No.470854

三人の御遣い 獣と呼ばれし者達 EP14 毒舌軍師小さな猛者

勇心さん

お久しぶりです
今回は一気に三人も追加するので展開速すぎて微妙かもしれませんが、どうか温かい眼で見守ってください

2012-08-16 06:29:36 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:1843   閲覧ユーザー数:1529

 

 

 

早朝―――

 

厨房から軽快な音が鳴り響く

 

その音を鳴り響く厨房では中華鍋を片手で振るいながら楽しそうに調理をする赤羽烈矢の姿があった

 

烈矢「おら、お前ら飯だぞ!残したりしたら全員まとめてぶっ殺すからな!」

 

出来上がった料理の数々を食卓の上にどかりと置くと席につく兵士達に向かって物騒な言葉を笑いながら口にする

 

魏兵1「おお~、流石アニキ!朝からこんな豪勢な食事にありつけるなんて思いもしませんでしたよ」

 

魏兵2「そうですよ!こんな美味しい食事を残すなんて出来るわけありませんよ!」

 

魏兵3「だよな~、しかも市で噂の天の料理を堪能出来るんだぜ?残したら文字通り罰が当たるってもんですよ!」

 

烈矢の言葉に兵士達は思い思いの賛辞の言葉を口にする

 

烈矢「よしよし、いい心構えだな。だったら思う存分味わえよ?またいつでも作ってやるからな」

 

その言葉に気を良くした烈矢は更に料理を次々と作り続けようとしたその時―――

 

 

 

秋蘭「赤羽はいるか!?」

 

 

突如として秋蘭が息を切らせながら慌てて厨房に飛び込んできた

 

 

その姿に先ほどまで天の御遣いの料理を堪能していた兵士達は呆然とし、料理をしていた烈矢は目を見開いて驚いた

 

 

烈矢「……ど、どうしたんだ秋蘭?お前にしては珍しく慌てた様子じゃないか……」

 

 

秋蘭「……ああ、それが……」

 

 

烈矢「まずは落ち着けよ。ほら、一息吐くためにも茶でもどうだ?」

 

 

秋蘭「それどころではないぞ赤羽!とにかく玉座の間まで一緒に来てくれ」

 

 

烈矢「ああ?玉座の間だ?つーことは華琳が俺に用事でもあるのか?」

 

 

秋蘭「……そうではない!とにかく一緒に来てくれ」

 

 

そう言うと秋蘭は烈矢の腕を引っ張って厨房を後にした

 

 

後には残された兵士達が食事の手を止め、埴輪のような顔をしたまま呆然としている姿だけが残っていた

 

 

 

 

 

 

俺が秋蘭に連れて来られたのは玉座の間

 

 

要するに華琳がいる場所なのだが……

 

 

その玉座の間に足を踏み入れた俺の目に飛び込んできた光景は予想もしていないものだった

 

 

何と目の前に広がっていた光景は華琳が憤怒に染まった表情で目の前に座する少女に向かって鎌を突き付けているという……そんな異質とも言える光景だった

 

 

……というか、これは一体どういう状況?

 

 

まったくのノー情報で連れて来られた俺にとって、この状況を察しろと言う方が無理な話だろ?

 

 

そんなことを考えながら戸惑っていると―――

 

 

秋蘭「…すまんな、赤羽」

 

 

そんな俺の様子を察してくれたのか……俺を連れてきた張本人である秋蘭が唐突に謝罪をしてきた

 

 

烈矢「いや……別に謝る必要はないけど……これは一体どういう状況なんだ?さすがにいきなり連れて来られても説明がないとどうしようもないんだが?」

 

 

秋蘭「ああ、そうだな……実は今回の事の発端は明日に控えた遠征のことが原因なんだ」

 

 

烈矢「明日に控えた遠征……と言うことはもしかしてこの前話していた黄巾党討伐のための遠征のことか?」

 

 

秋蘭「そうだ。最近、黄巾党なる賊たちが横行しているのはお前も知っているだろう?今回の遠征はその賊が近くの村を襲撃していると情報が入ってな……その賊を討伐することが目的の遠征なのだが……」

 

烈矢「……察するにその遠征の準備で何か問題が起きた―――と?」

 

 

秋蘭「ああ……残念だがお前の言うとおりだよ。今しがた華琳様が遠征に持っていく糧食の帳簿を確認したら―――どうやらその糧食が指定していた量の『半分もない』そうなんだ」

 

 

……

 

 

…………は?

 

 

烈矢「いやいやいや、それは流石にまずいだろ?糧食が指定の半分って……それじゃ行軍なんかできないだろ?監督官の奴は何をしてたんだ!?」

 

 

秋蘭「ああ、お前の言うとおりだよ。それを確認するために華琳様が担当した監督官を今さっき呼び出したんだが……」

 

 

烈矢「何だよ、だったら別に問題ないだろ?相変わらず華琳は仕事が早いな。それなら後はその担当官を別の人間に変えて準備を進めればいいだけだろ?」

 

俺は至極まっとうな意見を秋蘭にぶつける

 

 

しかし、目の前の秋蘭はその意見に対して困ったように眉をひそめる

 

 

烈矢「秋蘭?」

 

 

秋蘭「……いや、それでまとまれば問題はなかったのだが、事今回の件に関してはそんな甘い話ではないんだ」

 

 

烈矢「……どういう意味だ?」

 

 

秋蘭「今回の糧食を担当した監督官なのだが……糧食を半分しか準備していなかったのはどうやらわざとだったようなのだ」

 

 

烈矢「わざと?……ということはもしかして……」

 

 

秋蘭「ああ、どうやらあの担当官―――華琳様に呼び出されることを確信していたようなのだ」

 

 

烈矢「……やっぱりな。つまり華琳はまんまと試された……ということだな?」

 

 

秋蘭「ああ、そのことが華琳様の逆鱗に触れてしまってな……あの方は試されることを何よりも嫌うのでな……」

 

 

……俺を天の御遣いとして勧誘した時、散々人の事を試したくせに

 

 

自分はするのは良いけど人にされると嫌なのか

 

 

とんでもない理不尽な奴だな、あいつ

 

 

まぁ、それくらいの度量じゃないと天下を取ろうなんて言えないか

 

 

……ん?

