No.470305

■22話 恋と舞う■ 真・恋姫†無双~旅の始まり~

竜胆 霧さん

編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします

2012-08-15 01:45:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2425   閲覧ユーザー数:2257

■22話 恋と舞う

―――――――――――――――――――

 

チュンチュン、チュンチュンと囀る声に特に違和感は感じない。最近の変な鳴き声はいったいなんだったのだろうか? と疑問に思うけれど答えてくれるものは誰もいない。

 

爽やかな朝には違いないが何だか少し物足りない。そんな奇妙な感情を抱きながらも意識をしっかりさせるために頬を叩く。それでも瞼は重く、二度寝の誘惑が襲ってくる。

 

賈駆と街を散策した一件からというもの何かにつけて政務の手伝いをさせられている。最近は調練含めた様々な用事が終わった後に尋ねてきて夜遅くまで二人で政務を片付けている。

 

そんなこんなで未だにうつらうつらしながらも小鳥たちの囀りが聞こえた窓の方と視線を向けると、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「へ?」

 

そこにいたのは綺麗な声で囀る小鳥達等ではなくセキトだった。まさかセキトがあの鳴き声を出していたはずはない。俺はまだ眠っているのだろうかと瞼をゴシゴシ手でこすって再度窓の方を見る。

 

「ワンッ」

 

至って普通の犬の鳴き声である。あれ? さっき鳴いてたのは小鳥だよな? と首を傾げつつセキトをじっと見つめる。

 

そんな俺の行動に対するセキトの行動は走り寄ってきてジャンプして頭の上に乗るという少し可愛らしく、犬離れしたものだった。

 

なんだか俺の頭が随分とお気に入りのようだ。鳥の巣ならぬセキトの巣とでも言えばいいだろうか? そう考えてみれば先ほどの囀りもセキトである可能性も……と一瞬馬鹿な事を思い浮かべ、笑いながら考えを打ち消す。どうせそこらを飛んでる鳥達の囀りだったのだろう。

 

鳥のことはひとまず気にしないことにして頭のうえで大人しくしているセキトを撫でて満足げな返事を貰った所で調練場へ向かうことにした。

 

さてさて今日は誰がいるのだろう? と期待しつつ向かう。最近は入れ替わり立ち代り調練場に様々な人物がやってくる。主に俺と戦いに……。

 

鍛錬頑張ってるから徐々にではあるが実力が上がっているのが感じられて自分のことのようにうれしい限りである。

 

そんな事を考えつつ近づいてみたら気配が3つほどあるのに気づく。3人? 誰だろうか? 自分の中に思い浮かぶ三人組といえば一刀、かごめ、綾しかいない。他は皆二人ペアか一人な気がする。

 

でも綾はまず朝が苦手だから絶対に起きて来ないし。となると誰かわからんな。

 

その場に居る人物の予想を諦めて調練場へと入って答え合わせをすると

 

「恋だったか」

 

稽古をしているかごめ、一刀の他に恋がぽつんと一人で佇んでいた。

 

「時雨…セキト…」

「う、犬……可愛、い」

「時雨、なんでまた頭に犬乗せてるんだ?」

 

まともな反応が一刀ぐらいしかないのはなぜだろうか? いや朝の挨拶をしない時点で俺も含めて皆可笑しいかもしれないが

 

「一刀とりあえず鍛錬するか?」

 

一刀の質問を無視してとりあえず提案してみる。かごめと恋の相手は疲れそうなので後回しだ。

 

「その、なんだ……犬を乗せたままでいいのか?」

「前もこれでやったと思うが?」

 

不適に笑みを浮かべ挑発すると少し自尊心が傷ついたのか、一刀はぶっきら棒に言い放つ。

 

「わかった。それなら今回はセキトおろさせてみせるよ」

「まぁ頑張れ」

 

一刀の成長も著しいものを感じるが残念なことに俺の成長速度は他と一線を隔している。残念だけど前の俺なら降ろすことも出来たが今はもう無理だろう。

 

二人同時に抜刀して構え、一刀が正眼で俺を見据える。俺はというと小刀を一振り前意に構えて久々の技を一刀相手に練習しようと構える。

 

