No.469765

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第76話

こっそり復活

2012-08-13 23:51:02 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:5099   閲覧ユーザー数:4554

はじめに

 

 

 

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

 

 

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください。

 

「さて、どうしたものですかね」

 

今日何度目かの溜息を吐いた後、稟は城壁の縁に背を預けるように凭れ、眉間にできた皺を人差し指で揉み続けた

 

うんうんと唸りながら彼女の思考に浮かぶのは厄介だ、面倒だの二つ

その理由をと問われれば再びに城壁より眼下、土煙を上げ此方へと向かう一団、その数六千

開戦当初6万を数えた兵も今や十分の一…これを戦略的に言葉に表せば壊滅である

合点がいかない、というよりも納得がいかない

なぜ彼らは自分の思うとおりに負けてくれないのか

諦めてくれれば、退いてさえくれれば

意気消沈し背を見せた相手ならば楽にその首を取れるというのに

 

「故に出てきた…か」

 

いくら相手の駒を取ったところで玉を屠らねば終わらない、か

再びの溜息と共に馬鹿馬鹿しいと彼女は首を振った

遊戯ではないのだ、『全滅』するまで戦争をしてどうなる

そうして今度は自身の矛盾に頬の肉が押しあがる

 

背を見せれば斬ると言ったのは自分だろうに

 

「疲れてますね…私」

 

言葉に出してしまうほどに疲れている

この七日間、正確には攻め込むと決めた昨夜からか

 

決壊した堰に雪崩れ込む水流が如くこの一晩で戦の局面は移り変わり…あろう事か二転三転と状況が取って代わった

 

袁紹を捕らえたところでそれは終わるはずだったのだ…と、視線を横に移せばニコニコと刀を磨く戦闘狂の姿、ご機嫌に鼻歌まで歌っている

 

もはや溜息すら出てこない、むしろこの感情に名前をつけるならば怒りだ

その向こう、頬杖をついて余裕綽々敵陣を見据える自身が主がちらりと視界に入り彼女の苛々は既に頂点にまで達していた

思い出されるのは先のやり取り、あろう事か捉えた敵将を敵陣に帰すなどという愚挙に出た霞に対し、彼女は一切のお咎めなしと採決を下したのである

理由は単純にこの『決着』を不服とするから…である

 

「懐深さを見せるのは結構…ですが理想に溺れて現実から目を逸らせば身を滅ぼしますよ、自身がつまらない望みのために我が軍に損害を及ぼすおつもりか」

「あら?現実というならば既に麗羽が逃げ出してしまったこの事実こそが現実であって次の一手ではないの?」

 

苦虫を潰したような表情を浮かべる稟、そしてその後ろに膝を着く将達に対し、華琳は優雅に腕を振り、命じた…もう一度袁紹を捕らえろと

その後の桂花の行動、彼女の理解を、ひいては常識からまるでかけ離れた出来事のオンパレードに正直憔悴しきっていた。

 

ここに来て彼女は思う

 

この陣営は確かに優秀なのだろうと

 

優秀な王、優秀な将、優秀な軍師…だがそのいずれもが実はバラバラで自己主張の激しい彼女らを真に取りまとめられる人材が欠けているのだろうと

 

ふと、今しがたに此方へと歩を進める袁紹軍を見る

 

袁家二枚看板を筆頭に従軍する彼らの最奥、袁家当主袁紹の横に並び立つ旗

 

『張』

 

ついぞ一刻前に様々と見せ付けられたかの軍と彼

はたして此れほどまでの指揮者があるものだろうかというまでの統率

それが今、紛う事無くこちらへ向けられている

 

出るべきではない

 

彼は既にこの戦の落とし所が見えている

結論から言えば既にこの戦の勝敗は見えている

兵の数にして四万対六千、この差はどう足掻いても到底埋まるものではない

如何に袁紹軍の士気が高かろうと、彼ら将が優秀であろうと正面からぶつかれば魏軍が優勢であり、それがそのままにこの戦の終焉となることは明白であろう

 

そう、紛れもない事実これは勝てる戦なのだ

ならば終焉はどこで訪れるか、愚問、袁紹を討ち取った時である。そしてそれは此方側にも同じことが言える

言うまでも無く総大将である曹操、華琳が討ち取られたとき魏軍は瓦解する

が、はたしてそれが起こりうるかといえばそれは否、有り得様も無い

となれば彼は一体何を狙い我が軍に対するか

相対する者を討ち取る、此れに尽きる

総大将たる華琳が彼の前に出るなとどいうことはまずもって『現象』として有り得ない

しかし将は別であろう、そしてそれこそが彼の狙いである

 

再びに

 

彼女はちらりと横を盗み見るように視線を移した、その先には刀身に映った自身の顔に満足げに微笑む霞の姿

まるで逢瀬の前に姿見の前で見繕う恋人のようだが、その彼女を彼の前に『差し出す』など以ての外であろう

 

今に至るまで既に二度、彼女は彼に生かされている

この生かされているというのが厄介だ

 

負けたのだ

 

同じ相手に

 

二度も

 