 

 

ちょっと待てよ

 

 

烈矢「……なぁ、秋蘭。あの担当官、華琳を試したって言ったよな?」

 

 

秋蘭「ああ、そう言ったが?」

 

 

烈矢「華琳程の人物を試すってことは……あの担当官の目的はまさか……」

 

 

秋蘭「お前の想像通りだよ。あの担当官は自分を軍師として取り立ててもらうつもりらしい」

 

 

烈矢「なるほどな。ようやく合点がいったぜ。軍師として取り立ててもらうために今回の遠征で己の策によって黄巾党を殲滅し、実力を認めてもらおうって肚か……ったく、いつの時代も考える奴は考えるもんだな」

 

 

秋蘭「まぁ、そう言うな。事実、今の乱世ではそういった方法を取らなければ上に上がれない者も少なくない。それよりも……」

 

 

烈矢「わぁってるよ。まったく……しょうがねえな。ちっと行って怒りを鎮めて来てやるよ」

 

 

秋蘭「……すまんな、赤羽」

 

 

烈矢「気にするな……」

 

 

そう言い残し、俺は険悪な雰囲気の華琳達にため息交じりに近づいて行った

 

 

 

 

 

 

烈矢「そこまでだ、華琳」

 

 

華琳が少女に鎌を振り下ろそうとした瞬間―――赤羽烈矢は彼女の行為を制止した

烈矢の言葉に華琳は反応を示し、振り上げた鎌をゆっくりと下しながら睨み付けるように烈矢を見る

 

 

華琳「……何?今はとても大事なところなのよ。下らない要件なら後にしなさい」

 

剣呑な雰囲気で烈矢を睨む華琳

 

一目見ればそれが怒っているからだというのは一目瞭然だった

 

その証拠に傍にいる春蘭ですら口を挟めない様子だ

 

烈矢も彼女が『本気』で怒っていたのだったら彼女同様、その迫力に押されて口を挟めなかっただろう

 

そう……『本気』だったなら……

 

 

烈矢「……お前が馬鹿な真似してるから止めてやってるんだよ。感謝して貰いたいくらいだっつぅの」

 

華琳「……あら、いつ私が馬鹿な真似をしたのかしら?私はただふざけたことをしたこの子にそれ相応の罰を与えようとしただけよ」

 

烈矢「……まぁ…な、今回の遠征のために必要な糧食準備で自分がのし上るために魏の王であるお前が試されたんだ。お前が怒るのもわかるんだがな……でも―――」

 

 

そこで一息置くと烈矢は呆れた口調で言葉を続ける

 

 

 

烈矢「―――でも、だからって『本気でもない』のに鎌を突き付けるのはやり過ぎだ。試されたからって試し返すのはあまりいい性格とは言えないな」

 

 

その言葉を聞いた華琳は目を見開く

 

そして、一拍置いて心の底から愉快そうに笑いだした

 

 

華琳「ふふっ……あははははっ!まったく……相変わらず貴方はそういうことに関しては鋭いのね?まさか相手の心が読めるなんて言わないわよね?」

 

 

烈矢「……んなわけねぇだろ。ここ最近でお前の性格は大体把握出来たからな……ある程度は察しがつくようになったんだよ。ていうか、折角気を利かせて止めるきっかけを作ってやったんだ。感謝して欲しいくらいだ」

 

華琳「あら、それは有難う。……だけど、貴方にしては珍しいわね?見ず知らずの他人のためにそんな庇うような発言をするなんて……」

 

 

烈矢「今回は特別だよ。今、魏で最も足りないものは華琳と同等―――もしくはそれ以上の政治、軍略に通じる『軍師』だからな……お前のためになるんだったら自分の主義主張なんて捻じ曲げてやるさ」

 

 

華琳「っ~~……ふん、まぁいいわ。……で?どうしてこの子が軍師志望なのがわかったの?」

 

 

烈矢「さっき秋蘭が血相変えて俺を呼びに来てな……その時に聞いた」

 

 

華琳「……そう、まぁいいわ。どちらにしても『魏の天の御遣い』である貴方にここまで言わせては刃は退くしかないわね」

 

 

そう言って華琳は少女から鎌を退き、先ほどまでとは打って変わった冷静な表情で目の前に座する少女を見下ろす

 

 

華琳「―――と言うことだから筍彧……いえ、桂花。貴方が私を試した件は烈矢に免じて許しましょう。でも貴方の言う自身の策で万が一今回の遠征が上手くいかなかったら……それ相応の罰を与えるからそのつもりでいなさい」

 

 

桂花「……はい」

 

 

その言葉を残し、華琳は玉座の間を後にした

 

後には烈矢と未だに座する桂花と呼ばれた少女の二人だけが残った

 

 

 

烈矢「……おい、大丈夫か?」

 

烈矢は未だに座する少女に近づくと優しく手を差し伸べた

 

それこそ壊れ物を扱うかのように優しく差し伸べた

 

 

しかし―――

 

 

優しく差し伸べたその手は少女の手によりあっさりと弾かれる

 

 

烈矢「……え?」

 

 

弾かれた手を見つめながら烈矢はそんな間抜けな声を洩らす

 

そして数秒の間を空け、烈矢は自身の手を弾いた少女に目をやる

 

すると、そこには庇ったはずの少女からまるで恨むかのような怒りの視線を向けられていた

 

意味がわからない

 

それが烈矢が抱いた率直な感想だった

 

そんな思考が烈矢の頭を支配していると目の前の少女がすっと立ち上がり烈矢に向き直った

 

桂花「触らないでよ!アンタのせいで後味の悪い結果になっちゃったじゃない!!」

 

いきなりの怒声に烈矢は驚きで目を見開いた

 

その姿は普段の仏頂面からは想像も出来ないほどに表情豊かな驚きと言えた

 

烈矢「…な……何が?俺のせいって……?」

 

余りの唐突な怒りの態度に烈矢は驚愕のため上手く言葉が出てこなかった

 

