No.466311

外史を行く喧嘩師 十四幕

荒紅さん

今回は虎牢関のお話です

狼鬼さんは今回軍師な感じです。

2012-08-07 00:38:35 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:3098   閲覧ユーザー数:2679

<暗サイド>

 

このサイドはシ水関の戦いの真っ最中の時間の話です。

 

はいは~い。老若男女の皆さんこんばんは。

狼鬼隊副隊長及び、隠密部隊を取り仕切ってる李カク事、暗っす。

 

今私はお馬k・・。袁紹さんの本拠地、鄴に来てるっす。

いや~本当煌びやかな街っすね~。断じて綺麗ではないっすよ。煌びやかなんっす。

流石に名家なだけあって金はあるんでしょうね~宝石の専門店とかあるっす。

全く、こんなんに金使うんだったら、もうちょっと区画整理とかすればいいっすのにね・・・

 

まぁ無駄話はこれくらいにして、何故ここにいるかと言うと、

隊長の指示で、洛陽から来た行商人の振りをして、董卓様は本当は優しいんだよ~

って噂を流してるっす。

 

あ、勿論袁紹が出てった後っすよ。

 

初めは「馬鹿な事言ってんじゃねぇ!」みたいな事言われ続けてたっすけど、

 

「実際に見てきたのか?」って言うと皆黙り込んじゃって。

他にも私の部隊の人間が時間をづらして鄴に入って、噂を流し続けていたら

最近じゃ、「袁紹様は自分の欲の為に洛陽に行ったんだ。」

みたいな声に変わってきたっすね。

 

後は、噂なんて放って置いても勝手に広まっていってくれたっす。

そろそろ城から伝令が行く頃っすね~

ここだけじゃ無く、陳留、建業、平原などなど。連合のの中の強い奴の

領地には私の部下が行っていて、経過も問題無いそうっす。

 

こうすると、連合は自分達の風評が危うくなる。

そこを突いて、洛陽に招き入れ、董卓様に直に会ってもらうらしいっす。

 

なら、初めから戦わず洛陽に招き入れれば?

と聞いてみたっすが、それだと事実を曲げられる可能性があるそうっす。

 

なんたって相手は嘘を大義に掲げて連合を作りあげたお馬k・・・袁紹さん。

自分が間違ってる、なんて認めたくなくて、

「洛陽は本当に酷い有様でしたわ!」みたいな事言いそうっすもんね。

 

だから、兵数の差を少しでも縮めて相手と対等な立場に立てるようにするらしいっすよ。

けど、報告だと隊長が劉協様の義兄となった、みたいな報告も来てるんっすよね~

 

何者っすか、隊長って?

 

・・・まぁいいっす。

そんか感じで作戦の第一段階完了っすね。

 

いや~辛い任務でしたっすよ。

街の人に怪しまれない様に噂を流すのって。

けど今も小恋達は戦ってるんでしょうね・・・

心配で心配で夜も眠れないっすよ・・・

 

ハムっ モグモグっ ゴックンっ ズズズっ プハっ

 

やっぱり仕事の後の酒は美味いっすね!

この料理も美味いっす!

 

<小恋サイド>

 

・・・なんか無性にイライラします。

 

今私達は虎牢関に居ます。

シ水関には一週間籠城する事が出来ました。

虎牢関での作業が終了したとの報告を受け、軽く一当てした後、

そのまま関に火を放って退却。

狼鬼様曰く、敵の補給路としての機能を無くし、進軍速度を落とすためだそうです。

 

籠城に関しては、圧勝と言っても過言ではなかったです。

基本関から出なければ、難攻不落と言われたシ水関。そう簡単に抜ける物ではなく、

袁紹軍や、袁術軍が数で押してきたましたが、難なく撃退する事が出来ました。

その中でも狼鬼隊の大十字弩が大いに役立ちました。

 

大十字弩って言うのは狼鬼様の考えられた兵器の一つで、十字弩をそのまま大きくし

槍や、石、複数の矢を同時に飛ばす事の出来る兵器です。

本当の名前は、ばりすたって言うらしいです。

 

なんでも、今度は台車に大十字弩を取り付けて、それを馬に引かせる騎馬弩兵を開発中らしいです。

本当に凄いです隊長は!

