No.467775

ある外史のメイジ7 ― 枕雪漱石 ―

ましさん

二つの軍勢を手をかざして透かし見る
これは僕の仕事じゃない、きっと僕の仕事じゃない。

2012-08-09 19:16:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1106   閲覧ユーザー数:1055

「この金は手付けに過ぎぬ。陳簡殿が私と共に華琳の下に戻れば、大儲け間違いないぞ」

膝詰めで熱心に俺をかき口説く曹操の密使の許攸。

盛んに金銭面での利点を説いてくるのだが、俺はそんなに銭ゲバととられていたのだろうか。

確かに商業への梃入れが儒者の評判を下げているし、研究費用を確保するために恩賞を金銭で求めた事もあるが。

そういえば五斗米道の教団に楊松がいないが、俺がその立ち位置にあるのだろうか。

楊松とは演義で財宝と爵位に目が眩んで曹操に内応し、「主君を裏切った罪」で曹操に処刑される人物だ。

馬超を蜀に追いやる役も担っていたし。

ちなみに目前の許攸を美羽は正史と同じく「貪欲・淫乱・不純」と評していた。

荀彧も「貪欲で身持ちが収まらない」とやはり正史通りの評。

許攸は正史、演義では袁紹を裏切った後、傲慢になり、曹操に斬られる。

若隠居を目指す俺としては、おそらく運命が崖っぷちにある許攸に付き合う謂れはない。

付いて行ったら確実に楊松と同様の結末だろう。美羽と七乃もいるのにそんな事はできない。

「子遠殿、私の返事はこれです。イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ」

『 眠りの雲』(スリープ・クラウド)で許攸を眠らせると、部下に命じて縛り上げ、蜀に送り届ける手配をする。

ここは袁紹に恩を売る役に立ってもらおう。

 

許攸の始末をつけた後、物見の為に城の高台へ上って『遠見』(ヴィジョン)を唱える。

押し寄せてくる敵の中に見えるのは紺碧の張旗。

「張文遠ですか。確か、丁原、何進、董卓の下で勇将として名を馳せた人物でしたね。武勇に優れ、用兵にも長けている、と。

 どう対応しましょうか。まともにやると面倒くさいですね」

一気に敵兵を無力化できればいいが、前の氐族と違い『麻痺の雲』(スタン・クラウド)で対応するには敵の数が多く動きも早い。

こちらの呪文詠唱中に斬り込まれてしまう。

前哨戦で曹操軍の先鋒である高祚を相手にやった、指揮官の武器を錬金で破壊、無力化する方法は、

張遼相手では武力の差がありすぎ、杖を相手の武器に触れる為の動きが隙を作るだけとなる。

他にも夏侯惇や許褚もいるし、更に今回の侵攻部隊は曹操軍の一軍団に過ぎない。

張魯は国力差から降伏を考えていたが、妹の張衛が迎撃を主張。俺が指揮を任された。全く余計な事を。

兵数、訓練度、指揮官の質いずれもこちらが劣っている現状では時間稼ぎが精一杯だ。

「まあ、外交交渉は張師君に任せましょう。私はここで出来る事をするだけです」

俺は杖を掲げると呪文を唱えた。

「ラグーズ・ウォータル・デル・ウィンデ」

 

「やりすぎじゃたわけが」

「ちょっと効果が出過ぎましたかね」

防寒具に身を包み震えながら言葉を交わす俺と美羽。

俺は『氷嵐』(アイス・ストーム)の攻撃力をなくし、範囲を拡大して戦場一帯に豪雪をもたらした。

積雪によって動きを封じられた曹操軍は防寒具もなく体力を失い、また夏に降る雪という異常に士気の低下も著しい。

ただ、味方の城を中心に発動した為に、こちらも身動きできない。

「まあ、こうなったら雪が融けるまで動けません。城には食糧も燃料も充分あります。敵が引くまでのんびりしましょう」

チート相手に武勇を競ったり、外交の駆け引きなんかしたくないでござる。

俺は七乃が淹れてくれた暖かい茶の待つ食堂へと踵を返した。

 

 

陳簡は今日も怠け者のようだった。

 

 

 

 

 

  ( ゚д゚)つ/     ( _ _ ).。oO


 
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