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IS/3th Kind Of Cybertronian 第六話 「Close Encounters of the Third Kind2」

ジガーさん

にじファンから移転。本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。

2012-08-03 23:58:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5423   閲覧ユーザー数:5250

海上に浮かぶ人工島に設けられたIS学園と本土を繋ぐ物は、モノレールと定期的にやってくる貨物船以外には存在しない。

学園などと牧歌的な名前がついているものの、ISに関するあらゆる技術の坩堝であり、機密の塊だ。

日本の領内にあっても、IS学園は世界のあらゆる国家機関にも属さず、そしてあらゆる干渉を拒んでいる。

 

とはいえ……今回はかなり苦労した。

下に降りるエレベーターに乗った千冬は溜息をついた。

 

昨日のキラーウィンドとの戦いが、まるで何年も昔のことのように思える。

特に、防衛庁の抗議を抑えるのは大変だった。平和な日本の街中で、ビームやミサイルが飛び交ったのだから、彼らが介入しようとするのは当然だ。

しかしキラーウィンドと、彼と戦っていたもう一体は、既にISとして認識されていた。

そのため、深いダメージを負って機能停止寸前になっていたもう一体の方は、IS学園が引き受けることになったのだ。

 

餅は餅屋というわけだ、と千冬は思った。

本当に餅だったら楽なのだが、とも。

 

学園の地下五十メートルに存在する施設のことは、一般の生徒達には知らされていない。

レベル4権限を持つ関係者……要するに教員しか立ち入ることが許されない空間。

当然、そこにあるのは子供のおもちゃなどではない。

 

千冬はエレベーターを降りた。

すぐ目の前はガラス張りの実験室で、同僚の真耶がその中を覗いている。釘付け、と言ってもいい。

千冬がやってきたことに気付いていないようだ。

 

「山田先生」

 

千冬が声をかけると、不意を突かれた真耶はびくっと肩を揺らした。

 

「お、織斑先生。体の方は大丈夫なんですか?」

 

「ええ、おかげさまで」

 

千冬は苦笑した。

実のところ、千冬はそれほど、キラーウィンドから攻撃を受けてはいない。

実際にダメージがあったのは、羽による一撃と、胸に受けたビーム砲くらいだった。

裏を返せば、たったそれだけの攻撃で、千冬は戦闘不能にまで追い込まれてしまったということになる。

是非とも仕返しをしたいところだが、まずは目の前のことから処理していかなければならない。

千冬は改めて真耶の顔を見た。

 

「それで……例のあいつは、どうしてます?」

 

「ご飯を食べてますよ」

 

「は?」

 

真耶に促され、千冬はガラスの向こうを見た。

部屋の中心には無機質なスチール製の机があり、その上には無数のコンビニ弁当が重ねられている。

弁当箱の谷間には、平凡な少年の顔があった。から揚げ弁当を必死で口に運んでいる最中だ。

彼こそは、キラーウィンドと戦っていた謎の存在であり、千冬を救った青い鎧武者の正体である。

 

「すさまじい食欲だな」

 

千冬は素直な感想を述べた。

少年の足元には、既に空になった容器が幾つも積み重なっている。

 

「エネルギーがゼロに近かったとかなんとか……織斑先生、本当に、あそこまでする必要があるんですか?」

 

部屋の四隅で彼を取り囲んでいるのは、『ラファール・リヴァイブ』を身に纏ったIS学園の教員達だ。

いつでも少年を蜂の巣にできるよう、各々銃器を抱えている。

穏やかで心優しい真耶でなくとも、眉を顰める光景。たった一人の、子犬のように無害そうに見える少年に対し、あまりにも過剰な警戒だった。

 

しかし、普通なら食事どころかただ座っていることさえ耐えられないような状況下で、少年は弁当の容器を空にする作業に勤しんでいる。ISも銃器も、自分にとっては恐るべき存在ではない、とでも言いたいのか。

 

(いや、まさしくそうなんだろうな。連中にとっては……)

 

事あるごとに、キラーウィンドが脳裏に浮かぶ。

彼に与えられた屈辱が蘇る。

 