 

そして、虎牢関に撤退して二日。連合軍が、曹操軍と孫策軍を先頭にやってきました。

 

<狼鬼サイド>

 

「この二つの軍かよ。しかも井蘭とか。官渡の戦いで袁紹が使ったっては聞いた事あっけど・・・

 メンドクセー」

 

目の前に広がるのは、赤い鎧に身を包んだ孫策軍と、

対照的な青い鎧に身を包んだ曹操軍。曹操軍の方には井蘭が何十台もある。

 

井蘭・・・古代から中世にかけて用いられた攻城兵器。攻城櫓(こうじょうやぐら)とも呼ばれる。

木造の移動式やぐらで、城壁に板を渡して兵士を城内に乗り込ませ、

また最上階に配置した射手により城壁上の敵を制圧するのが目的である。

「よく見るとこの場で作った感じだが、厄介な事には変わりねぇか。

 でもまぁ、正直飛んで火にいる夏の虫って感じだけどよ。」

 

歩兵様に作ったが、井蘭の方が効果は出るな。

 

さて、作戦変更っと。

 

<曹操サイド>

 

「真桜、よくやったわ。」

 

「そう言って貰えると、突貫で作った甲斐がありますって。」

 

「大丈夫なの~真桜ちゃん?」

 

「だいじょぶ、だいじょぶ。ウチはこれくらいじゃ倒れへんって。」

 

「しかし、あの櫓は凄いな。あれなら城壁の半分位の高さから矢を撃てる。」

 

「秋蘭様もおおきに。」

 

「けど、一つだけ欠点があるんやけども・・・」

 

「言ってみなさい。」

 

「本当なら、燃えにくい動物の生皮とかを付けるんやけども、ここじゃ手に入らなかったさかい。

 どうしても火に弱くなってしもたんやけど・・・」

 

「仕方ないわ。この状況でここまで作り上げる事だけでも十分よ。桂花。」

 

「はっ!」

 

「敵の火矢に注意するよう櫓の護衛部隊に通達。それと、帰ったら真桜の研究予算を

 増やしておいてあげなさい。」

 

「華琳様!有難う御座います!これで絡繰夏侯惇人形が・・・」

 

「真桜は休んでいなさいね。行くわよ!」

 

「「「「「御意!」」」」」

 

<狼鬼サイド>

 

「んじゃ、作戦通りにやれよ。変更に関して何か質問はあるか~?」

 

「「「・・・」」」

 

ないな。今日はやけに物分りがいいな。

 

「それじゃ、各員持ち場につけ。一部の守備隊以外はいつでも出れる様にしとけ。」

 

そして、皆が解散していく中で。

 

「おいお前。」

 

「なんだよねね?」

 

「あの櫓が来る事を知ってたですか?」

 

「いや、今日見て始めて知った。櫓自体は知っていたけど、

 まさか使ってくるとは思わなかったよ。それがどうかしたか?」

 

「お前は・・・凄いですな・・・ねねはお前程凄い策は考えられないです。

 ねねは恋殿の軍師として自信を持っていました、けど・・・」

 

そんなちっちぇ事気にしてんのかこいつは。

 

「・・・いいかねね。俺は防衛の為の策を考えるのが得意だ。俺の力は守る為にあるからな。

 詠は迎撃の策を考えるのが得意だ。降り掛かる火の粉は払うが、優しい月の気持ちを考えて、

 自分から襲い掛かる事はあんまししようとしないだろ。」

 

「じゃあねねは・・・」

 

全く。自信のねぇお前なんてらしくねぇっての。

 

「お前は恋の軍師だろ。恋は何が得意だ?迎撃か、防衛か?

 ちげぇだろ、あいつは誰かを守る為に敵を全て打ち倒すのが得意だろ。

 お前はその恋が認めてる軍師なんだよ。お前は攻めの軍師。

 恋の武と、お前の智で敵を全て打ち倒す、ウチの軍で唯一攻撃的戦術を考えるのが

 得意な筈だ。今はお前は活躍出来ないかもしれないが、どっかに攻める時は期待してるぜ。」

 

正直俺の場合自分の知ってる歴史の策を今の状況と照らし合わせてるだけだから威張れんけど。

 

「・・・そうですな、ねねは恋殿の軍師。攻める軍師です!