「なめてるのか……? いや、時雨に限ってそれは無いか……」

 

なにやら一刀がぶつくさ呟いている。こちらは待ちなのでさっさと斬りかかって来て欲しいのだが……と思っているといきなり一刀が覚悟を決めたのか、キリッとした顔をして斬り込んで来た。

 

「せやぁぁあぁああああああ!」

 

力強く打ち込んできた一刀の刀の鍔に小刀を一瞬で合わせ、迫りくる刃に手を合わせて逸らし、威力を殺さずに小刀に固定して回転軸にし、その力の流れを思い通りに操作して一刀を投げ飛ばす。

 

前回使ったよりも滑らかに使用出来た。これも常日頃からイメトレしているおかげだろうかと飛んでいく一刀を見ながら思う。

 

一刀が地面に叩き付けられたものの、なんだかあまりダメージは負ってない様だ。きちんと受身を取られるとそれなりに鍛えてる人には隙を作る以外の効果はなさそうだ。といってもまだまだ改良の余地はあるし、将来的にどうなるかはわからないけど。

 

「い、今のはなんだ?」

 

戸惑いながら一刀が起き上がって聞いてくる。そういえば以前使った時一刀は気絶してたんだっけと記憶を掘り返しながら答える。

 

「合気道ってやつを武器で応用しただけ」

「だけって……」

 

その呆れて何も言えないって顔はやめて欲しい。

 

「そんな事よりも鍛錬続けるぞ」

 

そう言って一刀に再度構えさせる。変な顔をした代償を払ってもらおうかと腹黒く考え、頭を捻っていると一刀が突っ込んで来た。

 

もっと様子を見てくるかとも思ったのだけど、一刀は考えるよりも実戦で覚えるたちらしい。真横に刀を滑らせてきた辺りは流石と訓練してるだけはあると言えるかもしれない。

 

ここから力の流れを操作すること自体は可能だが投げたりすることが極端に難しくなるのだ。憎たらしい対応力だ……と思うと同時に手合せの時に苛めすぎたかもしれないと思いつつ、ちゃんと成長しているし次はもっと激しくいこうと決意を新たにする。

 

一刀の横凪ぎの対処として投げるという選択肢をまず捨てる。でも今回はどれだけ力の流れの制御が自然にできるかが知りたいので力を利用するという点は変わらない。

 

振り抜いた一刀の刀の背を小刀で押してやり、僅かにできた隙を縫って懐へと飛び込んでいく。もう一つの小刀を振り抜きざまに首に当てようとしたら柄で防がれてしまった。

 

バックステップで体制を立て直すと見せかけて追撃をかけようとする一刀の懐に再度潜り込む。

 

慌てて刀で攻めようとしてももう遅い。既に小刀一つで刀は抑えてあり、もう一つの小刀は完全にフリーだ。

 

フリーの小刀で首を狙ったのだが今度はバックステップで避けられてしまった。最近他の人とも手合せしているのだろうかと疑問に思ってしまう。それぐらい見て無い所での成長が多い。

 

前までとは違い、一刀は一撃一撃にきちんと対応して見せてきた。本当に感心してしまう。

 

これならもっと試せるかと思い一振りの小刀で切りかかっている間にもう一本の小刀を手の甲を経由して回し威力を上げ、防がれた方の小刀は反動を利用して回転させる。一刀が一撃一撃を防ぐたびにそれを交互にやっていく。

 

本来回転数も威力も一定のラインからは上がりそうにない攻撃ではあるがこれには裏があるのでそうはならない。それは一刀も一役買っているといっていい、受け方がまだ下手な為一刀は威力を殺す事が出来ないのだ。

 

威力が上がれば反動も上がって行き、どんどん早く、強くなっていく攻撃を止める術を一刀は見出せなかった為に受けきれなくなるまでそう時間はかからなかった。

 

息を乱して尻餅をついて俺を見上げてくる。まだ犬は乗ったままだぞと笑みを浮かべて視線を返す。

 

「その回転しながらの攻撃やっかいだな」

「まぁそこそこ名のある武人二人分の攻撃力だと思うからな。これが厄介じゃないのは恋ぐらいだと思うよ」

 