霞の実力を推し量るに二人の力量が拮抗しているのが事実、だがしかし相性が悪すぎる、それも最悪なまでに

そしてそれは今回の陣営にいる他のどの将にも言える、張遼という将が魏軍にあって一、二を争う実力者であるが故に

先に述べたように優秀な彼女ら、優秀すぎるが故にその損害を被った時、魏軍に与える損失の程度は計り知れない

勝てる戦が故に、損害は出したくない

無論、戦に損害はつきものである…が、如何せんにも大き過ぎる

間違いなく彼はそれを狙ってくる

此方が嫌がるであろう事を

 

ともなれば

 

篭城であろう、今度こそ

 

攻城戦というのはそれが失敗に終わった時の喪失は野戦の非ではない

対し此方は将を前面に出す最大のリスクを負うことなく戦況を進められる

彼らの疲弊と兵装、そのどちらが先に尽きるかは定かではないがその時こそ数の利で押す時であろう

 

勝たなければならない、それも完璧に

 

拮抗を保ち続ければ数の利は更に生きると自身を説得するかのように胸の内で反芻する…と彼女の袖を掴む手に意識が其方に向く

 

「風…どうしたのですか」

 

自分の声が上擦ったことに稟はギョッとした、彼女が知る親友が見たことも無い不安げな目をしていたからだ

 

その視線は稟にではなく

更にその先、彼女らが到底届かぬ空に向けられていた

 

「これはしてやられましたね稟ちゃん…田豊さんはまだ生きてるのですよ」

「…は?」

 

一瞬、まるで理解できぬ彼女の言葉に首を傾げた稟だったが、はっと我に返る

城壁の縁に掛けられた旗が城の内側に向かい靡いていた

 

「風向きが変わっているだと!?」

「皆城壁の陰に隠れろ!」

 

誰が言い終える前に城壁で構えていた彼女たちの『頭上』に矢が降り注ぎ、同時にいくつもの断末魔が辺りに木霊する中、稟は屈みながら舌打ちを鳴らした

 

「ようやくに…あの間抜けな陣取りに説明が付きましたよ」

 

隣で同じように身体を丸める風が頷く

 

「あの男は知っていた、季節が変わるこの時期に風向きが変わることを」

「それを見込んで陣を敷いたのですね、風が此方に吹くと同時に出られるよう」

 

近すぎると思っていた、まるで狙えと言わんばかりに

 

「だが開戦当初の兵数がそれをさせなかった、頭数で上回ることと此方が城を取ったことで『無理やりに』拮抗状態を作り出した、風向きが変わる事を見越して」

「ご丁寧に陣の奥で罠まで張ってですよ」

 

一人、また一人と矢に討たれて兵が命を落としていく、最期の声が急速に遠ざかる

反撃に転じようと弓を構えた兵が城壁から落ちたのだ

 

辺りがたちどころに赤く染まっていく

 

「これでは城壁の体を成していないだろうが!」

 

秋蘭の叫び声が稟の耳に届く、それが誰に対した物ではないと理解して尚、稟も返す刀で叫んだ

 

「だったら反撃してください!何の為に貴女達弓隊をここに配置していると思いですか!」

 

その声に反応するように身を屈めていた兵達が一斉に立ち上がり弓を引き絞った…がすぐさまにバタバタと倒れていく、いずれも顔に身体に矢を突き刺しながら

彼女のすぐ傍で倒れた兵に次々と矢が刺さり人からかけ離れた『物』になっていく様がスローモーションに目に入る

一本目、二本目で低い呻き声を挙げた兵だが三本目、四本目には物言わぬ塊と化していた

喉まで込上げたソレを何とか押し戻そうと口元を押さえ、ようやくに引いた後に横にいる親友を見る

風は膝を抱え城壁に張り付くように蹲っていた、矢が放物線を描いて飛ぶ以上、垂直には落ちてこないことから城壁に張り付くのが矢から身を守る唯一の手段である

 

その姿に安堵しつつも次なる一手を読まなければならない

あの男の出現によって『田豊が息を吹き返した』のだから

 

「風!彼らは仕留めにかかっています」

 

この戦の決着を

 

「この状況から華琳様を引きずり出そうというのですか?」

「だがどうやって?」

 

目の前の事態に思考が纏まらない、城壁を赤い河が流れ始めた、排水など考慮されているわけでもないそこは一面に染まり、彼女らも誰の血を浴びたわけでもなく赤く染まっていく

日常からまるでかけ離れた状況に頭は普段の働きを成してくれない…と、不意に矢が止んだ

 

何故という疑問すら湧かない、明白であるからだ

時間にして物の数分で魏軍は城壁の上の兵のその半数を失っていた

 

そして残った兵すらも動けずにいた、動いた者から死を受け入れることになることを理解していたが故に

だが動かぬ訳にはいかない、何故ならば

 

ドオォォォォン

 

あたかも城全体が崩れるかのような振動に二人は顔を見合わせた

 

「「城門!?」」

 

当たり前であろう

上から無抵抗とあれば彼らは城門に群がるであろう事は

続く


 
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