眉間に皺を寄せながら、千冬は部屋の中に入った。

真っ直ぐに少年のもとへ行き、スチール製の机にばんと手の平を叩き付ける。

コンビニ弁当の谷が崩れると、少年はようやく箸を止め、千冬を見上げた。口はもぐもぐと動いている。

間近で見ても、少年は、ただの少年にしか見えない。実際に目にしていなければ、その顔の下に、鎧武者の鉄面があるなどと誰が想像するだろうか。

 

「わかっていると思うが……わざわざご馳走してやるために、貴様をこんなところに連れてきたわけじゃないぞ」

 

千冬は声を張り上げた。

IS学園の生徒達なら、これで蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

しかし、銃口を突き付けられても眉一つ動かさない少年がその程度で肝を冷やすわけもない。

彼は口の中の物を飲み込むと、傍に置いてあったペットボトルのお茶を口に含んだ。

ごちそうさまでした、と満足げな息を吐き、千冬に向き直る。

 

「僕に答えられることなら、なんでも喋ります。そのつもりで、ここに来たんですから」

 

少年の黒い瞳に強い意志が輝くのを、千冬は見た。

言葉にするなら、それは使命感だ。

 

「それなら、まず、貴様の正体について聞かせてもらおう」

 

「僕は、この宇宙とは別の次元にあるセイバートロン星で生まれたロボット生命体、トランスフォーマーです。コードネームはサンダーソード。地球では、田中一郎ですけど」

 

少年、田中一郎は一息で言った。

その内容を理解するのに、千冬は多少時間をかけた。

文章は短いが、その中の単語はどれ一つとして聞き流せない。

 

「……つまり、別次元というのは置いておくとして……貴様は、いわゆる異星人、ということか?」

 

一郎は頷いた。

座っていたパイプ椅子から腰を上げ、短く言葉を紡ぐ。

 

「サンダーソード・マクシマイズ」

 

それは、まるで魔術のようだった。

目では追えない速度で、少年の全身が装甲されてゆく。依然傷だらけだが、前に千冬が見た時ほどではない。

一秒にも満たない時間で、一郎はサンダーソードに変身していた。

少年の面影はどこにも存在しない。

一七〇センチメートルにも満たなかった身長が、角も入れれば、いまや二メートルに達する。

驚いて銃器の引き金に指をかける教員達を、千冬は右手で押し留めた。

 

サンダーソードの緑色の目が、文字通り光った。

何もない空間に、突如、鋼色の球体が現れる。表面には無数のラインが刻まれており、巨大なパズルのようにも見えた。

 

「これは?」

 

「僕の故郷、セイバートロン星の立体映像です」

 

千冬は言われるまで、それが立体映像であると気付かなかった。手を伸ばせば触れそうな質感がある。

素直に驚くのも何か癪なので、顔には出さなかった。

 

「この星に住んでいるのは、みんな僕みたいなロボット生命体で、大きく分けて四つの種族が存在します」

 

セイバートロン星が消え、代わりに二つの赤いエンブレムが現れる。

一つはどこか柔和な印象を受けるロボットの顔で、もう一つは獣の頭骨を思わせる。

 

「まず、オートボットとマクシマル。平和と調和を好む種族で、僕はマクシマルに所属しています」

 

サンダーソードが自身の胸部装甲を指差した。

そこには、立体映像と同じ赤いエンブレムが刻印されている。

 

「そして、ディセプティコンとプレダコン」

 

鋭角的なフォルムで、如何にも凶悪そうなロボットの顔と、蜂の頭部を模した紫色のエンブレム。

後者に、千冬は見覚えがあった。たしか、キラーウィンドの頭に同じものが刻まれていたはずだ。

 

「もともと軍事用のロボットが進化した種族なので、総じて戦闘を好む傾向があります。昔はオートボットと戦争してましたけど、現在は和平を結んでいます」

 

立体映像が音もなく消える。

それにしても、厳つい鎧武者の一人称が「僕」だと違和感があるな、と千冬は思った。

 