 ・・・その、礼を言うですぞ、狼鬼・・・///」

 

「どういたしまして、ねね軍師。」

 

そう言って頭を撫でると、ねねは顔を赤くしながら。

 

「子供扱いするなです//」

 

さて、ウチの軍師が自信を取り戻したし、そろそろ準備に入りますか。

<孫策サイド>

 

「ぶ~ぶ~。私も前線に出たい~」

 

「雪蓮・・・いい加減にしないと、怒るぞ。」

 

「まぁまぁ冥琳よ、そうかっかするでない。兵が動揺しよるぞ。

 少し落ち着くのじゃ。」

 

「ですが祭殿、雪蓮に何かあったら。」

 

「それこそ心配し過ぎじゃ。儂や思春に明命もいるのじゃぞ。

 そうそう何かは起きんし、起こさせんよ。」

 

「ねぇ~冥琳お願い~」

 

「・・・はぁ~今日だけだぞ。 

 それと、無事に帰ってきてくれ。」

 

「うん、ありがと冥琳。さ~て、誰と戦おうかしら。」

 

「雪蓮様。相手は籠城戦をしてくるかと。」

 

「思春、私の勘が討って出て来るって言ってるのよね。」

 

「はうわ!雪蓮様はそんな事まで分かるんですか!隠密の立つ瀬が・・・」

 

「よく当たるってだけで絶対って訳じゃないのよ。けど、一応気を付けて。」

 

「・・・本当に、軍師の自信をなくすよ。」

 

<狼鬼サイド>

 

つーことで虎牢関の上にいるが、敵さん怖っ!

なんつうか袁紹や劉備達の兵と違って、練度が高いってのが一目でわかるな。

 

「櫓、前進!敵から飛んでくる矢は櫓を盾にしなさいっ!」

 

猫耳の少女が指揮を取っている。

 

・・・猫耳?

 

まぁいいか。

 

「テメェ等!敵さんのお出ましだ、返り討ちにしてやれ!」

 

「「「「「応っ!!」」」」」

 

「第一大十字弩部隊、砲撃準備!」

 

小恋の声が虎牢関の上に響く。

それと同時に弦を引く音や、矢を番える音が聞こえてくる。

 

「狙いは敵の攻城兵器。よーい・・・ってーー!!」

 

ガシュンッッ!! ガシュンッッ!!

 

数え切れないほどの矢の雨が断続的に敵に降り注ぐ。

 

「攻城兵器に当たったものの、敵兵への被害はありません!」

 

「問題ありません!第二大十字弩部隊、準備しなさい!第一堅盾部隊、矢が飛んできます!

 堀の穴を埋めるように位置取りしなさい!」

 

城壁の堀って弓を撃ち易い様に、凹凸になってるんだよな。

それをうめる為につくった堅盾部隊。所謂亀だな。

 

「なぁなぁ。狼鬼は指示しないんか?一応隊長やろ?」

 

「霞。俺があんな風に指揮してる所、想像できるか?」

 

「・・・無理やな。暴れてる感じしかせぇへん。」

 

だろ。

 

「旦那様、そろそろじゃぞ。」

 

飛翠か。よし。

 

「んじゃテメェ等、俺は行けねえけど、しっかりやってくれよ。」

 

「任しとき!」 「任された!」 「・・・頑張る。」 「あんなひよっ子共蹴散らしてくれる。」

 

「あたし達に任せておけよ。」 「蒲公英も頑張るよ。」

 

何とも頼もしい連中だな。

 

「俺とねね、小恋は関の防衛だ。よろしく頼むぜ。」

 

「ねねに任せるのです!」  「了解です!」

 

さてと、そろそろ敵さんが罠に引っかかってくれる頃かな。

 

「物見!今どんな感じだ!?」

 

「はっ!あと少しで罠の場所に到達します! 

 ・・・・・嵌まりました!」

 

物見の報告を聞き敵さんの方を見てみると、

前線に配置されていた井蘭が溝に足を取られて止まっていた。

 

「うっし!敵が罠に掛かったぞ!大十字弩隊、火矢を準備だ。

 ・・・準備できたか?狙いは溝だぞ。しっかり狙え!

 行くぞ・・・ってーー!!」

 

号令と共に何十本の火矢が溝に向かって飛んでいく。

そして、溝に火矢が当たると一気に燃え上がる。

 

「火が付いたぞ!早く消せ!」 「駄目だ、火の回りが早すぎる!」 

 

「そりゃそうだろ。溝の中には油を染み込ませた藁が大量に入ってるんだからよ。」

 

今回華雄と霞の隊にやってもらった作業がこれ。

溝を掘ってその中に藁を入れるっていう簡単な物だ。本当は歩兵様に作ったんだが、

井蘭の方が燃えるからいいとしよう。

これで、攻城兵器は前に出れないぜ。どうするよ、曹操軍?

