No.468177

戦う技術屋さん 十二件目 I-01

gomadareさん

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十一件目→http://www.tinami.com/view/466222

一昨日から夏休みになりました。でも更新速度は変わらないと思います。

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2012-08-10 15:43:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2184   閲覧ユーザー数:2006

前回のあらすじ:ギンガ暴走。カズヤからアクセサリーケースを受け取り、それを開けたら滅茶苦茶口の悪い指輪がいた。

***

……まあ、確かに?落ち着いて考えてみればカズヤが私に一足跳びにプロポーズするとか考えられないし?そういえば、事前にカズヤが話していた誰かのことで話があるとは言われたから?それ=プロポーズとか普通ありえないし?うん、わかってる。カズヤが誤解させるような態度をとったとはいえ、誤解したのは自分で、ドキドキしたのも自分で、色々暴走したのも自分で、最終的に受け取ったのも自分だ。

「……カズヤ」

「はい?」

「殴っていい?」

「無論、嫌です」

「ごめん一発でいいから」

「バリアジャケット無しにリボルバーナックル装備のあなたの拳なんて喰らいたくな――フブラッ!?」

問答無用だった。きりもみしながら五メートルほど吹き飛び、顔面から着地。そこから更にズザザと三メートルほど地面をこするようにして移動するカズヤ。殴った本人、思わず「うわぁ」。

『Es wird nicht sein“Uwaa”!Was machen Sie!(「うわぁ」じゃないでしょう!何をやっているんですか!)』

そんなギンガへ、文句を言うのは未だにアクセサリーケースに入っている指輪。

一発殴って冷静になったのか、そういえばとギンガは疑問を覚えた。

「なんで貴女、喋ってるの?」

『……Kazuya, ich mag nicht diese Person.(……カズヤ、私はこの人が嫌いです)』

「落ち着けって。ギンガさんも相当テンパってたみたいだし」

「……」

殴った手前、ギンガには「誰のせいだ!」とカズヤを責めることはできない。それにどちらかと言えば、何事も無かったかのように立ち上がるカズヤの方が気になる。思いっきり殴られた跡がついてるし、顔を引きずった跡もあるし、顔面から行ったから鼻血も出てるのに。平気なのだろうかとギンガは首を傾げつつも、カズヤに近づいて彼自前の救急セットを手に取ると、怪我の消毒を始めた。

「すいません」

『Kazuya, den eine Person zu gut hat.Die Ursache ist diese Frau.(人が良すぎます、カズヤ。原因はこの女ですよ)』

「うぐっ」

普段はいない第三者からすれば正しくその通り。普段カズヤが何も言わないからやりすぎてしまっているのだろうかと思い、今後自重しようと考えながらギンガは手際良く消毒を終えてから、薬を塗り。その上からガーゼなり絆創膏を貼って治療は終了。ティッシュで鼻血を拭って詰め物をさせれば、手当は完全に終了。

「ありがとうございます、ギンガさん」

「いや……この子の言うとおりだし?」

『Warum ist es eine Frageform?Es wird definitiv die Straße sein.(何故疑問形なのですか。正しくその通りでしょう)』

「……」

ズバズバ言うなぁ、とギンガは思わず感心した。ギンガの周りでは珍しいタイプ――というより、今までいなかったタイプである。

実際、ギンガの年齢は現在17歳。ほぼ全員歳上の職場で自分の年齢はまだ子供と言ってもおかしくない年齢であり、そんな年頃の少女相手だと流石に気を使うのか、上司でも此処までズバズバ言ってくる者はギンガの周りにいなかった。それに年下もスバルやティアナをはじめ、何人かの知り合いはいても、今の職場にはカズヤのみであり、自分の年代的に陸曹という階級は十分高い為、大抵が敬語に遠慮。

『Ich empfinde das, in dem ich grinse, krank.(何ニヤニヤしているのですか、気持ち悪い)』

「……」

まあ、この口の悪さはどうにかならないかと思うけれど。しかしここで怒っても話は進まない。我慢して、ギンガはカズヤへ尋ねた。ついでにそれとなくアクセサリーケースも中身ごと返す。

「それで?その指輪……デバイスかしら?」

「ええ。不出来な部下から、上司へのプレゼント程度に思っていただけると」

カズヤの言葉にギンガはギョッとした。ここまでのやりとりから、この指輪がインテリジェンスデバイスということはギンガも分かる。そしてインテリジェンスデバイスはストレージデバイスに比べればありえないほどにコストがかかる物。いいインテリジェンスを作ろうと思えば、それにかかる予算でストレージが二桁は作れるし買えるほど。

この口の悪いインテリジェンスがどれくらいの価値があるのかは今のギンガには分からないが、それでもどうぞと渡されてありがとうと何となしに受け取れる品物ではない。……下手すれば婚約指輪より貰いがたい物なのではないか?