「ということは、それが貴様の本当の姿というわけか」

 

「そうなります。トランスフォーマーはその名の通り、他の物をスキャンして変身する機能がありますから」

 

そう言って、サンダーソードは再び一郎の姿に変身した。

量子変換しているわけでもないのに、巨大な肩と腰の装甲板があっという間に消えてゆく。

どんな原理なのか、まったく想像もできない。

 

「オートボットとディセプティコンは、車や飛行機などの乗り物、マクシマルとプレダコンは有機生命体に。僕は今まさしく、地球人に擬態しています」

 

「わざわざ擬態する必要があるとも思えないが」

 

「他の星の人とコミュニケーションを取る時、ロボットの体だと警戒されてしまいますからね」

 

千冬は眉間に皺を寄せた。

 

「……そもそも、貴様は何の目的があって、この星やって来たんだ?」

 

ロボット型の宇宙人というのは、信じられない話ではなかった。

もっと詳しい事はこれから調べる必要があるが、キラーウィンドやサンダーソードのようなロボットを製作できるような国家や企業は、今のところ、この地球には存在しない。

ひとまず、宇宙からの来訪者であると仮定しておくことにしよう。

問題は、どうしてそんな連中が、わざわざこの地球にやってきたのかということだ。

 

「僕は、やってきたというか迷い込んだというか……宇宙探査の旅の途中で、乗ってた宇宙船が事故で壊れてしまったんです。近くに地球があったんで、爆発する前に脱出ポッドに乗って……」

 

このままだと、地球にボディフレームを埋めることに、と一郎は冗談めかして言った。

少し考えて、それが「骨を埋める」のロボット版であると、千冬は解釈した。

 

「宇宙の遭難者、か。他に仲間はいるのか?」

 

「いえ、一人旅だったので」

 

「では、あのキラーウィンドというのは何者だ?」

 

その名前を出した途端、一郎は顔色を変えた。

苦々しげに言葉を吐き出す。

 

「オートボットとディセプティコンが和平を結んでいることは、もう話しましたよね」

 

千冬は頷いた。

 

「ああ、聞いた」

 

「和平を結んだとはいえ、それまでずっと戦争をしていた間柄です。全員が全員……特に、ディセプティコンやプレダコンが納得していたわけではありませんでした」

 

その辺りは、どうやら地球人もトランスフォーマーもあまり変わらないらしい。

平和に馴染めない者は、いつの時代にも、どこにだっている。

一郎は暗い表情で続けた。

 

「あのキラーウィンドが所属するファンダメンツという集団も、どうやらその一つのようです」

 

千冬は思わず目を見開いた。

教員達がざわめく。

 

「集団、だと?」

 

「僕も、昨日遭遇するまでは、存在を知りませんでした。リーダーは、サヴェッジファングという鰐のプレダコン。彼を含めて、この星には少なくとも四体のプレダコンがいます」

 

実際にはもっといるでしょう、と一郎は付け加えた。

 

部屋の中にいる全員に、重苦しい沈黙が圧し掛かる。

キラーウィンド一体にも、千冬は手も足も出ずに殺されかけたのだ。

量産型とはいえ、ISを纏った彼女を圧倒できるような、しかも心優しいとは言えないロボットが四体以上、地球のどこかに潜んでいる。悪夢としか言いようがない。

 

その場の全員に事の重大さが伝わったことを確認すると、一郎は再び口を開いた。

 

「彼らの目的は、ディセプティコンの栄光を取り戻すこと。そのための力として、この星にあるというダークエネルゴンを狙っています」

 

「ダークエネルゴン?」

 

「凄まじいエネルギーを秘めた、紫色の水晶のような鉱物なんですが、心当たりはありませんか?」

 

千冬は少し考えてから、首を横に振った。

記憶が正しければ、そんな物が発見されたというニュースは見たことも聞いたこともない。

どこかの国、もしくは日本が発見し、隠匿しているというのなら話は別だが。

 

「では、それを手に入れれば、そのファンダメンツという連中は引き上げるのか?」

 