<荀イクサイド>

 

「やられたわね。シ水関で時間を稼いでたのはこれを作る為か。

 歩兵を前にしてたら何人焼かれていたか。真桜に感謝しないとね。」

 

けど、このままじゃその櫓が前に出れない。罠がこれだけとも考えられない。なら・・・

 

「真桜!あれは直ぐに前に倒せる?」

 

「勿論。前の方に留め具があるんでそこを外せば車輪が外れて、後はドーンと。」

 

「分かったわ。火の点いた櫓は急いで前に倒しなさい!」

 

「「「「応!」」」」

 

私の指示を聞き、迅速に作業に取り掛かる。

 

「早く櫓から降りろ!」 「何人かこっちに来てくれ!」 「倒すぞ!」

 

ガッシャーンッッ!!

 

火の点いた櫓が倒れていき、そして。

 

ボウァァァァ!!

 

地面に何本もの火の線が浮かび上がた。

 

「思った通り。他にも罠があったわね。けど、この荀文若を騙す事は出来ないわよ。

 火が点いてしまえばどうって事ないわ。

 全軍、火の無い所を通りなさい!」

 

「「「「おおおーーー!!」」」」

 

 

<狼鬼サイド>

 

「ああ、他の罠にも火が・・・」

 

敵の軍師に罠を看破されると、兵に動揺が走る。

 

「ガタガタ騒いでんじゃねぇ!!テメェ等全員宦官にしてやろうか?!ああ!?」

 

「「「「・・・」」」」

 

よし、静かになったな。全く、これだから新兵共は。

もっと厳しくしねぇとな~

 

「小恋。曹操軍の前線で指揮してる奴、誰だかわかるか?」

 

「暗から、ちょっとだけ聞いた事があります。

 たしか、荀イクだったかと。猫耳に関して爆笑しながら話していたので。」

 

いや、雑談の話題にじゃなくて俺に報告しろよ・・・

 

「荀イクか・・・王佐の才は伊達じゃねぇって事かよ。

 そうだよ、正解だ。この状況ではお前の判断が正しい。

 櫓を倒すことによって、櫓に点いた火を他の罠に引火させ、罠の位置を特定する。」

 

流石だよ、荀文若。けどな・・・

 

「俺の方が一枚上手だ。鳴らせ!!」

 

ジャアーン ジャアーン ジャアーン

 

<三人称視点>

 

「銅鑼が鳴ったで、開門や!」

 

張遼がそう言うと、虎牢関の門は音を立てて開く。

 

「本当に狼鬼の言った通り、火を避けて敵が密集してるな。」

 

狼鬼の考えた策はこう。

まずは堀の罠を設置する。もし相手が罠を警戒し歩兵を前にしてきたら、矢と火の両方にて撃退。

井蘭を盾にしてきたら、罠の火をもってして井蘭を破壊する。

だがここで終わりでない。

狼鬼は破られる事も計算の内だった。罠が破られて、火が点いても消火している暇はない。

敵は火の間を進軍してくる。そうなれば、敵は狭い場所に密集する事になる。

そこを大陸一の突破力を持つだろう、この部隊で叩く。これが今回の策である。

 

「狼鬼は本当に凄な。あたしじゃこんなの思いつかない。」

 

「狼鬼お兄様とお姉さまの頭脳一緒にしたら可愛そうだよ。」

 

「蒲公英の言う通りじゃ。なんせ儂の旦那様じゃからの。」

 

「二人共止めなさい。姫、あなたにも考えられる様になってもらわないと困るのですが。」

 

韓遂の言う事も最もだ。今馬騰軍でまともに事務仕事が出来るのは馬騰と韓遂のみだ。

いずれは後を継ぐ、西涼の姫。軍師とまで行かなくても、事務仕事位は出来ないとなんだが。

 

「そんなのは蒲公英に任せる。」

 

「ちょ、お姉さま!」

 

と、一言で言ってのける西涼の姫であった。

 

「なんや楽しそうやな。なら、一番はウチがもろた!行くで!」

 

「「「おおおーーーー!!」」」

 

そう言って、張遼は出陣して行った。

 

「あ、待てよ。皆行くぞ!涼州騎馬隊の力、見せてやれ!」

 

「「「おおおーーーー!!」」」

 

そうして、馬騰、馬岱、韓遂、華雄と続き、最後に。

 

「・・・行く。」

 

「「「おおおーーー!!」」」

 

天下無双の武将が、虎牢関を出た。

 