桂花「アンタがさっき曹操様に取った対応よ!あれじゃ私が曹操様に仕方なく許されたみたいじゃない!?本当だったら曹操様が私を試し返して私は活躍の場を与えられ、力を誇示する絶好の機会だったのに……アンタのせいで後味最悪よ!」

 

 

彼女の言葉に烈矢は冷静に思考してみた

 

要するに彼女の言い分はこうだ

 

本当だったら彼女が華琳を試し、華琳が彼女を試し返し、それでお互いの力の一端を見せ合うことで彼女は軍師の力を見せる場を得られたはずが烈矢自身の要らぬ介入により

 

力の誇示の場が一転、重罪人に対する処罰を烈矢が庇った様な空気になってしまった

 

それが彼女にとっては不愉快で仕方がない様だ

 

結果としては同じものでもそこに至る過程が違うことで周囲の抱く感想は違ってくる

 

要するに彼女が言いたかったのはそういうことだろう

 

しかし、それにしても―――

 

 

烈矢「……いや、それにしても理不尽じゃないか?」

 

 

烈矢は率直な感想を口にする

 

 

桂花「理不尽じゃないわよ!」

 

しかし、そんな烈矢の言い分など今の彼女には馬の耳に念仏、馬耳東風

 

……というかここまで初対面の人間に対して嫌悪感を前面に出せることに

 

烈矢は呆れを通り越して感心してしまった

 

 

烈矢「……まぁ、アンタが俺を気に喰わないって言うんなら別に構わねぇけどよ……これから遠征なのにアンタがそんな調子じゃ成功する策も成功しないんじゃねぇか?」

 

 

桂花「なっ……何よ、いきなり」

 

烈矢「俺がアンタに嫌われるようなことをしたってんなら謝るよ。だがな……どんな形であれ折角掴んだ成り上がる好機だ。絶対成功するためにも今こんなところで冷静さを欠いてたら駄目だろ?」

 

 

桂花「…………」

 

 

烈矢の的確な指摘に桂花はただ黙るしか出来なかった

 

彼の言う通りここで冷静さを欠いては戦場で力を発揮することなど出来はしない

 

どんな形であれこうして成り上がりの機会を得たのだ

 

力を示し、戦果を挙げればより曹操の傍に行けるのだ

 

それを考えれば今ここでの些細な恥など問題ではない

 

その事実に桂花は悔しさに唇を噛み締める

 

 

烈矢「……まぁ、俺に言えるのはここまでだ。後は今俺が言ったことをどう受け取るかはアンタ次第だ。それじゃ、これで俺は失礼するぜ。これ以上余計なことを言ってアンタの怒りを買うのはごめんだ」

 

 

そう言って烈矢は踵を返して玉座の間を後にした

 

 

 

時は変わり―――

 

 

曹操率いる軍は糧食の問題を解決し、遠征へと向かった

 

あの騒動を起こした桂花は秋蘭と一緒に華琳から少し離れた位置で行軍していた

 

桂花「……ねぇ、夏侯淵。一つ質問してもいいかしら?」

 

桂花は唐突に横にいる秋蘭に話しかける

 

秋蘭「うん?何だ桂花?……それはそうと私の事は秋蘭で良い。お互いに華琳様の命で真名を許しただろう?」

 

桂花「……そうだったわね。で、話は戻るけど……」

 

秋蘭「ああ、質問だろう?いいぞ、何でも聞いてくれ」

 

桂花「……あの男―――確か赤羽烈矢と言ったわね。あいつは一体何者なの?」

 

 

桂花は神妙な面持ちで秋蘭に尋ねる

 

秋蘭「何者……というのは一体どういう意味だ?質問の意味がわからないのだが……」

 

桂花「華琳様に対するあの態度の事よ!何であんな男風情が華琳様の近くで、それもあんなにも馴れ馴れしい態度を取っているかと言うことよ」

 

秋蘭「ああ、そんなことか……あれは別にいいんだよ。あいつは魏の『天の御遣い』だからな。立場的にも対等なものだからああいう態度になる。華琳様自身も納得している関係だよ。我々配下の人間が一々口を挟む問題ではない」

 

桂花「……それはそうかもしれないけど、それにしたっておかしいわ。華琳様は有能な人間は重宝し、無能な人間には興味すら示さない御方……それなのにあんな何の才能もなさそうな男にああも親しそうにされる理由が私にはわからないのだけれど?」

 

秋蘭「さっきも言ったがあいつは『天の御遣い』だ。我々も知らないような天の知識を有しているのだ。それは我々にとって、華琳様にとって十分過ぎる程に重宝すべきものじゃないのか?」

 

桂花「それだけではあれほど親しくしていい理由にはならないでしょう!?どんなに有益な知識を有していても使う人間が無能ではその価値だって半分以下よ!それとも何?あの男に無能と言われないだけの才能があるとでも言うの!?仮にあったとしてもそれを役立てられる才能なの!?それは文官として!?それとも武官として!?……まぁ、前者は関しては貴方の言う天の知識が生きるかもしれないけど、見た感じとても学があるとは思えないわよね?でもだからといって武官なんて以ての外でしょう?華琳様の―――魏の精兵の中で活躍するなんて並みの実力ではとてもじゃないけど無理だわ!それこそ魏の精兵の中でも頂点に立つ春蘭にでも勝てるくらいでないと天の御遣いとして威厳を保つなんてとてもじゃないけど―――」

 

 

『無理』

 

 

そう言おうとした桂花の言葉を黙って聞いていた秋蘭が片手で遮り、その問いの答えを口にした

 

 

秋蘭「……まぁ、落ち着け。先ほどの答えだが……あいつは華琳様に認められるだけの才能が確かにある。それどころかあの華琳様ですらあいつの才能……というかあいつの力を御しきれるかどうか分からないほどだ」

 

桂花「なっ!!?」

 

秋蘭「確かにお前の言葉通り、あいつに文官の才はない。精々、お前が言った天の知識を少し使うだけで精一杯だろう……だが、それとは逆にあいつは―――赤羽烈矢という男は武官としてなら文句なしの実力を持った男だよ」