「最終的にはそうでしょう。しかしその前に、奴らは地球の資源を根こそぎ奪っていくつもりのようです」

 

「………資源を」

 

たった一言なのに、舌がもつれる。

口の中が乾き切っていた。

 

「化石燃料や金属はもちろん、太陽を爆破してエネルギーに変える、なんてこともしかねません。もしくは、地球そのものを爆破するか」

 

一郎は唸るような声で言った。

全人類にとって、とてつもなく恐ろしいことを。

 

がしゃ、と音が鳴る。

教員の一人が、抱えていた銃器を落とした音だ。

 

部屋の中の会話は、スピーカーを通さない限り、外には聞こえない。

そうでなければ、ガラスの向こうでこちらを心配そうに見ている真耶は、今頃ショックで心臓が停まっていただろう。

気の強さでは虎に匹敵する千冬でさえ、全身の血が凍えるのを感じていた。

 

あくまで、一郎の言葉が真実であることが前提ではあるが。

これは、地球人が初めて経験する宇宙人との戦闘であり―――そして、地球滅亡の危機なのだ。

 

「貴様とキラーウィンドが戦っていたのは」

 

「仲間になれって言われたんですけど、断わりまして。どうも、それがずいぶん腹に据えかねたようです」

 

「なぜ断った?」

 

「……というと?」

 

一郎は、心底から不思議そうな顔をした。

質問の意味を理解していない。千冬は再度、問いを放った。

 

「そんな連中の申し出を断れば、攻撃されるのは分かっていたはずだ。実際、あんなに痛めつけられて……それに、このままでは星に帰れないんだろう」

 

集団でやってきたということは、ファンダメンツは宇宙船を持っているに違いない。

種族を裏切れないとしても、一旦仲間になった振りをして、宇宙船を奪う機会を窺う方が、少なくとも多勢に無勢の戦いを挑むよりは理にかなっている。

自分なら勝てるという蛮勇があったのか。

それを指摘すると、一郎は首を横に振った。

 

「奴らが地球の人達を蹂躙するのを、指をくわえて見ているくらいなら、死んだ方がマシです」

 

「所詮、別の種族だ。そのために戦う義理がどこにある?」

 

「種族は関係ありません」

 

一郎は断固とした声で言った。今までの会話の中で、初めて聞いた声音だ。

ぞくり、と背筋が震える。恐怖ではない何かを感じた。

 

「自由は、宇宙に住むすべての知的生命体に与えられた権利です。僕は、僕達マクシマルは、その自由を奪おうとする輩を、絶対に許しはしない」

 

 

 

一郎のいる部屋から出ると、千冬は真耶と共に地上へと向かうエレベーターに乗った。

軽く全身に圧し掛かる重力。

千冬は前を向き、ただ無機質な扉を睨んでいた。

 

「あ、あのー……どうでした? 織斑先生」

 

真耶が、猛獣と檻に閉じ込められているかのような顔で話しかけてくる。

自分がこれまでになく苛立っていることを、千冬は自覚していた。だが、それで同僚を怯えさせるのは本意ではない。

深く息を吐き、肩から僅かながらに力を抜く。

 

「どうでした、とは?」

 

「さっきの男の子ですよ。みんな、ブルーサムライとか勝手に呼んでたりしますけど……どんな人でした?」

 

眼鏡の向こうで、真耶の瞳が輝く。

一郎に対するIS学園の教員達の評価は、実のところ悪くない。

事実上、キラーウィンドから千冬を救ったのは彼なのだ。日本の鎧武者を彷彿とさせる勇ましいデザインも、好意的に見られる要因の一つだった。

 

千冬は、地球に滅亡の危機が迫っているという残酷な事実を彼女に伝えるかどうか迷い、今でなくていいと勝手に判断した。

エレベーターの中で失神されたら大変だ。どうせ、後で必ず知ることになる。

その代わりに、

 

「厳重に監視した方が良いでしょう。………奴は、まだ信用できない」

 

千冬は、吐き捨てるかのように言った。


 
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