曹操軍に当たるのは、馬家の三人。

こちらは井蘭を動かしている兵の殲滅と井蘭の破壊。余裕があれば、後続部隊にも被害を与える。

孫策軍に当たるのが董卓軍の三人。

こちらは孫策軍の兵の殲滅が目的。

 

「しっかりウチに着いてき!」

 

「誰に向かって言ってる!私が遅れを取る訳が無いだろう!」

 

「・・・二人共遅い。」

 

呂布は二人より後に虎牢関を出たが、悠々と二人を抜いていく。

 

「ちょ、恋。待ちや!」

 

そのまま呂布は孫策軍に突撃する。

 

孫策軍の兵は恐怖に顔を青くしている。

シ水関では、一騎当千と名高い関羽、張飛、趙雲三人を相手取り本気すら出さなかった呂布。

いくら孫呉の精兵と言えど、

ひと振りで、何人もの兵が吹き飛ぶのを見ていた彼らは、足が竦んでしまっていた。

 

そして、火の無い所を進軍しているので場所が狭く、マトモな迎撃も出来ずに。

 

「ぎゃああああぁぁぁ!!」

 

何人もの兵が空を飛んだ。

 

「呂布だーーー!!」

 

その声が孫策軍の中に木霊した時、何人もの兵が死を覚悟したか。

それでも自らの主の悲願、孫呉の復興の為に兵たちは自らを奮い立たせ、剣を振るった。

しかしそこに、絶望にも似た声が響く。

 

「恋ばっかりやと思うなや!」

 

「我らの事を忘れてもらっては困るぞ!」

 

神速の張遼に、猛将華雄の参入。

 

張遼隊が食い尽くす勢いで孫策軍に一本の傷を作る。そして華雄隊はその傷を広げるように敵を

食いちぎる。

 

そして、呂布は。自分の視界に入った敵を、ただ静かに切り伏せていく。

張遼と華雄の作るのが傷ならば、呂布が作り出すのは、穴。

 

彼女を中心に作られるその穴の中に飛び込もうものなら、

まわりに転がっている肉塊の一つとなるだろう。

 

そしてそこに。

 

「待ちなさい!ここから先へは行かせないわよ。」

 

そう言って現れたのは四人の武将。

孫策、黄蓋、甘寧、周泰だった。

 

「って、勢い良く啖呵を切ったものの、張遼に華雄に呂布か。

 これはきついわね。」

 

「ですが、ここで我々が抑えなくては兵に要らぬ損害が。」

 

甘寧が言う。

 

「仕方がない。思春、お主は張遼に。明命は華雄じゃ。」

 

「「御意。」」

 

そう言って各々の敵に向かう。

 

「呂布よ。すまんが二人で相手をさせてもらうぞ。」

 

「・・・別にいい。お前達、弱いから。」

 

孫策と黄蓋程の武将をも、弱いと言ってのける呂布。

 

「へえ~。なら、本当に弱いか確かめて見なさい。」

 

孫策が南海覇王を抜きながら駆ける。

そして、常人では見ることすら叶わない速度で繰り出される、下段からの切り上げ。

そして、人間の急所を的確に狙った黄蓋の矢が呂布を襲う。

 

だが、それが呂布に届く事はなかった。

孫策の一撃は呂布の方天画戟のひと振りに弾かれ、黄蓋の矢も振った時の風圧で飛ばされた。

 

そして、呂布の反撃。

 

「・・・弱い奴は死ね。」

 

ゴウンッッ!!

 

孫策の一撃を凌駕する速度で繰り出される一薙ぎ。

 

ガキンッッ!!

 

方天画戟と南海覇王がぶつかり合い火花を散らす。

重量で方天画戟が勝り、力でも呂布が勝るのに南海覇王が折れないのは、

どれだけの業物か、如実に表している。

一撃に耐え切れず、後方に吹き飛ばされる孫策。

 

呂布は追い打ちを掛けようとするが、黄蓋の巧みな弓術によってそれは叶わなかった。

 

「策殿!ご無事か!?」

 

「だ、大丈夫よ。」

 

南海覇王を杖の様にし立ち上がる孫策。

 

「今度は本気で行くわよ。」

 

そう言って南海覇王を構え直す孫策に、方天画戟を肩に背負う呂布。多幻双弓に矢を番える黄蓋。

 

「ふっ。」

 

先に動いたのは呂布だった。

強力な一撃が孫策を襲うが、間一髪で躱すと地面に当たり土煙が舞い上がる。

孫策は土煙を一気に抜け、辺りを警戒する。

黄蓋は出てきた所、或いは煙が晴れた瞬間を狙う。

 