 

桂花「そ、それはどういう意味?何か根拠となるものがあるとでも言いたげね?」

 

秋蘭「根拠も何もあいつは―――赤羽は私の姉……お前が言う魏の精兵の頂点に君臨する夏侯惇に圧勝した程の実力者だ」

 

桂花「……う、嘘…でしょ?」

 

秋蘭「悪いが事実だよ。華琳様があいつを勧誘する時、流れで姉者と赤羽が決闘することがあってな……その時の決闘は我々にとってはあまりに衝撃的なものだった。あの姉者が……あの魏武の大剣と言われる姉者がただの一度もまともに攻撃を当てることが出来なかったのだからな……」

 

桂花「それこそ嘘でしょう?いくらなんでもあの春蘭が同じ武人にただの一度も攻撃を当てられないなんて……そんな言葉、それこそ子供でも信じない迷信じみた話ね」

 

秋蘭「それが事実だから恐ろしいと言えるがな……」

 

桂花「……貴方の様子を見るとそれが真実なのだと言うのがよくわかったわ。でも、変じゃない?確かその決闘って公式の資料では春蘭の勝ちってことで記されていたはずだけど……」

 

秋蘭「ああ、結果としては赤羽に姉者が一撃を入れて姉者の勝利……ということになっている。あいつの額に大きな十字傷があるだろう?あれはその時に出来た傷だ。あの傷があることで城内の兵士達も姉者が勝ったという情報を鵜呑みにしている。それはある意味事実だから否定するつもりはないが、そんな公式に記された勝利ですら―――『赤羽がわざと姉者の一撃を受けた』ために掴んだ偽りの勝利だというのだから……姉者からしたら堪ったものではない」

 

 

移動しながらも桂花は秋蘭の言葉に愕然とした

 

あの公式の資料に記された春蘭の勝利があの男の手によって捏造された偽りの勝利でしかなかったという事実に桂花は言葉が出なかった

 

それもそのはずだ

 

魏の中で最強を誇るあの春蘭がそれほどまでの圧倒的な実力差を見せつけられるなんて誰が想像できようか

 

しかもあろうことかその決闘相手にお情けとも言える手抜きをされ、武人として最も恥じるべき『勝ちを譲られる』という行為をされたのだ

 

そんな屈辱でしかない決闘を公式の記録して残されては春蘭の武人としての誇りはズタズタだろう

 

そんな同情にも似た思いを馳せていると―――

 

 

秋蘭「まぁ、姉者自身はその結果にさほど落ち込んではいないみたいだがな……」

 

 

そんな意外な言葉を口にした

 

 

桂花「……え?」

 

 

秋蘭「意外だろう?本来なら武人として恥じるべきあの決闘を姉者に言わせれば『喜ばしいこと』なのだそうだ。あの決闘は姉者からしたら己の未熟と自惚れを知るいい機会だったそうだ。あの姉者にそう思わせてしまうのだから……あいつは色んな意味で底が知れないよ。まぁ、この場でお前にいくら言って聞かせた所で聞く耳は持たんだろうがな……」

 

桂花「べ、別にそんなこと!?」

 

秋蘭「そう怒るな……折角の機会だ。今日の遠征ではもしかしたらあいつの実力を見れる場面があるかもしれんぞ?」

 

そう言うと桂花を残し、秋蘭は先に華琳の元へと馬を走らせた

 

 

残された桂花は一人その場に佇み思考する

 

 

桂花「何なの……あの秋蘭ですらあいつに対する異様な評価の高さは……あいつの実力って一体……」

 

 

 

 

 

桂花が一人悶々としているころ、当の烈矢はと言うとそんな噂をされていることも露知らず、悠々と華琳の横を歩いていた

 

烈矢「なあ、華琳……今回の遠征だが、正直なところ筍彧の策成功すると思うか?」

 

華琳「さぁ?それはやってみないとわからないわね。というか貴方が心配しているのはそんなことなの?」

 

烈矢「……と言うと?」

 

華琳「今回の遠征、確かに糧食関係で不安要素はあるわ。でも、それよりも今回はあくまで賊討伐を名目とした視察でもあるわ。もし、これから訪れる村を前にして『天の御遣い』である貴方は冷静でいてくれるのかしら?私としては貴方が村の惨状を見て暴走しないかという不安の方が大きいくらいなのよ」

 

烈矢「何だ?まだ、あの決闘の時の事引きずってんのか?あれは店のおばちゃんに迷惑が掛かる可能性があったからに過ぎないぞ?一々見ず知らずの奴らが住んでる村の事で怒るほど俺は優しくねぇから心配すんな」

 

華琳「まぁ、貴方がそう言うなら信じるけど……」

 

烈矢「……そいつはどうも―――ん?」

 

二人がそんなやり取りをしていると前方からこちらに向かって走ってくる影が一つ

 

その影はどうやら斥候で向かわせた兵士の一人だった

 

烈矢「おい、華琳。あれ、斥候に出ていた兵士じゃねぇか?」

 

華琳「そうみたいね……でも、何か様子がおかしいわね?もしや先方にいる春蘭に何かあったのかしら……」

 

烈矢「さぁな……だが、春蘭程の武人が手こずるような相手はいないはずだ。もしかしたら別の要因じゃ―――」

 

 

烈矢が続く言葉を口にしようとした瞬間、走ってきた兵士によってその言葉は遮られた

 

魏兵士「申し上げます!前方に数十人の集団がいます。恰好は皆黄色の頭巾で統一されており、恐らく情報にあった黄巾党の一団と思われます!」

 

 

華琳「やはり、黄巾党だったようね……」

 

烈矢「みたいだな……それで、先鋒の春蘭は今どうしてる?」

 

魏兵士「はっ!……それが、最初は曹操様の御命令をお待ちしていたのですが、その黄巾党と思われる集団と何者かが交戦しているのを確認すると……その……」

 

 

烈矢「単騎で突撃を掛けて行った……と?」

 

魏兵士「……はい」

 

 

華琳「まったく……あの子は」

 