といっても所詮は小刀である。力の流れを完全に把握してもそれだけの力しか出せないのは些か物足りない。気を使えばもっと強く出来るとは思うがそれは訓練でする気は起きない。正直危ないから。

 

とすると考えられるのはもっと重い得物、例えば太刀で同じようにすればかなりの威力が出る事だろう。

 

最もそれでも恋相手だとどうなるかはわからないけれど……そんなことを思いつつ苦笑しながらも恋を見ると何故か方天画戟を構えていた。

 

「恋?」

「行く……」

 

ちょっと待ってと言う暇も無く、いきなり斬りかかってくる恋に即座に対応する。恋の一撃を小刀で受け流し、力を利用して回転させ、自分の力も加えてお返しとばかりに打ち込む。

 

かなりいい音が辺りに響き渡ったけれど威力は完全に殺されているし、どう見ても今のままだと勝てる要素が無いのだが何故か恋は驚いていた。

 

「なんでいきなり斬りかかってくるんだ? そういう俺も反撃しちゃったけどさ」

「本気出す……」

 

頭の上からセキトが逃げ出していく……、恋も冗談言えたのか、いやはや笑わせてくえっる。

 

……え? まじですか?

 

馬鹿みたいにぽかんとする俺にさっきよりも数段早く、より力の乗った一撃を打ってくる。本来なら逃げる場面ではあるけれど今日はとことん試すと決めている。

 

こんな強力な一撃試さない手はないだろう。

 

先ほどと同じ様に小刀を這わせて受け流し、再度威力を上乗せした一撃を叩き込む。

 

「っく……」

 

恋はそれを完全に受け止めるとさらに反撃してきた。さすがは呂奉先といった所だろうか、先ほどの予想よりもはるかに力の乗った小型の一撃を完全に無力化するのだから。

 

恋の攻撃が苛烈を極めていく中、俺は小刀に限界を感じて戦闘中に武器を入れ替えていく。小刀で受けた後にもう一つを鞘に収めた後太刀を取り出し、今度は太刀で受けてもう一つの小刀を鞘に戻す。

 

余裕がある様に思えるかもしれないが恋の本気の一撃を何度も片手で止められるほどまだ鍛えられていない、もう痺れすぎて握力が危ない気がする。

 

己の鍛錬不足のせいで早めに勝負をつけないといけなくなるのはちょっともったいない気がする。危ないとは思っていたけれど恋相手なら気を使っても大丈夫だろう。

 

攻撃を受けながら気を体に満たしていき、最後に太刀にまで気を這わせる。まずは威力重視でいくことにし、恋の一撃を利用し、回転させ、さらに自分の力を上乗せし、さらに恋の一撃をひたすら利用し、回転させて力をどんどん上げていく。

 

いつもはある程度で回転を止める。正直回転させていても限界が見えるからなのだが恋の一撃を利用しているとそれが全く見えてこない。だからここではいつものように止めずにさらに回転を上げていく。

 

太刀が風を纏い、空気を震わせ、恐ろしい程の加速でその力を蓄えていく。

 

止まる先が見えないそれを気と太刀の限界が終わりを急かす。既に今までの最速を誇り、最狂の力を持ったそれを恋の一撃と一撃の僅かな、1秒にも満たない合間を縫って解き放つ。

 

僅かな隙を狙って打ち込んだというのに超反応できっちりガードしてみせる恋に戦国最強の名を改めて実感する。

 

互いに火花を散らせながらせめぎ合う事数秒の後、方天画戟のガードで受け止めきれなかった力を逃すため後ろに跳ぶ恋。見惚れるほど鮮やかな後退だったのだが

 

……勢いあまって壁にぶつかっていた。

 

「痛い……」

「ごめん」

 

なんだか俺がとても悪い事をした様に感じるのは何故だ。何かが理不尽な気がするけどここは謝れと本能が告げている。

 

「でも楽しい」

 

謝っても無反応だった恋にどうしようか迷ったものの、数秒後には初めてに見る鮮やかな笑みがそこにはあった。こんな素敵な笑顔に報いるにはどうしたらいいだろうか? そんなのもちろん決まっている。