だが、煙が晴れた所には。

 

「誰も居ない・・・はっ!」

 

孫策は頭上から殺気を感じ取りその場から直ぐ様飛び退く。

そして、孫策のいた場所はクレーターが出来ていた。

 

呂布が降り立った瞬間を見逃さず矢を撃つ黄蓋だが、呂布は体を捻って躱した。

 

そして間髪入れずに突撃。

呂布が連撃を放ってくると、孫策は防戦一方となった。

 

一撃一撃の度に、手が痺れていく孫策。呂布は孫策を先に倒そうと

孫策にぴったりくっつきながら戦う。

黄蓋は孫策に当たってしまうので、矢を撃つ事が出来なくなった。

 

次第に孫策の動きが鈍くなり、体の至る所に切り傷が出来始める。

そして遂に耐え切れなくなり、呂布の一撃に吹き飛ばされ、地面に倒れる。

 

「策殿!っな!」

 

一瞬だけ孫策に意識が行ったのを呂布が見逃すはずもなく、黄蓋に向けて一薙ぎ。

黄蓋は咄嗟の所で避けたが、多幻双弓が壊されてしまった。

 

「・・・終わり。」

 

「っく!ここまでか。」

 

孫策も辛うじて立ち上がるが、満身創痍と言った感じだ。

黄蓋は五体満足だが、自分の弓を破壊された以上戦う事は出来ない。

 

「恋。終わったか?」

 

「こっちは終わったぞ。」

 

そう言った華雄と張遼は周泰と甘寧を孫策たちに投げる。

 

「思春!明命!」

 

「・すみ・ません・我等では・・」

 

「申し・訳・御座い・ません・・」

 

甘寧も周泰も命に問題がある程の怪我では無いが、これ以上の戦闘は無理だ。

 

「筋はええで。けど、速度の領域でウチに勝つならもっと速うないとな。」

 

「そいつも筋はいい。だが、攻撃が単調すぎる。素直な攻撃で読みやすかったぞ。

 狼鬼がいつも私に言っている事だがな。」

 

今まで殺し合っていた相手に指導する。

実力の差が目に見えて広すぎた。

 

「私達はここまでよ、首を取りなさい。」

 

孫策は、甘寧を助け起こしながら言うが。

 

「そうしたいのは山々だが、そろそろ時間だ。」

 

ジャアーン ジャアーン ジャアーン

 

銅羅の音が鳴り響く。撤退の合図だ。

 

「・・・狼鬼が帰って来いって。」

 

そう言った呂布は、自分の馬に跨って関に撤退していく。

 

「そういうこっちゃ。あんたらの首は今度取りに来るさかい。精々首洗って待ってな。

 お前等、戻るで!」

 

「「「応っ!」」」

 

張遼も戻っていき。

 

「ではな。孫堅から受けた屈辱は次の機会に持ち越しだ。

 その時まで死んでくれるなよ。」

 

そして、華雄も関に撤退していった。

 

「助かった、のかしらね?」

 

「次があると思うと憂鬱になるのじゃが・・・」

 

「仕方ないわ。今首が繋がってる事に感謝しましょう。

 戻るわよ、かなりの被害を受けたわ。冥琳に怒られるちゃう。」

 

そう言って孫策達も撤退していった。

 

そして、曹操軍の方では・・・

 

 

「まさか貴方が董卓に着くとはね。聞いた時は驚いたわよ、馬騰。」

 

「仕方なかろう。儂の愛しい旦那様のお願いじゃからの。聞かない訳にもいかんじゃろ。」

 

「はぁ?だ、旦那様って誰の事よ。」

 

「勿論、神崎狼鬼の事じゃ。聞いたこと位はあるじゃろう?」

 

「あの男がねぇ。」

 

対峙しているのは、曹操軍と馬騰軍。

兵はどちらも二万。だが、野戦という条件では騎馬のみで形成されている

馬騰軍の方が有利であった。

そこに狼鬼の策が加わり、曹操軍の前線は夏侯姉妹と曹操、そして親衛隊まで出してやっと

拮抗している状況だ。

 

「それにしても、曹操。お前程の人間が事の真実に気がついてない、

 などという気は無いじゃろうな。」

 

それは、董卓が暴政など敷いていない事を知ってる、と言ういみだが、はたして。

 