烈矢「まぁ、別にいいだろ?たかだか数十人の賊なら春蘭一人で十分過ぎる程十分だ。それよりも俺は……その黄巾党と交戦中っていう人の方が心配だな。おい、その交戦しているっていう人の特徴はわかるか?」

 

魏兵士「はっ!遠目からだったので詳細は判断しかねますが……現在、黄巾党と交戦しているのは人数からしたら二人―――二人の『子供』です!」

 

烈矢「なっ!?」

 

華琳「何ですって!?」

 

 

二人は斥候の言葉に驚愕を露わにする

 

それもそのはずだ

 

たった二人の子供―――

 

如何に春蘭が加わっているとはいえ、たった二人の子供が数十人の賊を相手に大立ち回りをしているというのだ

 

これが驚かずにいられるか

 

華琳「これは驚いたわね……あの村が度々賊の襲撃を受けていたというのは報告にあったけど、これでようやく合点がいったわね。どうやらあの村が今まで無事でいられたのはその二人の子供が賊を追い払っていたからでしょう……こんな地にまだそんな逸材がいたなんて……これは是が非でも―――」

 

斥候の話を聞き、華琳はぶつぶつと何かを思考し始める

横でその様子を見ていた烈矢は大体の予想が着いていたため嫌な予感がしてならなかった

 

 

華琳「……烈矢、一つ頼まれてくれない?」

 

烈矢「……何だよ?」

 

華琳「今すぐ春蘭達の所に行ってくれない?それで報告にあった交戦中の子供二人をうちの陣営に勧誘してきてほしいの」

 

烈矢「…………」

 

 

案の定―――と言ったところだった

 

玉座の間で言った通り、烈矢は華琳の性格を大体は把握できるようになっていた

 

華琳は自分が欲した人材はどんな手を使っても手に入れようとする

 

しかも質の悪いことにその欲する相手の実力を試そうとする癖があり、今回のことを言うならばその当て馬として烈矢をぶつけようと言うのだからいい性格をしてると言える

 

華琳「頼めるかしら?」

 

烈矢の気も知らず、そんな頼みを―――しかも断られるとは微塵も思っていないのだから烈矢としては頭が痛かった

 

同時にそんな彼女の頼みを断ることが出来ないのだから

 

こういうのを惚れた弱みと言うのだろうか

 

烈矢「ああ、わかったわかった。まったく、しょうがねぇな」

 

彼女の頼みを聞くことを了承し、烈矢は面倒臭そうに頭を掻きながら春蘭達が戦っている方向へと歩を進めた

 

 

 

 

烈矢「……なんだぁ、こりゃ?」

 

 

 

烈矢が春蘭達のいる場所まで辿り着くと―――そこには意外な光景が広がっていた

 

目の前に広がる光景

 

そこには春蘭と報告にあった二人の少女が戦っているという

 

まったくもって異様な光景が広がっていた

 

二人の少女のうち

 

 

活発そうな少女はとても子供が操れるとは思えないほどの巨大な鉄球を振り回し

 

 

もう一人の大人しそうな少女の方は自身の体ほどあるヨーヨーをまるで生きているかの如く錯覚させるように軽やかに操作していた

 

 

対して春蘭はというと―――その二人の猛攻にたじたじと言った感じで大剣で防ぐのが精一杯の防戦一方だった

 

 

烈矢「おいおい、マジか?いくら相手が二人とは言え……あの春蘭が子供二人に防戦一方だと?悪い冗談だろ……」

 

口では軽口を叩いていたが二人の少女の戦闘力に烈矢内心驚嘆した

 

如何に強いとは言え、あの年齢の少女二人がどれ程の修練を積めばあの領域まで達することが出来るのか

 

烈矢には想像もつかなかった

 

二人の動きは速く、武器の操作に関してもそれなりのレベルだ

 

若干足運びや体捌きに無駄が多いのは難点だが

 

それを差し引いてもあの二人の少女の実力は相当なものだった

 

現にあの春蘭が二人掛かりとはいえ押されているのだ

 

華琳ではないが……素質としては十分―――逸材と呼ぶに相応しいだろう

 

だが、このままではその逸材を二人に失ってしまう恐れがある

 

今は押されている春蘭だが、そのうち二人の動きに慣れて攻勢に転じるだろう

 

それでは手加減の出来ない春蘭にあの二人の少女が切り殺されてしまう

 

それだけは何としても阻止しなくては

 

 

 

烈矢は思考を行動に移すべくゆっくりと死闘を演じる三人の方へと歩を進める

 

 

もう何度交錯したか

 

そう思わせる程に春蘭は現状の戦闘に辟易としていた

 

最初はただ賊の討伐のため、戦っている二人の少女を救うために割って入ったというのに……

 

何がどうして助けたはずの少女二人と戦闘を繰り広げなければいけないのか

 

春蘭の頭ではわからなかった

 

だが、きっかけだけはわかっていた

 

きっかけはそう……賊を討伐し終えた時、少女二人から手助けの礼を言われ、自身が官軍であることを明かした時―――少女達の目の色が変わったのだ

 

それは圧倒的な憎悪の瞳

 

理不尽なものに対する怨嗟の瞳

 

それを読み取ったからこそ春蘭は少女二人に話を聞こうと試みた

 

 

 

 

……だが、結果は失敗に終わった

 

 

それどころか試みることすら出来なかったのだ

 

春蘭が二人に事情を聞こうとした時にはすでに―――片方の少女の手から鉄球が放たれた後だったのだから……

 

 

少女から放たれた鉄球は唸りを上げ春蘭の顔面目掛けて飛来する

 

眼前まで迫ったそれを春蘭は紙一重のところで回避するが

 

あまりの不意を突いた一撃に無意識の内に春蘭の体は動いていたのだ

 

それ故に次の動作を想定していなかった回避のため体勢は不十分なものになってしまった

 

そして、それを見逃す程相手は甘くなく―――続くもう一人の少女のヨーヨーによる不規則な一撃が春蘭に向かって牙を剥く

 

体勢の崩れた春蘭は大剣を横一文字に振り、何とかその一撃を弾いて防ぐ

 