 

「もっと面白くするために俺も今の全力で挑もうか」

 

体に張り巡らせていた気を小刀と太刀に集中させ、より鋭く、万物を切り裂くことが出来る様にイメージを固めていく。

 

距離の遠い今だからこそ出来る技である『氷柱』は紀霊隊が成長したら教えようと思っている技の一つだ。

 

小刀の柄を指で押して投擲をする動作に移行し、投げ切る直前に掴みなおし、体ごと一回転して投げつける。その速度は矢と比べるのも烏滸がましく、威力は言うまでもない。

 

普通の武器や盾なら防ぐことはまずできない一撃を、恋は方天画戟で受け止める。でも代償なしにはさすがに無理だった様だ。

 

方天画戟の刃に突き刺さった短剣を抜いて無造作に投げ捨てる。本当なら主ごと死んでるはずなのに、少し欠けるだけで済むとは、主と同じ様に規格外な武器だと苦笑する。

 

何も『氷柱』は投擲の為の攻撃ではない。今度は太刀を同じようにして近づいてきた恋に渾身の突きを放つ。先ほどよりも威力の大きいそれを恋が完全に受け止め、その場が陥没する。さすがに同じことを2回しても無駄かと感心し次に移る。

 

『波紋』姿勢を低くし太刀で横に波紋のように波打ちながら凪ぐ機動の読めない斬撃が恋の足を狙う。

 

普通の人ならまず足は飛んでるはずなのだが普通に止めてみせる恋。思わず笑みを浮かべてしまう。

 

ならばと背中に背負っている達の鞘を左手にとって、太刀で恋一撃を凌いだ後バックステップで距離を取り即座に太刀を鞘に戻す。

 

横に構えた太刀を静かに、流れるように近寄ってきた恋に斬りつける。鞘を走り、遠心力と太刀の重力で加速し、気を鞘の中で爆発させてさらに速度を上げた一撃が恋を襲う。

 

けれどこれも方天画戟が唸りをあげてで打ち消されてしまう。

 

ここまで防がれてしまうんだったらもうやるしかないかなと覚悟を決める。

 

残存している気を全身にめぐらせていき、己の速さを格段に上げていく。

 

「ッシ」

 

1秒にも満たない時間の中で回転して一撃を恋へと叩き込む、その回転の速度は異常そのものであり、その一撃も異常なものとなった。

 

「!」

 

恋はその動きに目を見開きながらも咄嗟にガードして吹き飛んでいく。

 

そんな恋を気にすることなく今度は手の甲で太刀を回転させ、己自体も回転し、威力を極限まで上げて太刀に通す気の鋭利さを尋常ではない程強化する。この速さ、威力は目で捉えようなどと考えるのは愚かといっても過言ではない一撃である。

 

「無理」

 

一撃を放つ前に横に全力で逃げた恋に絶句しながら既に止まらない一撃をそのまま放つ。そうして恋の元居た場所には深い亀裂が生まれた。

 

「ちょ、いまさら避けるのかよ」

 

「避けないと死んでた。でも恋避けるつもりなかった」

 

それはまさか恋の本能が反応したということだろうか? そうだとすると戦闘面では本当に規格外という事になる。実戦経験も豊富だしもう手が付けられないような。

 

「私初めて負けた」

「え?」

「避けるつもりなかったのに避けた。私の負け」

「でもあの後反撃してたら俺が危なかったんだが」

 

あまりに一方的な負け宣言をあえて否定したのだが恋はそれに対して首を振ってさらに否定してきた。

 

「いや、でもな……」

「時雨避けなかった。恋避けた。恋の負け」

 

何時の間に攻撃を避けたら負けだというルールが出来たんだ。というか俺はそこまで見る余裕なかったのにさっきの勝負でそれだけ見れていたって事は俺よりもずっと余裕があったんじゃないかと思うのだが、ここは口答えしない方が良さそうだ。

 

「そうだな、恋がそういってくれるんだったら今は俺の勝ちってことで」

「次は恋が勝つ」

「はは、そうだな。また勝負しよう」

 