「ええ、知っているわよ。洛陽は至極平和な街という事も、董卓が暴君で無い事もね。」

 

「なら何故・・・いや、愚問じゃな。」

 

曹操だけでない。劉備は違うが孔明、士元はそのつもりだろう。孫策も。

 

「月は時代の贄に選ばれたという事か・・・じゃが、思惑通りには行かんよ。」

 

「・・・何故、そう言い切れるのかしら?」

 

曹操はいくらこの状況でも、董卓軍に勝ちがあるとは到底思えなかった。

数の差もあるが、袁紹おしつこさは曹操が一番良く知っていたからである。

例えここで退却し、洛陽を捨て天水に逃げようと袁紹はおってくる。

どこまでも逃げ続けるなんて事は不可能だからだ。

 

「なんじゃ。儂等に勝ち目がないと思うておるのか?それなら今すぐ領地に帰った方が

 身のためじゃぞ。お主らの喉元にはもう刃が付いておる。

 無理に進もうとすれば、自ら首を切る羽目になるぞ。」

 

だが、馬騰は勝つと信じている。馬騰からすれば負ける筈が無いといった感じだ。

それもそうだろう。連合結成を予期し、各地に細作を放ち。軍が出た後に、董卓の善政の

噂を流し、あまつさえ時の帝さえ味方に着けた自らの慕う男性。

 

「お主らは旦那様の掌で踊っておるのじゃよ。そろそろお主らも自覚出来る頃じゃろう。」

 

「・・・何とでも言いなさい。最後に勝つのは私達よ。」

 

「母様!ちょっとは手伝えって!」

 

そうヒステリックな声を上げる馬超は、馬岱、韓遂と共に夏侯姉妹、許褚、典韋と交戦中である。

 

「この!避けるな!」

 

夏侯惇が一撃で相手を死に至らしめる上段切りを躱されて叫ぶ。

 

「お姉さま、こいつは蒲公英に任せて。」

 

そう言って蒲公英は夏侯惇の前に躍り出で。

 

「え~。私体育会系脳筋女の攻撃は受けちゃダメって教わったんだ~」

 

「誰が脳筋だ!」

 

お前しかここにはいないのだが・・・

 

「自分で自覚もしてないなんて、可愛そ~。あ、そっか頭が筋肉で出来てるから分からないのか。」

 

馬岱はこういう駆け引きに関しては大陸一といっても良いだろう。

その証拠に夏侯惇は顔を真っ赤にし。

 

「もう許さん。大人しく私に切られろ!」

 

「自分から切られる人なんてあんたみたいな馬鹿しかいないよ~だ。」

 

激怒する夏侯惇。普通ならここで優秀な妹が落ち着かせるのだが。

 

「貴方の相手は私が勤めさせて貰います。」

 

「っく!姉者の助けに行きたいのだが。」

 

そして、夏侯惇は馬岱を追いかけ、馬岱はそれから逃げるというかなりシュールな光景となった。

 

「よくやった蒲公英。そのまま引きつけとけ!

 行くぜ、ちびっ子共。我が白銀の槍の豪激、その身に受けてぶっ飛びやがれ!」

 

そして、親譲りの速く重い槍の一撃が典韋を襲う。

典韋は辛うじて伝磁葉々を盾に受け止めるが、衝撃までは受け止めきれず、

吹き飛び許褚まで巻き込き転がる。

 

「きゃっ!」 「うわっ!」

「季依!流流!春蘭、いつまで遊んでいるの!」

 

曹操の叱咤により、冷静になる夏侯惇。

馬岱を放って妹と共に馬超に向かう。

 

馬超と夏侯惇の実力派互角。夏侯淵の支援があるが、間合いの関係でそこまで差はない。

馬岱は許褚と典韋の攻撃を必死に受け流す。

 

「貴方は戦わないのかしら?」

 

「儂が戦っていいのか?こんな小娘共、ねじ伏せるのも容易いぞ。」

 

曹操と馬騰正面を向き合いながら対峙してる、そんな時。

武将同士の勝負を見守る兵の中で、一人動く影が。

 

「馬騰を殺れば、俺は・・・」

 

誰にも聞こえない声で呟いた兵は、弓に矢を番え弓を引く。

 

そして、放たれた。

 

しかし、馬騰はその動きと殺気に気づいていた。

体を少し倒し難なく避けるが、避けた後に、しまった、と呟いた。

馬騰に当たらなかった矢は、そのまま吸い込まれるように曹操の元へ。

 