しかし、その一撃は重く、とても少女が引き出せる力とは思えないほどの破壊力を秘めていることに春蘭は驚愕と同時に己の内の警戒心を最大限まで高めた

 

やらなければやられる

 

 

そう思わせる程に少女二人の戦闘力はすさまじかった

 

 

 

 

故に戦闘は均衡し、今も尚その戦いは続いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その攻防も―――お互いの動き、呼吸、間合いを把握した今となっては

 

 

残るは決着の一撃のみ

 

 

 

それがわかっているからこそ……両者は持てる力の全てをつぎ込み―――

 

 

 

 

 

春蘭「はああああああああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

季衣「でえええぇぇえぇい!」

 

 

 

流琉「ええええぇぇぇぇい!」

 

 

 

 

 

最後の一撃を繰り出した――――はずだった

 

 

 

烈矢「おら、そこまでだお前ら……」

 

 

 

三人の全力の一撃が激突すると思われたその時

 

 

一迅の黒い影が三人の間に割って入り両者の攻撃を無効化した

 

 

変則的な軌道を描くヨーヨーは割り込んだ者の側面からの蹴りによりあっさりと地面へとめり込み

 

 

放たれた巨大な鉄球は片手によって受け止められ

 

 

 

春蘭の全力の斬撃は残った片手によってまるですり抜けるかのように下へと受け流される

 

 

 

それら三つの対処を一瞬にしてやってのけた男―――赤羽烈矢の登場により場の全員が動きを止める

 

 

それはまるで蛇に睨まれたカエルの様に……指一本動かすどころか言葉を発することすら出来なくなるほど目の前の男の存在感に圧倒された

 

 

そしてそんな三人を余所に割り込んだ当の烈矢は話を始める

 

 

烈矢「このド阿呆が……喧嘩をするのは構わねぇが時と場所を考えろ。それに春蘭……子供相手に大人気ないぞ。少しは手加減してやれよ」

 

 

春蘭「……だ、だが……この二人の実力ではとてもではないが手加減など……」

 

 

烈矢「それでもだ!確かにこの子達の実力は大したもんだが、それでも今のお前ならやり方さえ間違えなければそれ程難しいことでもないだろうが」

 

 

春蘭「……簡単に言ってくれる」

 

 

烈矢「お前だからこその苦言だよ……それはそうと―――」

 

 

言うと烈矢は先ほどまで春蘭と激しい戦闘を繰り広げていた二人の少女に向き直る

 

 

烈矢「あの賊共と戦っていたのは君達―――で良いんだよね?」

 

 

烈矢は確認の意味を込めて少女たちに問いかける

 

季衣「……あ……は、はい!」

 

烈矢「何で君達みたいな子供がわざわざこんな真似を?」

 

流琉「それは……私たち以外戦える人がいないですから……」

 

季衣「それに!それに……国の軍隊は税金ばっかり取って行って僕たちの事を全然守ってくれないんだもん!僕たちがみんなを守るしかないじゃん!」

 

烈矢「なるほどな……それで官軍である春蘭に襲い掛かったということか……」

 

季衣「そうだよ!!」

 

烈矢「……まぁ君達の気持ちも分からなくはないんだがな……でも、だからって話も聞かずに相手に襲い掛かるのは人としてどうかと思うぞ?理不尽に苦しんでいる者なら自分達が行った理不尽さもわかるだろう?自分がやられて嫌なことは人にもやらない……常識だぞ?」

 

季衣「……うぅ…」

 

流琉「ぁ……はい…」

 

烈矢「よし!わかってくれたならそれで良いんだ。聞き分けの良い子は好きだぞ、俺は……」

 

そして烈矢は笑顔で二人の頭を優しくなでる

 

二人はその行為に最初のうちは戸惑っていたが徐々に慣れて気持ちよさそうに目を細める

 

烈矢「―――と言うことだ。華琳……この子たちは確かに方法を間違ったが気持ちを考えれば悪いのはこんな状態にまで放置した俺たちに否がある。ここは一つ……俺の顔を立ててこの子たちの事は不問にしてくれないか?」

 

烈矢は二人の緊張が解れたことを確認すると後ろにいる人物に声を掛けた

 

 

 

華琳「ええ、言われなくても不問にするわ。むしろ、謝罪をしたいくらいだわ……貴方達、名前は?」

 

 

華琳に問われ、二人の少女はその存在感からすぐさま姿勢を正し、質問に答える

 

季衣「は、はい!僕は許緒といいます」

 

流琉「私は……典韋と申します」

 

華琳「そう……許緒、それに典韋―――ごめんなさい……」

 

 

そう言って華琳は二人に向かって深々と頭を下げた

 

その行為はとてもではないが一国の君主のするべき行為ではなく、春蘭、秋蘭を始め周囲の部下達は動揺を露わにした

 

それは謝罪をされた許緒と典韋も例外ではなく、予想もしなかった事態に二人はただただ戸惑うばかりだった

 

季衣「…え……あ、あの」

 

流琉「あ、頭をお上げください!いきなりそのようなことをされても……」

 

華琳「それもそうね。名乗りもしないで謝罪では返って失礼に当たるもの……では、改めて名乗らせてもらうわ。……私は曹操―――山向こうの陳留の街を統べている者よ」

 

季衣「山向こうって……?あっ……それじゃあ!?ご、ごめんなさい!!」

 

華琳の名乗りを聞いた少女二人はいきなり唐突に頭を下げて謝罪をする

 

春蘭「な……?」

 

流琉「山向こうの街の―――曹操様の噂は聞いています。曹操様が治める街では税金も安くなり、盗賊の数も少なくなったと……そんな御方に私達は……本当にごめんなさい!」

 

華琳「構わないわよ。今の国が腐敗しているのは私が一番良く知っているもの。官軍と聞いて貴方達二人が憤るのも当たり前の話だわ」

 

流琉「で、ですが……」

 

華琳「でも、だからこそ……貴方達に一つ頼みがあるの。許緒、典韋……貴方達の力、そして勇気をこの曹操に貸してはくれないかしら?」

 

季衣「……え?僕たちの……」

 

流琉「……力…を?」

 