ストレートに勝利宣言をしてくる恋と共に笑いあう。次はさらに強くなって戦うと誓い合ったのだが、さらに強くなれると確信している恋が恐ろしい。こっちはチート持ちだというのに。

 

そんな風に1人恋のスペックの高さに恐怖していると近くからクゥゥウウウと可愛いお腹の泣き声が聞こえてきた。

 

お腹を空かせたはらぺこさんは言うまでもないだろう、恋である。

 

「とりあえずご飯でも作るよ」

 

ちょっと赤くなりながらもコクリと頷いた後にトコトコと俺の後についてくる。なんだこの可愛い生物は

 

危うくその場で悶えそうになりながらも何とか俺は厨房へと到着することが出来たのは奇跡かも知れない。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

あまりに凄まじい戦いをぽかーんと見つめていた一刀とかごめは時雨と恋がいつの間にかいなくなっていたのに気が付くと、即座に後を追って厨房へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

厨房に辿り着くと珍しく詠と董卓が話し込んでいた。本当なら政務で忙しくて厨房なんかに来る暇はないと思うのだが、最近俺が政務を手伝いだすようになって手伝う時間帯、つまり夜に作業を回すようになったので厨房に来る余裕が出来ているのだろう。

 

「詠たちもご飯?」

「え? あ、そうよ! 何か文句あるの」

 

何故かあの街へ繰り出した1件以来態度がけんか腰なのだが、何故だろうか? そういえば俺と同じ思いをしていると思ってたから楽しい思いをしてもらったのに恩を仇(政務)で返された覚えしかない。

 

おかげでこんなことを考える度にもしかしたら楽しくなかったのだろうかと不安になってしまう。直接聞いてもそんなことないわとか下らないこと言ってないでとかしか言わないので困りものである。

 

「詠ちゃん」

 

董卓が詠を呼んだと思ったら珍しく威圧している。どうかしたのだろうか?

 

「どうかしたのですか董卓殿?」

 

董卓を覗き込んで何か悪い事でもあったのかと伺いを立ててみたのだが

 

「はぅ……月でいいです」

 

何故か突然真名を許され、顔を伏せてしまった。おかげで頭の上に疑問符がたくさん浮かび上がってしまっている。

 

「ゆ、月!」

 

慌てて詠が叫ぶのに対して月は反応を見せない。

 

「そんな簡単に許したらダメでしょ!」

「詠ちゃんも許してるんだから構わないんです」

「ちょっと、月!」

 

普段仲のいい2人が喧嘩しそうなのは見ていて嫌になる。月は発言を撤回する気はないみたいだし、詠は過保護になっているだけだろう。ここは俺がとりなすのが一番だ! と思い込んで話を妨げる。

 

「なら俺も時雨でいいよ」

「はい」

 

詠を無視して互いの真名の交換が終わった。これで一件落着だと思ったのだが思いっきり詠に睨まれた。後で絶対押し付けられると冷や汗をかきながら自分の判断を呪った。

 

会話がひと段落すると後ろからクイクイと服の裾を引っ張られた。なんだと振り向いて絶句した。恋がうるうるした目でこちらを見つめてきていたのだ。

 

精神的を侵食する攻撃はさすがの俺も持っていない。さすがは呂奉先……強すぎる。

 

ということで早速厨房に立ったのだが献立が思い浮かばない、まずい! と思った時はこれを使いましょう。

 

チャリラリラリーン! なーべー。

 

鍋の中に水をいれ、適当な食材を細かく刻んで鍋にぶち込んでいく。味付けは魚で薄味に。

 

後は何につけて食べるかだけど……暇を見て一応準備していたのだが出来ているがこれは奇跡の産物である。

 

まずは穀物で出来た酒をとある人物の部屋で醸造し、そこへ酢酸菌を加えて酢酸発酵させ、酢を作ったのだが、あれはギリというか酢酸菌が発生しなかったらそこで終わってた。普段の状態であれは最悪だがこういうのに限ってはその人物がいて良かったと思わずにはいられない。

 

本当ならあの部屋には二度と踏み込みたくないし、きちんとした設備を整えるまで少しずつ使おうと思っていたのだがこの際仕方ない。

 