曹操も気づいた時には時すでに遅し、ここまでか、そう呟いた瞬間、

自分の前に、一つの影が現れ。

 

「ぁ・・・ぁぁぁぁぁぁあああああああ!」

 

矢は夏侯惇の左目に突き刺さっていた。

 

「貴様!」

 

姉を射た兵を問答言わずに撃ち抜く夏侯淵。

 

「春蘭!大丈夫?!」

 

曹操も慌てた様子で夏侯惇に駆け寄る。

 

「そこの人!綺麗な布と水を、急いで!」

 

「は、はっ!」

 

典韋が冷静に指示を出し、布と水を持ってくる。

 

「姉者、これを!」

 

夏侯淵は布を差し出すが、夏侯惇はそれを止め。

 

「・・・皆、少し・・下がっていてくれ。」

 

そして、自らの左目に刺さった矢を握り。

 

「天よ!今ここで我が目は死せる天命やもしれん。だが、この体は尊敬する我が親から授かった物!

 そして、我が体、我が心に至るまで華琳様の物!ならば、この体ののどこにおいても捨てる

 所などは一つもない。

 天よ見よ。我が落とした体の一部、今再び我が体の一部とならん!」

 

そう高らかに宣言した夏侯惇は矢を引き抜き、自らの目を貪る様に食べた。

否、取り込んだ。

 

そして、水と布で綺麗に拭い、その目を隠すように布で彼女の眼を

片方だけ覆った。

 

その直後、夏侯惇は頭を地面に着き。

 

「華琳様、申し訳ざいません。私が居ながら華琳様を危険な目にあわせ、あまつさえ

 華琳様の物であるこの体に傷を付けてしまうなど・・・」

 

そう謝罪した。

すると、曹操は夏侯惇の頬に手をやり。

 

「春蘭。確かに、私を危険な目にあわせたわ。けど貴方は私の為にその左目を

 使ってくれた。これで、私の物に傷をつけた事は許しましょう。

 私を危険な目にあわせた罰は、今晩の閨でしっかりお仕置きしてあげるわ。

 覚悟しなさい。」

 

「華琳様!有難う御座います!」

 

そう言った夏侯惇の顔は赤く染まり、今にもとろけそうな様子だった。

 

「悪かったわね。私の兵が不意打ち紛いな事をしてしまって。」

 

「気にするでない。久しぶりに、武人、というものを見せて貰った。

 では、井蘭も破壊したことじゃし、そろそろ引くぞ。

 このまま戦っても勝てるんじゃが、そこの小娘の心意気に負けた。

 今日は引いてやろう。」

 

「そう、感謝するわ。でもいつか、私の前に膝まつかせてくれるわ。」

 

「ふっ、楽しみにしておるぞ。」

 

ジャアーン ジャアーン ジャアーン

 

「翠、蒲公英、撤退じゃ。引くぞ!」

 

馬騰は自らの愛馬に跨り、そう言い兵をまとめ始める。

そして、風の如き速さで関に撤退していった。

<狼鬼サイド>

 

「どうやら、全員無事な様だな。飛翠の方でなんかあった様だが、後で聞けば良いか。」

 

作戦は成功。これで主力の曹操、孫策、劉備は潰した。袁家が来ても怖くねぇ。

後は・・・

 

「隊長~ただいま~っすよ。」

 

このゆる~い声は。

 

「暗か。お前がここにいるって事は。」

 

「作戦は成功っす。後は董卓様に会っていただいて、皇帝陛下に片を付けていただくだけっす。」

 

「よっしゃ!んじゃ、最後の最後まで気ぃ抜かずに行くか!」

 

「りょうか~いっす。」

 

そして、今この瞬間、連合の陣地に自らの領地から、伝令が迫ってきていた。

 

あとがき

 

こんばんは荒紅です。

 

今回は虎牢関戦をお送りしました。

シ水関で武将だった狼鬼さんは今回軍師をやってもらいました。

 

 

春蘭の左目のイベントは入れるか迷いましたが、入れないと長坂の戦いの鈴々の

ネタを入れられないので、やっぱり入れました。

 

そして、凪ちゃんの事ですが次回か、その次になりそうです。

 

アンケートに関しては、まだまだ募集中なので、コメしていただけるとありがたいです。

 

1、董卓軍の将にする。

2、このまま曹操軍の将として頑張る。

3、将じゃなくてメイドとか侍女にしちゃって董卓軍。

それではご感想などコメしてもらえるとありがたいです。

 

んじゃ


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
18
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択