二人はいきなりのヘッドハンティングに再度戸惑う

 

それもそのはずだ

 

先ほどまで……勘違いだったとはいえ、己の部下に刃を向けていた相手に対して唐突なまでの勧誘

 

戸惑わない方がどうかしている

 

しかし、その予想外なことを平然とやってのけるが『覇王』曹操たる所以なのだろう

 

形式や常識に囚われず、有能な人材を自身の目で見極め手中に入れる

 

そういった型破りな人物だからこそ―――一癖も二癖もある国戦の一人、赤羽烈矢を使役しているのだから当然と言えば当然である

 

 

華琳「私はいずれこの大陸の王となる。けれど、今の私の力ではあまりに少なすぎるわ。だから、村の皆を守るために力を振るえる貴方達の力と……そして勇気をこの私に貸してほしい」

 

季衣「曹操様が……王に?」

 

華琳「ええ……」

 

流琉「あ……あの…一つだけお聞きしてもよろしいですか?」

 

華琳「ええ、構わないわ」

 

流琉「その……曹操様が大陸の王になったら……私達の村も守ってくださるのですか?」

 

華琳「もちろん約束するわ。陳留だけでなく、貴方達の村だけでなく……この大陸の全ての人が理不尽な痛みや苦しみから解放されて幸せに暮らせるために私はこの大陸の王になるわ」

 

 

季衣「この大陸の……」

 

流琉「皆が……」

 

 

華琳の言葉に二人は思いを馳せる

 

こんなにも自信に満ちて皆を救うと宣言出来る人ならば、もしかしたら……

いや、きっと明るい未来が待っているはずだ

 

少なくとも今までのように理由もなく略奪されていくだけの理不尽な生活からは抜け出せるかもしれない

 

二人は華琳の言葉を信じることを決めた

 

季衣・流琉「「あ、あの……」」

 

そして、未来を明るくするためにこれから仕える『主』に対し誓いの言葉を述べようとしたその時―――

 

 

桂花「華琳様、逃げのびた黄巾党の残党を尾行させた兵士が戻ってきました!奴らの拠点はすぐそこだそうです!」

 

報告に来た桂花によって遮られた……

 

華琳「わかったわ。……さて、早速で悪いのだけれど許緒、典韋」

 

季衣・流琉「「は、はい!」」

 

華琳「まずは貴方達の村を脅かす賊を根絶やしにしたいのだけれど………貴方達の力を貸してくれるかしら?」

 

季衣「はい!それなら、いくらでも!」

 

流琉「頑張ります!」

 

華琳「ふふっ、ありがとう……。春蘭、秋蘭。二人はひとまず、貴方達の下に付けるわ。分からないことは教えてあげなさい」

 

春蘭「了解です!」

 

秋蘭「わかりました」

 

華琳「それはそうと……さて、では行軍を再開しようかしら。早いとこ奴らを始末しなければならないしね―――」

 

 

そう言って華琳が再度進軍の号令を掛けようとしたその時―――

 

 

烈矢「はい、ちょっと待った……」

 

 

華琳の横から唐突に烈矢がその言葉を制止する

 

華琳「……あら、どうしたの?」

 

烈矢「『どうしたの?』じゃねぇよ。お前、まさかこのまま行軍するつもりか?」

 

華琳「そのつもりだけど?」

 

烈矢「やめとけって……もう糧食だって帰りの分しか残ってないだろう?さっきの戦闘で終わらせられてれば問題なかったが……これからもう一戦やるってなったら流石に糧食が保てないじゃないか?」

 

華琳「……まぁね、でもだからといってあの賊共を放っておくわけにはいかないわよ?折角拠点も割れたのだし、ここで決着をつけるのが最良だと思うのだけれど?」

 

烈矢「そりゃ、理想的なのはそれだけどよ……だけど敵を倒せても帰る最中に行き倒れたら本末転倒だぞ?」

 

華琳「……ならどうしたらいいのよ?」

 

烈矢「ここは糧食の消費を最小限に抑えるために敵拠点には少数精鋭で向かうのが得策だと思う」

 

華琳「少数精鋭って……貴方敵の規模がどれくらいか知ってるの?」

 

烈矢「さぁ?」

 

華琳「……桂花!!」

 

桂花「はっ!敵の数は報告では二千とあります」

 

華琳「二千……か。思ったよりも大人数ね。烈矢……この数を相手に少数で何とかなると思うの?」

 

烈矢「なるだろう?俺達の軍が全体で大体千人くらいだから二百くらい連れて行って―――」

 

桂花「はぁっ!?アンタ正気!?相手はいくら烏合の衆といえ、私達の倍以上の数なのよ!それをたかだか二百の兵で勝てるなんて……頭沸いてんじゃないの!?」

 

烈矢「…いや、別に沸いてはいねぇけどよ。別段問題ないだろ?向かう奴は春蘭と秋蘭、それに許緒と典韋―――それに俺が加わるんだから二百くらいで十分だと思うぞ?むしろそれ以上は返って足手まといになると……」

 

桂花「その計算がすでにおかしいのよ!!アンタの頭の中では一体どういう風に辻褄が合ってんのよ!?あんた一人で千人を相手にしようとでも言うつもり?まぁ、いくら馬鹿なアンタでもいくらなんでもそんなことは―――」

 

するはずがない―――そう言おうとした桂花を言葉を遮り、烈矢が一言

 

 

 

 

 

烈矢「ああ?そのつもりだけど?」

 

 

 

 

 

とんでもない一言を口にした

 

 

 

華琳「…………」

 

春蘭「…………」

 

秋蘭「…………」

 

季衣「…………」

 

流琉「…………」

 

 

桂花「……あ、あ、アンタ馬鹿じゃないの!?」

 

烈矢「ああ!?馬鹿だと!!」

 

桂花「馬鹿でしょうが!?いいえ、馬鹿以上だわ!たった一人で千人を相手に?そんなこと出来る訳ないでしょう!?」

 

烈矢「いや、出来るって……」

 