こうなればとっておきをさらに出すべきだろう。

 

この前加工した かーつーぶーしー

 

を使って出汁をとる。それを酢、醤油、みりんに似た味の酒を用いて三杯酢を作りそこに加える。

 

醤油のことが疑問ですか? これはとある部屋……もういいや、綾の部屋で見つかった発酵した穀物を使って利用したんですけど……あれはやばかった。あの部屋で色々作業してたから踏み入ったけど本来なら人が住める環境ではない。

 

おっと、回想している暇があるなら準備しないと恋が可愛そうだ。

 

出来た自家製土佐酢の味を見て微笑む。出所は最悪だが味は良い、ちょっと普通の土佐酢とは味は違っているが恐らく大丈夫だろう。

 

準備が出来たのでテーブルに鍋と土佐酢を持っていく。出てきた物に首を傾げながら皆食べて驚愕し、次には笑顔が食卓を彩っていく。こういう顔をしてくれると苦労して作ったかいがあるというものだ。これからもまたちょくちょく色んなもの作ろうかと思案しながら己も食卓に混ざる。

 

まさか前世の無駄な知識がこんなところで役立つとは思わなかったしな……最近は色々試せてワクワクする事ばかりだ。

 

とか思っているうちにメンバーが増え、土佐酢と鍋の具がなくなっていたので足していく。嫌だけどあると便利だし、土佐酢はまた作っておいたほうがいいかもしれない。ぽんずでもいいかな? なんか果実があるならそれを使ってもいいし。

 

そうやってこれからの食卓の事に思いを馳せていると横から服を引っ張られた。

 

引っ張られた方を見ると恋が少し頬を染めてすりすりと腕に顔と体を押し当ててっくる。……いきなりのイベントに硬直しながら今起こっている事態を把握する。

 

恋が酔ってる。

 

まさか……そんなことあるはずがないと、そう思って周りを見渡すと既に死屍累々、寝ている者、泣きながら暴れてるいる者、食べまくってる者、こっちをジト目で見てくる者など様々な動く死体が……。

 

お前ら皆酒強くないのかよ……と呆れていたら張遼だけが酔ってなかった。何処かこの空気を楽しんでいる様すら見受けられる。

 

この事態を改善するために張遼を呼ぼうと思ったら恋がぎゅっとしがみ付いてくる。俺も男なのだからやわらかいものを意識せずにはいられんのだが、酔っている相手にそんなことを考えたら最低だ。

 

なんて思っているうちに腕では飽き足らず体に抱き着いてきた。

 

「ちょ、ちょっと恋離れないと危ないよ?」

 

注意しても首を振ってさらに強く抱き着いてくる恋をどうしようか迷いながらもさらに言葉を重ねる。

 

「その、なんていうかだな。俺も男でな」

 

相変わらず首を振って否定してくる姿に萌えながらも、男であることを今否定されたのかと勝手に自爆した。

 

俺が落ち込みそれを恋が抱きしめ、それをジト目で詠と月とかごめが見ていて、綾と華雄が暴れていて、張遼は酔っている一刀と食事を楽しみ、陳宮は泣き疲れたのか寝ていた。

 

いつもの風景だと1人納得してその日の食事は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

食事も終わって一段楽したところで今日の料理はいったいなんだったの? と聞れたので普通に え? 普通の鍋だけどと答えたら皆なにやら不満そうな顔をしていた。まるであれって普通の鍋だったの? といいたげである。

 

アルコールは多かったけど土佐酢の味は出していたし、いたって普通の鍋だったというのに失礼である。

 

一刀だけは後で土佐酢はどうやって作ったのかなど聞いてきたがあれは偶然の産物とだけ答えておいた。あの部屋の犠牲者をわざわざ出す事もあるまい。

 

失礼な事を言った人たちにはそれ相応の罰が必要だと思うのだ。とすると次は闇鍋とか良さそうだ……。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

■あとがき■

うはー、どうやら20万文字突破したようです。

 

最近自分の作品の戦闘パートとか上手く書けてるか不安しかないのですが

日常の描写の方が不安なので別にいいかと思ってたりします(ぁ

 

ぁー、文才が欲しい。


 
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