士が剣を抜く。

左側の兵士も私の下に落ちる首を包む布を敷いた。

 

嗚咽が聞こえた。兵士達が悲しんでくれている。

その事が、少し嬉しくもあった。

咎人として裁かれる私の死を悲しんでくれる。他にも悲しんでくれる人はいるのだろうか。

友人達にも何一つ言葉を残せていないが、彼らもきっと私の願いを察してくれる。そう信じている。

 

 

顔を伏せ、首を前に出して瞳を閉じた。

 

剣を握る兵士の深い呼吸の音が響く。小さな部屋で繰り返される呼吸音、そして一瞬の空白。

 

「おさらばです。劉封様」

 

 

兵の短い言葉にとともに、首に焼けるような熱を感じた。

 

一瞬の浮遊感。そして、柔らかいものに落ちた感覚。

 

急激にます眠気。それは決して目覚めぬ永久の眠りとなるだろう。

 

私は私としての自我が続く限り、ただ、この国の未来を祈り、義父である劉備様の栄光を願い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おもしろい…」

 

私の意識が完全に闇に包み込まれる直前、男の声が聞こえた気がした。

 

 
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