桂花「出来ないわよ!そんな神掛かったことが出来たら、この世はこんな腐敗していないわ!それが出来ないから国は兵を集め、軍隊を作り、数の力を持って悪を制圧しなければならないのに……アンタの考えはその歴史が行き着いた結論をすべて否定する考えよ!不可能を可能にするのは軍師の仕事だけど……アンタのそれは不可能どころかただの『夢物語』よ!」

 

烈矢「……まぁ、お前の気持ちもわからなくはないがな。悪いがその―――『夢物語』とも言える不可能を可能にするのが……俺達『国戦』なんだよ」

 

桂花「……国…戦?何よ、それ?」

 

烈矢「俺が元居た世界で俺が―――俺達が所属していた埒外共の集まりさ。七人の規格外が集まった集団……国家特別戦力、通称『国戦』……そこに所属する七人はそれぞれが一個軍隊を相手に勝利できる化け物だらけさ。……俺はその中の一人に数えられてるんだから千人程度の賊だったら問題なく始末はつけられる」

 

桂花「……そ、そんな妄言を私に信じろっていうの?とてもではないけど信じられないわ……」

 

烈矢「言うが易し行うは難し……ってか?なら、俺達が話し合うのは不毛も良い所だな。俺達はあくまで華琳の部下なんだから最終的な決定は華琳自身に決めてもらおうじゃないか?」

 

その言葉で皆の視線は一斉に華琳に注がれた

 

皆の沈黙の中、華琳はしばし思考する

 

果たして烈矢の言うことは真実なのか

 

たった一人で千人近くの黄巾党を屠る事など本当に可能なのか

 

確かに烈矢の実力は華琳のみならず春蘭、秋蘭も知るところ

 

未だに底を見せないその実力を考えれば期待値的には十分過ぎる程十分な戦果を出すだろう

 

だが、だからといって千人もの賊を相手に一人の人間が勝つなどという非現実的な考えを鵜呑みにして良いものか

 

華琳は頭を悩ませた

 

どちらに転んでもリスクある

 

桂花の指示に従い、全軍をもって敵に当たれば恐らく問題なく勝利を手にすることは出来るだろう

 

だが、それによって帰りの糧食で問題が出る可能性があるのもまた事実

 

ならば、ここはいっそ……天の御遣いである烈矢の言を支持し、より天の御遣いの存在を際立たせるのも一つの手かもしれない

 

どちらにしてもリスクがあるのなら今後の覇道をより盤石にするためにもここは一つ賭けに出るのもいいかもしれない

 

華琳は己の決断に一抹の不安を抱きながらも烈矢の案を支持することに決めた

 

華琳「……わかったわ。烈矢、貴方に全て任せるわ」

 

桂花「華琳様!!」

 

華琳「黙りなさい、桂花。元はと言えば貴方の策で糧食を半分にしたことで起きた事態よ。確実に起こるであろう帰りの糧食問題を考えるよりもここは烈矢の提案に乗るのもいいと……私が判断したわ。それに烈矢の案に乗れば、許緒に典韋の二人の正確な実力も測れるし、何より今まで明るみに出なかった天の御遣い―――赤羽烈矢の実力を知るいい機会だわ」

 

桂花「そ、それは……ですが!」

 

秋蘭「もうそれくらいにしておけ桂花……」

 

桂花「でも……」

 

秋蘭「案ずるな。先も話した通り……うちの御使いの実力は折り紙つきだ。そう悪い結果にはならんさ」

 

桂花「……わかったわよ」

 

華琳「そう……なら桂花も納得してくれたところで、敵拠点に向かう者を選定するわ。敵拠点に向かう者は……春蘭、秋蘭、許緒、典韋―――そして烈矢よ!同行する兵士は春蘭と秋蘭で選定して連れて行きなさい―――以上!」

 

全員「「「はっ!!!!」」」

 

 

その号令に反応し、各々が自身の準備のために動き始める

 

その様子を見送った華琳はその場を後にしようとする烈矢に歩み寄り声を掛ける

 

華琳「……烈矢」

 

烈矢「あ?」

 

華琳「最終的には私自身が判断したことだから貴方を責めるつもりはないけれど……本当に大丈夫なの?」

 

烈矢「大丈夫だろう?俺が千人、春蘭達四人が残りの千人を相手。一人頭二百五十だから連れてく兵士を上手く使えば問題はないだろう……」

 

華琳「そう……その計算ですら私としては不安なのだけど……貴方が『大丈夫』と言うのだからそれを信じることに決めたわ」

 

烈矢「ああ、ありがとな」

 

華琳「信じてあげる。だから……だから絶対、絶対『無事に帰って来なさい』よ?」

 

そう言って華琳は烈矢の服の裾を優しく摘み、烈矢を見上げる

 

その瞳は本当に不安そうで

 

先ほどまで威厳を持って皆に指示を飛ばしていた覇王とは思えないほど儚げだった

 

その様子を見て烈矢はふっと笑うと―――

 

 

 

 

烈矢「当たり前だろ?お前を大陸の王にするまで俺が―――俺達がくたばるかよ?お前はいつもと同じように堂々と……俺達の帰りを待ってればいい。お前の涙なんか見たかねぇしな……」

 

華琳「……馬鹿」

 

そう言い残し、魏の天の御遣い―――

 

 

『黒き猛虎』

 

 

『破壊王』

 

 

そう呼ばれる……規格外の人間兵器はゆっくりと―――しかし、確実にこの世界で初の戦場の場へと足を踏み入れて行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

 

お久しぶりです

 

 

勇心です

 

 

今回は桂花に季衣、流琉といった一気に三人追加というものだったので展開おかしくてすいません

 

 

少しでも皆様に興味をもって読んでいただけると嬉しい限りです

 

 

段々、国戦のこととかちょいちょい御使い連中が口にしているので原作好きの方としては微妙だと思いますが、こんな感じで続いていくのでこれからもよろしくお願いします

 

 

次回は一応戦闘入れるつもりです

 

自分は戦闘シーンを上手く表現できないのでちょっとずつ練習していこうと思っています。

 

アドバイスなどがあれば是非とも!

 

……出来れば誹謗中傷は遠慮していただけると嬉しいです

 

それでは次回にお会いしましょう


 
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