「……いいの?高いんじゃ」

「基本的にAI込みで全部自作ですから。まあ、元々ギンガさんのローラーだったものを改良したものですけど。まあ、ちょっとばかし値の張るパーツとかはありますが、基本的にマイナー会社すぎて全然売れなかったり、特殊すぎて使い勝手が悪すぎたりした品を使ってますので、比較的コストは抑えたほうかと」

「……それって問題はないの?」

「はい。金額=良い品ではないです。マイナー社は既存製品と同程度の品でも売りたいから価格を抑えて販売していたり、特殊パーツも、使い勝手こそ悪いですが、使うべきところで使えば、既存のどんなパーツよりも上手くはまります」

「……」

「管理局の技術部に卸売りしている会社は、もちろん良い品を作っています。値段相応。出すだけの価値はあります。まあ、その代わり本局、地上本部共に人員の大半を占める武装隊のメンバーが使う支給デバイスに使われるものですから、凡庸性は高いですけど、どうにも面白みに欠けるといいますか。穴はない代わりに突飛したところがない。そんな品です。俺としては穴があっても突飛した部分のあるパーツの方が好きなんですよね。組み合わせ考えたりとか、そういうの面白いですし。それにそう言ったパーツは合わない人には合いませんが、合う人には凄く合う品なんです。だからそういう品で作ったデバイスは例えその人以外の誰にも使えないようなものであったとしても。その人が使えば十全の働きをしてくれる。まあ、局の支給デバイスには絶対使えないような品になるんですけどね。それから――」

「もういいもういい!話を終わらせちゃうのは悪いけど、話がそれてるから!」

自分の得意分野になると途端に饒舌になる人間の典型のような存在だった。

それでも、そうですねとギンガに言われて話を終える辺り、まだ良心的である。

「まあ、そんな感じで、既製品を買おうと思えば凄く高いかもしれませんが、これに関して言えば、殆ど自作ですので、こすとはそんなにかかっていませんから。安心してください」

「ちなみに、既製品は幾らくらい?」

「え?うーん……」

指折り、勘定を始めるカズヤ。暫く悩み、首を傾げた末にカズヤの口から出てきた額は、ギンガの年収三年分ほど。月収でなく年収。結婚指輪も真っ青である。

「受け取れないわよ!」

「でもさっきの話の通り、これはギンガさんの為のオンリーワン製品な訳でして。ギンガさんに使っていただかないと、倉庫でホコリを被る以外の道が……。とりあえず試走してみませんか?それでお気に召さなかったら、諦めますので」

「……」

ちらりと、ギンガは視線をカズヤの手にある指輪へ。

当たり前だが興味はある。まだ一週間ではあるが、デバイスに関してはどんどん使いやすくなっていくし、カズヤがオンリーワンというのだから、自分しか使えないようなマイナーチェンジもされているのだろう。でも三年。月収換算36ヶ月。

『Ginga.Ich weiß Ihre Fähigkeit als Daten.Ich traf Kazuya mit einer hubble-Blase und habe Ihnen ihm Unterhalt nicht das Warten, aber Sie als der Teufel Leitendpriester erkennen es.Deshalb beschäftigen Sie mich einmal nicht?(ギンガ。貴女の実力はデータとしてですが知っています。カズヤをボコボコ殴ったり、待たせたりはいただけませんが、魔導師としての貴女は認めています。ですから、一度私を使いませんか?)』

「……分かったわ」

よもやI-01にも説得され、ギンガはカズヤの手から指輪を受け取る。

「本来ならセットアップとバリアジャケットの自動生成もありますが。今回はまだその辺りのの設定はしていないので。I-01。起動して」

『Set Up.』

カズヤの言葉に答え、指は宝石部が輝き、ローラーが現れる。以前とは違う重さに少し驚きながらも、しかし危なげなく普通に支え、ギンガはしげしげとローラーを見つめる。

「重量、消費魔力量は共に増えてしまいましたが、ギンガさんにはそこまで問題ないと判断しました」

「ええ。これくらいなら別に」

「ウイングロードをその子から発動出来るようにしたり、胴体制御や加速性能などはインテリジェンスにして思考処理能力が上昇しましたので、比べものにならないほどに上がっていると思います。危険ですから、一応バリアジャケットを着て下さい」

「了解」

自前でバリアジャケットを生成。その上でリバルバーナックルとローラーを装備。軽く走ってみると、思った以上の反応の良さと加速性で、思わずバランスが崩れて尻餅を付いてしまった。

「大丈夫ですか?」

「……」

問うカズヤの言葉には答えない。立ち上がったギンガは、初めてローラーに乗った時のようにゆっくりとした走行から始め、右回りと左回り、ジャンプやバック走といった基本動作。急加速急停止急旋回といった動作を確実に行なっていき、やがてカズヤの前で停止する。その時にはもう、殆ど乗りこなしているようだった。

「いくらだっけ!?」

サンサンと輝くその笑顔に、カズヤが苦笑い。

「タダです」

「冗談!」

「違います」

気に入って貰えて良かったなーとぼんやり。何も言わない所を見ると、I-01も問題無いみたいでよかったなーと。

「気に入ってもらえました?」

「当然!凄いわねこの子!」

『Ich bin gewöhnlich.(当たり前です)』

「では一番の売りでもあるウイングロードの発動をば。I-01」

『Ja.(はい)』

ウイングロードを発動するI-01。「おお!」とギンガのテンションが上がる中、ウイングロードは途中で伸びが止まる。

「バージョンアップは随時していく予定ですが、現状での単体発動の上限値は2.4メートルですので、緊急時の体勢制御等に。それにその発動に合わせてギンガさんがウイングロードを発動すれば、そのまま運用可能です」

「分かった」

そう言ってウイングロードを発動。一度伸ばされていたウイングロードが更に伸び始め、後を追ってギンガが駆ける。

「ギンガさん!それじゃあ、軽くテストでしてみましょう!」

「何するの!」

地上と空中。凡そ五メートルほど離れてしまったため、お互いに声を張り上げながら。テストの旨を伝えたカズヤが発動するのはAD-01。

「十枚のプレート。最初は機動面が見たいので回避のみ。そのあとは打ち落として頂いて構いません!」

「了解!」

「では。三……二……一……スタート!」

そうして動き始める十枚のプレート。眼下から迫るそれらに対し、ギンガは自らのローラーに話しかけた。

「えっと、なんて呼べばいい?」

『Nur I-01 vom Anrufnamen muß mich ein Name präsentieren.Deshalb, wenn ich Ihnen so ihm Anruf habe.(今の私には識別名のI-01しか名前がありません。なのでそれで呼んで頂ければ)』

「分かった。ならI-01、行くわよ!」

『Ja,Ginga.Zeigen wir Ihnen meine Fähigkeit.(はい、ギンガ。私の実力、貴女にお見せしましょう)』

「あら?なら、私の実力、貴女に見せちゃおうかな」

売り言葉に買い言葉よろしく。お互いにそう言い合い、直後にギンガは動き出す。そのすぐ後を駆け抜ける一枚のプレート。残りの二枚は軌道を変え、後方からギンガを置い、逃げ道を減らすように七枚のプレートは様々な角度でギンガに狙いを定めながら、位置をギンガに合わせて変えていく。

「まずは回避っと」

言いながら、急停止。後方から迫る二枚のプレートの上を、背面跳びの要領で跳び越える。しかしそれを見逃すカズヤではなく、七枚のプレートの一枚を急加速。ギンガめがけて飛ばす。

しかしそれは

『Tri Shield.』

I-01の張ったシールド魔法が、そのプレートを受け流すことで防いでみせた。これには下で見ていたカズヤも感心してしまう。

(すげ。もう息が合い始めた。でも、まだまだ)

プレートは止まらない。着地直後のギンガに多方向から六枚。プレートを殺到させる。前と後ろ。空中ではウイングロード上しか行動できないことを知っているからこそのカズヤの攻撃を、ギンガは跳んで回避するつもりなのか、真上へジャンプ。

だがそんな単純な回避でよけ切れるはずもなく、カズヤはプレートを操作し、ジャンプしている真っ最中のギンガへ向かわせる。

『Wing Road』

だが、I-01はギンガの動きを読んでいたかのようにウイングロードを発動。跳んだ先で、着地することなく新たな足場を作り、更にギンガも魔力運用を開始。そのままウイングロードを伸ばし、包囲網を突破する。

一瞬呆然とし、直後プレートを軌道。何ふり構わないのか、十枚フルをあらゆる角度からあらゆる軌道。あらゆる手段を使ってギンガに向かわせるも、回避していき、絶対回避不可能のタイミングを何度か見つけても、I-01はきっちりと防御。

「あー、はい。もういいです、打ち落としてください」

プレートを動かし、今度は回避に専念させるように動かし始めるも、ウイングロードで行動範囲を狭まれては逃げ出せず、十枚のプレートは瞬く間に殲滅された。

「よし。全機撃墜」

『Ich genüge für Ergebnisse.Ich bin charakteristisch.Aber es gibt mich und macht einen Hebelärmel.(成績としては十分ですね。流石です。ですが、私あってこそですよ)』

「あら?そんなことないわよ?」

『……Ich werde gut sein.Ich brauche Zeit und ließ Sie von jetzt auf meinen Wert verstehen.(……いいでしょう。これから時間をかけて、私のありがたみを分からせてあげます)』

「なら、これから時間をかけて、私の実力を教えてあげる」

 

ウイングロード上、楽しそうに言い合う一人と一騎を眺め、カズヤは苦笑。

(どうやら上手くやっていけそうだな)

心中で安堵しつつ、話があるから降りてくるようにと、カズヤはギンガとI-01へ告げるのだった。

 


 
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